白き刀身 〜シルヴァン〜

■シリーズシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 56 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月03日〜04月18日

リプレイ公開日:2009年04月11日

●オープニング

 パリ北西に位置するヴェルナー領は、ブランシュ騎士団黒分隊長ラルフ・ヴェルナーの領地である。
 その領内の森深い場所に、煙が立ち昇る村があった。
 村の名前は『タマハガネ』。
 鍛冶職人の村である。
 鍛冶といっても他と赴きが違う。ジャパン豊後の流れを汲む作刀鍛冶集団であった。
 村の中心となる人物の名はシルヴァン・ドラノエ。ドワーフである彼はジャパンでの刀鍛冶修行の後、ラルフの懇意により村を一つ与えられた。
 ジャパンでの修行後期に作られた何振りかの刀が帰国以前にノルマン王国へ輸入され、王宮内ですでに名声が高まっていたのだ。
 ジャパンから連れてきた刀吉と鍔九郎、そして新たに集められた鍛冶職人によって炎との格闘の日々が続いていた。
 ブランシュ騎士団黒分隊に納めるシルヴァンエペは完納に至る。現在はナギナタ型武器『クレセントグレイブ』の量産を行っていた。
 そして鍛冶師シルヴァンはシルヴァンエペに続く、新たな刀剣を模索中であった。


 ブランの刀剣。
 伝説に謳われる刀剣の殆どはブランで打たれたといってもよい。
 深夜、シルヴァンは一人家屋で火造りまで終わった刀身を眺める。
「果たしてうまくいったのだろうか‥‥」
 囲炉裏の炎のせいで白い鋼が赤く染まっていた。これまでの知識と腕をすべて注ぎ込んだはずだが、シルヴァンには不安が残る。
 慣れた鍛造ではなく鋳造で形を成してから打ち上げた工程もそうだが、それ以上に自らが問われている気がしてならなかった。
「ブランが笑っているようにも感じられる。まだまだだな、俺も」
 荒仕上げから焼き入れまでの過程ではっきり答えが出るとシルヴァンは考えた。
 それは間もなくである。
 しばらく時間をおいてもう一振りを打ち、どちらかをラルフ卿に託す約束だ。
 残った一振りもよい出来ならブランシュ騎士団黒分隊エフォール副長に譲る予定である。
 翌日、シルヴァンが命じて刀吉は馬車でパリへと向かった。鍛冶を手伝ってくれる冒険者を募集する為に。

●今回の参加者

 ea7372 ナオミ・ファラーノ(33歳・♀・ウィザード・ドワーフ・ノルマン王国)
 eb2927 朧 虚焔(40歳・♂・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb3227 フレイ・フォーゲル(31歳・♂・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 eb5734 ニセ・アンリィ(34歳・♂・ファイター・ドワーフ・モンゴル王国)
 eb7692 クァイ・エーフォメンス(30歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ec2965 ヴィルジール・オベール(34歳・♂・ファイター・ドワーフ・ノルマン王国)
 ec4355 春日 龍樹(26歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)

●リプレイ本文

●タマハガネ村
 二日目の夕方、冒険者達を乗せた馬車がタマハガネ村に到着した。
 フライングブルームで先行していたフレイ・フォーゲル(eb3227)が仲間達を出迎える。少しでも多くレミエラ作りの手伝いと自らの研究に時間を割く為だ。
 日が暮れてシルヴァン、鍔九郎、刀吉の三人が冒険者用の家屋を訪れた。
「まだ焼き入れは行っていないが‥‥」
 シルヴァンは持ってきた布袋から作刀中の刀身を取りだす。
 道中でナオミ・ファラーノ(ea7372)や朧虚焔(eb2927)が話題にしていたのを、御者の刀吉は聞いていた。どうやら気を利かせてシルヴァンに伝えたようである。
「拝見させて頂きますわ」
 ナオミは用意されていた和紙で軽く拭ってから囲炉裏の炎で純ブランの刀身を観賞する。ブランの輝きは鋼とは違って真っ白だ。
「悪くない剣ですわね。‥‥慣れない鋼材や作業のせいか、迷いが見えてる気もしますけど」
 率直な意見をナオミは口にする。
「そうか。やはりわかってしまうものだな」
「次はきっと、もっと好い物になりますわ」
 ナオミは刀身をシルヴァンに返す。
「では私も」
 朧虚焔もシルヴァンから刀身を借りる。
「前回申しました通り、シルヴァンさんが純ブランの傑作を完成させるのを見届けさせていただこうと思います。もしお邪魔でなければ手伝わせていただけますか?」
「焼き入れの瞬間だけは集中したいが、その他の工程ならば構わない。手伝って頂けるならこちらこそ助かる」
 朧虚焔は自由に使える時間をシルヴァンの手伝いへ費やす事にした。もしも余裕があったのなら試作の仕上げをするつもりである。
「ワシも相槌を手伝うつもりズラ。手応えから何か感想をいえるとよいズラよ」
 ニセ・アンリィ(eb5734)は朧虚焔が掲げる刀身からシルヴァンへと視線を移す。
「この刀身の工程に相槌は必要ないので、二振り目の準備時にお願いしよう」
 シルヴァンは朧虚焔から刀身を受け取りながらニセに答える。
「シルヴァン殿、少し話してもよいだろうか?」
「どうなさった? 春日さん」
 晴れた表情の春日龍樹(ec4355)はシルヴァンは作刀の相談を始める。どうやら迷いは吹っ切れたようである。
 銘は『花風』。
 ブラン合金で作刀し、重量は20EPを目指す。
 刃渡りは6尺。単位を直すと1・8メートル強。ジャイアントの身体に合わせた大太刀。桜の花をあしらった朱塗りの鞘も用意するつもりだという。
「なるほど、良い感じだな。ハニエルの護符によるデビルスレイヤーの能力はどうなさるおつもりか?」
 シルヴァンが訊ねるとそれについては判断に迷っていると春日龍樹は答えた。次の機会には答えられるであろう。
「それでは私も相談を。これまでの方針通りより多くの人が使いやすいシルヴァンエペを、という形で進めたく存じます」
 クァイ・エーフォメンス(eb7692)から本番の作刀に入るという覚悟を聞いたシルヴァンは刀吉と鍔九郎にブラン合金などの手配を伝える。刀身に使われる鋼はブラン合金と判断された。
 シルヴァンエペを一回り小さくした中級武器という設計からハニエルの護符によるデビルスレイヤー能力も付与するのであろう。
「わたしもはっきりと決めたわ。銘をどうするかはまだだけど」
 ナオミは完成予定の武器の姿を語る。
 長さは二メートル程度の槍と斧が複合化された先端を持つ戦斧。斧が主な役割を持ち、両面にはハニエルの翼を意匠した彫金を施す。柄を除いた多くの部分はブランを使用する予定のようだ。
 シルヴァンがこの時聞き流してしまった為にナオミのいう『ブラン』が『純ブラン』なのか『ブラン合金』を指すのかは謎として残ってしまう。以前は槍の部分を銀、斧の部分にはブラン合金を使うとナオミは説明していた。
 かかる費用も大幅に変わり、そして道具類を使用する順番にも関わる。本番の作刀に入る前には確認しなければならない事項だ。
 ナオミが試作代わりに作ろうとしていたナイフはブラン合金製と決まった。
「ポーム町のリュミエール図書館の司書殿にこちらを送って依頼したいと考えておりますぞ」
「では俺からこちらを送らせて頂こう。一応説明しておくが、ポーム町は新興の図書館なのでどこまでの資料があるかは未知数だ。ヴェルナー城所蔵の書物なども含まれているので古い資料もあるだろうが‥‥。果たしてどうだろうか」
 フレイはシルヴァンに手紙と100Gの金額を預ける。最初はパリから送ろうと考えていたのだが、シルヴァンを通した方がよいとの刀吉のアドバイスに受け入れたフレイである。
 夜が更ける前にシルヴァン等三人は冒険者用の家屋を後にするのだった。

●日々
 フレイは二日目から、他の冒険者は三日目から本格的な手伝いに取りかかる。
 クレセントグレイブの穂先を打ったのは、朧虚焔とクァイ、ニセと春日龍樹の二組である。
 ナオミは研ぎなどの仕上げの作業、フレイはレミエラの加工作業に従事する。研ぎについてはニセも手伝った。

●ナオミ
「なんとかなりそうだわね」
 手伝いの期間が終わり、ナオミはナイフ作りを始めた。
 象眼が出来るかどうかの試しの意味を込めて、金銀銅の金属材でブラン合金刃の両面に意匠が施される。デザインは羽根を象った。
 細かな填め込みの後、ナイフが丁寧に研がれてゆく。
 彫り込みに使った道具もそうだが純ブラン用の砥石が使われる。せっかくだからとシルヴァンを凌ぐ研ぎの腕を持つ刀吉が貸してくれたものである。
 金銀銅はブラン合金に食いついてくれた。純ブランにも試したい所だが、シルヴァンの許可は出なかった。あまりに高価で希少で道具類も限られるからだ。
 そのかわり村へと残すという条件でナイフ作りにかかった費用はかからなかった。ナオミは最初からそのつもりなので受け入れる。
「ありがとうございます。とてもよい斬れ味ですね」
 ナイフをナオミから受け取ったエルザはとても喜んだ。デビルを払う護身用として普段から身につけるという。
「どれがいいかしら?」
 ナオミはナイフ作りの合間に戦斧のデザインをいくつも起こす。
 試作で実際に形にしてみるのがよいのではとシルヴァンが助言する。それを次の機会に実行するかどうかはナオミ次第であった。

●朧虚焔
 朧虚焔は水の入った桶をシルヴァン用の小屋『火床』へと運び込んだ。炎はもちろんだが鍛冶作業に冷水は欠かせない。
 シルヴァンが荒仕上げとして純ブラン製のヒラセンで真っ白な刀身を擦るように削る。
 荒仕上げが終わると藁灰を利用して脂が落とされた。続いて焼刃土が刀身に置かれてゆく。峰や刃など部位によって配合が違う土が使われる。焼き入れを考慮した作業だ。
(「なるほど。鋳造から始まった作刀とはいえ、ジャパンの刀鍛冶の技術を使うようですね」)
 朧虚焔は手伝いながらシルヴァンの作業工程を脳裏に刻む。
 やがて焼き入れの時となる。深夜、魔力炉に火が入れられると純ブランの刀身が真っ赤に熱を帯びた。
「それでは済まないが一人にさせて欲しい」
 シルヴァンがハニエルの護符に祈りを捧げて輝かせた後で、その場にいた者達に退室を願う。
「それではよき刀を」
 戸を閉めようとした朧虚焔にシルヴァンが頷く。
 春になったとはいえ夜はまだ肌寒かった。それでも冒険者用の家屋には戻らずに火床の近くで朧虚焔は待ち続ける。
「星はきれいだが、もうすぐ朝か‥‥」
 枝葉の隙間から朧虚焔はわずかに白む夜空を見上げた。
 静寂の中、火床から激しい蒸気音が聞こえてくる。十分程が経過して火床の戸が開かれた。
「シルヴァンさん、どうでしたか?」
「焼き入れはうまくいった。中に入ってくれ」
 朧虚焔は火床内へ戻って焼き入れが終わったばかりの純ブランの刀身を眺める。
「より白さが増したような‥‥そんな印象がありますね」
「俺もそう思う」
 朧虚焔とシルヴァンの視線は常に刀身へ釘付けだ。
 すぐに鍛冶押しの作業となる。大まかに研がれた後、魔力炉の残り火で焼き戻しが行われた。その際、クァイが提供してくれたプラウリメーのロウソクが役に立つ。
 シルヴァンの銘が刻まれる。後は刀吉の研ぎを経れば完成だが、それにはさらに数日が必要だった。
 シルヴァンを手伝い続けた朧虚焔には最終試作を行う時間は残されていない。
 それでも朧虚焔は満足の笑顔を浮かべた。新たな純ブラン刀剣の誕生を目の当たりに出来たからと。

●春日龍樹
(「しかしアレだ。いざ心を決めたつもりでもやるとなると武者震いが‥‥」)
 春日龍樹は冒険者用の火床で炭火を見つめる。これから大鍛冶で調整された鋼を使って試作の刀を打つ直前であった。これまでにも打ってきたが、構想が完全に固まった上では初めてだ。
「どうした? 何かあったのか?」
 相槌役を引き受けてくれた鍔九郎が不思議そうに春日龍樹の顔を眺める。
「い、いや何でもない‥‥。そ、そうだ。他に刀を打つつもりの方はいないだろうか? そうならこの場所を譲ろうかと」
「何をいっているのだ。ここは鍛冶のタマハガネ村。他にも炉はたくさんあるぞ。はは‥‥、ビビッておるのだな? まだ試作の段階だというのに」
「そ、そんな事はない。試作の一つや二つ。百や千など、どうというものではない」
「そう、その意気だ」
 春日龍樹は鍔九郎に励まされて作業を開始する。
 まずは鋼を鉄挟で掴んでアンビルの上に乗せた。それを鍔九郎と村の職人が交互に叩いてくれる。冷えてくると熱し直し、硬さを調節する為に水へつけた。
 試作とはいえ、作業そのものは本番と同じである。
「やはり目的が決まってからの試作は一味違うものだろ?」
「うむ。しかしこれだけ汗をかいても痩せぬものよなぁ‥‥。むしろまた肥えた気もするな」
 合間の休憩の時、春日龍樹と鍔九郎は大いに笑った。
 村を立ち去るまでには試作を完成させた春日龍樹であった。

●クァイ
「さて、この辺りで次の工程に」
 クァイは本番の作刀作業に入っていた。時間がある時に手伝ってくれたのは刀吉である。
 作業そのものはシルヴァンエペの時と似ている。
 違うのは鋼材で、シルヴァンエペは玉鋼、クァイが仕上げようとしているのはブラン合金製だ。
 鋼材の違いによって一つ一つの作業に時間がかかる。とはいえ全体を通してみれば淀みなく進んでいた。
 クァイは仲間達の食事作りを率先して行い、岩塩と蜂蜜を溶かした飲料も用意する。
「刀の銘は何ていうのだろう? もしかするとシルヴァン殿に伝えたかも知れないが今一度教えて欲しい」
 雑談の時、刀吉がクァイに訊ねる。
「銘ですか‥‥」
 ブラン合金の塊を眺めながらクァイは呟いた。
「もう打ち始めたのだから、なるべく早くがいい。出来れば次の機会にでも」
「そうですね。それまでにはお伝え出来るようにします」
 クァイは刀吉と約束する。
 依頼期間で行われたクァイの作業は実際の刀身を打つ前段階のブラン合金を鍛錬するまでで終わった。次から造り込み組み合わせとなり、ようやく刀の形になる予定だ。
 村での最後の夜、クァイは刀の出来上がりを想像してなかなか眠りにつけなかった。

●ニセ
「この前の石突に続いて柄を打つズラよ」
 ニセは2割のブラン合金の塊を鎚で打ち続けた。最終的には伸ばして柄となる予定である。
 鎚で打つ作業は形を整えたり内部のヒビを消すだけではない。鍛錬することによって層を作り上げてより頑丈に仕上げる意味も含まれる。
 細長い円柱状にする為に村にあった鋳造用の型も利用するが基本は鍛造であった。
 村の職人にも手伝ってもらい、鍛えたブラン合金の塊を熱して伸ばす。型へはめて形を整えると鍛造の作業へと戻った。
 特に気をつかったのは握る部分の形状である。後で糸を巻いたりなどの加工を施すかも知れないが、そのままでも充分使えるようにしておく。振るう時に握る辺りは持ち運ぶ周辺より細めにする。さらに滑り止めの溝も刻んだ。
 次の機会で作る予定の刃の部分については、少々悩んでいたニセである。
 計画の通り青龍偃月刀らしく幅広の刃にするのか、それとも日本刀みたいな細めの形状にするのかだ。
 重さを30EPから20EPまで落とすつもりなので、ある程度は形状を変化させなくてはならない。
 両方の形状を打ってどちらも試す方法もあるが、それだと鋼材代がかさむ。次回までには決めておかなければならなかった。
 ちなみに柄はどちらの刃をつけても扱いやすいように考慮して作り上げられる。
「やはり2割ブランは1割ブランや玉鋼よりも硬かったズラよ。籠手とハンマーがあっても純ブランはそれより硬い印象ズラ」
 柄が出来上がった後、ニセはシルヴァンの二振り目の準備を手伝った。その際、竜の籠手と月雫のハンマーで純ブランを少し叩かせてもらう。
 シルヴァンに意見を伝えるニセであった。

●フレイ
「それではいってまいります。帰りは直接パリに戻るつもりですぞ。ギルドで会いましょうぞ」
 フレイはエルザのレミエラ作りの手伝いが終わった後、フライングブルームで村を飛び立つ。目指すはポーム町にあるリュミエール図書館である。
 村での滞在中、バーニングソード・レミエラの研究はこれといって進展がなかったものの、エルザの望みであった合成用レミエラのデビルスレイヤーは完成に導かれた。
 夕方に到着したフレイはシルヴァンからの紹介状を手にして図書館を訪ねる。司書の案内で通されたのは大量の本が積まれた部屋であった。
「こちらにあるのは、まだ整理がついていない本なのです。図書館に持ち込まれた本は順次棚へ整理されていますが、あまりに専門的なものや難読なものはこのような状態で‥‥」
 リュミエール図書館は閉架式である。閲覧希望者は目録から本を選んで司書に持ってきてもらわなければならない。当然持ち出しは禁止だ。
「わかりましたぞ。司書の方と選り分けながら探しましょうぞ」
 フレイはわざわざ大変な作業を引き受ける。そこに理由はないのだが、ある種の勘が働いたようだ。
 残念ながら魔法鍛冶に詳しい本と巡り会えなかった。しかし去り際のフレイの心には次への期待が残る。
 司書達の調査を期待してフレイはパリへと戻っていった。

●そして
 十四日目の朝、冒険者達はシルヴァンから追加の報酬を受け取ると刀吉の馬車で帰路につく。
 エルザが作り上げたデビルスレイヤーの合成用レミエラはまだ数が揃っておらず、今回は別のものとなる。
 十五日目の夕方、フレイと合流した仲間達はシルヴァンから預かってきた報酬を手渡すのであった。