デビルへの不安 〜シルヴァン〜

■シリーズシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 56 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:01月19日〜02月03日

リプレイ公開日:2009年01月27日

●オープニング

 パリ北西に位置するヴェルナー領は、ブランシュ騎士団黒分隊長ラルフ・ヴェルナーの領地である。
 その領内の森深い場所に、煙が立ち昇る村があった。
 村の名前は『タマハガネ』。
 鍛冶職人の村である。
 鍛冶といっても他と赴きが違う。ジャパン豊後の流れを汲む作刀鍛冶集団であった。
 村の中心となる人物の名はシルヴァン・ドラノエ。ドワーフである彼はジャパンでの刀鍛冶修行の後、ラルフの懇意により村を一つ与えられた。
 ジャパンでの修行後期に作られた何振りかの刀が帰国以前にノルマン王国へ輸入され、王宮内ですでに名声が高まっていたのだ。
 ジャパンから連れてきた刀吉と鍔九郎、そして新たに集められた鍛冶職人によって炎との格闘の日々が続いていた。
 ブランシュ騎士団黒分隊に納めるシルヴァンエペは完納に至る。現在はナギナタ型武器『クレセントグレイブ』の量産を行っていた。
 そして鍛冶師シルヴァンはシルヴァンエペに続く、新たな刀剣を模索中であった。


 シルヴァンはここしばらく深夜に焼き入れを行う生活を送っていた。
 精神を集中しやすいし、夜明け前の状態が真っ赤になった鋼を確認するのに適していたからだ。
 焼刃土で土置をして乾燥させたクレセントグレイブを炭で包み込むように熱し、冷水で一気に浸す。冷水の中で輝くハニエルの護符によってデビルスレイヤーの力が宿る瞬間である。
 精神を削ぎ落とす作業なので、短い時間に何度も出来るものではない。せいぜい二振りが限度であった。
 作業が終わると午前は睡眠をとって、午後からは職人達の指揮をとる。
 村人や冒険者によってブラン合金は潤沢に用意されている。鎚を振るう鍛冶職人、柄を作る職人の頑張りによってクレセントグレイブも次々と仕上がってゆく。
(「瘴気か‥‥」)
 シルヴァンは瘴気をまとったデビルの存在を心配していた。今までのように銀製や魔法武器というだけでは対抗出来ないからだ。
 村に配備した射撃車両ラ・ペのボルトへの付与としてオーラパワーが使える騎士が多く滞在しているのは幸いである。
 ある日、シルヴァンの命によって刀吉が馬車でパリへと出かける。いつものように鍛冶作業を手伝ってくれる冒険者をギルドで募集する為であった。

●今回の参加者

 ea7372 ナオミ・ファラーノ(33歳・♀・ウィザード・ドワーフ・ノルマン王国)
 ea9976 ユニバス・レイクス(31歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb2927 朧 虚焔(40歳・♂・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb3227 フレイ・フォーゲル(31歳・♂・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 eb5734 ニセ・アンリィ(34歳・♂・ファイター・ドワーフ・モンゴル王国)
 eb7692 クァイ・エーフォメンス(30歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ec2965 ヴィルジール・オベール(34歳・♂・ファイター・ドワーフ・ノルマン王国)
 ec4355 春日 龍樹(26歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)

●サポート参加者

アニエス・グラン・クリュ(eb2949)/ 桃代 龍牙(ec5385

●リプレイ本文

●相談
 森深き場所にあるタマハガネ村。
 道中何事もなく、刀吉が御者する馬車は二日目の夕方に村へ到着した。宵の口にシルヴァン、刀吉と鍔九郎が冒険者用の家屋を訪れる。
 クレセントグレイブの作刀については簡単に触れただけで終わらせたシルヴァンだ。集まってくれた冒険者達の熱心な仕事ぶりをよく知っていたからである。
「みなさんの刀剣相談を主にした方がよさそうだ。では、まず‥‥春日さんからお聞きしようか」
 シルヴァンが一番近くにいた春日龍樹(ec4355)に声をかけるが反応がない。鍔九郎が気を利かせてシルヴァンから見えないように春日龍樹を指先で突く。
「‥‥ん? お、俺からか。いや失礼」
 気がついた春日龍樹は胡座をいったん解いてシルヴァンに正面を向けた。
「シルヴァン殿、試作品をいろいろと打たせてもらっているが、正直迷っている。ジャイアント用の武器を打つつもりだが、もう少し工夫出来ないかと考えたり‥‥。簡単に思いつくものでもなく、腕が伴うのかもわからないのだが‥‥。道中も、今も、ずっと考えているのだが未だ答えは出ていない」
「迷いのあるうちは本番を打つのはやめておいた方がよい。休憩の時などは森の中を散歩したりするのもよいぞ」
 春日龍樹は自分の背中が丸まっていた事に気づく。背筋を伸ばしてからシルヴァンにさらなる相談をした。
 六角金属棍の試作についてである。シルヴァンは暗中模索の状態を脱出する為にも打つべきだと勧めた。
 春日龍樹の次はナオミ・ファラーノ(ea7372)がシルヴァンの前に座った。
「地獄の力を得た悪魔がこれで本当に逃げてくれるのか、少々不安なのだけど」
 ナオミはこれまで相談してきた棍の構造に触れる。刃の部分を取り替えられるようにしたらどうだろうと。
 シルヴァンは固定でいいのではと答えた。
「もう一種類考えているの。丸い木の枠を作って、その内側に銀糸を網状に張ったものに柄をつけたらどうかしら? 笛の機能も盛り込んでみてね。ブラン合金を使うとしたら製作の金銭面が気になるのだけど」
 ナオミは棍とは別のアイデアも披露する。
「このままだと堂々巡りになりそうなので聞いて欲しい。金銭面を無視したとしよう。伝説級の武器を各家庭に配布出来たとする。しかし子供や主婦が扱ったとして潜在能力を活かせるとは思えない。戦うのは武器ではなく、人なのだから」
 冒険者の一部ならともかく、普通の女子供がデビルと戦うのは無謀だ。だからこそ笛のの追加で救援を呼ぶ機能を勧めたシルヴァンである。
 ナオミも自分の考える武器が本当に役に立てるものか不安を感じていた。
「ナオミさん、考え方を変えてみないか? 多人数への配布を前提とした武器製作でないのは最初からわかっていたはず。だが村を思ってくれる気持ち、とても嬉しく感じている。だから応えたいのだ」
 シルヴァンは最初から戦うのを無視したらどうかと提案した。
「家庭にある刃物を武器と見立て、デビルサーチのレミエラを合わせておけば、早めに悪魔を発見出来るはず。包丁やナイフ、フォーク辺りか妥当か。笛付きのそれらをナオミさんが打ってみては。銀製である必要もない」
「それだけではデビルにやられてしまうわ」
「家屋に工夫を施したらどうだろう? 残念ながら、以前話した聖なる釘は各家庭に行き渡る程の数は手に入らない。別のものとしてナオミさんのいっていた銀糸のネットは、とてもよさそうなのだが。黒い瘴気のデビルについては無理をせず、騎士に任せた方がよいと考える」
「そうね‥‥」
 ナオミはひとまず答えを保留にした。
 ハニエルの護符によるクレセントグレイブのデビルスレイヤー化についても会話で触れられたが、どの宗教の者であってもシルヴァンは任せるつもりはないという。
 冒険者に出した数度限りの許可は特例中の特例なのである。
 三番目はヴィルジール・オベール(ec2965)の番だ。
「クレセントグレイブの穂先作り、並びに試刀作成に取り組みますな」
「修練を積んで自信が持ててから打ち始めるのが一番」
 ヴィルジールは技術の成熟をはかるとシルヴァンに語る。目指す野太刀は三層の構造を予定していた。
 刀剣の永遠のテーマである強度と鋭さのバランス。自分の中に答えが見つかるまで試作の刀剣を打つつもりのヴィルジールであった。
 ヴィルジールと入れ替わったのはユニバス・レイクス(ea9976)だ。
「今回は被せの絞込みと作成した刀の試し切りを行う。特にシルヴァンエペと同じく二層でやるのか、それとも本三枚鍛えに決めるのかが重要だな」
 ユニバスは次回からの本番の作刀を視野に入れていた。
「費用の試算を約束していたが、どうするか迷うところだ。部材に違いがあれば金額にかなりの差が出る。軽量の刀剣を目指されているので、大きく膨らむことはないと思うが‥‥」
 シルヴァンは細かい計算は次回にして今一度基本金額を提示した。
 シルヴァンエペと同量の9EP分の玉鋼は無料で支給。
 クレセントグレイブの穂先に使われているのと同等のブラン合金ならば9EPで120Gである。既にラルフ卿の厚意でかなりの割安になっていた。
 その他に鞘を含める拵えは別にかかる。
「護符やら聖遺物などを取り込むのも気が進まんが‥‥鍛冶師が己の意思を込めて打った品が悪魔如きに効かないのは一番気に食わん」
 ユニバスはハニエルの護符によるデビルスレイヤーの付与を受けるつもりのようである。
 続いてはクァイ・エーフォメンス(eb7692)の相談だ。
「シルヴァン様の仰る通り、より多くの人が使いやすいシルヴァンエペを、という形で進めたいと思っております」
「そうか。それなら俺も協力もしやすい」
 クァイは6から7EPの中級武器を目指すと説明する。今回は鍛冶場で調整された鋼を使い、試作の刀剣を仕上げてみるつもりのようだ。
「何かわからぬ点があれば俺の家を訪ねられよ。今頃の時間なら構わぬ」
「その時はよろしくお願いします」
 クァイは礼をいってから下がる。
 六番目の相談者は朧虚焔(eb2927)であった。
「私の目指す剣はこのままでだと完成は困難だと考えています。しかしデビル達が強大な力を手に入れた今日、ただ魔力がこもっているだけの中途半端なしろものは、わざわざ一品物として作る価値などありません。目指すは業物です」
 朧虚焔は決意を述べる。
「具体的な方策は?」
「はい。以前フランベルジュの形状を目指すとしましたが保留にしました。日本刀の姿ならシルヴァンさんに相談しやすいのではないかと。しかし決定ではなく、最後の手段として考えています」
 朧虚焔はニセやナオミにも相談するつもりでいた。自分より優れた腕を持つ者にアドバイスをもらうつもりである。
 複合的に鋼材を組み合わせ、なおかつ両刃を目指す朧虚焔の打ち方は難易度が特に高かった。
「試作の刀剣を打ち、俺やみなさんの意見を聞いて回るがよいと思う。詰まったのなら俺に相談を。未完成でも構わないぞ」
「そうさせて頂きます」
 朧虚焔は丁寧にお辞儀をしてから立ち去る。続いてニセ・アンリィ(eb5734)がシルヴァンの前に座った。
「以前に打った試作品の柄の部分に重点を置いて完成させたいズラ。刃の部分が重たくなるのは宿命として、柄の玉鋼に工夫を加え、長さと重心のバランスを工夫してみようと構想しているズラ」
「元々重たい武器を目指されているのだから、バランスが重要なのは明白。具体的にはどのような?」
「石突の部分もブラン合金にしてみようかと考えているズラ。先端の重さとバランスをとって騎乗時に振るいやすいようにするズラ。もっとも試作品は普通の鋼なので、本番時の調整は必要なはずズラ」
「確かにそうだ。しかしニセさんなら何とかなるだろう」
 ニセはクレセントグレイブの柄に銀糸を巻いたように、ブラン合金を含めて縒った糸で青龍偃月刀の柄の部分を処理したいと考えていた。値段の上昇は覚悟の上だ。
「試作品はきっちり30EPに仕上げるつもりズラ。それと‥‥ノルマンにも精霊様の集う場所があるのか教えて欲しいズラ。もし武器に宿ってもらえるのなら心強いズラ」
「ノルマンにもいくつか存在するだろうが、俺は詳しくない。知っているのはドラゴンも棲むといわれているイグドラシル遺跡の島ぐらいか。有名なのでニセさんも知っているのではないか? ただ、一般には近づけない島となっている」
 シルヴァンはイグドラシル遺跡に近づくのは難しいとニセに答えた。特別な事情がない限り、近づくことは許されていないらしい。
「デビルの真の力、厄介なことですな」
 最後の質問者であるフレイ・フォーゲル(eb3227)は目を閉じて呟く。
「最強のデビルを倒すにはどれだけの武器が必要なのか‥‥、未解明なところが特に厳しいと感じている。俺も早くラルフ殿に新しい刀をと考えているのだが、未だブラン用の道具が揃わない‥‥」
 フレイの言葉にシルヴァンはふと焦りの本音を洩らした。シルヴァンも人の子である。
「とにもかくにも、引き続きレミエラの研究をしますぞ。特にウォーターダイブのレミエラについてはもう一息と考えていますぞ」
 フレイは笑顔でシルヴァンに頷く。その他にバーニングソードのレミエラについても手を付けるつもりでいた。加えてエルザを手伝い、デビルサーチのレミエラも増産しなければならない。
「珊瑚、フレデリック領の特産品、火山岩、手に入るのならルビーと、いろいろと試してみますぞ」
 煮詰まった時にはレンズを作ってみるつもりのフレイである。もしかしたらレミエラの合成に役立つのではと考えていたのだ。
 しばらくしてシルヴァン、鍔九郎、刀吉が冒険者用の家屋を立ち去る。相談の時間が終わり、就寝の時間となるのであった。

●日々
 クレセントグレイブの製作は順調に進んだ。
 多くの冒険者は穂先打ちをしながら自らの刀剣の腕を磨く。ブランの融解、研ぎや柄の作成も含めて努力を重ねればそれだけ自身の糧となる。
 クレセントグレイブはシルヴァンによって焼き入れが行われた。
 滞在期間の半ばを過ぎ、各自の刀剣打ちの作業へと移る。
 ナオミはシルヴァンの提案をとりあえず横に置いておき、適度な長さを調べる為に柄を振り回した。
 長柄武器は敵を近づかせないようにするには有効なものだ。野外だけでなく、様々な品が置かれた村の家屋内でも試してみる。
 空いた時間には純ブラン用の三種アイテムに関する資料精査を手伝うナオミであった。
 ユニバスはたくさんの試作品を打ち続けた。そして実際に扱って強度などを調べる。
 最後には二層で打ち上げて、土置によって各部分の焼き入れを調整するやり方に落ち着いた。細めの刀剣なので複雑な構造はかえって脆くなるとユニバスは結論を出したのだ。
 朧虚焔は何度かナオミやニセに相槌役を頼んで試作の刀剣を打ってみる。
 フランベルジュは波打った両刃が特徴的だ。芯は別にして他の部分の加工が非常に難しい。しかもジャパンの刀に倣った多層構造を目指しているのだから、その難易度は半端ではなかった。
 いろいろとアドバイスをもらったが、しっくりとくる試作品は打ち上がらずに終わる。
 ニセは順調だ。
 鍛造で打ち出した青龍偃月刀の試作品はイメージと寸分違わない出来となった。本番を打つ作業に入っても構わないのだが問題は残る。
 より強い武器を目指すのであれば、シルヴァンに相談した精霊についてのように、何かが必要だと感じていたニセであった。
 クァイはいつものように食事の世話を合間にしながら、試作の作刀を行う。シルヴァンエペを目標にしただけあってまさに日本刀の姿である。
 ヴィルジールはひたすら三層構造を打ち続け、修得に時間を注いだ。想定する野太刀には不可欠だからだ。
 春日龍樹は唸り続ける毎日を送った。
 六角金属棍を打っては呻る。
 焼き入れをしては呻る。
 試しで岩肌を叩いてみては呻る。
 散歩しながら呻る。
 六角金属棍は対する二面のみを厚く土置した上で焼き入れを行った。
 結果としては考えていたような柔軟性を与えられず、失敗に終わる。だがこれでいいと春日龍樹は思った。まずは試してみる事が大切なのだと。
 フレイのエルザへの手伝いは、ついにウォーターダイブの解明へと昇華した。
 ただし、あまりに特殊な素材を使うので再現は一回のみに留まる。そしてシルヴァンと約束した通り、作成方法は他言無用の秘密とされた。
 性能の落ちるものならば再現できそうだとエルザと言葉を交わすフレイであった。

●そして
 十四日目の朝、冒険者達はすべてを終えて馬車へと乗り込んだ。
「次の依頼時には俺も刀吉と一緒にパリへ行くつもりだ。いつもより相談に乗れる時間があると考えて欲しい。ブラン作刀用の三種アイテム探しも忘れてはいないぞ。その時はよろしく頼む」
 見送りのシルヴァンから追加の報酬などが冒険者達に手渡された。フレイにはこれまでの頑張りによってシルヴァンエペが贈られる。
 十五日目、馬車は無事にパリへ到着するのだった。