【憑き物霊能者】〜ライバルを蹴落とせ〜

■シリーズシナリオ


担当:べるがー

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月05日〜06月10日

リプレイ公開日:2005年06月13日

●オープニング

「どっ‥‥どうしたんですか呪子様!」
 ギルド員は思わず『様』を付けて悲鳴を上げた。目の前の女性のその姿に。
「‥‥お供、特にイキのいいのを頼むわ」
 そんな『ウイスキー、ロックで頼む』みたいなニヒルな言い方をされても、話の内容は魚河岸のようであった。
「で、でもそのお怪我は」
 ギルド員は頭に、腕に、足に巻かれた包帯に目を瞠っている。重傷ではなさそうだが、その傷の多さに。顔にも所々アザがある。
「だから、お供を頼みに来たの‥‥今回は、私のボディーガードよ」
「ぼ、ボディーガード?」
 呪子はむっつりと語りだした。よほどお冠らしい。

 冒険者ギルドでお供をつける事2回。回数は少ないが、憑依した呪子の暴走は京都の街中に及んだ。
 知名度は上がり、依頼人は増え、敵も増えた。
 曰く、『アンタさー、ちーっと目立ち過ぎなのよね。わかる? あたしらの仕事の邪魔してるの。アンタ出しゃばり過ぎなのよ!』といった同業者の妬み嫉みだ。
 女の嫉妬は怖い。
 信者の行列に皮肉を飛ばし、事実無根の悪い噂を流し、営業妨害を計る。極めつけは。

「暴力‥‥?」
 ギルド員はその白い包帯に巻かれた腕を見た。
「そう。得体の知れない男の集団に襲われた事もあったし、女が集団で呼び出しをしてきたり」
「ま、待って下さいよ! それなら何で奉行所に連絡しないんですか!」
 ギルド員の台詞に、呪子は白い目を向けた。
「‥‥あんた、ばか?」
 ここ数日でかなり荒んだようだ。にこにこふわふわしていた顔つきが、180度様変わりしている。もちろん悪い意味で。
「全員でシラをきられたら誰が私一人の台詞に耳を貸すのよ。相手は同業者の女ども、15人はいるわ。いくら私の知名度が高くたって見ず知らずのお奉行が私を庇ったりするもんですか」
 ──これは、かなり、怒っている。
 もちろん何度もそんな怖い目に遭っていたのなら仕方ないのだが‥‥。
「それに、二度と手を出そうなんて思わないよう、トドメをささなきゃいけないしね‥‥」
 ウフフフフ、と笑った。
 ひょっとしてまた憑依でもされているのかと思ったが、どうやら呪子は素のようだ。暴力は女を獣に変えた。
「だから、イキのいいお供を寄こしてね。私の手となり足となり盾となり剣となり棍棒となりナックルとなりヘビーアックスとなりあの女どもをしばきあげてくれるお供を」
 やたら攻撃の表現が多かった気もするが、呪子様はそれほどお怒りなのだ。
「わ、わかりました‥‥貴女をお守りするお供に声をかけてみましょう」
 ギルド員、無意識に冒険者=お供になっている模様。


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●ライバルキャラ
猿山のボスは『道子』という女です。十八歳、呪子と同い年。
彼女も憑き物で探し物をする仕事をメインに霊能者やってます。だからこそ、ムカつく。今では呪子は時の人ですから。
それぞれ職や生業の違うバラエティ溢れる魅力的なお供も羨ましいと思っています。それが呪子を慕っており(完全な誤解)呪子が呼べばいつでも参加する(と思っている)ので、諸共憎しみの対象です。

●今回の参加者

 ea9947 周 麗華(29歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb0451 レベッカ・オルガノン(31歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 eb0601 カヤ・ツヴァイナァーツ(29歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb1488 ザレス・フレーム(21歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb1599 香山 宗光(50歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb1640 火車院 静馬(43歳・♂・志士・パラ・ジャパン)
 eb1784 真神 由月(25歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb1796 白神 葉月(39歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●頼もしきは武器なりし供
「ハッハジメマシテ、オッオレはザレス。今回呪子さんの護衛につくん、で‥‥で、で」
 ザレス・フレーム(eb1488)の挨拶の言葉は呪子本人を前に凍りついた。
「貴方が今回の私の武器? よろしくね‥‥色々やってもらうと思うから。そう、イロイロと、ね‥‥」
 ウフフフフ。呪子の邪笑が十の少年の心臓を鷲掴みにした。
 ──こ、怖いこの依頼人っ‥‥。
 だが今回怖いのは呪子様だけではない。
「呪子様のおつきの者も憎んでるの? 私も対象に入ってたり? やだなー。ふりかかる火の粉ははらわないとー」
 レベッカ・オルガノン(eb0451)が笑顔のまま占術用の水晶をつるりと撫でれば、
「妬み嫉みって怖いよねぇ。出来れば近寄りたくないなぁ‥‥けど、まぁちゃんをこんな目にあわせた酬いはキッチリ受けて貰わないとね♪」
 カヤ・ツヴァイナァーツ(eb0601)の悪魔の微笑みが炸裂する。そして、
「陰険で陰湿なのって、あたし嫌ーい。絶対仕返しとかないとね」
 真神由月(eb1784)は躊躇う事なく報復の道を選ぶ。護りではなく攻め。これこそ呪子の供の真髄也。
 ──で、でも全部のお供がそうでない筈っ‥‥!
 穏やかに微笑みを浮かべる白神葉月(eb1796)の存在を思い出し、くるりと振り返る。やはりにっこり笑っていた。
「人を呪わば穴三つ言いますし、ちゃんと反省してもらわなあきまへんなぁ」
 呪子のお供に『温情』の二文字はない。ザレスの背に汗が伝った。

●この主にしてこのお供あり
「アンタ一体誰なのさ」
 いきなりだった。そして突然だった。面々は早くも敵愾心丸出しのライバル達に囲まれたのだ。
「さして広くもない都にこれだけの霊能者がいたとは‥‥。競争も激しそうだな」
 のんびり言ってる火車院静馬(eb1640)だが、さりげなく香山宗光(eb1599)と共に呪子の前に出ていたりする。ツリ目で一見美人な道子が目を剥いた。
「そうかい、あの噂の呪子のお供ってわけか」
 ザレスがちらりと呪子を確認すれば、形相が獣になっている。絶対血を見るぞと思った。
「まぁせいぜい頑張んな! アンタ等がこのまま京にいられたらの話だけどねぇ」
 くくっ。あーっははは! おーっほほほ! 高笑いしてアマゾネス軍団は去って行く。
「む、ムカつく‥‥」
 真神由月(eb1784)は怒りに燃え、葉月が目を細めて見送る。周麗華(ea9947)は何故かナックルの調子を確かめていた。全員目がマジだ。
 女の人って‥‥女の人って‥‥。
 ──怖い。
 ザレスは依頼始まって間もなく結論に行き着いた。

「あ、呪子様見て見て、あれっ」
 由月は呪子の手を取り、気晴らしと称して街の中を練り歩く。甘味屋でお喋りしてみたり、新しい帯を見てみたり。もちろんそれは見張ってるだろうライバル達への嫌味でもある。
「あっ、ごめんなさ〜い!」
 あちこちの店先を覗いていると、5人組の女性が呪子にぶつかった。軽く肩をぶつけただけだったが、足元注意、引っ掛けられたらしい。
 ずしゃっ。由月の傍らで呪子がすっ転ぶ。
「‥‥‥‥」
 すぐには起きない所を見ると、かなり腹を立てているようだ。由月が『何すんのよ!』と睨むが、女達は目を交し合う。
「ああ〜ら、そんな所で前も見ずにふらふらしてるからじゃありません?」
「付き人もいるのに支えてもらえないのぉ?」
 くすくすくす。女共の嘲笑にお供のオーラが変わる。ザレスがいの一番に飛び出した。
「お姉さん達もうやめろよ。同じ霊能者なら正々堂々勝負しろよ」
 キッと下から見上げるが、年下の少年の精一杯の台詞を女共は一笑に付した。呪子がゆらりと立ち上がる。
「もうあッたまにきた‥‥行け、恐怖の大魔王! 本性を出せ!」
 ツヴァイに言った。
 にこっ、とツヴァイが笑う。
「ご主人様? こんなにご主人様想いの僕の事、どういう風に見たら『恐怖の大魔王』になんて見えるのかな?」
「あたたたたッ」
 ツヴァイ、ライバルの前で呪子を四文字固め。ちょっとやり過ぎ。
 ぽかーん、としている主従の営みに由月が呪文を唱えた。え、何を? と仲間は振り返ったが、ぎゃあと悲鳴を上げた声に驚く。
 女5人が地面で暴れ回っている。由月だけがそれを見て愉しげに笑っていた。魔のイリュージョン。幸せな夢ならともかく、何故か素っ裸で自分を追い回す豚鬼の山。一度味わったら二度とやめられない味。
「ふふふ。良い悪夢は見れたかな?」
 主である筈の呪子に技をかけているツヴァイ。静馬と宗光は暴走するメンバーを他所に注意しない。麗華は『素人にこのナックル試すチャンスなのよね』と由月に笑いかけている。葉月は‥‥。
 !!
「へぇ、あの女の人ら、そないな事言ってますのん? 困ったお人らやねぇ」
 軒先で店主相手に茶を出させていた。
 ──何で‥‥何でこんな光景を前に平気でいられるんだ? この冒険者たちはっ!!
 それは呪子の元で刺激的な依頼を受け続けているせいなのだが、そんな事は初対面のザレスには知る由もない。そう、彼女達に次第に感化されていくだろう事も、この時点では分からない。

「たっだいまー!」
 どこかへ行っていたレベッカが明るく帰ってきた。団子を頬張っていた呪子達が出迎える。
「お帰り、どこ行ってたの?」
 うう〜、と傍らで頭を押さえて呻く呪子を撫でながら、ツヴァイが尋ねる。レベッカが悪戯っぽく舌を出して濁した。
「まだナ・イ・ショ。きっと二三日もすれば広まるよ♪」
 二三日。何となく過去の依頼を思い出して、占い用のショールを外している彼女を見つめる。何? と笑う彼女だが、由月には想像出来た。きっと笑顔にそぐわない、それはそれは末恐ろしい嘘を広めたに違いない。まぁ、今回は自分達に火の粉が降りかからなければいいのだが。
「それよりも呪子様どうしたの?」
 呪子が半泣きだし、ツヴァイがずーっと頭を撫でている。これは確かいつかどこかで見たような。
「いつものあれでござる」
 ようやっと初依頼で彼等に何があったか聞き知った宗光が、重々しく頷く。レベッカはああと納得した。ザレスは『こんな主従関係あっていいんだろーか』と頭を悩ませている。
「あ、アンタたちさっきから聞いてりゃ、ひょっとしてあの呪子様ご一行かい?」
 お代わりと茶を持ってきた茶屋の親父が青い顔で尋ねた。呪子が不愉快そうに眉を顰め、お供が『またか』と肩を竦める。
「こ、ここの店は壊さないで下さいよっ」
 どうやら道子達の噂はその人数も相まって、相当広まっている。曰く、『呪子一行は店を破壊して憑き物を落としている』。
「それを流したのは道子という女だろう」
 静馬が尋ねると、やはり頷いた。ツヴァイがにこっと笑って茶屋の親父ににじり寄る。
「道子様ってとんでもない人らしいですよ自分の能力が及ばないからってあの呪子様を徒党を組んで襲ったりしてるんだって怖いですよね道子さんとか玲子さんとか幸恵さんとか裕子さんとか貞子さんとか」
 笑顔の大魔王の滑舌は素晴らしいものだった。

 『呪子悪の一行来られたし』
「古典ね」
 由月はその手紙を投げ捨てた。葉月がその上に飲み干した湯呑みを乗せ、麗華が一晩磨いたナックルを嵌め直す。静馬は紙一式を包み、宗光は顔に覆いをする。レベッカが元気よく飛び出し、ツヴァイが呪子の手を引いた。
「じゃあ、行こっか」
 ザレスはぽかぽか温かい陽の下で思った。
 果たしてこれが、果し合いで呼び出された主とお供の姿なのだろうか‥‥と。

「ふっ、来たね呪子!」
 女ばかり15人。内5名由月を燃える瞳で睨んでいる。
「この辺りは私らの言葉を信じた人間に人払いさせてるからね‥‥アンタ達、覚悟おし!」
 そう言って各々手にした得物を掲げる。中には斧なんて物もあった。ライバルを殺す気か。
 お供がちらりと呪子を見る。呪子は頷いた。
「やって!」
 『殺って』、と聞こえたのは気のせいか呪子。

 ぐふっ、と女の体が九の字に曲がる。宗光はゆっくり腕を抜く。容赦のない一撃に、周りを取り囲んでいた女が引いた。
 く、と笑い声が聞こえる。
「恨みは無いが犠牲になってもらう。次は誰にするか‥‥」
 覆面だけでも怪しいのに笑ってる。妙に悪役がハマっている宗光であった。
「お前のせいだろっ、あたしの仕事が減ったのは!」
 道子が激怒してレベッカに殴りかかっている。それを舞で鳴らしたステップで避け、
「えー、嘘じゃないんだけど。私の力は予言というより言霊使いなんだよね。言った事が本当になるって奴ー?」
 嘘八百で視線を逸らしている。
「くっ、数が多いな!」
 怪我させまくるのは気が引けて、ザレスが剣で威嚇している。他の皆はどうしてるんだろうと見ると葉月がムーンアローを放った。
 ‥‥え。
 ひゅーんと光が飛んで道子にぶち当たる。目を点にするザレスと目が合うと、おっとり微笑む。
「一発くらいやったら耐えられますやろ」
 やはり温情はなかった。
 しかし情け容赦ないのは麗華も同じ。
「これでよろしゅうございますか?」
 女の顔をボコボコに殴り倒して爽やかに汗を拭っていた。やり過ぎだろ、と突っ込む前に呪子が親指を立てる。無問題、奉行所の目はない安心せよ。
 が、ここまではまだ平和。僕達にはまだ憑き物霊能者という最終兵器が残っている。
「うっ‥‥」
 呪子が体を震わせる。ツヴァイと由月がさっと距離を取った。ザレスは逃げ遅れる。
「え? 何だ?」
「逃げた方がいいかもねー、あははー」
 レベッカが道子の攻撃を軽やかに避けながら笑っている。おほほ、捕まえてごらんなさーい。
「何だ? 呪子さん、だいじょ」
「この積年の恨み晴らさでおくものかーッ!!」
 至近距離で憑依された呪子の顔を見てしまった。ぼとりと剣が落ちる。
 悪鬼の如き形相で呪子は手近な女に殴りかかった。そう、彼女は現在同じく恨み積もった人の魂を寄せている。きっと偶然。
「あーあ、やっちゃった」
「ふふ‥‥ほんま楽しおすなぁ」
 由月は呆れ、葉月はムーンアローを放ちながら笑っている。隙を見て静馬が道子を捕らえた。
「あ、あ、あ‥‥」
 あまりの凶暴振りに我を忘れて怯えている。静馬は気遣うように首を振って笑った。
「嬢さん達もおいたが過ぎたな。ああなったら難波殿を止める手段はもう無い。‥‥諦めてくれ」
「こっ、殺されるううう!」
 本気で怯えている。呪子は馬乗りになってライバルの女をどつき回していた。ザレス、顔面蒼白。
「ならばこの誓約書に署名を。これで我らお供が呪子を止めてみせよう」
 指に筆を挟んだ。女数名気絶させた麗華がぱしんと手を打つ。
「素直に奉行所で洗い浚い白状するのと何も食べられなくなるまで腹殴られるの、どっちがいい?」
「わっ、わかったよぉお!」
「りょーかい♪」
 ぼかっ。傍観していたツヴァイが何の躊躇いもなく呪子を殴った。由月とレベッカ拍手、宗光合掌、葉月愉しげ。
 あうあうあうと涙を流す道子の署名を受け取り、静馬が倒れ伏しているライバル全員を回る。それを待ち、宗光が呪子を抱えて立ち上がる。傍らにはお供7人。逆光で彼らが見えない。
「人を妬んで意地悪した覚えがある輩は不幸な目に会うよ。これ予言。私や呪子様に何かしたら‥‥くす」
 恐ろしい呪いを残す百倍返しの予言者レベッカ。由月の口元には笑みが浮かび、麗華がナックルをした拳を天高く掲げた。
 葉月は生暖かな微笑みを浮かべたまま、自分達を見上げているライバルを見つめる。
「おいたはあきまへんえ?」
 ひぃっと悲鳴が上がるのを微笑んで受け止め、静馬がくっくと笑った。
「誓約させれば難波殿に敵対する連中が減って、下僕が増えて、その分儂らの今後の負担が少なくなるに違いない。一石三鳥だな」
 怖すぎる計算。仲間は笑い、ザレスは。
 ──怖い。だけどドキドキするのは何故だ。この高揚感は‥‥?

 これだから呪子のお供はやめられない。