復讐する理由――対峙

■シリーズシナリオ


担当:葉月十一

対応レベル:4〜8lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 88 C

参加人数:8人

サポート参加人数:6人

冒険期間:12月26日〜12月31日

リプレイ公開日:2005年12月31日

●オープニング

 少年は、一人で生きていこうとしていた。
 誰の手も借りず、己一人の力だけで。周囲の言葉に耳を貸さず、頑なに心を閉ざしたまま、誰一人心を許そうともせずに。
 怖れたから――失うことに。心が傷付くことに。幼かった過去のトラウマが、心が壊れたあの時を繰り返さないように、と。
 それでも人は生きていく限り、他人との関わりを拒否することは出来ない。
 その事を少年は誰よりも知っていた。だからこそ頑なまでに他人との関わりを拒んできたのだ。
 そんな少年の心を解すべく、尽力した仲間達によってようやく少年は、他人を信じようという気持ちを持った。仲間を信じ、自分を信じてもらい、そして互いに協力する。
 それこそが、少年にとって本当に取り戻したかったものだったのかもしれない。
 自らの未来を己の手で切り開くために――。

●邂逅
 差し出された切っ先を眼前にしても、子供の表情が変わる事はなかった。
 何度も繰り返す父と母を呼ぶ声。弱々しく、それでも喉から振り絞るぐらいの懸命さで。
「ふっ、幼い心が壊れたか。だが、これも神の試練の一つ。その血に生まれた事が、お前の不運だ」
 淡々と告げる男。
「ねえ、早くやりなさいよ」
 隣では右手を血に濡らした女が嗤う。掴んだ緋色のペンダントをうっとりと眺めながら。
 男は答えるでもなく、剣を持つ腕に力をこめた――が、すぐに力を緩め、腕を下ろした。
「ちょっ、どうして」
「‥‥聞こえないのか?」
 女の抗議を平然と無視し、視線を遠くへやる。女もつられて視線を追えば、微かだが声が聞こえてきた。
「――‥‥ッドォーッ!」
「潮時だ」
 くるりと向き直る男。
 悔しげな顔をした女だったが、特に逆らうことなく男の言葉に従った。
 立ち去ろうとした男は、最後に子供の方に向き直り、一言だけ言い残す。ニヤリと浮かべた笑みとともに。
「――運が良かったな。お前は試練を一つ、乗り越えたぞ」
 子供の耳に届かない事は承知の上で。

●護送
 冒険者達からの情報を得たオクスフォード騎士団は、容疑者であるジャパン人の女性の身柄を拘束した。
 彼女は抵抗することなく捕らわれ、その後幾つかの尋問が行われたが、何も話そうとはしなかった。何を聞かれてもただ、くすくすと笑っていただけ。
 だが、自宅を調べた結果、死体の頭部と思われるモノが発見された。それだけでなく、他にも頭部らしき塊が他にも幾つか発見されたのだ。
 結果としてそれが証拠となり、彼女の有罪は確定となった。
 更に、彼女の背後になんらかの存在が見え隠れしているという冒険者達の調べもあり、詳しい尋問をするため、彼女の身柄はオクスフォードからキャメロットへ移されることとなる。
 被害者がキャメロットの官吏であった事がその理由だ。
 かくして、その女性は騎士団警護の下、キャメロットへ届けられる事になったのだが‥‥。

「――護衛?」
 ギルドに張り出された一枚の依頼。
 先の官吏殺しの犯人とされる女性、その身柄をオクスフォード騎士団から道中で受け取って欲しいとの記載があった。更にその後は、当然キャメロットまで冒険者達が護衛をしながら届けるという寸法だ。
「受け取る場所はちょうど二日程歩いたところにある村だ。受け取った後は、そこから引き返してくればいい」
 言いながら、どこか気難しい顔をするギルドのオヤジ。
 何故なら、この依頼を受けたいと、一番最初に名乗りを上げたのはフェイだったからだ。
「俺、この依頼をやりたい。なあ、いいだろ?」
 目の前の少年は、以前の険が取れたのか前より幼く見えた。おそらくこれが、今の彼の本来の姿なのだろう。
 だが、同時にどこか大人びた雰囲気も醸し出している。
 それは、男にとってひどく懐かしい誰かを思い出させた。
「なあおっさん。俺、この依頼を受けたいんだ」
 勿論、ギルドの受付に座る以上、冒険者に対しては平等に接さなければならない。依頼を受けたいといい、その実力が適していると判断すれば、ギルド側に断る理由はない。
「いいだろう。だが、一人では無理だ。他の冒険者が集まるのを待て」
「‥‥判ってる」
 男の言葉に、フェイは素直に頷いた。


「‥‥やれやれ。まったく世話の焼ける」
「なあ、どうするんだ? また俺が行こうか?」
「いや、お前らは向こうを頼む。今回は行くさ。彼女を拾ったのは俺だからな」
「了解。んじゃ、頼んだぜ『お頭』。ほら、行くぞ」
「はい‥‥」
 声が止み、人の気配が消える。
「さて――試練に打ち克つのは、誰だ?」
 ほくそ笑む男の声だけ残して。

●今回の参加者

 ea1679 丙 鞘継(18歳・♂・武道家・エルフ・華仙教大国)
 ea1685 皇 荊姫(17歳・♀・僧侶・エルフ・華仙教大国)
 ea4287 ユーリアス・ウィルド(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea5210 ケイ・ヴォーン(26歳・♂・バード・シフール・ノルマン王国)
 ea5635 アデリーナ・ホワイト(28歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb2238 ベナウィ・クラートゥ(31歳・♂・神聖騎士・パラ・ビザンチン帝国)
 eb2628 アザート・イヲ・マズナ(28歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・インドゥーラ国)
 eb3225 ジークリンデ・ケリン(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)

●サポート参加者

マルティナ・ジェルジンスク(ea1303)/ ティアラ・フォーリスト(ea7222)/ クル・リリン(ea8121)/ 琴吹 志乃(eb0836)/ マージ・アエスタース(eb3153)/ アウグスト・スタニスラーフ(eb3740

●リプレイ本文

●戒
「彼女は何を考えているのでしょう‥‥」
 村に入る直前、ユーリアス・ウィルド(ea4287)はそう呟いて気持ちを引き締める。
 わざわざ姿を見せ、表舞台に出てきたということは、おそらく何かを企んでいる証拠だ。気を引き締めて万全の注意を払う必要があるだろう。
「そういえば‥‥フェイさんの件、どうなりました?」
 先頭を歩くフェイに聞こえないよう、彼女は小声で隣を歩くベナウィ・クラートゥ(eb2238)に聞く。
「うん。とりあえず今回は様子見だな。一応、マオさん達に確認してみるってアデリーナさんが言ってたけどね」
 当初、全員で村へ向かう予定だったが、気になることがあるというのでアデリーナ・ホワイト(ea5635)が一人残って資料を洗い直すと言い出した。
 特に反対の意見もなく、彼女はその場に残った。間に合えば、後から来るという話だ。
「そうですね。やはり相談した方がいいでしょう。フェイさん自身は、もう十分受け止められるとは思いますが‥‥心を縛りたくありませんから」
「そうだな。それに将来人の上に立つ人間ならば、今回の依頼で威厳も是非身につけて欲しいから」
「‥‥なに?」
 不意に前を歩くフェイが振り向く。
「いえ、何でもないですわ」
「そうそう」
 慌てて誤魔化すユーリアスとベナウィ。
 怪訝な顔をするものの、横からジークリンデ・ケリン(eb3225)が手を引っ張ったことでうやむやになった。
「ほらフェイさん、急ぎましょう。騎士団の方も待ちかねていると思いますわ」
「お、おう」
 強引に手を引き、急がせる彼女はそっと二人に振り向き、上品そうな顔立ちのままにこりと微笑んだ。
 とにかく、今は余計な雑音をフェイに聞かせることはない。
 依頼を成功させることだけを考えればいい。ようやく心を解し始めた少年を見守りつつ、改めて今回の護送対象である女性の動向を懸念する冒険者達。

●迷
 モルゴースに魅入られたメレアガンス。
 その兄であるアルフレッドと、生き残った遺児。
「‥‥そういえば、あの女性が持っていたペンダントは‥‥」
 やはり、フェイが見た事のあるアルフレッドの――彼から妻へ渡された私物なのだろうか。それとも、オクスフォードになんらかの関わりがあるものなのか。
 一日中ギルドの報告書や、図書館に残る資料と睨めっこを続けるアデリーナ。
 出発前までに、と思って始めた調査だが、さすがに一日や二日で終わる量ではない。何人かの者に手伝っては貰ったが、彼らも忙しい身だ。ずっと手伝ってもらえる訳ではない。
 その後もセブンリーグブーツで追いかければ、途中で合流出来るかも、と考えてはいたが。
「やはりやりかけの状態では中途半端ですし、ここはこちらに専念しましょうか」
 そう決めて、彼女は資料調査に没頭した。
 結果、幾つか判明したことがある。代々の貴族の肖像画‥‥当然、過去のオクスフォード領主のものもあったが、どの画にも同じ形の指輪が描かれていたのだ。
 そうなると、同型のペンダントもおそらくオクスフォード領主の家に代々伝わる物なのだろう。
 そしてもう一つ。
「‥‥殆どが事故死、もしくは他殺でしょうか」
 オクスフォードの代々の領主やその係累は、多くが事故死とされている。中には明らかに殺されたと思われる事件もあるようだが、公式的には大半は事故死だ。
 つまり、寿命を全うした者が殆どいないという事。
「こちらの資料と何か関係があるのかしら?」
 手にした報告書は、かつてパラの司祭が赴任した街で住人が全員殺された事件。犯人であるラージ・ルーンと名乗った彼は、何処かへ去って行ったという。
「もう少し時間がかかりそうですわ」
 ほう、と小さく溜息を吐いてから、アデリーナは再び資料へと目を通し始めた。

●誘
 しっかりと縛られ、窮屈そうに揺らす女性――リンと名乗った彼女。歩く時はしてないが、夜間の野営時にはしっかりと目隠しがされ、口も猿轡などで喋れないようにしていた。
 フェイに近付くのを少しでも抑制するためだ。
「其れ相応の腕の持ち主と思われますから」
 提言した皇荊姫(ea1685)に反対するものは誰もいなかった。ベナウィなどはもう少ししっかり固めた方がいいのでは、と意見もしたが、さすがにそこまでは。
 殺すのが目的ではないし、拷問に今すぐかけるわけじゃない。身動き出来ないだけでいいのだ。
 他にもジークリンデが進言したのは、女性の手の部分。
「両手はしっかりとグルグル巻きです。印を結べないようにしなければ」
 以前、対峙した時の術からして彼女は忍者である可能性が高い。そうすると警戒しなければならないのは、手で結ぶ印だ。
「本当にそれで?」
「ええ。アデリーナさんの友人の方から、忍者が使う術の発動にはそれが必要と聞いたものですから」
 ベナウィが尋ねると、ジークリンデが少し照れたように答えた。
 その時、呼子笛の音が街路の静寂を破る。じっと目を凝らしていた丙鞘継(ea1679)が立ち上がり、勢いよく笛を鳴らしたのだ。
 一瞬の緊張が場に走る。
 素早くジークリンデがインフラビジョンを施すと、赤い点が自分達以外の場所にも見えた。
「そこです」
 一息で放たれる火の玉が爆発する。その威力は普段の彼女以上の力であり、手にしているマジックブースターのおかげでもあった。
 が、どうやら相手もそれだけで致命傷、とはいかなかったようだ。
 改めて姿を見せた彼らの姿は、どう見ても野盗そのもの。
「姫、下がって」
 鞘継が主である荊姫を前に警戒する。
 そのまま繰り出した拳を、彼は一人一人に叩き込む。そのまま相手の手刀に彼らは気絶していく。
「くそっ、数が多い!」
「伏せて、フェイさん!」
 声が届き、慌ててしゃがんだフェイの頭上をユーリアスの放つ水の玉が相手の勢いを抑制した。
「やっぱり来たね。でもそう簡単に彼女は渡さない」
 ベナウィの狙いは、なるべく手や足といった箇所。
 木剣とはいえ、当たれば相当の痛みだ。敵の戦意を削ぐにはそれで十分だと思えた。それでも倒れない者には、仕方なく急所を狙ってその動きを止める。
「何か‥‥おかしくないでしょうか?」
 コアギュレイトで何人目かの敵を呪縛した後、荊姫はどこか違和感を覚えた。
「そうですね。なにかこう‥‥」
「妙な感じです」
 後方にて支援しているからこそ感じるのだろうか。
 ユーリアスもジークリンデも、荊姫と同じだと告げる。
 だが、その疑問を解く時間が今はない。襲ってくる人数はざっと十人。誰もが野盗として強者であるのは、剣さばきを見ればわかる。
「あーもう、次から次へとぉ」
 途中、嘆いたのはベナウィ。それは鞘継も同じで、僅かに顔を顰める。
 それでも敵は待ってくれない」
「ッ! 大丈夫か?」
「あ、ああ。これぐらい平気だ」
 油断だったのだろう。
 突如現れた男の剣が、彼の身体に傷を刻む。幸いにも出血は大したことなく、そのまま十分戦えたはず。
 だが、念のためという鞘継の言葉に従い、フェイは荊姫のところまで下がった。
「大丈夫ですか、フェイ様」
「別に大したことない。単なるかすり傷だ」
 リカバーの光が傷をみるみるうちに癒していく。その様子を横目で見ながら、ジークリンデは当初の打ち合わせ通りスモークフィールドを発動させた。
 すぐに煙が周囲一面に立ち込め、殆ど足元しか視界が効かない。
「な、なんだこりゃ!?」
「うわ、止めろ!」
 突然の出来事におそらく同士討ちをしたのだろう。そのまま留まっていれば自分達も危ないと感じ、すぐにでもその場を離れて逃亡した。
 目的は、あくまでも女性の護衛と警戒。
 やがて煙が晴れたところまで逃げ出した彼らの目に、二人ほど足りないことに気付く。即ちフェイと、護送対象であるリンだ。
「しまったっ!」
 慌てるベナウィ。急いで周囲を見渡すが、どちらの姿も見当たらない。
 先程の煙は、自分達まで行動を鈍らせる。加えて少々寝不足がちだったことが、今回は仇となってしまった。
「急いで探そう!」
 彼の一声で残った冒険者達は、すぐにその場から散らばって行った。

●解
「これは‥‥!」
 驚きに手を止めるアデリーナ。
 そこに書かれているのは、オクスフォード領主の家に伝わる装飾品『オクスフォードの護り』についてだった。
 かつてオクスフォードから発掘された奇妙な鉱石。その色鮮やかな青を気に入った時の領主が、それを用いて幾つかの装飾品を作った。そのうち、指輪は代々の領主が身に付け、ペンダントの方は婚姻を結ぶ相手の身を飾るのが慣例になった。
「――‥‥そして、その鉱石には不思議な力があった。魔力を込めて念じると、青かった‥‥石部分が、赤く変わって‥‥」
 赤と青。その意味がようやく解けた気がする。
 ふう、と一息つこうとした彼女の目に、もう一箇所読んでいない部分が目についた。
「ええと‥‥石についての説明だわ。青色の時は無害な石も、赤く変化した時に最高の武器ともなる。それは――」

●結
 あの時――逃走の際に耳元で囁かれた言葉。
『‥‥お父さんを殺した相手のこと、知りたくない?』
 ハッとしたフェイは、そのまま別の方向へ逃げようとするリンの後を追いかけた。誘導されているのだとも知らずに。
 気付いた時には、フェイの前にもう一人の男が立ち塞がった。身なりの整った‥‥そう、教会の司祭のような格好の男が。
「お前があの時の子供か。大きくなったもんだな」
「‥‥お、お前は‥‥」
 小刻みに震えが止まらない。
 それは恐怖のためか、或いは歓喜なのか――ようやく見つけた相手に対する。
「ねえお頭、もういいでしょう? この子に神の試練を与えても」
 お頭と呼ばれた男の手で戒めが解かれた女が、くすくすと妖艶に微笑む。手には赤く光るペンダント。どこか血の色を思わせるそれを手に、リンはまっすぐフェイに向かって駆けた。
「すぐ楽にしてあげるわ。自らの毒でね」
 だが、そこへフェイの姿を探していたベナウィが現れる。
「させるか!」
 手にした木剣を振り下ろすが、素早く彼女は後退した。
 続けて攻撃を仕掛けようとしたが、すぐに思い直して手を止める。依頼が彼女の護送である事は、必ず生きていなければならない。
 言い知れぬジレンマがベナウィの中に宿る。その時、ちょうど自分達を呼ぶ声が近くなった。
「そろそろ連中が来るぞ」
「わかってるわ。どうせ私の身に傷一つつけられない甘い人たちばかりだから」
「‥‥そうか」
 嘲笑う女の声にグッと言葉を噛むベナウィ。その様子に更に笑みを深めるリン。とにかく気絶させればいいのだ、と胸に誓う。
 そして。
「‥‥ここか」
「フェイ様、ここでしたか」
 鞘継と荊姫、二人同時に姿を現した、その直後。
 空気が一瞬にして緊迫なものに変わる。それは、今にもフェイに飛び掛かろうとしたリンの身体を背後から貫くソードの存在。
「‥‥な、ぜ‥‥ッ」
 信じられない、といった顔で女が後ろを見る。
「お前!」
 鞘継が瞬時に飛び掛かったが、男はすぐに身をかわして間の距離を保つ。剣が引き抜かれ、糸の切れた人形のようにドサッと地面に崩れ落ちる女。
 手に握り締めるのは、オクスフォードの紋章を象った首飾り。中央で赤い石が不気味に発光しているように見える。
 慌てて駆け寄ろうとした荊姫を、鞘継が腕を伸ばして止める。
 そして。
「全ては神の試練だ。やはり運がいいな、お前は」
 男がそれだけを言い残して立ち去ろうとした時、ようやくフェイが口を開く。
 問い質したいことは、たった一つ。
「――父さんを‥‥母さんを殺したのは、お前か」
「‥‥そうだと言ったら?」
 瞬間、カッと頭に血が上ったフェイ。思わず飛び掛かろうとしたのを、ベナウィが必死で押さえる。
「落ち着け、フェイ。ここで頭に血が上ったままだと、相手の思うツボだ」
「‥‥あなた、お名前は?」
 それまで黙っていた荊姫が、凛とした声で問う。
 すると、その態度をどう思ったのか、男はニヤッと笑った。
「俺の名はアーク。他の連中は、お頭って呼ぶがな」
 そう言い残し、男は夜の闇に紛れて姿を消した。
 直後、アデリーナとジークリンデもその場所へ辿り着く。
 ひょっとしたらこれもまた男のいう『神の試練』を、相手の男が乗り越えたのかもしれない。

 吹っ切れていた筈の仇を目の前にして、フェイの表情がいつまでも沈みがちだったことを、他の仲間は少し複雑な思いで眺めていた。