【禁じられた記憶】ゆがみ

■シリーズシナリオ


担当:夢想代理人

対応レベル:2〜6lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 6 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:05月17日〜05月30日

リプレイ公開日:2005年05月25日

●オープニング

「そうか、それでアンタたちはおめおめと逃げ帰ってきたわけだ‥」
 薄暗い密室にやわらかい煙がたゆたう。跪いた傭兵たちは今、眼前の椅子にふんぞり返る女の機嫌を損ねないようにとひたすら小さく縮こまっていた。
「も、申し訳ねえ、フローリア姐さん‥。あの冒険者ども、なんでかヤナギに味方しやがりまして‥」
 震える語尾を必死に押さえつけ、傭兵の1人がおずおずと顔を上げて状況の報告をする。

 傭兵団『稲妻の猟犬』団長。かぐわしきフローリア(フローリア・ザ・フレグランス)は怒っていた。

 うっとりするような香水の香りと同時に放たれるのは、吐き気を催すような激しい殺気。傭兵らは自分の身の危険を本能で察すると、慌てて頭を下げて彼女に命乞いをした。
「ご、後生だ姐さん! ヤナギのクソ尼の首は必ず‥!!」
「‥‥。いいだろう、あたしもオーガじゃあない‥。もう一度お前たちにチャンスをやる」
「あ、ありがてえ! 次は‥次は絶対に!」
 傭兵達は後方に一歩さがって立ち上がると、早速『仕事』に取り掛かるべく外へと駆け出していった。それをつまらなそうに眺めるフローリア。
 タバコの煙に目を細めつつ、彼女はぽつりと呟いた。

「逃げられると思うなよ、ヤナギ‥。アンタは忘れたかもしれないが、あたし達は殺された仲間の恨みは絶対に晴らす‥‥」

●聖オルガ教会
「でやぁー!!」
「うりゃー!!」
 子供達の元気な声が青い空に吸い込まれる。それと同時に何かが物を打った音と、泣き声が聞こえてきたのはほぼ同時の事だ。


「まったく、何という無茶をするんですかあなた達は〜っ!!」
 この教会で働いているシスター・ディアーヌはプリプリと怒りつつ、仲良く青痣をつくってきた少年たちを叱り飛ばした。
「今回は痣だけで済んだものの、下手に棒を振り回せば目に当って失明する事もあるんですよ!? わかっているのですか!!?」
「だ、だってさぁ‥‥」
 シスターの凄まじい剣幕に押されてか、子供らは口ごもって指をいじっている。

「どうした、シスター・ディアーヌ。また何かあったのか?」
「‥あ、ベアトリスさん。そうなんですよぉ。この子たちったら、また棒で剣術の真似事を‥」
 騒ぎを聞きつけてか、見習いシスターのベアトリスが教会の奥からひょっこりと顔を出してきた。
 そう、彼女らの会話の通り、かつてベアトリスと冒険者らが『稲妻の猟犬』とひと悶着あって以来、一部の子供らが急に剣術の練習を始めだしたのだ。

「お前たち、一体どうしたんだ? 確かに以前から『騎士ごっこ』みたいな事はやっていたようだが、最近のは明らかに『剣術の鍛錬』になってるぞ?」
「だ、だってさぁ‥」
 両手を腰にあて、ベアトリスは子供を優しくいさめるように尋ねる。子供らは何か答えにくいのか、相変わらず互いを見合ったり下を向いたりしていたが、やがて意を決すると、その内の1人がおそるおそる口を開いた。
「またあの変な傭兵たちが来たら‥‥。ベアトリスの姉ちゃんが大変な事になるし」
「む‥‥」
 しばしの沈黙。
 今度はシスター・ディアーヌとベアトリスが互いに顔を見合わせた。

「‥なるほど。理由は納得がいきました。でもそれなら冒険者さんたちがいるから、何もあなた達が‥」
「で、でも!!」
「ん〜〜〜〜‥‥‥」
 子供達が本気でベアトリスの心配している分、シスター・ディアーヌは強く彼等のやっている事を否定できずに、どうしたものかと思わず唸ってしまう。
「ふむ‥。どうだろう、シスター・ディアーヌ。いっその事、その冒険者を頼っては?」
 ベアトリスの言葉に、シスター・ディアーヌはぱちくりと目を瞬かせて聞き返す。

「え、ど、どういう事ですか‥?」

●冒険者ギルドにて
「おーい、オメーに依頼がきてるぞ〜」
 ものすっごいやる気のない声で、毎度お馴染み女性ギルド員が君に声をかける。
「えーと、依頼主は聖オルガ教会から‥。依頼内容は‥『子供達に怪我をしない戦い方』を教えてくれだとさ」

 戦闘を行えば怪我は必然。依頼内容の不可解さに君は首をかしげる。
「あー、言い方が悪かったかな。要するにさ、生兵法で怪我しまくっているガギ共をなんとかしろっていう事だよ。
 だから方法は色々あるぜ。ストレートに剣の握り方や構え方の基本を教えてもいいし、戦闘にあたっての心構えを教えてもいい。オメーの得意な戦術を披露するのもアリかもな」
 つまり臨時の剣術師範になれという事だ。合点のいった君はふむと頷く。

「どうする? この依頼、特に危険もねえし、たまにはガキと戯れるのも悪くねんじゃね?」

●今回の参加者

 ea6282 クレー・ブラト(33歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea7179 鑪 純直(25歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea7815 相麻 了(27歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea8076 ジョシュア・フォクトゥー(38歳・♂・ファイター・人間・神聖ローマ帝国)
 ea8889 ルクミニ・デューク(34歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・インドゥーラ国)
 ea8991 レミィ・エル(32歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb0485 シヅル・ナタス(24歳・♀・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb0565 エレ・ジー(38歳・♀・ファイター・人間・エジプト)

●サポート参加者

御蔵 忠司(ea0901)/ 二階堂 夏子(eb1022

●リプレイ本文

「ぁ〜‥! み、皆さん‥‥、待って‥くださ〜い!」
 買い忘れた保存食を急いでエチゴヤで買ってきたエレ・ジー(eb0565)は鑪 純直(ea7179)と共に、冒険者ギルドの前に集まっていたその他の仲間達にドタドタと駆け寄る。
「おいおい、しっかりしてくれよ! 保存食の携帯は冒険の基本。出発前に気がついてなかったら、えらい事になってたぞ!」
「う、うむ。面目ない‥。某(それがし)とした事が、早くも不覚を取ってしまうとは」
 呆れ顔のジョシュア・フォクトゥー(ea8076)に、純直はバツの悪そうに頭を掻きながらも一礼して謝罪する。
「‥まあ、気がついたのだから良いじゃないか。次から気をつければ、何も問題はない。それよりも、ほら‥。あまりこの場で油を売っている場合じゃないだろう」
 シヅル・ナタス(eb0485)の言葉に一同は頷くと、早速聖オルガ教会の方角へと進みだす。但し、シヅル本人を除いて。
「‥どしたん、シヅルさん? はよ行きましょうや」
 それに気がついたクレー・ブラト(ea6282)が彼女に声をかけるが、シヅルは『稲妻の猟犬』について調べてからそちらへ行く、とだけ言い残すと踵を返して皆から離れてしまった。
 クレーは相手の意外な行動に呆けにとられて目を丸くしていたが、やがて既に足を動かしている仲間達に声を掛けられて我に返ると、小走りで一団に合流して教会への歩を進めるのであった。

●頑張れ聖オルガ子供騎士(?)団
「ふぅ‥、ふぅ‥」
 木製の桶一杯に溜まった水を、子供達は顔を赤くして一生懸命に運んでいる。それもそうだろう、何故なら彼等は小川と教会の井戸をもう5往復もしているのだから!
「し、しんどい〜‥‥。ジョシュアの兄ちゃん、まだやるのぉ〜?」
「なんだ、もう音を上げたのか? 体力は戦いの基本だぞ。魔法の武器だろうと、凄い技だろうと、使いこなすだけのスタミナがなけりゃ何の意味もないだろう?」
「そ、そうだけどさぁ‥。でも、ほら、『キャプテンブラック』が‥‥」
「‥。あ?」
 子供が発した謎の単語にジョシュアは戸惑いつつも教会の方に目をやる。
 相麻 了(ea7815)だ。どうやらベアトリスを含めた女の子組との談笑にふけっているらしい。リトルレディだか何だかと時折彼の声が聞こえてくる。

「あ、あの野郎ォォ〜〜〜‥‥!!」


「どうだい、ベアトリスちゃん? 今度俺と一緒にピクニックでも。あ、いやホラ、何なら蘭丸も一緒でいいんだぜ?」
「はは、たわけ。女を口説きたいのなら、もう少し年をとってからにしろ」
 ベアトリスの苦笑につられて、傍にいた女の子達も一緒にクスクスと笑う。おどけた仕草で、視線を外したその時だ。相麻の表情は急激な速度で凍りつく。
「こンのガキャ〜〜!! 途中で水汲み放り出すんじゃねえぇぇぇ〜〜〜ッッ!!」
 ジョシュア(と、その場のノリで一緒に子供達)が相麻めがけて突撃してきた。これには頭よりも体の方が正直に反応した。
「うわぁぁぁ〜〜!!? そ、そんなに怒らなくてもッ!」
 全力ダッシュで相麻は教会の方へと逃げ出す。それを追うジョシュア団(!?)。そして取り残される女性陣。


「うーん。バカだなー、あいつら」
 それまで事態を静観していたルクミニ・デューク(ea8889)の強烈な一言が炸裂する。ベアトリスや女の子たちはその言葉で爆笑し、そのまま自分達も教会へそろそろ戻ろうと立ち上がりはじめた。
 女の子らは相麻、ジョシュアらの後を追うように小走りでぱらぱらと先駆け、丁度ルクミニとベアトリスが取り残される形となる。
 2人は共に教会と子供達の方を眺めたまま、視線を合わせない。

「‥話しては、くれないのだな」
 先に口を開いたのはベアトリスだった。
「‥‥」
 動きかけた口を強くつむぎ、一呼吸置いてルクミニが答える。
「あんたはシスター見習いのベアトリスだろ、それでいいじゃない」
「‥‥‥」
 返事はない。どんな表情をしているのかもわからない。これ以上待っても返事がないであろう事を確信すると、ルクミニは静かに歩き出した。ぽつりと、独り言を残して。

「きっと、思い出したら後悔する‥‥」


「ふむ、水汲みは終わった‥のか? 随分騒がしいが」
 シスター・ディアーヌの畑仕事を手伝っていたレミィ・エル(ea8991)が背筋を伸ばし、近づいてくる子供らの声に耳を澄ます。体力づくりが終わったのなら、今度は自分の射撃術を教えてやる番だ。畑仕事で緊張した筋肉をほぐしつつ、幾つか用意したスリングショット・パチンコを手に取る。
「あの‥‥レミィさん」
「ん、どうした?」
 表情を曇らせたシスター・ディアーヌがおずおずと切り出す。

「子供達のいる方から、『ジョシュアドライバァァー!』とか聞こえたのですが‥‥」
「‥‥知らん」


「な、何でキミが怪我人第一号になってるのん?」
「不慮の事故ってヤツさ‥」
 困惑するクレーの傍らで真っ白に燃え尽きた相麻が横たわっている。何があったのかは察していただきたい。
「まあ、ええわ‥。包帯の巻き方を教えるのに丁度エエし」
「クレーさん、何やってるのー?」
 手際よく包帯を巻いてゆくクレーに興味を示した女の子が幾人か駆け寄ってくる。
「ん? ああ、これな。いわゆる応急手当ってヤツや。手元にすぐ使えるポーションがない時、回復魔法を使える人がいない時。こうやって怪我の手当てをして、これ以上怪我が悪くなったりするのを防ぐんやで」
「ふーん、わたしもできるかな?」
「勿論や。教えたるさかい。治療なら、この『介護のおにぃちゃん』に任せてや〜」
 クレーは微笑み、そうして子供等に包帯の巻き方や、怪我人への対処の仕方を教えてく。練習台になってしまった相麻はきっとこう思ったに違いない。
(「お、おのれ‥。超ウハウハじゃないか、クレー・ブラトォー!!」)


「甘いっ!!」
「痛でぇっ!!?」
 純直の放った一撃は相手の頭の真芯を捉えた。スパーン、と小気味良い音が教会の庭にこだまする。
 本来、中条流は横に刀を振るうことの多い流派だが、そこはそれ。フェイントアタックによる変化自在の動きが単調な横一辺倒の攻撃にこのような意を突く一撃を生み出すのだ。
「自分の攻撃が終わったとき、気を抜いたであろう? 攻撃を終えたら、すぐ相手に対し反撃できるよう心がけなければ駄目だ。『残心』の心構えを忘れた時、それは負ける時ぞ」
「いちち‥、そんなこと言ってもさぁ‥」
「そ、それがなかなかできないから‥‥苦労する、ですよね?」
 ぽむぽむと痛がる子供の頭を撫で、エレがためらいがちに前に出る。
「‥ふむ。確かに某も、この心構えが完璧であるとは未だ言いがたいが‥。いかんいかん、精進せねばブツブツブツ‥‥」
 そう言うと、純直はどこか別の世界へ没入して何か難解な思慮を始めた。
 どうも年不相応な思慮深さを持つ故なのか、時折妙に難しい言い回しや考え方をしてしまう。子供達は純直の教える事の全容を全て理解する事はできなかったようだが、体を動かし方については伝わったようである。

「‥は、はい! そ、それじゃあ‥‥、今度は、私が‥攻撃の避け方を‥教えますね‥‥!」
 エレの言葉におお〜、と子供達が応じる。
「ま、まずは‥実際に‥‥私が、避けてみましょう‥! れ、レミィさん、攻撃役を‥お願い‥‥します‥!」
「あ、ああ‥、かまわないが」
 突然の指名に驚きつつも、レミィは快くエレの要請に応じる。エレは小走りでその場を離れ、適当な木の陰に隠れると何だか楽しそうに合図を送った。レミィは手持ちのスリングショット・パチンコを引き絞ると、僅かに見えるエレの額めがけて小石を放つ。

 ―ピュゥンッ
 ―サッ

「‥‥‥」
「‥‥‥」
 暫くお待ち下さい。


「ええぇ〜!!」
「えー!!」
 子供達(と何気にレミィ)が不満の声をあげている。いや、確かに先刻のはいささかシュールすぎたかもしれない。
「い、‥いえ! でも、障害物を盾にするのは‥‥とて、も‥重要な事なんですよ‥!? さ、避け続けて‥いれば‥負けることもありませんし‥‥!」
 慌てて弁明するが、ギャラリーの不満は解消できそうにない。子供達はブースカ文句を言って、まとまらざることカラスの如し状態だ。
「えー、でも勝てないじゃん」
「そ、そんな事ない‥です‥‥! 敵さんが、諦めるまで避け続ければ‥!」
「いや、そんな展開は有り得んだろう」
「はうっ! れ、レミィさんまで‥! な、ならば‥お手本を見せます‥! さあ‥、皆さん‥どこからでも、かかって‥‥きなさい!」
 ここまで来たら引き下がるわけにはいかない。息巻いてふんぬと構えるエレ。ぽわんぽわんと謎オーラが辺りを漂っているような気配がする。

「「‥‥。わー」」
 とりあえず棒読みの調子で突撃するレミィと子供軍団。
「‥‥づぇっ!? えぇぇぇ‥!? ほ、本当に全員同時に来るんですかぁぁぁ〜‥‥‥!?」


「何で、自分らから怪我人が‥」
「ふ、不慮の‥‥事故です‥」

●エピローグ
 このような調子で騒ぐこと一週間。途中からはシヅルも合流して更に賑やかになったが、冒険者らがドレスタットに戻る日は存外に早く来た。
 教会の正門では出発を控えた冒険者達、見送りの子供らとシスター・ディアーヌ、ベアトリスでいつになく賑やかだ。

「教わった事を過信して、無理に突っ込んで行く様な真似だけはするなよ?」
「うん、わかった!」
 子供を軽く抱擁し、ルクミニが最後の教えを告げる。冒険者等が共通して教えたことは『この一週間の訓練を過信しないこと』。これは子供たちの心に刻まれ、きっと将来の為になる事だろう。

「うんうん、『ローマは一日にしてならず』や。無理はせんようになあ」
 母国の名が出てくる格言を思い出したのか、クレーはうんうんと一人納得する。

「それでは、皆さん。今回はほんとうにありがとうございました‥。また機会があれば、是非いらしてくださいね」
「いいって事さ。そっちも何かあったら、すぐにギルドに連絡してくれよ? ‥それじゃ!」

 相麻の言葉が最後。冒険者達は踵を返してドレスタットへの帰路につく。子供達は彼等の姿が見えなくなるまで手を振り続けていた。

●猟犬の足音
 夜の帳が森を覆い、空に星々が瞬く時間。
 冒険者達は焚き火を囲んで一日の歩きの疲れを癒していた。

「さあ、それじゃあ、僕が調べたことをそろそろ話そうか」
 シヅルが静かに口を開き、皆の顔を見る。自分に注目が集まったことを確認すると、ゆっくりと語りだした。

「‥まずは、『稲妻の猟犬』っていう団体についてから説明しようか。あいつらは知っての通り傭兵団だ。ただし、かなり『性質が悪い』。戦争の混乱に紛れて略奪をするただの火付け泥棒だ、って言う奴もいるくらいだから」
「‥‥‥」
「まあ、傭兵なんて総じてそんな集団なのかもしれないけど‥。と、話がずれたね。それで、その傭兵団をまとめているのが『かぐわしきフローリア』。いつも香水の匂いを漂わせている事からそんな二つ名がついたみたい。性別は名前の通り女、種族はジャイアント。武器や流派は‥わからなかった、ごめん」
 ここでシヅルは一息つき、水筒の水を一口含む。
「『稲妻の猟犬』は今、『泥棒横丁』の近くにキャンプしているらしいよ。戦争か何かがあれば、また移動するかもしれないけれどね。‥‥‥。さあ、これが最後だ。奴等が何で『ヤナギ』を追っているのか」
 その単語に反応し、全員に緊張が走る。
「調べてみれば、理由は簡単だったよ。ヤナギが殺した中に、たまたま『稲妻の猟犬』の団員がいた。ただそれだけだ。あいつらはその報復として、今もヤナギを追っている。それこそ『猟犬のように』ね‥‥」
「ついでに、あいつには賞金もかかっているからな‥。社会的にゃあ、立派な『悪人』だ。殺したって文句を言う奴もそういないだろうよ」
 ジョシュアは懐にしまった手紙を握り締める。今は彼女に渡すべきではないと保管しているが。これを使うときがくるのだろうか。


「生きる者にはすべからく変われる可能性がある。‥って、教わったんやけどねえ」
 夜空を見上げ、クレーが呟く。明日の彼女がどうなるのか、まったくわからなかった。