いざ、海(お宝)へ! 〜甘露〜
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■シリーズシナリオ
担当:DOLLer
対応レベル:2〜6lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 4 C
参加人数:6人
サポート参加人数:4人
冒険期間:08月15日〜08月22日
リプレイ公開日:2006年08月23日
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●オープニング
「あ、どーも、シェラさん」
受付員の男はエルフの女性がギルドにやってくるのを確認して、挨拶をした。彼女の方も受付員に気がつくと、軽く会釈をして彼の元に足を運んだ。
「今日も依頼ですか? ああ、あれですね。水没した町の探索」
彼女の笑顔がそれが正解であることを告げた。どうやら彼女も水没した町を再び陸に呼び戻し、探索するということに、冒険心をひどくくすぐられていることは顔を見ればすぐわかった。そんな顔を見て入れば、受付員もまた、冒険の良さを感じえずにはいられない。
今回の依頼内容は、町の探索と、財宝の引き上げだ。財宝といっても、エルフの彼女、シェラ・ラミスを使いに出している丹後国の求めるものは、どうやら甘露と呼ばれる蜜(とその生成法)らしい。この甘露というのが丹後を困らせる土蜘蛛に効果をもたらすと言うのことだ。
とはいっても、まずは探索だ。なにしろ、今まで海の中だったのだから、誰も足を踏み入れたことがないし、構造もわからない。海人族のような河童が潜んでいるかもしれないし、太古の門番が襲ってくるかもだ。
そうした探索が終われば、今度は財宝の積み出しだ。これもまた頭を悩ますだろう。何しろ長年海の中だったのだから、足場は苔だらけだろうし、財宝の形も不明だ。限られた時間で体力の消耗を防ぎながら、たくさんの財宝をとってくる。大変な作業に違いない。
と言っても、丹後水軍を始め、丹後の人々は海に慣れ親しんでいるので、操船など誰でもできる。後で国を挙げて回収作業をすればいいのでは、という案に、シェラは懸案事項として、海人族の襲撃があると伝えた。彼らの目をごまかすには、大人数で行くことはできないのだという。まぁ確かに。できるだけ町の存在は秘密裏に、いつかばれるだろうとしてもしばらくは内緒にしておきたいものだ。
今回のシェラさんの要望は次の通り。
・度胸と知恵のある人。前回もそう言ってたし、意外と彼女の趣味なのかも。
・軽装(甘露も含め、財宝は取ってくるので装備だけで動けない人がたくさんいるのは困るそうな)
■○■■○■■○■以下、探索に関わるルール説明■○■■○■■○■
・日程の7日のうち、時間計50時間(一日10時間。移動・準備・食事・休憩などの時間全てを除外した時間)が皆さんが水没した町で使える探索時間です。
・探索地点は地域ごとに5ブロック(北東・北西・南東・南西・中央)です。
・参加者は『索敵(敵や生物を感知する)』『索罠(罠・危険物を探知する)』『索隠蔽(隠蔽物を発見する)』『足下注意(滑らなくなる)』の四項目の能力値を有します。それぞれ最大10まで割り振ることができます。ただし、割り振ることができるのは『フル装備時のAP×10』までです。たとえばフル装備時のAPが3の人は合計30までしか割り振りができません。
・1時間に探索できる距離は『40−上の能力値の合計』、です。ただし、団体行動ですのでこれは最も少ない人に準拠します。
・パーティーは最大3班まで分けることができます。
・各探索ブロックを一定距離進むと、財宝を発見します。発見した時点で財宝を回収、来た道を戻ります。この時の移動は基本的に『AP×10−能力値:足下注意』ですが、財宝によっては時間が時間がかかることがあります。(大きいとか、取扱注意のものなど、×0.9〜0.6))。また探索者のAPが少なすぎると運べないものもあります。
・一定距離移動した際、パーティーの合計能力値もしくは各人の能力値が一定以上あれば、特別な財宝を発見したり、敵に先制できたり、罠をやり過ごすことができます。
・足下注意、の能力値が低い場合、転んで怪我をする場合があります。財宝を壊す場合もあります。
・戦闘はプレイングなしでも魔法や技を駆使して戦います。魔法は使わない、などの方針がある場合はプレイングにお願いします。
・探索ブロック毎に、最大距離は異なります。また、ブロック同士が途中で繋がっている場所もあります。
・10時間で区切れるように探索は行われます。探索途中でも区切りの時間が近づいている場合は、時間に間に合うよう退却します。
・財宝は甘露以外に色々あります。それらは皆様のものになります。ただし、肝心の甘露が見つからない場合は接収されます。
・各探索ブロックは、シェラが作戦相談卓にて適宜説明しますので、それで予想をして下さい。
●リプレイ本文
「いよいよお宝探しね。わくわくしちゃうわ」
エリーヌ・フレイア(ea7950)はうれしさを表現するように、背に付けた羽を大きくのばして、一行が乗る船の周りを飛び回った。
「いよいよ、伝説の町の登場よ」
この日この瞬間のために、陰陽師が一人、同船していた。彼はなにやらマジナイの言葉を呟くと、潮乾珠を海へと放り込んだ。
それは陽光を浴びたのか、強烈な光を一瞬だけ放ち、海に沈んでいく。
「地鳴り、ですかね‥‥?」
小さな異変に気がついたのはヒューゴ・メリクリウス(eb3916)だ。そして皆もすぐその異変を、身をもって知ることになった。海面が押し下がり渦が巻き始める。
「海面が下がって‥‥、この辺りの海水をあの珠が飲み込んでいるようです‥‥」
船の縁で白波をかぶりながら、チサト・ミョウオウイン(eb3601)は海の底を刮目していた。チラチラと輝く珠の光を中心に渦はどんどん大きくなっていく。
それ以上、皆に周りの様子を眺めることはできなかった。潮の退く力に飲み込まれないようにするだけで精一杯だったからだ。
「潮溢珠が行方不明になって良かったと思うわ。本気になれば国一つくらい簡単に潰せてしまいそうだわ」
ただ一人、空を飛んでいるエリーヌだけが、その全体像を眺めることができたのであった。
「潮乾珠の能力を目にできて嬉しいのじゃ」
感動のあまり涙を流しているのは西天聖(eb3402)。白浜に打ち上げられた身ではあったが、その身をもって伝説のアーティファクトの効力を体験できたことは、感動屋の聖にとっては涙が止まらない体験だったのだろう。
「それにしても、これが町ですか。想像していたのとはずいぶん違いますねぇ」
ヒューゴは立ち上がると、打ち上げられた潮乾珠を回収したシェラが、その後に見つめている先を同じようにして眺めた。白浜の中央に鎮座する巨大な一枚岩。直径1km以上はあり、ジャパンに存在しているものとは思えないような独特の光景を作り出していた。
シェラは布に島の様子を書き込んで、そして勢いよく言った。
「文献にももう名前がありませんから、ここは第一発見者の特権で私が命名しますわ。ズバリ、立岩!」
「立岩、ですか。ここに甘露があるのですね」
レナーテ・シュルツ(eb3837)の頭の中ではもうそこに眠る甘露と呼ばれる、今回の一連の依頼の核になる財宝に思いを寄せていた。
その為に信念を曲げて、海人族から潮乾珠を奪ったのだ。
できるならば、早く甘露を手に入れて返却してあげたいものだ、と思う。
「岩のごとき堅牢な町で、外的の侵入を止めたとあるから、この岩が人の住処となっていたのは事実だと思いますわ。問題はどこから入るかですけれども」
そんな言葉に、チサトがそれじゃあ私が見てきますと言って、とてとてと岩の方へと歩いていった。少女一人に任せるのもどうかと、他の皆も入り口探しに精を尽くすのであった。
「入り口は五つ、どれも滑りやすそうだから気をつけてね。ちょっとした荷物なら私が持つわ」
それはエリーヌの言葉だった。潮乾珠が威力を発揮した時といい、立岩への進入といい、シフールの彼女には全く無縁の問題であった。皆の視線に羨望が混じっているように感じて、エリーヌは無意識に青く艶やかな髪に手でとかしていた。
「直径一キロで、高さも相当にありますから、一つずつしらみつぶしに探すのは手間がかかります。手分けして行きましょう」
レナーテの言葉に、皆は相談をし始めた。
場所は浜辺。星空が美しい。本当はたき火の一つでも炊いておきたいところであったが、海人族へ警戒のためにできるだけ気づかれないようにという配慮から火が灯されることはなかった。しかし月明かりがほどよくそれぞれの姿を浮かびあがらせ、奇妙な親近感を覚えさせる。
若干一名、なれあうのは好きではないのか、離れて一人、仮面の下で甘露について思いをはせる者もいたが。
「それでは階段の途中にあった入り口、それから頂上からの穴、、それから釣り堀へと順に探していくことにしましょう」
ヒューゴの言葉にエリーヌとレナーテが頷く。
「それでは、私たちは砂浜から直接はいることのできる入り口と、頂上から坂を下った入り口の二つを探索するのじゃ」
聖のその言葉に残った面々が頷いた。
明日からいよいよ、探索行が始まるのだ。それぞれの不安と希望が星の光に混じって消える。
砂浜から直接はいることのできる入り口、南東部は通用門だったのか、最初の軽石でできた壁を力でどかせた後は比較的歩きやすい通路が多く、足場を気にして時間をとらせるということは少なかった。
「スコップを持ってきておいて良かったのじゃ」
さらに海中に没していた時の名残か、砂で封鎖されている場所も、チサトが『エックスレイビジョン』の巻物を駆使して、危険がないかを確認した上で、スコップで掘り進んでいった。
耳音を澄ませながら、聖はゆっくりと通路を歩いていた。耳に感じるのは風の音だ。それは生物たちの息づかいだけでなく、閉ざされた空間から漂う空気の流れを読むものであった。
そんな彼女だからこそ、ふと足を止めた。
「わんっ」
同時にチサトの愛犬もそれに気がついたようで壁に向かって大きく吠えた。
「ここから、かびてはおるが別のにおいがするぞ」
「待ってください。確認します‥‥」
チサトは自分の魔力が、ずいぶん使ってしまっていることを若干気にしながらも、『エックスレイビジョン』を発動させた。
チサトの目には壁がどんどん薄くなり、やがて向こうが確認できるほどにまで及んだ。光がこちらより少ないので視認は難しかったが、箱や棒状のものがうすらと見ることが出来た。
「何か‥‥おいてあるようです。危険は無いみたいです‥‥」
チサトの言葉を聞いて、聖は丹念にその壁の回りを探索した。岩をくりぬいたその壁は継ぎ目が無く探すのに手間はいったが、若干砂が多い部分を見つけ、一度切った岩を砂で隙間を埋めて隠していることがわかった。
「場所的に詰め所か、その物置という気もするがのう」
扉の輪郭を確認すると、刀の鞘で小突き、詰めた砂を落とし一端を強く押した。するとそれは思ったよりもあっけなく鈍い音と共に開くではないか。
「ここはどういう場所なんでしょう‥‥?」
「倉庫じゃと思うぞ。扉の隠し方からしてそれほど使用用途があったとはおもえんし、倉庫の雰囲気ではないかの?」
古代の人とはいえ、そこに住んでいたのはやはり人。今も昔も倉庫というものについて大きな差はないだろう。チサトも中を見回してその言葉に納得した。
「箱の中は小道具の山ですね‥‥」
甘露を期待したものの、箱の中は雑多としており、棒状に見えたそれは銛や棒の残骸であった。倉庫を探る一行はしばらくして、それぞれ価値あるものを発見した。
「あ、これ、ソルフの実です‥‥」
種類を保管していた壺の一つから、見覚えのある実を一粒見つけて、チサトは思わずうれしそうな声を上げた。これほど実用的なお宝もあるまい。
「私も一つ良い物を見つけたのじゃ♪」
「わぁ、星空みたいにキラキラしていてとっても綺麗です」
聖が髪に挿していたのは、螺鈿の櫛であった。それはチサトの言うとおり、僅かな明かりによく反射して、星の煌めきの如き輝きを呈していた。
「他のものももう一度よく確認しないといかぬのじゃ。もう少し探索して、重要そうなものを持ち帰るのじゃ」
その後、文献代わりになっているらしい石版類が大量に見つかると、探せば見つかるという自信が彼女たちに大きな力を与えたのであった。
「階段だらけですねぇ。何のためにこの入り口はあるのでしょうか」
ヒューゴは軽いステップとは裏腹に、疲れた声をだして続く階段を眺めた。
「あちらこちらに続いているみたいね。連絡通路じゃないかしら。ここからだと他の入り口にも届きそうよ」
エリーヌは5コ目の分岐路に、それまでと同じようにしてナイフで目印を付けた。最初から迷わないようにと気をつけていたおかげで、これほど複雑な地形でも安心して進むことができた。
もう一つこの階段が連絡通路だと確信するにあたり、エリーヌは案内看板のようなものを見つけていた。文字自体は判別はできないが、図柄はなんとなく今の常識にも通じるところがあり、理解することはできた。
「道標に案内看板があるんだけど、‥‥探す場所をあらかじめ決めておく方が早くないかしら。たとえば自衛組織の場所、医療現場、神社仏閣、それと権力者の住居」
想定される場所を羅列するエリーヌの声に皆それぞれ思いをはばたかせた。
どこにあるだろう。
「権力者の住居か、寺社と思いますよ〜。甘露って糖蜜でしょう? 甘い物は今でも貴重なんですから、そう簡単には手に入らないと思うんですよ」
ヒューゴの言葉にああ、なるほど。と二人は納得した。確かにそうかもしれない。
ヒューゴとしては、そちらの方が価値のあるアイテムが多いのではないかという目論見もあったのだが、そこまではさすがに口にしない。
「では、とりあえず神聖な場所を探してみましょう。土蜘蛛を退けるということですから、神聖な力に関連していそうです」
二人の言葉をまとめ、エリーヌは寺社の記号を探し、そちらへと一行を案内した。長い階段はまだまだ続く。
カタリ。
「‥‥何の音かしら?」
探索開始から1日半ほどかけてやっと社の近くまでたどり着いたとき、不自然な乾いた音がしたのをエリーヌは聞き逃さなかった。レナーテもその音に気がついたようで、すぐさま剣を引き抜いた。
「この先‥‥何かいます」
かちゃりかちゃり。
物音は耳の痛くなるような空気の隙間を縫うように少しずつこちらへと近づいてくる。明かりに照らされる場所にでてくるまで、あと少し。
「あちゃぁ、誘眠打が効きそうもないですねぇ」
その姿を確認してヒューゴは残念そうにつぶやいた。
白い体、黒い眼窩。ボロの衣装に、古刀を持つその姿。
「怪骨というものですね。海に沈んでもずっとここをさまよっていたのでしょうか‥‥悲しいことです」
「どうりでブレスセンサーに反応しないと思ったら!」
エリーヌはやや腹立たしげにそういうと即座に魔力を解き放った。何も知らない怪骨の足下で力を構築していく。
バシュュュュッ!!!
雷光が怪骨を捕らえる檻となって立ち上った。『ライトニングトラップ』は確かに怪骨を襲ったが、一瞬足をとどめた後にまた何事もなかったかのように歩を進める。
オーラパラーを付与したレナーテが剣を構えた。ヒューゴは一足先に怪骨のアタックレンジまで飛び込み、攻撃を狙った怪骨の動きを巧みにかわす。
そして次の瞬間。レナーテの剣がうなりを上げた。
「あ、『リヴィールマジック』に反応がありました。この社の中ですね」
怪骨を倒してから、その奥に進んだ3人はすぐさま社にたどり着いた。『リヴィールマジック』を定期的に使用していたヒューゴはここで当たりを感じていた。社といってもここにあるものに木製のものはなく、すべて石を加工したものであった。そういった違いはあったが、神社としての基本的なものは一通りそろっており、外壁の岩を削って光をうまく取り入れて、他の場所にはない輝かしさを感じさせる。
3人は慎重に社の扉を押し開け‥‥
「あら、甘い香り‥‥」
長い間眠りについていた空気は少し冷たく、そして乾いた物であった。軽く開けたつもりだったが、この社の部分は厳重に密閉されていたのか、水に浸食されているような感じは見られない。それどころか花の甘い香りが一面全体をつつみ、待っていましたと言わんばかりに香り立つ。
「これが甘露、でしょうかねぇ」
ヒューゴは油断無く左右に注意しながら、奥へと進み、中央で小さな水たまりのような水を眺めた。
「岩を削って‥‥貯水槽のようにしているみたいですね。たぶん、足下は全部甘露ですよ。これ」
ヒューゴの言葉に二人は驚いて足下をみた。もちろん冷ややかな岩肌しか見えなかったが、ああ、この社の扉は確か階段をずいぶん上った。この下すべてが甘露であるというなら相当な量であろう。
「そういえばシェラさんが鬼を封じていると言っていましたけれど、もしかしてこの泉がその牢になっていたのかもしれないわね。これじゃもう溺死してると思うけど」
エリーヌはその奥に安置されていた、傍に落ちていた石版と短剣を手にし、これらが現実に運用されていた、古代に思いをはせたのであった。
「私たちの見つけた石版には甘露を香にする方法とその材料がかかれてあったのじゃ」
「その材料も少ないですけど‥‥見つけることができました」
本日最終日。互いの進捗をシェラに報告している最中であった。
「探索は最後までできませんでしたねぇ。もう少し簡単か思ったのですが」
二つの班は1エリアは探索を終えたが、二つめの途中で時間をすべて使い切り、結局未探査エリアはけっこう残ってしまった。
「でも、しっかり探さないと見つからなかったものもありましたし、必要なものはだいたい揃いました」
レナーテの言葉に反応はまちまちだ。再戦したいと考えるものも少なからずいる。
そんな皆にシェラは笑って答えた。
「再調査もしたいところだけど、食料の問題もあるし、すぐにとはいかないわね。こんな出来たばかりの無人島で何日も過ごしたんだから、疲れもたまっているはずですわ。今後のことは明日また考えて、今日はゆっくりお休みなさい」
シェラはそう言って、皆を船に乗せた。
水夫のかけ声が聞こえる。船出だ。
立岩からゆっくりと離れていったのであった。空には入道雲。夏ももう終わりに近くなってきていたことを一行はようやく気がついたのであった。
「シェラさんは悪魔じゃなかった‥‥」
船の中チサトはぽつりと呟いた。可能性が少なからずあるとにらんでいたが、魔法にも石の中の蝶にも反応は示されなかった。
「だーれーがー、悪魔ですって?」
突然背中から声がして、チサトはヒッと小さく悲鳴を上げた。あわてて振り返れば、背中をぐるんと曲げた異様なポーズのシェラがいる。
「あ、これ西天さんから教えてもらった美容体操なのよ。やってみる?」
あわてて首をふるふると振るチサトを見て、シェラはくすりと笑った。
「デビルを追い求めていらっしゃるようですわね。噂は聞いていますわ。人を唆し、すり替わる悪魔なんですって?」
「は、はい‥‥」
どもるチサトを見ずにシェラは言葉を続けた。
「そういう悪魔はね、人を混乱させて精神がすり減るのを待っているのよ。疑うのも大切だけど、最後に勝とうとするなら二つを信じることが肝要ですわ。一つは現実を。もう一つは人を」
年若いあなたを狭量にして、信じるべき人を自ら手放すようにしてしまうことがもっとも怖いことだと思うわ。シェラはそう言った。