【竜の王子 精霊の王子】救出作戦

■シリーズシナリオ


担当:天音

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月28日〜08月02日

リプレイ公開日:2009年08月11日

●オープニング

●サクラアンシュを覆う暗雲
 陽精霊バハムートに認められ、天界王ロード・ガイゆかりの武具を譲り受ける事が出来た一同。マクシミリアン王子は自身にはエクセラとアミュートという専用の武具があるからして、ロード・ガイゆかりの武具は共に戦ってくれる冒険者達に託すと告げた。
 そして少年の姿をした陽精霊バハムートは、自らが力を振るえばその均衡が崩れるといい、直接の関与はしないと言った。だが彼らの真摯な説得によって、あくまでカオスドラゴンの牽制として、その力に頼りきりにならないと言う事を条件に、力を貸してくれることになっのである。
 こうして王姉アンゼルマ・ルイドの狙い通り精霊の加護を受けて「精霊の王子」と名乗るに相応しくなったマクシミリアン王子。現状報告と、王都に進軍をする準備を整えるために一度アンゼルマのいるサクラアンシュへ帰還することとした――だが。

「サクラアンシュには、バの兵士と思われる兵士が沢山いました」
 偵察にとサクラアンシュへ赴いたシフールの少年、アルトゥールが沈痛な面持ちで告げる。その声色はたった今報告した事以上に悪い状況が待っていることを示していた。
「‥‥私のことがばれて占領されたか」
 マクシミリアンは椅子に腰掛け、口元に手を当てて低く呟く。自分がサクラアンシュにいるということがエアハルト側にばれたのだろう、と。だが事態は思っているよりも悪化している。
「伯母上は?」
「それが‥‥」
 真っ直ぐな目で問われ、アルトゥールは居心地悪そうに身じろぎしてから口を開く。黙っていても事態は好転しない。
「敵の手に落ちられたようです。そしてジェト各地に王名義でお触れが出されました」
「‥‥内容は」
「『反逆者マクシミリアン・ルイドをかくまった罪で、アンゼルマ・ルイドを公開処刑に処する。期日までにマクシミリアン・ルイドが出頭すれば、アンゼルマ・ルイドを釈放する』と‥‥」
「処刑?」
 アルトゥールの伝えた内容に、マクシミリアンは表情を更に険しくした。アンゼルマは王の姉、王族だ。それを簡単に処刑するなどと‥‥。
「王子、これは罠です、きっと。王子が国内にいると思っている敵達が王子を誘い出すために‥‥」
「そうだな、その可能性が高い。だが私が出頭しなければ、伯母上を本当に処刑する可能性も高い。ジェトの兵士なら戸惑いを覚えるかもしれないが、相手はバの兵士だろう?」
「ですが‥‥」
「わかっている」
 重ねられるアルトゥールの言葉を、マクシミリアンは遮って。
「私が出頭すれば伯母上が救われるという保証も無い。私自身が捕まっては、王都を取り返すどころではなくなる」
 となると取れる方法は少ない。サクラアンシュの屋敷に忍び込んで囚われのアンゼルマを救出するか、公開処刑日に処刑場となる広場でアンゼルマを救い出すか。
 前者はアンゼルマが屋敷のどこに囚われているのかわからない上、屋敷の警備体制もわからない。また、アンゼルマを救い出しただけでは事は終わらない。後ほど、バの兵士達から街を取り返す必要が出てくる。
 後者はタイミングを誤ればアンゼルマの命は無い。だが彼女の存在と周りを警戒するバの兵士の姿が確認できる点で有利だ。また、公開処刑の場でバの兵士達を駆逐すれば、パフォーマンスとしても十分なものである。
「サクラアンシュの民達はどんな様子だった?」
「‥‥アンゼルマ様処刑に動揺し、そして反対する者達が多数を占めています」
 それはマクシミリアンの想像通りだった。アンゼルマは善政を敷いているため民達に慕われている。いくら反逆者とされているマクシミリアンを庇ったからとはいえ、王族を即処刑など民達が納得するわけは無い。
「ならば――」
 選ぶ道はどちらか。
 どちらを選ぶにしても、マクシミリアン一人では成し得ない。彼の無実を信じてくれる仲間達の力が必要だった。

●今回の参加者

 ea1587 風 烈(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea3063 ルイス・マリスカル(39歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea5229 グラン・バク(37歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb1004 フィリッパ・オーギュスト(35歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb4482 音無 響(27歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb8642 セイル・ファースト(29歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ec1201 ベアトリーセ・メーベルト(28歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)
 ec4322 シファ・ジェンマ(38歳・♀・鎧騎士・パラ・メイの国)

●リプレイ本文


 入国は滞りなく済み、一行は馬車でジェトスから南下し、サクラアンシュを目指した。
「処刑なんて聞いたら、放っておけない‥‥それに俺、王子の真っ直ぐな気持ちの力になりたいなって。世界の平和の為にも頑張りますから、宜しくお願いします」
 にこっと優しく笑って見せたのは地球人の音無響(eb4482)。メイで王子に初めて会った時にもしっかり挨拶をしたが、やはり現場に着くと改めて決意が強くなるものである。
「ジェトスにいた兵士達にちらほら混じっていたのが恐らくバの兵士だろうな。武装が違うからわかりやすい。覚えておこう」
 セイル・ファースト(eb8642)がその記憶にバの兵士の武装を刻む。今回はジェトの兵士はいわば味方だ。武装を破壊するにも傷を負わせるにも、できればバの兵士だけにとどめておきたい。
「冒険者が帰った後のことも考えて、できるだけ味方を増やしておきたいからな」
「ここでバの兵士を倒しておけば、更に支持率が上がるでしょうし」
 風烈(ea1587)のむ言葉にベアトリーセ・メーベルト(ec1201)が頷く。元々サクラアンシュはアンゼルマがマクシミリアン謀反の報を信じていないだけあって、民や兵士にも彼女の意見を支持している者達が多いという。ここで大きなパフォーマンスを見せておけば、サクラアンシュ全体を味方につけることが出来るだろう。ただしそれは、王やジェトスを支配しているエアハルト王子達に完全に宣戦布告する形になる。
「何が何でも成功させなくてはなりませんね」
 大胆に行動するならば、姿を見せたものの失敗したというわけにはいかない。ルイス・マリスカル(ea3063)の言葉にシファ・ジェンマ(ec4322)が同意を示した。
「うーんわざわざ深刻な対立を煽るような手を打つとは‥‥叔父殿の判断にしろもう一人の王子にしろ、あまり得策ではないな。それともそれ自体バの策か」
「むしろ国民に王子同士の対立を見せて、その上でマクシミリアン王子を抑えて自らが勝つ自信があるのかもしれませんわ」
 考えるように告げたグラン・バク(ea5229)の言葉に、フィリッパ・オーギュスト(eb1004)が推論を述べる。もちろんそんな事態にさせませんわ、と微笑んで。
「いろいろと厄介な状況だが‥‥こんな盾まで預からしてもらってんだしな。全力を尽くすと誓おう、このバステトの神盾にかけて」
「バハムート君もついていますしね」
 セイルがロード・ガイの残した盾を取り出し、そして真剣な瞳を王子に向ける。安心しろ、その強い瞳からはそんな強い意志が読み取れた。マクシミリアンは応えるように頷き返す。
 ベアトリーセは馬車の隅に座っている少年を見た。直接的な手は貸さないという約束だったが、バハムート、彼の存在だけでも心強かった。



「公開処刑はサクラアンシュの一番広い広場に断頭台を置き、そこで行われるそうです。断頭台から数メートル離れた場所からなら、一般市民の観覧も許可され、当日はジェトの兵士達が民を抑える役目として配置されるようです」
「処刑の際に邪魔に入らないように、断頭台からジェトの兵士は離れて配置されるという事ですね。アンゼルマ様の護送や断頭台付近の警護、処刑自体など重要な役目はバの兵士が行うようです」
 事前に街に入って情報を集めてきた響とフィリッパが報告をする。他の皆は街に入らず、なるべく目立たないようにと潜伏していた。
「明日の昼までに王子が出頭すれば処刑は取りやめるってお触れは出てたけど‥‥」
 響が途中で口ごもった。あくまでそれは建前で、実際出頭しても処刑が中止されるという確証はない。
「民や兵士達の中では、困っている時に匿ってくれたアンゼルマ様を王子は見捨てるのか、という不信の声も上がっているようでした。けれども接触できた親王子派の人達に、早まらないように、王子なら必ず来るからと言い聞かせておきました」
 今頃人々の口から口へ、その噂は流れているだろう。処刑の場で下手に兵士や民に動かれても困るので、彼らには王子が名乗りを上げるまでじっと見守っていてもらう必要があった。
「あっちもまともに王子が出頭するとは考えていないだろう。狙うなら処刑当日だ。恐らくそれなりに腕利きが揃っていると考えたほうがいい」
 セイルの言葉は最もだ。明日の昼に処刑が迫っている以上、警戒が強まるとしたら前夜と当日。どちらにしろ大人しく出てくるとは思っていないはずだ。
「それでも俺達は、やり遂げなくてはならない」
 グランが神槍を握り締めて静かに言った。
 誰もが同じ気持ちだ。
「‥‥頼む」
 短く、王子が告げた。その拳は硬く握り締められている。
 誰からともなく王子の拳に手を重ねていく。意思と温もりが、皆に伝わって一つとなる。
 チャンスは一度きり――成功させるしか道はないのだ。



 ギラギラと陽精霊の光が広場を照りつける。断頭台の上に引っ立てられたアンゼルマは衣服も汚れて多少やつれているようだったが、その瞳は生きる事を諦めていない。王子が来る、そう信じているようだった。
「裏切り者のアンゼルマ・ルイドを処刑する。マクシミリアン・ルイドに加担する者は、皆こうなると知れ!」
 投げ出されるようにして座らされたアンゼルマが、断頭台に首を置く。木枠で固定されたその姿を見て、民達が悲鳴を上げた。
「行きましょう」
 シファの声に、彼女と共にいる者達が頷く。顔が知れている王子を中心とし、いつでも守れるように並びながら彼らは一歩ずつ断頭台に近づいて行った。

 ざわざわざわ‥‥

 人垣が、自然と割れる。断頭台への道が出来る。
「マクシミリアン王子‥‥!」
 期待のこもった声で、誰かが叫んだ。その声を聞いたバの兵士が不自然に作り出された道を見る。
「来たか‥‥」
 断頭台の傍に立つバの兵士が呟いた。恐らくこの人物が指揮官なのだろう。人垣を抜けて空いたスペースに到着した王子一行を見て、そして剣を抜いた。
「だが遅い! 皆、マクシミリアンを捕らえよ!」
 断頭台付近に並んでいたバの兵士達が武器を手に一斉に駆け寄る。そして指揮官の剣が高く掲げられたその時、処刑人の斧が振り上げられた。
「やらせるもんか‥‥烈さん、今だっ!」
 民に紛れていた響が飛び出し、高速詠唱でスリープを唱えた。処刑人は斧を取り落とし、そしてそのまま膝を折る。処刑人の斧は断頭台の刃を固定したロープを切る事はなかった。
「っ‥‥!」
 事前にオーラ魔法で自身を強化した烈もまた、民に紛れていた。そして合図を受けて、王子達が姿を現した頃から準備をしていたミラージュコートとウイングシールドの力を借りて、一気に断頭台へと迫る――!
「なっ‥‥」
 突然処刑人が崩れ落ちた事に動揺した指揮官は、更にアンゼルマを固定していた木枠が自然に外れた事に驚きを隠せなかった。透明化した烈が木枠を外したのだ。そしてアンゼルマの身体が宙に浮かぶ。烈は彼女を抱き上げたまま、再び飛んで断頭台から離れた。
「来てくれたのね‥‥有難う」
「白馬の王子とは行かなかったが、期待には答えられたかな」
 事前に響のテレパシーで事情を聞かされていたアンゼルマは混乱で暴れるような事はなく、静かに烈に身体を任せている。
「このまま安全な場所まで撤退するか?」
「‥‥いいえ。領主が行方不明のままでは解放宣言にも真実味がないでしょう?」
 すなわちこの人は、皆がバの兵士を駆逐した際に堂々とマクシミリアンへ協力すると宣言するつもりなのだ。
「では、これを渡しておく」
 烈は念の為に泰山府君の呪符を渡し、そしてその場‥‥一番高い民家の屋根の上にて警戒を続ける。
「くそ‥‥追え、追うのだ!! 弓でも何でもいい、アンゼルマを殺せ!」
 指揮官はその場で叫び続けるが、バの兵士達は冒険者達への対応で精一杯だ。街の兵士達がアンゼルマを攻撃するはずもなく、指揮官の叫びは空しく響き渡っただけ。
「ベアトリクス、アンゼルマ妃の元へ行って!」
 ベアトリーセはダガーでバの兵士を牽制しながら連れてきたシルフに命ずる。シルフは急ぎ、アンゼルマの元へと飛んで行った。何かあったとしても、シルフのストームが役に立つだろう。
「アノール!」
 シファはデッドorライブ+カウンターアタック+フェイントアタック+スマッシュEXの合成技で向かってきたバの兵士を打ち倒し、ジニールを呼び出して、戦おうとしないジェト兵士を攻撃しようとするバの兵士との間に割って入る。
「次に命を捨てたいのはどなたです?」
 ルイスの剣がバの兵士を一閃した。そして威圧感を込めた彼の声に、一瞬躊躇いを覚えるバの兵士。
「怯むな! 捕らえろ! 捕らえるんだ!」
 混乱からか、指揮官の指示は一定しない。それを横目で見つつ、オーラ魔法で自身を強化したセイルは派手に立ち回りながらもバーストアタックでバの兵士の武装を解除し、戦意をそいでいく。
「王子もなかなかやるようだな」
 バの兵士が襲い掛かってくると同時にエクセラとアミュートにコマンドを打ち込んだ王子は、ダイアモンドの全身鎧に包まれていた。そしてセイルと背を守りあうように、エクセラを振るっている。
「混乱時に咄嗟に指示を出せない指揮官は、ろくなもんじゃないな」
 固まって襲い掛かるバの兵士をソードボンバーでなぎ払ったグランは、断頭台の指揮官へと迫る。
「大人しくしていただきましょう」
 ホーリーフィールドで狙われるジェト兵士を守っていたフィリッパが、指揮官にコアギュレイトをかけた。動けなくなった指揮官は、恐怖で目を見開いたまま、グランやルイスの接近を許している。
「貴方達の企みは失敗しました。ムダな抵抗はやめてはどうですか?」
 ルイスが剣を、グランが槍の先を指揮官の首筋に近づける。断頭台の下ではベアトリーセ、セイル、シファ、響がバの兵士達をほぼ制圧し終えたところだった。
「このまま、あなたが代わりに首を斬られてみますか?」
 コアギュレイトで動けないと解っているところに、わざとフィリッパが静かに問うた。
「私はジェトの正統な王子、マクシミリアン・ルイドだ」
 断頭台の上にゆっくりと昇ってきた王子に、指揮官に武器を向けたままルイスとグランが場所を譲る。
 その言葉に、しん‥‥と広場が水を打ったように静まる。
「精霊に認められた王子として、サクラアンシュの解放をここに宣言する!」
 エクセラを青空に突き上げて、王子は叫んだ。その背後に、荘厳な青年の姿を形作ったバハムートが浮かび上がる。その姿に民衆が驚きの声を上げた。
「これは天界王の武具の一つ、神冠「オシリス」。マクシミリアン王子が天界王のご加護を受けた証拠です」
 シファが自らの冠を掲げながら、ジニールを王子に近づけて『精霊の王子』の演出を更に強める。セイルも盾を掲げ、ベアトリーセがローブを靡かせながら断頭台の下に並ぶ。
「俺は天界人だ‥‥精霊に召喚された俺も、この精霊の王子に力を貸す!」
 伝説の武具を身につけた者達と、響の宣言に民達はよい意味で威圧されていた。だが大手を振ってマクシミリアンを支持していいものかという逡巡が民や兵士達の心に浮かぶ。
「みなさん」
 そこに現れたのは、烈に抱かれたアンゼルマだった。ウイングシールドの力を再び借りて、断頭台の傍へと降ろしてもらう。
「我がサクラアンシュはバに屈する事を良しとしません。我が街を救ったマクシミリアンを支持し、彼を反逆者とする王と突然現れたエアハルト王子には従わない事を宣言します」
 アンゼルマの言葉にざわざわと人垣からのざわめきが濃くなる。王家に弓を引くとの堂々とした宣言。かくまうだけならまだしも、と突然の事に困惑する者達もいる。だがアンゼルマの声はブレない。
「彼は正当なるジェトの王位継承者。精霊に認められ、天界王ロード・ガイ縁の武具を身に纏った者達と共に戦う勇敢な姿を、皆も目に焼き付けたでしょう」
 民達の視線が、冒険者達に集まる。突然目の前に広げられた事実が強烈過ぎて、中々受け入れられないのも解る。だからアンゼルマは冒険者達にしっかりと自分達の姿を見せるように、と求めた。
「バと友好関係にあるというのは建前で、今ジェトスを初めとした国内は、バの兵士が我が物顔であるいています。バに占領された我が街を救ってくれたのは、間違いなく彼等なのです。彼らがこのジェトを、バの支配から解き放ってくれる事を祈ろうでは在りませんか。我がエイデル領が、マクシミリアン王子の最初の後ろ盾となろうではありませんか!」
 キラリ、冒険者達を陽精霊が照らす。
 宙空から見守るようにしているバハムートの姿も含め、それはまるで一枚の絵画のようだった。

 徐々にバに侵略されつつあるジェトを救うべく集った、王子と八人の勇者達――。

 サクラアンシュの民達は、その姿を目に焼きつるようにしながら、最大限の拍手と歓声を送った。



「政治家は話術が武器って言うけれど、アンゼルマは細かい打ち合わせもなしにあそこまで言ってのけるのはすごいよね」
 何とかジェトの兵士によって機能が取り戻された城の一室で、少年姿に戻ったバハムートが呟いた。
「私達がバハムート君に認められると信じてくれていたのでしょう」
「揺るがない指揮官というものは、やはり強いな」
 ベアトリーセと烈が昼間のアンゼルマの姿を思い出して。
「これで引き返せなくなったな。元々そのつもりはないが」
 セイルが盾を布で磨きながら告げる。
 エイデル領を巻き込んだ以上、もう隠れる事も逃げることも出来ない。正面切ってエアハルト王子と戦う事を選ばざるを得なくなったのだ。
 だが勿論それは想定済みで。むしろエイデル領の民達の支持が広がれば、他の領の民達の支持をも引き戻せる可能性があった。
「俺達はバハムートの加護を受け、そして武具を預かり、準備が整っている。これ以上、隠れる必要もあるまい」
 グランの言う通り、こちらは必要と思える準備は整ってた。足りないといえば現在のジェトスの情報くらいだろうか。
「相手方の情報が欲しいところですが‥‥後ろ盾、武力共に整いましたね」
「王子、どうしますか?」
 フィリッパと響が微笑んで王子を見つめる。
「‥‥エアハルトの化けの皮を剥ぎ、ジェトからバを駆逐する。手伝ってくれるか?」
 その言葉にルイスとシファはおかしそうに顔を見合わせて。
「それは今更愚問ですな」
「勿論です」
 力強く、頷いた。

 今後は本格的にジェトスへ攻め入るための準備が、進められることになった。