【王立ゴーレムニスト学園】子猫を追って
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■シリーズシナリオ
担当:天音
対応レベル:フリーlv
難易度:難しい
成功報酬:4
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月15日〜02月22日
リプレイ公開日:2008年02月20日
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●オープニング
●講義
「授業を始めるわね」
薄いヴェールを被り、いつもの肩を出した白いドレスを纏ったユリディス・ジルベールが教卓の上に羊皮紙と羽ペンを置く。
「皆さんはゴーレムニストとなるべく勉強を始めるわけだけれども、ゴーレムニストといっても自由にゴーレムを作ることが出来るわけじゃないわ。まず素材を集め、形にしてもらわないといけないわ。ゴーレム魔法は水・火・土・風の4系統全てが必要。ゴーレム一体が完成するまで結構な時間が必要よ」
ユリディスは生徒達を見回すようにして言葉を紡ぐ。
「また、正式な依頼ならともかくどこでもかしこでもゴーレムを作っていいというわけではないわ。まず素材を集めるのが大変だからありあわせの物で出来るわけではないし、勝手に作ったらお役人の取り調べ対象よ。依頼内でゴーレム機器を製作するのが当然だったり特に問題がない場合は、きちんと出来上がっていれば工房も引き取ってくれるわ。ただしゴーレム制作にうつつを抜かして依頼内容を疎かにしたら、あなたたち自身の信用問題になるわ」
将来は分からないけれど、今はゴーレムといえば『兵器』だから、その辺は注意してね、と言いユリディスは髪をかきあげる。
「ゴーレム魔法は4系統。水・火・地・風とあるわ。水は『水精霊砲』とゴーレムシップに必要な『水流制御板』、あとは『防御力制御』。火は『火精霊砲』と『精霊力制御装置』と『行動制御』。地はゴーレム作成のメインとなる『ゴーレム生成』と『地精霊砲』と『浮遊機関』。風は『風精霊砲』とグライダーやフロートシップの『推進装置作成』と『精霊力集積機能』と『風信器』作成ね」
ちなみに私が得意なのは風と地よ、と彼女は付け加えた。
「ゴーレム作成には二十日以上はかかるわ。その中でゴーレムニストの手が必要なのは一時魔力付与と最終魔力付与。どちらもかなりの時間が――きゃっ!」
朗々と語り上げていたユリディスの声が悲鳴と共に途切れた。彼女の言葉をメモしていた生徒達が顔を上げると、彼女は髪を抑えるようにして何かを見つめている。生徒達はユリディスの姿に違和感を感じた――そうだ、彼女が被っていたヴェールがないのだ。
「にゃぁん」
と、その時教室の入り口付近から小さな声が聞こえた。生徒たちがそちらを見やると灰色の子猫が爪に引っ掛けたヴェールを咥えようとしている。
「こら、返しなさい。それ高かったのよ」
事態を飲み込んだユリディスの言葉に驚いたのか、子猫は空いた戸の隙間からヴェールを咥えたままするりと抜け出ていってしまった。
「ちょっと‥‥んもぅ、授業は中断! あの猫を捕まえてヴェールを取り返してきて頂戴。続きはそれからよ」
「え‥‥」
かくして生徒達は、子猫捕獲に駆り出される事になったのである。
●子猫捕獲計画
皆さんの現在位置は二階建ての建物の二階、真ん中の教室です。
左右に空き教室、右の空き教室の隣には皆さんが面接をした面接室があります。
子猫はヴェールを咥えたまま2階建ての建物内を縦横無尽に走り回ります。まず教室を出て右に逃げました。
子猫は建物の外には出ないものとします。
階段が廊下の左右にあります。
一階には玄関を真ん中にして休憩室と教室が1つずつあります。
上記以外の部屋は締め切っているので、子猫が入ることはないです。
●リプレイ本文
●捕獲
「ユリディスせんせー、大人げなーい」
「そんなこと言ってないで、早く行った行った」
ラマーデ・エムイ(ec1984)の言葉に一瞬拗ねたような表情を見せつつ、ユリディスは生徒達を子猫捕獲へと駆り出す。
「こういう時に体をかけるのは、若いもんの仕事ということに決まっているのだ」
ローシュ・フラーム(ea3446)はそう呟くと教室にあるものを物色し、何か作り出した。どうやらひらひらする布で猫を誘き寄せる道具を作っているようだ。
「皆さん、子猫は一階に下りたみたいです」
ブレスセンサーを使って一同のナビゲーションをするのは結城梢(eb7900)だ。それに従い、追い立てる側の門見雨霧(eb4637)が子猫が逃げた右手階段へと向かう。
「まさか最初の講義が『子猫と鬼ごっこ』とはね〜」
「思わぬお客さんだな」
子猫を待ち伏せる予定のガルム・ダイモス(ec3467)は、反対側である左手階段へと向かった。
「んじゃま、行きますか」
レン・コンスタンツェ(eb2928)も子猫を追い立てるべく右手階段へと向かっう。
「何か誘き寄せるに丁度いい物‥‥ないですね」
辺りを見渡したカレン・シュタット(ea4426)だったが、特に有効そうなものは見つからず、待ち伏せるために左手階段へと向かう。ラマーデはその間に寄宿舎の厨房へと向かっていた。ミルクを取ってくるためだ。
「見つけた」
一足早く右手階段を降りたイリア・アドミナル(ea2564)は、子猫が休憩室に入っていくのを見つけて、追いかける。
『落ち着いて、傷つけるつもりはないよ。僕のところに来て』
テレパシーの高速詠唱で話しかけるが、子猫は遊んでもらっているとでも思っているのか、休憩室内をたかたか走り回り、イリアが入ってきたのとは別の扉から出て行く。
結論を言えば、程なく子猫は捕獲されることになる。子猫が待ち伏せる側を上手くすり抜けたおかげで、追い立てる側は校舎を3周ほど走らされる羽目になったが。
問題はその後で。子猫は飽きたのか、何処かでヴェールを落としてしまっていたのだ。走り回って疲れたのだろう、すっかり大人しくなってミルクを飲んでいる子猫を半ば恨めしく見ながらヴェールを探した所、それは右隣の教室でガルムによって発見された。子猫は最初に右隣の教室に寄ってヴェールを落とし、追い立てられるままに走り回っていたらしい。まったく人騒がせな事だ。
「ねぇせんせ。この子、あたしが飼ってもいい?」
懸命にミルクを飲むその姿を眺めながら問うラマーデに、ユリディスは戻ってきたヴェールをガルムから受け取りながら苦笑する。
「寄宿舎で飼うならいいわよ。講義がない間は私が面倒見てあげる」
「それならば名前をつけなければなりませんね」
愛らしい子猫を見つめ、カレンが呟く。
「何がいいですかね〜」
梢も思案するように首をかしげた。
「涎でべたべた‥‥洗濯しないといけないわね」
子猫の名前で盛り上がる生徒達をよそに、ユリディスはお気に入りのヴェールを見て嘆息していた。
●再開
無事に再開された授業。生徒達は一部疲労感漂っていなくもないが、ユリディスは満足気に朗々と語る。
「精霊魔法とゴーレム魔法の関連性だけれど、ゴーレムニストはウィザードと同じ様に複数の系統の魔法を使用可能だわ。だからそこに着目すべきね。例えば精霊砲の効果は類似魔法があるものもあるし、精霊魔法の一部が転用されているものもあるんじゃないかしら」
だから精霊魔法とゴーレム魔法は全くの無関係ではなく、実験次第では精霊魔法のバリエーションを使って新たなゴーレム魔法を生み出す事も出来るかもしれない、とユリディスは言う。
「あ、しつもーん」
「何かしら」
そこで手を上げたのはラマーデだ。彼女は軽い調子で質問をぶつける。
「精霊魔法には月と陽もあるのに、どうしてゴーレム魔法にはないの?」
「それはね、今の所公式にバードやジプシーから転職して、その後独自のゴーレム魔法を作り上げた人がいないからよ。ゴーレム魔法考案者のオーブル・プロフィットは恐らくは元々ウィザードで、その魔法からゴーレム魔法を作ったんじゃないかしら」
「月と陽はゴーレムに付与できないわけじゃないの?」
「現在の所月と陽の精霊魔法を元にしたゴーレム魔法は存在しないから、付与する事は出来ないわ。でも今後研究が進めば、月と陽のゴーレム魔法が出てくる可能性はあるわね」
二人の質疑応答を、カレンや梢は静かにしっかりと聞き、必要な部分はメモを取っている。
「そういえば」
次に話を切り出したのはレンだ。
「付与する物って形は決まっているの? 必要だから試行錯誤の末にそうなったの? 例えば精霊砲は魔法を付与したら筒型に膨張したのか、筒型にした方が有効だから造形したのか」
「ゴーレム機器はね、素体を作ってから魔力を付与するの。人型ゴーレムなら人型、フロートシップなら船。この辺は鍛冶師の領分なんだけどね。だからエレメンタルキャノンは砲台形の素体を作ってから魔力を付与するのよ。もしかしたら、人型の風信器なんて出来ちゃうかもしれないわね――誰も試した事ないけれど」
ユリディスはくすり、と笑った。
「わかりました」
レンはメモを取らない。重要な部分はその場で覚えるようにしているからだ。逆にガルムはユリディスの言葉を一言一句聞き漏らす事のないように、机にかじりつかんばかりの勢いで必死に知識を吸収しようとしている。
「たぁっ!」
カツン‥‥カタ‥‥
「見事ね」
今何が起こったかといえば、慣れない授業で半ばぐったりしかかっているローシュに向けてユリディスがチョークを放ったのだ。しかしそれは生徒用にと机の上に置かれている石版でがっちりガードされる。ぐったりしているからといって話を聞いていないわけではないらしい。生徒も様々だ。
「丁度いい、質問がある。『頭がよくて器用な人ほど身につきやすい』というのはどういう意味かの」
「うーん、目に見えるものじゃないから説明しづらいのだけれど」
その質問にユリディスは考えるような仕草をしてみせる。
「『頭が良くて器用な人』ほど転職に至るまでの期間が短くて、魔法を覚えた後の成長も良いと言われているのよ。具体的に目に見えるものじゃないからなんともいえないわ」
「じゃあ次、俺から質問〜!」
思いっきり挙手したのは雨霧。内心ではチョークが飛んでこなくて良かったと思いつつ。飛んできたら回避をしたいところだけれど何だか回避できなそうな気がするし。
「ゴーレムの修理の方法を知りたい。図書館の本じゃいまいち分かりづらくて。『ゴーレム生成』をかけるのか、修理する場所によって他の魔法を使い分けるのか」
「素体に欠損があればその部分の素材を修理、補充して、その部位に対応した魔法を一からかけるわ。『ゴーレム生成』と、対応したバリエーションをね。でも素体が激しく壊れていた場合は金属は溶かして再利用。ウッドとストーンは破棄になるわ。作り直す方が多いかしら。ちなみに外装部は鍛冶師が修理するの」
ユリディスは生徒に見えるようにと設置された石版に、人型ゴーレムの様なものを描きながら説明を続ける。
「ゴーレムのメンテナンスは素体は被害が出ていないかを確認するだけで、外装部が主ね。素体に何かあれば即修理。私達の出番は魔法を掛けなおして修理する場合ね」
「先生」
ユリディスの解説が一段落したのを見て、次に手を上げたのはイリアだ。
「ゴーレムニストに転職後ウィルに留学する場合、機密等で気をつけることはありますか? また、紹介状はもらえますか?」
この質問にはユリディスも苦笑を隠せない。
「残念ながら紹介状は貰えないわ。まず稀少な人材であるゴーレムニストは出国自体を留められることが多いわ。それに機密は機密。漏らしたらメイでは犯罪者扱いよ。基本的に工房で独自開発しているものは秘密にするものだし、例えば――『メイにばれないように』そういう内容を漏らしたとしましょう。でも逆に考えてみて。他の工房の話を軽々とするような人を信用できて?」
「‥‥‥できませんね」
「そういうこと。そういう人は行った先でも信用されないと思うわ。だから、工房内の事は全て機密だと思った方がいいわね」
他に質問はある? との問いかけに手を上げる者はもういなかった。ユリディスは教卓代わりの机の上に広げられた羊皮紙を素早く纏める。
「それでは今日はこの辺にしておきましょう。各自ゆっくり休んで講義期間終了まで頑張って頂戴」
はーい、と返事が返ってきたのを満足気に見て、ユリディスはドレスの裾を翻らせながら教室を出た。教室内では生徒達のおしゃべりが開始されたようだ。その内容は講義のことから今後の展望まで様々だろう。けれども放課後のおしゃべりを教師が邪魔をするのは無粋というもの。
「がんばってね、たまごさんたち」
廊下で教室を振り返り、彼女は小さく呟いた。