【I love‥‥】ルラの海に消えて
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■シリーズシナリオ
担当:本田光一
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:5 G 47 C
参加人数:10人
サポート参加人数:1人
冒険期間:09月10日〜09月16日
リプレイ公開日:2007年09月20日
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●オープニング
●リザベ分国
リザベ分国で拿捕に成功したヒスタ訛りの男達と、彼らの操っていた凶獣は、冒険者達の手で分国の騎士団に渡された。
分国内に凶獣を無許可で持ち込み、尚且つメイの国の者と不要な争いを持った嫌疑で『丁寧な』尋問が行われ、件の人物達がバの国の人間であることまでは判ったのだが、それ以上の情報は何も出てこなかったそうだ。
惨殺死体の件についても、命令があって発見されるまでに民衆で五人まで好きに殺してよいので、思い切り派手に殺すように指示があったという話だった。
そして数日が経ち、冒険者達がギルドの張り紙を見ていると、事件に関わった者には判る、依頼が張り出されていた。
■■■
〜求む冒険者〜
依頼:
ルラの海での探索、場合によっては戦闘。
報酬:
危険分通常。相手による変動はこの場合認められない。
海賊、若しくはその兵器などが相手となる。
拘束期間:
およそ一週間。
船舶:
当方に用意あり。
希望職種:
ゴーレム操縦技能保持者、戦士、射手(弩弓有り)、精霊魔法使い、シンセー魔法保持者。
集合場所:
ティトルの町。酒場『蒼い翼亭』にてラムが待つ。
依頼主:
エール・ノーパート
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但し、ギルドからはこの件については前回と異なり、国からの援助は無しという注釈が付いていた。神聖魔法についてはメイの国だけでなく、アトランティスでは今まで無かった魔法体系だけに、依頼主のエールが綴りを間違えていても仕方ないだろうというのがギルドの話だった。
数名の冒険者がこの事件について興味を持ち、ティトルの町に向かったところ、港の漁師達に聞けば『蒼い翼亭』は直ぐに見つかった。
港から通りを少し進み、大通りに面した中くらいの酒場で、店には冒険者風の者やら商人の様な者町の漁師などが仕事を終えた後の一杯を楽しんでいる。
貿易で栄える港町だけに、交流の規模も通常の町より大きい様子だった。
「店主」
挨拶代わりに一杯を注文した冒険者達が『ラム』について尋ねると、彼はここ数日の間酒場に出入りするようになった旅の人間で、夕方頃に酒場に来て一杯引っ掛けた後、夕飯と一緒にしたたかに酒を飲み、ほろ酔い加減の頃合に一席法螺話をしてから帰宅する客だという話で、少し待てば良いと教えてくれた。
最近のラムの法螺話では、凶獣を千切っては投げ、切っては吹き飛ばすという冒険をしたのだという話が酒場の客から御捻りも飛ばない法螺話だと揶揄されていたそうだ。
そこで、冒険者達は待つことにしたのだが数杯杯を傾ける間もない頃に、噂のラムと呼ばれる長髪の男が現れた。
「そうか。冒険者ギルドからな……詳しくは明後日、夜明けに艀を出す時に話そう。おーい! 実は俺様はこれからカオスニアンを一網打尽にするんだぜ!」
「またラムの法螺話かよ」
「いいから、今日位は旨い飯の肴にしろよ〜!」
「いつも俺様の話は本当だって言ってるじゃねーか!」
揶揄されながらも、朗らかに笑う長髪の男がその日も客からブーイングを受けつつ話し終え、酒場を後にするまで冒険者達は時間を共にしたのだが、一緒に酒場を出た筈なのに、いつの間にかラムは姿を消していた。
そして、二日が経った。
「集まってくれて悪いんだが、もし国家反逆罪になるかも知れない一件に加担するのは嫌だって言う奴は、降りてくれて構わない」
艀に乗る前に、ラムは一言で言い放った。
「先の依頼で、俺達は情報源の一人をもらうことで冒険者ギルドに力を貸した。そして協力的な人物だったので、ある程度の情報を得た後に、官憲に突き出した。相手は密入国した上にセルナー領地で惨殺事件の首謀者だ、国は必死になるだろうが……俺達はそれで止まっちゃいられないんだ」
冒険者達が聞きたがっている表情だったのか、ラムは薄い笑いを浮かべて先の依頼での顛末を語った。
「これからは本気で私情絡み、いや私情のみの話だ。国が手を出さないという判断で動かなくても、俺達には俺達なりのケジメって奴がある。シマを荒らされた上にコケにされたとあっては、今後も奴等は舐めてくる。目には目をって奴だ」
薄く笑うラムの表情を見た冒険者達の表情が変わり、剣呑な気配が漂ったのを感じたのか、ラムはヒラヒラと手を振って返す。
「ナニ、相手を全滅させなくても、相応の代価を頂いたら良いことだがな。ただ、バの海賊船を叩いて、これが火種になった時には国からも追われる立場になるだろう。凶獣やゴーレムだって相手にしなくちゃならん」
笑って言うと、艀に乗ったら引き返せないことを再度告げてラムは目を瞑る。
「百数える。お互い恨みっこ無しだ。これから行く者だけ残ってくれ。1,2、3……」
百と数え終えたラムが目を開けて、残った冒険者達と共に艀に乗り込んだ。
「如何せん、こっちにはゴーレムに詳しい奴が居なくてな。精霊魔法も得意とは言えんし、シンセー魔法って奴は誰も知りやしない。正直海賊船相手に乗り込んで相手のゴーレムやらグライダーを海に落とすくらいしか勝算は無かったんだが……」
徐々に迫る沖合いの船を示してラムが笑う。
「お前さんたちが来てくれたなら、いい線行けるって話だ。何しろこの船はな……」
指差した舳先を見れば、船首のオブジェと共に翻る旗がある。
「バの海賊船を拿捕した奴なんだ。ツテで、ある海賊から頂いてな。接近戦にはもってこいだろう?」
と、長い髪を風に揺らして冒険者達に笑いかけるラムだった。
●リプレイ本文
「世の規範から逸れ、一時とは言え海賊の仲間入りとは……まぁ、これも冒険者ならではの事か。やれやれ、だな」
「そう言ってくれるなよ」
甲板でのランディ・マクファーレン(ea1702)の呟きに、盗賊の一人、ラムが苦笑している。
「ケジメにメンツにシマねえ……地球でもよく聴いた言葉だが、人と言うものは、どの世界でもさほど変わらないものなのだな」
「それを聞いて安心した。異世界の人間って、情に薄いって話だったがな」
嵯峨野空(ec1152)の胸元を一瞬見定めるようにして言うラムに、若い男性特有の下心を感じながらも、空は何か引っかかる。
「冒険者ギルトに手を貸してもらった恩もある、出来る限りの事はしよう。例えそれで国家反逆罪に問われる事があってもな」
「確かに火種になればそうだろうが、盗賊に襲われて壊滅した軍船なんて、どこの国が吹聴して回れる?」
したたかな笑みに、国際情勢の何かをも知った風情の口調だが、どうにも言葉が軽い感は否めない。
「『五人まで好きに殺してよい』等と、ふざけるにも程がある。人の命はそんな軽いものではない! 」
正義は我にありと、拳を固めるサリトリア・エリシオン(ea0479)は視線が集まるのを感じたのか、咳払いを一つして話題を変えるのに懸命だ。
「友人が『無傷で三隻の海賊船を手に入れろ』という依頼を受けたと言っていたが、もしや……?」
「シュピーゲル一家の話をしているなら、その通りだぜ」
ラムが肩を竦めると、海上に視線を走らせていたオルステッド・ブライオン(ea2449)がそう言えばと彼に向き直る。
「依頼した細工だが、その後どうだったかな?」
乗り込んだ船の偽装は遠目には判り辛く施されているのは自分の目で確認している。
導蛍石(eb9949)やランディも一緒にティトルの町で細工をしていたのは知っているのだが、敵に襲われ易い様に、自分達の船に積み込まれた美味しい得物の噂がどこまで広まったのかを確認する術がオルステッドにはなかったからだ。
「船員が良く出入りする三箇所で飲み浸って来たから、間違いないと思うぜ」
ラムが言うと、頷く空と蛍石。
「件の海賊達の噂なりと聞き出せるかと思ったのだが、其れらしい噂は聞けなかった。装備やゴーレム、凶獣の詳しい内容を聞ければと思ったのだがな」
海賊達に目を付けられないよう、あまり目立たない様に気をつけていたと空が言うのに、同行していたイリア・アドミナル(ea2564)が首肯して同意を示している。
「偽の商船の噂が流されると聞いてたので、商船が重要な物資を積んでいるという風に噂は流した筈」
敵艦船への攻撃用に、油詰めの樽を運び込んだと話す蛍石に、何故あんな物がと考えていたマグナ・アドミラル(ea4868)が納得がいったと頷いている。
マグナだけでなく、ランディも船の細工とは交代で町に出て『羽振りの良い商船が出帆するらしい』との噂を流していて、商船の護衛役を演じる予定のシャノン・マルパス(eb8162)に至っては何やら噂が尾ひれだけでなく背びれまで着けて帰って来たような気がしてならなかった。
儲け話で酔っ払う船乗りなどは多い。その大声は良く通り、仲間の成功を妬む者や羨む者の間で噂が流れるのは予想以上に早い事はオルステッドにもよく判る話だった。
「ところで、神聖魔法にも二種類あるんですけど……偵察の時も気になっていましてね、どっちが入用だったんですかね?」
お聞きしたかったのですよと、バの艦船を見つけてきた蛍石にラムは苦笑する。
「どちらも、さ。その手の魔法を理解し、行使できる奴らが居ない。加えて言えば、バの国にも、異世界の技術や能力を持った奴が居ないとは限らないだろ?」
全てに於いて現場での対応が必要なのさと嘯くラムだった。
●騙しあい
「私闘だが、譲れない物も有る」
「どうした?」
海中に身を隠す直前にファング・ダイモス(ea7482)が呟いたのをマグナは半ば意味を知りながら聞き返した。
「エールの親父さんの形見を、バの軍人達は奪ったと聞いたのです。仲間が殺されたこと、形見を奪われたこと、その様な怒りをもって戦うことは、決して間違ってはいない……依頼の発端となった、失われた命に対しても、報いてもらう……」
「その通りだな。力なき者達の牙になる事こそ、暗殺剣士の務め。無念に散った者達の為……」
「……」
互いにそれ以上の言葉は要らなかった。
海中に沈み、徐々に遠ざかっていくファングを見送ったマグナは甲板に躍り出ることが出来る位置に戻り、状況を伝えてくるエル・カルデア(eb8542)の言葉を真剣に聞いて待つ。
「最も恐るべきはゴーレム、恐獣ですが、この距離では直ぐには見受けられません。ナーガ様とも互角に戦う恐るべき力と、恐獣の恐ろしさは、前回痛い程知りました。彼らと戦うには、先達の知恵を紐解きます」
「その知恵とは?」
「地の魔法には、重力を操る魔法があります。強大な力と言えでも、大地を司る大いなる力には抵抗出来ない事が、各地の戦いでの記録に残っています」
「確かに……」
簡易なものならば、マグナ達になれば肉を切らせて骨を断てば勝算もあるだろうが、強力な魔法を有効に用いられた場合には、対抗する手段は限られてくるからだ。
「……どうやら時間のようです」
商船の護衛役として立つシャノンからはまだ合図はない。それは、まだ敵の船がこちらに接近していない証拠だが、少し離れた位置で待機している蛍石にも緊張感は伝わっている。
「ゴーレムは用意されていないようだが、ゴーレムを扱える者を募集していると言う事は、敵船に乗り込んで積んでいるゴーレムを強奪して使え、と言う事なのだろう?」
「拾った物を使っても罰は当たらんさ」
「……それも、意趣返しって奴か?」
空の質問に無言の笑みで返したラムの沈黙が全てを語っている様子だった。
「来たぞ」
ランディの短く発せられた言葉にサリトリア、エルが頷いて踊り出る。
「今です」
「待ち草臥れたのである!」
エルの言葉にマグナも意気揚々と飛び出し、目の前には衝突寸前の船の上からこちらを見ていた敵の目が明らかに驚愕に変じたのが見て取れる。
「ひ弱なエルフと見て油断したか? それ以前に私は女性だ!!」
「気にしていたんだ……」
シャノンが黒曜石の短剣を構えてバの海賊達に声を上げるのを聞いたオルステッドが華麗に敵の攻撃を避け、避けられた敵が踏鞴を踏んだところにエルのグラビティキャノンが突き刺さる。
「遅い!」
飛び立とうとしたグライダー上の人物を吹き飛ばしたエルがペザサスとグリフォンに跨る蛍石とサリトリアに場所を譲る。
「乗り手を狙う」
「こちらに来させなければいいのですよ」
距離を置いても迎撃されると判ったのか、もしくはグライダーの乗り手そのものが少ないのかは知れないが、甲板に置かれたグライダーには人は移動しない。
「誰か、あのグライダーを奪いに……」
「行かれるようですね」
空からの支援に切り替えたサリトリアと蛍石の眼下で、マグナの振るう巨大な剣の一閃が敵陣を切り崩し、共に前線で戦うランディのレイピアの鋭い突きが敵の皮鎧を突き抜けて致命傷を与えていく。
「無念に散った者達の、悲しみと無念を知れ!」
マグナの巨体が振るう斬馬刀が、敵の鎧ごと肋骨がひしゃげる音を奏で、唸り声と共に体勢を立て直すために一歩引いた敵の間をシャノンと空が駆け抜ける。
「あそこから突入します」
「ああ」
グライダーの置かれた甲板には、直ぐ横に船倉へと続く扉が開かれたままあった。
その場所目掛けて走るシャノンと空に襲い掛かる敵目掛け、オルステッドの放った矢が突き刺さる。
「まだか……もし凶獣やゴーレムが出てきたら、時間が……」
青黒い海の底を見つめながら、ファングの成功を祈るオルステッドの焦りが通じたのか、気泡が海の中に現れたのが見えた。
●海中
敵船に近づけたファングだったが、予想外に艦船の装甲は……というよりも、構造は硬かった。
「無念に散った、人々の思いを受けろ!」
何度か叩きつけても亀裂が走っただけだったが、一気に粉砕する勢いで、構えたギガントソードを身体の後方に持っていく。
重量を最大限に利用した、前進のばねを用いて反動を付けた一撃に、構造体の弱点に強大な一撃を叩き込む技を融合させて、海賊船の船底部目掛けて攻撃を繰り返す。
「ギガントバーストアタック!」
何回か、水圧にも耐える船体に切りつけられた刃が、確かな手応えで船に突き刺さる。
「やった!」
引き抜こうとしてギガントソードを握る手に力を込めるのだが、僅かばかり引き抜いたところで今までの攻撃が一気に船体に歪を生じさせ、海水が一気に船体内部に流れ込む。
「しまった!?」
一番海賊船の近くに居たファングも急激な水の流れに巻き込まれ、一気に敵船の中に飲み込まれていく。
「ここは……」
気が付いた時、ファングは何処かの船の内部に投げ出される格好で、そこには勢いよく水が飛び込んでくる状況だった。
「誰だ、貴様は!」
誰何の声に反応して、見上げたファングは周囲は敵が囲み、孤立無援の状況だと納得した。
「離脱の邪魔になる敵を優先的に倒すつもりでしたが……」
丁度良いと、ギガントソードをかざしてファングは叫ぶ。
「船に大穴を開けるこの剣を恐れぬのなら、掛かって来い!」
何人を倒して海中に逃げ出せばいいのだろう。
退却の時間を稼ぎながら、船体の穴を修復されないようにファングは剣を振るうのだった。
●決着
「もうすぐだ!」
オルステッドの声を聴いた一同の四肢に、新たな力が湧き上がってくる。
「此処が、貴様達の墓場だ、海に抱かれて消えよ!」
体を右に大きく捻り、腕と、肩と、強大に膨れ上がったマグナの背中の筋肉が唸りをあげて収縮する力を、そのまま斬馬刀が敵に伝えて全身を叩き折っていく。
「こちらだ、急げ……伏せろ!」
シャノンの声に、考えるよりも速く身を伏せた空の頭が在った場所を鋭い鉤爪が引き裂いた。
「凶獣か?」
辛くも逃げられた空とシャノンは、少し大きい船庫に詰まれてあった巨大な人型に目をやった。
「空はこれを。私は奥の奴を使う!」
奥に走りこむシャノンの声に弾ける様にして架台に飛び乗った空は制御胞に入る為のレバーを探し、開放した制御胞に滑り込む。
「不味い!」
制御球に手を置いて、前を見た瞬間に先程の凶獣が入り口から空を覗き込んでいた。
空白が空の脳裏を埋め尽くし、滴る涎が凶獣の牙の間を伝って落ちる。
開かれた口に並ぶ鮫の様な牙という牙が、柔らかい肉を求めて空に襲い掛かる。
「この!」
起動させたストーンゴーレムの動きは思ったよりも鈍い。迫る凶獣の牙を押さえきれず、格納庫だった船倉に押し付けられてしまう。
ゴッツ!
「!?」
鈍い音と生暖かい息が空に迫り、一瞬目を閉じたが、次の瞬間に生暖かい風がかき消され、船庫の中に充満していた生物のぬめる様な生臭さと、海の香りとがない交ぜになった腐臭が飛び込んでくる。
「急ぐぞ!」
制御胞を閉じていなかったシャノンが言い放ち、凶獣を殴り飛ばしたストーンゴーレムが動き出す。甲板に出る前には敵に身を晒すことは避け、内部から閉ざされたゴーレムは完全な鎧となって操者であるシャノンと空を防備する。
「モナルコスよりも力が弱い……だが、あの凶獣程度なら……」
空には聞かれないように言うと、ゴーレムの腕を操って、内部に残されたゴーレムとグライダーの破壊を促した。
「判った……これか」
意識し、操作するゴーレムの操縦は空の感覚では今まで乗ったことのあったどんな地上車とも異なる。操縦桿が付いていて動作するというのならもう少し想像もし易いのだが、無い物はねだっても仕方がない。
「こちらは片付いたが……船体が、傾ぐ?!」
一日の長のあるシャノンが、ゴーレムの中に居ながらにして船体が傾斜している現象に気が付いた。
「船が傾ぐ?」
「成功したのだろう。後は……」
蛍石が敵船上に油の詰まった樽を落とし、サリトリアが眼下の船が傾いだのを確認して味方の動きを再度確認した。
「回復に回ろう」
「判りました」
凶獣相手には苦戦を強いられる様子の仲間を見かねて、二人の神聖魔法の使い手が舞い降りる。
「離脱準備!」
切りつけた敵を蹴り飛ばし、海中に落としたランディが叫ぶと船が緩やかに回頭を始める。
「そら、まごまごしてると足元が沈むぞ?」
気が付いた敵が殺到するのにも、こちらの船に乗り込ませない様に切り付けながら余裕を見せるランディの視界に、敵の背後から迫る巨大な影、ゴーレムの姿を確認して一瞬間合いを取った。
「撤退を援護します」
敵ならば、イリアの魔法でゴーレムごと敵を薙げば良い。
味方ならば……
と、そこまで考えた瞬間にゴーレムの腕がマグナが切り結んでいた凶獣を吹き飛ばし、海中に没する姿でシャノンと空が無事にゴーレムの奪取に成功したのだと知れた。
「助かったのである……だが!」
間合いが取れたところで、一気に斬馬刀を叩き込むマグナの斬撃が凶獣の硬い表皮を引き裂いた。
「任せますよ!」
イリアが前に出る瞬間にも、エルが支援と攻撃の意味を兼ねてグラビティキャノンで艦船の舷側と乗組員達をなぎ払い、シャノンの操るゴーレムは無事に盗賊側の船の甲板に飛び込むことが出来た。
「急ぐのだ! 無理なら脱出しろ!」
制御胞から飛び出したシャノンが、聞こえないことは承知で敵船上に立ち往生したままのゴーレムに呼びかける。
「く……」
「大いなる水の精霊よ、荒ぶる吹雪の真なる姿を現せ、アイスブリザード!」
何とかシャノンの言葉を解したのか、制御胞から飛び出した空が甲板に飛び込んで降りたのを合図に、イリアの紡ぎあげた精霊魔法が周囲の空気ごと、敵船上に襲いかかる。
ゴーレムの制御胞にも魔法の吹雪は襲い掛かり、制御球が弾けて飛ぶのが見えた。
「急いでくださいです」
イリアが真剣な表情で言う間にも、盗賊達は船を回頭させて脱出するのに余念がない。
「霧の中に消えなさい、ミストフィールド」
ソルフの実を噛み締めて、再び唱えた呪文で眼下の船が霧の中に沈む。
「これで、海の藻屑になるです……」
「証拠を隠滅にはもってこいですね」
イリアにご苦労様ですと告げたエルが、港に帰ってからも、少し証拠隠滅の作業をしないといけませんねと船の後部に立って遠ざかる敵船の居るだろう海域を見送った。
エールの父の形見は出なかったと冒険者達は聞いていたが、それでもエールは去り際に冒険者達に礼を告げた。ラムの話では、盗賊達はそのままバの船団を追い、形見を奪い返すという話だった。
「バの連中の中でセルナー領の事件に関係する奴が判ったら、ギルドに情報を流すようにするさ」
屈託ない笑みでラムはそう告げると、冒険者達を陸に揚げる艀は静かに港町に向かうのだった。
【To be continued】