【I Love‥‥】バの国へ

■シリーズシナリオ


担当:本田光一

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:5 G 97 C

参加人数:10人

サポート参加人数:2人

冒険期間:10月14日〜10月21日

リプレイ公開日:2007年11月30日

●オープニング

●バの国
 バの国の兵士と事を構える盗賊達が居た。
 セルナー領地で起きた惨殺事件を発端として、バの人間だと判った冒険者達の協力で、盗賊達の仇を討つ海戦が行われ、凶獣やゴーレムを持ち出した戦闘にも辛うじて勝利を収めた冒険者と盗賊達。
 だが、盗賊達の真の目的の一つであった、父の形見を奪還するという願いは叶わず、冒険者達もセルナー領地の惨殺事件の黒幕を追うという、当初の目的までは達成ならなかった。
 『何か情報があればもう一度連絡する』
 と、あてにならない約束を盗賊と交わして数十日。
 律儀にも、盗賊達からの情報がギルドに寄せられたのは、夏の暑さが終わりを迎えた頃だった。

■■■

〜求む冒険者〜

依頼:
 ルラの海で領海を侵犯するバの商船への警告と、場合によっては戦闘。及びそれらに関する調査。

報酬:
 危険分通常。相手による変動はこの場合認められない。
 手練れと、兵器などが相手となる。

拘束期間:
 およそ一週間。

船舶・食料:
 当方に期間中の保証と用意あり。

希望職種:
 ゴーレム操縦技能保持者、戦士、射手(弩弓有り)、精霊魔法使い、シンセー魔法保持者。

集合場所:
 ティトルの町。酒場『蒼い翼亭』にてラムが待つ。

依頼主:
 エール・ノーパート

■■■

 ギルドからはこの件については前回と同じく、国からの援助は無しという注釈が付いていた。
 だが、ギルドの男は今回の仕事について、二つの点について先に情報を渡せることがあると念を押していた。
 一つは、セルナー領地での惨殺事件に関して、関係者の、特に上層に食い込んでいく過程でカオスニアンらしき存在があったという話だった。
 何故、この話が来ているのかと言えば、依頼人の探し求めている物と同じ場所に件の人物が居るからだという。
 もう一つは、出来ればゴーレムの操縦者には直接戦闘に関わらずとも来て欲しいという話だった。
 ゴーレムはストーンゴーレムとゴーレムグライダーを準備してあるので、出来れば一人は欲しいという願いがあったことを知らされていたそうだ。
「モナルコスじゃなさそうやけどな」
 とは、ギルドの男が語った彼なりの感想である。
 神聖魔法についてはギルドで把握する限り、白、黒の双方で、メイの国だけでなく、アトランティスでは今まで無かった魔法体系だけに、依頼主のエールが綴りを間違えていても仕方ないだろうというのがギルドの話だった。

 『蒼い翼亭』はティトルでも比較的探しやすい場所にあり、店には冒険者風や商人、町の漁師などが仕事を終えた後の一杯を楽しむ場所だ。
 行けば、直ぐに判るだろうというふれ込みで、向かった冒険者達はラムと名乗る男との接触は簡単にできた。
「先に断っておくが……」
 艀に乗る前に、ラムは言い放った。
「先に俺達が依頼した際には世話になったな。今回、先の依頼で手に入れた奴を何台か、そのまま使う予定だ。壊しても構わない。どうせ、壊れたら俺達には修理出来ない代物だ、そのまま捨てていくことになる」
 冒険者達がゴーレムについてその様な扱いをして良いのかと、不信感を露わにしたのを見て、ラムは肩を竦めて見せた。
「お国に渡す訳にもいかんし、元々俺達の物じゃない。ついでに言えば、俺達が一暴れする事でお国は損をする訳でもない……筈だ」
 最後には苦笑しているので、どうやらラム達には盗賊風情の件でバの国がメイの国に某かのペナルティを与えられる筈がないと踏んでいる様子だった。
「ナニ、同行中は俺達の名前を名乗ってくれたらいい。騎士位を示すような物があるなら、表に出すという心をほんの少しだけ曲げてくれたら有り難いんだが……騎士道って奴はそれ程柔軟じゃないのも良く判る。ま、その辺はご随意に。行き先はヒスタ大陸の海岸には最低でも行くつもり何でな」
 笑って言うと、艀に乗ったら引き返せないことを再度告げてラムは片目を瞑る。
「百数えるから、お互い恨みっこ無しだ。これから行く者だけ残ってくれ。1,2、3……」
 両目を瞑り、百と数え終えたラムが目を開けて、残った冒険者達と共に艀に乗り込んだ。
「バの国まではこいつが何とか案内してくれる。ここいらを仕切ってる海賊の一人だが、信用出来る奴だからな」
 どの程度なのかと問う冒険者達に、ラムは長い髪を掻き上げながらフムと首を傾げて。
「お前さんたちと、俺達の利害が一致している間の関係程度ってのはどうだ?」
「……」
 微妙なさじ加減であるラムの言葉に、黙り込んだ冒険者達を乗せた艀は船へと到着する。
「バの海賊船を拿捕した奴だから、結構良い線いけると思うんだがな? 俺達の目標はヒスタ大陸のバの国だが、ジェトに上陸して陸路で行っても良い。ただ、同盟を結んでいると言ってもジェトの国は色々面倒くさい国王が居るから、俺達としてはご免被りたいんだがね」
 と、長い髪を風に揺らして冒険者達に笑いかけるラム。
「問題は、バの国の海域を守る海兵の部隊だ。たぶん偽装して誤魔化せるとは思うんだが……お前達には万が一に備えて、海戦の準備を頼みたい。相手はグライダーや空飛ぶ凶獣を使ってくる可能性だってある」
「もしも、うまく戦闘なしに抜けられたら?」
「その時は船ごとお前さん達を送り返すさ。ただ、俺達は潜入して先に進むがね。付いて来たいなんて酔狂を言う奴は居ないだろう?」
 大笑いするラムは船の出航を告げた。
 目標はバの国。
 海兵団を無事にやり過ごしても、上陸地点にバの軍勢が押し寄せる可能性はある。
 一小隊程度なら、逃げに徹すると盗賊達はバの国の何処に行くかまでは告げなかった。
「余り深入りしすぎると、お前さん達自身も疑われて困るだろ? ただ、俺達が向かう上陸予定地の近くに、お前さん達が探し求めているカオスニアンの姿を見たという情報があった……そこまでは付き合ってくれて構わないじゃないか?」
 とは、ラムの弁だった。

●今回の参加者

 ea0479 サリトリア・エリシオン(37歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea1702 ランディ・マクファーレン(28歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea2449 オルステッド・ブライオン(23歳・♂・ファイター・エルフ・フランク王国)
 ea4868 マグナ・アドミラル(69歳・♂・ファイター・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ea8773 ケヴィン・グレイヴ(28歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb8162 シャノン・マルパス(23歳・♀・鎧騎士・エルフ・メイの国)
 eb8475 フィオレンティナ・ロンロン(29歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)
 eb8542 エル・カルデア(28歳・♂・ウィザード・エルフ・メイの国)
 eb9949 導 蛍石(29歳・♂・陰陽師・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ec1152 嵯峨野 空(34歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●サポート参加者

服部 肝臓(eb1388)/ ルエラ・ファールヴァルト(eb4199

●リプレイ本文

●ヒスタ大陸へ
 ヒスタ大陸へ向かう海路。
 その様な航路は、今のところ正式には確立はされていない。勿論、公式な見解ではだ。
 実際には裏の商業などで非公式の海路は存在しているし、お目こぼしという点では実際に物資の移動もある。
 ただ、それらに全て共通していることと言えば‥‥。
 国の許可を受けた物の数は極端に少ない‥‥いや、皆無と言っても良い程であった。
「言ったろ? 裏に手を回して、互いに益が有ればこの世の中何でも動くんだよ‥‥」
「そう言ってもらってもな‥‥」
 シャノン・マルパス(eb8162)にしてみれば、騎士位を持つ彼女の前で簡単に言い放つのもどうかと思うのだが、エルフの彼女の眉間に寄せられた皺には気がつかないのか、盗賊達はより多くは語らない。
「途中でヒスタ大陸の官憲に遭遇したら、どうなるんだ?」
 やれやれと言いたげなランディ・マクファーレン(ea1702)に盗賊達は意外にも明るい声で笑う。
「ジェトの国の関係者だったら、船の一部を叩き壊す。下手に嘘を言うより『船が故障して航海に支障が出るので寄港させて欲しい』と言った方が間違いなく港に連れて行ってくれる」
「‥‥正論だな。だが‥‥」
 可能性を論じようとした所で、依頼主であるエール・ノーパートが首を傾げてみせる。
「俺達の何処が気に入らない? 俺達だって伊達に下準備をした訳じゃない。自分達の命は誰でも惜しいものだ。違うか?」
「‥‥そうだな」
 盗賊一行との行動と言っても、彼らは略奪行為は特に行う事はしない。戦争という混乱を巧みに利用して、情報という金のなる木を運び、敵国という盗み放題の相手を狙って行動する事が多いのだとも聞いた。
「義賊を語るつもりはあるまい?」
 利害があるから自分達を呼んだのだろうと、サリトリア・エリシオン(ea0479)達に見抜かれている上で盗賊達は言動を変えるようなことはしない。
「勿論だ。あんた等冒険者は依頼を果たして糧を得る。俺達は手に入れるべくして手に入れた物で糧を得る。何も、自分の首を絞める様な厳しい事をしなくても良い‥‥スリ位は、金持ち連中に働くかも知れんがな」
「来た様だぞ」
 全く動じることのないエールに、嵯峨野空(ec1152)の声が。
「こちらを賊と、知っている様子は?」
 導蛍石(eb9949)は遠目に見える船の様子を探りながら、出来れば無駄な戦いは避けたいと念じて。
「では、お手並み拝見と‥‥」
 半分本気でオルステッド・ブライオン(ea2449)がエール達の様子を見るのだが、盗賊達は武器を構えようともせずに、近寄ってくる船に警戒を解かないまでも、必要以上に緊張した様子はない。
「ふむ‥‥」
 ならばと、無頼の雇われ者を演じるマグナ・アドミラル(ea4868)。
 腕組みで見下ろす様にしていると、彼の背後ではケヴィン・グレイヴ(ea8773)が外套の襟を立てて表情を隠す様に動く。
「私は船内で待機していた方が良いですね?」
 エル・カルデア(eb8542)の問いに、盗賊達は顔を見合わせてエルに少しの間だけ船倉に潜っての待機を願った。
「さて、どうなりますかな‥‥」
 蛍石は異世界からの来訪者である自分達の様子が相手にどう映るのかを考えると気が気ではない。
 隠れている様にと船倉に入れている彼のペガサスなど、見つかると厄介な物も多数在るからだ。
 だが‥‥。
「あ‥‥あれ?」
 フィオレンティナ・ロンロン(eb8475)が首を傾げて。
 船に残り込んできたのは明らかにバの国の旗を掲げた船だったが、身なりは騎士団のそれではなかったのだ。
 盗賊と暫く会話したヒスタ語の人物が何かを受け取り、来た時と同じ様に無表情で船へと戻っていった。
「『良い薬』だな‥‥」
「ああ」
 会話の一部始終を聞いていたランディに揶揄されても、エールは無表情。
「さぁ! 上陸の準備だ。直ぐに港に入るぞ!」
 代わりに、ラムが声を上げ、船旅の再開を告げる。
「あの岬を回り込んだ所が目的地ですね」
 船室から出て来たエルが、見覚えてきた海図を思い出して指さすのは、大きく左右からせり出す様に海に突き出ている二つの岬。
 その岬を回り込み、港に錨を降ろした船はしばらくの間そこに停泊しているとエールは告げて。
「問題はこれからだ。俺達も行くが‥‥そっちはどうする?」
 ラムが港町の外を指さすのを見て、そちらが問題の人物らが居る場所だろうと冒険者達も見当が付き。
「勿論、ご同行しますよ!」
 勢い込んでみせるのはフィオレンティナ。
 ドーンと胸を叩いてみせるのだが、噎せ返りそうになっているのは仲間達は気がついていない様子だった。

●建物
 建物の高さも低く、見渡せば遠い山の峰が見える小さな集落。
「ここは、気を緩めてはいけない場であるな‥‥」
 一歩、集落に足を踏み入れてマグナはその集落の持つ排他性を感じ取った。
 通常、街というものには仲間内を守る為に設けられた決まりや施設、独特の連帯感があって当然なのだが、マグナ達に向けられた視線はある種の攻撃的な‥‥殺意さえも匂わせる、厄介な物だった。
「あちらにサロンがある様だ‥‥」
 オルステッドの視線の先。集落の中央に近い広場に面した建物の一角に、比較的まともそうな酒場があった。
「だが、この中で入っていって良いのは‥‥」
 情報を集めるという意味で、まずは無難な者達で入る事にした冒険者達は、一端解散して集落の隅々を見て回る事にした。
「掘り出し物、な‥‥」
 芸術には疎いのであると、マグナは丁重に断って雑貨も取り扱っている店を出る。
「では、これで」
 同行した空も、商談については今後の搬送物を考えてと言う事で区切りを付けて、店を辞した。
 盗品を売り捌くのであれば、場末の場所か人知れぬ土地でと言う事で周辺の店に探りを入れてみた二人だったが、明らかにメイの国からの盗品らしき物はあるのだが、今回の事件に関連する物かどうかを判断するには時間がなさ過ぎた。
「ただ、これだけは言えるわ。この集落そのものが、この国でも危険な場所じゃない?」
「わしも、そう思うのである。盗品を堂々と売れる根性を持ち合わせている位で‥‥」
「どうした?」
 マグナが言葉を濁したのに、気がついた空が口元を隠しながら声だけで尋ねた。
「視線を感じたのである‥‥急ぐべきであろうな」
 合流地点に向かう二人の後を、何者かがつけて居る気配だけが続く。

●カオスニアン
「カオスニアンだって?」
 フィオレンティナの問いに、商人は眉根を寄せた。
「え、あーあの。そうです」
 流石に、敵地でうかつな言葉だったかと焦ったフィオレンティナに、鷲鼻の商人は悪態をつきながら捕まえたら即刻打ち首にして下さいよと、忌々しそうに続ける。
「奴ら、なんで生きてやがるんでしょうかね。物騒だよ本当に」
「‥‥そうですね」
 同行していたエルも、商人の反応に些か驚きを隠せないで居る。
「民の意識までが変わっているという訳ではないのだな‥‥」
 二人の護衛について来ていたランディが小さく頷いた。
 秩序も崩壊した様な集落と見えていた物が、カオスニアンに関しては否定的な姿勢を明らかにしたからだが、それも仕方がない事かも知れない。
「‥‥では、こちらの商品なのですが‥‥」
「ああ、綺麗だろう。少し値は張るが、あんた等も苦労してるって話だ、特別に安くしておくよ」
 明らかにメイの国の盗品と判る品を、商人は市価の二倍の価格で売りつけようとする。それを論破して八割にまで負けさせるのがフィオレンティナとエルの限界だった。

●集落の外れ
 集落の外れ、街道からも外れて山に向かう獣道に沿って行けば、最近渡り歩いてきた者達が居るとの情報がサリトリアとオルステッド達が聞き込みを行った宿から得られた。
「情報が漏れている確率は、五分五分‥‥だな」
 ケヴィンは集落の様子を伺い、知り得た住民達の反応を考えて指折り数えている。
「カオスニアンと手を組んでも、自分の利益を求める者は存在するんだよね‥‥」
 溜息のフィオレンティナに、エルとシャノンが伏し目がちに頷き。
「だが、あの者達の様に血気盛んな者ばかりでも問題があると思うのであるが‥‥」
 自分達の様に、戦いを生業とする者ではないのにと、マグナが呟く横で、ケヴィンは先行して探ってきた様子を説明し。
「もう少し歩いた先で森が切れる。そこから山を見れば泉があって、そこにカオスニアンの人影があった。肌の色と身体に彫られた入れ墨、先ず間違いないだろうな」
「‥‥待て」
「待つのである」
 オルステッド、マグナが武器を構え、仲間達に音を殺すようにと仕草で伝える。
「来ました!」
 蛍石の声に反応し、陣形を整える冒険者達と盗賊。
「くたばりな!」
 問答無用で射かけられる矢の雨を、盾と鎧で防いだ冒険者達は、それらが放たれた方角に視線を走らせる。
「カオスニアンか!」
 予想違わぬ相手を視界に納め、抜刀する戦士達。
「待ちくたびれたよ!」
「嬉しそうだな」
 フィオレンティナの声に喜びを感じる空。だが、それは彼女だけでなく。
「何時とも知れぬ襲撃に警戒するよりは、こちらの方が願ったりというもの‥‥」
 ケヴィンは矢を番えながら左右に視線を走らせる。金属鎧らしき物を着込んだ存在は無い。
「ホーリーフィールドを!」
 蛍石の号令に、冒険者達を包む聖なる壁。
「下手な攻撃はこれで‥‥」
 防げると、蛍石の言葉を早速覆す様に、両手持ちの巨大な剣を構えた敵の姿が見られる。
「やれやれだ‥‥名乗らせて貰うとするか」
 切り結び、受け流した攻撃に肩を竦めて見せたランディが敵の前に構えた剣を一閃させる。
 後々面倒に巻き込まれない為に、冒険者達はエール達の名を使う事を認められていた。
「シェリー一家、参上だよ!」
 ランディの横に立ち、突き出した剣でカオスニアンを指し示すフィオレンティナ。
「盗んだ品を返して貰おう。それと‥‥話を聞かせて貰おうか」
 こちらが本題だがなと、内心で呟き剣を握るサリトリア。突出して来た一人を剣でさばき、叩き伏せる彼女の力量は明らかにカオスニアンよりも上の様子で、彼女に並ぶとも劣らぬ達人達の前に、徐々に押され気味になっていくカオスニアン。
「やるな‥‥だが、この程度の腕、私の友の足元にも及ばない」
 オルステッドは二体のカオスニアンの追撃を難なく凌ぎ、閃く剣線で混沌の使者たる敵を切り裂いていく。
「わしは雇われ盗賊の暗殺剣士だ、貴様等はわしに用か?」
 相手の攻撃を物ともせず、自慢の膂力で振り抜く刃が敵を吹き飛ばし、切り裂き、叩き折っていくマグナ。
「邪魔者は斬る‥‥来るなら、来てみせろ」
 冒険者達を取り巻くカオスニアンに一瞬の隙が生まれた所に、
「学院追放の、はぐれ魔術師エルだ。盗賊の流儀で行かせて貰う」
 エルの唱えた精霊魔法が襲いかかり、カオスニアンの表情に焦りの色が見え始める。だが、前線に立って闘うカオスニアンの表情は、死さえも恐れぬ狂戦士の如きに歪んでいる。
「危ない!」
 空が叫び、サリトリアが振り向いた瞬間。
 蛍石と彼の『黄昏』、サリトリアの呪文すら届かない場所で、シャノン達に襲いかかるカオスニアンの凶刃が鈍い光を放っている。
「!」
「ノイリー!」
 滑り込む様に剣を弾いたランディと、エールがカオスニアンを蹴り飛ばし、体勢の崩れた所にとどめの剣を叩き込む。
「‥‥やるな」
「‥‥ノイリー?」
 エールを見て、一瞬眉をひそめるランディ。咄嗟に放たれた声はラムのもので、相手は確かにエールに対しての筈だった。
「細かい話は後だ。最後の一体、仕留めるぞ」
 既に包囲網が崩れたカオスニアン達が撤退する動きを見せて、空とケヴィンがそれを後方から崩していたのだが、ランディ達の合流した時には勝敗は完全に決していた。
「さぁ。親父の形見、返して貰おうか」
 殺しかねない怒気を放つエールの前でも、カオスニアンは一向に表情を変えない。
「その前に。吐いて貰おうか、セルナー領地での惨殺死体、その目的と、指示を出した者について」
 割って入ったサリトリアとエル、そしてランディにもカオスニアンは下卑た笑いを浮かべるだけで、埒があかないと思った時だった。
「伏せろ!」
 オルステッドの指示で、全員が頭を抱え込んで地に伏せる。
 冒険者達の囲むカオスニアン目掛けて、無数の矢の雨が降り注いだのは、その瞬間だった。
「口封じでるか!」
 飛び起きて、四方に視線を走らせたマグナだが既に気配は去っていた。
「探してみよう。足跡が残っているやも知れない‥‥」
 エールがいうのに、冒険者達は動こうとしない。
「どうした?」
「今、混戦中にラムがあなたの事をノイリーと呼んでいた。それはどういう意味か、話して貰えるかな?」
 真っ直ぐに蛍石が尋ねるのに、エールは偽名だと短く告げて。
「ノイリー・プラート。それが俺の名だ」
「‥‥アナグラムですね」
 エルが綴りを諳んじていうと、ノイリーはそれには答えずに足跡を追うようにと盗賊達に告げる。
「こいつ等の寝床を探ってみて、何かが見つかれば良し。もしも手がかりがなければ、追いかけるだけか‥‥流石に、これ以上は‥‥」
 オルステッドは呟く。
 バの国の奥へ、それは敵国の真っ只中へ踏み込んでいく恐怖でもあった。
「それじゃ、今回はここでお別れだ。また機会が在れば、な‥‥俺はティール。ティール・タウラッドだ。次からは、ティールと呼んでくれ」
 ラムを偽名に使っていた盗賊は、冒険者達に別れを告げて走り去った。
 後日。
 盗賊達の向かった先はガル領地の方角だったと冒険者達は知る。

【END】