【竜の王子 精霊の王子】密談に黒い影

■シリーズシナリオ


担当:天音

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月30日〜10月05日

リプレイ公開日:2009年10月13日

●オープニング

 エイデル領がバックにつき、反乱者マクシミリアン王子が蜂起。ジェト上層部が設置したエイデル領を孤立させるための関所を、冒険者とマクシミリアン王子が奪還した事は国内に――特に王都ジェトスを擁するルイド領と、マハト領に強い衝撃を与えていた。
 初期は手放しでエアハルト王子を歓迎していた人々も、彼のやり方が段々ジェトをバの支配下に置くようなものだという事を感じ、そして彼のつれてきた竜が事あるごとに暴れるので不信感を抱きつつあるようだ。


 そんな中で先日関所から救出した貴族によって有力な情報が得られた。
 元王の側近であったディルク・ボッシュ前侯爵が現在のジェトを憂えているという。ただ高齢を理由に側近を辞したため、表立って動くことはしていないということだった。
 本来なら直接マクシミリアン王子が前侯爵に会いにいければよいのだが、そうもいかない。王子は潜伏のためメイに戻るからだ。
 そこで残ったシフールのアルトゥールが、その貴族と共にディルク前侯爵と面会を果たした。


 家臣団の上層部に異変が現れ始めたのは、エアハルト王子が現れてから暫くして、マクシミリアン王子がまだ城にいた頃だ。突然王位継承権をエアハルト王子に、と全員一致で決定したのである。これにはマクシミリアン王子も不審さを感じたが、王の決定もあって簡単に覆るものではないと知れた。


「ディルク前侯爵は色々な情報を持っておいででした。息子さんである現侯爵が、家臣団の一員であるからその動きは耳に入って来るそうです」
 メイディアに到着したアルトゥールは休憩もそこそこに現状を語って聞かせた。
「息子さんが突然、竜に祝福されていた王子とはいえぽっと出のエアハルト王子支持に意見を変えたので、不審に思ったらしいです。息子さんの言動をそれとなく探っていたら、家臣団上層部の不自然な動きが目に付いたとか」
「不自然な動き?」
 話を聞くマクシミリアン王子は、組んだ足を組み替えて話に聞き入る。
「家臣団上層部約20名は、週に一度、家臣団のうちの誰かの家に集まっているそうなんです。それは、エアハルト王子が来る前まではなかったこととか」
 勿論家臣団同士行き来することはあっただろう。だが20名が必ず週に一度集合するというのは何だかきな臭い。
「集会に使用される部屋には、集会が終わるまで使用人も家族も絶対に近づいてはならないときつく言い聞かされるそうです」
「ただの密会ではないんだな?」
「‥‥ええ。数週間前に集会が開かれたある家臣の家で、メイドがうっかり言いつけを破って集会中に部屋に入室してしまったらしいんです。飲み物を、と気を使ってワゴンを押して行ったとか。ですが――そのメイドはそれ以降部屋から出てこなかったそうです」
 アルトゥールの言葉に、王子は首を傾げる。出てこなかった?
「こっそり廊下の影から様子を覗っていた別のメイドの話によると、入室したメイドの叫び声が聞こえたとか‥‥。そして部屋の中からは家臣団の他にシフールに似た姿をした者が3名、見たことの無い美しい女性が1名でてきたらしいです。中に入ってしまったメイドは――翌朝、田舎に帰るために職を辞した、と伝えられたそうです」
「――殺されたか」
 マクシミリアン王子の言葉に、アルトゥールはこくん、と頷いた。その光景を見てしまったメイドは自分が目撃したことが知れれば自分も殺されるのではないかと恐ろしくなり、すぐに辞めたという。
「そのシフール達と女性は何者か‥‥カオスの魔物だという可能性は」
「十分に考えられるかと」
 エアハルト王子の出現と時同じくして突然、エアハルト王子派に意見を変え始めた家臣団たち。一週間に一度という謎の会合。カオスの魔物の特殊能力で何か合致するものはないだろうか――。
「それで次の会合の場所ですが‥‥ボッシュ侯爵邸とのことです」
「それは‥‥ディルク前侯爵はその集会の真相を暴け、と我々に言っているのだな?」
 それが出来れば、ディルク前侯爵の信を得ることが出来るだろう。また、家臣団達の真意を知ることが出来るかもしれない。
「前侯爵はエアハルト王子のバとの関連について、一つ気になる情報を持っているそうです。この集会の真相を確かめられれば、話してくださるとか」
 折角与えられたこのチャンス、逃がす手はあるまい。

●今回の参加者

 ea1587 風 烈(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea3063 ルイス・マリスカル(39歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea5229 グラン・バク(37歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb1004 フィリッパ・オーギュスト(35歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb4482 音無 響(27歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb8642 セイル・ファースト(29歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ec4322 シファ・ジェンマ(38歳・♀・鎧騎士・パラ・メイの国)
 ec4427 土御門 焔(38歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)

●リプレイ本文


 改めてジェトスの街並みを見ると、やはり荒廃しているように見えた。所々壊された建物に、人々の暗い表情。街中で目を光らせるバの兵士。まだ緩いほうではあるが、まるでバがジェトを支配してしまったようでもあった。
 ボッシュ侯爵邸はジェトスの街の中、それも王城に近い貴族街にある。それぞれ皆変装をしてアルトゥールの案内に従うも、大人数で固まっていると見咎められやすいとの指摘を受けて、簡単に別れて侯爵邸を目指す事にした。
「王子、どうかしましたか?」
 音無響(eb4482)に声をかけられて、マクシミリアンは自分が足を止めていた事に気がついた。シファ・ジェンマ(ec4322)による変装によって身をやつしている彼が、城を追われてからこれほどまでに王城に近づくのは初めてだった。
「焦っても良い結果は得られない」
「‥‥ああ」
 グラン・バク(ea5229)の静かな言葉に王子は頷いて、そして視線を外した。あそこに乗り込んでいってしまえれば――だがそれではただの無鉄砲だ。勇気と無鉄砲は違う。今までじっくりと地盤を固めてきたのだ。これからこなすのも、その一つ。
「行きましょう」
 フィリッパ・オーギュスト(eb1004)の優しい声に導かれ、一同はバの兵士達の目を気にしながらも目的の屋敷へと歩んで行った。



「この度は色々とご配慮いただき、ありがとうございます」
 念の為に、と礼服に身を包んだルイス・マリスカル(ea3063)がディルク前侯爵に頭を下げる。椅子に座ったディルク前男爵は頷き、そして一同を見渡す。勇退したとはいえ元国王の側近というだけあって、その瞳からは威厳が伝わって来るようだった。
「今のジェトはおかしい。その原因の一端を担っておるのが家臣団達だと思わざるを得ない」
 先程王子と言葉を交わした前侯爵は、冒険者達をしっかりと一人一人見つめた。
「わが息子の身可愛さから願い出ているのではなく、国を憂える一人の者としての願いだと受け取って欲しい。国の為には、わが身や息子の身を差し出す覚悟とてある」
 玄関から遠いこの部屋にも、微かにドアベルの鳴り響く音が聞こえる。客が集まり始めているのだろう。風烈(ea1587)はその音に耳を傾けながら、しっかりと頭を下げた。
「最善を尽くします」
 今言えるのはそれだけだ。今目指すのも、それだけだ。
(「消えてしまったメイドさんのような人を、もう誰一人出しちゃいけないんだ‥‥それに、このままにしておいたら、そんな悲劇はジェトの人々、そして世界中の人々に広がるに違いない」)
 悲しむ人々がこれ以上増えないようにと憂える響は前侯爵をしっかりと見つめて。覚悟を決めているとはいえ彼らを犠牲するわけにはいかないと心の奥で誓って。
「石の中の蝶が動きました」
 自らの指に嵌めた石の中の蝶の動きに注目していた土御門焔(ec4427)が小さく声を発した。同じく石の中の蝶を持つ者達が自身のそれに目をやると、確かに蝶は非常に緩慢ではあるが動き始めていた。
「やはり、カオスの魔物が関与しているという事でしょうか‥‥そろそろ準備を始めましょう。烈さん、お願いします」
 対探知魔法を警戒してデティクトアンデッドは使用しない。フィリッパは烈に頼んでオーラエリベイションを付与してもらう。烈はそのまま希望する者に施術をし、フィリッパは自身にグッドラックを使用した後皆にもレジストデビルやグッドラックを付与して回る。達人レベルの術を連続で使うのはそれなりに労力が必要だったが、回復アイテムを使用しながら何度も繰り返し、施術を終える。
「準備は整ったな。それじゃあいこうか」
 杖で魔力を回復させた烈が声をかけると、前侯爵は「武運を祈る」と力強く声をかけた。



 大広間近辺は人払いがされており、二つある扉はしっかりと閉ざされていた。中からは話し声一つ聞こえない。20人以上もの人が集まって沈黙しているというのも不思議なものだった。
「いったい、何を企んでいるんだろう?」
 扉に忍び寄った響が耳をそばだてて声を拾おうと試みる。かろうじて聞こえてきたのは女性のような高い声。
「毎度毎度ご苦労な事‥‥それは私たちも同じだけれども」
 焔がエックスレイビジョンで垣間見た壁の向こうは、長テーブルに備え付けられた椅子に並んで座っている家臣団の前に、謎の女性がいるという状況。女性はテーブルの上に座っているが、シフール三名は家臣団の間を飛び回っているようだった。その状況を焔はファンタズムで映像化してみせる。
「机と椅子が邪魔だな。多少の被害は覚悟してもらうか」
 家臣団を女性やシフールから守るにしても、机や椅子は邪魔にしかならなそうだった。グランの言う通り、器物の被害は皆無というわけにはいかなそうである。
「石の中の蝶は反応していますね。突入しましょう」
 ルイスの手の中の蝶は激しく羽ばたいている。一同は二箇所の扉に分かれて、そして頷きあった。

 バンッ!!

 内側から鍵の閉まっている扉を突き破るようにして開き、踏み込む。ざわり‥‥中に座っていた家臣団達が動揺するのがわかった。
「あら‥‥また侵入者。始末をするのも面倒だっていうのに」
 メイドを始末した時の容易さを思い描いているのだろう、女性の表情は余裕だ。前の扉から侵入したルイスとシファ、響、王子を見て何かを呟く。詠唱だろうか。
「輝け俺のオーラ‥‥この心はけして闇に飲み込まれはしないぞっ!」
 対抗して響がオーラエリベイションを唱えた。少しでも抵抗するために。
「君達は何だね、ここにいるのがどんな高貴な身分の者達だか知っての事か?」
 家臣団の一人が後ろのドアを蹴破った烈、グラン、フィリッパ、焔に問いかける。操られているようには見えないが、その後ろではシフール三名が詠唱を始めていた。
 事態は急を要するかもしれない。時間をかけすぎて家臣団を盾に取られては、事は不利に働く。だが彼らの身柄を押さえるには相応の建前が必要だ。
「この中にカオスの魔物がいます。カオスの魔物との関与が疑われますので、その疑いが晴れるまで一時身柄を確保させていただきます」
 ルイスの言葉に再びざわり、場が揺らぐ。その隙にグランは月影の袈裟の効力を利用し、窓辺に近いシフールの影へと移動した。そして詠唱を始めていたシフールの身体を槍で貫く。それが合図になった。
 烈がシフールに向かって走り出すと近くにいた家臣団がシフールを庇うように立ち塞がる。仕方なくスタンアタックを使用し、そのまま気絶させた。倒れる時に椅子にぶつかったようだが、そこまで配慮している余裕は無かった。焔が高速詠唱でスリープを発動させる。だが達人レベルを狙ったそれは残念ながら不発に終わった。代わりにフィリッパがコアギュレイトを唱え、詠唱中だったシフールのうち一名の動きを止める。
「攻撃をして来るならば、正当防衛だといえるでしょうか」
 ルイスが女性へと迫る。その前に家臣団が立ちはだかったが、響のスリープで眠りに落ちて行った。シファがそれを確保、後方へと下げる。
 どうやらこの女性とシフール達は高速詠唱を使えないようだ――女性の詠唱はルイスの攻撃によって止められ、攻撃を受けた女性はテーブルが倒れるのに合わせて床へと倒れる。それを助け起こそうとする家臣団に響がスリープをかけた。
 詠唱を妨げられなかった一名のシフールの魔法が発動した。だがその黒い炎はフィリッパに傷をつけることは出来ない。
 机の向こう側にいるシフールを狙おうと、烈が椅子を踏み台に机を乗り越える。やはり前に立ち塞がったのは家臣団達。今度は焔のスリープが発動し、五人の家臣団がその場で倒れ伏した。何とか家臣団たちを踏まないようにしながら、烈がシフールを攻撃する。
 窓際にいたシフールは突然影から現れたグランに驚きつつも、その爪を振るう。だが彼に傷一つつけることすら叶わないどころか、逆に槍を身体に深々と突き立てられ――そして霧散した。これがこのシフールが本物のシフールではないという証拠。消えてしまうのは、カオスの魔物だ。
 女性は魔法を使うのを諦めたのか、素手でルイスを殴ろうとした。だが容易にかわされてしまう。
「マクシミリアン王子!?」
 どこからかそんな声が上がった。シファと供に眠った家臣団を運び出す手伝いをしていた王子に、家臣団の誰かが目を留めたのだ。
「へぇ、あの子がマクシミリアン王子なの」
 女性はすっと目を細め、そして倒れたテーブルを乗り越えてマクシミリアンへと向かう。
『王子、危ない!』
 響のテレパシーを受けて、家臣団を運んでいた王子はその手を離して振り返った。そして迫る女性に鞘に入ったままの剣を叩きつける。
「敵に背中を向けるのは感心しませんね」
 直接的な戦闘にはあまり慣れていないのだろうか。背中を見せた女性は、ルイスの攻撃を背中に浴びて崩れ落ちる。
「アノール!」
 追い討ちをかけるようにシファが合成技を繰り出すと、女性の姿も先のシフールと同様に綺麗に掻き消えた。



 女性とシフール達を消し去れば、残ったのは気絶していたり眠っていたりする家臣団の面々。いち早く目を覚ました者に猿轡をかませ、烈がテレパシーリングで、響がテレパシーの魔法で問う。
「一体何をしていたんだ?」
『我々はジェトの今後について話し合っていただけだ』
「特に‥‥何かに怯えていたり脅されていたりする様子はないみたいです」
 リシーブメモリーを使用した焔が報告をする。
「こうして定期的に集まるようにと決めたのは、誰ですか?」
『誰って‥‥エアハルト王子だ』
 ルイスの問いの答えを響が拾い、そして伝える。
「あの女性とシフールに、何か頼まれましたよね?」
 継続的な使用を必要とする術をかけられているのだとふんだフィリッパが問うと、家臣団は頷いて。
『エアハルト王子のお力になるように、と』
『女性とシフールがカオスの魔物だって知ってて協力してたんですか?』
『それは知らなかった、が‥‥』
「突然出てきた女とシフールに頼まれて、はいそうですかと承諾したと?」
 響に続いてグランが問う。後の問いには家臣団は考えるようにして。
『最初は信用ならない者だと感じたが、いつの間にか、断るという選択肢は消えていた』
「それが、術なのでしょう」
 フィリッパが呟いた。命令ではなく、対象に好意的になるような術。彼女達がカオスの魔物だったと発覚しても、術が解けない今では嫌悪感を抱かないだろうし、場合によっては倒した冒険者達を恨むかもしれなかった。
「あの女性とシフールは、あまり実力が高くないように感じました」
「恐らく術をかける専門だったのでしょう」
 シファの言葉に戦闘を思い出してか、フィリッパが柔らかく答えた。
「術が上書きされていなければ、効果が切れればこの人達の考えも改まるはずですよね。それまで拘束しておいたほうがいいでしょうか?」
「そのままでいいだろう。術は順に切れていくだろうし」
 焔の言葉に一歩踏み出したのは王子だ。その言葉に他の者達も頷く。
「そうだな。今日掛け直されたとして最長で一週間。その間これだけの人数の家臣団を拘束しておくのはディルク前侯爵であっても無理だろうしな」
「お、王子!」
 烈がそう述べた時、目を覚ました家臣団の一人が一同の輪に入ってきた。慌ててシファや響が止めようとするが、家臣団はそれを振り切るようにして床に膝を突き、頭を下げた。
「マクシミリアン王子‥‥そのようなお姿になられて嘆かわしく‥‥。しかし今思い返しても、何故自分が急にエアハルト王子を支持したのか、あのような得体の知れぬ女性達の言う事を聞いていたのか解らないのです‥‥! 本当に、申し訳ありません‥‥!」
「術が解けたんですかね」
 その様子を見てルイスが呟く。これから順に術が解けていけば、自分達の過去の行動を不審に思う家臣団も出て来るだろう。そうすれば、現在のエアハルト王子に仕切られたジェトの国を何とかできるかもしれなかった。
「頭を上げよ」
 王子はその者の前に片膝をつき、そして頭を上げさせた。恐る恐る頭を上げた家臣団の顔を見て、彼は小さく笑った。
「そなた、エアハルトを王位継承者にすると決めた時、そして私の排斥を決めた時とはだいぶ違った顔をしているな」
「――王子っ!」
 家臣団は涙を流し、再び頭を床に摩り付けた。
 質実剛健なジェトの者達にとっては、それまで信頼を寄せていた主君を裏切るような行為は、たとえその時は何らかの術で気持ちを操られていたとはいっても許せないものなのかもしれない。それを知っているからこそ、王子は笑って、懐の広い事を示したのかもしれなかった。



 術が解けたとみられる家臣団達には、エアハルト王子には術が解けていることを悟られぬようにと言い聞かせ、これから術が解けるであろう者達の監視を願う事にした。術が解ける前の者を放置していては、今日の出来事がエアハルト王子側に伝わりかねないからだ。
 いや、20人もいれば誰かの口から伝わってしまう事は仕方の無い事なのかもしれない。20人もの立場のある家臣団を留めおくことができぬのだから仕方があるまい。留め置いたとしても、それを不審がられる可能性もある。どちらにしろ深く踏み込む事になった今回の動きで、相手側にも大きな一石を投じられたはずだ。


 家臣団達を帰した後、前侯爵は冒険者達を集め、労いながら口を開いた。気になることがある、と。
「もう15年近く前の事だ。バからの使者として、バの十将軍の一人がジェトに来た事がある」
 前侯爵は当時王の側近として現役だったので、その使者であるバの将軍と面会したのだとか。
「ザガ家というバの名家出身のその将軍は、幼い息子を連れてきておった」
 前侯爵の次の言葉に、一同は耳を疑う事になる。
「その子供の名が、確か『エアハルト』といった」


 これは偶然なのだろうか。
 以前マクシミリアン王子は、バのザガ家の紋章の入った指輪をエアハルト王子が落とした所を目撃したといっている。
 前男爵の記憶が正しいとも言い切れない。確たる証拠はない。それでも。
 疑惑は、広がる。


 果たして、真実は――?