【銀の矜持】祈りの儀式は黒き翼を呼ぶか

■シリーズシナリオ


担当:天音

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:9人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月12日〜08月17日

リプレイ公開日:2009年08月23日

●オープニング

●祈りの儀式
 方針は決まった。
 地獄での戦いでも効果を奏した祈り。
 黒翼の復讐者に敵意を持っているトッドローリィやウイバーンなどの精霊、そして冒険者達の連れている精霊の協力を得て、侯爵家の者達と共に鎮魂などの祈りでカオスの力を抑えられれば――そんな狙いを持った儀式が予定されている。
 このような儀式を行えば、黒翼の復讐者は妨害に現れるだろう、という算段だ。すでに侯爵やトッドローリィ、ウイバーンの了解は得てある。後は具体的な儀式の場所、そして内容を決めて実際に執り行うだけだ。実際に黒翼の復讐者が現れたときの対処も相談する必要がある。
「我々侯爵家の者は、黒翼の復讐者に対するよい餌ともなりますが、実際に戦闘になった場合、守らなければならない足枷ともなります。その辺は良く考えたほうがいいでしょう」
 セーファス・レイ・リンデンは冒険者ギルドで支倉純也に語った。今までの経験からいって、侯爵家の面々を参列させるのは利益もあるが不利益もある。
「また、儀式を行う場所も要注意ですね」
 侯爵家の所有する儀式の洞窟や、以前黒翼の復讐者が指定してきた森の中の湖、その他に場所を探すなど、色々と選択肢はある。室内の利を生かすか、室外の利を生かすか――それによってもかわってくるだろう。
「黒翼の復讐者が本当に儀式を潰しに来るかは解りません。けれども来るという前提で計画を進めるしか、私達には手がありません」
 以前黒翼の復讐者の策略に乗せられてしまった以上、相手がこちらの策略に乗ってくれるのを祈るのみだ。
「このまま黒翼の復讐者に蹂躙されていくのを、待っているわけにはいきませんから‥‥」
 そう告げるセーファスの瞳は、鋭く細められていた。


●闇の中で
 そこは何処かの屋敷の中だった。ランタンに灯された炎が、室内を照らしている。
「リンデンに集まった連中が、面白い事を計画しているようです」
「祈りの力‥‥か。確かに侮れない事では在るが」
 ストレートヘアの男は、椅子に腰掛けたウエーブヘアの男から少し距離をとって報告をする。ウエーブヘアの男は面白そうに口元を歪めた。
「計画に乗って、逆に壊してやるのも面白いと思っています」
「遊んでやるつもりが、遊ばれて‥‥なんてことにならぬようにな。『あれ』は日に何度も使えるわけではない。引き際を誤らぬように」
「‥‥心得ております」
 ストレートヘアの男は、恭しく頭をたれた。
 ランタンの中の炎が、そっと揺れた。

●今回の参加者

 ea1842 アマツ・オオトリ(31歳・♀・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea1850 クリシュナ・パラハ(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea2564 イリア・アドミナル(21歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea3475 キース・レッド(37歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea3625 利賀桐 真琴(30歳・♀・鎧騎士・人間・ジャパン)
 ea4868 マグナ・アドミラル(69歳・♂・ファイター・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ea7641 レインフォルス・フォルナード(35歳・♂・ファイター・人間・エジプト)
 ec0844 雀尾 煉淡(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ec4427 土御門 焔(38歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)

●リプレイ本文


 指針の疎通が出来ていないと、思わぬところに穴が出来る。
 歌姫は? アナイン・シーはどうする?
 侯爵家の者達の参列は? 邸内で待機? 洞窟に同伴?


 それに―― 一人でできる事は限られているから。欲を張れば何かが零れ落ちるものだから。



 イリア・アドミナル(ea2564)の発案により、例の儀式の洞窟は飾り付けられていた。カオスの力が少しでも抑えられるようにと願って祈紐を四方に配置し、地水火風の精霊を形どる。天井と床には太陽と月をイメージした祈紐を配置だ。
「侯爵家は護衛対象の分散をさせぬ為に全員参列だな。本音は奥方やディアスは残したいが‥‥また騙し討ちで手薄な屋敷を狙われたら困る」
 アマツ・オオトリ(ea1842)が祈紐を装着し、携帯型風信器の片方をキース・レッド(ea3475)に渡しながら告げる。見上げると狭い道をやっと抜けて広場に到着したウイバーンと、それに従うようにしてきたトッドローリィが上空をふよふよ飛んでいた。普段は風なき儀式の洞窟は、彼らが動く事でふわりと風が舞い起こっていた。
「これまでリンデンを襲ってきたパターンだと、幹部クラスのカオスが単騎で侵入してくるか、下っ端カオスを大量に突っ込ませて撹乱した後に、幹部が乗り込んでくるか。ま〜大体こんなもんですね」
 祭壇脇に控えたクリシュナ・パラハ(ea1850)がすっと通路に視線を向ける。
「あまり数は多くないが‥‥」
 マグナ・アドミラル(ea4868)が祭壇に置いたのは、祈紐の布教によりリンデン侯爵領に広まったもの。少しでも力が強まれば、と借り受けてきたのだ。
「朧丸は侯爵家の皆さんの護衛をお願いしやす。そして――」
 利賀桐真琴(ea3625)は集められた侯爵家の面々を見て、表情を硬くした。
「ヤベぇと思ったら絶対に無理はしねぇで下せぇ、黒翼は確かに此処で討つべきではありやすが、その為にあんたらを犠牲にしちゃ全然喜べやしやせんぜ。あとあたいがもし黒翼に操られたら、遠慮はいりやせんから潰して下せぇ」
 それは、覚悟。侯爵家を守り抜くという覚悟である。真琴は祈紐とダイアモンドをセーファスに、スターサファイアをディアスに手渡し、その瞳を覗き込む。
「御守りでやす、あたいもひとつ身につけてやすよ。たとえ離れた場所にいても心は常におそばに‥‥ってな証としてお考え頂ければと。まぁ、結構硬い石なんで、万一の際はオーラとか込めて敵にぶつけるとかもありでやすかね」
 その微笑に『あなたのそばにいつまでも居たい』という真摯な思いを込めて。
「有難うございます」
 受け取ったセーファスは、柔らかく微笑んでディアスの頭を撫でた。
 フォーノリッヂのスクロールを駆使していた土御門焔(ec4427)が見たのは侯爵家四人の未来。それはどれもが同じもので、死を意味するものだった。黒翼の復讐者を見たときは、哄笑するその姿が見えた。そして水鏡の円盤をみて――ふと、気づく。今回の儀式、水鏡の円盤はどうするのだったか? 儀式に持ち出すのか? 誰かが大事に所持するのか?
「儀式に参加してくれ」
 キースはジニールにそう命令すると、赤の聖水をリンデン侯爵家の立ち位置に撒き、そして自らは風信器を持って通路へと消えた。この洞窟は一本道。入ってくるなら通路を通るはずだ。以前の戦いの様に霧が発生するようであれば、それを風信器で伝える手はずになっている。
「あの‥‥」
 焔が水鏡の円盤について誰かに尋ねようとしたとき、何か、嫌な予感がよぎった。
 そんな、まだ、儀式は始まっていないのに――。



 雀尾煉淡(ec0844)はリンデン侯爵邸にいた。屋敷にて夫人とディアスを守るつもりだったが、情報の伝達が上手く行われていなかったのか、侯爵家一家は皆洞窟へと向かっていた。侯爵一家や仲間達にレジストデビルを付与する予定だったが、儀式の洞窟まではそう近い距離ではない。侯爵邸を守りつつ儀式に関与する事はまず無理であった。
 連れてきたペガサスを駆り、洞窟へ向かうことも出来る。だがそうすれば侯爵邸に冒険者が居なくなる。侯爵一家の居ない侯爵邸を狙う理由が彼らにあるのかは解らなかったが、それでも煉淡は侯爵邸に残った。デティクトアンデッドを使用し、カオスの魔物の接近を事前に察知しようと試みる。
「――?」
 屋敷の端の方まで歩いてきたところ、微かに探査に二体ほどの反応があった。だがその方角までは解らない。とりあえず動いてみようと煉淡が歩みだしたところで、人々が走っていく気配がした。良く見るとこの家に仕える兵士や私兵たちである。彼らは一様に何処かへ向かっているようであった。
「あの、どこへ向かわれるのですか?」
「侯爵様がお呼びなんだ」
 その中の一人に彼が声をかけると、意外な答えが帰ってきた。侯爵は今、儀式の洞窟に居るのではなかったか?
 急いでいるようで、また走り出してしまった兵士についていきながら煉淡は尋ねる。
「一体どこへ‥‥」
「中庭だよ」
 兵士についていきながら探査の結果を見ると、どうやら一体との距離が縮まっている。まさか、兵士達を集めている場にカオスの魔物が――?
 ざわざわ‥‥ざわざわ‥‥
 突然の召集にざわめく中庭には、沢山の兵士達が集められていた。その人垣の向こうきよく見えなかったが、彼らによればそこに侯爵が居るらしい。
(「おかしい――」)
 煉淡が兵士達を押しのけて『侯爵』の姿を見ようと試みた時、その『声』は発せられた。

『本気で同士討ちをせよ』

 力を持ったその『言葉』は集まった兵士達の心の奥深くに響き、そして殆どの兵士が剣や槍を抜き放ち、あるいは魔法を唱えて仲間同士で傷つけあう。煉淡はその言葉に抗ったものの、兵士達が暴れだしたため、その『侯爵』を目に捉えることは出来なかった。わかったのは魔物の反応が一つ遠ざかって行く事と、もう一つの魔物の反応が動き出した事のみ。
(「言霊――っ!」)
 多くの人々が一斉に乱心するこの現象に心当たりはあったが、彼にはそれを解く術は無い。ニュートラルマジックでは解除できないのだ。
「正気の人がいたら、できるだけこの場から離れてください!」
 大声で、呼びかける。そして負傷した兵士達の傷を癒す。自分に降りかかってくる刃をその身で受けては治し、そしてコアギュレイトで拘束する――彼にできる事はそれしかない。この場で起きようとしている惨状を無視してもう一体のカオスの魔物に意識を向けることなど、出来ようもなかった。



 儀式はまだ始まっていない。キースは静かに通路に佇んでいた。時折石の中の蝶の様子を覗いながら、再びこの洞窟で戦うことに対し因縁じみたものを感じて。
「蝶が動いた‥‥霧はまだ発生していないな」
 ゆっくりと羽ばたき始めた蝶の動きを注視し、通路の入り口を見やる。
 蝶の動きは段々と激しくなる。だが敵の姿は見えない。
(「‥‥?」)
 黒翼の復讐者がノコノコと一人でやってくるとは考えがたい。だが、下級の魔物に姿を消す力はなかったはず。近づいてくればその姿は見えるはずなのに。蝶はこんなに羽ばたいているのに――。
「何かがおかしい。アマツく‥‥」
 携帯型風信器に声をかけようとしたキースの意識が途切れる。いや、意識に飛び込んできたのは『羽ばたいていない石の中の蝶』の姿。
 ああ、さっきのは見間違いだったのか――そう思ったキースは、自分が夢の中に落ちている事に気づいていなかった。その身体がどさりと地面に倒れ伏した背後に、道化師のような衣装を纏った魔物が居る事に気がつかなかった。透明化して近づいた魔物が、彼の背後で透明化を解いて力を使ったことに、気づきはしなかった。
 道化師が入り口に戻って暫くすると、大型のネズミや醜い小鬼達が儀式の間に向かって通路を通り抜けて行った。


「水鏡の円盤は、どうしましたっけ‥‥」
「! 失念していました」
 焔の言葉にイリアがはっと顔を上げる。だが今からそれを取りに戻っている暇はなさそうだ。
「今、風信器に反応があった気がしたんだが‥‥」
 アマツが携帯型風信器を見るが、そこからは何も聞こえてこない。だが、石の中の蝶には動きがある。通路で何かがあったと見るべきだろう。
「儀式が始まるまで待ってやる必要はない、そういうことか」
 マグナが呟き、通路付近で武器を構える。
 準備や仲間との疎通に手間取りすぎたのか、はたまた初めから黒翼の復讐者は儀式が始まるのを黙ってみているつもりかなかったのか――おそらく、両方だ。

 どばっ!

 そんな音がした気がする。下級の魔物が一斉に儀式の場へと飛び込んできた。マグナだけでなくアマツや真琴も前に出て、侯爵一家と精霊達を守るように陣取る。儀式場上空に集められた精霊達は、明らかにカオスの魔物達に嫌悪を示し、そして威嚇していた。
 前衛の三人が次々と下級魔物達を切り捨てる。下級魔物達では彼らに傷をつけることはできない。クリシュナがクリエイトファイヤーで作り出した炎で鞭を作り、ファイヤーコントロールで魔物を打つ。イリアは仲間を巻き込む魔法は避け、ウォーターボムで一体一体敵の数を減らしていく。
 だが誰も警戒は怠っていない。本命は別に居る。
『精霊様達はなるべく天井に近いところへ。攻撃を受けぬように気をつけてください』
 焔がテレパシーでウイバーンやトッドローリィに下に下りてこないように告げて。
 次に通路から現れた者達に、一同は息を呑んだ。
 道化師のような格好をした魔物と、長い金髪を靡かせた美丈夫だ。
「黒翼め!」
 アマツが叫び、下級魔物を無視して駆け寄ろうとするが、道化師に阻まれる。彼女が見たものは、『黒翼の復讐者などいない儀式の場』。膝から崩れ落ちるアマツを、マグナが揺り動かす。
「しっかりされよ!」
「っ‥‥!」
 それによってアマツは夢のような幻影から目覚めたが、今度はマグナをその不思議な力が襲う。
「そう何度もやらせやしやせん!」
 道化師が術を行使した隙を突いて、真琴がダブルアタックとスマッシュをあわせて道化師に叩き込む。凄まじい威力を持ったその武器での攻撃は、道化師を消し去るのに十分だった。
 アマツによって起こされたマグナとアマツは、足元に群がる下級の魔物をなぎ払う。攻撃は避けられるとはいえ、いちいち対応するのも鬱陶しい。
 イリアとクリシュナ、焔は侯爵一家を下級の魔物から守るのに手を割かれている。
「さて、初めようか?」
 黒翼の復讐者が綺麗な微笑を浮かべて呟いた。そして。

『仲間を攻撃しろ』

 その力を持った言葉が、儀式の場を覆った。
 言霊への対抗策にもなるレジストデビル――その手段を持つものは今はここには居ない。
 操られた時の対処法は考えていたものの、その対処法を持つものが操られては意味がない。
 イリア、焔、クリシュナ、真琴の動きが変わる。
 だが無事な者も居た。耐性の高かったと追われるマグナと、耐えることが出来たアマツだ。二人は自らが動けることに気がつくと、そのまま黒翼の復讐者へと迫る。
「刺し違えてでも斬る!」
 オーラマックスを発動したアマツの攻撃は、だが黒翼の復讐者にはかわされて。黒翼の復讐者は片手に持った斧でアマツを斬りつけた。しかしマグナの洗練された攻撃までは避けられず、太刀を深々とその身体に沈めた。
「くっ‥‥」
 ふらり、バランスを崩した黒翼の復讐者はそれでも天井付近へと浮遊し、同士討ちを始めている冒険者達を可笑しそうに眺めた後、小さく呟いた。
「‥‥引き際、か‥‥」
 先ほどのマグナの一撃がだいぶ効いているのだろう、黒翼の復讐者に、これ以上攻撃を仕掛けてくる余裕はなさそうだった。止めを、とマグナがソニックブームを考えたところで、黒翼の復讐者の姿が掻き消えた。
「瞬間移動か‥‥!」
 逃げた、のだろう。だが瞬間移動にも回数の制限があるようで、黒翼の復讐者は最後の最後までそれを使おうとはしなかった。
「さしあたっては言霊に操られた者達をどうすべきか‥‥」
 アマツが呟き、その惨状をみやる。この儀式の場にいた殆どの者が、黒翼の復讐者の言霊に操られていた。侯爵夫妻でさえ、素手で互いを殴り合っているほどだ。
「屋敷に居る煉淡殿を急いで呼んで来よう。治療とコアギュレイトで何とか」
 マグナが通路へと走る。トッドローリィはウイバーンを傷つけようとしている。言霊にかからなかったらししいウイバーンはそれから逃げるようにしていた。
 しばらくして、マグナが儀式の場に戻ってきた。通路で仮死状態とも言える眠りに落ちていたキースを起こし、侯爵邸へと行ってもらったのだという。体力のあるマグナとアマツが、何とか同士討ちから盾になって時間を稼ごうと努力していた。下級の魔物達の同士討ちは、放って置く。一番まずいのは、武器を持った仲間達が侯爵一家に攻撃をすることだった。



 侯爵家に辿り着いたキースは、煉淡がコアギュレイトで暴れている兵士達を拘束し、無事だった者達の手を借りてそれぞれ隔離しているという現場に直面した。漸くひと段落着いたその場から煉淡を連れ出し、儀式の洞窟へと急ぐ。


 何とか死者は出さずに済んだものの、怪我人は多数出た。また、この言霊の効果が切れるまでには暫くの時間を要する。
 黒翼の復讐者に深手を負わせることは出来たものの、小さなすれ違いや要因が重なり合った結果、完全勝利とは言いがたかった。黒翼の復讐者に止めを刺すだけの武力は十分揃っていたにも関わらず、あと一歩のところで取り逃がしてしまった。


 そして後に判明したのは――水鏡の円盤が、忽然と侯爵邸から消えうせていたという事実――。