【凍る碑】精霊遺跡2

■シリーズシナリオ


担当:DOLLer

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや易

成功報酬:2 G 40 C

参加人数:6人

サポート参加人数:4人

冒険期間:02月05日〜02月10日

リプレイ公開日:2007年02月17日

●オープニング

 妖精の森の長老に連れられて、冒険者は森の中を歩いていた。
 緑の天蓋は厚く、日の光は僅かにもこぼれてこず、外は昼なのか夜なのか分からぬままに道を歩き続けた。
「しかし、大地に立つあらゆるものをなぎ倒すミストラルを、この遺跡に眠るジニールが押さえきれるものなのかね」
 他の冒険者が抱いた疑問を長老も同じように、ブランシュ騎士団の一人に尋ねた。そのエルフの騎士は首を少しひねって考えた。
「押さえきれるかどうかは判りません。私、ウィザードでもありませんし。ただ、今回のツクラレル・ミストラルくらいなら行けそうだとは思っているのですが」
 その言葉に、一同は目をぱちくりとさせた。
 ツクラレル・ミストラル!!? なんだその笑えないジョークみたいな名前は
「な、なんじゃそりゃ‥‥」
「名前の通り、人為的なミストラル、です。命名フラン=ローブル」
 ウィザードでも学者でもないのに勝手に命名するな。
 皆のツッコミをさわやかにやりすごして、騎士、フランは説明を続けた。
「この大陸には大きく分けて2つの風が吹きます。北部山脈からの冷たい北風と、海からの暖かい西風です。冬の北風がミストラルという強い風になったりするのですが‥‥」
 普段は暖かい西風の影響により冷たく勢いのある北風は中和され、このミストラルの影響はノルマン北部の丘陵地等に限られる。ところが今回は西風があまり吹かないために、中和されるはずの風が、どんどん前進し、パリ近くまで烈風が襲い狂っているのだという。
「ざっくりとした説明ですが、要するに誰かが西風を止めたためにミストラルが広範囲で広まったと。詳しいことは今度、どこかの賢者にでも聞いてください。風を生むより止めるのは容易いようですよ。まあその説明はまた今度。遺跡、というのはアレですか」
 フランは足を止め、目の前に見えてきた巨木を仰ぎ見た。


 巨木、というにもまだ足りぬ。その樹はこの緑の天蓋を全て自らで支えているのではないかと思わせるほどに、雄々しく、そして圧倒させた。
 何本もの樹がよりあわさっているように、幹は複雑にねじれ、その樹皮のほとんどはコケに覆われて、世界と一体化していた。そこから大地に波打つ根もまた複雑にからみあい、あらゆる方向に走っている。一行がとどまった場所はようやくその幹が木々の枝葉の向こうに見える程度のものである。まだ1キロは向こうであろうか。それでも、その根は足下を見れば十分分かった。ジャイアントでも2人は横に並べるほどの根が、そちらから走ってきている。
「正式には『アウラ・インクナブル』というそうじゃ。アウラの樹とワシらは読んでおるがの」
「ジニールはどこに‥‥だいたい真ん中か、底か、天辺かのどれかだと思うのですが」
 模範的な解答に長老は苦笑して頷いた。

「底じゃ。根の中心に眠っておると言われておる。このまま進めば、樹の根の間から、内部に入ることが出来る。
 蔦で作られた扉が設置されておるはずじゃ。扉には鍵穴があるが、実はいうとその鍵は現存しておらん。『我が同胞3人の協力を仰ぐことによって扉は開かれる』そうじゃ。
 中にはゴーレムがいるそうじゃ。キーワードがあれば止められるらしいが、そんなものは伝わっておらぬから壊すしかないかの。
 ゴーレムが待ち受けた部屋の壁は総て、別の部屋につながっているそうじゃ。正解は1つだけらしい。後は全部排除用の罠と聞くぞい。正解の部屋、つまりジニールの玄室は『風に詳しい人』が見付けられるそうじゃ。
 実際わしらは最初の扉の前までしか行ったことがない。中がどのようなものかは見たことがない。がんばるのじゃぞ」

 そう言って、アウラ・インクナブルに向かう冒険者達を長老は見送った。

●今回の参加者

 eb0916 大宗院 奈々(40歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb3583 ジュヌヴィエーヴ・ガルドン(32歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 eb5314 パール・エスタナトレーヒ(17歳・♀・クレリック・シフール・イスパニア王国)
 eb8372 ティル・ハーシュ(25歳・♂・バード・パラ・ノルマン王国)
 eb8686 シシリー・カンターネル(31歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ec0669 国乃木 めい(62歳・♀・僧侶・人間・華仙教大国)

●サポート参加者

エヴァーグリーン・シーウィンド(ea1493)/ 十野間 空(eb2456)/ 明王院 月与(eb3600)/ チサト・ミョウオウイン(eb3601

●リプレイ本文

●開け、ゴマ!!?
「全く同じメンバーですので、助かります」
 フラン・ローブルは穏やかな声でそう言った。今回は実際に遺跡に突入するに際し、難易度が上がったと考えられ、ギルドでは熟練冒険者を求められることになったが、実際に集まったのは、前回と同じメンバーであった。熟練より経験が求められることもままあるという、良い例となった結果であった。
 同じメンバーが集まって喜んでいるのはフランだけでなく、冒険者達も同じ事であった。そして何より喜んでいたのは。
「フラン、元気だったか。今回もがんばろう!」
 挨拶代わりに、大宗院奈々(eb0916)はフランの後ろから飛び出して、ぎゅっと彼を抱き締めた。自慢の大きな胸をぎゅっとくっつけて‥‥といきたいが、サーコートと鎧の上から彼がそれを感じたかどうかやや不明。急接近にも全く動じるところがないところ、肝が据わっているのか、それともニブイだけか。
「一緒ですと、前回からの情報の共有が楽でいいのですよね〜」
 パール・エスタナトレーヒ(eb5314)の言葉に皆が頷く。情報の共有。それは例えば、この遺跡が置かれている地形であったり。互いの戦闘能力であったり。そして、以前、ここで起こった事件のことであったり。
「ルフィアさんにおかしなことがなくて良かったですね」
 国乃木めい(ec0669)はジュヌヴィエーヴ・ガルドン(eb3583)に向かってそう言った。ルフィアは前回コボルト達にさらわれたシフールの少女である。悪いことを仕組まれていないか、デビルなどにとりつかれていないかなどの憶測が飛び交っていたが、チサト・ミョウオウインやジュヌヴィエーヴことジュネの問診によって、おおよその問題はないことは判明した。
「でも、ちょっと悪いコトしたかもしれませんね」
 ジュネはぽつりとそう言った。
 コボルトに捕まった出来事はルフィアにとって少なからずトラウマになっており、話を聞くだけでも随分と泣きわめいた。落ち着いてから魔法によって術などをかけられていないか調べる行為も、彼女の心をひどく傷つけたようで、一通りの話の後には、家に閉じこもったまま出てこなくなったという。
「人の心は水の流れに似たり。一瞬一瞬で大きく傷ついても、いずれゆっくり癒されます。それは私たちではなく、彼女の家族とこれから出会う人々によるでしょう」
 フランはそう言って、話に一段落をつけて、皆の注意を目の前の巨木に向かわせた。
 アウラ・インクナブル。
 この森全体の中央に鎮座する、生きた遺跡。
「いよいよ遺跡ですね」
 ジュネは視界一面に広がる緑の遺跡を目の前にして、改めてこみ上げる緊張を噛みしめた。暴風ミストラルを止める手段を持つジニールがこの樹に包まれて眠っている。
「まず第一の関門は、蔦でできた扉、ですね」

 扉、というより、蔦の壁、というのが正しいだろう。根の間をすり抜けるようにして歩くと、そこは完全に樹の迷宮であった。周りは苔に満ちて濃淡豊かな緑の世界を織りなす。その中を血管のようにしてはいずる蔦。そしてそれらが一斉により集まり、シフールでさえも通ることのできない『扉』を形作っていた。
「シフールさんの中にウィザードはいたでしょうか?」
 ジュネの質問に対して、残念そうに首を振って答えたのはティル・ハーシュ(eb8372)だった。ルフィアの状態を確認している間、ティルはこの扉の謎を解く鍵がないか、シフール達の間を駆けめぐってくれていたのだ。
「シフールさん達のほとんどは普通の人で、魔法の使える人はいなかったよ。それにここは聖地らしくて、同行してくれる人もいなくて」
 聖地は守る対象であって、踏み入れるものではない。というのがシフールの信条らしくティル達の呼びかけにOKをしてくれる人は誰もいなかった。もっとも好奇心に優れるシフールのこと。そうは言っても忍び込んではいるとは思うのだが。
「ウィザードというなら私も手伝えるかと思ったのですが‥‥3人となると」
 シシリー・カンターネル(eb8686)は蔦にそっと手を当てながら、そう呟いた。
 複雑に絡み合った蔦は硬い一枚の壁であったが、シシリーがそっと指を滑らせると、やや下の辺りに小さな窪みができていることに気がついた。蔦でできているので多少の凹凸はあるが、そこだけ指がしっかと埋もれる程度の窪みがあるのは明らかに何かの印であった。
「ここに何かを捧げるようですね。それほど大きなものではないようですが‥‥」
 シシリーの言葉に皆もその窪みを確認した。
 なるほど、蔦同士の絡み合いによって、うまく隠されているが、それは確かに鍵穴のように見えなくもない。
「何かを捧げる、のでしょうね」
 めいはそう言うと、あらかじめ用意していた土と水、それからランタンから火を取り分けるとその中にそっと入れた。
「‥‥‥」
 静かな時間が過ぎ、そして変化が起きる前に先に火が燃料を失って消えていった。
「違うみたいだな。あたしも同じことを考えていたんだけど‥‥魔法を使ったらダメかな」
 短い詠唱の後、アイスチャクラムを準備を終えた奈々がそう話しかけた。
「確かに魔力を注ぎ込んでは、とは私も思っていました〜」
 パールの言葉に、ティルが鋭い突っ込みを入れる。
「注ぎ込むって結局‥‥魔法をぶつけるっていうことだよね」
「そうとも言いますね」
 魔力を注ぎ込むという行為をどのように形に表すかと言えば‥‥魔法にしてそれを扉にかけるということしか思いつかないのであった。
「どっちにしても、これでできなければ扉を壊しての強行突破しかありませんし〜」
 早い話が、この結論に至るわけである。
「水はあたしのアイスチャクラムだろう。土はどうする?」
「私がグラビティーキャノンを使います。火は‥‥」
 奈々がアイスチャクラムを構え、シシリーがグラビティーキャノンの詠唱態勢にはいる。
 しかし、その後が続かない。
 僅かな沈黙の後にティルが挙手をする。
「違う気もするけれど、いちおうスリープ使ってみるね」

 結局。
 ティルの気持ちを如実に表したような結果、とどのつまり何の反応もなかったため、その後それぞれの武器や魔法で、この蔦の扉を破壊することになったのである。


●止まれ、ゴマっ!?

 ベリッ、メリャ、バシャャアッ

 酷い音がして、蔦の壁に突破口が開いたのは4時間もしてからであった。この蔦の壁はかなり分厚く、また、蔦のやたら丈夫なところが憎らしく思えるほどの時間がかかってしまった。
「トンネルみたいになっちゃったね」
 ティルが苦笑しながら自らの通ってきた道を振り返ってそう言った。
「これが正解、なわけありませんね」
 シシリーはどこか気落ちしていた。この先に待ちかまえるのは、長老の話からすると、ゴーレムだという。古代のゴーレムなど、ゴーレム使いのシシリーにとっては大変興味深い。是非とも調べたい、と思っているのだが、この蔦の壁を破壊してきた以上、ゴーレムが大人しく待ってくれている可能性は低そうだ。
「ゴーレムとは戦う準備しておいた方が良さそうですね〜」
 パールもすでに諦めた様子で、いつでも戦闘できる準備を整えている。そんなことしたら、古代の英知をよく見られないじゃないですか! とはこれ、心の悲鳴。
「予想しうるキーワードを言うように準備しておいた方が良いかしらね」
 めいの言葉に奈々も大きく頷いた。そしてゴーレムも頷いた。
 え、ごーれむ???
「で、でたっ!!!!!」
 まだ、蔦の壁を抜けきった直後で、足場も広さも十分でない場所にゴーレムは待ちかまえていた。その体は蔦で構成されており、幾本もの蔦を絡み合わせて、腕や頭を作り出していた。その為、足の方は人のような形を取っておらず、この遺跡と一体化しているようであった。
「ということは、この蔦の壁、ゴーレムと一体化しているようですね‥‥聞いてくれると良いのですが、『アウラ』」
 ジュネは半分諦めの気持ちをもちながら、ゴーレムに声をかける。
 しかし、やはりその言葉は聞き入れて貰えない様で、ゴーレムは地面を滑るように動きながら、一行にこの拳を振り上げる。
 こうなっては一刻の猶予もない。冒険者は次々と思いつく限りのキーワードを投げかけた。
「アウラ・インクナブル」
「ジニール」
「キロン!」
「ツクラレル・ミストラル」
「あ、それ私の造語ですよ。しかもゲルマン語です」
「そんなこと言ってる場合ですか!!!」
 ごむんっ!!!!!
 一瞬、地面が大きく揺れた。ゴーレムの拳がこのアウラ・インクナブルの遺跡を揺らしたのだ。攻撃の標的にされていたフランは紙一重で回避して、一行を振り返った。
「多分、蔦つながりで侵入者を探知したんでしょう。仕方ありません。やっつけちゃいましょう」
「すみません、戦いが終わったら、このゴーレムを少し検分させてもらってもよろしいですか」
 真剣な顔でシシリーがフランに尋ねる。
「残骸がのこっていたらいいんですけどね。いいですよ」
 フランはそう言いながら、カタナを引き抜き、攻撃の矢面に立つべく走っていった。それをサポートするように、奈々がゴーレムに松明を投げつけ、攻撃を阻害する。
「フラン。気をつけてな」
「ありがと、それじゃ先に行ってキーワードがないか調べてくるね」
 フランの代わりにティルが飛び出て、炎にまかれるゴーレムの脇をすり抜けていった。
「伏せてください。グラビティーキャノン行きますっ」
 シシリーの言葉と同時に一斉に臥せると、シシリーの放つ重力波がゴーレムを襲った。下半身が地面と一体化しているとはいえ、超重力は絡まった蔦の連携を寸断し、動きを低下させることには成功していた。
「ここじゃ狭すぎるな。あたしが誘導してみるから隙ができたらフランは右側へ、こっちはシシリーのアマーンが引き受けてくれるか」
「わかりました。他の方は危険なのでそのまま後方に待機してください」
 陣形を改めて整頓すると、奈々はアイスチャクラムを作り上げて、ゴーレムへと投げつけた。
 それは僅かに頭をかすめて向こう側へと飛んでいった。ミスか。そう思った瞬間、チャクラムはぐい、と軌道を変化させて、左側面から再びゴーレムを襲った。アイスチャクラムのリターニングの魔力を利用しての一撃である。
 これにゴーレムは左側面からも敵がいると錯覚したのか、一瞬正面から注意がそれた。その瞬間にフランが右側へ移動し、アマーンが同時に前進し、皆の盾となった。
 どんな強大なものでも3方を囲まれては苦戦は必死である。
 松明の熱、パールのビカムワース、アイスチャクラ、グラビティーキャノンと次々に攻撃を重ねられては、さしもの守人も、蔦の塊となって潰えていった。
「‥‥あー、先に倒しちゃった? ヒントになりそうなキーワード見つけてきたんだけど」
 蔦の山となったゴーレムの残骸をティルがひょいと顔を覗かせてそう言った。
 ティルの指し示したとこにはラテン語で書かれていたため、クレリックであるジュネがそれを読み上げた。
「『私は世界』、意味深な言葉ですね」
「それは、神の言葉ですわ。仏教の方ですけれど。私は世界を構成すると同時に、世界は私を構成する。私たちはあらゆる生命と共存共栄しているという意味の言葉ですよ」
 めいは穏やかにそう語っるのを聞いて、ティルは首をかしげた。
「風に詳しい者っていうのも、そういう意味もあるのかな‥‥」


●届け、ごまっ
 焚かれた香木から、ゆらりと煙が立ち上っていく。それはジュネの頭の上で、少しずつ左右に振れ始め、消えていく。
「不思議なところだね。樹の中なのに、風が通っている」
 アウラ・インクナブルの中は、確かに樹木の世界であった。所々、朽ちたところから日の光が差し込み、適度な明かりを提供してくれていた。足元はその朽ちた木っ端が堆積し、土となり、またそこから新しい生命を生み出していた。朝晩の冷え込みは露を作り出し、池を作り出していた。
 森の中に、アウラ・インクナブルがあり、その中にもう一つ、森が生まれていた。
「本当に生きた遺跡なんだ‥‥」
 ティルが感慨深そうにそういった。風に関してはつい最近勉強をし始めたばかりだが、その異例とも言える存在に出会えたことははっきりと自覚できた。
「それで、ジニールへの入り口というのはどれでしょうね? 煙を見る限り、右に行ったり左に行ったりしているようですけれど」
「ああ、これね。多分、外気の流入のせいだと思う。外へ繋がる風のトンネルになっているのは、あの穴と、そっちの穴かな」
 ティルの指さす二つの穴を交互にみやって、奈々は問いかけた。
「それじゃあの二つのどちらかが正解か? しかし、どうやって登るんだ?」
 奈々が指摘するように二つの穴はかなり上部にあり、そこにいたる足場は一つもなかった。シフールのパールなら行けるかもしれないが、皆も揃って行けなければ意味がない。
「いえ、それにしては流れがおかしいですね。それなら一直線に煙は流れるはずです」
 ジュネの言葉通り、煙の流れは出入り口をむすぶラインとは少し角度がずれているようにみえる。
「そうすると、他にも通気口があるということですねー。ああ、入り口みたいな蔦の壁が方々にありますよー」
 パールは辺りを見回し、『扉』の存在を示唆した。
「そのどれかが、風の生まれる場所なのですね‥‥」
 めいがそう言い、ティルが頷き指さした。
「たぶん、こっち‥‥」
「排除用の罠があるというし、扉を開けるのはクルルカンにさせよう」
 小さめの蔦の壁の目の前にたち、クルルカンがそれに手を伸ばした。
 それは簾のようになっており、最初の時のように大きな力をかける必要もなく、すぐそのまま奥へと続く道を指し示した。
 クルルカンの後ろに立って、皆がその穴を覗き込めば、確かに前髪が揺れた。
 風が吹いているのだ。



 穴の奥はゆるやかな螺旋階段になっており、大きな弧を描いて、下へと降りていた。
 一歩進む毎に、風が頬を撫でる感触がしっかりとしていくのがわかった。
 そして階段の終えるところ。王宮の大広間とそれほど変わらないような広大な空間は蔦にびっしりとおおわれ、その中央はさらにその密度を上げていた。
 そう、蔦が繭のように。
「これが、ジニール?」
 繭の中心に人影が映っているのを奈々は鋭く見つけた。まるで、母親の胎内で眠る子供のように膝をかかえて眠る女性の姿があった。
 皆が近寄ると、それはうっすらと目を開け、空気を振るわせて音を紡いだ。
「封ヲ破リ、我ヲ無理矢理目覚メサセルノハ貴様達カ‥‥?」
 その声が明らかに警戒心と不快感で満ちあふれていることのは誰の耳にも明らかであった。
 出会えたものの、これからの説得は難航を極めそうである。