【海賊戦争】3−こちらルラの何でも屋?−

■シリーズシナリオ


担当:本田光一

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:12人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月07日〜08月12日

リプレイ公開日:2007年09月01日

●オープニング

●どうしていただける
「どうしていただけるのでしょうか?」
「どうして、と、言われましても‥‥あ、てんちょー!」
 ギルドの男が及び腰になっている。
 加えて、店長と呼ばれたギルドマスターはクルリと踵を返してドアの向こうに消えてしまった。
「‥‥」( ==)ノ
 引き戻す隙さえ与えずに、なんだか嬉しそうに手にしたハンカチを振りながらだ。
「‥‥(に、逃げますかいな、そこで)」
「‥‥(逃げましたわね)」
 互いに思いは微妙に異なりながらも、消えた背中を何時までも見つめている訳でなく、ふとお互いに気がついた時には笑みと笑みが強張りながら向かいあっていた。
「私、あれから何度か連絡差し上げたと思いますが‥‥」
「はいな」
 静かに椅子から腰を上げて、逃げ出す体勢のギルドの男に対して、彼にも増して落ち着いた口調で椅子から見上げる‥‥いや、細めた目で睨み付ける女性の視線には殺気だった鋭さが見え隠れしていた。
「メイの冒険者ギルド様におかれましては、ルラの海に出没する謎の海賊など、放置して良いと? ああ、ステライド領やセルナー領は兎も角、リザベ分国領地ですものね‥‥そこの、没落貴族如きが依頼してもたかが知れていると」
 オホホホホと、優雅に笑って見せるのだが女性の目は全く、寸分も、これっぽっちも笑って等いない。その言動の不一致が、温度差をより過酷なものにしていた。
 この季節、メイディアは暑いので無関係な人間にとっては良いのだが。
「い、いや〜そう言う訳とは違いますのやけど‥‥?!」
 つい、手の平と平を合わせて揉み手してしまう悲しい性の男。
 と、さっき消えたはずの店長ことギルドマスターが、いつの間にか壁際に半身だけ見せて、何やらサインを送ってくる。
「(‥‥えーなになに? 『チ・チ・キ・ト・ク・ス・グ・‥‥』やなくって! 『ガ・ン・バ・レ・ブ・イ』‥‥てんっちょーーーー!!)」
 最後には親指を立てて、死して屍拾う気もないという風に白い歯を見せて笑ったギルドマスターが奥に消えていった。
 そう、未だに怒りの矛先を納めていない、野生の虎の如き怒気を吹き上げる女性の前に、ギルドの男を残したままだった。
「えーまー所謂、そのー。臥薪嘗胆、心骨粉砕の想いで挑む所存でございまする」
「‥‥虹色のお返事ありがとうございます。‥‥引用も、その他色々な意味で間違えていますよ」
 呆れきったという口調でカルミナ・フィラーハは言うと腰掛けていた椅子から立ち上がり、一礼する。
「口外、無用の件はそのままで‥‥」
「ええ、まぁ依頼そのものに関係ない話は出しまへんわ。その辺は冒険者にも不要な話ですさかいな」
 呟きの唇の動きは誰にも聞かれない、見つからない位の大きさで、ギルドの男も口元を隠す仕草での最低限の音量に声を落として返している。
「では、人数が集まりましたらリザベ分国に、直ぐに向かってもらいますわ」
「お願いするわ。下手な芝居は、もうこりごりよ」
 ギルドから出るカルミナの見送りに立った男の姿は、海賊の頭領たる女性の会話とは思えない何気ないものであった。

●魔の海域
 魔の海域と言う物がある。
 それはアトランティスの世界各地に伝承や物語として残る規模のものから、地元の漁師の噂話に納まる規模までと様々である。
 同じ事があるとすれば、それは規模や信憑性の違いはあれど、確かにそこに危険なものが存在しているといったところか。
 最近のメイの国の周辺海域では、モンスターと同じ意味での絶対危機として、国外からの侵犯者の存在が問題となっていた。
 だが、海は広く、それら全てを守るにしては人員の不足は否めないことだった。
 あおりを受けるのは、一般の海路を用いた航海をする者達から秘密の航路を知って利用する者達まで様々である。
 カルミナの纏めるリザベの私略船であるシュピーゲル一家も、このあおりを激しく実感している集団だった。
「えーまー。そーゆわけで」
「何がそういうわけだ」
 先程のカルミナとの痴話喧嘩は聞いているぞと、言いたげな冒険者達からの非難めいた視線を受けながらギルドの男は続ける。
「健全な運営をするカルミナはんのとこに肩入れるのは、まぁお目溢しという事もありましてな。正直、全部は手がまわらへん海域の守護にもカルミナはんちが有効ちゅう訳でして」
 何をするにも色々と不足するものは有りますのやと、営業笑いで男は続ける。
「依頼内容は単純でっせ。海域に出没する謎の集団、所謂海賊モドキをボテくり倒して二度と悪させんようにする事ですさかいな」
「ほほう?」
 じーっと、冒険者に睨まれて男は続ける。
「ま、相手は海賊モドキの三隻で、こっちは一隻な所が『ぷりてぃ〜』ちゅう感じですわなぁ」
「をひ」
 一気に視線の槍が男に突き刺さるのだった。

●今回の参加者

 ea0827 シャルグ・ザーン(52歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 ea1587 風 烈(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea3329 陸奥 勇人(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3892 和紗 彼方(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea3972 ソフィア・ファーリーフ(24歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea7482 ファング・ダイモス(36歳・♂・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb0746 アルフォンス・ニカイドウ(29歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb1004 フィリッパ・オーギュスト(35歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb7854 アルミラ・ラフォーレイ(33歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)
 eb8962 カロ・カイリ・コートン(34歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)
 eb9419 木下 陽一(30歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 ec1370 フィーノ・ホークアイ(31歳・♀・ウィザード・エルフ・メイの国)

●リプレイ本文

●海戦
 起伏の激しい地形を巧みに利用して、目標の三隻が進行する沖合いから島影に隠れること半日。シュピーゲル一家の帆船は風上の位置から一隻の船に至近距離で遭遇することに成功した。
「ここまでは完全にこっちの勝ち、だね」
 冒険者達を見て、自信満々の表情で告げる女海賊カルミナ・フィラーハの周囲では、操船に長けた海の荒くれ達が戦闘に備えて防備を固めている。
「無傷で手に入れろか。困難な注文だが、期待されたからには全力で応えよう」
 風烈(ea1587)の言葉に拳を突き合わせて同意する陸奥勇人(ea3329)やカロ・カイリ・コートン(eb8962)らは意気も高く作戦への参加意思を表示していた。
「カルミナ殿、女だてらにお家を背負って大暴れたァ…いや愉快、痛快♪ あたしもバやカオスどもにゃあ思う所があるきに、今回は暴れさせて貰うぜよ」
 快活な笑顔で白い歯を輝かせ、カロは早速ファング・ダイモス(ea7482)とフィリッパ・オーギュスト(eb1004)と共に迫る艦船の様子を探る。
「行くぞ!」
 艦船間の矢の攻撃、そして味方からの魔法の援護の後に、飛び込んでいくファングが目指すのは後部甲板で聳えるマストの帆。
 幅の広い刃を振りぬくファングの攻撃は、人を狙うのでなく、方向舵と同じく帆船の進行方向に絶大な影響を持つ帆布達を引き裂く扇状の衝撃波だ。
「メイが国の鎧騎士、カロ・カイリ・コートンじゃあ! 船付けェ! カチコミじゃあ!」
「出る幕無しだね」
 カロの啖呵を聞いて苦笑するカルミナ。それを知ってか知らずか、支援を受けながら飛び込んでいく敵船上で、船長格を狙って一気に走る。
「いいかっ野郎ども、おまんらの男を挙ぐる好機ぞ! 愛しの姐御に、カッチョいいトコ見せちゃれェ!」
 切り結ぶ者達の中を自在に駆けるカロの横、ファングは切り掛かって来た海賊らしき敵の剣を油断なく回避して、返す刀で一刀の下に叩き伏せる。
「‥‥正規の剣筋。やはり、バの手の者か‥‥」
 在野の剣士の太刀筋でないことは一目瞭然。それを思えば、今回の作戦で船を無傷で手に入れることの重要性がよく知れる。
「此処で、敵の海賊船を入手出来れば、敵の本拠地へ攻め込む際に利用出来るという訳か‥‥」
 押し返される剣を体で受け止めながら、ファングは一気に体を翻して間合いを取る。
「暴力によって財を得んとする者よ。ならば、力によって奪い返される事も覚悟しろ!」
 ルラの海の権利を主張するのはメイの国、バやジェトの国も同様だが、海賊に扮した正規兵を用いてまでの蛮行は許しがたかった。
「全て薙ぎ払う。グランウェイブ!」
 ファングの長身が、その力を押し込めるようにしゃがみこみ、再び甲板を蹴って走りこむ瞬間に彼を取り巻いていた海賊達が一撃のもとに吹き飛ばされていく。
「素晴らしいですわね、あの御仁の戦いぶりは」
「そうかい? 真っ直ぐで、眩し過ぎるけどね」
 フィリッパの賛辞に苦笑しながら言うカロだが、まんざらでもない様子で、コアギュレイトで拘束された敵兵を蹴り飛ばして海に落とし、既に閑散となりつつある甲板での敵掃討を果たそうとしていた。
「降伏すれば命は永らえよう。従わぬのなら‥‥」
 切り結ぶこと数合、剣先を相手の喉元に突き刺すようにして止めたファングの宣誓が海賊の動きを止めさせた。
「‥‥こいつ‥‥」
 カロはファングが仕留めた艦船の長らしき者の身包みを剥いで奥歯を噛み締める。
「大丈夫であるか? 中々てこずった様であるが?」
「五月蝿いよ鷹の眼! まったく、また変な布括り付けてからに」
 頭上を飛び去るグライダーから、フィーノ・ホークアイ(ec1370)が掛けた言葉に返すカロ。
「実際には天候と潮の流れ、相手とシュピーゲル一家の腕前の差がありますが‥‥」
 腕前や地形の把握についてはシュピーゲル一家に軍配が上がった様子ですねとフィリッパは冷静に分析する。
 残る二隻をどのように攻略するかは、天の利と時の利が必要だが‥‥。
「まさか、ウェザーコントロールとレインコントロールの使い手が乗り合わせるとは思いもしませんでしたしね‥‥」
「よっしゃ。ここからが腕の見せ所!」
 フィーノのレインコントロールで一気に晴天から雨天に天候を変えた戦場で、木下陽一(eb9419)は見張り台の上で待ってましたとばかりに魔法を操っていく。
「怒ってるカルミナさんも綺麗だけど、ここは一つ、敵の船を出来るだけ無傷で手に入れって‥‥って、ここまでだけでも奇跡に近いけど‥‥そりゃゲームでも船奪うのが一番実入りがいいけどさ‥‥。ええい、カルミナさんの水着姿ーー!」
「聞こえてるからね」
「だ、わな」
 マストの下で、指をボキボキッと鳴らすカルミナと、笑うしかないカロ。そんな二人の直上から、陽一の完成させたヘブンリィライトニングが前方の艦船のマストに突き刺さる。
「あれ?」
 陽一は自分と同じ様に見張り代に立つ人物を狙ったつもりだったが、勢い余ってマストの布も燃え上がらせていた。
「うむ、良き哉良き哉。バの国とカオスニアンには散々煮え湯を飲まされておるからの、打撃を与えられる機会を逃す訳にはいかぬからな」
「そう思うなら、そろそろ攻撃に移りましょう」
 フィーノとグライダー、更には自分を結ぶ命綱を確認しながら、アルミラ・ラフォーレイ(eb7854)は艦船の直上でかなり難しい速度の減速に移った。
「ここだと、狙い難い筈だし‥‥下手をすると撃てないのよん」
「その通り。いざ!」
 魔法詠唱を高らかに完成させたフィーノが、真下の甲板に居る船員達目掛けて天から放たれる槍の如き雷を叩きつけていく。
「離れるわよ」
 フィーノの動きを背で感じながら、アルミラは一気にゴーレムグライダーの速度を上げる。
「任せる。危険な芽は潰した筈だ」
 足元の甲板を確認して呟くフィーノ。
「ここで手を抜けば、カロになんと言われるか‥‥」
 考えただけで恐ろしいと、フィーノが独白するのはアルミラには聞こえない。
「ゆくぞ。残る一隻こそ我々が仕留めるべき旗艦であるはずだ!」
「いや、そこまで凄いとこっちの身も危ないわよ!」
 言いながらも、既に偵察で確認している三隻の内、最後の最も巨大な帆船に向かうアルミラの瞳は使命感に燃えている。
「あたし自身に攻撃力はなくっても、こう言う戦い方も出来るのよ!」
 バスリタもかくやという、豪弓から放たれた矢を軽くかわしてみせるアルミラ。そのグライダーの軌道は背に載せたフィーノが図らずも顔面を凍らせるに十分な危険なものだが、操るアルミラにはそんな危険を感じさせない、獲物を狙う狩人の輝きが瞳にある。

●降伏勧告
「さて、どうする。まだ続けるか?」
 斬込隊として甲板を荒らした陸奥勇人(ea3329)が、肩で息をする間を縫って敵の船長格と見受けられる男に向かい合う。
「大丈夫かしら。ねぇ?」
 と、ソフィア・ファーリーフ(ea3972)はカルミナの表情を少しの期待と、不安の入り混じった視線で見上げながら確認していた。
「わーほんと、危険だよねーカルミナちゃん」
 場の空気を緩やかなものにしようと、勤めて明るく言う和紗彼方(ea3892)だが、返ってきた答えは意外と冷静なものだった。
「ん? さぁね。こっちの縄張りを荒らしてるのがバの国の正規兵だって話なら、お痛たが過ぎたってモンだろう?」
 自身達がこの場で戦っている理由を、余り語らないカルミナ。だが、ゴーレムグライダーを借り受けることが出来るということは、つまり国の後ろ盾があるという話だ。今カルミナ自身が口にしたのとは矛盾する。故にだろうか、女海賊の表情は敵船の二隻目を拿捕しようというのに一向に晴れた様子は無い。
「帆もろくに使えない、そっちの魔法使いや弓兵は壊滅‥‥これで、まだ勝つつもりでいるのか?」
 圧倒的な不利を現実問題として認識させて、残る一隻との連携による反撃だけはさせまいとする勇人の狙いを察したのか、男は腰の物を抜き放って勇人に切りかかっていく。
「敗軍の将としては、美しくないぞ!」
 手にした微風の扇で風を纏うようにして避けた敵の攻撃。半身が泳いだ状態になる敵の鎧が覆う首元目掛け、勇人の一撃が振り下ろされる。
「‥‥死んではいない筈だが」
 手に伝わった感触からすれば、直ぐに息を吹き返すことはないだろう。船を落としたことを確認して、勇人は日本刀を高々と掲げて見せる。
「ああ、やっぱり。強い人ばっかりだもんね‥‥うん、判ってはいたけれどね」
「残り一隻! 謎の海賊船退治は、メイの国益に繋がる大事ですよね。 気合い入れて、ヨーソロー! 」
 どうせあたしなんてと、いじけながらもアイスチャクラを隠し玉に、矢で後方支援を怠らない彼方の隣で、気分だけはいっぱしの海賊となったソフィアが気合と共にグラビティキャノンで進行方向100mの直線上の敵を一気になぎ払う。
「あ、さて」
 浮き足立っている敵船上で、一番速く復帰して戦いに参加してくる兵達目掛け、ソフィアは準備しておいたアグラベイションでその動きを鈍化させていく。
「先手必勝、といいますものね」
「あ、うん。そうだよね」
 凄まじいまでの魔法の威力、しかしそんな戦場を左右する攻撃を加えておきながら、ソフィアの出で立ちは救命胴着を着込んだ、歩くふわふわもこもこ状態だ。
「う〜ん、我ながら変な格好ね。ね?」
 軽く首を傾げてみせるソフィアに、どう返事をしてよいやら判らない彼方が敵船に視線を戻して韜晦する。
「え? あ、いや、その‥‥」
 このエルフのお姉さんだけには逆らうまいと、彼方の中で警鐘が鳴ったのは言うまでもない。

●総力戦
「さあ行くぞ、黒十字! 共にひと暴れ、と参ろうか!」
 愛槍を手に一撃を見舞うアルフォンス・ニカイドウ(eb0746)の声が海上に木霊する。
 既に接舷までにアルフォンスの放ったオーラショットで格下の兵士達は軒並み吹き飛ばされており、それでも残った者達に対しては、フィリッパがコアギュレイトで動きを封じ込めていく力業も巧みに利用して、無傷での敵船確保に向けて全員の意気はいやが上にも高まりつつあった。
「守ってくれているな。よし!」
 シュピーゲル一家の荒くれ達は、アルフォンスが提案した戦闘方針を只忠実に守るだけではなく、船に残って後方支援となっている彼方や、ソフィア、果ては天空に舞うグライダー上のフィーノと魔法とアルミラのグライダーの機動までを頼りにして、確実に相手を倒していく。
 その様子をオーラエリベイションの効果による思考力と、戦場での位置取りで周囲の確認に有利な船室上の場所に陣取った相乗の効果で巧みに理解するアルフォンス。
「さて、ならば拙者の向かうところは一つ」
 万が一を考えて、身を翻すアルフォンスの向かった先に心当たりがある風烈(ea1587)が、敵がアルフォンスを追うその前に立ちはだかる。
「ここから先は、俺を倒してからにしてもらおうか?」
 すっくと立った烈の気合に呑まれてか、海賊達は周囲を囲むだけで中々手を出しそうにない。
「さ、どうする?」
 周囲を確認し、乗ってきた船の小火も消化されたのを見て烈は心中でソフィア達が自分と共に用意した消火用の品で何とか対応を済ませてくれたのだと安堵する。
「増えたな‥‥」
 烈を海賊達が十重二十重と囲み、膠着した状況で、誰かが音を立てれば一気に今の緊張した状態が崩れてしまう、そんな状況が長く続いている。
(「完全に守りに回ると、数の差で押し切られかねない‥‥どうする?」)
 出来れば自分もアルフォンスの後を追いたいのだが、状況がそれを許さない。
 そんな考えが浮んだ時、烈にはまさしく神の救いの様な影が海賊達をなぎ倒した。
「これが我輩達の力! なめてもらっては困る!」
 大音声のシャルグの声が収まるか否かという瞬間には、彼の直ぐ後ろをグラビティキャノンの波動が海賊達を吹き飛ばして一気に囲いを半壊させる。
「シャルグ!?」
「さ、ここは我輩達に任せて操舵室へ」
 斧の石突で奥を示して見せたシャルグに、一瞬迷いの表情を見せる烈。
「適材適所。我輩では狭い船内ではかえって足かせになる。この場は我輩達に任せよ」
 斧の一閃で吹き飛ばし、へし折り、海賊達を一気に破壊せしめるシャルグ。彼に合わせ、主だった敵の動きを封じるフィリッパの援護に、グラビティキャノンと矢が射掛けられて障害物に隠れたところに上空からは陽一とフィーノのヘブンリィライトニングが降り注ぐ。
「悪い。後から飯でもおごろう!」
 一振りで海賊を倒し、アルフォンスを追って走り出す烈。
「さて。操舵室が船内とは、我輩の心意気を無に帰すような造りの船であるな」
「そう言わずに。相手も好き好んでお前さんや俺達と戦いたいって思ってこんな船を選んだわけでもあるまいに」
 勇人がシャルグ達に間に合わせたのか、艦船に乗り込んで最後の一暴れを敢行している。
「矢張り、皆さん活が良いと言いますか‥‥」
 フィリッパが海賊を評して言うのに、彼方とソフィアは首を傾げながらも攻撃の手を休めない。
「? あ、アルフォンス!」
「ん、どれ?」
 陽一の声に、彼が示しているだろうと思われる位置を見た冒険者達は烈と共に意気揚々と引き上げてきたアルフォンスの姿を見た。
 こうして、シュピーゲル一家は冒険者達の助力あってルラの海での戦争に勝利することが出来た。
 歴史には残らない戦争かもしれないが、確かに、彼らはバの国の侵攻から国を守ったのだった。

【To be continued】