●リプレイ本文
●探険
「こちらのシルヴァンエペは私が使わせて頂いています」
「ノルマンの為、デビルを討ち滅ぼす力になって頂けるとありがたい」
早朝の冒険者ギルド前。見送りのアニエスがシルヴァンは礼を述べる。
「これがそうなのね」
「お願いします」
アニエスは続いてナオミ・ファラーノ(ea7372)にグリフォン用武器のデザインが描かれた木板を渡す。
「その武器なのだが――」
ナオミとアニエスの会話にシルヴァンも加わる。
シルヴァンはペット用の武器について詳しくないのを打ち明けた上で、ラルフ卿に連絡をとって調べてみると告げた。
刀吉が操る馬車が到着し、タマハガネ村へと向かう者達が次々と乗り込んだ。残念ながら冒険者一名は急用で来られなかった。
動きだした馬車はパリを囲む城塞門を抜けて草原や森を駆ける。森深き村に到着したのは二日目の宵の口である。
一晩を村で過ごした冒険者達は再び刀吉が手綱を持つ馬車へと乗り込んで出発する。
乗り込む前にクァイ・エーフォメンス(eb7692)は蜂蜜と塩をシルヴァンへと預けた。いつものように水分補給用に使って欲しいと言葉を添えて。
馬車がヴェルナー領東部の山岳部洞窟周辺に到着したのは四日目の夕方の出来事である。
洞窟の近くには小屋があり、そこには衛兵六名が駐在していた。刀吉が書状を提示して洞窟への立ち入り許可をもらう。
衛兵によれば洞窟への入り口はここだけではなかった。人が通り抜けるのは不可能だが、デビルなら通り抜けられそうな穴があるかも知れないという。
大抵の穴は塞いであるが、くれぐれも気をつけた方がよいと念を押される。周囲ではデビルらしき目撃例もあった。
準備と身体を休める為に冒険者達は洞窟の外で野営を行う。そして五日目の朝、洞窟に足を踏み入れた。
刀吉は馬車の見張りの為に外へ残る。せめてこれぐらいは役に立ちたいとたくさんのランタン用の油を冒険者達に提供してくれた。
「このような依頼を受けるのは随分と久しぶりですね。カンがさび付いて居なければ良いのですが」
朧虚焔(eb2927)がランタンを片手に先頭を歩く。不意の攻撃に備えてもう片方の手では盾を構える。指輪『石の中の蝶』をはめてデビルの探知にも気をつかっていた。
「奥がどうなっているのかわかりづらいズラ」
二番手を歩いたのはニセ・アンリィ(eb5734)である。ランタンの他に、いつでも使えるようにとロープを担いでいた。
「こういう場合は慎重に進むべきですぞ」
フレイ・フォーゲル(eb3227)は予め升目を描いておいた薄い木板を抱えながら歩く。歩数を頼りに洞窟内の地図作成を行う為である。
「フレイさんは地図作りに専念して下さい。守りは私が」
クァイはフレイを護衛しながら洞窟内を進んだ。危険な怪物がどこに隠れているのかも知れないからだ。
「竜の篭手に月雫のハンマーとはいかなるものか‥‥鍛冶屋としても興味はつきませぬでな」
盾を構えたヴィルジール・オベール(ec2965)は注意深く周囲を観察する。そして洞窟に注目して鉱物が眠っていないかも探った。
「かなり寒いわね。この先結構きついかも知れないわ。燃やすものが見つかっても、洞窟の中だから息の心配も必要だし」
ナオミは隊列の中頃でランタンを掲げる。状況を考えた上でいざという時にはマグナブローを放つつもりのナオミである。
「デビルか。何にせよ奴らに先を越されるのは気に喰わん」
ユニバス・レイクス(ea9976)はいつでもシルヴァンエペを抜けるように柄を握っていた。同時に付与されたデビルサーチの発動も意味する。十メートル以内にデビルが近づいたのなら胸元に光点が灯るはずである。
狂化を防ぐ為にも同じハーフエルフの朧虚焔には近づかないように後尾から二番目に身を置いておく。
「さてと大丈夫か?」
隊列の一番最後を歩いていた春日龍樹(ec4355)は洞窟の天井を見上げる。今の所は背筋を伸ばしていられるが、これから先どうなるかわからないからだ。
そんな状況でありながらも春日龍樹は気合いに満ちていた。デビルとの戦いに控えて精神を集中する。
洞窟内は複雑で危険に満ちていた。デビルとの接触はまだであったが、隠れていたジャイアントラットやラージバットが襲いかかってくる。
厄介なのは多用な種類のビリジアンモールドだ。一度、知らずに側を通過しようとして胞子を巻き上げてしまいそうになった一行である。
当然狭い個所もあったが、洞窟は総じて広かった。枯れた木の根を見つけてそれで焚き火をしても煙に覆われる事がない程に。
「たまに人の手が加えられたと思われる所がありますな」
ヴィルジールの指摘に多くの仲間が賛同する。一見しただけではただの穴と思われるものでも、等間隔に並んでいた。
時間はランタンの油の消費量から計算される。七日目の昼頃、何度目かの焚き火を囲んでの休憩時間となる。
地図の作成は順調である。ただし、全体の解明はまだまだである。
「私達はまだデビルと接触していない‥‥。もしデビル側が魔法道具の隠し場所に関する詳しい情報を持っているとすればどうだろう?」
「つまり、デビルに襲われるのを避けるより、より積極的にこちらから近づいていけば自然と魔法道具の在処にたどり着ける。そういうわけね?」
朧虚焔とナオミは焚き火の炎越しに会話を続ける。
「まだ調べていない洞窟の枝道はいくつもありますが、地下に続いていると思われるのは一個所のみですぞ」
フレイが作りかけの地図を指先でなぞる。
「そこを通るならロープが必要ズラ。オラが張るズラよ〜」
ニセは保存食を口の中に放り込んだ。
「デビルサーチを武器に付与している者は、移動中でも手にして見逃さないようにすべきだな」
ユニバスは下げてあるシルヴァンエペを触る。
「その下へと続く洞窟も広ければよいのだが」
春日龍樹は俯くと改めて大きな自分の身体を確かめた。
「休憩をしたら、より地下へ行くのですね。デビルの存在を辿るようにして」
クァイも保存食で腹ごしらえをする。
冒険者達は見張りを残して睡眠をとり、これからの戦いに備えて体力の回復をはかった。
●デビル
一度インプと接触してからは立て続けに戦いが起こる。
フレイムエリベイションやバーニングソードで補助をしながら、ナオミはマグナブローの火柱でデビルの動きを牽制した。
一行にとっては少数のインプやグレムリン程度では敵ではなく、逃がさないよう殲滅に努める。
「これはもしや‥‥」
ヴィルジールが拾い上げたものは太陽の箱であった。倒したグレムリンが運ぼうとしていたものである。
「竜の籠手、月雫のハンマーの存在が現実を帯びてきましたね」
朧虚焔が太陽の箱に被さった土を払う。
「急いだ方がよさそうね」
ナオミはデビルに魔法道具を持ち去られる危険を心配した。
さらに進んだ一行は洞窟内を掘り起こした跡を目にする。
「ボロボロのこの道具は‥‥鍛冶のものか?」
ユニバスは金属の破片を手に取る。この場所には鍛冶の施設がかつてあったようである。
地震で陥没してそのまま埋まってしまったのか、それとも他の要因なのかはわからないものの、以前調べた沼の底の鍛冶現場よりも古そうである。
「デビルはここから出入りしているようだ」
常に天井を気にしていた春日龍樹は、頭上にとても小さな光を発見する。ほんの少し立ち位置をずらしただけでも見えなくなってしまうが、確かに地上まで細く長い穴が続いていた。
「頭上の穴を除けば、私達が辿ってきた長い洞窟の道のりしか地上に出る道はないのかも知れません」
クァイの言う通り、このような特殊な穴がいくつもあるとは誰にも思えなかった。それだけ深い地下に洞窟は存在する。
周辺の洞窟内はかなりの広さがあり、冒険者達にとって戦いやすい地形なのも決断を後押しした。
地上への穴の付近を監視出来るように冒険者達は散らばって岩陰などに隠れた。
やがてフレイが三体のインプと二体のグレムリンが木箱を運ぼうとしている様子をインフラビジョンで確認する。
冒険者達は輝きが洩れないように魔法付与を終える。フレイが石を岩に二回叩きつけた音を合図にし、一斉にランタンを灯して周囲に置く。
そして一気に攻撃を仕掛けた。
春日龍樹がシルヴァンエペを振るい、木箱を抱えるインプの翼を両断する。朧虚焔はバーニングソードが付与された拳をグレムリンの顎に叩きつけた。
ヴィルジールは盾をうまく使ってデビルの動きを惑わせる。
ニセは後衛のナオミとフレイを護衛に徹した。フレイは薄暗い状況をカバーすべく、インフラビジョンで確認した様子を仲間に伝える。
ナオミは地上へと飛び去ろうとするデビルを阻止すべくマグナブローで威嚇した。
それでも間に合わない時はフレイがファイヤーボムを地上への穴へと放つ。火球が穴の中で押しつぶされて長い火柱となる。
デビルがやってきた方角を任されたのはユニバスである。これまで冒険者達が通ってきた方角はクァイが任された。
ユニバスはすれ違い様にデビルへ傷を負わせてゆく。
「待ちなさい!」
クァイはビリジアンモールドの胞子にまみれるのを覚悟してインプを追う。ようやく仕留めるとインプが何かを運ぼうとしていた事に気がつく。
すぐに安全な場所に移動して解毒剤を呑んだクァイである。
地下方面からインプが大量に現れた。約二時間を要したがすべての殲滅に成功する。終わった頃には冒険者の誰もが呼吸を乱し、肩で息をしていた。
落ち着いた後、散らばったデビルが運ぼうとした品々を一個所に集める。その時、クァイが持ってきた品物が竜の籠手だと判明して全員の気持ちが高揚する。
洞窟の奥にはデビルが発掘した大量の物品が転がっていた。ただし、錆びたり破損しているものが殆どである。
そんな中、欠損もなく発見されたのが月雫のハンマーである。魔法道具だけあって長い年月にも耐えたようだ。
九日目の夕方、冒険者達は地上に脱出する。回復に使ったポーション類は刀吉が補充してくれた。
十一日目の夕方に冒険者達を乗せた馬車はタマハガネ村へと戻る。
竜の籠手と月雫のハンマー、そして太陽の箱を受け取ったシルヴァンは冒険者達に深く感謝するのだった。
●そして
残った二日間を多くの冒険者達は自らの作刀に費やす。
シルヴァンはナオミに残念な知らせを伝えなければならなかった。ラルフ卿からの手紙によれば、爪に武器を取りつけられるのをグリフォンは嫌がるらしい。状況的にアニエスの構想は実現不可能であると告げた。
ユニバスはグリフエギューエペの作刀に入る。とはいえ、今回は時間が短い事もあって鋼材の選別で終わった。どれも良質のブラン合金であったが、ここは納得がゆくもので打ちたいのが人情である。輝きの具合、微妙な硬さや、不純物の有無などを手にとって確認してゆく。
デビルとの戦いでシルヴァンエペを振り、ユニバスは触発された。重さなどさらに自分の戦い方に合った刀剣を仕上げるつもりである。
デビルスレイヤーのレミエラの反応は背後や上からの不意打ちにとても役に立つ。春日龍樹も同じような事をいっていた。エルザを職人として評価したユニバスであった。
片刃の波打つ湾刀を目指して試作を打ったのは朧虚焔である。以前の両刃とは違う構造だが、こちらの方が打ちやすい。これなら何種類かの鋼を組み合わせても何とかなると手応えを感じ取った。
三種の魔法道具の他に、いくつかの使えそうな物品を持ち帰ってシルヴァンに渡してある。残念ながら文章の類は洞窟に残っていなかった。
ニセはハニエルの護符の使用をシルヴァンに願った。
焼き入れ前の武器を見ないと判断はつけにくいとシルヴァンは答える。ただし、ニセが満足な出来の武器を打てたのであれば、きっと大丈夫であろうと付け加えた。
余った時間をニセは青龍偃月刀の試作品を改良する時間にあてる。二重の構造で柄の部分を打ち、しなりと頑丈さを兼ね備えているかを試してみた。これに関しては一種類の素材と大した違いはないように感じられる。
クァイはシルヴァンエペの使い心地をシルヴァンに報告した。そして自らの作刀の参考にする。
より幅広い人が使えるシルヴァンエペをクァイは目標としていた。
ニセと同じようにクァイも作刀に入るものの、やはり鋼材を選別する作業に二日間を費やす。その他の行動としては鍛冶の道具類を手入れをして今後に備えておいた。
今回手に入った太陽の箱について、シルヴァンはヴィルジールに使用の許可を出す。
実際に使うにはプリンシュパリティ・ハニエルに野太刀の型に変更してもらわなくてはならなかった。
そしてヴィルジールは純ブランでの作刀についてをシルヴァンと談義した。
はっきりといえばシルヴァンにとっても未知の作業となる。手探りになるのは間違いなかった。
それでも完成させなければならない使命をシルヴァンは感じていた。鍛冶師として純ブランの刀剣に魅力を感じているのも確かだ。
ヴィルジールと想いも迷いも一緒だとシルヴァンは語る。
春日龍樹はシルヴァンエペでデビルを斬った時の感触をシルヴァンに伝えた。
戦った洞窟内は比較的広かったとはいえ、混戦必至ゆえに野太刀だと長すぎる。対デビルという意味でもシルヴァンエペを選択したのは正解であった。インプにほとんど魔法詠唱をさせずに仕留められたと報告を終える。
フレイは錬金術の鍛冶への応用をシルヴァンと話し合った。特に文献などはタマハガネ村にはないらしい。行うとすれば、自ら切り開かなくてはならなかった。
残った時間はレミエラ職人のエルザと共に新しいレミエラの開発を行う。
効果が弱いものの、ウォーターダイブのレミエラの完成にエルザはこぎ着けた。
十四日目の朝、シルヴァンは感謝の印としてウォーターダイブのレミエラを冒険者達に贈る。
十五日目の夕方、冒険者達は刀吉の馬車で無事にパリへ到着した。