【長屋の姉妹】護る者、奪う者

■シリーズシナリオ


担当:はんた。

対応レベル:2〜6lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 3 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:12月01日〜12月06日

リプレイ公開日:2005年12月12日

●オープニング

「早苗を追っているのは何故かしら」
「そんな事を聞いて、如何するつもりかね」
 扶美は男から手紙を受け取るその時、唐突に聞いてきた。
「俺は手紙を渡すだけ。それが俺の今の仕事、OK?」
「そう」
 彼女の表情は変わらないまま。だが、その巨躯を誇る男でさえ、内心身構えずに張られなかった。
(「こりゃまぁ、随分と丁寧に折り畳められた殺気だ」)
 自分と互角か、もしくはそれ以上の実力者との無言の対峙に、彼の掌は図らずも汗で濡れている。いきなり何か飛び道具でザックリやられたりでもしたらどうしようものか‥‥男はつくづくトンデモない飛脚役だ、と苦笑した。
「それについては、私がお教え致しましょう」
「おぉ、依頼主の旦那。助かった。それじゃあ宜しく頼むぜ」
 後ろには、いつの間にかいた青年。大沼善久、その人だ。
「早苗を追っているのは何故かしら」
 同じ内容の質問を、同じ言葉のまま聞き返す扶美。
「まず『追う』という単語は語弊を招きかねますので、そこからお話致しま―」
「早苗を追っているのは何故かしら」
 表情を変えず、何かの仕掛けのように同じ口調で繰り返す扶美。有無を言わせてもらえ無そうなので、諦め、善久は内容に入る。
「彼女の身柄確保のために下の者を動かしている理由は二つ。一つは早苗さんが利用されるのを防ぐ事。坂田さんが彼女を使って、貴方を裏切られる可能性を未然に摘み取っておこうと思っている次第です。そして‥‥」
 自分自身、彼女を使って扶美を駒にしているというのによく言う、と男は心の中だけで一人ごちた。
「そして二つ目は、‥‥そうですね、つまりその、彼女には将来的に、末永く僕の傍らにいて欲しいと思いまして‥‥」
「何!?」
 男と扶美が、声を揃える。
「ええ、なんて言いますか、つまりは彼女に『大沼早苗』になってほしいということですね」
 照れる仕草をしながら言う善久。その婚姻の申し出と取れる台詞に、一瞬アっ気にとられた扶美であったが、咳払いをすると、
「とにかく、早苗に手荒な真似をしたら、その時は覚悟する事ね」
 とだけ言って、その場から去っていった。
「分かっていますよ。それでは、お互い頑張りましょう」
 微笑みながら、その背中に善久は言葉をかけると、「さて」と言って一息つくと、今度は巨躯の男の方を向いて話し出す。
「それでは、アウディさん。早苗さんを宜しくお願い致します。彼女にはなるべく無傷でいて欲しいですが、他の事については、特に気遣う必要はありません。多少荒い押し入り方でも構いませんので」
 アウディと呼ばれた男は、その言葉を待っていたのか、それを聞くと豪快に笑みを作る。
「やっぱ俺には、飛脚より断然ソッチだな。じゃ、あんたの花嫁候補、ばっちり確保してくるからよ」
 そう言うと、アウディはその体格に似合わない軽い足取りで、その場をあとにした。
 かくして、一人になった善久。
「花嫁?」
 一人で笑う善久。嘲笑とも受け取れるその笑顔はアウディのそれとは対照的で、どこか湿気を帯びているような笑い方。少なくとも、見ていて気味のいい類のものではない。
「まさか、だよ」

「はい、それでは今回の作戦会議〜。かの屋敷への根回しはしといたから、あとはアウディ、フレッガ、利久の三人で好き勝手にやって。以上」
 少年とも言える体格の男がそう言って、それ以上の申し出を手厳しく受け付けない態度をとる。
「自分だけサボってんじゃねえぞ孝太郎!」
「俺はこの依頼を断ろうとしたのにお前が勝手に承諾したからこうなったんだ。自分のケツくらい自分で拭えってんだよ。とにかく俺は協力しないから、っつーか、三人もいて自信無いわけ?」
 柄の悪そうな男と、孝太郎と呼ばれた少年が言い合っている。状況に困り果て、先程棲家に帰ってきた巨漢、アウディは苦笑いしながら、視線で周囲に助け舟を求める。が、傍らの浪人といえば、我関せず。
「というわけで、あの二人は組め無そうって事で、了承してもらえるか、リーダー?」
 言われて無言で頷いたその男は、恐らくリーダー格なのだろう。


「お姉ちゃんの事とか、何故か長屋に善久さんの家来が来たりとか。あー、もうわからない事ばっかり! どうしよ私、どうするべきだと思います?」
「とりあえずは、ゆっくりしていたまえ」
 坂田邸にて。何もできない自分に少なからず苛立ちを感じている早苗に、坂田はとりあえずお茶を勧める。
「そうだ、そういえば、今度冒険者を呼ぶんだ。キミはここ数週間、護衛付きのこっそりとした外出くらいしかしていなくて退屈しているところだろう。色々話でもして、少しは気を楽にしたらどうかな」

「と、言ったものの、今回はただ話を聞くためだけに呼ぶのではないよ」
 冒険者ギルドの受付では、既に坂田と係員が話をしていた。
「では、用件を」
「最近、近所から聞けた話なのだが‥‥『我が屋敷が特定の日に警備を薄くしている』という安っぽい噂が与太者の間に流布されているらしい。で、噂に踊らされて安っぽい賊が押しかけて来るのではないかな、と思って警護の増員ということで冒険者を雇おうと思ったのだよ」
 仕事が入るぶんには困らないのだが、腑に落ちない点があったので、聞き訊ねる係員。
「お前の屋敷って以前、警備体制見直したんだろ。安っぽい賊だったら、大丈夫なんじゃないのか」
「いや、その噂の立ち方が、なんとなく不可解でね。あまりにもポっと出‥‥というか、火の無い所なのに煙が立つのは不自然だと思うのだよ。これは何かあるのではないかと思って、一応ね」

●今回の参加者

 ea3192 山内 峰城(34歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea8445 小坂部 小源太(34歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea9276 綿津 零湖(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb2033 緒環 瑞巴(27歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2313 天道 椋(35歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 eb2690 紫電 光(25歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb3297 鷺宮 夕妃(26歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)

●サポート参加者

草薙 北斗(ea5414)/ 尾庭 番忠太(ea8446

●リプレイ本文

「僕は何があっても早苗さんと扶美さんの味方です」
「うん。‥‥ありがとうございます」
 小坂部小源太(ea8445)は、早苗が頷いたのを見ると、どうか彼女が安心できるような、そんな微笑を浮かべて見つめると、部屋の外へ歩き、障子を閉めた。
「包み隠さず、我々は全てを話します。‥‥もう一度聞きますが、知る覚悟は出来ていますか?」
「万全! と言ったら、嘘になっちゃうけどね。それでも知りたいよ。お願い、教えて」
 その部屋にいるのは早苗、エンド・ラストワード(eb3614)、緒環瑞巴(eb2033)のみ。エンドの問いに、早苗は珍しく真剣な表情を見せる。覚悟も見える、が、不安も、入り混じっているように見えた。
 そして、話す。意外な事に、早苗はエンド達の前で泣き崩れたり狼狽したりする事は無かった。ただただ淡々と、聞いていた。
「早苗ちゃん」
 全てを聞き終えた早苗は、無言のまま瑞巴の方に首を振る。
「前に早苗ちゃんが遭難した時、扶美さんすっごい心配してたよ? 今まで何も言わなかったのも早苗ちゃんのことを思ってだと思う。だから早苗ちゃんも扶美さんの為にも大沼さんや手下の言いなりになったりしないで。まずは悪いヤツを倒して、そしたら扶美さんともきちんと話して、これからのこと考えよ。私達みんな早苗ちゃんと扶美さんの味方だからっ!」
 傍らのエンドも、口を開く。
「扶美を助けると言う事は、もしかしたら今の生活が変わるかもしれませんが、それでも彼女を助けたいですか? 如何なる形を望んだとしても、私達は、協力します。それは忘れないでください」


「し、知らねぇッ、俺は何も!」
「なら何故逃げたのですか?」
 綿津零湖(ea9276)は、絡んだ鎖分銅を解きながら聞く。雨多川緋針の潜入調査によって、足が付いた。特定したのちに彼を訪れた尾庭番忠太と零湖に聞かれると、何か面倒な事に巻き込まれたかと判断し逃げ、捕まって現在に至る。
「俺はただ、ガキから警備になる噂を聞いただけだ。最初は鼻で笑ったが、ガキはそれっぽく説明しながら、実際盗ってきたっていう金を見せびらかせていたんだ。んで俺は話盛り上げながら言いふらしちまった。それだけだ! 信じる奴がいるかもしれんが」
 番忠太の巨躯や鎖分銅を投げつけられた事に危機感を感じたか、男は聞いていない事まで喋りだした。まぁその方が、手間が掛からなくて良いが。
 とりあえず噂の出所の把握は、こんなものでいいだろう。
「それでは、次は扶美さんの事を調べなくてはなりませんね。草薙さんの方は、順調にいっているでしょうか‥‥」


 草薙北斗達が集めた情報通り、そこに扶美は現れた。
『こんな形で堪忍どすえ』
 思念会話。相変わらず違和感があるそれだが、二度目となれば動揺はしない。扶美は表面上に反応を見せないまま、聞く。‥‥事の顛末、‥‥早苗の現状、‥‥それから。
『それと、これは早苗はんからの伝言や。「私は姉さんの事、信じてるよ」と。姉妹って‥‥ええどすな』
『‥‥私からも一言、早苗にいいかしら』
 初めて、テレパシーの返答が来た。
『「貴方のしがらみは、必ず私が解くわ」』
 ただそうとだけ言って、扶美は去っていく。みるみるうちに離れていく扶美の手には、書簡が握られていた。人混みに飲まれ遠退き、姿が消える扶美の姿が、嫌蟻地獄に飲まれる蟻を連想させてしまう。
(「‥‥必ず伝えるさかい、扶美はんもどうか気ぃつけて」)
 鷺宮夕妃(eb3297)は頭に浮かんだ嫌なイメージを振り払いながら、強くそう思った。


「ああ、おかえり。いやぁキミ達がいない間は、いつ賊がやってくるかと、気が気でなかったよ」
 と、坂田は言ったものの、零湖達は警備が手薄にならないよう留意して活動していた。坂田もそれはわかっている。故に笑顔。まぁ、彼なりの冗談だ。
「――ということで、何か来る可能性は十分あります。早苗さんの部屋を、坂田さんの部屋の近くに移動して頂きたいのですが」
「ああ、別に構わないよ。ああそれと、彼女が万が一勝手に行動しないように、誰かが寝起きを共にしてくれるとありがたいのだが‥‥」
「それについては既に私がそうするつもりです。‥‥そういえば、早苗さんはどこですか?」
 集めた情報を元に坂田と言葉を交わしていた零湖は、フと、早苗の事を聞く。坂田は「そこの奥部屋さ」と指差す。
 零湖は早苗に一応顔合わせでも、と部屋に入る。
「峰城さんって、絵が上手ですよね―あ、どうも、はじめまして」
「ま〜、美術センスも武士の嗜みさ―や、零湖さん、おかえり」
「綿津・零湖と申します。以後、お見知りおきを」
「こちらこそ、どうかよろしくね〜」
 仲間から、彼女に情報を公開していると聞いていたので、彼女は落ち込んでいるだろうと思った零湖だったが、存外そうでもなく、明るい様子だったので安心した。零湖は礼儀正しく一礼を済ませると、襲撃に備えた相談のため、他の仲間の所へ向かう。
「‥‥早苗さん」
「え、何? 峰城さん」
「武士の嗜みには、対人鑑識って分野もあるんや。‥‥無理はしなくて、いいんだよ」
 早苗の表情が涙目に変わり、そして無言で、山内峰城(ea3192)にすがり付いてきた。
「‥‥っ、‥‥‥‥っ」
「大丈夫。きっと良い様になる。いや、させてみせる」
 声にならない彼女の嗚咽を聞いて、励ます峰城だった。

 夜、寝室。
「早苗さんも扶美さんのことも、私達で何とかするから‥‥だから、絶対大丈夫だよ♪」
「ありがとう、光さん」
「それでは、今夜も何も無いといいですね」
 早苗と一緒に寝る零湖は、終身時も灯りの油を断たない。襲撃に備え、文字通り油断する事は無かった。


「さて、そろそろか。おいアウディ。起きな」
「いやー、まだだろ。あと五分くらい」
「‥‥‥‥」
 すると、音が聞こえてくる。それに声が混じってきて、喧騒となる。
「頃合だろうが! 行くぜ!」
「やれやれ」
「‥‥‥‥」
 日付が変わって一二時間程経った頃だろうか、坂田邸に賊が押し入る。警備の用心棒達が迅速に対処に向かう。が‥‥、
「よし、反応は無ェ。ここまで思い通りにいくと愉快を通り越して退屈すら感じるぜ」
 スクロールを用いてブレスセンサーを使いながら、フレッガが呟いた。密か(塀に穴が開いてはいるが‥‥)に裏口から忍び込んだ三人は、トントン拍子で進行していく。途中、若干名の用心棒に会ったがアウディに一撃を見舞われて気絶した。
 そして速やかに屋敷に入り、進んでいくと、ブレスセンサーに反応が現れる。
「奥に、10名ィ」
「ターゲットと、それの護衛だろう」
「だろうな。退屈凌ぎになるといいんだが、なァ!」
 語尾と同時に襖障子を蹴り飛ばしたフレッガの目に飛び込んできたのは、
「よし、反応通り! 来たよ!」
 叫びの主は紫電光(eb2690)。次の瞬間、既に振りかぶっていた零湖のアイスチャクラと、詠唱を終えた瑞巴のムーンアローがフレッガ目掛けて飛んでゆく。
 フレッガは、小ぶりな盾をとっさに構えるが、氷の円盤を止めるに至らず、肩に裂傷を負う。無論、止める術のないムーンアローも直撃。
「聞いてねぇぞクソがっ。何が『普通の護衛数名』だ! 冒険者共じゃねえかよ!」
「まあフレッガ。これで退屈はしないだろ」
「おっ、アウディさん、フレッガさん久し振り〜」
 天道椋(eb2313)。見覚えのある、少年のような顔が映った。
「ああ久しぶり。元気かあ?」
 旧知の知人を懐かしむかのような口調のまま、アウディは斧を振り下ろす。それは割込んで盾を掲げた小源太に攻撃の重さを実感させつつも、受け流される。
「まぁボチボチですね。少なくとも賊に遅れを取られることの無いくらいは元気ですよ」
 そう言って二人から距離をとった位置で、苦笑しながら肩を竦める椋。
 そんな彼に迫る影。影‥‥もとい、利久の手は既に柄。抜刀の体勢に入っている。鞘から神速の銀光が放たれ―
 ヴァリイイリィッッ。
「―ッ!? ‥‥‥」
「あんたの事は前に話に聞いてるよ〜『居合いの男』だろ? 腕が立つって言うからさぁ、こっちもソレナリに準備させてもらったよー」
 椋は笑みを絶やさない。椋の仕掛けたライトニングトラップに身を焦がされた、利久は肉の焦げた臭いを漂わせながら、
「‥‥‥参る」
 尚‥‥突っ走ってきた!
「(うわー。普通、焦げてるのにまるで表情変えないで来るかー!?)じゃ、山内さん」
「ああ、支援よろしゅう。それじゃあ、行くか」
「図に乗るんじゃねェ、ブっ殺すぜ!? 実力だったら、こっちが上なんだからよ!」
 利久に峰城が向かうなか、フレッガの罵声が聞こえる。早苗の方へ詰め寄る彼に、光が立ち塞がり、早苗の傍には零湖と瑞巴がついていた。
「だから何!? 約束したんだ、『何とかする』って! だから、負ける訳にはいかないよ!」
「俺のナイフを防いでから吼えなァ」
 十手は、蛇のようにうねり迫る銀色を遮る事ができず、光の体に赤色を生じさせる。が、浅い。
「く、そんな出鱈目な詠唱が何回も成功すると思うな!」
「私は、出来る事を精一杯やる‥‥それだけだよ!」
 瑞巴は高速詠唱でムーンアローを繰り出し、その進行を妨げた。
「あっちもなかなか元気なこった。できればさっさと元気なくなってくれると、仕事をやりやすいんだが、ね!」
 アウディの怪力が振り下ろされる。それを受けたシールドソードは衝撃を殺しきれず、よろめく小源太。続く、斧の斬撃。
 小源太は反射的に左手を構えた。
「いい反応速度だな。だが!」
 破砕音が響く。攻撃の重みはライトシールドの耐久性を易々と超過した。左腕に残る痺れを無視して、小源太は刃を突き出す。
「‥‥腹は括っているようだな」
「彼女達の未来のためだったら、切腹すら覚悟して動きますよ、僕は」
 傷に手を当てながらニヤリと口の端を吊り上げたアウディに、小源太は微笑んで返す。
「ジャパンの儀礼、『ハラキリ』って奴か。実体験にしてやるよ」
 アウディの斧は、シールドソードだけでは衝撃を抑えきれず、小源太の肩にまで入り込む。とめどなく、血が流れる。
「止まりましたね」
「お前の息の根も、じきに止まるさ」
「そちらの影が止まるのが先や!」
「ん? ――おぅうッ!?」
 夕妃のシャドウバインディングが、アウディの影を捕らえた。シールドソードは、高々と構えられる。瞬間的に冷や汗が吹き出るアウディの体に刃が迫る。
 ガツッ!!
 横から、何かの衝撃に小源太の手元はぶれて、刃はアウディを掠るだけに終わった。
「―く!?」
「返すぜェ」
 衝撃の元はフレッガが投げた盾。高速詠唱の所為で失敗し、ムーンアローが止んだ隙に投擲した物だ。
 この間に、利久がアウディの近くへ。先程までの戦いで苦戦を強いられていた峰城には椋が駆け寄ってリカバーを唱えている。
「おかしいと思いませんか?」
 突然発せられたエンドの声に、利久は眼だけ向ける。
「先程そちらの方も言ったように、あなた達は計画と現場に差異がある様子。あなた達の攻勢の具合を見る限りでは早苗さんの身柄が目的のようですが、誘拐といった汚れ仕事を請け負わせて、それの口封じをされない保障はありますか? 依頼主が社会的立場の人間であればあるほど‥‥」
 話している途中に、ぽんっ、と栓の抜ける音があまりにも突拍子もなく場違いで、思わずエンドは説明を止めてしまった。
 利久は栓を抜いた瓢箪から透明な液体をぼたぼたと畳に落とす。予め打ち合わせがあったのか、フレッガは何も聞く事無く、手頃な所にある部屋の照明に手を突っ込んで中から蝋燭をとると、それを液体に投げつける。それは畳ごとアウディの影を焼き、呪縛から解いた。燃え広がりそうなそれを見た夕妃は、急いでプットアウトのスクロールを広げる。
「いやー、折角手に入った泡盛燃やすなんて勿体無い」
「‥‥‥退こう」
「何言ってやがる利久! まさかアイツの話聞いて、ノせられるつもりか!?」
「いや、でも一理あるだろ。あ、そうだフレッガ、ブレスセンサー使ってみ」
 ブレスセンサーに反応したのは、近付く無数の息。どうやら、正面からの賊の対処を終わったらしい。
「―ち、どのみち時間切れってか」
「‥‥‥」
「と言うわけだ。俺達は逃げるんで。その嬢ちゃんを無事守り抜いたって事で、満足してくれ。じゃな」
 気がつけば、相手は撤退体勢。
「ま、待て!」
「僕達の目的は、早苗さんの死守です。それは果たされていますので、追う必要もないでしょう」
 駆け出そうとした光を、小源太が制止する。目的云々以上に、彼女はフレッガとの戦いで傷を重ねている。現状、追走は危険だ。
「みんな、大丈夫か?」
 椋、そしてエンドは負傷したメンバーのもとへ向かい、戦いの痕を消していった。


「ただ彼女を守るだけと思ったら、色々あったみたいだねぇ」
 一室半焼の災難にあいながらも、飄々といった口上の坂田。奥部屋には貴重な物が置いていなかったのが、せめての救いか。
「だ、大丈夫なんですか〜? 結構こんがりいっていると思いますけど‥‥」
「ん、正直この時期にコレはキツいね。よし、じゃあ早苗君、キミが弁償ッ。事がひと段落付いたら、ウチ専属の薬草師となって、利潤の数割は私が頂くという方向で」
「ええ〜〜!? な、なんか急な話ですねぇ‥‥」
 驚く早苗を尻目に、笑いながらその場を後にする坂田。どこまで本気なんだか‥‥。

「さて、これからどうなるやろか」
 呟く峰城。たとえ黒幕が大沼で、扶美が好き好んで殺しをしているのではなくても彼女が件の暗殺者である事に変わりは無い。彼女達姉妹が目指す未来は、果たして‥‥。