ヴェルナー 〜シルヴァン〜

■シリーズシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:7 G 20 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月25日〜11月05日

リプレイ公開日:2009年11月02日

●オープニング

 パリ北西に位置するヴェルナー領は、ブランシュ騎士団黒分隊長ラルフ・ヴェルナーの領地である。
 その領内の森深い場所に、煙が立ち昇る村があった。
 村の名前は『タマハガネ』。
 鍛冶職人の村である。
 鍛冶といっても他と赴きが違う。ジャパン豊後の流れを汲む作刀鍛冶集団であった。
 村の中心となる人物の名はシルヴァン・ドラノエ。ドワーフである彼はジャパンでの刀鍛冶修行の後、ラルフの懇意により村を一つ与えられた。
 ジャパンでの修行後期に作られた何振りかの刀が帰国以前にノルマン王国へ輸入され、王宮内ですでに名声が高まっていたのだ。
 ジャパンから連れてきた刀吉と鍔九郎、そして新たに集められた鍛冶職人によって炎との格闘の日々が続いていた。


「無理をなさらずともお任せを」
「そうです。必ず届けますので」
 タマハガネ村の家屋から刀吉と鍔九郎の声が外へと洩れる。寝床から身体を起こそうとするシルヴァンを二人は止めようとしていた。
「いや、俺が向かう。ヴェルナーエペ・真打だけは何としてでも、この手でラルフ殿に渡さなくてはならないのだ!」
 立ち上がったシルヴァンだが、ふらついて倒れかかる。刀吉と鍔九郎が支えてゆっくりと床の上に座らされた。
「‥‥わかりました」
 鍔九郎の言葉に脂汗をかくシルヴァンが頷いた。安心したのか、まるで気絶するようにシルヴァンは眠りに就く。
 純ブラン製のヴェルナーエペ・真打はラルフ・ヴェルナー卿の為に打たれたもの。そのラルフ卿は今、アガリアレプトの地獄階層でデビルと戦っていた。ラルフ卿の元へ直接届けるというのは地獄階層に向かうのと同義である。
「我々だけでは不意の事態に対処しきれないかも知れないな‥‥。遠回りになるが、まずパリに立ち寄って冒険者を雇ってからにしようか?」
 刀吉の意見に鍔九郎も賛成してくれた。
 翌朝、三人を乗せた馬車がタマハガネ村を出発する。横になるシルヴァンの胸には布に包まれたヴェルナーエペ・真打が抱かれていた。

●今回の参加者

 ea7372 ナオミ・ファラーノ(33歳・♀・ウィザード・ドワーフ・ノルマン王国)
 eb2927 朧 虚焔(40歳・♂・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb3227 フレイ・フォーゲル(31歳・♂・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 eb5734 ニセ・アンリィ(34歳・♂・ファイター・ドワーフ・モンゴル王国)
 eb7692 クァイ・エーフォメンス(30歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ec2965 ヴィルジール・オベール(34歳・♂・ファイター・ドワーフ・ノルマン王国)
 ec4355 春日 龍樹(26歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)

●リプレイ本文

●出発
「すまぬ。これは俺の我が侭だ。しかし‥‥、どうしてもこの手でラルフ様に届けたいのだ。力を貸して欲しい」
 場所はパリの宿。馬車用の車庫前でシルヴァンは左腕で鍔九郎の肩に掴まりながら冒険者達に頭を下げる。右の手には布袋に包まれたヴェルナーエペ・真打がしっかりと握られていた。
「シルヴァン殿がそれほどの決意と共に、自ら真打をお渡ししたいと申されるなら最早何も言いませぬ。このヴィルジール、命をかけて協力させていただきますわぃ!」
 近づいてヴィルジール・オベール(ec2965)はシルヴァンの手を握りしめる。
(「シルヴァン殿‥‥今までの恩義に報いる為に手助けしよう」)
 無茶はしてもらいたくないと思いながら、しかしシルヴァンの気持ちもよくわかる春日龍樹(ec4355)である。今はただ何もいわずに力を貸す事にした。
「私がお世話します。何かあったときにはお手伝いをお願いします」
 そう鍔九郎に話しかけたクァイ・エーフォメンス(eb7692)は、シルヴァンを馬車の中へと導いて座らせる。連れてきた愛馬は刀吉に馬車へ繋げてもらう。よく考えれば愛馬へ跨り馬車と併走しながらシルヴァンの世話が出来るはずもないからだ。
「シルヴァンさんをはじめ、多くの人たちの思いの篭ったこの剣、なんとしても無事送り届けなくてはなりませんね」
 朧虚焔(eb2927)はそう仲間達に呟いてから馬車へ乗り込んだ。
「ニセさんの顔を見て思いだした。先に渡しておこう」
 シルヴァンはニセ・アンリィ(eb5734)に頷くと、刀吉にいって長い木箱を持って来させる。そしてこれまでの材料代と引き替えに『青龍偃月刀「月虹」+3』を手渡す。
「シルヴァン殿、確かに受け取ったズラ‥‥」
 ニセは目頭を熱くしながらシルヴァンとの友情を果たそうと心の中で誓う。
「ナオミさんのはこちらだ。あらためて確かめて欲しい」
 シルヴァンがナオミ・ファラーノ(ea7372)に手渡したのは『戦斧「パーガトリアル」+1デビルスレイヤー』である。長さが少々短くなったのはバランスの再調整の為だ。
「ありがとう、シルヴァンさん」
 材料費を納めながらナオミは依頼を受けたときの覚悟を再確認する。シルヴァンとヴェルナーエペ・真打に何かがあった時には身を挺しても助けようと。
「朧さん、渡しましたぞ」
「確かに。一緒にヴェルナー黒分隊長に真打を送り届けましょう」
 朧虚焔も材料費と引き替えに自らが打ちあげた武器を受け取る。銘は『北斗七星剣・虚焔+2デビルスレイヤー』。波打つ刃を持つ剣である。
「それではヴィルジールさんにも」
「この旅の護衛役として、敵が襲ってくるなら剣をとりましょうぞ」
 ヴィルジールは重い硬貨入りの革袋をシルヴァンに渡し、『野太刀「陽皇」+3』を受け取った。
 馬車の後部では鍔九郎がフレイに話しかけている。
「こちらが約束したフレイの護符によって焼き入れをした俺の打った日本刀だ。この旅でアンデッドが出たのなら使ってみるつもりだ」
 鍔九郎はわずかに鞘から抜いてフレイ・フォーゲル(eb3227)に刀身を見せる。
「フレイの護符での初めてのアンデッドスレイヤーですな。うまくいけれはよいのですぞ」
 馬車内は狭いので野営の時にでもゆっくりと見せてもらうつもりのフレイである。ちなみにリュミエール図書館への調査依頼金は鍔九郎に手渡された。この旅が終わってから届けられる予定だ。
 一行は刀吉が御者をする馬車でヴェルナー領のヘルズゲートの砦『ファニアール』に向けて出発する。
 砦に到着したのは二日目の夕方。エフォール副長の計らいで地上側の砦で一晩を過ごし、翌朝にヘルズゲートを潜り抜けてアガリアレプトの地獄階層へと足を踏み入れた。
 すでに移動用のグリフォンは用意されていた。
 交代の為に最前線の駐屯地に向かう隊員達と共に霧深い赤い地獄の空へ離陸する一行であった。

●地獄の空
 それぞれに討伐隊・隊員のグリフォンに相乗りさせてもらったのはシルヴァン、ナオミ、朧虚焔、フレイ、ニセ、クァイ、ヴィルジールの七名である。
 刀吉と鍔九郎は手こずりながらも借りたグリフォンを単独で操っていた。
 巨漢の春日龍樹は二頭のグリフォンから吊り下げられた木箱に入っての移動となる。その二頭には体重の軽い隊員が騎乗し、さらに荷物のほとんどは仲間に預けられた。
 シルヴァンの体調を考えて休憩が多くとられる予定なので、少々の過重量なら何とかなるはずである。
「注意深く行きましょうぞ」
 インフラビジョンを自らに付与していたフレイは霧の中でもある程度の遠くまでは見通せた。隊員達の武器に付与されたデビルサーチのレミエラ探知と合わせて探りながら飛行を続ける。まだ安全地帯だが島を中継して湖を横断した後からが危険だといわれていた。
「戦うときは地面に降りたほうがいいズラよ」
「そうね。いくら隊員の方々がグリフォンの扱いに達者でも、わたしたちが乗っていたら大変でしょうから」
 ニセが隊員の背中に掴まりながら隣を飛んでいるナオミに話しかける。
 クァイは乗せてくれている隊員に頼み、シルヴァンが乗るグリフォンへと近づいてもらう。
「汗が酷いようですが、休みましょうか?」
「まだ平気だ。決まった休憩があればそれで大丈夫」
 心配するクァイにシルヴァンが笑顔を見せた。しかし苦しいのに無理をしているのは誰の目にもあきらかであった。
 休憩時間となり、全員が地獄の地表へと着陸する。クァイが用意してきた特製の料理を全員で頂いた。
「見かけも手触りも、大きさに対する重さすらも似ているというのに打ってみたら微妙に感触の違う鋼もありますしのぅ。どうやら直接触るよりも、鎚を握っていた方が感覚も鋭くなる様子。根っからの鍛冶師だとも思う瞬間ですわぃ」
「俺にも経験がある。不思議なものだな」
 休憩の間、ヴィルジールはシルヴァンの気が紛れるように鍛冶についてを話題にした。
 刀吉によればタマハガネ村出発当初よりもシルヴァンの容態はよくなっているらしい。以前はよろけて転んでいたのだが、今は短い距離なら自分の足で歩いてゆける。パリの医者に診てもらったところ、肉体よりも精神的な疲労が溜まっているようだ。
(「こういう休憩の時こそ、デビルが寄ってきそうね‥‥」)
 ナオミは気を抜いている休憩中こそ危ないと考えて警戒を怠らなかった。
「しばらくの間、がんばってくれよ。これから先に湖もあるようだしな。飛行アイテムでは渡れない程深いらしいのでお前達が頼りだ」
 春日龍樹は自分を吊ってくれているグリフォン二頭の世話をする。少しは知識があるものの、本格的になるとわからないので隊員が教えてくれた通りの手順をなぞっていった。
「この岩は見かけ通りのものなのでしょうか‥‥」
 地獄を訪れる機会はそうはないはずと朧虚焔は休憩の間に周辺の土や石を拾い、岩を削って手元に残す。鍛冶に使える鉱物がないか後で調べる為だ。
 休憩を何度か繰り返し、湖を渡る段階となる。島まで何もないので着陸しての休憩は不可能。しかもグリフォンの航続距離に余裕はなかった。
 真っ赤な霧に包まれた空もやがて闇に包まれて視界が悪くなる。頼りになるのはフレイのインフラビジョンだ。かすかに見える島の駐屯地から洩れる灯りを目指してひたすら飛び続けた。
 宵の口というには遅い時間に一行は湖に浮かぶ島の討伐隊・駐屯地に着陸する。
 その晩、シルヴァンの体調が悪化してクァイが寝ずの看病を覚悟した。刀吉に鍔九郎、冒険者達も交代を申し出たがクァイは丁寧に断る。疲れるのは自分だけでいいと。
 やがて四日目の朝が訪れた。
 身体を休めてからと周囲の声もあったが、ヴェルナーエペ・真打をラルフに届けてからそうするとシルヴァンは譲らなかった。
 シルヴァンに押し切られた一行は、予定通りに島の駐屯地をグリフォンで離陸する。島は湖の中間の位置にあり、渡りきるのにやはりかなりの時間を要した。
 約三時間半後、ようやくヘルズゲート駐屯地と逆側にある湖の畔へ辿り着く。しかしここでシルヴァンは昏睡状態に陥った。
 島に戻るかどうか一行に迷いが生じたが、シルヴァンの弟子である刀吉と鍔九郎が代理として決断を下した。何があっても師匠シルヴァンをヴェルナーエペ・真打と共に最前線の討伐隊駐屯地へ送り届けるべきだと。
 とはいえ今の状況で先に進めるはずもなく、その日は湖畔で一晩を明かす事となる。アガリアレプトの地獄階層において初めての野営だ。
 シルヴァンと看病のクァイを除く一行は話し合って多人数での見張りを行う。しかしこのような好機をデビル側が見逃すはずもなかった。

●襲撃
 闇に羽ばたく翼。
 舞い降りるのは湖畔で輝いている焚き火を囲む野営の地。
 真っ先に気がついた見張りのフレイが声をあげて一行を起こす。そして間髪を入れず放ったのはファイヤーボムである。
 闇夜に真っ赤な火球が炸裂し、一瞬だけ周囲が昼間のように明るくなる。インプかグレムリンの悲鳴が響き渡った。
 テントから飛びだしたナオミはフレイに続いてファイヤーボムを上空に放つ。霧が四散する中、爪を立てたデビルが急降下を開始する。
 グレムリンの体当たりを盾で受けきったのは朧虚焔。
 狙っていたヴィルジールが『ラ・フレーメ+2』をグレムリンに勢いよく振り下ろす。『野太刀「陽皇」+3』も所持していたものの、託す相手は決まっているので振るうつもりはなかった。
 一方、朧虚焔は『北斗七星剣・虚焔+2デビルスレイヤー』でデビルを斬り裂いてゆく。焚き火の灯りが反射して波打つ刀身がより赤く輝いた。
 春日龍樹は刀吉と共にシルヴァンが休むテントを囲むように待機する。中には看病を続けるクァイもいた。時折クァイと言葉を交わして互いの状況を伝えあう。
 刀吉が握る刀に付与されたレミエラのデビルサーチが反応して光点が点滅する。透明化したデビルが近づいていると気づいた春日龍樹はわざと両手を広げて周囲を走り回った。そして左腕にかすかに感じたのを信じ、何もない空間に『大太刀「白華」+1デビルスレイヤー』を振り下ろすと手応えがあった。
 まもなく姿を現したのはインプ。ナオミのバーニングソードで威力を増していた白華がインプの右の肩口に深く食い込んでいた。
 討伐隊の隊員の何人かはグリフォンに騎乗してデビルとの空中戦を繰り広げる。
 ニセはシルヴァンが休むテントからそれほど離れていない場所で隊員達と方陣を組んで戦っていた。
 手にしていたのは『ドヴァーリンの鎚+1』と『氷晶の小盾』。今は隊員達との連携が必要と感じたので長い柄の『青龍偃月刀「月虹」+3』は使わなかった。
 戦う誰もが優勢を感じ始めた頃、湖から何かが次々と這い上がってくる。
 それは腐った死体、ズゥンビであった。
 さらにシルヴァンの休むテントを中心にしてズゥンビ出現の反対方向から真っ赤な炎が近づいてきた。地獄のかまどを預かるといわれるデビル・グザファンである。
 アンデッドスレイヤーを手にする鍔九郎がズゥンビは任せろと叫んだ。補助としてフレイも湖方面へ駆けてゆく。
 グザファンがテントの前で立ちふさがるナオミに対し、魔法のふいごから炎の塊を飛ばす。二発目の炎の塊には春日龍樹がわざとぶつかる。
 グザファンはいやらしい笑い声を発しながら、ふいごから炎の塊を飛ばし続けた。
 インプやグレムリンの始末を隊員達に任せた朧虚焔とヴィルジールは、グザファンへと駆け寄った。素早いグザファンだが動きに単調さがある。そこを突いて追いつめてゆく。
 朧虚焔の一太刀が決まれば、後は追い込むのは容易い。ヴィルジールも背後から剣を振るい、グザファンの腕を叩き落とす。
 地上ならばそれほどでもない下級デビルの攻撃も地獄階層ではかなり違う。戦いの途中でもポーションなどで傷を癒さねばならなかった。
 やがて戦いは終わる。逃がしたデビルはわずかである。
 一行は気を引き締めて引き続き警戒にあたった。
 朝にはシルヴァンの体調も持ちなおす。一行はグリフォンに乗って地獄の旅を続行する。
 ラルフ卿がいる最前線の駐屯地に到着したのは、五日目の昼前であった。

●ヴェルナーエペ・真打
 最前線の駐屯地に訪れたシルヴァン一行は、さっそくラルフ卿の元へ案内される。
「シルヴァン殿、体調が優れぬと聞いたが大丈夫か」
 地獄の木材で造られた簡易の執務室内でシルヴァンはラルフ卿と久しぶりの再会を果たす。足を震えさせながらもシルヴァンは一人で立っていた。
「平気だと‥‥いいたいところですが、みなさんに多大な迷惑をかけてしまった。しかしどうしてもこの真打をラルフ様に直接お渡ししたく、地獄の底までやって参りました」
 シルヴァンは抱えていた布袋をラルフ卿に手渡した。
 ラルフ卿はさっそく刀を取りだす。
 これこそがデビルを滅する為の刀『ヴェルナーエペ・真打』である。デビルスレイヤーであり、純粋な魔法金属ブランに相応しい威力も宿していた。
「明日にはこの地獄階層にそびえる山脈に向かわねばならない。この刀、持っていかせてもらうぞ」
 ラルフ卿の言葉にシルヴァンが涙を一粒零す。次の瞬間、膝をついて床へ倒れてしまった。
 シルヴァンは昏酔してしまう。目覚めたのはラルフ卿が山脈の調査に向かった後であった。

●そして
 十一日目の夕方、一行は城塞門を潜り抜けてパリの地を踏んだ。
 体調がよくなるまでシルヴァンは刀吉と共にパリへ留まるという。
 鍔九郎はポーム町経由で一旦タマハガネ村まで戻る。フレイの護符によるアンデッドスレイヤーの効果が確かめられたので、討伐隊に納める武器を用意する為だ。
 別れ際、自分達に深く感謝するシルヴァンの姿が心に残った冒険者達であった。