【禁忌へのクエスト】返しの刃

■シリーズシナリオ


担当:夢想代理人

対応レベル:4〜8lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 60 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月18日〜10月28日

リプレイ公開日:2005年10月25日

●オープニング

 ―ブリンクウッド領、領内。マシュー・ブリンクウッド子爵宅にて

 真紅の絨毯が敷かれた部屋の中を、一人の男がぐるぐるとせわしなく歩いている。
 マシュー・ブリンクウッド子爵、その者である。彼は前線のグザヴィエからの報告書を片手に、何事かをぶつぶつと呟いている。
「援軍をよこせだと‥!? ええい、あのオイボレめ! 傭兵一人が一体幾らすると思って‥‥!!」

 そしてその横では、金細工の施された椅子に煙草の煙をくゆらせながら座っているミドウの姿。
「子爵殿。お言葉ながら、急いではことを仕損じます。物事には、何事も例外がつきものでして‥‥」
「お前に言われずともわかっておるわ!!」
 穏やかに声を掛けるミドウを一喝するマシュー子爵。ミドウはやれやれと肩をすくめ、しばしの思案の後にこう言った。
「よろしい。それでは私めが知る、腕っ節の良い者たちを援軍として送り込みましょう。
 援軍の指揮は、あたしがとります。マシュー殿は大将として、どうぞどかりと構えていてくださいな‥‥」
「う、うむ‥。そうか、それならば、良い‥‥。頼むぞ、ミドウ」
「ええ、もちろんでございます」
 微笑みを崩さないミドウは、心の中でほくそ笑む。

●アークフォン家・屋敷内
「‥よし」
 領内、そして隣領の一部を網羅した大きな地図をテーブルに広げ、オーギュスタン子爵は力強く頷く。

 前々回、前回と敵に打撃を与えてきた事で、相手はいい加減、補給や援軍を受けざるを得ない状況に陥っているはず。そして今の状況で撤退をしない事から推察するに、近いうちに必ず補給部隊がやってくる。
 それが彼の読みだった。
 あの占領された村へ向かう補給ルートを割り出し。地形の調査を行う。ここまでは順調。

 後は、計画を実行して、実際に敵を叩きのめすだけである。その為の戦力は‥‥。

「義父さん‥いってきます」
 旅支度を整えたルネは、己の義父であるオーギュスタン子爵に微笑む。ギルドに依頼を出しにいくのは、彼女の役目。
「ああ‥。気をつけて、な」
 ルネははい、と短く返事をすると、すぐに身を翻して足早に玄関を飛び出す。

「‥‥‥」
 ふと、あの件以来、部屋から出てこないジョルジュの事が頭をよぎった。

●ドレスタット冒険者ギルドにて
『アークフォン解放軍による攻撃作戦への志願者を求む。

 作戦の詳細は依頼を受けてもらえるまでは明かすことが出来ないが、主に山岳、森林地帯での戦闘となるだろう。足場の悪い場所での戦闘に慣れた者は、奮って作戦に参加して欲しい』

●今回の参加者

 ea2193 ベルシード・ハティスコール(27歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea5564 セイロム・デイバック(33歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea7815 相麻 了(27歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea7935 ファル・ディア(41歳・♂・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea8527 フェイト・オラシオン(25歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb0565 エレ・ジー(38歳・♀・ファイター・人間・エジプト)
 eb1633 フランカ・ライプニッツ(28歳・♀・ウィザード・シフール・ノルマン王国)
 eb2284 アルバート・オズボーン(27歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

 枝と葉が覆い茂り、光を遮る森の中、5台の馬車が隊列を作って行軍している。

 その旗印はブリンクウッド軍のそれだ。どことなく疲れた顔の御者はふぅ、とため息をついて隣の仲間に話しかける。
「いやいや、どうなる事かと思ったが、なんとか山道を抜けたなぁ」
「ああ。あと少しで味方の陣営に‥‥‥」

 気を緩めたその時、突然の爆炎が吹き荒れる。
 予想だにしない炎を受け、馬車を引いていた馬は火傷を負い、その際のショックと痛みで悲鳴をあげて猛烈にいななく。そしてその悲痛な叫び声と恐怖は瞬く間に他の馬にも伝播し、部隊はにわかにパニック状態となってしまった。
「あぁっ!? クソッ、大人しくしろ‥!! どう、ドウッ!!!」
 突然暴れだす馬を制御するのは並大抵の事ではない。手綱を強く握り、中腰になって必死に暴れる馬を押さえつける、が。
 
 ―ドンッ

「ッ!!!?」
 馬車の横を殴りつけるような小爆発。荷台からは火の手があがり、肌を焼かれた御者が悲鳴をあげて地面に転げ落ちる。
「ヒイイッッ!?」
「うわぁぁあっ!!? て、敵だ、敵襲だぁぁ――――ッッッ!!」

(「と‥。馬車を壊すには、初級じゃ威力不足だったかな‥‥?」)
 木陰から顔を覗かせているのは、ベルシード・ハティスコール(ea2193)。地味な色のマント‥は忘れたので、色を汚したローブでなるたけ目立たないようにしている。
 二射目を相手に食らわすべく、詠唱に入る。

 ―カッ
「!!?」
 強烈な閃光。間髪いれずに続く熱風と衝撃。
「ベルシードさんッ!!!」
 ファル・ディア(ea7935)の声で、やっと木にたたきつけられて大火傷を負ってる自分に気がついた。
 おそらく同じ『ファイヤーボム』なのだろうが、今のは威力のケタが違う。

「ひ、ヒイィィッ!!? い、今のは!!?」
「驚くのは後! 今がチャンスだぜ、傭兵のおっさん達!!」
 たじろく傭兵達に相麻 了(ea7815)が檄を飛ばす。その言葉に戸惑いながらも傭兵たちは矢をつがえ、次々に敵を攻撃し始めた。
「さあ、私たちも行きましょう!」
「はい!」
 飛び出すフランカ・ライプニッツ(eb1633)にルネ、相麻も続く。

「これで‥‥ッ!!」
 フランカは一瞬で呪文の詠唱を終え、『ローリンググラビティー』を放った。瞬間、先頭の馬車の馬がふわりと宙にあがり、次いで糸が切れたように地面に落下する。
 頸木で呪文の範囲外にある馬車に繋がれていたせいか、普段どおりの高さまでは上昇しなかったものの、馬からすればたまらない一撃だ。

「ああ‥‥。う、馬さんにはもっと優しく‥‥!」
 日本刀を握ったエレ・ジー(eb0565)がそんな状況をみてあたふたと動揺する中、アルバート・オズボーン(eb2284)はそんな彼女に苦笑いしながら言葉を挟む。
「敵を足止めするには、仕方あるまい。それより俺たちも‥‥。ッ!?」
 だがその言葉は途中で遮られる。あの矢の雨を掻い潜ってきた敵が接近してきたから。
「‥‥‥!!!」
 エレもそれに気がついて本格的に構えるが、にわかに相手を見て表情が凍りつく。いや、正確には相手の『いでたちを見て』驚愕したというところか。
「どうした‥‥!?」
 黒薔薇に逆十字、黒い戦闘装束、人形のような無表情さ。誰が忘れるものか。
「アルバートさん、気をつけて‥下さいッ! この人たちは‥危険です‥‥ッ!!」

「やはりまだ‥。そういう事、ですか‥!!」
 セイロム・デイバック(ea5564)も、今回の敵が今までの傭兵たちとは一線を画す存在である事に気がついていた。
 馬と馬車を繋ぐ頸木を破壊していた彼に突如として襲い掛かってきた、この『忌まわしき敵』。
「ッ!!!」
 切り込んできた相手を身を翻して回避し、追いかけて金槌を顔面に叩き込む。後方から飛び掛ってきた敵をオーラシールドで吹き飛ばし、殴りつける。
 それは騎士同士の『試合』などではなく、明らかに『殺し合い』を意識した戦い方であった。
「これは決闘ではなく、『戦闘』‥‥。邪魔をするなら、叩き伏せます」
 口から血をしたたらせ、敵が立ち上がる。

(「‥‥。これは、一体‥?」)
 敵の指揮官、ミドウを発見したフェイト・オラシオン(ea8527)は木の幹に身を隠しつつ、彼の不可解な行動を観察している。
 呪文でものんびり唱えていようものなら、密かに接近して倒すつもりであったのに、ミドウは全く予想外の行動に出ていたのだ。何故か、占領している村ともブリンクウッド領とも違う方向へ歩を進めるミドウとその部下。そしてそれを仕方なしに追跡するフェイト。
 ファルが別働隊を警戒して偵察に放った傭兵たちもどこかから追跡しているのかもしれないが、その姿は見えない。
(「このままじゃ、補給部隊からどんどん離れる‥‥! 一体何を、考えて‥。ッ!!?」)
 フェイトが一歩踏み出したその時、左太ももに激痛が走る。矢だ。条件反射的に武器をふるい、飛んできた方向に衝撃波で反撃する。が、それは枝を切るだけだった。
「‥っ!!」
 痛みで一時的に麻痺した左足を引きずり、大木に身を隠す。相手の姿は未だ見えないが、かなり遠くから狙撃されているという事はなんとなく想像がつく。
(「こんな芸当ができるのは‥‥。いや、こんないやらしい方法で攻撃してくる奴は‥ッ!!」)
 あの『エルフの女』、ドミニクの顔が脳裏をよぎる。
(「長期戦に‥なりそうね」)

「さっきは不覚をとったけど、その分の借りはキッチリ返済させてもらうからねッ!!」
 ベルシードの手から放たれた炎の玉は敵の集団を巻き込んで爆発し、熱風をあたりに撒き散らす。実を言うと、見た目に反して威力はそれほどでもないのだが、相手の牽制としてはこれ以上なく威力を発揮している。
「よっし! 獅子の怒りを知るがいい! ってな!!」 
 足並みの乱れた敵部隊に相麻、ルネ、フランカが突撃する。フランカの魔法で宙に放られた敵を縦に切りつけ、次々と部隊をなし崩し的に叩き伏せる。
 ルネの動きは相変わらず年不相応に熟練した戦士のそれであり、表情は険しい。
「黒薔薇逆十字団‥! またこの地に足を踏み入れてくるなんて‥!!」
「噂には聞いていましたが‥。確かに、危険な方々のようですね‥。普通の傭兵とは質が違‥‥むっ!!」
 後方からの敵をフランカが魔法で空へ飛ばす。
「気をつけて! 相麻さんはルネさんの後ろを守るように!!」
「ああ、まかせとけって先生っ!」

「く‥あいつらッ! 表情が読めないぶん、やりにくい!!」
「安静にして下さい‥! 今、治療を‥‥!!」
 負傷が激しく、後方に下がったアルバートをファルが魔法で治療する。彼らの目の前ではエレとセイロムが敵と切ったはったの壮絶な戦いを繰り広げている。
「ッ! せぇい‥‥っ!!」
 相手のロングソードを受け流し、そのまま一呼吸で袈裟斬りに反撃する。人の肉を切る感触にエレは思わず顔をしかめるが、そのまま一気に刀を振りぬく。
 敵は傷口から噴水のように血を吹きだし、そのまま崩れ落ちた。
「どうして‥もう馬車は‥動けないのに‥‥!!」
「『彼ら』だから、でしょうッ!」
 下からすくい上げるような一撃で、セイロムは敵のアゴを叩き割る。

 そう、敵はもう馬車を動かせないのだ。だのに、逃げ出した御者や普通の傭兵とは別に、この黒装束の戦闘手段は残って立ち向かってくるのだ。
「こいつら‥! ヤケドしてるはずなのにっ!!」
 負傷をものともせずに突っ込んでくる敵にゾッとしつつ、ベルシードは更に詠唱を続ける。
 他の冒険者も、向かってくる以上は敵を殺し尽くすしかなかった。

●エピローグ
「か、勝った‥! 勝ったぞー!!」
「「「オォォ―――――ッ!!」」」
 味方の傭兵たちの、鬨の声が森にこだまする。ルネをはじめ、幾人かの冒険者もその場で力を抜いて座り込んだ。

「‥どうっ、どう。あの戦闘の中、よくぞ無傷で残っていてくれたもんだ」
 アルバートは戦闘場所よりも奥まった森で道に迷った馬を見つけ、手綱を握ってそれを誘導する。
 この馬はアークフォン側の戦利品として処理される事であろう。
 できれば馬車もセットで持ち帰りたかったが、損傷が激しく正直使い物になりそうもない。

「この戦い‥い、一体いつまで‥‥。早く、早く終わらせ、たいです‥‥」
 アルバートとは対照的に、傷ついた馬を見つけたエレはその場に屈み、優しくその馬を撫でる。
「ああ‥、こりゃ無理だなぁ。足が折れてら。もうコイツは馬として生きられねえよ、エレちゃん‥‥」
 その場に居合わせた、中年の傭兵が彼女に声を掛ける。
「でも‥」
 わかってはいても、辛い。泣きそうな顔になって傭兵の方を振り向く。
「このまま放っておいても、森の狼どもに食われちまうのがオチさ。辛いんなら、俺らが手を貸すが‥‥。まあ、エレちゃんが決めなよ」
「‥‥‥」
 エレは、答えることができなかった。

「‥‥‥」
 勝った事を喜ぶ傭兵たちや冒険者を遠めに見つつ、ファルは一つの事が気がかりでいた。
 偵察に出した傭兵たちが、戻ってこない。もう一日この場でとどまるべきかと考えていると、唐突に目の前の茂みが揺れた。
「!!? ‥‥フェイトさん!?」
「逃げられた‥。ミドウたちも見失ったわ。ごめんなさい‥‥」
 ところどころ傷だらけのフェイトはそう口を開いた。彼女の傷を治しつつ、ファルは更に言葉をかける。
「‥どういう事です? 敵は、別働隊を用意していたのではなかったのですか?」
「そういう感じでは‥なかった。何か、こう、最初から別の目的があって動いているような‥‥」
「?? 別の‥。それは一体‥‥」
 二人の話を聞いていたルネが思わず会話に入ってくる。
「わからない‥。私は、あいつじゃないから‥‥」

「「‥‥‥」」
 仲間達の笑いさざめく声が聞こえる中、3人はそのまま黙り込んでしまった。