イツマデ −思惑−
|
■シリーズシナリオ
担当:初瀬川梟
対応レベル:4〜8lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 92 C
参加人数:6人
サポート参加人数:3人
冒険期間:10月30日〜11月04日
リプレイ公開日:2005年11月07日
|
●オープニング
村の付近に出現した化け物を追い払って欲しい。
――その依頼を持ち込んだのは、以前、以津真天退治を依頼してきた村の住人だった。
髪は荒々しく逆立ち、悪鬼のごとき顔。
暗闇の中、血のように赤い瞳を爛々と輝かせ、襲ってくる。
村人は「あれは鬼に違いない」と主張するものの、断定する要素は今のところない。刃物のように鋭い爪があるとか、猛獣のような牙を生やしているとか、色々なことが言われているが、はっきりとしたことはよく分からないらしいのだ。
被害についても、詳しいことは不明。
怪我人がいるらしいが、何人くらいいるのか、どの程度の怪我なのかは明言されなかった。
「‥‥というわけで、不明な点がいくつかあるんです」
冒険者たちに依頼の内容を説明しながら、係員は眉をひそめた。
髪が逆立っているだの、血のように赤い瞳だの、そういった容姿に関する話は出ているのに、具体的にどういう化け物なのか分からないというのが引っ掛かる。それに「襲われた」と言っている割には、被害の程も明らかではないし、「退治」ではなく「追い払うこと」を依頼しているのも気になる。
「化け物が現れる場所については、村人が案内するそうです。敵の正体が分からない以上、対策も立てづらいと思いますし、気を付けてください」
それは、数々の依頼を受け付けてきた係員だからこそ働いた、ある種の勘だったのかもしれない。
彼は、最後にこう付け足した。
「――どうも、嫌な予感がします」
* * *
同じ頃、ある場所にて。
「やっぱり‥‥また祟りが起きるんじゃないだろうか‥‥」
「かと言って、このままにしておくわけにも行くまい。あんなのが村の近くにいたんじゃ‥‥そっちのほうが心配だ」
「そうだよ。何も、殺そうって言ってるわけじゃないんだ。ただ、どこか遠くへ行ってくれればそれでいい。その程度で祟られちゃ、堪ったもんじゃないよ」
「‥‥あたしらはただ、安心して暮らしたいだけなんだ。自分たちの生活を守ろうとして、何が悪い?」
「でも、あの昴って男は拒んでるんだろ?」
「化け物を匿った挙句、庇い立てするなんて、正気の沙汰じゃない‥‥あいつは祟りを受けていないから、そんなことができるんだ」
「だからこそ冒険者を雇ったんだろう。彼らなら何とかしてくれるはずだ‥‥」
●リプレイ本文
●再訪
「じゃあ早速、現場へ・・・・」
「その前に確かめておきたいことがある。本格的な行動は調査が終わってからだ」
天風誠志郎(ea8191)に呼び止められ、案内役の村人は戸惑ったような顔を見せた。
「俺達は命を賭して動く。それには正確な情報と綿密な計画が必要不可欠だ。相手が鬼だというならそれは当然だろう」
小野麻鳥(eb1833)の言葉は正論だ。さすがに反論できず、村人も従うしかなかった。
「まず、鬼について教えてもらえるかな。大きさとか特徴とか・・・・鬼って言っても色々あるしね」
所所楽石榴(eb1098)は「銀の髪」というのが気に掛かっていた。
わざわざ髪と表現したからには、全身を体毛に覆われた犬鬼や熊鬼は除外されるだろう。となると山鬼や山姥の類いだろうか。
「大きさは・・・・子供くらいだったか」
「なら、小鬼?」
「いや、はっきりとは分からないんだが・・・・」
その返答に、石榴だけでなく他の者たちも違和感を感じた。もし小鬼に遭遇した場合、それが小鬼だと分からないなどということがあるだろうか? 鬼の中でも最も身近な種類だし、すぐに分かりそうなものだが。
「ちなみに数は?」
「1匹だ」
「・・・・じゃあ小鬼の線は薄いね。奴らはたいてい群れて行動するし、臆病だから、たった1匹で人間を襲うとは思えない・・・・」
アキ・ルーンワース(ea1181)が、自らの知識を生かして助言する。
その際、村人が複雑な表情を浮かべたのを、石榴は見逃さなかった。妹から教わった対人観察のコツが役に立ったのかもしれない。
「・・・・それなら、山鬼の子供とか?」
「そ、そうかもしれないな」
石榴にじっと見据えられ、村人は慌てて視線を逸らす。
あくまでも鬼の正体については話さないつもりらしい。少なくとも、今この場では。
「ふむ・・・・やはり現場をしっかりと調べる必要があるな」
「そうだね。面倒だけど、調査は必要だと思うよ。後々もっと面倒なことになっても困るしね」
天風の提案に、天藤月乃(ea5011)も相変わらずの調子で同意する。
こうして、天風ら3人は現場へと調査に赴くことになった。
●調査
現場へと向かう道すがら、月乃は気になっていたことを訊ねる。
「どういう経緯で襲われたの?」
「狩りの最中だったらしい」
天風もまた疑問を口にした。
「今までに同じようなことはあったのか?」
「少し前に以津真天とかいう化け物が出たが、その他は特に・・・・」
「他に何か変わった出来事は? 例えば村で何か問題が起きたり、変わった人物が訪ねてきたりだとか」
「・・・・思い当たる節はないな」
やはり、この件に関して村人の口は固い。改めてそれを認識し、天風は質問を止めた。
やがて現場に到着すると、アキは村人に引き返すよう促した。
「危険だから、近付かないほうがいい・・・・」
「・・・・いや、しかし」
「もし鬼が襲ってきた場合、あなたを守りながら戦うと、その分こっちが不利になる・・・・」
こうまで言われてしまっては、そのまま居残ることも躊躇われたらしく、村人は渋々といった様子で戻っていった。それを見送りながら、月乃はぽつりと零す。
「鬼、ね・・・・本当に鬼なんているのかね」
他の2人も、考えていることは同じだった。そしてその疑念を解決すべく、黙々と調査に取り掛かる。
その結果、人間のものらしき足跡は見られたが、鬼が暴れ回ったような痕跡は見つからなかった。草を踏み荒らした跡や、不自然に木が倒れたり枝が折れている箇所も見当たらない。
(「・・・・本当に被害者っているのかな・・・・。下手すると、『姿を見た人』がいるだけなのかも・・・・」)
口には出さないが、アキの中でその思いは膨らむ一方だった。
●真相
村に残った石榴は他の村人たちからも話を聞いて回ったが、目新しい情報は特にない。ただ、村人たちの様子を観察するに、彼らがひどく怯えていることだけは見て取れた。
その原因は鬼だけではない。何かを隠していることに対する、後ろ暗い陰の気・・・・それは石榴だけでなく、小野も感じていた。
小野は石榴が村人と話している隙を見て、こっそりと村を抜け出す。常の白き衣の上から漆黒の外套を纏い、木々の影に紛れるように歩き、辿り着いた先にあるのは廃屋――恐らくは銀の家であったと思われる場所だ。
「急々如律令」
巻物を広げ、屋内に充満する澱んだ空気に問い掛ける。
4人の者たちがここで息絶え、朽ち果てた・・・・返ってきた答えはそのようなものだった。どうやら、暴行を加えられて死亡したというわけではなさそうだ。とすると、死因は飢餓や衰弱、あるいは病だろうか。以前ここを訪れた木賊も言っていたが、満足な生活をしていたとは到底思えない。
粗末な着物の切れ端をいくつか拾い集め、小野は廃屋を後にした。
そしてまたある場所へと向かう――
それから少し経った後、また別の人物がその場を訪れた。
彼――コバルト・ランスフォールド(eb0161)は亡くなった者たちのために祈りを捧げ、それが終わると、小野が向かったのと同じ方向へ歩き出した。
辿り着いた先には一軒の家。呼び声に応じて顔を出したのは・・・・
「突然失礼する。あなたが昴殿か?」
「ああ、そうだが・・・・」
「俺はコバルト・ランスフォールドという。以前、木賊という冒険者が昴殿の依頼を請けたかと思うが、銀の様子を見てきて欲しいと彼に頼まれてな」
その言葉を聞いて昴も納得したらしく、素直にコバルトを招き入れた。
屋内に入ると、銀は柱の陰に隠れて様子を伺っていた。
「人見知りの激しい子だとは聞いていたが、相変わらずのようだな」
コバルトが言うと、昴は顔を曇らせる。
「だいぶ打ち解けてきてたんだが・・・・最近また逆戻りだ」
「何かあったのか?」
「・・・・縁側にいる銀を、近くの村人に見られてしまってな。それ以来、気味が悪いから立ち退いてくれと再三言われていて・・・・」
昴は語った。
少しずつ心を開くようになった銀は、まだ外に出ようとはしないものの、縁側から外の景色を眺めたりするようになった。特に庭先に集まる小鳥たちがお気に入りで、天気の良い日などは飽きもせず何時間でも観察していた。
しかし、運悪くその姿を見咎められてしまったのだと・・・・
「ということは、銀は外には出ていないのだな?」
「ああ」
これではっきりした。やはり鬼などいない、被害など出ていないのだ。
銀はその生まれゆえに鬼の濡れ衣を着せられ、やっと手に入れたこの場所さえも追われようとしている・・・・
「・・・・昴殿には悪いが、万が一に備え、居を移すことも考えたほうがいい。追い詰められた人間というのは何をするか分からない。今はまだ警告で済んでいるかもしれないが、最悪の場合には・・・・」
コバルトが言わんとすることは、昴も理解したようだった。遣り切れない表情で俯き、呟く。
「分かった。もし銀の身に危険が及ぶようなら、それも考えよう」
「ああ・・・・それが銀と、昴殿自身の身を守ることにもなる」
そう告げるコバルトの瞳にも、愁いが満ちていた。
●推測
コバルトよりも一足先に昴の家を訪れた小野は、拾った布切れを銀に見せ、あの廃屋が銀の家であったことを確認していた。当然、コバルトが得たのと同じ情報も既に手にしている。
それを踏まえた上で、小野はこう推測した。
村人たちは、やはり銀の家族らを迫害していたのだろう。だからこそ以津真天が現れた時、あれほどまでに怯えていた。これは祟りではないか、と。
そして行方知れずになっていた銀を偶然見つけ、彼もまた村に災いをもたらすのではないかと考えている。退治ではなく追い払うことを依頼したのは、銀を殺せば化けて出るとでも思っているのかもしれない。
鬼の正体が銀であることは、もはや火を見るよりも明らか。
その時点で小野の考えは固まっていた。
●混迷
「鬼というのは、あの川の下流に住む、銀色の髪を持つ幼子のことか」
小野の問いに、村人たちはざわついた。誰も答えないが、彼らの表情がありありと事実を語っている。
「俺達を犯罪者にする為に依頼を出したのか? ハーフエルフも人だぞ」
「違う、あれは鬼だ!」
1人が声を張り上げる。
おぼろげながら、小野はその男に見覚えがあった。確か、最初にこの村を訪れた時にも会っているはずだ。
「俺は見たんだ! あの餓鬼が髪を逆立てて、真っ赤な目でこっちを睨んでるのを・・・・」
「それはいつのことだ?」
「以津真天が現れる前のことだ・・・・。俺は逃げ出したが、奴は追ってきた・・・・それで恐ろしくなって、無我夢中で奴を叩きのめして、川に突き落とした・・・・」
今回言われていた「鬼」というのは、彼が目撃した銀の姿に多少脚色を加えたものなのだろう。そして、昴の家で目撃された銀は実際には狂化していなかったにも関わらず、追い払うための口実として意図的に「鬼」へと仕立て上げようとした・・・・といったところか。
「銀は鬼などではないし、被害者も実在しない。それを追い払えというのは無理な話だ」
「僕も、できないよ。今ここで銀くんを追い払っても、移り住んだ先でも同じことを言われるかもしれない。どこかで食い止めなきゃ・・・・」
小野と石榴は依頼の不履行を告げるが、それに対し、アキはあくまでも淡々と答える。
「・・・・村人たちは安心を欲してる。なら、それに応えることも僕らの仕事。そうすることで守れるものも、きっとあるはず」
どちらの言い分にも理があり、どちらかが絶対などということはあり得ない。それでも、選ばなければならないのだ。
「すぐに理解しあうのは難しい。ならば互いに距離を置き、冷静に事を見極めてはどうだろう」
天風の提案にも、村人たちは難色を示した。
しかし、誰かが一歩前に歩み出る。それは墓守の老人だった。
「何か起こってからでは遅い。それについて、あんたらは責任を取れると言うのかね?」
「・・・・銀に言っておくよ。この村には近寄らないようにってね。昴にも、銀からなるべく目を離さないよう頼んでおく」
月乃の返答を聞いて、老人は頷いた。
「皆がそこまで怯えているのは、後ろめたいからだろう。自らの所業が、いずれ己に返ってくるのではないかと。しかしそれは自業自得だ・・・・私も含めて、な」
「・・・・・・・・」
この言葉に反論できる者はいなかった。
罪の意識があるからこそ後ろめたさを感じ、復讐に怯える・・・・当然のことだ。
「あなたがたの言う通り、今はまず時間を置きましょう。万が一のことがあった場合にはもちろん協力してもらいます」
村長もようやく決断を下し、冒険者たちは同意した。
村人の中には不満に思っている者もいるようだが、反対を口にする者はいない。
今回の依頼はこれで終了したが、本当の正念場はこれからになるだろう。