【王立ゴーレムニスト学園】技は見て学べ

■シリーズシナリオ


担当:天音

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:4

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月01日〜03月08日

リプレイ公開日:2008年03月07日

●オープニング

 受講者一同はこの日初めて3階建ての建物へと案内された。どうやらこちらは実技関連の施設のようである。
「まずはここから」
 ユリディスは扉を開け、スタスタと1階の部屋へと入っていく。そこには約2メートルほどの全長を持つ石人形が横たえられていた。
「これはストーンゴーレムの元となる石人形よ。教材としていつでも実物が見られるように、急いで鍛冶師に作ってもらったわ」
 だがストーンゴーレムにしては全長が小さい。
「ゴーレム魔法をかけるとこの石人形が膨張して4メートルを超えるわけ。膨張率は石で大体2倍くらい。金属の方が膨張率は高いわね。それに対して木は殆ど膨張しないせいか、ウッドゴーレムは小型でしょう? あ、触ってもいいわよ」
 ユリディスは軽く腕を組み、説明をしながら、石人形に触れようとした生徒に許可を出す。
「膨張率が違うのは、精霊力の集積能力の違いからね。金属の方がより精霊力を集積しやすいの」
「実際にゴーレム魔法を付与している現場の見学は出来ないのですか?」
 受講者の一人が尋ねる。ユリディスは口角を上げて微笑み、その質問に答えた。
「見たいでしょう? そう来ると思って用意してあるわ。隣の部屋へ来て頂戴」
 彼女の先導によって一同が隣室へと足を踏み入れると、そこには40cm程の宝箱大の箱が魔法陣の上に置かれている。その箱は2つのラッパ状の物がついている不思議な箱だ。
「これは‥‥風信器?」
「ええ、そうよ。今からここで風信器の魔法付与をやって見せるわ。その後、ゴーレム工房の見学に向かいましょう。簡単なメンテナンス程度なら特別に見せてもらえるはずよ。さすがに大型のゴーレム機器の作成までは見せられないけれども」
 ユリディスはこれからここで実演をして見せるという。実演の後に風信器作成について多少の説明もしてもらえるだろう。その後、ゴーレム工房でメンテナンスの見学になる。

 今回ユリディスが皆を評価するのは「授業態度」だ。だからといってただ真剣に話を聞いていればいいというものではない。彼女がそういう部分で人を評価しない事はそろそろ皆分かってきた事だろう。彼女は個々に判断を下す。それぞれがそれぞれなりに頑張っていればその分評価をするのだ。
 今回は実演見学と工房見学での態度が評価に繋がる。どのような姿勢で見学に臨むのか、何を重点的に見てみるのか、そんなことを考えてみるといいかもしれない。

●今回の参加者

 ea2564 イリア・アドミナル(21歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea3446 ローシュ・フラーム(58歳・♂・ファイター・ドワーフ・ノルマン王国)
 ea4426 カレン・シュタット(28歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・フランク王国)
 eb2928 レン・コンスタンツェ(32歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb4637 門見 雨霧(35歳・♂・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 eb7900 結城 梢(26歳・♀・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 ec1984 ラマーデ・エムイ(27歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・アトランティス)
 ec3467 ガルム・ダイモス(28歳・♂・ゴーレムニスト・人間・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●実技見学
 今回は実技と工房見学とあって、ただ座って聞く座学とは違う所が生徒の一部をわくわくさせる要因となっていた。
「急遽作ったというが、これはなんと素晴らしい出来だ」
 素体自体はゴーレム開発関連の依頼でよく見かけているというローシュ・フラーム(ea3446)は、学園の為に急いで作らせたという石人形を見て呟く。ついつい職人としての好奇心が、素体へ目を向けさせる。
「あ、これこの前運んできた石から削りだしたのね。んー、いい触り心地」
 ユリディスからの許可に従って石人形をぺたぺた触るラマーデ・エムイ(ec1984)。彼女は以前ユリディスが石運搬の依頼をした時に護衛として加わっていたのだ。
「ところでせんせー、ゴーレムニストが出国を留められるって言ってたけど、あたしは今が遊学中だもの。すぐじゃないけどいつかは国に帰るわよ? 工房の研究は内緒でも、習い覚えた技術まで他所で使っちゃ駄目って意味じゃないわよね?」
 ラマーデの言葉に、次の部屋に向かおうとしていたユリディスが足を止めて振り返る。
「そうね‥‥スキルの使用は制限されないと思うけど、国を出るときに慰留されたりとか色々あるかもしれないからそれは覚悟しておいてね。それに学園を卒業したとしても、最初から他国に渡るって意思があると確認されると工房には入れてもらえないわ。元から他国に行くとわかっている人を国の機密たる工房に入れて、情報漏洩の可能性を作る――なんてことを工房はしたくないわけ。分かるかしら?」
「うーん、お堅い所なのね。機密を扱っているんだから当然といえば当然かもしれないけどー」
 じゃ、行くわよとユリディスは一同を次の部屋へと促した。

 魔法陣の上にでんと置かれているのは風信器。40cm程の宝箱大の物だが、実際はかなり重かったりする。
「ここにある風信器は、素体を作ってもらい、ここに運んでもらった後で私が『ゴーレム生成』魔法を付与したわ。本当だったらそこから見せてあげられれば良かったのだけれど、魔法が浸透するのに半日くらい掛かるから、先に済ませておいたの」
「あの、すいません」
 真面目にユリディスの言葉を聞いていたカレン・シュタット(ea4426)が控えめに手を上げる。
「この場合、『ゴーレム生成』を掛ける人と『風信器』を掛ける人は同席する必要がないということですか?」
「そういうことになるわね。私みたいに一人のゴーレムニストが『ゴーレム生成』と『風信器』を修得していれば一人で作成が可能よ。そうでない場合は二人が別々に魔法を付与する事になるから、この二人が必ずしも同席する必要はないわ」
「どのゴーレムでも魔法が浸透する時間は一緒なの?」
 今度はレン・コンスタンツェ(eb2928)から質問が飛ぶ。
「いいえ。ゴーレム機器の大きさによって魔力の浸透と安定にかかる時間が異なるわ。『ゴーレム生成』を掛けてから次の魔法を付与するまでの時間が長くなるわけ」
 生徒の質問が一段落ついた所を見計らって、それじゃ、はじめるわよとユリディスは風信器の前に立つ。そして片手で印を組みながら、詠唱に入る。詠唱が終わり、魔法が発動した瞬間――ユリディスの身体が風魔法特有の淡い緑色の光に包まれて見えた。だが風信器には特別何の変化も見られない。
「意外とあっさり終るものなんだね。魔法を使ったことが無いから、魔法を使う感じは分からないけど」
 門見雨霧(eb4637)の言葉にそうね、と笑みを浮かべ、ユリディスは生徒達を振り返る。メモを取る者、イラストを描く者、頭に詰め込む者などその様子は様々だ。
「これで魔力が浸透するのを待って一応完成――質問は?」
「魔法陣は必須なのか? 風信器はあの形でなくてはならないのか?」
「基本的に魔法陣は必須よ。大抵は魔法陣なしで魔法を付与した事は無いから、なくても魔力が付与できるかどうかわからないわね。魔法陣があると魔力浸透が早まるとも言われているわ。形については前回も言ったけれど、人型の風信器なんていうのも出来るかもしれないわね?――試した人はいないけれど」
 質問を投げかけたローシュは更に質問を続ける。
「通信に関与する一部分だけでなく風信器全体に魔法を付与するように見えるが、箱の部分も単なる入れ物ではなく風信器を構成するゴーレム機器ということになるのか?」
「風信器は全体で一つのゴーレム機器だから、何処かが破損しても機能が損なわれるわ。例えそれがただの入れ物に見える箱の部分でもね」
「では標準より良質の製品が出来たり、逆に劣った製品ができたりということはあるのか?」
「基本的にないわね。ただゴーレム魔法を付与する時に、魔法の発動に失敗した場合はまた掛けなおし、なんてことはあるけれど」
 発動に失敗して掛けなおしにならないでよかったわ、とユリディスは先ほどの実演を思い出してかくすりと笑う。
「そういえば先生、膨張率の話だけれど」
「なぁに?」
 雨霧の言葉にユリディスは軽く首をかしげる。
「魔法を掛ける物質によって膨張率が異なるってことだけど素材の混入率によって膨張率や性能も異なってくるの? 金に銀を混ぜたり、銅だったりしたら?」
「金属素材はね、普段は純度の高いものを使用するのが当然なの。だから普段はそういう純度の低いものは使用しないのでちょっと分からないわね」
 すると、ずっとメモを取り静かに見学していた結城梢(eb7900)がぽつりと呟いた。
「精霊力の根元はどこから来ているのでしょうか」
「難しい質問ね」
 その言葉を拾ったユリディスも、少し困ったように首をかしげる。
「不明、としか言いようがないわ。ウィザード達でも、意見は様々だと思うわ」
「では精霊力を効率よく分配して――燃費を良くするということは出来ないのでしょうか?」
「それはゴーレムの稼働時間を延ばすということ? だとしたら出来ない、わね。ただ乗り慣れてくると、乗り慣れない頃に比べて自然と稼働時間が長くなってくる、という事はありえるかもしれないわね」
 じゃ、続きは工房へ、とユリディスは一同を促した。


●工房にて
 ゴーレム工房の中でも修理やメンテナンスを担当する部分には、様々なものが置かれている。ウッドやストーン用の鎧や武器などのパーツ、ゴーレムシップの帆などの部分から破損部分を補うための素材まで。
 一同が案内された工房では主に鍛冶師と思われる者達が忙しなく働いていた。
「素体の破損はその箇所を鍛冶師が修理するか新しい部品でまずは接ぐの。そこで『ゴーレム生成』を付与。通常の修理はおおむねここで終了ね」
 きょろきょろと辺りを忙しなく見渡す生徒達に、ユリディスは淡々と説明を続ける。
「明らかにゴーレム機器の機能に影響のある破損の場合は、そのゴーレム機器に即応したゴーレム魔法を一通り掛けるわ。でもこれは緊急時の応急処置。通常は耐久面に不安が出るからこういう修理はしないの。激しい破損の場合はウッド、ストーンは破棄して新素材で1から作った方が安全だから」
「ユリディスさん、丁度良かった。ちょっと手伝ってもらえませんかね」
 と、近くにいた鍛冶師がユリディスに声をかけた。彼女はちょっと待っててねと生徒達に告げ、鍛冶師に近寄って何事か言葉を交わしている。と、交渉が纏まったのか、ユリディスは鍛冶師が今接いだと思われる部分に向かって印を結び、詠唱を始めた。暫くすると彼女の身体が茶系統の淡い光に包まれる。
「お待たせ。ちょっと人が足りなかったみたいなのよね」
 鍛冶師が頭を下げ続けるのに軽く手を振り、彼女は生徒達の所へ戻ってきた。
「ねぇせんせー、今のって『ゴーレム生成』? 修理でも『ゴーレム生成』+αなら地系統が基本? 一番多いゴーレムニストは地系統なの? 逆にメイで一番足りてない系統は?」
 ラマーデが一番にユリディスに近寄り、立て続けに質問を浴びせかける。
「そうね。地系統が基本ね。一番多いのも地系統じゃないかしら。ただ国が育成しているから、目立って足りない系統というのは今の所ないわ」
「先生」
 それまで黙ってもくもくとメモを取り続けていたガルム・ダイモス(ec3467)が、メモと工房の様子を見渡して声を上げた。
「魔法を掛ける素体となる物の加工の大半は職人の方にお願いすることになると思いますが、付与の作業以外でゴーレムニストが自ら加工しなければならない部分はあるのでしょうか?」
「ないわ。ゴーレムニストの仕事は出来上がった素体に魔法を付与していく作業だから。この魔法付与がゴーレム作成期間の概ね四分の一を占めるわ。残りは素体作成とか外装の設置などに掛かる時間ね」
「素材の良し悪しや修復に必要な作業の見積もりはゴーレムニストが行うのでしょうか? 技術屋としての知識を生かすことで、修繕専門のゴーレムニストを目指すことも可能でしょうか?」
 魔法的なことは素養が難しい状況の為、技術的な事を極めていこうとしたというガルムらしい質問だ。
「素材に関しては専門職がいるわ。作業期間の見積もりはゴーレムニストが行うことが多いけれど、別に専門職がいないこともないわ。ゴーレム魔法以外のスキルがあれば、作業全般を把握できる責任者になりやすいわね。修繕専門という区分はゴーレム魔法にはないけれど、何処かに特化すればその仕事だけに従事することが多くはなるわね。後は工房内の序列の関係で、ゴーレムニストが責任者になることは多いわ」
「では卒業後ゴーレムニストになる事が出来たら、その後も自らの知識を高めるために研究や、新しい分野を学ぶための施設はありますか?」
「研究も通常作業もゴーレム工房で行うわ。特に別に施設はないの」
 なるほど、とガルムはユリディスの答えをしっかりとメモしていく。
「先生」
 今度は控えめに梢が一枚の絵をユリディスに差し出す。何か描いていたと思ったら、その絵だったようだ。
「こういうのを私の故郷では飛行機と呼ぶのですが、こういうタイプのゴーレムは作れないのでしょうか?」
「うーん、グライダーの応用として素体を作成して魔法を付与することを検討しないといけないわね。いずれにしても素体を作るのがこちらの世界の人達には難しいんじゃないかしら。現物に詳しいチキュウ人がいて初めて多少現実味を得られる程度かしらね」
「大変そうですね〜」
「そうね、大変だと思うわ」
 それまで黙ってメモを取り、時にはじっと作業中の工房員達を見つめていたイリア・アドミナル(ea2564)が漸く口を開く。彼女は依頼を受けて行動する際に必要なことを色々と考えていたようだ。
「依頼でゴーレムが投入された場合、ゴーレムの整備や性能向上の為に今まで学んできた知識を使いたいのですが、どの程度の事が可能になるのでしょうか?」
「それは、その人の持っている知識によるわね。整備だとゴーレムの外装と武器・防具などは鍛冶師の領分だからそれに関するスキルが必要になるわ。性能向上は――」
 ユリディスは口元に手を当て、しばし考えるような仕草を見せた。
「精霊魔法なら精霊砲に今の効果と違う魔法を付与できないかの研究などが行えると思うけれど‥‥実現までにはかなり長期の展望が必要になるわね」
 工房の奥のほうでは風信器らしきものと小型精霊砲らしきものが運ばれている。これらは作成済みのものがあれば修理よりも差し替えの方が効率的なので、修理より新規作成を行うことがあるという。
 別の所で行われているのはどうやら精霊砲のメンテナンスのようで、そのゴーレムニストは赤い淡い光を纏っていた。
 別の部屋では武器や鎧ではない金属系ゴーレムのパーツの鋳潰しが行われている。こうして鋳潰して作り直したほうが早いのと全体の耐久度や魔法バランス、コストの関係で腕一本だけ取り替えるなどの方法は取らない。鍛冶師が削ったりの調整方法で傷を治すことなどはあるが。

 生徒達はそれぞれ自分に見合った記憶方法、勉強方法、そして自分の進みたい道を定めるために熱心にそれら作業を見つめている。鍛冶師部分に興味がある者、魔法付与に興味がある者、様々だ。仲間同士でそれぞれ足りない部分を補うかのように、議論を交し合う姿も見られる。
 ユリディスは一人一人をゆっくりと見つめ、思う。
 そろそろゴーレムニストという職業のもつ側面、ゴーレムニストが作成するものが「どういうものであるか」を理解してもらわなければならない、と。
 最終試験前にそれぞれの心構えを聞きたい、彼女はそう感じつつ、懸命に作業を見つめる生徒達を見ていた。