舞踊の横笛 〜アーレアン〜

■シリーズシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:5 G 85 C

参加人数:5人

サポート参加人数:4人

冒険期間:11月04日〜11月12日

リプレイ公開日:2008年11月12日

●オープニング

 冒険者ギルドで依頼を出した帰り、青年ウィザードのアーレアンは王宮前広場に立ち寄った。その時のパリは収穫祭の真っ盛りである。
「来年はあの精霊の森の集落も、収穫祭で祝えるといいんだが」
 アーレアンはベンチに座って買ったばかりのリンゴをかじる。
 ギルドで出した依頼は救援物資の搬入を主にした内容であった。
 アーレアンもいくらかの品を集落の人々に届けたいと考えていたし、湖の精霊フィディエルのクールネも、前回の分に加えて30Gをさらに使っていいと連絡をくれた。
 クールネから預かった金製品を換金して、あとは参加してくれる仲間を待つのみであった。
 順調にも感じられるが、アーレアンの心に大きな不安は残っている。
 ワーシャーク夫婦が古代遺跡から手に入れた『舞踊の横笛』は精霊を陽気にさせる能力がある。つまりはまったくの無防備にしてしまう。
 アーレアン自身は目撃していないが、クールネさえ抵抗出来ずに操られてしまったようだ。
 何かのタイミングを計っているようで、ワーシャーク夫婦が精霊を襲うのはすぐにではないだろう。ただ、遠い日でもなさそうである。
 それと謎のエルフの女性『ノーム』の存在も不気味であった。今は元のイグドラシル遺跡周辺に戻ったゴーゴンをワーシャーク夫婦と共に精霊の森へ運んできたのがノームという女性らしい。どうやら偽名のようで、はっきりとした素性はわかっていなかった。
「注意は必要だよな‥‥」
 アーレアンは賑やかな収穫祭の様子をしばらく眺め続けるのだった。

●今回の参加者

 ea2762 シャクリローゼ・ライラ(28歳・♀・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea7900 諫早 似鳥(38歳・♀・忍者・パラ・ジャパン)
 ea7929 ルイーゼ・コゥ(37歳・♀・ウィザード・シフール・ノルマン王国)
 ea8341 壬護 蒼樹(32歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ec4801 リーマ・アベツ(34歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)

●サポート参加者

クリミナ・ロッソ(ea1999)/ ナオミ・ファラーノ(ea7372)/ アニエス・グラン・クリュ(eb2949)/ セレスト・グラン・クリュ(eb3537

●リプレイ本文

●パリでの準備
 一日目の早朝、集まった冒険者達はさっそく行動を開始する。まずは集落に届ける物資を集めなければならなかった。
 クールネからの資金30Gの他に、以前から援助に奔走していた冒険者もいた。それらも出来るだけ運ぶつもりの一行であった。
 冒険者の多くはひとまずギルドを訪れる。
「ハンス、この間の寄付助かったよ。集落の人も喜んでいた。ところでさ、首にならない程度で教えてもらいたい事が――」
 諫早似鳥(ea7900)はギルド員青年ハンスの耳元で訊ねる。濃い化粧や仮面で素顔を隠したエルフ女性がギルドに冒険者として登録していないかを。
 ハンスが調べたところ、それらしい記録は発見されない。但し、仮面をつけたエルフ女性がギルド内で彷徨いていた様子は何度か見かけられていた。
「ゾフィーさん、助かりました。これからみんなと集落へ届ける品物を買いにいってきます」
 壬護蒼樹(ea8341)は受付のゾフィー嬢からリンゴ大食い大会の時に預けてあった寄付金を返してもらった。
 タダ割り符代わりの食料もレストランジョワーズで受け取る予定である。ブタ飼育出資分の大量のソーセージも運ぶので、四つ葉のクローバー店にも立ち寄らなくてはならない。
「そりゃ、すぐにでもいかんといけまへんなぁ〜。ゾフィーはん、ありがとうな」
 ルイーゼ・コゥ(ea7929)は教会司祭の伝言をゾフィーから受け取った。いくらかの衣服の寄付があったので教会へ取りに来て欲しいという内容である。
「ルイーゼさん、わたしも同行します」
 教会にはリーマ・アベツ(ec4801)も同行する。空飛ぶ絨毯を使えばかなりの量でも運べるはずであった。ロバのドンちゃんの背中分も合わせれば大丈夫であろう。
 ルイーゼとリーマとは別の教会を訪ねている冒険者もいた。
 セレストとクリミナは古着などの寄付を頼みにパリ中を巡る。加えて、もしも石化の解除を頼む怪しい人物を見かけたのならギルドのハンスに連絡して欲しいとの言葉も残す。
「パリも大分寒くなってきましたわ」
 シャクリローゼ・ライラ(ea2762)は鷹のクリンとフェアリーのフィーネルと一緒に馬車の留守番をしていた。
 行き交う人々の多くは厚着をしている。集落の人々も大変だと心の中で呟くシャクリローゼである。
 シャクリローゼは馬や牛の石化を解く為にコカトリスの瞳を八個提供するつもりでいた。
 壬護蒼樹が二個、アーレアンもいくらか手に入れたようなので、計十二体の家畜を元に戻せる。仲間も精霊達と接触している間、馬やロバなどを貸すつもりのようだ。
「大きめの馬車を借りといてよかったぜ」
「おじさま達に感謝しないと‥‥」
 アーレアンとアニエスは一緒に大きな木箱を馬車に運び入れる。シャシムとバムハットが提供してくれた皮革が詰められた木箱だ。全部で五箱。薫製肉が入った木箱もあった。
 ギルドでの用事が終わると、馬車は必要な物資を手に入れる為にパリ中を駆けめぐる。
 ナオミのおかげで釘が安く仕入れられた。市場ではルイーゼが少しでも物資を多く買えるように値切ってくれる。
 暮れなずむ頃、馬車やペットの背中にたくさんの物資を積んだ冒険者一行はパリを出発した。空飛ぶ絨毯やベゾムも活用される。
「どうしてもっていうのなら、それでもいいけどさ」
「う、うん、ありがとう諫早さん。助かるよ。森だと範囲が大きすぎると被害があるかも知れないし‥‥」
 道中にアーレアンは諫早似鳥からファイヤーボム制御のレミエラ付き手袋を贈られるのだが、気恥ずかしくなって借りる形にした。
 女性からのプレゼントだと、どうにも耐性がないアーレアンだ。深い意味がなくても、条件反射的に無理らしい。
 昔、アーレアンは姉にあげるプレゼントを買うのにも躊躇した事があった。女性に贈るのも贈られるのも非常に苦手のアーレアンであった。

●精霊の森
 三日目の昼過ぎ、冒険者一行は精霊の森に到着した。
 まずは復興中の集落に出向く。
「こんなにもたくさん‥‥。これだけあれば今年の冬はまず大丈夫。飢えはしないはず‥‥」
 集落の長が物資を見て涙ぐむ。その中にはリーマからの大量の保存食や、壬護蒼樹の豆も含まれていた。
「いきますわよ〜♪」
「はい。準備は出来ています」
 シャクリローゼがコカトリスの瞳を使って、石化している牛や馬を元に戻していった。壬護蒼樹とアーレアンは元に戻った動物が倒れないように左右で構える。
「うちは東側を飛んでくるで〜」
「それでは西側半分を」
 ルイーゼとリーマは空から森の偵察を行ってくれた。ワーシャーク夫婦や謎のエルフ女性が森の精霊を狙っているのは間違いないからだ。
 今日までは物資の受け渡しも含めて集落の人々に時間を費やす。だが明日からは精霊の為に過ごすつもりの冒険者達であった。
「精霊さんを嫌っとる人が居るのって悲しいなぁ‥‥」
 ルイーゼは森の上空を飛びながら呟いた。
(「私達がいない間はどうでしたか?」)
 リーマは空で会ったフェアリーとテレパシーで会話をする。
 依頼書にあった通り、精霊達は舞踊の横笛の効果について不安を抱えているようである。
 リーマは実験として森に到着する前に諫早似鳥の魔力が込められた横笛をストーンで石化してみた。石化されたままではダメだが、アーレアンが提供してくれたコカトリスの瞳で解呪したら魔法的効果も含めて元通りに復元する。
 舞踊の横笛にも同じ事がいえるのかはわからないが、一つの指針にはなり得た。
 夜、冒険者達は集落の長の仮住まいで相談をする。
「この集落もトバッチリを喰らうかも知れないんだよね」
 諫早似鳥は以前のワーシャーク夫婦の発言から危険を感じ取っていた。仲間達も同意見である。
 困窮した生活にも関わらず、大人達に活動するなというのは酷な話だ。
 そこでもしも笛の音が聞こえたのなら、反対の方角か集落に戻るように指示を出して欲しいと頼んだ。長は集落の人々に言い含めると約束してくれた。
 女子供に関しては当分の間、集落から出るのは禁止される。
 廃墟となったもう一つの集落跡を花畑にする諫早似鳥の案も受け入れられた。こちらこそと逆に長から強くお願いされるのであった。

●不安
 四日目の朝、冒険者達は森の湖で精霊達と話し合う。
 かなりの不安が渦巻いているようで、フェアリー達が以前より騒がしい。何度かクールネとキリオートが諌める場面もあった。
 ワーシャーク夫婦と冒険者から聞いているエルフ女性についてはクールネとキリオートも気にしていた。
 冒険者達から作戦を聞いてクルーネは承諾する。
 廃墟となった集落跡を拠点とし、ワーシャーク夫婦をおびき寄せる作戦だ。その際、囮としてクルーネには湖から離れて集落跡に滞在してもらう事になる。
 果たして精霊を狙った襲来があるのかどうかは定かではない。ただ、嫌な雰囲気が森に漂っているのは確かであった。
「お願い出来ますかしら? クールネ様」
「もちろんです。気にかけてくださって森の植物達もきっと喜んでいます」
 シャクリローゼは森の火災を心配し、もしもの時は早めの消火をクルーネに頼んだ。
「話せる機会、あらへんもんやろか?」
 ルイーゼは敵から情報を引きだせないものかとアーレアンに相談する。襲ってくる相手に悠長な真似はしていられないが、問いかけるぐらいはしてみるとアーレアンは約束した。
 昼には廃墟の集落跡に辿り着く。
 ただぼんやりと敵の襲来を待つ訳ではなく、一行は悲惨な状況の改善に努める。
 まずは石化されて破壊された人々の破片と、オーガ族の死体を集める作業を始めた。空飛ぶ絨毯などのアイテムが活用される。
 事が終われば石化された人々は埋葬し、オーガ族の死体は燃やす予定であった。。
 寒さのせいでオーガ族の死体の腐敗はそれほど進んでいなかったものの、やはり臭いはきつい。このままにしておけば、いずれ病気の原因となるのは明らかだった。
 穴を掘る作業も順次行われた。
 空からの監視も忘れないようにし、警戒を怠らないまま時間は過ぎてゆく。
 集落跡の中央では絶えず焚き火が行われた。煙をわざと多く出して目立つようにするのは、敵の目を引きつける為だ。
 廃材はたくさんあるので、それらを利用する。
 冒険者達の考えは当たっていた。
 ワーシャーク夫婦とエルフ女性が狙っていたのは、森で一番の上位精霊にあたるクールネ。
 クールネを狙う為に古代遺跡内に侵入する三人であった。

●襲撃
 五日目の小雨が降る夜、森に笛の音が響き渡る。
 誰の悪戯でもないその音色は舞踊の横笛が奏でるものだ。
 冒険者達が拠点とする場所のすぐからである。
 その時、シャクリローゼは鷹のクリンと共に夜空を飛んでいた。すぐさま呼子笛を吹いてみたものの、フェアリー・フィーネルの踊りだした様子を見て諦める。少々の音で邪魔する事は難しいようだ。
 ちなみにシャクリローゼが覚えている範囲のパッシブセンサーは本人のみにしかかけられないものである。
 シャクリローゼは急いでその場を離れた。フィーネルが正気に戻ったのは拠点上空から約二百メートル程離れた位置であった。
 シャクリローゼはフィーネルに自らスリープをかけさせて眠らせると、仲間の元にかけつける。
 戦いはすでに始まっていた。
 諫早似鳥の鷹・真砂の鳴き声が響き渡る。
「こっちや!」
 ルイーゼがライトの魔法で出した光球を抱えて一直線に飛ぶ。鷹の鳴き声のおかげでより笛の音色がどちらから流れてくるのかがわかった。推測すると集落跡を取り囲む森の浅い場所にいるようだ。
「来い!」
 諫早似鳥は愛犬の小紋太を連れて集落跡の残骸を避けながらルイーゼを追う。
「大丈夫ですか?」
「ええ、まだなんとか‥‥」
 壬護蒼樹は屋根が壊れた小屋の中にいるクールネから離れずに守っていた。アーレアンも側を離れずに待機する。
「クールネ様を必ず狙うはずですわ」
 シャクリローゼは小屋から離れた周囲にライトの光球を配置する作業を続けていた。一方的に目視される状況はあまりに不利だからである。焚き火の照りに加えてよりはっきりと周囲の状況が浮かび上がった。
 小屋の周囲には障害物があり、魔法の初撃がクールネに命中する事はまずあり得ない。
「笛の効果がここまでとは‥‥」
 リーマは空飛ぶ絨毯で小屋上空から地上を監視していた。
 灯りに照らされたフェアリー達の影が伸びて大きく大地に浮かび上がる。陽気に踊っているフェアリーの様子が空から見て取れた。
「ギーノが土の中に潜りおったで! 危険や、すぐに飛び立つんや!!」
 薄暗い集落跡を飛翔するルイーゼが小屋に近づきながら叫んだ。
「僕がやります」
 壬護蒼樹はすぐにベゾムを発動させる。そしてクールネを後ろに乗せて飛び立とうとした。
「壬護さん、早く!!」
 地面から伸びた手をアーレアンが蹴飛ばす。クールネの足首を握られそうになったものの、壬護蒼樹はベゾムで飛び立つのに成功した。
「クールネさん、し、静かにお願いしますー」
 クールネがついに笛の魔力に抵抗しきれず歌い始める。壬護蒼樹は必死にベゾムの姿勢を制御した。
「壬護さん! もう少しです! ゆっくりと」
 リーマが空飛ぶ絨毯でベゾムの二人を掬うように上へと乗せた。足場が用意されて壬護蒼樹とクールネは落下せずに済んだ。
「大丈夫のようやな」
 ルイーゼはクールネの安全を確認すると諫早似鳥の加勢に戻ってゆく。
「憎むなら子供を殺した奴らを憎めよ!! 同じ精霊だからっていって、一緒くたにするのはおかしいだろ!!」
 アーレアンは地面の下にいるはずのギーノに向かって叫んだ。しかし返事は返ってこなかった。
「そこですわ!」
 シャクリローゼはレミエラの力を得てサンレーザーを地上に露出したギーノへ落とした。続いてアーレアンも範囲を縮小したファイヤーボムを放ってギーノを燃やす。
 その時、聞こえていた笛の音が止んだ。
「ここまで来たら理屈ではないのだ。もう止められない‥‥」
 ギーノは一言だけ残して、そのまま地面の中へと消えた。
 しばらくして諫早似鳥とルイーゼが戻ってくる。犬の小紋太も一緒だ。
 戦いに巻き込まれたフェアリー達を薬で治療した後で、諫早似鳥が森の中での出来事を話し始める。
 舞踊の笛を吹いていたのはヒリーノだ。そのヒリーノを守っていたのが、噂ばかりが先行していた女性エルフのノームである。
 ノームは土の精霊魔法を得意としたウィザードであり、ギーノにアースダイブを付与したのも彼女だった。
 アースダイブの有効性は水泳能力に比例する。ワーシャークにとって、とても心強い魔法であろう。
「ずっと笑っていたよ。ノームって女はさ」
 諫早似鳥は眉をひそめる。目を血走らせたノームはあらん限りの魔法で邪魔をしてきたのだという。
 フォレストラビリンスで森を迷宮化し、ストーンウォールによって逃げ道を塞がれた。
 ルイーゼがサイレンスで音を遮断するとヒリーノは戸惑いを見せる。その隙をついて諫早似鳥が投げた手裏剣が当たり、横笛の演奏が途切れた。
 するとノームとヒリーノは即座に撤退したという。祠のどれかに入って逃げたようである。
「一つ、わかった事がある。あの横笛、一度途切れると魔力が込められた演奏はしばらく使えないようだね。付け入る隙があれば、この辺りか‥‥」
 諫早似鳥はクールネの目を見つめながら話し続けた。
「うちらが出来る事、一つ一つ頑張ってやるしかなんやな‥‥。ありがとな、アーレアンはん」
 ルイーゼはアーレアンから聞いたギーノの言葉の意味を深く考え続けるのだった。

●そして
 六日目、冒険者達はオーガ族の死体の山を焼いた。そして破壊された石化した人々を埋葬する。
 廃墟の集落跡を耕す時間は残っていなかった。それに今から種を蒔くと鳥に食べられてしまいそうである。
 花畑については集落の人々に任せる事にした。種も保管してもらう。
「種の花の種類? この簪と同じ‥‥勿忘草、だよ」
 仲間に訊ねられた諫早似鳥が答えた。
 アーレアンは廃墟の集落跡を見渡す。春に花で覆われている景色を思い浮かべながら。

 七日目の夕方、冒険者達はパリへの帰路についた。
 そして八日目の夕方には到着する。
 冒険者ギルドで報告をし、クールネからのレミエラを使えるものと交換して今回の依頼は終了となる。
「諦めていない‥‥だろうね。ワーシャーク夫婦とノームは」
 別れ際、アーレアンがふと呟くのだった。