●リプレイ本文
●初日
一日目早朝、冒険者達はアーレアンが借りた馬車が置かれる空き地に集まっていた。
「あとでシフールさんたちの荷物を持ってくださいデス」
「向こうについたらそうするね。行きは馬車の中に‥‥よいしょっと」
ラムセスにも頼まれた壬護蒼樹(ea8341)は、シャクリローゼ・ライラ(ea2762)とルイーゼ・コゥ(ea7929)の荷物を預かる約束をした。
(「話し合いで解決するといいなあ‥‥」)
壬護蒼樹は先に状況を知っておく為と、早くに疑惑の男女が訪れる可能性を考えて、韋駄天の草履で先行する。
「わしらも行こうかの。御者は任せてくれるか」
フランシス・マルデローロ(eb5266)が御者台に座ると仲間の乗車を促した。ルイーゼ、シャクリローゼ、アーレアンが乗り込む。
諫早似鳥(ea7900)は教会に寄ってから出発するつもりであった。愛犬の小紋太はよく言い聞かせて馬車の護衛につかせる。
諫早似鳥、ラムセス、マグダレン、アニエス、アレクシアが見送る中、馬車は城塞門方向に消えてゆく。
「さてと、あたいらは教会に行こうかね」
諫早似鳥は見送りの四人と共に教会へと向かう。今では石化されていた森の集落の人達は元に戻り、教会の世話になっていた。
「食事作りには自信がありますのよ」
マグダレンは教会に到着すると助祭達を手伝った。看護が必要な者の世話を焼いたり、得意の調理に腕を揮う。
「これ、運ぶのデス」
ラムセスも教会内の雑務に手を貸した。占いをして集落の人達から話も聞いた。
(「早く集落の人達が森に帰れますよう‥‥」)
アレクシアは教義が違うので礼拝場は遠慮し、教会の屋根に取り付けられた十字架へと祈りを捧げる。それから疑惑の男女の目撃談がないかを聞き回った。
「怪しい男と女が森に立ち入ってるようだ。そいつらを――」
諫早似鳥は長を含めた集落の大人達に森の状況を説明する。その上でフランシスとアーレアンの容貌に似た人物に協力を願った。しばらく二人が成り済ますのを認めてもらう。
他にも様々な話を集落の人達から聞いた。些細なものも多かったが、諫早似鳥は全てに耳を傾ける。
特に知りたかった情報も得られた。森を領地とする貴族の名はテオドール・バローという。
「どうかお身体を大事にして下さい」
アニエスは諫早似鳥を手伝い、集落の人達から聞き込みを行う。そしてジーザス教白教徒として個人名でかなりの金額を教会に寄付をした。教会関係者に集落の人達の世話をお願いする。
聞き込みはかなりの時間がかかり、終わったのは暮れなずむ頃であった。半端な時間に出発しても意味がないと考えた諫早似鳥は教会の手伝いで一日目を終えるのであった。
●森
先行した壬護蒼樹は二日目の昼頃、森へ到着する。愛馬の穂群は馬車一行に預けたので、ウルフの響と一緒である。
まずは拠点としている森の集落跡の点検を行った。残っている石化した人達もそのままで、特に荒らされた形跡もなかった。
「手伝ってもらいたいことがあって――」
壬護蒼樹は湖で湖の精霊フィディエルのクールネと森を守護するアースソウルのキリオートに相談する。
何者かが森に立ち入った場合にすぐ教えてもらいたいのと、もしもの時の仲間への伝言を頼んだ。そしてクールネに古代遺跡十層以下を満たす水についてを訊ねる。
どの経路かはわからないが湖と同じ水源であるのは間違いないらしい。問題はどこへ流れているかである。それについてはクールネにもわからなかった。湖の守護者として、今の状況で離れる訳にはいかないからだ。
「いざという時、水中で戦えるように手伝ってもらえますか?」
「お願いしているのはわたしたちです。当然、水中での戦いになった時にはお手伝い致しますので」
壬護蒼樹が対ワーシャーク戦を想定した助力の願いをクールネは即答で受け入れてくれた。
その後、夕方には馬車一行の仲間が森の拠点に到着する。
諫早似鳥も空飛ぶ絨毯で深夜に拠点へと到着した。途中、魔力を補給する為にソルフの実を使ったようである。
壬護蒼樹がクールネ達と話した内容を仲間に伝える。また、諫早似鳥が教会で得た情報も話される。
二人一組になって見張りを行いながら、二日目の夜は更けていった。
●男女
三日目の朝、さらなる情報を求めて一行は湖に出向いた。いつものようにクールネとキリオートが現れる。
「教会で集落の人達から聞いたんだけどさ――」
諫早似鳥は祠に入った男女の容姿をキリオートに確認した。そして以前に集落へ訪れた男女とそっくりな事が判明する。
男女は共に銀髪で面長な顔に切れ長な瞳が印象的だったという。どことなく船乗りを思わせる服装を着ていたらしい。
「質問がありますので答えて頂けますでしょうか? フィーネルとランは仲間と相談していてね」
シャクリローゼもクールネとキリオートに訊ねる。祠に男女が侵入した時の状況についてだ。
古代遺跡への侵入者を迷わす方法は、その都度フェアリーやキリオートが気づかれないように魔法をかけて行われていた。祠に入った男女は魔法の妨害をすり抜けて、さらに地下の層を目指した事になる。
冒険者達が地下で遭遇した以降、ゴーゴンは地上には現れていない。祠から古代遺跡に潜った男女が何かを施した可能性はある。
シャクリローゼはゴーゴンが古代遺跡の下層で迷っているか、もしくは閉じこめられているのではないかと想像した。そこでクレアボアシンスを使って壁画の間や、覚えている遺跡内部を確認してみる。どこも真っ暗で何もわからなかった。十一層も駄目であった。
ここでシャクリローゼは疑問を抱く。真っ暗闇の中、どうやってゴーゴンは移動したりしているのかと。
古代遺跡はかなりの広さである。もしかすると地上近くにショートカット出来る階段のようなものがあるのかも知れない。シャクリローゼは仲間に考えを伝えた。
「さっきもひとっ飛びして、呼吸探ったけど見つからへんかったわ。アーレアンはんのいうには明日、明後日が怪しいようやけど‥‥、その男女、やって来たら祠に潜るんかいな?」
ルイーゼは枝に座って腕を組んだ。周囲にいたたくさんのフェアリーも腕を組んで真似をする。
引き続き精霊達に警戒を頼んだ一行は自分達も行動を開始した。シャクリローゼは石化対策として仲間にコカトリスの瞳を渡しておく。
「もっと怒って!! 身内が石にされちまったんだからさ――」
諫早似鳥はフランシスとアーレアンに演技の稽古をつけた。すべては集落の者になりきる訓練である。
「頼んだでぇ〜。フェアリーはんもすぐに教えてな。 ♪ダァンジョ♪ どこや」
ルイーゼは怪しい男女を少しでも早く見つけようと森の中を巡回する。たまにオーガ族を見つけても、近寄らずに接触を避けたルイーゼである。
「ここは前に印をつけたっと‥‥。あそこは初めてね」
シャクリローゼはフェアリーと一緒に祠を捜しては地図に描き込んでゆく。たまにフェアリーのランにグリーンワードで植物へ訊ねてもらった。
「ゆっくり、やさしくと‥‥」
壬護蒼樹は拠点の見張りと同時に、残った石化した集落の人達を毛布にくるんで予め馬車に乗せておく。空飛ぶ絨毯で運ぶかも知れないが念の為である。
「わしはワーシャークと会ったら、意志疎通をはかってみるつもりぞ」
フランシスは稽古の休憩中にアーレアンと喋った。しばらくして諫早似鳥が近づく。
「アーレ坊、これとこれ持っておきな。それと真砂にも守らせるからさ」
「助かるよ。諫早さん、ありがとう」
諫早似鳥がアーレアンに貸したのは黒曜石の短剣と月光の指輪である。真砂とはペットの鷹だ。
三日目が暮れて、四日目の朝日が昇る。
緊張の時が続いたが、何事もなく四日目も過ぎ去った。そして一晩が明けて、五日目が訪れた。
●ワーシャーク
「あぶないですわよ? オーガとかゴーゴンとかがうろうろしてますの!」
五日目の昼過ぎ、シフールのシャクリローゼはフェアリー達と一緒に森にやって来た男女にまとわりついていた。情報通り、銀髪の三十歳前後の男女である。
「こんなところにおったんか〜。おや、こちらはんは?」
同じくシフールのルイーゼもタイミングを計ってシャクリローゼに合流する。
「この近くの集落にお世話になったことがありまして。それで心配になって来てみただけですよ」
女がたまに会話につき合ってくれる。ただし二人とも名前を訊ねても答えてはくれなかった。
(「まずいね。こりゃ‥‥」)
諫早似鳥は壬護蒼樹と組んで仲間のフォローに回っていた。草の汁を身体に擦り込み、パラのマントで姿を隠しながら。
諫早似鳥は姿を現すと、インビジビリティリングで見えにくくなっている壬護蒼樹の耳元で囁く。
「馬車、移動させた方がいいね。あの二人に情報を与えるのは得策じゃない」
「フェアリーに連絡してもらいますね」
壬護蒼樹は非常に小さな布に『馬車移動』と書き、近くにいたフェアリー二体に集落跡へと頼んだ。
フェアリー二体は木々の葉をすり抜けて集落跡へと飛んだ。
「こちらから出向こうと思っておったが、こちらに向かっているのだな‥‥」
フランシスは短い文から理解し、馬車を集落跡から移動させた。さらにキリオートに頼んで草や枝葉で隠してもらう。そして大急ぎで集落跡に向かう。
「なんだい。お前等は! ‥‥もしかして何か悪さをしに来たんだろ!!」
アーレアンが集落跡に踏み込んだ男女に悪態をつく。
「なんだ? 敵か!」
集落跡に戻ってきたフランシスの両手には鎌が握られていた。
「覚えてませんか? わたしたちのことを。わたしがギーノで、妻のヒリーノです」
ギーノと名乗った男が初めて言葉を発し、アーレアンとフランシスは顔を見合わせる。フランシスが前に会った事があるような演技をするとアーレアンも続いた。
妻と紹介されたヒリーノが懐に手を入れて一歩前に出る。ギーノが腕を伸ばしてヒリーノの動きを止めた。
フランシスは様々な会話を試みるが徒労に終わる。
これから祠に入るといってギーノとヒリーノは集落跡を立ち去った。二人も集落跡を拠点にするつもりだったのだろう。しかしフランシスとアーレアンがいたので諦めた様子である。
「遺跡、危ないって噂ですよ!? は、はいりますの??」
「でも、少し楽しそうやで。うちらも入ってみぃ〜へんか?」
シャクリローゼとルイーゼのお喋りを無視し、ギーノとヒリーノは祠の中に入ろうとする。前にキリオートが二人を見かけた時と同じ祠である。
シャクリローゼとルイーゼはシフールの言葉で会話し、ギーノとヒリーノにはわからないようにこのままついてゆくかを相談する。
祠を塞いでいた岩を動かすのを止めて、ギーノとヒリーノが振り返る。
「やはりおかしいな」
ギーノが剣を抜き、シャクリローゼへ斬りかかった。
「目障りだわ」
ヒリーノがルイーゼ目がけてナイフを投げる。
シフールの二人は攻撃をかわすと木の幹に隠れた。
「頭のいい奴らじゃん」
諫早似鳥が投げた手裏剣がギーノの肩に突き刺さった。避けられなかったのではなく、ギーノがヒリーノをかばったように諫早似鳥には見える。
「アーレアン、助かるぞ」
フランシスはアーレアンにバーニングソードを付加してもらった矢を放つ。手裏剣を投げ捨てたギーノの頬を掠めるが祠に当たって二つに折れ曲がった。
ギーノとヒリーノは半端に開いた隙間から祠の中へ入ってゆく。
「ウオオオッ!」
壬護蒼樹は祠に駆け寄って塞いでいた岩を完全に退けた。
「こうなったら、行きますわよ!」
シャクリローゼがライトで光の球を作りだして祠に突入する。途中でもう一つ出現させてルイーゼに手渡す。
暗い祠の中を冒険者達は追いかけた。敵は通路を知っているようで動きに迷いが感じられない。
敵を見失ってしまい、冒険者達は立ち止まる。
「ここや!」
ルイーゼがクレバスセンサーで隠し扉を見つけた。以前の地下探険では通過しなかった地点のものだ。
壬護蒼樹を中心にして石の扉がこじ開けられると、さらにルイーゼがブレスセンサーで敵の動きを察知する。隠し扉の奥は地下へと続く長い坂道があった。
(「あれが、ワーシャーク!」)
天井ギリギリを飛んで先行したシャクリローゼは目撃する。ギーノがヒリーノがワーシャークに変身するその瞬間を。
ワーシャークになったギーノとヒリーノは坂道の行き止まりにある縦穴へと飛び降りる。
冒険者全員が縦穴の縁に到着した時、水へ飛び込む音が辺りに反響した。どうやら縦穴は地下十一層まで続いているようだ。
よく見れば縦穴には梯子が取り付けられていたが、これ以上の追跡は無理であった。例えクールネにウォーターダイブを付与してもらったとしても危険が大きすぎると判断されたはずである。
「あの二人の正体がワーシャークとわかったんだ。まずは精霊達に報告しよう」
アーレアンの言葉に全員が納得して祠から脱出する。
「みなさんありがとうございます。それにしても、あのワーシャークの目的は地下十一層より下にあるのでしょうか」
「そんな感じだな。ゴーゴンを連れて来たのがワーシャークだったとしたら‥‥。人を森から追いだす為だったのかな? よくわかんないけどさ」
クールネとキリオートは報告を聞いた上で考えを巡らせるのであった。
●そして
精霊達への報告を終えた後、冒険者達はワーシャークが消えた祠の監視を続けた。
六日目、七日目と過ぎ去り、ついにワーシャークの二人は戻って来なかった。
より大きな岩で祠の入り口は塞がれる。引き続き精霊達によって監視が行われるという。
馬車や馬への負担を考え、諫早似鳥とシャクリローゼは空飛ぶ絨毯に石化した三体を乗せて運んだ。馬車では石化した五体が運ばれる。
「水の中だとするとクールネの手伝いが必要だね。あまり湖から離れたくないみたいだけど、今度は頼んでみるよ。ワーシャークは何か捜しているのかな? 十一層より下の調査をどうにかしないと。壬護さんも気にしていたけど、遺跡内の水はどこに流れているんだろう‥‥」
アーレアンは馬車に揺られながら仲間に考えを話す。
九日目の夕方、一行はパリに到着する。まずは教会で石化した八体を元通りにしてもらう。教会の方々に感謝をし、冒険者ギルドで報告を行った。
クールネからもらったレミエラをギルドで交換して仲間で分ける。余った依頼金も分配する。
「ワーシャークのギーノとヒリーノはまた森にやって来るはずだ。その時は依頼を出すからお願いするね」
アーレアンは仲間にお礼をいって冒険者ギルドを立ち去るのであった。