●リプレイ本文
●相談
一日目の早朝、冒険者達は待ち合わせ場所の空き地に集うと、これからについてを話し合った。
古代遺跡の探索についてはひとまず保留とされ、ゴーゴンの移送とオーガ族の排除に意見が分かれる。
ゴーゴンに対しての意見は双方に言い分があり、どちらの考えにも正義はある。八人の冒険者が集合した事もあり、二手に分かれる事にした。
ゴーゴンを運ぶ移送班は、シャクリローゼ・ライラ(ea2762)、オグマ・リゴネメティス(ec3793)、ルイーゼ・コゥ(ea7929)の三人となる。
精霊の森に跋扈するオーガ族の対策班は、諫早似鳥(ea7900)、壬護蒼樹(ea8341)、春日龍樹(ec3999)、リーマ・アベツ(ec4801)、アーレアンの五人と決まった。
パリにいる間にしておかなくてはならない大切な事もいくつかある。
まずは船着き場で商人とゴーゴンを運ぶ契約をした。
シャクリローゼはワーシャーク夫婦と一緒にいたエルフの女性についてを訊ねる。
名前はノームといっていたが、偽名ではないかと商人は疑っていた。外見年齢は二十歳位で金髪。整った顔立ちだが右頬に大きな傷があったという。ウィザードのような恰好をしていたが名前と同じく偽装していた可能性は残る。
アーレアンは話がまとまった所で借りた空飛ぶ絨毯に乗って教会へと急いだ。移送班は商人と細かな打ち合わせや質問を続ける。
教会ではセレストと諫早似鳥が集落の長や教会の司祭に段取りをつけてくれていた。アーレアンも含めて話し合うのは、領主テオドール・バローに陳情する年貢と援助についてである。
以前と現在の集落人口と詳しい個人名、被害の戸数も詳しく書き記した書類を用意し、集落の長と司祭に領主館のある町へ陳情しに向かってもらう事になる。ギルド訪問も含まれている。
新たな被害が起こる可能性に言及した書類も添付された。ゴーゴンについて触れられた内容となった。
冒険者達は再び集結する。オーガ族と戦うにせよ、ゴーゴンを運ぶにせよ、まずは精霊の森に向かわなくてはならないからだ。
アーレアンと諫早似鳥は空飛ぶ絨毯で精霊の森へ先行する。
その他の冒険者は馬車や空飛ぶ絨毯ではなく、荷馬車での移動に変更した。森で木箱に収めてからゴーゴンを運ぶ事にしたからである。
壬護蒼樹が韋駄天の草履で併走しながら、荷馬車も精霊の森を目指すのであった。
●森
「‥あたいは寒村の貧しい農家の生まれでね」
一日目の深夜、先行した諫早似鳥とアーレアンは精霊の森に到着し、集落跡の空き家で休んでいた。
「口減らしに忍びの里に売られた身なんだ。ひもじいって事がどんなに辛いか‥‥」
諫早似鳥の話しを聞きながらアーレアンが思いだす。幼い頃、毎日が空腹でたまらなかった一年があった事を。
「鮫夫婦にも蛇女にも同情はするが、ね」
そういってから諫早似鳥が眠りについた。アーレアンはそのまま見張りを行う。犬の小紋太と真砂もいて心強い。
この周辺には滅多にオーガ族は現れず、ワーシャーク夫婦もアースソウルのキリオートやフェアリー達が注意してくれているので大丈夫とは思われるが念の為だ。
まだ我慢できる寒さなので焚き火はしていない。しかしもうすぐそんな事はいってられない季節が訪れる。
「冬がもうすぐやってくる‥‥。本当ならこの集落でも収穫祭をやっている時期だよな」
星空を眺めながらアーレアンは見張りを続けた。
二日目の朝、アーレアンと諫早似鳥は森の湖でフィディエルのクールネと会う。
今回は古代遺跡調査をせずにゴーゴン移送とオーガ族の排除に力を傾けるつもりだと説明する。クールネは特に質問もせず、そのままを受け入れてくれた。
他の仲間が到着するのは早くて夕方である。その間にオーガ族が拠点としているもう一つの集落跡の潜入調査が行われる。
アイテムを貸す形でキリオートに協力してもらい、ぎりぎりまで空飛ぶ絨毯で近づく。アースダイブを付与してもらい、地中からの調査を試みた。
考えていたより、オーガ族は多く徘徊していた。以前に石化した人々の救出をした時よりも増えている印象がある。
一気に調べるのは無理と判断して、数日をかける事にする。その間に大まかな数や、所有している武器、休む時間帯や、リーダー格が誰かも確認するつもりの諫早似鳥であった。
夕方、荷馬車が精霊の森に到着した。
移送班のシャクリローゼ、オグマ、ルイーゼと、ストーンの魔法を操れるリーマがクールネの元を訪れる。
それぞれがアイデアを出し、ゴーゴン移送に一番よい方法が模索された。不満を感じている森の精霊はクールネが説得してくれるという。
対策班も対オーガ族の打ち合わせを行った。リーマにはアーレアンから後で詳しく説明がされた。
●ゴーゴン
三日目の早朝、七名がゴーゴンが凍らされている祠から入ったばかりにある地下一層の小部屋を訪れた。
クールネがフリーズフィールドで氷点下を維持してくれていたおかげで、ゴーゴンはアイスコフィンがかけられたままだ。わざと放置されて溶けかかった状態である。
アイスコフィンをかけたままストーンで石化するアイデアもあったが、問題があるといけないので取り止めになる。
ゴーゴンを縛って目隠しをしておけばストーンをかける余裕は充分にあった。
春日龍樹と壬護蒼樹が凍ったままのゴーゴンを空飛ぶ絨毯に乗せてくれた。日の光が射す祠の外で小一時間程溶けるのを待ち、リーマによってストーンがかけられる。
藁が敷き詰められた木箱を横にして丁寧にゴーゴンが収められた。蓋がされ、木箱は荷馬車へと載せられる。
移送班を乗せた荷馬車は精霊の森を出発する。商人が用意した帆船は五日目の朝に出航してしまうので、それまでに到着しなければならなかった。
残念ながら壬護蒼樹の望んだテレパシーによるゴーゴンとの通訳は叶わずに終わる。
森に残った対策班はオーガ族との戦いに備えていた。
リーマはバイブレーションセンサーでオーガ族の数を探る。
諫早似鳥はキリオートと一緒に土の中を潜って調査を続けた。
アーレアンは地形をキリオートから教えてもらい、どのように魔法攻撃を仕掛けたらよいのかを検討する。
壬護蒼樹と春日龍樹は集落の人達が戻ってきた時を考えて空き家の掃除を行った。木を伐りたい所だが、遠くまで聞こえるかも知れないので止めておく。
春日龍樹が何かと理由をつけて湖に向かうのを壬護蒼樹とアーレアンは不思議がる。
寝言でばれるのだが、クールネ目当てだったようだ。『クールネ殿は美しい』と何度も呟いていた。
●ゴーゴンの移送
「しばらくは私に任せて下さい」
「よろしゅう頼みますぅ〜」
オグマは薄暗い貨物倉でルイーゼから見張りを引き継いだ。
すぐ側にはゴーゴンが収まった木箱がある。
もしもがあればオグマはアイスコフィンを使うつもりだが、自然にストーンの魔法が切れる事はあり得なかった。すべては船乗り達を安心させる為だ。
オグマは愛馬テルプシコラの世話をしながら時折木箱に目をやった。状況は詳しく知らないが、同じ移送班の二人はゴーゴンに一生懸命である。
「交代してきたわ〜。う〜ん、潮風はええなあ〜〜」
甲板に現れたルイーゼは樽の上に座るシャクリローゼの横へと降りる。さっそくブレスセンサーで周囲を探っておいた。ワーシャーク夫婦が狙っていないとも限らないからだ。
「先程船乗りの方にお聞きしましたら、航海は順調のようですわ。‥‥早く故郷に戻してあげませんと」
シャクリローゼは甲板を見下ろす。
「ユグドラシルはドレスタットより、ちょいと遠くのようや。ほんまギリギリの日程やなあ」
イグドラシル遺跡はユグドラシル遺跡とも呼ばれている。ルイーゼは航路地図ですでに位置を確認してあった。
「集落の人達も被害者やと思う。‥‥そしてゴーゴンもやね。ワーシャーク夫婦はようわからん部分も残っとるけど‥‥こないな状況はやりきれへんわ」
「そうですわ。憎しみが繰り返すのは悲しいてすもの」
ルイーゼとシャクリローゼは強風に飛ばされそうになりながらも、船首が指す海原を見つめるのであった。
九日目の昼前、移送班と木箱を乗せた帆船は海岸近くで碇泊する。
イグドラシル遺跡は湖に浮かぶ島にある。湖は非常に海へ近い位置にあり、海辺の砂丘にゴーゴンを降ろせば問題はないと判断された。
ルイーゼとシャクリローゼは周辺を飛び回り、近くに人家がないのを確認する。海から森もよく見えた。
商人がエルフの女性ノームと雑談した時、ゴーゴンを森奥の洞窟で見かけたといっていた。まさか運んだ木箱の中にそのゴーゴンが入っていたとは、当時考えもしなかったそうだ。
「それではかけますね」
オグマはシャクリローゼからコカトリスの瞳を受け取り、中の液体を石化しているゴーゴンに振りかける。そしてすぐにその場から逃げだした。
視線を合わせても石化しない高度からシャクリローゼとルイーゼはゴーゴンを見守る。
石化が解け、しばらく戸惑っていたゴーゴンだが、知った土地だと気づいたようで一目散に森と向かい始める。
「もう捕まるんやないでぇ〜」
「平和に暮らすのが一番ですわ〜」
ルイーゼとシャクリローゼが青空の元で大きく手を振って見送った。
「よかったです」
オグマは船乗りが櫂で漕ぐ小舟の上から去ってゆくゴーゴンを見つめるのだった。
帆船はドレスタットへ寄港するものの、すぐにパリへの帰路につく。
航海は順調で、十三日目の夕方にはパリの地を再び踏んだ移送班であった。
●オーガ族との攻防
「これも預けるね」
「アーレ坊は魔法攻撃に集中。後は任せな」
アーレアンは出発前に購入してきたソルフの実の諫早似鳥に渡した。回復薬の代金と合わせて、これで今回の予算はすべてなくなる。
「ここは心を鬼にして‥‥」
覚悟を決めていた壬護蒼樹の背中をアーレアンが軽く叩く。
「まずは集落の人達が戻れるようにしよう。そこから何とかしていこうぜ」
「そうですね」
アーレアンに壬護蒼樹が頷いた。
「背中合わせで魔法を使うでいいかな?」
「そうしましょう」
アーレアンはファイヤーボム、リーマはグラビティーキャノンを、迫り来るであろうオーガ族に叩き込む役目である。
「露払いは任せろ。蒼兄ちゃんと俺のコンビにな」
「お願いするね。俺もがんばるぜ」
春日龍樹とアーレアンは握手を交わす。
諫早似鳥が操る空飛ぶ絨毯にアーレアンとリーマは乗り込んだ。壬護蒼樹は自前のベゾム、春日龍樹は空飛ぶ絨毯を借り受ける。
三つの影が早朝の空を舞い、一気にオーガ族が占領するもう一つの集落跡まで侵入した。
「今だ!」
建物の屋根スレスレに空飛ぶ絨毯を浮かばせて、諫早似鳥が号令をかける。
「弾けろ!」
アーレアンがファイヤーボムを唱え、火球をオーガ族に叩き込んだ。
「ここはあなた達がいるべき場所ではありません」
リーマはオーガ族を引きつけた上で、レミエラで扇状にしたグラビティーキャノンを放つ。
出来うる限りオーガ族に脅威を与えるべく強力な魔法が選択される。当然魔力の消費も激しいが、諫早似鳥がソルフの実を二人の口に運んでフォローしてくれた。
不意をつかれたオーガ族は混乱するが即座に反撃を始めた。空飛ぶ絨毯に向かって槍が投擲される。
「敵はこっちです!」
壬護蒼樹が大錫杖を大きく振り回してオーガを一匹吹き飛ばす。巻き込まれて何匹かも転倒した。さらに建物に登ろうとするオーガ族を払う。春日龍樹もまた日本刀でオーガ族と対峙する。
オーガ族の群れが輝く火球に巻き込まれ、転倒して地面に叩きつけられてゆく。
ゴブリンやオーガとその亜種やオークもいたが、混乱の最中では判別は難しい。
後に特徴をギルドで告げて正体がわかるのだが、このオーガ族のリーダーはオークロードであった。
オーガ族が集まり過ぎるのを防ぐ為、諫早似鳥は他の建物の上へと空飛ぶ絨毯を移動させる。その際、春日龍樹と壬護蒼樹からオーガ族が離れるように、より目立つような動きをしてみせた。
移動と魔法攻撃の繰り返しは続く。
「あれがリーダーに違いないよ!」
戦槌を持つ長い牙を持ったオークロードを諫早似鳥が指さす。
アーレアンがファイヤーボムを三回撃ち込み、リーマがグラビティーキャノンで転倒させる。そして壬護蒼樹と春日龍樹が二人がかりでオークロードを仕留める。
(「あなた方のリーダーは倒されました。これ以上やるというのなら、もう手加減は致しません。すぐに退去するなら見逃しましょう。選びなさい」)
かねてからの作戦により、リーマがサブリーダーのオーガ族に対してテレパシーで退去勧告を行う。
オーガ族の一部が吠え始めた。リーマによればオーガ族同士で意見が分かれて揉めているらしい。
約60匹と思われるオーガ族は瀕死を含めれば半分にまで減っているはずだ。そして怪我をしていないオーガ族は一匹もいないと思われる。
アーレアンは威嚇として放てる最大のファイヤーボムを放つ。辺りが静まりかえり、吠えるオーガ族はいなくなった。
(「アーレアンさん‥‥」)
壬護蒼樹はアーレアンが奥歯をかんで悲しそうな表情を浮かべたのを知る。
リーマのテレパシーによって伝えられた再度の勧告は受け入れられ、生き残りのオーガ族は群れごと森の外へと歩いてゆく。
最後にリーマがバイブレーションセンサーで森の中を探った。オーガ族が精霊の森に一匹もいなくなった事が確認される。
懲りない相手なので安心は禁物だが、排除が終わって対策班は肩の荷を降ろすのだった。
この時、ワーシャーク夫婦はクールネの休憩時間の隙をついて水に沈んだままの古代遺跡の最下層にいた。唯一の隠し通路を探し当て、その奥の小部屋にまで辿り着いていた。
●そして
移送班と対策班は十三日目の宵の口、冒険者ギルドで再会した。
クールネから預かってきたレミエラを有用なものに交換すると全員で分配する。
ギルドでの報告の後、全員で教会を訪れた。
すでに戻っていた集落の長から陳情の結果が説明される。集落を検分をした上で判断がされるという。一人の役人がやってくるようだ。
冒険者側からも報告がされた。
反応は様々であったが、森に戻れる事がわかって多くの集落の人は喜び合うのだった。