【名も知れぬもの】精霊遺跡3

■シリーズシナリオ


担当:DOLLer

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:7人

サポート参加人数:2人

冒険期間:02月24日〜03月01日

リプレイ公開日:2007年03月05日

●オープニング

「ブリットビートルがリブラ村を襲撃、あまりの数に、騎士団だけでなく冒険者など総動員して、これにあたっています」
 再び精霊遺跡アウラ・インクナブルに向かう、ブランシュ騎士団副分隊長のフランに、副隊長はそっと話しかけた。
「各分隊、ヨシュアス様陣頭指揮の下に活動を行っていますが、灰分隊はどのように‥‥」
「他の分隊に怒られない程度で適当しちゃっててください」
 しれっと、職務怠慢ぎりぎりの発言を繰り出す分隊長に、副隊長は大きなため息をついた。いや、フランのこの性格を知らないわけでも、付き合いが浅いわけでもないのだが、どうしてもため息が出てしまうのは仕方ない。
「あのですね。隊長。今、騎士団総動員の事態なんですよ?」
「事態が発生した時にはすでに遅きに失した状態といっても過言ではありません。それに今更手伝いに行ってどれだけ役に立てるというのでしょう。それより他に目を向けて火事場泥棒捕まえている方がよほど役に立てるというものです」
 しれっ、とそんなことを言うフランに副隊長は御意の言葉を示した。
 アクが強いというか、少々常人には理解しがたいような言動がちらほらと見え隠れするフランではあるが、ちゃんと喋らせれば一応筋の通った事は言うようだ。
「それに、預言がデビルのものであるとした場合、もう一つくらい、別の襲来がありそうです」
「と、いいますと?」
「セーヌ川決壊の預言では、土砂崩れと堤防決壊。寒波の預言ではミストラルとフロストドラゴン。どちらも預言にそった形ではありますが、発生源が微妙に異なります。ということはもう一つくらいどこかで企んでいてもおかしくはないでしょう。ですので、こちらは裏の裏の裏を狙って警戒をしましょうというわけです。ほら、理屈は通った」
 どこまでが本気なのやら。騎士隊員を予備戦力としておいておきたいのか、それとも本当に影から忍び寄るたくらみに対しての警戒なのか、なんともいえないようなフランの言葉に副隊長は頷いて立ち上がった。
 一番大切なことはとりあえず信用することだ。それに任されていると言っても過言ではない状況だ。良いように考え直せば、とりあえず光栄な話だ。
「わかりました。隊長がジニールを解放するまで、これ以上の事態が発生しないよう防止に努めます。で、ジニールは協力してくれそうなんですか?」
 そのように尋ねる副隊長に、フランは首をかしげて苦笑した。自身も協力を得られるかどうかなど、自信のある話ではないようだ。
「ダゴン退治は進行していますし、ジニールの風を味方に得られれば、セーヌ河河口の土砂は分散され海からの風はすぐにでも力を取り戻すでしょう。そうすれば周辺の気温が上がりフロストドラゴンは住みにくくなるので退散してくれるでしょうし、ミストラルも止む。協力は得られるかなというより、どうしてでも得られないと困るわけです」


 やるっきゃないよな、と言いながら、フランは心の中でも同様の苦笑いを浮かべていた。
 あのジニール。そうとう機嫌がよろしくない様子だ。説得に耳を貸してくれればいいのだけど‥‥。
「キロンはジニールと契約し、風を味方につけたと言われています。それが、あのアウラ・インクナブルで眠っていたということは、契約がまだ生きているはず‥‥契約の名の下に交渉を進めれば協力を得られるだろうが、さて、そのキロンがどんな契約をしていたのか」
 どこかにヒントが残っていそうだが、村にも遺跡にも目にした情報以上に新しいものは存在していない。
 長老の話や、歩いた遺跡の中に秘密があると思うのだが‥‥

●今回の参加者

 eb0916 大宗院 奈々(40歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb3583 ジュヌヴィエーヴ・ガルドン(32歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 eb4906 奇 面(69歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb5314 パール・エスタナトレーヒ(17歳・♀・クレリック・シフール・イスパニア王国)
 eb8372 ティル・ハーシュ(25歳・♂・バード・パラ・ノルマン王国)
 eb8686 シシリー・カンターネル(31歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ec0669 国乃木 めい(62歳・♀・僧侶・人間・華仙教大国)

●サポート参加者

玄間 北斗(eb2905)/ チサト・ミョウオウイン(eb3601

●リプレイ本文

 森林の中央で生きる遺跡、アララ・インクナブルに冒険者が足を踏み入れたのは2月も終わりに近づいた頃であった。セーヌ河河口を巨大な干潟に変えた悪魔ダゴンが退治されたという情報は、耳だけでなく、肌や耳を通しても実感ができた。例年よりずっと長く続くミストラルはこの森の天幕をいつも不安に吹きさらしていたというのに、今日改めて踏み入れたこの森は幾分穏やかで、驚いたくらいだ。
「目に見えて改善するものなんですね。これは驚きました」
 シシリー・カンターネル(eb8686)は付き従う、ゴーレムに触れながら、そうつぶやいた。
「デビルがどれだけノルマンの気象に悪影響を与えていたかよくわかりますね」
 齢を重ねた顔に刻まれた目尻の皺を深くさせながら国乃木めい(ec0669)は森を見つつ、そう言った。
「だが、まだ影響はかなりあるようだな。ミストラルが吹き荒れるようになって肌がカサカサだ」
 大宗院奈々(eb0916)は自分の頬に手を当てながら、不満げにいった。ミストラルは山脈から吹き下ろす空風であるため、それが勢力を増すといやが応にもノルマン王国の空気は全体的に乾燥する。基本的には山脈に近い北部をのぞいてはそこそこ湿潤な気候であるはずの国が乾燥するものだから、そこに住む住人も肌荒れや、喉の炎症など乾燥にともなう特有の問題に悩まされるものが例年より増えていた。
 特に、いよいよその探索も大詰めを迎え、フランとの距離を少しでも縮めたい奈々にとってはカサカサお肌は大問題であった。
「本当。肌がこんなに乾燥してしまって‥‥ひび割れたりしないでしょうか」
 シシリーも同様の悩みを抱いているようであった。
 が。
「いや、それはそんなに問題ないと思うぞ」
「そんなことありません。機動力に変化がでるかもしれないのですよ?」
 シシリーはゴーレムの肌を撫でながらそう言った。
 奈々のお肌の状態とアマーンの木肌のコンディションは同質の問題であるらしい。
「特に自爆する力を持っているアマーンには大きな影響がっ」
 ないない。
 一同は揃って手を振った。


「封ヲ破リ、我ヲ無理矢理目覚メサセルノハ貴様達カ‥‥?」
 蔦でできた繭の中で、こちらを見つめていた。身を隠しているのは雲か綿か判別しにくいような布地と、空色と雲色の影が入り交じる長い髪だけであった。体は全体的に白っぽく、髪も体もときおり霞んでいるように見える。それが風の精霊であることはきっと誰が言わずとも理解することができただろう。
「‥‥やっぱり女か。残念だ」
 ぼそりと漏らす落胆を奈々。確か許容範囲は人間とエルフとハーフエルフだけだと言っていた気もするのだが。恋愛対象はたもかく、色気が通じる相手はもっと広いのだろうか。
 そんなことをみんなが心の片隅で悩んでいる間に、早めに立ち直ったジュヌヴィエーヴ・ガルドン(eb3583)が一歩前に出ると、胸に手を当て言葉を発した。
「私の名前はジュヌヴィエーヴ・ガルドンと申します。此処に来る際に騒がせてしまった事をお詫びします」
 紳士的(淑女?)な態度に、ジニールの動きがぴたりと止まる。どうやら話を聞いてくれるようだ、と直感したジュネはそのまま言葉を続けた。
「今、この地を襲わんとする、大いなる風の災いを止める為、力をお貸し下さい」
 そして、その理由を口にしようとした瞬間、このジニールの玄室に強風が吹き荒れた。開けた口に空気をつめこまれ、ジュネはそのまま咳き込んでしまう。
「オ前達ノ切リ刻ンダコノ遺跡ノ植物ヲスベテ再生シタラ考エテヤル」
「そこまで大事な場所だったのか? 木はどうせ勝手に生えてくるだろう」
 今回初めてアウラ・インクナブルに足を踏み入れた奇面(eb4906)が風を渦巻かせるジニールに言った。
 あわわわ。それ、まずいよ。
 とか、常連メンバーは止めようとして。やっぱり大風が吹いた。ジニールとキロンの関係はこの遺跡を探索してなんとなく推測していたし、今回の説得で改めて確認し直していることもある。ジニールが怒るのは目に見えていた。
「壊スダケ壊シテオイテソンナ口ガヨク聞ケルナ!」
「ふん、ワシはお前のこともキロンのことも知らんからな。分からせたいなら話してみたらどうだ」
「そうです。申し訳ないとは思っていますけれど、ここにたどり着いた以上はお話しする資格があるのではないでしょうか〜」
 仮面を深めにかぶり、風を直接浴びないようにしながら言う、奇の勢いに合わせてパール・エスタナトレーヒ(eb5314)も言葉をかぶせる。
「話シ合ウ気ハナイ、去レ」
 苛立ったようにジニールが風を強くする。フランがあのミストラルを御せる、と踏んだだけあって、その風の勢いは恐ろしく強く、体重の軽いパールなどフランが助けてくれなければとっくに向こうの壁にたたきつけられていただろう。
「そうはいかないよ。ミストラルは何者かの仕業により、明らかに異常を来しているんだ。自然も破壊されて良いの!?」
 烈風の中、抗うようにティル・ハーシュ(eb8372)が叫んだ。パラ特有の低い身長が風に耐えてなお声を発せるところまで行き着いたのだろう。そしてその言葉に風が突然停止した。
「やっと聞いてくれる気になったか? お前が男ならもっと優しく説得しようと思っていたんだが」
 むせながらも冗談めかしながら、奈々はジニールを見上げて言った。警戒と不快感は相変わらずだが、先程とは違って明らかにこちらの言葉を待っていた。
 ああ、これが契約なんでしょうね〜。パールは自分たちの推測が大筋間違っていなかったことを確信した。『私は世界』と書かれていたように、自然の象徴であるジニールとそして自然そのものは切り離せない関係にある。その自然を守るためにジニールは今日までここでたゆとう夢を見ていたのであろう。
「今、外は魔性によって海流が乱され海からの西風は抑え込まれ、北東からの強風のみが吹き荒れ大地を空を水を荒らしてしまっているのですよ」
 パールは説明を加え、ジニールが現状を把握できるように努めた結果か、ジニールの顔つきは確かに変わった。
「脆弱ナ魔族程度ガ西風ヲ止メルトハ‥‥」
 ジニールはいらだちながらそう言った。デビルを脆弱と言い切るあたり、冒険者達には理解しがたいところもあったが、大自然を前にすればそんなところなのかもしれない。
「ざっと影響を調べてみたが、木が百本。池は砂で汚れ、魚達が住みにくくなっている。鳥はもっと被害が大きいな。卵はうめんし、空を飛ぶのも難しい。気候もそのうち変化してくるだろう」
 影響について調べてきていた奇が淡々とその報告を語る。
 それを聞きつつ考え込むジニールに改めて、ジュネが語った。
「災いが、人間が己が世界の一部で有る事を忘れ、世界の理を解する事無く振舞った、その報いであると言うならば、人間の責として対処すべき事。ですが、此度の災いはそうではありません。ただ破壊の為だけに、世の摂理を捻じ曲げ引き起こした物です」
 ジュネの言葉が静まりかえったこの空間に朗々と響く。その言葉にうわべだけの虚ろさ。頭で用意しただけのぎこちなさはなかった。クレリックである彼女が、心から導き出した答え。
 ジニールはしばし値踏みをするように一行を眺めて、つぶやいた。
「フン。自然ヲ守ルノハ私ノ役目ダ。ダガ、ココヲ壊シテキタオ前達ニ、従ウツモリハナイ。勝手ニサセテモラウ」
 その言葉にわずかな間をも与えずめいが口を開く。遠歪な言い方であるが、ジニールは見返りを要求していることに即座に気がついたからだ。それは口ぶりより、値踏みするあの目で気付いていた。伊達に年はとっていない。
「此度のデビルの悪行を修めた後に、再び貴方をこの母なる樹の元で悠久の時を刻めるよう、新たな護人をつけて封印する事を御約束しましょう」
 ‥‥‥‥‥‥。

「イイダロウ。先程カラノ立派ナ口上、ミセテモラウゾ」
 ジニールの言葉が響くと同時に、ジニールの姿がはっきりと色づいて見えてきた。薄い色合いだった全身には人のものと同じような血の通ったような赤みが帯びる。そして視界を遮っていたツタをゆっくりと動かすと、その中から足を踏み出した。
「賢者キロンの盟約において、共よ。力を貸そう。」
 友ではなく、共。一緒に歩む者という意味であろう。
 ここにジニールの契約が成立したことを知った。
「ありがとう。ミストラルの力を和らげてっ‥‥えーとところで名前はなんて言うの。ジニールって名前じゃないよね」
 ティルの問いかけにジニールは不思議そうな顔をした。
「名前は契約の履行者が付けるものだ。私自身に名はない」
「それでは新しいお名前『リュミエール』を賦しましょう〜」
 リュミエール。光という意味。パールが与えた名にふさわしく、ジニール・リュミエールは輝くような笑顔で皆を見つめた。

 アウラ・インクラブルから出る間にシシリーがこそりとめいに尋ねる。
「ところで、護人ってどうするんですか? ジニールはきっととても永い時間を生きるでしょうし‥‥」
「‥‥まあ後で考えましょう」
 蔦でできたゴーレムをちらりと見ながらめいはニコニコ笑った。
 皆の視線がクルルカンに集まっている気もするが。
「大丈夫だぞ。村の人間に聞いてきた。ジニールがキロンに望んだのは、森林の拡大だ。森が生命をはぐくみ、水を作り、風を作る。この世界の自然の循環っていうのかな。それを守ることが、ジニールを守ることになるそうだ」
 奈々はシフールの集落で手がかりがあるだろうと、一人でずっと聞き回っており、昔話の一端を手に入れることに成功していた。恋を花開くことができなかったことだけが、苦痛だったそうだが。
「この遺跡も、キロンの贈り物だったんだろうな。護人はこれからみんなで森を作っていけばいいことさ」
 一同が感心して奈々を見る中、本人はフランの方をちらりと見て言った。頬が僅かに赤く、蠱惑的な瞳が光る。
「フラン。後はリュミエールが土砂を取り払うのを見届ければOKだな」
「そうですね。場合によってはリュミエールに指示を出さなくてはならないかもしれませんし、不測の事態も考えられますから、後少しだけお付き合いをお願いします」
 そう言うフランの胸にしなだれかかりながら、甘えるような囁きを奈々はこぼす。
「ところでどうだ。今夜一緒に付き合わないか」
 その囁きにしばしフランは湖のような深い神秘的な瞳を向けて言った。

 私、男色家なんです。