【憑き物霊能者】〜恋の暴走特急〜
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■シリーズシナリオ
担当:べるがー
対応レベル:4〜8lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 40 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:07月10日〜07月15日
リプレイ公開日:2005年07月19日
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●オープニング
「恋、って‥‥甘酸っぱい、の、ね‥‥」
うるるん。
「‥‥」
ギルド員は出会うたび二度三度と変貌を遂げていく呪子についていけず、薔薇色に染まった冒険者ギルド内を見回し、その乙女ティックで瞳に星が入り小指を立てた依頼人を呆然と見つめた。
──妙だ。おかしい。前回来た時は飢えた獣のようだったのに。何ゆえ今回は恋するオトメっ!?
愕然とするギルド員、静まり返るギルド内で呪子はうるっ、と濡れた瞳を向けた。
びくっ。
ギルド員の肩が大きく震える。
「ギルド員さん‥‥私‥‥運命の人、見つけちゃった」
語尾にハートマークが付きそうな台詞に、ギルド員はうっかり手元の筆を折ってしまった。
「で、では今回は恋の依頼という事で‥‥?」
ギルド員は恐る恐る呪子の反応を伺う。話によると、呪子の恋のお相手は黄泉兵に邸を襲撃されたにも関わらず、親子揃って生き延びた兵の武家だという。
「そう、とても素敵なお侍さんなの。彼を見ていると、何だか懐かしくて、愛おしくて‥‥前世で『も』恋人だったに違いないわっ」
断言する呪子。その自信は一体。
「それで、お供に恋の使者を?」
「ええ、私は『ただの憑き物霊能者』だから知り合う機会なんてないでしょう? さりげな〜く出会いをセッティングして、恋の始まりを演出して欲しいの!」
『ただの憑き物霊能者』なんて一般人がこの世に何人いる事だろうか。しかもこの情熱は一体何。そのお侍さんをちらりと見かけただけにしては異様に執着している。もしくは恋とはそんなものなのか。
「わかりました、今回もお供の方を募集してみましょう」
「ありがとう‥‥ふふ、変ね。私、ずっとあの人の事を考えているの。どこかで、出会った事があるような気がして‥‥」
ふっと遠くを見るような目をしたが、ふるる、と首を振る。
「あー、楽しみだわ。私について来てくれるお供だもの、きっと恋のアドバイスも聞けるわね」
くふっ、と嬉しげに笑う呪子に過去三つの報告書を思い出す。依頼報告書というより事件報告書といった方がむしろ適切なそれは、読む者を必ず沈黙させるという。
目の前で愉しげに瞳を輝かせる呪子は今回も確実にお供と共に京都の町を爆走してくれるだろう。
──ついていけない。
ギルド員は無心で依頼書を書き上げる。
ついて来れる乙女、じゃないお供大募集。
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キャラクター情報
利一郎‥‥口数の少ない真面目な青年二十歳。世の中に『憑き物霊能者』などという怪しげな職がある事も知らず、世間一般では有名な呪子の事も知らない。むしろ憑き物だの霊能力だの信じてませんので、呪子との出会いを演出する際は要注意です!
●リプレイ本文
●呪子の恋!?
「へええ‥‥」
ぎぃりぎぃりぎぃり。
依頼に初参加なグリューネ・リーネスフィール(ea4138)の前で、カヤ・ツヴァイナァーツ(eb0601)は己が協力者の顔を力いっぱい引っ張る。
「恋ねぇ‥‥変じゃなくて?」
変なのはお前だ、と誰もが思ったが、どう見ても狂化後の如き人相をしているツヴァイに誰も何も言わなかった。触らぬ大魔王に祟りなし。呪子は不幸な事に気付いていない。『利一郎さんっていうの』と頬を赤らめ告白している。一層ツヴァイの指に力はこもり、協力者の顔はとてつもなく凄い事になってしまったが、仲間達は見て見ぬ振りをした。
「今回は恋の悩みでござるかぁ。ぅむむ。拙者に一番縁の無い事でござる」
香山宗光(eb1599)が彼らに背を向け、のんびりな依頼になりそうでござるな、とはっはと笑った。火車院静馬(eb1640)も自分が恋愛成就のお守りを持っていた事を思い出し、それを差し出す。
「家族持ちの儂に新しい恋は不要だからな。これは難波殿が持っていた方が役に立つだろう」
「呪子さん、オレは演出とか良くわからないけどガンバレ」
ザレス・フレーム(eb1488)も背後が怖いが応援する気である。真神由月(eb1784)もレベッカ・オルガノン(eb0451)も否やは無しだ。
──ふふっ、何や楽しい事になりそうやねぇ‥‥?
白神葉月(eb1796)は毎度毎度事欠かないトラブルの香りに満足そうに微笑んだ。
●恋の演出
「呪子殿、貴方にはトラとなって頂きます」
貴族万能スキルを保持しているというグリューネが、好感度を上げる法を伝授するという話だったのだが。ザレスは首を傾げる。──今、虎って言ったか、この人?
猫を被り、敵の萌えを突けば百戦危うからず。グリューネは貴族スキルを100%誤作動させた。
「そう、狙った獲物は決して逃がさない、貴方はトラだ、トラだトラだー!」
がっくんがっくんがっくん、と呪子の体が揺らいだ。ザレスがひいいと息を呑む。
「あはは、捕食するんだー」
レベッカの台詞は笑えない。
「‥‥どなたかな?」
ザレスはとりあえず巻き込まれる事必至な相手の性格を知るべく、子供の特権を活かし体当たりで門戸を叩いてみた。
「利一郎さん初めまして、その、怪しい者じゃない、少し話しをしたくて‥‥えと」
「捕食される方はどないなお人やろ、思いましてなぁ」
言葉の詰まったザレスに代わり、葉月がのんびりコメントした。
──葉月さんそれ直球ー!!
全然フォローになってない台詞に焦る。案の定、利一郎が不審げな顔をした。
「違っ、少し話をしたくて‥‥えええっとオレと少し手合わせ願えないかな!?」
門戸を叩いて僅か数秒。二人の冒険者と侍一人は沈黙した。
「それで?」
──河原で共に汗を流し、帰りには定食屋さんでご飯を奢ってもらい、挙句の果てには剣の指南までしてもらって帰って来ました。
「イイ人なんだなぁ‥‥」
静馬は涙ながらに語るザレスの頭に手を置く。既に彼は悪役として名乗りを上げており、宗光はウキウキと覆面をしている。レベッカも準備万端、と笑った。
「そんな相手に絡むのは申し訳ないが」
静馬は精霊魔法を行使し、空へと羽ばたいたグリューネを見送る。建物の影から由月が親指を立てて合図を送った。
「ザレス、お供とはそういうものなのだ」
時にはご主人様を足蹴にする必要もある。今まさに通りがかろうとした利一郎に向かって、由月が呪子を蹴飛ばしていた。
──しまった。ザレスに利一郎の反射神経を先に聞いておくべきだったわ。
後悔した。利一郎は殺気を感じたのかあっさり避けてしまい、呪子のみが地面に転がっている。さすが日本の侍。伊達に武芸者やってない。由月、ピンチ。
「私ったら、そそっかしくてゴメンナサイ☆」
とりあえず笑ってみたが、二人の間に風が吹く。
ノースマイル。ナッシングトーク。おまけに呪子は倒れ伏したまま。悪役の静馬は思わず駆け出した。
「姐さん。儂とちょっと向こうの店で酒に付き合って欲しいだけだ。ここは暴れずに付いてきてもらえんかの?」
倒れた呪子を優しく抱き起こしてやりながら、絡み係の静馬が言った。
──静馬はん、明らかにゴロツキのやる事とちゃいますえ?
お供らしさを遺憾なく発揮してしまっている静馬に、葉月はおっとり突っ込んだ。
「ふっ、文句を言わずについて来るでござる」
ビシリと利一郎に台詞を突きつけながら、宗光は呪子服の汚れをはたいてやっていた。
──宗光はんも何や間違ってはりますなぁ。
体の丸みを隠そうとした厚着と大袈裟な覆いで先の二人より怪しいレベッカは、
──レベッカはん、夏場にその格好は幾らなんでもありえまへんえ。
微笑みながら冷静に突っ込む葉月と、顔面蒼白のザレス。由月は言葉もない。利一郎はとりあえず抜刀した。
宗光がそろりと呪子から手を離す。レベッカはとっくに背を向けて駆け出している。
「覚えてろー!」
静馬が何もされていないのに逃亡した。利一郎は再び由月を見る。これは声をかけるきっかけだろうか?
●恋か変か
「‥‥難波呪子です」
「‥‥戸田利一郎と」
ぎしっ、とその場の空気が固まった。由月がやたら大人しい呪子を見つめている。これなら呪子を殴る必要もなさそうだ。
──ていうか不気味なんだけどっ。
「ほ、ほら呪子様ご飯食べようご飯!」
箸に手をつけ──三人は盛大にむせる。
くすっ。
ツヴァイが咳き込んだ利一郎を柱の影から見て笑った。フォローしに来たザレスただ一人がその微笑に気付き、身を震わせる。
──絶対、ツヴァイさん狂化してる。
まさか料理にあんなものを混ぜてしまうなんて。
「以前お会いしたような気がするのは気のせいでしょうか?」
「さあ‥‥記憶には」
そうですか、と俯く呪子は異様に大人しい。これが恋の力の成せる技なのか、それとも単に病気なのか呪子。
由月が居たたまれなさについ『後はお若い二人に任せて』と言いかけたが、よく考えたらこの場で誰よりも若いのは自分だ。
さてどうするか、とより一層沈黙が重くなった時。
「通りすがりの占い師でーすっ♪」
てへっ。明らかに店内で異彩を放つ占い師風レベッカ登場。空気を読んで出てきたのだが、より一層沈黙が重くなったのは気のせいかレベッカ。
「うんうん、お見合い? 占ってあげちゃおうか?」
巫女装束の袂から重そうな水晶が出現する。利一郎も呪子もまだ何も言っていない。
「あっ、二人共すっごい相性いいって! 良かったね、呪子様!」
うっかり名前を呼んでしまったが、そこはスルー。突っ込まれる前にそそくさとカードを出す。
「‥‥あれ、二人共知り合いだったの? 家族と恐怖──と、死?」
ぎくっ、と。呪子の顔が強張った。利一郎はああ、とちょっと占い師の力に感動する。
「先日父の親友が黄泉兵に襲われて屋敷が全焼したが‥‥それか?」
「──親友?」
「ああ、確か難波と──難波殿?」
言ってるうちに気付いたのか、利一郎が呪子を見た。由月とレベッカも思いも寄らぬ展開に、驚いて見つめている。
「まさか、難波殿の父は──」
「──亡くなりました」
亡くなって‥‥家も家族も全て失って。呪子は、死者を呼び出す専門霊能者となった。
「──それで? 呪子の恋はどうなったんだ?」
静馬はこの季節火はきつい、と風に煽られる火の粉を手で払いのけ、薪を運んでいる宗光に尋ねる。静馬が呪子に渡した筈のお守りは既に自分の掌に戻ってきていた。
「利一郎殿は帰られたようでござるが‥‥呪子殿、薪はこれで十分かな?」
「十分よ。レベッカ、もっと私に言霊の力を!」
「えっとー、呪子様何言えばいいの?」
「既に死者の国へと落ちた魂を呼び戻すのだから、それに相応しい言葉よ! 全ての霊魂は私に従えとか崇め奉れとか下僕になれとか!」
──この時期に何てバチ当たりな。
ザレスの目の前で未だかつて見た事のない大仰な降霊会が着々と進められている。恋の演出という平和な依頼だった筈なのに、一体なぜ。
呪子は利一郎とよく似た父の親友を思い出し、黄泉兵に襲われたあの日の事を思い出した。
──ぬかったわ。私の目的は慈善事業な憑き物霊能者じゃなかった筈よ‥‥。
利一郎に会って話をするまで忘れていた。私は大切な両親を呼び出すためにこの力を手に入れた筈、恋だってしている時間などなかったのに。
「呪子様に従えー♪」
レベッカが内容のわりには随分明るい予言の力で呪子に力を与える。このクソ暑い中、火の山の前で呪子は瞼を閉じた。
「何だか大きいものでも呼び出しそうだよね、あはは♪」
ツヴァイが依頼を受けた当初に比べ、遥かにご機嫌なノリで笑っている。利一郎と離れてからは、お供を振り回す呪子にすっかり復活しているのだが、やはりまぁちゃんはこうでなくてはならない。
ん? と由月は首を傾げた。
「大きいもの‥‥ってまさか黄泉将軍とか言わない、よね?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥まさか」
由月がうんうん言ってる呪子を指差し、グリューネは渾身の力で反論する。しかし随分それは弱々しかった。
パラリ、と葉月が天晴れ扇子を開く音が響く。
「黄泉将軍が入った呪子さんなんて‥‥随分と面白そうやねぇ?」
くっすくす♪
葉月は京都を爆走する呪子を想像した。他のお供はその後を連想した。
そして。
「静馬さんスタンアタックー!!」
「呪子待てえええっ」
「何でいっつもいっつもこうなるんだあっ」
その後呪子の暴走は止められたかどうかは‥‥すっかり振り回される事に慣れてしまったお供達に直接聞いて欲しい。