【王立ゴーレムニスト学園2】実地研修
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■シリーズシナリオ
担当:天音
対応レベル:8〜14lv
難易度:難しい
成功報酬:5 G 97 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月04日〜11月11日
リプレイ公開日:2008年11月12日
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●オープニング
「今回は座学ですか?」
冒険者ギルドで職員に尋ねられたユリディスは、腕に抱いた猫、リリィを撫でながら首を振った。
「今回は素材見学。森に行こうと思うの」
「森?」
聞き返す職員にユリディスは頷いてみせる。
「フロートシップもゴーレムシップもグライダーも木製。ということはその素材はどこから来ているの?」
「それは‥‥森とか林、でしょうねぇ‥‥」
「でも、木もそこら辺に生えているのを持って来ればいいって物じゃないし、きちんと『木のお世話』をしている人がいるの。そこで素材の見学。あとなにか掘り出し物があれば、臨時に買い付けする予定よ」
さらり、髪をかきあげる彼女。かなりの美人のはずなのだが浮いた噂がないのはやはりゴーレムニスト=雲の上の人というイメージがあるからだろうか。それともまさか工房長とデキ‥‥いや、恐いので睨まないでください、先生。
「ちなみにその木の世話をしている人ってどんな人たちなんです?」
「エルフの人たちが数家族単位で世話をしているって聞いてるわ。子供もいるようだし、何かお土産を持っていけば喜ばれるかもね」
「そこで‥‥何を学ぶ、と?」
職員の言葉。確かに素材を「見るだけ」では本当に見学だ。
「普段私達が見るのは綺麗に切断された木材。けれどもそれも元は生きている木。それを伐採してゴーレム機器に使っている――それを目で見てきちんと理解して欲しいの。頭で理解するんじゃなく実際に見たとき、何を感じるか――」
「何を感じるか‥‥」
「これ以上ヒントは出せないわ。だってそうしたら研修じゃなくなっちゃうでしょう?」
くす、口元に笑みを浮かべるユリディス。職員も「そうですね」と頷いた。
「あと、今回ゴーレムニスト志望を追加募集するから」
「え?」
「人手不足なのよ。新型の案もあるし金属ゴーレム量産も計画はあるけど、ゴーレムニストが足りないの。今から育てたって使い物になるまでは時間がかかるだろうけど、それでも後々を考えれば育てておくに越したことはないでしょう」
でも、最初の面接と授業を受けてはいないじゃないか、職員はそういう。
「そうね。その分少し追いつくのが大変だと思うけど、それでも講義を受けてみたいという人を募集するわ」
ちなみに新規参加者の面接は移動の馬車の中で行われるという。
学園入学を希望した動機、学園で何を学びたいか、いずれはどんなゴーレムニストになりたいか、そんなことを聞かれる。
もしもウィル出身の人と地球人がいたら、『何故メイでゴーレムニストになることを選んだのか』も添えておくのがよい。
「後は前回どおり、助手と補習希望者も募集するわ」
助手は文字通りユリディスの手伝いをすることになる。今回は授業の記録をとることと、実地での生徒の様子を観察して報告書を作ることが主な仕事だ。余裕があれば、素材を見た自分の感想や、次の授業案なども提案してみるといい。ちなみに助手はゴーレムニスト限定だ。
あとは補習希望者。こちらはゴーレムニストの課程を修了した者、既にゴーレムニストとなっている者の二者が対象になる。講義内容は新規希望者と同じだ。
助手も補習希望者も授業の欠席は可能だ。毎回必ず出席しなければならないというわけではない。だが今までとは違った内容の授業が行われているため、目新しい発見があるかもしれない。
ちなみにゴーレムニストは他国への渡航が難しい職業である。
ゴーレムニストは要職だ。ゴーレム工房に入るということは国内のゴーレムの機密を知る事にもなる。そんなゴーレムニストが他国へ渡ったらどうなるだろうか?
ゴーレムニストはお金持ちだ――そういう認識から、強盗に襲われることもある。それだけなら国内でも十分ありえることだが、問題は他国のゴーレム工房に関わった場合。
メイのゴーレム工房関係者だと分かれば間諜だと疑われるのは間違いない。また他国に情報を売ろうとしても、簡単に国を裏切るような者を信頼する者達はいない。その上もしメイに戻ってきたら――?
もちろん、こちらのゴーレム工房にも入れるわけには行かなくなる。他国のゴーレム工房に関わった者は、情報を漏洩した裏切り者である可能性と、あちらからの間諜の恐れがあるからだ。
事実はどうであれ、どちらからも疑われるのは間違いない。結果的に、どちらの工房にも入れなくなる可能性が高い。
ゴーレムニストになるということは、その後の身の振り方もある程度縛られるという事。それを覚悟の上で志願して欲しい、と。
●リプレイ本文
●ゴーレムニスト学園ご一行様。
講師のユリディスと生徒の白金銀(eb8388)に鷹栖冴子(ec5196)。補習希望者の門見雨霧(eb4637)にユリディスの助手のカレン・シュタット(ea4426)と布津香哉(eb8378)――六人は「木の世話をしている人達」がいるという森近くに来ていた。ちなみに猫のリリィはお留守番だ。どうやらユリディスには工房に猫好きの友人がいるようで、彼女に預けてきたようである。
「ゴーレムの材料の一つである木材の元となる木は、長い年月と多くの手間をかけ、育てられると聞きます」
銀が眩しそうに森に目をやる。
そう、木材となる木は一朝一夕で育ちあがるものではない。切るのは簡単だが、育てるのには多くの時間と手間がかかる。
「お待ちしていました。ようこそいらっしゃいました。たいしたおもてなしはできませんが、ごゆるりとお過ごしください」
「有難う。手間をかけさせるけれど、宜しくね」
一行に近づいてきたのはエルフの男性数人。ここで林業を行っている者達の代表なのだろう。ユリディスは彼らに微笑み、頷く。ちなみにここの森付近では数家族が木の世話をするということで住み着いている。一箇所に固まって建てられている何軒の家の戸口から、ひょっこりと様子を覗っている小さな瞳もいくつか見えた。
「こんにちは?」
カレンがそれに気がつき、微笑みかける。すると子供達はもじもじと恥ずかしそうに顔を見合わせ、どうしたものかと困っているようだ。商人や役人以外で王都から訪れる者達が珍しいのだろう。
「坊主、嬢ちゃん、美味しい果物を使った菓子を土産に持ってきたんだ。貰ってくれねぇか?」
冴子が荷物から包みを取り出す。包みの中にあっても甘い香りがほんのりと漂ってきて。わぁぁ、と声を上げて子供達が駆け寄ってくる。
「ほら、面白い置物だぞ?」
香哉が取り出したのは素焼きの埴輪。家にあって置き場に困っていたのを持ってきたらしい。
「こっそり学園のオブジェにでもしようと思ったんだけど、この方が喜んでもらえそうだし」
「なにこれー、変なお人形」
「私が撤去する前にリリィが壊すんじゃないかしら?」
子供達は変だ何だと言いながらも埴輪には夢中で。ユリディスは悪戯猫のリリィを思い浮かべていた。
「こちらは皆さんでどうぞ」
銀は荷物から沢山のお土産を取り出した。御酒にお菓子にパンに香り袋、受け取った男性達は恐縮しつつも嬉しそうだ。なかなか王都まで出てくる機会もないのだろう、こうしたものが手に入るのは珍しいのかもしれない。
宿泊は全員一緒に一つの家には泊まることができないので、女性三人と男性三人で別々の家にとめてもらう事に決定した。食事は一緒に取ることができるというので、意見交換などは寝る前までに行えるだろう。
●見学
「何気なく使っているけど、木材にできるまで木を育てるのって何年もかかるし、森とかの管理もしなくちゃだしで大変なことなんだよね。だから、木材も貴重なものなんだよね」
森の中を足元に気をつけながら歩き、雨霧が呟く。その手が添えられた樹皮は硬く、しかし何となく幹の中に息づく力強さが感じられる気がする。
「ナマの素材に触れることでゴーレムの成り立ちを肌で感じる、か。あたいは大工だからねェ。材木の良し悪しで仕事が決まることは百も承知さ。良いゴーレムは良い木から生まれるんだろう」
冴子がなんだか懐かしそうに木々を見上げる。地球でのことでも思い出しているのだろうか。
「グライダー用の木ってのは急旋回した時とかに風の抵抗にしっかりと耐えられて粘りのあるのがいいんだ。これはグライダー乗りとしてはまだまだな俺でも、乗ってて実感したことだけどね」
ふと、助手に与えられた任務を忘れて木々を見入る香哉。
「‥‥なんだか、落ち着きますね」
羊皮紙を手に生徒達の様子をメモしていたカレンがその手を止めて呟く。それは彼女がエルフだから特別に感じるのではないだろう。木々には人の心を癒す効果がある――だから、思わず見入ってしまう。
「こちらではどのように木々を育てるのでしょうか? 植林や間伐の仕方は? ちなみに天界の地球ではですね‥‥」
銀が案内にとついてきてくれた男性に熱心に話しかけている。男性も地球の話を面白そうに聞いていたが、こちらでの林業の方法を聞いて銀は驚いた。
アトランティスではあまり間伐や植林といった概念がないらしい。基本的に森が荒れないように、伐採する木を選んで切るのだという。ここに住む人々はゴーレム機器に使う樹木として森の世話を行っていることから、他の場所よりは気が配られているらしい。だがそれでも人が入りやすく、木々の生長が良いように森に手を加えるだけで、銀が話したような本格的な林業とは違うらしい。
「エルフとしては、木々が伐採されることは辛いことだと思います。それでも貴方達がこうしてゴーレム機器のために木の世話をしているのは何故なのでしょうか?」
それはエルフのカレンならではの問いだろう。同じエルフだからこそ、分かる痛み――。
「確かに木を切るのは辛いです。ですがゴーレムに私たち国民が助けられているところは大きいです。でしたらせめてすばらしいゴーレムになれるように、それまで心を込めて世話をしてあげるのが、木に対する愛情だと思っているからです」
男性は自身の意思に誇りを持っているのだろう。凛とした表情で告げた。
●青空授業
食後、ランタンをいくつか置いて家の外に皆で集まる。秋の空は高い。月精霊が煌いている。少し肌寒くなってくる季節だが、折角綺麗な空気の場所へと来たのだから、暫く外で語り合うのも良いだろう。
「同じ木でも木材にする箇所によって使用用途が異なるけど、ゴーレム機器に向く箇所とかもあるの?」
「素体にする場合には木目が安定していて、節が少ない、木材として最良の部分を使うわ。大きさを考えると、普通は幹に近い部分を使うわね。ちなみに木の種類で能力や膨張率に差はでないけど、元々が柔らかい木材は使わないわ」
雨霧の質問に、カップに入った薬湯を両手で持ったユリディスが答える。生徒達は非常に熱心で、質問してはその内容と回答をしっかりとメモしていく。さながら青空教室といったところだろうか。
「家を作る場合と似たようなもんなんだねェ」
あたいの知識も役立つといいんだが、と冴子が呟く。
「ところで姐さん、月道はどうするんだい? あたいらもジ・アースってのに行けるみたいだけど、ゴーレム技師の制限になるのかい?」
何気なく問うた冴子の言葉。中にはこの問いの答えを予想していた者もいるだろう、それでも彼らはじっと回答を待つ。
「基本的に他国への渡航制限と一緒よ。国としては貴重なゴーレムニストを手放したくないから止められるでしょうけれど‥‥最終的にどこに行くか決めるのはあなた達自身。でも他国のゴーレムニストがすぐ行き先で信用されるとは限らないし、ジ・アースとやらでゴーレムを造れる環境があるとは限らないわ。第一ゴーレムという装置の存在自体が信じてもらえるかすら分からないし」
「よくわかった、もういいさね」
地球から来た者達は、自分達が元いた場所での知識をアトランティスの者に理解させること自体にとても苦労することがある。それと同じことがジ・アースでも起こると考えればよいだろう。
その「アトランティス人」とは違う発想を物怖じせずぶつけてくる生徒がここにもいる。香哉だ。
「ユリディス先生。ちょっと質問というか疑問」
「なぁに?」
「ゴーレムの中で魔法を唱えても発動しないけど、ゴーレムに印を結ばせて搭乗者が詠唱したら魔法は可能にならない? 精霊力を集積できるんだし‥‥こういう考えはおかしいのかな」
香哉の言葉にユリディスは少し驚いたように目を見開き、そしてふふ、と笑みを零した。
「相変わらず面白い発想するわね、貴方は。そうね‥‥可能か不可能かでいえば不可能ね。ゴーレムの手が複雑な印を結ぶ動きに対応していないの。だからまずここで不可能。仮に結べる印があったとしても、発動しないって聞いているわ」
「何故?」
「そこを突っ込まれると痛いのだけど。そうした研究を行うゴーレムニストって普通はいないから‥‥ゴーレムで魔法が使えない理由は不明としか言えないの」
申し訳なさそうに告げるユリディス。彼女自身も相当変わったゴーレムニストのように思えるが、こうした話を聞いていると彼女はまだまともな方なのかもしれない。
「じゃあ、極端に属性の強い種族の力を借りてゴーレムを作れば、水なら水、火なら火と特化したゴーレムは造れないの? ドラグーンは力を借りて作っているって聞いたけど。その‥‥ナー」
矢継ぎ早に質問を発する香哉の口を、ユリディスの白い人差し指が塞ぐ。ドラグーンに関しては重要機密だ。どこで知ったかは知らないが、このような所でぺらぺらと喋ってよいものではない。
「そこまで。まず‥‥『極端に属性の強い種族』というものが存在しないのよ。種族ごとに特定の精霊力に親和性があるという考え方は、精霊魔法使いでもあまりしないわ。個人が特定の魔法が得意なように見えることはあるかもしれないけど、元精霊魔法使いが多いゴーレムニストでも付与魔法に差が出ないから‥‥そういうことを考えた事のある人はいないでしょうね。‥‥特定の精霊力に親和性の高そうな種族にでも会った?」
「‥‥っ!!」
ユリディスの不思議そうな、だが全てを見透かしたような言葉に香哉は呻く。彼は表面上はお茶らけて悟られないようにしていたが、今その心の中は悔しい思いが渦巻いている――救えなかった命を思って。
「‥‥いや」
それ以上、言葉が出てこなかった。ユリディスも、それ以上問わない。仲間達も、きっと何かあったのだろうと察したのだが、問うことはできなかった。
「質問」
その沈黙を打ち破ったのは雨霧。小さく手を上げて振って見せると、ユリディスはどうぞと瞳で示した。
「伯爵領とかいろんな領地もゴーレム工房があるけれど、どういう体制なのかな?」
「体制は大体がメイディアのゴーレム工房の規模を小さくしたものという感じね。そういう意味ではなく?」
「うん。もしもその領地に勤務した場合。国王が領主にゴーレムニストを貸与しているという形で、ゴーレムニストとしては国王が主になるのか、それともその領主がゴーレムニストを雇うという形で領主が主になるのか知りたいんだ」
こくり、薬湯を一口飲んでからユリディスは口を開いた。
「ゴーレムニストの立場は色々ね。王都から招聘されている客分や、その地域で選抜されて王都に留学する形で技術を身につけて戻ってきた人もいるでしょうし」
「では、領主に仕えた場合は領主が主に?」
カレンの問いにまあ、そうねとユリディスは頷いて。
「ゴーレムニストの仕える相手はおおむね国になるわ。各領地付きならばその地域の領主になるわね。でも例外があって。天界人ゴーレムニストは、国でも領地でも客分扱いよ」
「なるほど‥‥色々と面倒なのですね」
銀がぽつり、呟いた。
●交渉――そして
「このいい木でいいグライダーを作りたいと思った」
「あたいもこの木は素晴らしいと思うね。是非譲ってくれないかい? あ、値段交渉は他の皆に任せるさ」
最初に熱意を伝えるのは香哉。続けて目利きを披露するのは冴子。だが彼女は地球にいる頃から値切りや勘定は苦手だったらしく、その他は次の人にバトンタッチ。
「えーと、そうですね‥‥この位ではどうでしょうか?」
初めてのことだからと強引な値段提示は避ける慎重派の銀。対して雨霧は国のお金なのだから節約できるところは節約できないかと強く出る。
「改めて考えると、貴重な材料からゴーレムが造られているんだと実感します。‥‥乗る人が万全に力を発揮できることは勿論の事、少しでもゴーレム機器が長持ちできるように整備できるようになろうと思います。ですから是非、この木を売って下さい。木材本体の価格を下げろとはいいません。輸送費や人件費などにかかる雑費の部分をカットしてもらえないかな?」
伐採は自分達が手伝うとして、輸送は帰りに一緒に運んでしまえばその分浮くだろうという考え。
一生懸命に交渉を続ける彼らを、相手にするエルフたちもユリディスも微笑みながら見守っている。別に馬鹿にしているわけではない。少しずつ成長していこうとしている彼らをほほえましく思っているのだ。
「上手く交渉がまとまるでしょうか‥‥」
心配そうに呟いたのは、ユリディスの隣で生徒達の様子を真面目に記録していたカレン。ユリディスは大丈夫よ、と口角を上げる。
「あっちだって彼らが素人だって事は分かっているもの。その辺大目に見てくれるはずよ」
確かに交渉慣れしている人達にとっては彼らの交渉は子供のお使いみたいなものだろう。けれどもそれを頭から否定するような人たちではない。
「先生」
「あら、交渉は諦めた?」
未だ交渉を続けている輪からひょいと抜け出してきたのは銀だ。頭を掻きながら苦笑してみせる。
「いや‥‥難しいですね。それと、お聞きしたい事が」
「何かしら?」
「今回の授業の目的をお聞きしたく」
銀の率直な質問に、くす、とユリディスは笑んだ。
「あら、それを教えてしまったら授業にならないでしょう?」
意地悪な言葉。だが――
「いえ、自分が感じたものが合っているのか、それを確かめたくて」
真剣な表情でユリディスを見つめる銀。いいでしょう、そう言ってユリディスは金色の髪を揺らした。
工房で加工された木材だけを見ていると、どうしても木材は無限のように思えてくる。だが実際は勿論木材は有限で、限りある資源だ。ゴーレム機器に使用できるようになるまで多大な時間と手間を要する。壊れたから、失敗したからといってすぐに破棄してしまう工房にばかりいては、その辺の感覚が麻痺する。
それと――ゴーレムニストが作るものは命を奪うものであり命を守るものでもある。だがそれだけではない。
命を『使って』命を『奪い』、命を『守る』ものを作り出すのだ――それを、知って欲しかったのだとユリディスは語った。