【禁忌へのクエスト】さまよえる少年

■シリーズシナリオ


担当:夢想代理人

対応レベル:4〜8lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 12 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月04日〜11月12日

リプレイ公開日:2005年11月11日

●オープニング

「な‥な、な‥な‥‥!!」

 補給部隊壊滅の報を受け、マシュー・ブリンクウッド子爵は青ざめた表情でよろよろと後ずさりする。ぶつかった机ではインクのビンがこぼれ、侍女たちが慌ててその後始末にとりかかる。
「なんだとぉ!!? お前は一体何をしていたんだぁ!!?」
 逃げ延びてきた男につかみかかり、事の次第を問い詰める。が、返ってきた答えは更に衝撃的なものであった。
「ミドウが逃げ出しただと‥‥!? ‥! あの道化者めぇ〜〜〜ッ!!!」
 恨みつらみの言葉をぶちまけるが、時既に遅し。グザヴィエ率いる部隊も今回の報を受けて帰ってくるだろうが、これではもう戦闘にならない。
「クソッ‥まずいぞ。今回の戦いとて、金がかかっているのだ‥。何か‥何か方法は‥」
 ぐるぐると円を描くように歩き、思慮をめぐらすマシュー子爵。そしてとった策は‥‥。

●アークフォン家・屋敷内
「バカな!!」
 ブリンクウッド軍からの使者を招きいれたオーギュスタン子爵はバン、とテーブルを強く叩く。
 使者の男は既に予想していた反応だったのか、特に動じた様子もなく淡々と言葉を続ける。
「そうは申されましても‥。この件については、アントワープの司教殿からも了承をいただいているのですよ、子爵殿」
「な‥」
 『アントワープの司教』、その言葉に思わず口をつむぐ。なるほど、確かに『信仰的立場から』戦争を仲介するのにはもってこいの勢力だ。
 だが‥‥。
(「マシューめ‥! 教会にまで根を回したか!!」)
 それはあくまで建前の話。おそらくは買収(もちろん表向きは『寄付』だが!)か何かでもしたのだろう。或いは、最初からそこの勢力と付き合いがあるのか‥‥。
 いずれにせよ、教会が相手ではどうしようもない。
「‥‥‥」
「正式な調停の場は、『あの村』にて‥。調停にはマシュー子爵様をはじめ、アントワープからも司教様の代理として司祭殿がお見えになります」
 沈黙を肯定と受け取ったのか、使者はうすら笑いを浮かべながら更に言葉を続ける。
「‥わかった」
「それでは、わたくしめはこれにて‥‥。失礼いたします」
 使者はオーギュスタン子爵に一礼し、その場を立ち去る。部屋には子爵のみが残された。

 暫くの静寂の後、ドアの奥からルネ・アークフォン、そして双子の姉妹コリンヌとコレットが顔を出す。
「‥‥お義父さん」
「あの村は、ブリンクウッド領になる事が決定した」
「そんな、何で‥‥!!?」
 当惑するルネ。彼女の疑問には答えず、オーギュスタン子爵は首を横にふるだけだった。
「‥義父さんが、俺を保護しているからさ」
「! ‥ジョルジュ!?」
 そこへ、ふらりとジョルジュが現れる。血色は悪く、どこか幽鬼のような顔つきで。
「ハーフエルフを養子として扱うような領主は、教会としても気にくわないんだろう。ただの嫌がらせさ、今回は!!」
 ジョルジュの怒声が屋敷に響く。面食らうルネたちを一瞥すると、彼は踵を返して再び部屋に戻り始める。
「あいつらがその気なら、せいぜいやらせておけばいい‥‥!! こっちにも、考えがある!」
「ジョルジュ、あなた‥!」
「さわるなぁッ!!!」
 ルネが差し伸ばした手を払いのける。
「邪魔をするなよ‥義姉さんッ!!」
 ジョルジュの瞳は、炎のように赤かった。

●ドレスタット冒険者ギルドにて
『わたしの大切な弟が、屋敷を飛び出してしまいました。

 彼を連れ戻すのを、手伝ってください。
 ルネ・アークフォンより』

●今回の参加者

 ea5564 セイロム・デイバック(33歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea7815 相麻 了(27歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea7935 ファル・ディア(41歳・♂・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea8527 フェイト・オラシオン(25歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb0565 エレ・ジー(38歳・♀・ファイター・人間・エジプト)
 eb1633 フランカ・ライプニッツ(28歳・♀・ウィザード・シフール・ノルマン王国)
 eb2284 アルバート・オズボーン(27歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

 世界が赤く見える。

「はっ‥はっ‥はっ‥‥!!」
 だらしない犬のように舌を出し、腕を交互に前に後ろにしゃかりきに動かして森の中を突っ走る。

 背中には矢を数本入れた矢筒に弓。腰には使ってからまだ間もないロングソード。
 何かの熱狂に駆り立てられるように、ハーフエルフの少年は赤い瞳をぎらぎらと輝かせ、このどうしようもない『血のたぎり』を持て余していた。
(「誰でもいい‥何でもいい‥‥!!」)
 全力疾走から突然の停止。枝で呑気にほう、と鳴くフクロウを見つけたのだ。

 生意気な奴だ、なに見てやがる。どうしようもねえ。殺してやるしかねえ。

 とんでもない思考の飛躍をしながら、少年は矢を弓につがえ、サッとそのフクロウに狙いを定める。
(「死ね! 死ね! ‥死ね死ね死ね死ねしねしねしねしねシネシネシネェッ!!」)
 ありったけの殺意が込められた矢が、ひゅうっと音を立ててフクロウに突き刺さった。

●禁忌の血統
「やれやれ‥世話のやけるお坊ちゃんだぜ」
「ですが、彼の生まれ持った境遇を考えると‥‥。いえ、よしましょう。単純に一言で片付けられる問題でもありませんしね‥‥」
 木々を掻き分けて進む相麻 了(ea7815)にフランカ・ライプニッツ(eb1633)は沈痛な面持ちで答える。
 彼女のペットの鼻を頼りにここまで突き進んできたが、既に獣道から外れてかなりの距離を歩いている。時間が経つにつれ、段々とこのままでよいのかという不安がつのっていくが、今はただ進むしかない。

「いや、こっちでは見てないねぇ‥‥」
「‥そうか。いや、ありがとう。邪魔したな」
 村を中心に探索していたアルバート・オズボーン(eb2284)は村の老女にそう手を振って、彼を待つエレ・ジー(eb0565)やセイロム・デイバック(ea5564)の所へと戻った。
「ここもダメでしたか‥‥」
「うう‥‥。な‥‥な、何とか‥‥、何とかしないと」
 小さくため息をつくセイロムに、今にも泣き出しそうな表情で自分を励ますエレ。
「‥あきらめるのはまだ早いさ。傭兵の連中にも探させているんだ。何か情報くらいは掴んだかもしれない」
 アルバートも泣き言の一つでもいいたい気分になったが、敢えて楽観的な意見を述べて自分を鼓舞する。
「さあ、一旦屋敷へ戻ろう」

 所変わって、アークフォン領内のとある森の中。

(「‥‥!!?」)
 フェイト・オラシオン(ea8527)はキャンプを張っている不審な一団を見つけ、反射的に身を隠した。
 木の幹に身を隠し、様子を伺う。
 一団は煙が遠くから発見されぬよう、火の上にマントを天幕のように張っている。普段ならどこぞやの盗賊の類かと思うところだが、今回はそうではない。
「‥によると‥。‥‥‥」
「‥‥ああ。だが‥にせよ‥‥。‥‥まい?」
 一団の中心に位置する黒い髪の男と白い髪の女。火の魔術師ミドウ、そしてエルフのレンジャーであるドミニクだ。見間違うはずもない。
 何かを手元に広げ、議論を交わしているようだが、いかんせん遠すぎてよく聞き取れない。
(「もう少し‥。もう少し近づきたい‥‥だけど」)
 相手も周囲への警戒は怠っていない。気付かれずに接近するのはこの距離が限界だ。

(「‥‥‥」)
 フェイトは暫く彼らを観察していたが、これ以上待っても当分動きそうにない事を悟ると、そっと仲間たちの所へと戻った。

 その後もジョルジュの探索は続けられた。
 彼が残したものと思しき焚き火の跡や足跡を発見する事はできたが、本人はよほど巧妙に隠れているのか、それとも単に冒険者たちの運がなかったのか。

 とうとう、一同は調停式の日を迎える。

●調停式
「恨むなよ、若造ども。これも戦、今回はわしらの勝ちじゃ」
 赤髪の老戦士、グザヴィエは腕を組んで冒険者たちにそう声を掛けた。
 馬に乗ったセイロムは、彼に対して何か言い返すべきか一瞬判断を迷ったが、ジョルジュの事を思い出すとすぐに周囲の警戒に戻る。
「‥‥ふん」
 何も反応をよこさないセイロムをグザヴィエは一瞥すると、踵を返して己の陣営へと戻る。

「なんと嘆かわしい事を‥‥! いったい教義の何処に、『ハーフエルフは忌むべき存在である』とありますか!?」
 調停の行われる天幕の中、ファル・ディア(ea7935)の強い調子の声が響きわたる。仲介を務めるアントワープからの使節団はあからさまに眉をしかめた後、氷のように冷たい調子でファルに答える。
「『汝、異なる種の者と姦淫することなかれ』、だ。現に禁忌に触れた存在であるが故に、ハーフエルフの連中は狂化などという、呪いを受けているではないか」
 更に別の助祭が言葉を続ける。
「言葉には気をつけたまえ、ファル・ディア殿‥‥そして、そこのお嬢さんもな。このままでは、貴殿らを異端として告発せねばならなくなるが?」
「‥‥‥!!」
 腹の底から怒りがこみ上げてくる。だが、手を出すことだけはあってはならない。ファルはぐっと唇をかみ締めて、小さく呟く。
「‥‥私はこれほど、己が属する教会を恥じた事はない‥!!」
 フェイトもファルと似たような心境か、ブリンクウッドと黒薔薇逆十字団との繋がりについての告発を、ろくに吟味もせずに真っ向から否定する彼らに、殺意さえ湧き上がる。
「‥さあ、問答も終わったところで、本題に入ってもらわねばな」
 少女の不釣合いな程の殺気にたじろいたのか、マシュー・ブリンクウッド子爵は小さく咳払いをして、話をさっさと切り替える。
 教会からの使節団は申し合わせたように羊皮紙の誓約書と聖書を取り出し、中央のテーブルにマシューとオーギュスタン子爵を呼び寄せる。
 司祭は聖書の一部を読み上げた後、両者に誓約書へのサインを促す。
(「子爵殿‥‥」)
 己の無力さをかみ締めながら、ファルはその光景を見つめていた。

「‥‥‥」
 しかし、いざオーギュスタン子爵が羊皮紙にペンを走らせようとしたその時、にわかに外が騒がしくなる。
 天幕にいた全員が、ふと顔をあげて同じ方向を向く。
「‥? 何があったか見て来い」
 マシュー子爵は待機していた部下にそう耳打ちした。

「待つんだ、ジョルジュッ!!」
 肩に矢の刺さったアルバートが森の中を疾走する。突然の攻撃に反応することすらできなかったが、幸いにも一撃死は免れた。
「私が向こう側に回りこみます! フランカさん達は反対の方向から!!」
「わかりました!」
 馬を走らせるセイロムの言葉を受け、フランカと相麻はセイロムから離れる。なんとか調停式の会場を襲撃する前に、ジョルジュを発見することができた。
 だが、あまり時間をかけていてはブリンクウッド側に察知されて面倒になりかねない。
 焦る気持ちを抑えつつ、冒険者たちは冷静に互いの位置を視認しながらハーフエルフの少年を追い込んでゆく。
「ジョルジュさん‥‥っ!」
「っ!」
 ジョルジュの行く手に、先回りしたエレが立ちふさがる。ハーフエルフの少年はぎらついた赤い瞳で相手を見据えると、腰の剣を抜いて斬りかかる。
「どけぇぇっ!!!!」
「ッ! 怒るのは分かります‥でも、今はダメなんです‥‥! お、オーギュスタン子爵だって、ルネさんだって頑張ってます! そ、それをジョルジュさんは壊したいんですか‥‥ッ!!?」
 交差する刃。火花を散らしてエレとジョルジュが斬り結ぶ。エレの鋭い一撃によろけながらも、ジョルジュはがむしゃらに剣を叩きつける。
「わかったような‥‥口をきくなぁ!!」 
「わかりますとも!! ルネさんが、子爵殿が‥! 貴方の『家族』が!! どれ程に心を砕いて、貴方の心配をしていたか!!」
 馬上から飛び降りた、セイロムのオーラシールドによる突撃。少年が騎士の渾身の一撃に太刀打ちできるはずもなく、宙に弧を描いて大木に叩きつけられる。
「‥っ‥‥はっ!!」
 それで勝負はついた。元より数も実力も違うのだ。
 ロープで拘束する必要すらない。アルバートは意識が朦朧としているジョルジュを背負い、立ち上がる。
「畜生‥! 畜生‥‥なんで!!」
「ジョルジュ君‥‥」
 理不尽な差別、理不尽な暴力、呪われた血の宿命。それらへの怒りと憎しみを、彼なりの形で発散しようとした少年に待っていたのは、冒険者という機構による制裁。
 歯を食いしばり、アルバートの背ですすり泣くジョルジュは見ていられない程、あわれだった。どんな言葉をかければ良いのか、検討がつかない。
 フランカは目を伏せるしかなかった。

●エピローグ
 その後、調停式は何の滞りもなく進められ、事なきを得た。
 冒険者が警戒した、ミドウ一味による襲撃や工作などは何もなく、若干肩透かしであったが、混乱するよりははるかに良い。

「気を落とすなよ、ジョルジュ‥‥」
 ただし、ジョルジュの件は別である。
 未遂で終わったとはいえ、調停式へ乱入をしようとした者が無罪放免になるほど世の中は慈悲深くない。

 アークフォン家の地下牢に『罪人』として捕らえられたジョルジュに相麻は声をかけてなんとか励まそうとするが、当人から返事はない。
「きっと、オーギュスタン子爵も何か考えがあってこうしたんだって! ほら、例えば表向きここで死んだ事にして、実際は仮面とかで変装させて、別人としてこの領内に残らせるとか‥‥さ」
 言いながら言葉がよどんでいく。いくらなんでも都合がよすぎるよなぁ、と自分で思ってしまったのだ。
 バツの悪そうに頭を掻いて天井を見上げる。
「ジョルジュ‥‥」
 そこへ、ルネ・アークフォンが姿を現す。しかし、少年は義姉の登場にも何ら動ずることなく、ワラの積まれた牢屋の隅に横たわる。
「‥ジョルジュ、どうしてこんな事」
「‥‥‥‥」
 返事はない。
「ルネちゃん‥‥」
「どうして‥? あんな無茶を‥‥あんなことしたって、何の解決にも‥‥!」
 返事のないジョルジュに対し、ルネの語調が荒くなっていく。それは家族たる彼を思えばこそのもの。
「ジョルジュ!! 答えて!!!」
「‥‥‥」
 面倒くさそうに面を上げ、ハーフエルフの少年は答える。

「‥‥俺が、『ハーフエルフだから』さ」
「!! ‥‥っ‥‥あ」
 ルネは大きく目を見開いたかと思うと、ついですぐに泣きそうな顔になった。そのまま顔を手で覆うようにして、階段を駆け上っていく。
「‥‥っ、お前!!」
 相麻が叫ぶが、ジョルジュは半ば全てを諦めてしまったような、そんな表情で見返す。
「‥‥っ」

「義姉さんを追えよ。あんたら冒険者じゃ、俺を救うことなどできはしない」