【花嫁育成計画】ちっちゃい若奥様

■シリーズシナリオ


担当:姫野里美

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月04日〜02月09日

リプレイ公開日:2005年02月08日

●オープニング

 その日も、いつもの様に受付嬢は、ハーブティを嗜みながら、訪れる依頼者を待っていた。これで何事もなければ、こっそり持ち込んだ宿題も、魔法書の読了も、全てこなせて楽な仕事なのだが。
「すみません。手伝って欲しい事があるのですけど‥‥」
 が、そうは問屋がおろさない。そんなギルドへと駆け込んできたのは、いつぞやのエルフの若奥様志望の少年、ランスくんである。今や立派な美少女になった彼、今日は、エプロン姿のパラとシフールの二人連れだ。
「あー、はいはい。で、何を手伝えば良いのかな?」
「はい、実は、100人分のお料理を作らなきゃ行けないんですっ! それで、皆さんに手伝って貰おうと思って、尋ねてきたんですけど〜」
 半ばお約束である。もう三回目なので、いい加減慣れてきた受付嬢は、大きなため息と共に肩を落としながら、こう尋ねた。
「何かイマイチ繋がらないんだけど‥‥。まぁいいか。事情を話してくれるかな?」
「なにげんなりしてるんですかぁ! 大変なんですよ! 実は‥‥」
 そう言って、パラとシフールの2人は、交互に話始めた。なんでも、そこの2人は、つい最近婚約が決まったのだが、その前条件として、とある宴席の料理を作る事らしい。しかも、他人に知られない様に‥‥である。
「なんでそんな事する必要が‥‥」
「なんでも、毒を盛られないようにする為だとか‥‥」
 100人分の料理に、全てピュアリファイをかけるのは、けっこう大変な事である。そこで、混ぜられない環境にしてしまえば良いと言う事で、どこをどう巡ったのか、2人の花嫁候補様に試練が課せられたようだ。
「私達だけで、100人前なんて、とっても無理ですぅ! なんで、秘密裏に安全に、料理を作るのを手伝ってくださぁい!」
 宴席には、彼女達の一族だけではなく、ジャイアントやドワーフ等、比較的一人前の量が多い種族も招かれているらしい。それを、体の小さな彼女たちだけで何とかしようと言うのは、酷な話と言うものだ。
「メニューとかは決まってるの?」
「いいえ。そう言うのは私達に任されてるんですけど‥‥。でも、下手な料理をお出しするわけにも行きませんし‥‥。きっと、ケンブリッジのどこかには、そう言うのを賄える、大きな材料とかもあるかも知れませんけどぉ」
 加えて、ケンブリッジなら、教諭や生徒がこっそり持ち込んだ珍味もあるだろうと言う目論見のようである。
「あっ、そうだ! これ、招待客の名簿です」
「役に立つと思って持ってきたんですけどぉ」
 2人が差し出した木版には、名前と年齢、そして種族が書いてある。これを見て、涼を調節してくれと言う所だろう。
 ところが。
「げっ。パープル先生の名前がある‥‥」
 その1人に、例の教師の姿があった。プロフィール欄には、『ミス・パープル。24歳。人間』とある。
「ねぇ、もしかしてこの人達にも、バレたらNG?」
「もちろんそうです。あのー、誰か手伝ってくれませんかぁ?」
 きっぱりと言い切るパラの女性。
 どうやら、今度は先生にもナイショで、進めなければならないようだった。

●今回の参加者

 ea2387 エステラ・ナルセス(37歳・♀・ウィザード・パラ・ビザンチン帝国)
 ea4675 ミカエル・クライム(28歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea8255 メイシア・ラウ(24歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea8785 エルンスト・ヴェディゲン(32歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 ea8870 マカール・レオーノフ(27歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ea8877 エレナ・レイシス(17歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

「今回も大変そうですねぇ」
 そう言いながら、ハーブティを注いでくれるエレナ・レイシス(ea8877)。
「あの女に内緒でか‥‥。耳ざといアイツの事だ。どんなに隠しても、いずれは知られてしまうだろうが‥‥。仕方がない、手伝ってやる」
 やっぱり、なんだかんだと言いながら、手助けしてくれるらしいエルンスト・ヴェディゲン(ea8785)。そう答え、必要物資の計算を始めている。
「まぁ、ざっと116.2人分か。そうだな‥‥何かあった時の事を考えて、多少の余裕を持って作った方がいいだろう」
「そうですね。零れたりしたら大変ですし」
 その結果に、マカール・レオーノフ(ea8870)がそう言って頷いた。と、彼はこう続ける。
「メニューは、調理場からの輸送や、食事量の違う連中への事を考えると、大皿料理が向いているだろうな」
 皆でつつけるスープや丸焼き等である。と、そこへエレナが、誰もが気づいていながら、口に出してはいなかった事を言い出した。
「それだけの量となると、1回くらいでは運べそうに有りませんね。えと、2回くらいに分けた方が良いのかな」
 何しろ、予備も含めて120人分以上の食材である。人数割りでも、1人25人分の食材。深く考えなくても、一度には無理と言うもの。
「でも、あんまり人数多いと、センセにバレちゃうしー」
 頭を抱えるミカエル・クライム(ea4675)。と、メイシア・ラウ(ea8255)がこう訊ねた。
「エルンスト先生、荷車って、どこかから借りれませんか? あると便利だと思うんですけど」
 彼女の視線の先には、今は厩に居る筈の、ミカエルのドンキーがいる。
「ああ、そう言う事なら、私の子も貸しますよ。戦闘には向きませんが、荷運びくらいなら、とても良く頑張ってくれますし」
 それを見て、マカールがそう言った。荷物を下ろせば、活躍してくれそうだ。
「運搬はそれで何とかなりそうだね。よぉし、ミッションすたぁーとっ!」
 勢い盛んなミカエル。こうして、花嫁育成御一行様は、こっそりと食材調達に向かうのだった。

 何はともあれ、食材探しに忍び込む事になった。狙うは、食材の豊富そうなマジカルシードである。
「何も夜忍び込む事は無いと思うんですが‥‥」
「昼間は生徒だらけだ。ここは人の少ない方に忍び込むのが定石。潜入は目だってはいかんと、パープルも確かそう教えていた筈だが?」
 まるで、スパイが忍び込むのと同じ雰囲気である。その自信たっぷりなエルンストの表情に、「私、本籍はフォレストなんです」とは言えないマカールくん。
「それに、気をつけた方が良い。まだ何人か残っているようだ」
 ブレスセンサーで、周囲を警戒していた彼、そう警告する。見れば、所々から明かりがこぼれていた。
「どうしよう。まだ全然探してないのに‥‥」
「植物学関係の教室なら、この時間は寝ているだろう。役に立ちそうな調味料も有る筈。まずはそこへ向かえ」
 エレナが大変そうな表情を浮かべたのを見て、エルンストはそう言った。
「って、誰か居るんですけど」
 だが、そうは問屋が下ろさない。誰も居ない筈の廊下に、カツカツと響く足音。
「パープル先生じゃありませんね。小さ過ぎます」
 メイシアがそう言った。彼女の優れた視力には、明らかに背丈の違う女性が映っている。
「ど、どうしよう! こっちきたぁ!」
「落ちつけ。まだ何も起こっちゃいない。安全なルートへ‥‥」
 慌てるミカエルに、エルンストがそう言った。だが、ここは一本道。隠れる場所などない。
「誰か居るの!?」
 そうこうしているうちに、彼等はその謎の人物に発見されてしまっていた。
「あー、えーと。ちょっと聞きたい事があって!」
 声の上擦るミカエル。見れば、それはパープルではなく、エステこと、エステラ・ナルセス(ea2387)である。
「あら、熱心ね。そちらも?」
「え、ええ、そうです!」
 その彼女が、小首を傾げると、メイシアも口裏を合わせるように、そう言ってくれた。
「それで、何を聞きたいの?」
「えーと、えーと‥‥べ、勉学の為に、材料が‥‥違う、そうじゃなくて〜」
 言葉に詰まってしまうミカエル。いざとなったら、質問でもして切り抜けようと思っていたのだが、肝心の内容が全く思いつかない。
「ど、どうしよう‥‥」
「私に言わないで下さいよー」
 話を振られたメイシアも困惑気味だ。昼間なら、どうにでも言い繕う事も出来そうだが、今は日も暮れ落ちきって、月が輝いている時刻。
「貴方達。何か事情があるなら、正直に話しなさい。場合によっては力になってあげるから」
 お互いをつつき合うミカエルとメイシアに、エステは呆れた様にそう言った。浮かんだ表情が優しげなのを見て、2人は事情を打ち明ける。
「そう言う事だったの」
「ああ。それと、悪いが他言無用だ。特にパープルには、知られたくない」
 いつ誰に知られるか、わかったもんじゃないからなーと釘をさすエルンスト。それを聞いたエステは、そう言う事なら、と、こう告げた。
「ついてきなさい。全部とは言わないけど、何割かなら、都合してあげますわ」
 ウィンクする彼女。どうやら、協力してくれるらしい。

 仕切り直しとなった。
「あらあらあら、可愛い奥さんですね。わたくしにも、そう言う時期がありましたわ〜」
 そう言って表情をほころばせるエステ。16で輿入れし、すでに1児の母となっている彼女、嫁いだばかりの若かりし頃を思い出したのか、かなり乗り気である。
「小麦は? それは用意出来る。後は、今準備できる食材をチェックしてみましょう。それから『拝借』ですわね」
 てきぱきと指示を飛ばす彼女。言われた通り、2人は今確保してある量を彼女に告げる。そのエステ先生が眺めているのは、教職員に告知されている『一週間の授業予定表』だ。
「何だか、出番が無いんですけどー」
「そんな事ありませんわ。ここからが、皆さんの出番ですわよ。確か、倉庫に大キノコがあった筈‥‥」
 ミカエルが口を尖らすと、エステはそう言って、予定表のある場所を示した。それは、時刻こそ昼間だったが、どこの教室も使っていない時間。ちょうど空白の時と言う奴だ。
「この時間帯ならば、人気の無い薄暗い場所を狙って入り込んだカップルもいないでしょうし。絶好の狙い目タイムですわよ」
 自慢げにそう言う彼女。ついでに、安全な侵入経路‥‥もとい、閑静な道筋をし召して見せる。
「ロバさんには、草鞋を履かせて、足音を立てない様にしてありますわ。後は、拝借してくるだけです。頑張って下さいね☆」
 エステ先生が手を出すのは、ここまでのようだ。と、生徒達は、彼女に見送られ、再びマジカルシードへと向かう。
「あっさり入れちゃいましたね」
 口先三寸で上手い事入り込んで見せるメイシア。昼間なので、『魔法学校に興味が合って、見学に来た』と言えば、あっさりと正門を通してもらう事ができた。
「油断しないで下さい。どこにパープル先生が潜んでいるか分からないですから」
 そう答えるマカール。彼もまた、昼間なのであっさりと通してもらえたようだ。
「そうですね。ここに入る前、リトルフライで様子を見ましたら、ちょうど先生がこっちに向かったみたいですし。見つからない様に気をつけないと」
 彼の言葉に、メイシアが周囲を見まわした直後だった。
「あたしが、なんだって?」
「うわぁ、出たぁ!」
 まるで、モンスターにでも出会ったかのような悲鳴を上げてしまうミカエル。その驚きっぷりに、パープル先生は露骨に疑わしげな目を向けてくる。
「どうもこの間から、エルンストがこそこそしてるのよねー。何か急に料理のレシピ研究してみたり。錬金術がどうこうとか言ってけどぉ」
「わ、私知らないもぉん」
 視線を逸らすミカエル。と、そんな危険がピンチな彼女に、メイシアがこう割って入った。
「だって、先生に聞かれたら恥ずかしい話してたんですもの。この間のドワーフの子みて、何となくうらやましくなっちゃった〜とか、そんな話してましたから」
「本当に〜?」
 まだ、信用されていない。そう気付いた彼女、さらに駄目押しの様に告げる。
「そういえば‥‥パープル先生の事、『パープリン』などと言っていた人が居ましたよ」
「なんですってぇ? いったい何処でよ」
 きらーんと彼女の目の色が変わる。そんな彼女を、メイシアは、「こっちです!」と言いながら、向かおうとしていた方向と逆の方へと、引っ張って行った。
「今の内に‥‥」
 教室の影から、こっそり様子を見ていたマカールは、そう呟くと、隠していた愛馬に飛び乗った。敷地内を馬で走るのは、それほど珍しい光景でもない。離されて行くメイシア達を尻目に、彼は職員倉庫へと走り出す。狙うは、エステが言っていた大キノコこと、スクリーマーの死体。毒々しい外見とは裏腹に、生でも食べられるそのキノコは、体躯の大きい分、人数を購える。
「失礼します。先生の言いつけで、死体を運ぶ事になりました。貰っていきます!」
 あんぐりと口を開ける管理係の生徒をよそに、転がっていたその死体を、自慢の腕力にものを言わせて、半ば強引に引き上げた。そして、華麗な手綱捌きで、驚く馬にターンを決めさせると、そのまま機動力にものを言わせて、あっという間に倉庫を走り去っていく。
「先に調理始めてください。すぐ、次持って来ますから!」
 エルンストの部屋で、料理に勤しんでいる二人に、きのこを放り投げつつ、そう言い放つ彼。彼女達が準備に取りかかっている間に、もう半分をとって来ようと言う魂胆の様だ。 こうして、教師二人を巻き込んだ連携プレーにより、見事材料を調達する事が出来たのだった。

 そして。
「ようやく出来上がりましたわね。うん、美味しそう☆」
 空の樽に鍋を入れ、借りて来た大八車に乗せているのを見て、エステ先生が満足げにそう言った。後は、これに布を被せて、会場まで運べば良いだけである。
「間に合って良かったですね」
 一番の力仕事をする結果となったマカールが、やや疲れた表情でそう言った。
「これ‥‥宜しかったら、食べてください‥‥」
 そこへ控えめに料理を差し出した腕が有る。顔を上げれば、そこには料理を手伝って居たらしいランス少年の姿。
(「か、可愛いッ。い、いや! 何を考えているんですか、私はっ!」)
 エプロン姿の少年に、思わず頬を染めてしまい、慌てて首を激しく横に振るマカール。
「なになにぃ、今度お嫁に行くのは、マカールさんなわけ?」
「だだだだだ誰がですかっ!」
 が、ミカエルに突っ込まれ、即座に顔を真っ赤にしてしまう辺り、まだまだ修行が足りない様だ。一方の彼女はと言えば、「それでそれで? 婚約してるんだよね。プロポーズは、なんて言われたのー?」なんぞと、既に話題を変えてしまっている。
「大変ですね」
「良いじゃないですか。楽しそうですし、私達も混ぜてもらいましょうよ」
 エレナの言葉にそう答えたメイシア、嘘がバレて、パープルセンセにお仕置きされたたんこぶをさすりつつ、彼女を話の輪に誘う。学食のテーブルには、マカールに差し出した料理だけではなく、パーティの余りもの‥‥と言うなのごちそうが、並べられていた。
「若いって良いですわねー。あら、エルンスト先生。何か気に掛かる事でも?」
 そんな‥‥微笑ましい学生達の様子を、和やかに見ていたエステ、エルンストが再び仏頂面なのを見て、そう問い掛ける。
「いや‥‥、そこまでして毒を盛られることを警戒しなければならない宴会の素性をな‥‥」
 そう答える彼。だが、それを解決するのは、また別の話と言う奴であろう。こうして、事件は幕を閉じるのであった‥‥。