【開発計画】昇降用簡易グライダー・3

■シリーズシナリオ


担当:天音

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:5 G 97 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月21日〜11月28日

リプレイ公開日:2008年11月29日

●オープニング

 『昇降用簡易グライダー(仮)』、仮称『サドルバック』とは何ぞや?

 ユリディスによれば、フロートシップから迅速に地上戦力を下ろすための装置だという。
 ゴーレムを昇降させる装置を作るには、機体固定の問題やスペースの問題、その装置を動かす鎧騎士が座する場所の問題などで実現は難しくあるが、地上戦力――つまり白兵戦を行う人間を下ろすためのものならあるいは、という考えに至ったらしい。
 これはゴーレムや人員を下ろす際にフロートシップを停泊させると、敵の的になりやすいから何とかならないものか、という冒険者何人かからの相談により検討に至った装置だ。クリアしなければならない問題は多々あれど、ゴーレムを昇降させる装置よりは実現に近い代物らしい。
 ユリディスが工房長に相談した所、現在の技術と魔法的には多分可能だろう、という。挑戦した者はいないらしいが。

 具体的にどういうものかというと、チャリオットが垂直移動できて、フロートシップと地上を行き来するものだと考えてもらえれば簡単かもしれない。
 飛ぶというより浮かぶというものであることから、航空知識に乏しい鎧騎士でも操作できるものが望ましい。
 フロートシップを止めずに、兵士を乗せたサドルバック(仮)を起動させ、歩兵戦力を迅速に地上まで搬送する、それが目的だ。


 前回作成した素体と、今回の集まりまでに職人に作ってもらったのは、12mの機体と8mの機体。今回はそれに組み込む装置に魔法を付与し、試乗するまでが目的だ。

 ■浮遊機関…地のゴーレム魔法「浮遊機関」
 ■精霊力制御装置…火のゴーレム魔法「精霊力制御装置」
 ■送風管…風のゴーレム魔法「推進装置作成」
 ■精霊力集積機能…風のゴーレム魔法「精霊力集積機能」

 精霊力集積機能は全てのパーツが組み込まれたゴーレム機器に精霊力を吹き込み、周囲から精霊力を集積する能力を付与するので最後にかける事になる。
 ちなみに全ての基礎である「ゴーレム生成」は、前回の参加者に修得者がいなかったためにユリディスがかけたが、今回の参加者に修得者がいれば、そちらの付与も手伝ってもらう事になるだろう。
 パーツ自体は既に作成済みだ。次に解決すべき問題を記す。

 ユリディスの挑戦じみた言葉、「着陸する必要があるなら」チャリオット的な装置も必要とのこと。つまり、着陸する必要がなければいらない。一度着陸しないで済むのなら、着陸し、次に離陸するまでの間のタイムロスを減らせる。敵に停止状態を狙われるというリスクを減らす事ができるかもしれない。さて、この点をどうするか。
 それに加えて強力な風を噴射して着陸の衝撃を緩和する件と可変式の送風管を作る件、グライダーにつけられている巡航速度100km/h、最高速度200km/hのグライダー用送風管ではなく、中型フロートシップまでに使用される中型送風管をつけてみるという選択も残っている。
 風信器は携帯用を使用するので搭載はしない。

 そして、試乗。誰か一人が操縦者となって、実際に動作確認をしてみる。それが成功すれば今度は武装した兵士を乗せてみる。操縦者は誰もいなければユリディスが自分でやりかねない。
 8m型と12m型、どちらのどの点が良くてどの点が悪いか、それらを見つけ出せれば最終調整に近づくだろう。

 後は自分の技術、知識と相談してできる事を考え出して欲しい。
 新しいところから何かを作り出すという事は難しい。だがやりがいがあるのは事実。
 がんばってほしい。

 今回の人材募集は、ゴーレムニストに限定はしない。
 アイデアのある者、やる気のある者ならば来るもの拒まず、だ。
 ただしグライダーとチャリオットのいいとこどりをするとはいえ全く新規の開発となる。一朝一夕で出来るものではなく、根気の要る作業となることは覚悟してもらいたい。

●今回の参加者

 ea4426 カレン・シュタット(28歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・フランク王国)
 eb2928 レン・コンスタンツェ(32歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb8378 布津 香哉(30歳・♂・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 eb8388 白金 銀(48歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 ec5196 鷹栖 冴子(40歳・♀・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))

●リプレイ本文


「はぁ‥‥」
 ゴーレムニスト学園施設内で溜息を漏らすのは布津香哉(eb8378)。彼の前の魔法陣には精霊力制御装置が鎮座している。ゴーレム生成はすでにかけ終わっているので、後は彼が精霊力制御装置の魔法をかければよい。
「やっぱり俺ってネーミングセンスないのね。まあ、分かってたけどさ‥‥」
「そう落ち込まないの。ネーミングセンスが無いというより、今回たまたま目的に合わなかっただけだから」
 フォローになっているのかいないのか分からない言葉を吐きつつ、ユリディスは手をひらひらさせる。早く魔法をかけろという合図だ。
「先生、これってグライダーやチャリオットに搭載されている制御装置にかけるのと同じ位でOK? それとも、小型のゴーレムシップやフロートシップにかける位?」
 香哉にとっては素朴な疑問。だが職業柄装置を見ることの多いユリディスにとってはそうではなくて。
「良く大きさを見て。装置自体がグライダーやチャリオットに乗せるよりは大きいでしょう? だから、小型のゴーレムシップやフロートシップに載せるものと同じレベルでかけてみて。大は小を兼ねるけど、小は大の代わりにはならないから」
 なるほど、と納得して香哉は詠唱を始める。確かに装置が大きいのにかける魔法が小さいもの用だったら、魔法の浸透がうまくいかずに十分な精霊力を集められないのかもしれない。
 ゆっくりと詠唱が進み、香哉の身体が淡い赤色の光に包まれる――炎魔法の色だ。
 発動――無事に発動した魔法は、目の前の装置へとかかる。外見的変化が無いので本当にかかったのか良く分からないが、発動したということはかかっているのだろう。
「じゃあ、後一つもお願いね」
「はーい」
 もう1つ、魔法陣の上に置かれた制御装置の元へと向かう。
 今回必要な魔法を習得していたのは香哉だけだったので、ゴーレムニストとして魔法をかけるのは彼だけだ。もう一人、レン・コンスタンツェ(eb2928)もゴーレムニストだが、彼女が習得しているゴーレム魔法は残念ながら今回使用しない。彼女は今別の部分で頭を働かせている。
「余裕があると判っている12mの方は普通に作って、搭載人数とか装甲、着地部分の強化のどれかに当てはめる方がいいかな」
 設計図を見ながら彼女は色々頭を働かせている。
「8mは実験機体と割り切ったほうがいいでしょう」
 横から口を挟みながらも魔法付与をしっかり見学しているのは白金銀(eb8388)。ゴーレムニストを目指している者の一人だ。
「12mは本格的に荷重実験だねぇ」
 同じくゴーレムニストを目指している最中の鷹栖冴子(ec5196)もぽつり、と呟いた。
 その視線の先では、助っ人に来たゴーレムニストとユリディスが、不足している魔法の付与を行っていた。

 さて、魔法の浸透を待つ間に。一同はスコップを手に工房近くの広い場所の土を掘り返していた。ここはゴーレムの起動実験などに使われる場所のひとつで、今回はここでサドルバックの試乗が行われることになっていた。その着陸衝撃の緩和、万が一の墜落に備える為に土を掘り起こしているというわけだ。ちなみにユリディスはもちろん肉体労働を拒否している。いや、だれもやれなんていってないけど。
「いや〜、肉体労働は身体にきますね」
 そう言って汗をぬぐう銀は結構いい年だ。
「私は肉体労働には向かないんだよね〜」
 細身のレンはすでにばてている。
「俺は並のゴーレムニストより体力はあるほうだと思うけど、さすがに四人だと辛いな」
「まあ、もっと人手を借りられりゃよかったんだろうが、ねぇ」
 ざくざくと土を掘り返しながら香哉と冴子が呟いた。あれだ、工房も人手不足であり、さすがに土を掘り返すための人材を借りることはできなかったのだ。せめてもの手伝いとして、サドルバックの着地衝撃吸収のために巻くぼろ布は持ってきてくれた。だが荷重実験の為の荷はこの後自分達で運び出さねばならない。
「――地味な作業だけど仕方ないよね」
 ふう、レンが小さな溜息をついた。



 まずは起動。念の為にフェアリーダストを使用した銀が8mを起動させる。航空の知識もある彼だ。高度を上げて発進させるのは難しくない。
「おー動いた動いた」
「動かないと困るのよ」
 喜ぶ香哉にユリディスが突っ込みを入れる。だがその顔には笑みが浮かんでいる。
「搭載量の実験をするから、おろしてー」
 レンが下から両腕を降る。上空で頷いた銀が高度を下げ――どすんっ!
 布と柔らかい土で多少衝撃は吸収されたが、やはり振動がすごい。グライダー用の送風管ではやはり威力が弱いようで。
「つっ‥‥けっこう腰に来ますね。やはり中型の送風管をつけるか、小型をもう一つつけたほうが良いでしょうか」
「でもそうすると装置だけでだいぶ重くなるし場所もとるんじゃないか?」
 腰をさすりながら降りてきた銀に、荷物を運び込みながら香哉が告げる。確かにそこが問題であった。
「まあ元々こっちは実験機だし。このままでどこまで耐えられるか試してみようよ」
 レンの提案で、何回かに分けて荷物を載せていく。普通のグライダーが200EP、チャリオットが500EPまで乗せられる。グライダーは最大二人、チャリオットは5.6人程度が限界だから、目標に達するには、チャリオットの約倍載せて動かないといけないのだが――。
「――約600ってところだねぇ」
 冴子が浮かび上がった機体を見て唸る。これ以上増やした場合浮かび上がることはできても、迅速な移動ができないので戦場に投入することはできない。ここがぎりぎりのラインだ。
 機体自体が重い分、搭載量があまり伸びなかった。加えて装置も増えている分、搭乗スペースも限られる。
「じゃあ次、12mいこうか。こっちは成功するといいな」
「あいよ、あたいに任せておきな」
 機体を撫でながら言った香哉に、冴子が勢い良く頷いた。



「おっと‥‥」
 起動。起動はするのだが、航空知識のない冴子には浮かばせることが少し難しい。念の為にフェアリーダストをもらっておいてよかったと思う。浮かんだかと思うとどすんっと地面にぶつかる辺り、ちょっと怖い。
「うーん、操縦性に難有り、だね」
 腕組みしたレンが呟くと、ユリディスもそうね、と頷いた。
 当初この装置は「航空や地上車の知識が無くても誰でも動かせるもの」を目指して提案された。試行錯誤の末それらをすっぱり切り捨てたのだが、やはり大きいものになればなるほど付随する知識は不可欠のようだ。
「よっ‥‥こんな感じかい?」
 先ほど銀がやっていたのをみようみまねで何とか頑張る冴子。とりあえず起動、浮遊には成功。だが着陸は――
 ガタガタンッ!
 非常に衝撃が強かった。
「あいたたた‥‥ちょっくら外装もやられちまったかね?」
 その辺は責任を持って彼女が直す。木工なら任せろ、というところだ。
「これ、荷物載せたらちょっと危なくない? 代わりに香哉さん乗ってみたら?」
 地球出身の香哉はゴーレム操縦の腕も航空の知識も持っていた。レンに勧められ、「俺にできることなら協力するよ」と頷く。
 『誰でも操縦できる機体』になっているかどうかをテストするために、航空や地上車の知識が無い冴子をパイロットに選んだのは良かった。だが結果はやはりそれらの知識がないと操縦のレベルにいたるのは難しいということがわかった。これも大事なことだ。知識がある者が乗っていただけでは判らないのだから。
「さて、起動っと」
 とりあえず8mの機体で限界だった600EPから始めてみる――問題ない。
 次に700、800と試していく。
 1000EP載せても機体はスムーズに動いた。
 だがこれ以上はスペースと載せたものの関係もあって、搭載物が崩れてくる恐れがあるので断念。
「地上付近での安定性――中でも着地時の衝撃に問題がありますね」
 銀がメモをとり、改善案を頭の中でしっかり練りながらユリディスに告げる。12mの機体は着地時の衝撃で載せていた荷物を落としてしまったのだ。これが人間だったら多少は自分でバランスをとって耐えるかもしれないが。
「やっぱり最終的には人を乗せてみないとわからないねー。先生、なんとかならない?」
「そうねぇ‥‥じゃあ知り合いに当たってみるから、荷物の後片付けは頼んだわよ?」
 レンを初めとした四人に微笑み、ユリディスはどこかへと向かっていった。



「何ですか、これは」
「安全性は確保されているのですか?」
 翌日。試験場に現れたのはどうやら城の兵士達。ユリディスが非番の兵士達に声をかけたのだという。どんな『魔法の言葉』を使ったのかは知らないが、集まった兵士達は一様に動揺していた。当たり前だ、今まで見たことの無いゴーレム機器に乗れと言われているのだから。というか、『きちんと武装してきて頂戴』と言われた時点で甘い内容ではないということに気づいて欲しい。
「少し着陸に問題があるくらいだけど、昨日操縦した彼らが無事なんだから大丈夫よ」
「「「‥‥‥‥」」」
 そういわれ、じっと四人を見回す兵士達。とりあえず四人は愛想笑いを浮かべておく。
「操縦は俺がしますんで。きちんと航空の知識もあるので安心してください」
 ――重さのせいでうまく着陸させるのは難しいんだけど――そんな内心は隠しておく。
 にっこり笑んだユリディスを見て、兵士達はしぶしぶながら12mのサドルバックに乗ってくれた。とりあえず6人から試し、順に人数を増やしていく。
「兵士の体重が60kg位だとして、重装備だとこのくらいだから、このくらいに耐えられれば問題なし」
「ジャイアントとかがのるとなれば話は別ですけどね。取り合えず普通の人間が乗ると考えていいんじゃないでしょうか。種族まで細かく考えていたらきりが無いですし」
 レンと銀は合計重量の計算に入る。機体の重さはチャリオットの倍以上、これはグライダー向けの装置も積んでいるのだから仕方が無い。その上チャリオットのように地面スレスレを走るのではなく、グライダーのように飛ばさなくてはならないのだから、あまり沢山は乗せられないだろう。
「よし、9人っ」
 9人の武装兵士を乗せてサドルバックが浮かび上がる。冴子がその光景を見て声を上げた。重量的にはまだ余裕があったが、スペース的な問題もあってこれ以上人を乗せるのは難しそうだった。軽装備の者ならあと一人くらいは乗せられそうだが。
「その分、着地の衝撃緩和のための装置を乗せたほうがいいかもね」
 ガガガッドスンッ!
 機体が破損するんじゃないかというくらい素敵な音を立てて着地したサドルバックを見て、レンが呟いた。それには銀も冴子もユリディスも頷いた。