●リプレイ本文
●調査
冒険者達は集合するなり相談をし、出発を一日ずらした。ゴーゴンや古代遺跡についてわからない事柄が多く、このまま森に向かっても不安が残るからである。
まずは馬車で石化した集落の人達が世話になっている教会へ向かう。その間に役割分担などが話し合われた。
御者台ではフランシス・マルデローロ(eb5266)が手綱を握る。横にはアーレアンが座り、初参加者の為にこれまでの状況を話した。
シャクリローゼ・ライラ(ea2762)は用意してきたコカトリスの瞳という石化解除アイテムを仲間に一個ずつ預ける。万が一、ゴーゴンに石化されてしまった時の応急用である。
現地での行動に支障がないようジャイアントの壬護蒼樹(ea8341)が、シフールのシャクリローゼとルイーゼ・コゥ(ea7929)の荷物の一部を預かった。
諫早似鳥(ea7900)は犬の小紋太と鷹の真砂に語りかける。言葉はわからなくても、こうして心が通じる時もある。森に着いてからの警戒を命じておいた。
教会に到着し、冒険者達は石化が解けた集落の人達から話しを聞いた。
「ほな、また後であいまひょ〜」
ルイーゼは司祭に石化について訊ねると別の場所へと飛んでゆく。図書館と魔術師の集まる所での調査である。
「それでは夕方にでも」
「遺跡と森を調べればいいんだな。任せておけ」
シャクリローゼは手伝いに来てくれたジェレミーに冒険者ギルドでの情報集めを頼んだ。
シャクリローゼ自身は教会で集落の人達にゴーゴンと遭遇した時の状況を訊ねる。石化した時の最後の記憶が一日のどの時間帯なのかを聞くと、少人数で遭遇した人達は夜中と朝方が多かった。昼間に遭遇した者はゴーゴンが暴れ狂って大量に石化した時に限られる。
諫早似鳥は、たまたま一人になる機会があった。静かに教会の影から現れたのは諫早似鳥が従う鑪家の純直である。
「命、謹んでお受け致します」
諫早似鳥は跪くと深く頭を垂れる。親交のあるパリ貴族預かりになるのを命じて鑪は立ち去った。
その後、諫早似鳥は集落の人達に救出の経緯と森や集落跡の状況を伝える。精霊達が心配している事も伝えると一部の者は涙ぐんだ。
長老には以前の森の状況を訊ねた。集落近くの祠には岩によって蓋がされていたが、その他のはそのままである。
前にもオーガ族は森で見かけられていたものの、ゴブリンが主で猟師の何人かでかかれば撃退、もしくは倒せていた。
ゴーゴンが現れるようになってから集落の者達の行動範囲が狭まり、結果としてオーガ族の台頭を許してしまう結果となる。気がついたときには遅かったと長老は嘆いた。
諫早似鳥はいくらかのお金を情報料として長老に手渡す。
「祠について何か知っている事は教えてもらえんか?」
フランシスは集落の大人だけでなく、子供にも祠の事を聞いた。子供は身の回りの物を遊び道具に変えてしまう。祠もそういう物の一つだろうと考えたのだ。壬護蒼樹とアーレアンとも手分けする。
「僕らが皆さんを絶対に元の生活に帰して差し上げます。ですから何か知っていたら、教えて下さい」
壬護蒼樹は子供達に怖がられないように腰を屈めて話しかけた。
「何を描いているんですか?」
地面に枝で絵を描いている少年を見つけて壬護蒼樹が近寄った。フランシスとアーレアンも覗き込む。
「こんなのがいたんだよ! みんな信じてくれないけど」
少年は必死に訴えた。アーレアンが諫早似鳥とシャクリローゼも連れてくる。
一つ目の絵は女性の上半身に下半身が蛇の形をしていた。髪の毛がたくさんの蛇になっていて、どう見てもゴーゴンである。
二つ目の絵が謎であった。人型なのだが頭部が変である。やけに尖った感じで大きな口にたくさんの牙が生え揃っている。
「鮫みたいやな、この頭の部分。よ〜似ておるわ」
いつの間にか戻っていたルイーゼが空を飛びながら絵を眺めた。
「もしかしてワーシャークかしら? でも、いくら人の姿にもなれるとはいえ、こんな内陸部に‥‥」
シャクリローゼは首を傾げる。
二つ目の絵は約四ヶ月前のゴーゴンが現れていない、まだ森が平和であった頃に見かけた変な怪物だという。
ゴーゴンの目撃例は事欠かなかったが、少年以外にワーシャークらしき怪物の見た者はいなかった。
夕方頃、冒険者は全員で互いの情報交換を行う。
ルイーゼは図書館と魔術師達から調べた内容を伝えた。
あの森の古代遺跡が調査された記録は過去にある。ただし迷宮になっていて、すぐに地上へ出てしまうので、ろくな調査結果が残っていなかった。内部の様子も同様である。
ジェレミーの調べでは集落での日常的な問題は別にして、森と湖、古代遺跡に関する依頼は今まで冒険者ギルドには出されていない。過去の調査はギルドを通じたものではないようだ。
冒険者達は明日の集合を約束し、パリの街へと散らばった。
●森
二日目の朝、冒険者達は馬車で森へと出発した。
到着したのは三日目の夕方頃である。集落跡に直接乗り込み、一晩を過ごす。
四日目、冒険者達は森の道を戻って湖を訪れる。やがてフェアリーが飛び交い、湖の精霊フィディエルのクールネと、森を守護するアースソウルのキリオートが現れた。
諫早似鳥が依頼金の元となる宝をどこから手に入れたかを訊ねるとクールネが答える。
「わたしがこの湖に守るようになる遙か昔、どうやらドラゴンが住んでいたようなのです。その名残だと思われますが、湖の底にはたくさんの宝飾品があるのです。小さな町のような建物の残骸も沈んでいます」
クールネの話しに誰もが驚きの表情を浮かべた。湖の底には骨と化したドラゴンの遺体も眠っているという。
地震があると湖の一時的水位低下は稀に起こるらしい。古代遺跡に湖の水が流れ込むのだろう。地震そのものは最近起きていなかった。
古代遺跡に潜る間、集落跡に残す馬やペットの世話を頼むとキリオートが引き受けてくれた。
クールネはこれまで古代遺跡を探ろうとする人がいた場合、フェアリー達に頼んで邪魔させていたのを明かした。
古代遺跡には触れないようにとの言い伝えが精霊達にはあったからだ。もちろん今回は手を貸す事はしても邪魔はしない。古代遺跡の深部についてはフェアリー達も立ち入った事がなかった。
冒険者達は集落跡に戻って古代遺跡に潜る準備を整える。
見張りをキリオートとフェアリーに頼み、全員で睡眠をとった。犬の小紋太と真砂も警戒してくれる。
全員が目覚めたのは真夜中だが、構わずに集落から離れた場所にある祠へと向かった。ゴーゴンが夜に地上を徘徊するのなら、今が古代遺跡を調べる絶好の機会である。オーガ族に注意しながら祠へと辿り着く。
ランタン用の油はアーレアンによってたくさん用意されていた。シャクリローゼはライトの魔法で光の球を作りだす。
狭い祠の入り口をを潜り抜け、冒険者達は地下への階段を下りていった。
●古代遺跡
入り口部分を抜けると比較的古代遺跡の通路は広かった。壬護蒼樹が背を伸ばしたまま歩ける高さもある。
「平気です。行きましょう」
壬護蒼樹は曲がり角に差しかかると鏡のような盾を利用して先を確認する。
「なんや、生きもんは少ない感じやわ〜」
ルイーゼはクレバスセンサーとブレスセンサーを使う。ゴーゴン以外にも危険なモンスターがいる可能性があるからだ。
隠し扉もかなりの数にのぼる。大抵が個室であって行き止まりが多かった。
「どれくらい昔かわかりませんけど、しっかりとした造りですわ」
シャクリローゼがフェアリーのフィーネルとラウファーと共に隊列の中央辺りを飛んでいた。持ってきた炭で石造りの通路に出口への進行方向と日時を書いておく。毛布でいつでもライトを隠せる用意もしてある。
羊皮紙とペンを持ったアーレアンはシャクリローゼと協力して古代遺跡の地図を作成していった。
「石化した人がいる可能性もあるかも知れないな。ちょっと待ってくれ」
身軽なフランシスは音も立てずに石壁をよじ登る。石壁には所々に穴があった。
(「ゴーゴンに遭遇したとすれば、やっぱ危険か」)
諫早似鳥は周囲の警戒に余念がない。今の状況でゴーゴンに不意打ちを食らったのなら大事になる。それを避ける為にも最大限の注意が必要であった。
古代遺跡は何層も地下へと続いていた。大体の構造は他の階と同じであったが、微妙に違う部分がある。追加された空間がいくつもあった。
冒険者達は地下十層まで到達する。戻るのには時間がかかりすぎるので、古代遺跡内で就寝をした。ランタンの油によってある程度の時間を計っていた。三日は経っているはずである。
古代遺跡に生活感は残っていない。誰もが神殿のような印象を感じていた。
壁などにあった文字をアーレアンが解読する。今の所、深い意味を持つ内容はなかった。
「こんなものが」
壬護蒼樹がミミクリーで腕を伸ばし、諫早似鳥から借りた棒で祭壇らしき穴を探ってみる。何やら意味深な模様が描かれた羊皮紙が出てきた。アーレアンが預かる事になる。
「すごいもの見つけましたわ!」
シャクリローゼが壁の隙間を光の球で照らし、壁画が描かれた広間を発見する。
迷いながら通路を進み、やがて大きな扉の前に辿り着く。諫早似鳥が開錠すると、壬護蒼樹を中心にして扉が開けられた。
冒険者達は広間に足を踏み入れる。シャクリローゼが高い位置から光の球を使って壁画を照らす。
「これは誰がどうみてもドラゴンとしか思えぬ」
フランシスは壁画を見上げた。
白い石壁に色絵の具で単純化されて描かれた世界。ドラゴンの他に多様な精霊が描かれていた。
「アーレ坊、これ読んでみて」
諫早似鳥は壁にはめ込まれた石版を発見してアーレアンを呼び寄せる。
「えっと‥‥イグドラシルに旅立つのか、この地に残って人との調和を‥‥、後は削れていてわからないな」
アーレアンは古代魔法語を羊皮紙に書き写した。絵も出来るだけ写してみる。
「昔はわからないけど、今はただの壁画だわね」
シャクリローゼはリヴィールマジックをかけてみるが反応はなかった。フェアリーの二体は描かれた仲間達に大喜びである。
「アーレアンさん、これ」
壬護蒼樹は壁画の一部を指さす。先程見つけた古い羊皮紙に描かれた模様と同じものがあった。
「音が聞こえんか?」
フランシスが耳を澄ました。周囲を見回すものの、音の正体は発見出来ない。
「ここが怪しいようやけど‥‥」
ルイーゼがクレバスセンサーで怪しい床の部分を発見する。よく見れば石の蓋になっていた。壬護蒼樹とアーレアンで石の蓋をひっくり返すと水音が響き渡った。
古代遺跡は地下十層で終わりではなく、もっと下層があった。ただし水没していて調査はどうにもならない状況である。
「何かがこの広間に近づいてくる。この大きさは‥‥、集落の人がいっておったゴーゴンの大きさ、そのものや」
ルイーゼがブレスセンサーを使った途端、ゴーゴンの存在を探知する。
「こっち」
諫早似鳥が急いで仲間を誘導する。
ゴーゴンは速く、そして何かを探るように動き回っていた。冒険者達は次第に追いつめられて、通路の行き止まりに押し込まれる。
「向こう側にいける穴があるで」
ルイーゼが天井近くの壁に横穴を見つけた。
「行けるはず。先に見てくるわ」
シャクリローゼが横穴の行き先を探りに飛んでゆく。
「僕が盾になって時間稼ぎをします。ゴーゴンを直視しないようにお願いします」
壬護蒼樹がアーレアンにロープを手渡した後、浄玻璃鏡の盾を構えた。
奇声をあげ、ゴーゴンが冒険者達に迫ってくる。
ルイーゼは慎重にライトニングサンダーボルトを放つ。通路のど真ん中を伝わった雷はゴーゴンを直撃した。
さらにフランシスが弓矢による威嚇を行うとゴーゴンは一旦退く。その際、諫早似鳥が手渡してくれた矢も利用する。
身軽な諫早似鳥がわずかな凹凸を使って石壁を駆け上がる。アーレアンが投げたロープを横穴から通路へと垂らして端を強く握りしめた。
続いて身軽なフランシスが横穴まであがる。
諫早似鳥とフランシスが握るロープをアーレアンが登っている最中、再びゴーゴンが襲う。
「うおおっ!」
壬護蒼樹が前を見ず、盾を押しつけるようにゴーゴンへ突進した。
「壬護さん、早く!」
登りきったアーレアンは身体を横穴のつっかえ棒のようにして、フランシスとロープを強く握りしめる。
「今のうちだよ!」
諫早似鳥が横穴から身を乗りだしてレミエラ付きの手裏剣を投げる。リターンさせてはゴーゴンに威嚇を繰り返す。
飛んでいるルイーゼも再びライトニングサンダーボルトを唱えてゴーゴンを狙った。
壬護蒼樹はロープに掴まって必死に登りきる。横穴は小さかったが、四つん這いになれば壬護蒼樹がぎりぎりで通れる広さはあった。
戻ってきたシャクリローゼの誘導で全員が脱出をはかる。
それからの冒険者達はひたすらに地上を目指した。入った時とは違う祠から地上に出たのは九日目の昼頃であった。
●そして
冒険者達はクールネとキリオートに報告する。
古い羊皮紙の模様、壁画の写しと石版の内容を伝えると、クールネはしばらく考えてから語り始めた。
「内緒にしたつもりはないですが、遙か昔にこの地の精霊は二つに分かれたという言い伝えがあります。一つはこの地に留まる精霊達、もう一つは遠くの地の仲間と合流した精霊達です。イグドラシルの名は初耳です。遠くの地とはイグドラシルを指しているのでしょう。最初にお話し下さったワーシャークらしき存在といい、何か不安を感じます」
クールネの表情はこれまでになく曇る。
「理由はわかりませんが、ゴーゴンはワーシャークによってこの森にまで連れて来られたのかも知れません。さて、どうしましょう‥‥」
クールネは迷っていた。その横でキリオートが森で拾ったレミエラを冒険者達に手渡す。
「よく考えた上でまた連絡致します。その時もどうかよろしくお願いしますね」
クールネに続いて周囲の精霊達すべてが冒険者達にお礼をいった。
冒険者達は集落跡に残っていた石化した人の一部を馬車に乗せて森を後にする。
十一日目の夕方にはパリに到着した。ギルドへの報告を終えると、アーレアンは余った資金を仲間と分配する。
「イグドラシルか‥‥。俺も何にも知らないんだよね。ワーシャークがいたとして、何がしたいんだろ」
アーレアンと同じ疑問を仲間達も持っていた。しばらく話し合うが結論は出ず、解散する冒険者であった。