探り合い 〜アーレアン〜

■シリーズシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:7 G 56 C

参加人数:6人

サポート参加人数:3人

冒険期間:09月09日〜09月18日

リプレイ公開日:2008年09月18日

●オープニング

 パリの喧噪の中、アーレアンはフェアリー達から受け取った薄い木の皮で出来た小さな手紙に目を凝らした。
 湖の精霊フィディエルのクールネと森の精霊アースソウルのキリオートからの手紙である。
 古代遺跡地下十一層以下の水位は徐々に下がり、十五層を半分沈めた状態で安定したようだ。いくつかの壁の亀裂から浸水があり、それらが完全な排水を邪魔していた。
 一番大きな排水口は十六層にあるが、その他にも小さな排水口もあるとクールネは想像していた。十六層にも地下への階段が存在していたからである。
 冒険者が立ち去った後、ワーシャーク夫婦はもう一度だけ古代遺跡に現れている。十五層で見張っていたフェアリー達に目撃されていた。十六層の排水口から侵入してきたのだろう。
 またゴーゴンの徘徊も地下十一層で確認される。その際、周囲を明るくする品を持っていたらしい。ワーシャークが水中で持っていた品と特徴がよく似ていたようだ。
 手紙を読み終えるとアーレアンはクールネから預かった品を換金しに出かける。依頼を出す為の資金調達である。
「ワーシャークがいっていた『あれ』とは何なんだ‥‥」
 アーレアンは歩きながら思いだす。ワーシャークの男、ギーノが叫んだ言葉を。

●今回の参加者

 ea2762 シャクリローゼ・ライラ(28歳・♀・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea7900 諫早 似鳥(38歳・♀・忍者・パラ・ジャパン)
 ea7929 ルイーゼ・コゥ(37歳・♀・ウィザード・シフール・ノルマン王国)
 ea8341 壬護 蒼樹(32歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 eb5266 フランシス・マルデローロ(37歳・♂・レンジャー・パラ・ノルマン王国)
 ec4801 リーマ・アベツ(34歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)

●サポート参加者

ゲイリー・ノースブルック(ea7483)/ アニエス・グラン・クリュ(eb2949)/ ラムセス・ミンス(ec4491

●リプレイ本文

●調査
 冒険者達は森への出発を一日遅らせる。ワーシャーク夫婦『ギーノとヒリーノ』について何かしらの情報がないかをパリで調査する為であった。
「なんでも構わないので思いだしたことはないかのう」
 フランシス・マルデローロ(eb5266)は集落の人達が世話になっている教会へと出向く。質問を変えてみたりして、新たにワーシャーク夫婦について思いだした事実はないのか聞いて回る。
 そういえばとヒリーノが長く夜空を眺めていたのを集落の中年女性が思いだす。どこか寂しげであったという。
 ルイーゼ・コゥ(ea7929)と壬護蒼樹(ea8341)は二人で船着き場を訪れていた。ワーシャーク夫婦の着ていた服が船乗りのそれに似ていたので、何かしらの繋がりがあると踏んだのだ。
「銀髪で切れ長な瞳の夫婦を知りませんか? ギーノさんとヒリーノさんっていいますけど、違う名前かも」
「知ってたら教えてや。パリ以外にもドレスタットやユトレヒト侯国辺りにいたかも知れへん」
 壬護蒼樹とルイーゼは次々と港にいる人々に声をかけてゆく。
 ワーシャーク夫婦の事以外にも鮫の被害や北海やユトレヒト侯国周辺の状況も聞いた。鮫の被害は北海周辺で異常な事件が多発しているせいで目立っていない。ユトレヒト侯国では今の所、大した事件は起きていないようだ。ただし広く伝わっていないだけの可能性もある。
 二人は声をかけてゆくうちに銀髪の夫婦を知る商人を見つけた。果たしてその夫婦がワーシャークかどうかはわからないが、何ヶ月か前、頼まれて大きな木箱を運んだ事があるという。
 ドレスタットで木箱を帆船に載せてパリで下ろしたが、その後について商人はまったく知らない。銀髪の夫婦にはエルフの女性も同行していたらしい。
 壬護蒼樹とルイーゼは有力な情報を教えてくれた商人にお礼をした。
「今からいう奴らの事を教えてくれないかい?」
 諫早似鳥(ea7900)はガラクタに溢れた部屋でひげ面の男と対面する。相手は知人を通じて知った情報屋である。
 森がある領地を治めるテオドール・バロー領主と、セーヌ川を境にしてヴェルナー領と隣接するフレデリック領のゼルマ領主についてだ。
 バロー領主はとても呑気な人物だという。治世に配慮が足りない部分について悪口が囁かれているものの、総じて王宮に従順な普通の領主であった。表裏どちらから見てもだ。
 ゼルマ領主はかなりの野心家で、デビルとの関係も噂されていた。オリソートフとシャラーノについてだが、ゼルマの実働部隊として動いている。ただし、噂の域を出ていない。
「バローはボンクラ、ゼルマはラルフ領主に対抗心剥きだしときてる。姉さんの考えを俺は知る由もねえ。だが、姉さんが気にする何かに二人が果たして関わっているのかね? ま、こっちとしては金がもらえれば文句はないけどな」
 話し終えた情報屋は奇妙な臭いを放つ飲み物を口にする。
 すべての会話は同行したアニエスがメモをとってくれたので、すぐに諫早似鳥はその場を立ち去った。
 リーマ・アベツ(ec4801)は冒険者ギルドの個室を借りて心を落ち着かせていた。諫早似鳥が現れると借りたフォーノリッヂのスクロールを使って未来視を始める。
 諫早似鳥は万が一の狂化に備えて睡眠を誘うハーブティーを用意し、春花の術を唱えられるような体勢をとっておく。
 『ヒリーノ、子供』で探っても何もわからない。たまに町の子供とすれ違う姿が見えるだけである。とてもヒリーノの子供とは思えなかった。
 『ギーノ、肉親』でも同じでこれといった未来は垣間見られなかった。
「やはり謎は深まるばかりですわ」
「そうだね。う〜ん、困った」
 シャクリローゼ・ライラ(ea2762)とアーレアンはリーマの邪魔をしないように別室でこれまでの経過を話し合う。
 ギーノがいった『あれ』は唐突過ぎて、まったく想像がつかない。ワーシャーク夫婦の目的はいくつか考えられたが、不可解な部分が多すぎた。
 暮れなずむ頃、教会に全員が集まって得られた情報をつき合わせた。
 教会を手伝っていたラムセスも参加する。サンワードでワーシャーク夫婦と子供に関する内容を太陽に聞いてみたが、特にわかる事はなかった。

●森
 二日目、太陽が昇る前に冒険者達は教会に集まる。空飛ぶ絨毯二枚に分かれて乗り込むと朝焼けの空へと舞い上がった。
 可能な限り最高速を出し、交代しながら森へと一直線に飛ばす。何度も往復するうちにすっかり最短の地形目印を覚えた冒険者達である。逸れる事なく飛んで宵の口には森へ到着する。
 あらためてフォーノリッヂで未来を確かめるが、リーマは銀髪で鋭い目つきの子供を見ることは適わなかった。
 シャクリローゼは持っていない仲間にコカトリスの瞳を一つずつ渡しておく。
 クールネとキリオートに会うのは明日にして集落跡で早めに休む事にした。見張りの順番を決めて空き家で眠り始める。
 諫早似鳥は見張りの時に井戸水を汲んで青い雑草が繁る辺りに撒いておく。朝、起きて確認すると以前のように枯れていなかった。どうやら井戸水の毒は抜けたようだ。古代遺跡の地下水が流れた事と関連があるのかも知れない。
 朝早く起きた冒険者達は焚き火用の薪を集める。ルイーゼ、シャクリローゼの荷物の一部を壬護蒼樹が預かると全員で湖に向かった。
「遺跡内の痕跡について心当たりがあるのでしたら教えて頂きたいです」
 シャクリローゼが湖から現れたクルーネにいくつか質問をする。
 遙か昔に起こった出来事であろうが、ドラゴンの仕業ではないかとクールネは考えていた。壁に残っていた痕は爪でつけられたものだろう。
 水位が上がった水辺は森の中には存在しない。古代遺跡の水が流れてゆく先は森の外だと考えられる。
 オーガ族の蛮行は相変わらずだが、ゴーゴンについては最近地上には現れていないらしい。古代遺跡に閉じこもりっぱなしのようである。
 キリオートは地上でワーシャーク夫婦を見かけたらフォレストラビリンスで惑わせてくれる事をあらためて約束してくれる。
 一行はクールネと一緒に地下十一層以下へショートカット出来る祠へと向かった。
 魔力の温存を図る為に水中以外の灯りはフランシスのランタンが活用される。
 空飛ぶ絨毯を活用して一気に地下十四層まで辿り着く。どの通路からゴーゴンに襲われても逃げられる位置を焚き火の場所とした。
 三日目、四日目に関してはクールネの希望を尊重して水中での調査を優先する。滞在出来る残りの時間すべては十一層から十五層までをくまなく調べる予定となった。
 準備を整えると浸水している十五層まで空飛ぶ絨毯で降りる。絨毯はレミエラ付きで木のように水へ浮かぶ。流されないようにロープで柱に結んでおく。
 クールネにウォーターダイブを付与してもらってさっそく潜り始める。ソルフの実などは適宜使う事となる。
 リーマがバイブレーションセンサー、ルイーゼがブレスセンサーを活用してワーシャーク夫婦やゴーゴンを注意する。
 ウォーターダイブが切れる時間を正確に計る為に、魔法の使い方にシャクリローゼは気を使う。アーレアンは二度と溺れないように慎重に行動をした。
 壬護蒼樹はどんな場所でも浄玻璃鏡の盾を意識して握る。
「一つ一つの構造は簡単なものだが、これだけあると大変じゃのう」
 ルイーゼがクレバスセンサーで隠し扉を見つけるとフランシスが開錠してゆく。
 特に十八層には隠し扉が多くあった。すべてを暴くにはかなりの時間がかかりそうである。そして地下二十層が最下層だと確認された。
 四日目までの水中調査はワーシャーク夫婦とゴーゴンと接触せずに終わる。ギーノが叫んだ『あれ』の正体については何もわからなかった。
 五日目からは慣れない水中での調査で見落とした部分がなかったか、十一層から十五層までが念入りに調べられた。
 削られた壁の部分に碑文があり、アーレアンはかかりっきりになる。ただし完全に削れているので判別できる部分から想像するしか手は残っていない。とりあえず、出来る限りの文を書き写しておく。
 いくつかの新たな隠し扉も発見される。その先に通路もあって地下に潜れば潜るほど複雑な構造であるのがわかってきた。
 八日目になって大きな出来事が起きた。
 シャクリローゼが作ったライトの光球をアーレアンが階段下の十五層に投げ込む。
 水面から顔を出していたのはワーシャーク夫婦のギーノとヒリーノである。向こうも警戒しているようでかなりの距離をとっていた。
 ワーシャークが本当に敵なのか、それとも自分達にとって別の存在なのかを知る絶好の機会が冒険者達に訪れた。
「集落の人から伝言があるよ。子供は元気かって」
 アーレアンがワーシャークにカマをかける。伝言というのは嘘で、諫早似鳥と相談して決めたハッタリだ。
「‥‥子供のことは、何一つ集落の奴らには話していない。話す訳がない‥‥。どうやらわたしたちの事を知りたがっているようだな。なら少しだけ教えてやろう。わたしたちがこうしてあれを探しているのは、子供らを殺した奴らに復讐をする為。そこの少女の姿をした精霊を除けば、みんな人なんだろ? 精霊に手を貸すのはやめろ。わたしたちがあれを手に入れ、精霊も根絶やしにできたのなら森は人が自由にしていい」
 ギーノの声が反響して冒険者達の耳に届く。
「その話、矛盾しているよ。ゴーゴンを連れてきたのはあんたらじゃないのかい? どうして人を石化させるような真似をしたんだい?」
「探索を邪魔をされたくなかったからだ。石化した人達を破壊するオーガ族の台頭は想定外だった。石化しただけなら復活の方法は少ないながらあるからな。まったくではないが、人に恨みはない。だが邪魔をするなら戦う。復讐を果たすと、あの子らの墓に二人で誓ったのだから」
 諫早似鳥に答えるギーノの声は怒りに震えていた。
「この震動‥‥」
「こないな呼吸‥‥」
 ワーシャークとの会話が続いている最中、リーマとルイーゼが顔を見合わせる。十三層からかなりの勢いで近づいてくる個体を感知した二人であった。
 リーマがテレパシーを使って仲間に知らせてゆく。
(「子供についてだと‥‥どんな言葉も届かない時もある‥‥」)
 ワーシャークと話すアーレアンを気にしながら壬護蒼樹が盾を構えた。
(「調査が目的であって、無理に倒す必要は‥‥」)
 ゴーゴンが持っているという魔法のランタンを狙うつもりのフランシスであった。真正面から狙ったのなら石化の可能性がある。身軽さを活用して通路の上の出っ張りへと登ると、高い位置から弓矢を構えた。
(「この距離では届きませんわ」)
 シャクリローゼは交渉が決裂したのならワーシャーク夫婦のどちらかにリヴィールマジックをかけるつもりでいた。だが、警戒している二人はゆうに三十メートルは離れていて難しい状況にある。
 頭を切り換えたシャクリローゼは、エックスレイビジョンで壁の向こう側を覗いて正確なゴーゴン探索を優先する。
 遠吠えが聞こえ、ワーシャーク夫婦にもゴーゴンの接近が知られる。会話は終わり、ワーシャーク夫婦は水中に沈んでゆく。
 一行は迫り来るゴーゴンに意識を集中した。
 ゴーゴンの動きを捉えた仲間は細かく報告を続ける。壬護蒼樹が通路の中央で盾を持って身を屈めた。
 暗闇の中から突然にゴーゴンは現れる。魔法のランタンをゴーゴンは持っていないようで、フランシスは驚いて目を凝らす。
 壬護蒼樹が鏡のような盾を掲げた。するとゴーゴンの動きに迷いが起こる。
 諫早似鳥も壬護蒼樹の隙間を塞ぐように銅鏡をゴーゴンに向けた。シャクリローゼが効率よく映るように光球を動かす。ただし絶対にゴーゴンの目を見ないように誰もが気をつけた。
 クールネのアイスコフィンが放たれ、ゴーゴンはあっという間に凍りつく。もしもに備えてアーレアンは持ってきた布でゴーゴンの頭を巻いて目を塞いだ。
 安心して眺められるようになったゴーゴンだが、やはり魔法のランタンを持っていなかった。
 隠し扉の位置は別にして、ほとんどの階層は基本的に同じような構造である。長く暮らしているゴーゴンならば暗闇の中でも行動は可能だろう。しかしせっかくの品を持っていないのはとても不可解であった。
 アイスコフィンで凍らされたゴーゴンは空飛ぶ絨毯を使って一層の小部屋に運ばれる。もう一度クールネによってアイスコフィンがかけられた後で、フリーズフィールドが小部屋の空間に使われる。これで一日は確実に凍ったままである。
 時間は残りわずかになり、探索は終了となる。
 古代遺跡を探る途中でいくらか見つかった高価な品物はクールネに渡される。これからの資金として使ってもらう事となる。
 クールネは浮かない表情で冒険者達を見つめる。
 残念な事を言わなくてはならないと前置きした上で話し始めた。
 クールネ自身も含め、現状を招いたゴーゴンに対して森の精霊達は深い憤りを持っている。次に冒険者達がやって来るまではフリーズフィールドで保持しておくが、妙案がなければゴーゴンを倒すつもりだという。
 アーレアンはクールネに言葉を発しようとしたが何も出てこない。ゴーゴンがワーシャーク夫婦によって無理矢理連れて来られたのなら罪はないはずだ。だが精霊達の気持ちもよくわかるアーレアンであった。

●そして
 九日目の朝、冒険者は空飛ぶ絨毯二枚でパリへの帰路についた。
 宵の口に到着すると、冒険者ギルドでの報告を済ませる。
 クールネからもらったレミエラを有用なものにカウンターで交換してもらう。情報を得る為に支払った資金を差し引いた上で分配し、今回の依頼は終了した。
「壬護さんとルイーゼさんがいってた商人の話だけどさ。俺も少し調べてみるよ。ゴーゴンをどうしたらいいのか‥‥考えておかないとね」
 アーレアンは難しそうな顔をしたが、すぐにいつもの調子に戻る。
 仲間に別れの挨拶を済ますと、アーレアンはギルドの出入り口へと駆けていった。