【王立ゴーレムニスト学園2】目を養うには

■シリーズシナリオ


担当:天音

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:4

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月05日〜12月12日

リプレイ公開日:2008年12月13日

●オープニング

「今回も見学。まずは魔法付与ね」
「誰が魔法使うんですか?」
「決まっているじゃない、『先輩達』よ」
 冒険者ギルドでユリディスは、くす、と笑ってみせる。
「助手や補習希望のゴーレムニストの『先輩』たちに実演させるのよ」
「なるほど‥‥」
 つまりあれだ、使えるものは何でも使えと‥‥
「だって実際に魔法を使う機会があったほうが、勉強になるでしょう?」
 確かにそのとおりなのだが。
 魔法を付与する物体はユリディスが用意するという。ゴーレム魔法のバリエーションの習得が終わっている者は、どの魔法を使ってみたいか申告をすること。
 ゴーレム魔法の習得が終わっていない者は、生徒達の授業の記録とユリディスの手伝いだ。
 ちなみに魔法の付与手が足りなければ、ユリディス自身が付与して見せるという。彼女が得意なのは風と土のゴーレム魔法だ。
「後は、工房内の見学ね」
 これは1期生の時もやったことだ。
 工房において何を見たいか、どんな作業を見たいか、そしてそれを見て何を学びたいのかを明確にしておく必要がある。これが明確でないと、適当に全部見て、さらーっと頭の中を通り抜けていくだけだ。
「少しくらいなら質問も受け付けるわ」
 見学に時間をとられて全部に答えられなかった場合は、次回以降に答えるという。
「後は前回どおり、助手と補習希望者も募集するわ」
 助手は文字通りユリディスの手伝いをすることになる。今回は授業の記録をとることと、実地での生徒の様子を観察して報告書を作ることが主な仕事だ。余裕があれば、素材を見た自分の感想や、次の授業案なども提案してみるといい。ちなみに助手はゴーレムニスト限定だ。
 あとは補習希望者。こちらはゴーレムニストの課程を修了した者、既にゴーレムニストとなっている者の二者が対象になる。講義内容は新規希望者と同じだ。
 助手も補習希望者も授業の欠席は可能だ。毎回必ず出席しなければならないというわけではない。だが今までとは違った内容の授業が行われているため、目新しい発見があるかもしれない。


 ちなみにゴーレムニストは他国への渡航が難しい職業である。
 ゴーレムニストは要職だ。ゴーレム工房に入るということは国内のゴーレムの機密を知る事にもなる。そんなゴーレムニストが他国へ渡ったらどうなるだろうか?
 ゴーレムニストはお金持ちだ――そういう認識から、強盗に襲われることもある。それだけなら国内でも十分ありえることだが、問題は他国のゴーレム工房に関わった場合。
 メイのゴーレム工房関係者だと分かれば間諜だと疑われるのは間違いない。また他国に情報を売ろうとしても、簡単に国を裏切るような者を信頼する者達はいない。その上もしメイに戻ってきたら――?
 もちろん、こちらのゴーレム工房にも入れるわけには行かなくなる。他国のゴーレム工房に関わった者は、情報を漏洩した裏切り者である可能性と、あちらからの間諜の恐れがあるからだ。
 事実はどうであれ、どちらからも疑われるのは間違いない。結果的に、どちらの工房にも入れなくなる可能性が高い。
 ゴーレムニストになるということは、その後の身の振り方もある程度縛られるという事。それを覚悟の上で志願して欲しい、と。

●今回の参加者

 ea4426 カレン・シュタット(28歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・フランク王国)
 eb4637 門見 雨霧(35歳・♂・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 eb8378 布津 香哉(30歳・♂・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 eb8388 白金 銀(48歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 ec5196 鷹栖 冴子(40歳・♀・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

●研修
 今回の授業のメインはまずは魔法付与だ。すでにゴーレムニストに成っている助手や補習者に付与を行ってもらうというのは、実践の機会を多く与えたいというユリディスの心遣いからであって、決して彼女が自分で魔法を使うのを面倒がったとか、工房から人材を回してもらえなかったとか、そういう理由では――たぶん、ない。
「一応ゴーレムニスト魔法については図書館であらかじめ予習をしておきました」
 メモを片手に真剣な顔で表情で素体の乗せられた魔法陣を見ているのは白金銀(eb8388)。修理とメンテナンスの両方を行えるゴーレムニストになりたいと思う彼は、一つでも聞き漏らすまいと真剣だ。
「あたいも職人も兼ねたゴーレム技師になりたいからねぇ。大工のあたいとはやっぱり土の魔法が相性いいのかねぇ?」
「相性云々はないとは言い切れませんけれど‥‥それよりも自分が何をしたいかで選択魔法を決めるといいと思います」
 木でできている風信器や推進装置、精霊力制御装置を物珍しそうに眺めている鷹栖冴子(ec5196)に答えたのは、先輩ゴーレムニストのカレン・シュタット(ea4426)だ。彼女は元々風の魔法を得意とするウィザードで、それ故かゴーレムニスト魔法も風系統を選んだ。だから相性については否定しないが、純粋に自分の興味のある部分に行ったともいえる。
「俺はまず一つを極めようと思っているので、使える魔法が精霊力制御装置一つしかない」
 真剣な顔で話しに入ってくるのは布津香哉(eb8378)。この中で一番最初にゴーレムニストになっていた香哉は、魔法選択を一つに絞ったこともあってか、魔法の習熟度は飛びぬけている。
「前はグライダーを一人で作れればいいかなと思って他の系統も覚えようかと思ったんだけど。成長の遅い俺だと器用貧乏になりそうだと感じてやめたんだ。魔法をどう覚えるかはゴーレムニスト次第だから、俺がどうこう言う事じゃないんだけどね」
「いえ、先輩としての意見は大変ありがたいです。今後自分はどういう道に進むのか、参考にもなりますし、意思を強固にするきっかけにもなります」
 香哉の言葉に銀が真剣な顔で答える。ちょっと若いが、親や上司といっても差し支えのない年頃の人にそういわれると、どこかこそばゆい。
「さて、一番手は俺か。先輩の意地を見せられるように頑張るぞー」
 ゴーレム生成を習得している事もあり、一番最初に魔法を行使するのは門見雨霧(eb4637)だ。ちなみにマジックパワーリングで底上げしているのは秘密だ。だって先輩の意地というものがあるじゃない?
「ゆっくりと落ち着いて。失敗してもいいやという気持ちくらいで取り組むのがいいわよ。失敗したら何度でもかけなおせるのだから」
 ユリディスがくす、と笑む。確かに戦場で急が要される魔法とは違い、ゴーレム魔法に高速詠唱は必要ない。普段は工房の魔法陣の上に置かれた機体に、落ち着いて魔法をかけることができる。
「精霊砲はないから、風信器と推進装置と精霊力制御装置の3つだね。皆がかける魔法の基礎となる‥‥やっぱりちょっと緊張するかな」
 雨霧がゆっくりと詠唱を始める。目を皿のようにしてそれを見守るのは生徒二人、銀と冴子。いつか自分達もゴーレムニストになったら、このように魔法を使うのだ。
 彼の身体が淡い茶色に光る――だが目の前の物体に目立った変化は見られない。
「あれ、これで終わりかい?」
「そうね。これから魔法の浸透を待つのよ」
 あまりにあっけなさ過ぎて、見ているだけでは手ごたえが感じられなくて冴子がユリディスを見る。こんなものよ、と講師は微笑んだ。
「よし、後二つっ」
 最初の成功に気を良くしたのか、雨霧は張り切って残り二つの装置に魔法をかけにかかった。


●見学
 ゴーレム生成魔法が浸透するまで次の工程に移れないため、その間は工房見学に時間を割くことになった。見学とはいっても正式にメイの工房の職員と認められていない者達が入れる場所は限られてるため、全てを見られるわけではない。だが、見ないよりは明らかに勉強になるはずだ。
 通常ウッドやストーンが素材のゴーレムは大きなダメージを追った場合破棄されるが、小さな傷の場合は応急処置を済ませて再び使われる事もある。グライダーの小さな修理については、技術屋を目指す銀や冴子は食い入るように見つめていた。そして同じく香哉も手伝いに手を出したりして。
「折角だから、うちの新人にも魔法を使わせてあげて」
「え、またゴーレム生成使うの?」
 ユリディスの言葉に雨霧がちょっと焦る。修理をした部分には再びゴーレム生成をかけるのだ。
「場数を踏む事、それが上達への第一歩よ」
 言われ、グライダーの側に歩み寄る雨霧を見ながら、今度は銀がユリディスに近寄って。
「質問なのですが、手順の順番に理由はあるのでしょうか?」
「そうね‥‥まず素体を作成するでしょう? その後に組み立ててから魔法をかければ、魔法をかけた後にまた技術者に回して組み立てを行う手間が省ける、ということかしら?」
「そんな感じです」
「それはね、魔法をかけると素体が膨張するからなの。木よりも石、石よりも金属のほうが膨張率が高くて、素体はその膨張を見越して作られているの。だから、ゴーレム生成をかける前に組み立てるわけには行かないわけ」
 ユリディスが説明すれば、なるほどと銀はメモを取って。ところで、とその手を止める。
「この手順を記したものとかは存在しますか?」
「ないわね。必要だったら各自自分で作る事。大体流れ作業だから、そのうち覚えられるわよ?」

 次に回った場所では、魔法付与の終わった素体を技術者達が組み立てていた。木を使ったその素体を見てすかさず銀と冴子が名乗りを上げて手伝わせてもらえる事になった。
「なるほどねぇ。膨張率とやらをあらかじめ計算して作るんだねぇ。木は乾くと引き締まるからね、その逆ってところか」
「技術も学んでおけば、現場に技術者がいないときも対応できるからね」
 実際に技術者がいない現場で整備をした事のある雨霧と香哉が頷いて。
 雨霧は人型ゴーレムのメンテナンスや鎧などを取り付けている現場、精霊砲の整備を行っている場所への見学を希望したので、ユリディスは彼に工房を一人で歩く許可を出した。まだゴーレムニストになっていない二人はともかく、すでにメイのゴーレムニストとなっている彼ならば問題ないからだ。
「あたいの夢、『平和利用の民生型ゴーレム』をいつか作ってやるさ!」
 冴子の気合は、戦場や国衛にだすゴーレムを作っている工房の人たちには笑われてしまったけれど、いつかきっと、いつかきっと実現するときが来るかもしれない。
「いつか、きっと」
 受講者の授業態度を記録していたカレンが小さく呟いた。だがそれは小さくても、力強い言葉だった。


●和気藹々
 寒くなってくると鍋が食べたくなる――そんな香哉の言葉で実践されたのが、今夜の夕食。学園寮の食堂にユリディスも御呼ばれして、鍋料理を一緒につつく事になった。
 香哉のヒートハンドで熱した石を使ったりしてなんとか卓上で熱々の鍋を囲める事になり、地球人が多いため食材やダシなどもなんとか地球の味が出せるように工夫されていた。地球で言う地中海風の料理が多いこの地では珍しい、日本風の鍋が出来上がったのである。
「‥‥不思議な味ですけど、美味しいですね」
 今回の参加者の中で唯一地球出身ではないカレンが一口食べて、微笑む。
「みんなで一つの鍋を囲んでわいわいがやがやと楽しく食事ってのがいいんだよな。ユリディス先生とかには抵抗あるかな?」
「抵抗はないけれど、今まであまりなかった経験だから新鮮よ」
 香哉に問われてユリディスは、小皿に取った鶏肉にふーふーと息を吹きかけてから口に含む。
「ユリディス先生、猫舌?」
「‥‥‥」
 それに目ざとく気が付いた雨霧が問うと、きっ、と鋭い視線がかえってきた。どうやら自分では似合わないと思っているらしい。
「あー、この味、久々だよ。こっちの食材でも手を加えれば味が似るもんだねぇ」
「妻の手料理を思い出します」
 冴子と銀も懐かしい味に心を暖める。
「そういえばゴーレム魔法を調べてみて思った事があるのですが、いいですか?」
 食べる手を止めた銀の言葉に、ユリディスは頷いた。
「精霊砲の発射速度は1分間に1回のようですが、改良や強化の試みはされているのでしょうか?」
「しているけど‥‥残念ながら目立った効果はないの。元の素体がウッドだから、金属製なら効果が上がるかもしれないって予測は立つのだけど、なかなか実行するのが難しいのよね」
「確か、ナースホルン搭載の精霊砲の発射速度が10秒に1回だったと思うのですが‥‥」
 銀の言葉にユリディスがわずかに目を見開く。
「ナースホルンね、私は現物を見たことがないのよ。知らない人に説明をしておくと、ナースホルンっていうのは精霊砲搭載のチャリオットの事。でもね、こちらも残念なのだけれど‥‥長期間使用ができない不具合が発生したようだとは聞いているわ」
「ということは‥‥実装は難しいと」
「そういうことね」
「材料の木や銅、研究費に人件費‥‥はは、こりゃ金食い虫さね、ゴーレムは!」
 研究失敗、その話を聞いて冴子が苦笑を漏らす。そう、ゴーレムを作成するのには莫大な費用がかかるのだ。
「資材は有限ですから、無駄にはできませんね」
 カレンの言葉に一同は頷く。それは前回の見学で実感した事だった。
「先生、懲りずに飽きもせずにまた質問〜」
「なぁに?」
 ごくん、皿に残った汁を飲み干した雨霧の問いにユリディスは視線を移して。この質問攻めは彼女にとって都合がいいのかもしれない。だって彼女の皿に乗せられた食材が、丁度いい具合にさめてくれるから。
「ユリディス先生の聖夜の予定は〜?」
「聖夜? そうね工房長と‥‥」
「「「え!?」」」
「なわけないでしょ。あの人と過ごしたら、一晩中『おもちゃ』について語られるわよ。今のところ予定はないわ」
 驚いたような視線を一身に集めた彼女は苦笑をもらした。雨霧が「まあ、冗談だったんだけど」と付け加えて更に口を開く。
「以前、ゴーレムの修理には『ゴーレム生成』と『各種バリエーション』が必要という話だったけど、最終的に『精霊力集積機能』をかける必要があるって本当?」
「そうね、ゴーレム生成付与からの修理が必要なものならば、最後に精霊力集積機能は必要ね。本当に小さい修理なら別だけれど」
「なるほど〜」
「そういえば」
 次に口を開いたのはカレンだ。彼女が小首を傾げた拍子に、髪がさらっと流れた。
「次の講義は何でしょうか?」
「まだ決めかねているのだけれど。何か案はある?」
 ユリディスの問いに香哉が手を上げる。
「今あるゴーレム機器を扱っている現場見学ってのはどうだろう? フロートシップとかならどんな感じで運用されているのかとか見れば、自分がどんなゴーレムニストになりたいか思い描きやすくなるんじゃないかな?」
 その言葉にユリディスは「考えておくわね」と返しただけだったが、どうやら実現は難しくないようだ。


●魔法付与
「まずはグライダーに乗せるこの装置から」
 香哉が魔法陣に乗せられた精霊力集積装置に魔法をかける。熟練度の高い彼の魔法はスムーズに発動し、彼が赤い光に包まれる。
「私は推進装置ですね」
 今度はカレンがゆっくりと詠唱をし、推進装置へと魔法をかけていく。
 続いて再び香哉が小型のフロートシップ用の精霊力制御装置に魔法をかけて。
 全て、うまく魔法は発動した。ゴーレムニスト志望の二人は畏敬をこめてその光景を見ていたが、まあ普通の魔法と違って手ごたえが分かりにくいのは仕方がない。そこはやはり実際に動いている所を見て、実感するしかないだろう。
「こりゃあ、先が長そうだ」
 その冴子の呟きは尤もだった。一人前に成るためには、修練と努力が必要だ。ここに集っているゴーレムニストたちもまだまだ発展段階。
 今後どのように成長するかは、まだまだ分からないのだから。