迷いの傑作 〜シルヴァン〜

■シリーズシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 56 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:04月26日〜05月11日

リプレイ公開日:2009年05月05日

●オープニング

 パリ北西に位置するヴェルナー領は、ブランシュ騎士団黒分隊長ラルフ・ヴェルナーの領地である。
 その領内の森深い場所に、煙が立ち昇る村があった。
 村の名前は『タマハガネ』。
 鍛冶職人の村である。
 鍛冶といっても他と赴きが違う。ジャパン豊後の流れを汲む作刀鍛冶集団であった。
 村の中心となる人物の名はシルヴァン・ドラノエ。ドワーフである彼はジャパンでの刀鍛冶修行の後、ラルフの懇意により村を一つ与えられた。
 ジャパンでの修行後期に作られた何振りかの刀が帰国以前にノルマン王国へ輸入され、王宮内ですでに名声が高まっていたのだ。
 ジャパンから連れてきた刀吉と鍔九郎、そして新たに集められた鍛冶職人によって炎との格闘の日々が続いていた。
 ブランシュ騎士団黒分隊に納めるシルヴァンエペは完納に至る。現在はナギナタ型武器『クレセントグレイブ』の量産を行っていた。
 そして鍛冶師シルヴァンはシルヴァンエペに続く、新たな刀剣を模索中であった。


 刀吉の研ぎを経て一振りの刀が完成する。
 魔法金属ブラン特有の白き輝きを纏う姿は、独特の雰囲気を醸しだす。シルヴァンエペよりも一回り大きく、それでいて手に馴染む軽さがあった。
「これが果たして突き詰めた刀なのか‥‥」
 試し斬りをしてみたところ、とてもよい刀なのは実感出来る。しかしシルヴァンは満足していなかった。
 当初から真打ちと影打ちの二振りを打つ予定であり、感触を忘れないうちに次の作業の準備を始める。
「と、その前に、届けなければならぬな」
 考え直したシルヴァンは魔力炉へ火を入れる指示を取り消した。
 自身の満足には達していないものの、仕上がった刀は凡庸な出来ではない。デビルとの激しい戦いが続く今、タマハガネ村で眠らせておくにはもったいなさすぎる。
 シルヴァンは自ら刀を届ける為にパリ行きを決めた。
 ラルフ卿は現在、ヴェルナー領の中心地であるルーアンの城にはいなかった。新たに発見されたヘルズゲートに向かったとの報は受けてたが、正確な位置は秘密とされている。
 それ故にパリのコンコルド城内にあるブランシュ騎士団黒分隊詰め所に預けた方が、より確実にラルフ卿の元へ届くであろうとシルヴァンは考えたのだ。
 最終的に誰の所有になるのかはラルフ卿に託される。ラルフ卿本人か、もしくはエフォール副長のどちらかであろう。
 雨の降る日の朝、シルヴァンは刀吉が御者をする馬車でタマハガネ村を出発する。
 翌日の夕方にはパリへ到着し、もう一つの目的である鍛冶を手伝ってくれる冒険者を募集する為にギルドを訪れるのであった。

●今回の参加者

 ea7372 ナオミ・ファラーノ(33歳・♀・ウィザード・ドワーフ・ノルマン王国)
 eb2927 朧 虚焔(40歳・♂・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb3227 フレイ・フォーゲル(31歳・♂・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 eb5734 ニセ・アンリィ(34歳・♂・ファイター・ドワーフ・モンゴル王国)
 eb7692 クァイ・エーフォメンス(30歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ec2965 ヴィルジール・オベール(34歳・♂・ファイター・ドワーフ・ノルマン王国)
 ec3959 ロラン・オラージュ(26歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ec4355 春日 龍樹(26歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)

●サポート参加者

セレスト・グラン・クリュ(eb3537)/ アンリ・フィルス(eb4667

●リプレイ本文

●それぞれの出発
「私は後にパーム町へと向かう予定なので、先に村の仕事をお手伝いしていますぞ」
 一日目早朝、冒険者ギルド前。フレイ・フォーゲル(eb3227)は自前のフライングブルームに跨るとタマハガネ村を目指して青い空へと消えていった。
「まだ運ばれてはいないはずだ。少しだけ寄り道をしてくれるか?」
 冒険者と共に馬車へ乗り込んだシルヴァンは、御者の刀吉にコンコルド城への立ち寄りを指示した。
 ヴィルジール・オベール(ec2965)から新しく打たれた純ブラン製の刀剣を拝見したいと願われた為である。すでに刀剣はブランシュ騎士団黒分隊に預けられていた。
 門番の詰め所で黒分隊の隊員を呼びだしてもらう。
 現れたレウリー隊員は一振りの刀剣をシルヴァンに手渡す。シルヴァンは包んであった袋を取り去ってからテーブルにつくヴィルジールの前に置いた。
「これがブランで打った刀ですか‥‥。それでは拝見」
 ヴィルジールは手にとって刀身を眺める。一目で違う白き鋼。シルヴァンから聞いた重量より軽い印象があるのはバランスがよい為であろう。
「これがシルヴァンエペを越える刀剣‥‥」
 ロラン・オラージュ(ec3959)も新たな刀剣を見せてもらう。
 刀剣の銘は持ち主に知らせてからだとシルヴァンは内緒にする。
 約三十分の滞在の後、一行はあらためて馬車へ乗り込んだ。タマハガネ村に到着したのは二日目の宵の口であった。

●クレセントグレイブ
 フレイは到着した翌日からレミエラ作りをしていたガラス職人エルザを手伝っていた。
 他の冒険者は三日目からクレセントグレイブの作刀に従事する。
 穂先打ちはクァイ・エーフォメンス(eb7692)と春日龍樹(ec4355)、ヴィルジールとナオミ・ファラーノ(ea7372)の二組。研ぎはニセ・アンリィ(eb5734)が一手に引き受ける。ロランは鋼類の材料となる砂鉄運びに汗を流した。
 クレセントグレイブに携わる作業は八日目一杯で終了する。残りは各自の作業に割り当てられた。

●ロラン
「デビルの脅威ですが――」
 八日目の宵の口、ロランはシルヴァンの家屋を訪ねる。そして昨今の地獄の様子について見聞きしてきた内容を語った。
「それは本当なのか?」
 シルヴァンにとって信じがたいようで、ロランは途中で何度も聞き返される。
 率いる軍団そのものを転移するもの、儀式による力を得て無敵の身体を得ていた怪物、デビルを回復する能力を持つ司令官など話しは多岐に渡る。その中でも特に問題なのが、以前から判明しているように真のデビル本体への攻撃方法である。
「地獄の戦いにおいて、シルヴァンエペやクレセントグレイブの必要性を改めて感じました」
 ロランは自らの考えをシルヴァンに伝えた。
「デビルスレイヤーが付加した改良型のクレセントグレイブへ、さらにレミエラのデビルスレイヤーを重ねたのなら、本来の力を持つ下級のデビルにも対抗しうるはず。中級、上級のデビルには工夫も必要だろうが‥‥まずは下級デビルを排除しなければ始まらないからな」
「その通りです。私はひとまず自分の刀剣を打つのではなく、これまで手伝ってきたクレセントグレイブの作業を一冊の本にまとめるつもりです。新しい人がやって来た場合の参考になるような本を目指します」
 ロランの申し出をシルヴァンは受け入れる。冒険者仲間が自らの刀剣を打つ間、ロランは本の執筆を行う事になった。
 空いた時間はクァイと一緒に仲間達を元気づける料理作りに腕をふるうのであった。

●春日龍樹
 鎚を振り下ろす度に真っ赤な火花が激しく散らばる。
 冒険者用の作刀小屋『火床』で春日龍樹は試作の刀剣を打ち続けていた。すでに目指す大太刀の姿は成しており、細かな修正を加えてゆく。
 とはいえ、一・八メートルを越える長さがあるので当然スケールも大きくなる。ジャイアントの巨体も手伝ってか、かなりの迫力が感じられた。
「お? いらっしゃったのか?」
 春日龍樹は一段落がついた時にようやくシルヴァンがいたのを知る。かれこれ三十分前からシルヴァンはその場に立っていた。
「話しかけるのはとてもはばかれる雰囲気であったのでな。調子がよいようで何よりだ」
「いやいや、俺はまだまだだ‥‥。剣も鍛冶も力技に頼ってしまっているのではと不安で一杯なのを消し去る為に、また力を込めて鎚を振るってしまう。堂々巡りをしている気持ちからどうしても抜け出せないでいる」
「気にしないで打てばよい。そうすれば見えてくるものもあるはずだ」
「そういってもらうといくらか気持ちを安らぐ。そうそう、この前の答えだが――」
 春日龍樹は本番の焼き入れの時にハニエルの護符を使わせてもらいたいとシルヴァンに願い出た。その時には貸しだそうといってシルヴァンは強く頷く。
 その他にブラン合金についての質疑応答が交わされる。
 答える前にシルヴァンは二割五分から三割配合のブラン合金はあまり意味がないと答えた。一般の道具類で作刀するのは二割のブラン合金までが限界である。それ以上は以前に手に入れた三種の道具類が必要となる。それでいて三割では二割と大した性能差は感じられないという。
「無駄とはいわないが、作刀の難易度があがるばかりで三割前後のブラン合金はよい鋼材とはいえぬ。そこまでやるのなら純ブランまで突っ走った方がよい。とはいえ予算もあるだろうから無理には勧められないのだが‥‥」
 20EPを想定するのなら三割ブラン合金と一割ブラン合金で作ったとして800G前後だろうとシルヴァンは春日龍樹に伝えるのだった。

●クァイ
「銘は僭越ながら『クァイエペ』と命名致したく存じます」
 クァイは作刀の続きを始める前にシルヴァンの元を訪ねてこれから打つ刀剣の銘を告げた。
「なるほど。その銘、了解しましたぞ。かなりのところまで進んでいるようなので期待している。是非にがんばって欲しい」
 シルヴァンに励まされてクァイは作刀を開始する。
 前回は鋼材を鍛え上げた所で終わっているので、今回は造り込み組み合わせとなった。複数の硬さが違う鋼材を組み合わせて刀身の形に近づける大事な工程だ。
 シルヴァンエペを手伝う際に得た知識や腕を総動員して丁寧に打ち上げてゆく。途中、シルヴァンからの計らいで鍔九郎が手伝ってくれる。ドヴァーリンの槌+1も使用して作業は進んだ。
 大まかな刀身となった所でさらに丁寧に鎚を振るう。目だけではなく指先でも刀身の形を知る。そして修正を加える。
「これで‥‥いいでしょう」
 クァイは満足な所まで追い込んだ刀身を眺めた。
 後は土置きをし、焼き入れを行えば完成したようなものだが、それには時間が足りなかった。
 最終的な仕上げは次回への持ち越しとなった。

●ナオミ
「さてと、ここは気合いを入れて頑張らないとね」
 ナオミは斧頭の作刀に入る。試作なので大鍛冶で調整された鋼での挑戦となった。
 まずは折り返し鍛錬によって鋼を鍛えてゆく。
 クレセントグレイブの穂先打ちでブラン合金の特性を知ったナオミである。層をなさせて微妙なしなりを引きだそうとしていた。
 当然、今使用している鋼はブラン合金ではない。それでもわざと本番を想定して作業をなぞっていった。
 刀吉に相槌を手伝ってもらい、真っ赤な鋼の塊を広げては曲げてを繰り返した。
「こんな感じでいいわね」
 数日をかけて大まかに形作ると整える作業に入る。
 本番では先端に銀製の槍を装着させるつもりでいた。試作では鋼で造るが、取りつけ部分の構造もちゃんと用意する。木製の柄を挟んで反対側に取りつける石突も同様だ。
「銘は‥‥どうしようか悩んでいるの」
「候補があれば聞かせてもらえるだろうか?」
 休憩中に現れたシルヴァンとナオミは雑談をする。
「セレスティアルだと安直過ぎるわね。天空という意味だけど。煉獄の、浄罪のという意味を持つパーガトリアルなんてどうかしら? 美しき翼を持つ者のスパルナ辺りも捨てがたいのだけど」
「どれも良い銘だ。決まった時を楽しみにしている」
 しばしのお喋りの後で、ナオミは再び作業へと戻った。
 象眼まで作業は進行したが、金銀銅の彫金素材は村の備蓄から提供される。
 本番の作刀時にまとめての精算でよいとシルヴァンがいっていたからだ。現金のみではなく、材料そのものの補填でも大丈夫である。
 ナオミの試作は焼き入れまで終わった斧頭に象眼を施すまでに至る。他の部分は手つかずだったのは象眼に情熱を注いだ結果だった。

●ヴィルジール
「さて鋳造ですと、いきなり本番のようなものですな」
 ヴィルジールは悩んだ末に決断する。シルヴァンの鋳造作業の後に、自らの野太刀も太陽の箱で象ろうと。
 魔力炉に複数のウィザードによって魔力が注がれた。しばしの後、融けた純ブランが太陽の箱へと流れてゆく。
「次はヴィルジールさんの番だ。落ち着いてやれば平気だぞ」
 シルヴァンと交代してヴィルジールが魔力炉の前に立つ。
 クァイが提供してくれたプラウリメーのロウソクのおかげで魔力炉内の熱さは保持されていた。
 夢枕に現れたハニエルのお告げによって、太陽の箱の一つは既にヴィルジールの考えるままの野太刀の型に変化済みである。後は融けた純ブランを注ぐのみだ。
 眩しさを堪えながらヴィルジールは作業をこなす。
 終わってみれば大した事ではないのだが、腰を抜かしかける程の緊張を味わったヴィルジールだった。
 冷ます工程が行われ、二振りの純ブランの刀剣がそれぞれの太陽の箱から取りだされる。
「おおまかな計算になるが、純ブランを使ったので2000G程を用意して欲しい。だが、急がなくてもよいぞ。完成品を受け取った時で構わない」
 ヴィルジールが訊ねた費用の質問にシルヴァンが答えてくれる。焼き入れ時のハニエルの護符についても許可をもらう。
「これが‥‥ワシの野太刀になるのじゃ‥‥」
 それからパリに戻るまでの数日間、ヴィルジールは鋳造から取りだされた荒々しい刀身を見つめ、今後の工程を考え続けるのであった。

●ニセ
 淀みなく、迷いなく、ニセは鎚を振り下ろす。
 鍔九郎と刀吉に相槌をしてもらって青龍偃月刀の刃を打ち続ける。
 ニセの心にあるのは千年後も人々の力となれる武器を仕上げる事であった。
 ブランの比率が違う皮鉄と芯鉄を作り上げ、被せの技法で造り込んだ。この時、ニセはゴヴニュの麦酒を呑んで作業にあたる。
 朝日がもうすぐ昇ろうとする頃、ニセはシルヴァン用の火床を借りて焼き入れに挑んだ。
 シルヴァンが外に出ると、ニセは一人作業を行う。
(「ここは失敗すればすべてが終わりズラ‥‥」)
 念入りに土置きを施した刃が真っ赤に輝く。その様子をニセは見つめ続けた。
 頃合いを感じたニセは瞬時に刃を取りだして冷水に浸す。水槽の底には白き輝きを放つハニエルの護符があった。
 蒸気に包まれながらニセは微動だにせず、じっと待ち続ける。
「その様子だとうまくいったようだな」
 しばらくしてシルヴァンが火床へと戻ってきた。
 水から揚げられた刃を眺めてニセとシルヴァンが頷き合う。
 ニセは焼き戻しで硬さを調整した後で、小槌を使って最終的な形を整えた。
 一眠りしてから研ぎと仕上げもニセ自らの手で行われる。この為にクレセントグレイブの穂先を研ぎ続けてきたのである。
 切先に最大限の注意を払い、明瞭に角を立てて正確に研いでゆく。
 銘は『青龍偃月刀「月光」』とつけられる。
 以前に交わされたシルヴァンとの約束通り、受け取りは次の機会以降とされた。

●フレイ
 ヴェルナー領ポーム町リュミエール図書館に到着したフレイは魔法鍛冶に関する書物探しに没頭した。
 タマハガネ村ではエルザを手伝いながらレミエラのバーニングソードの研究を続けていたが、これといった成果は得られなかった。
 レミエラは便利なものだが、有用な効果を探すには偶然性に頼る部分が大きい。狙って発見するのはとても難しく感じられた。
 それ故に文献をあたるのは有意義だとフレイは考える。調べていたのは魔法鍛冶についてだが、もしかするとレミエラのヒントも隠れているかも知れないと。
「『魔匠ガ=ザ』や『イオニ=カイザン』の名が出てくる本はあっても、魔法鍛冶の秘術を記したものは皆無‥‥。あっても胡散臭いものばかりですか‥‥」
 一日中図書館で本を読み続けたフレイは、月光が指す部屋のベットで横になって天井を見上げていた。図書館側が特別に貸してくれた休憩室である。
 ちなみに今回も調査費を払おうとしたフレイだが、当分は平気だと図書館側に遠慮される。
 『グラム』なる魔剣についても伝説は残っているものの、具体的な記述があるものはなかなか見つからなかった。
 絶望を感じながらフレイが調べてゆくと三冊の本に遭遇する。
 どの本もフレイが知らない文字で書かれてあった。司書達も知らないもので、どうやら暗号で記されているようだ。
 フレイはフライングブルームで去る前に、司書達に三冊の写本を頼むのであった。

●そして
 十五日目の夕方、依頼に参加した一同はパリの冒険者ギルドで再開する。
 シルヴァンから預かってきた追加の報酬とデビルスレイヤーのレミエラがフレイに渡された。