【海賊戦争】4−ルラの海に吼えよ!−

■シリーズシナリオ


担当:本田光一

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:5 G 47 C

参加人数:10人

サポート参加人数:1人

冒険期間:10月13日〜10月19日

リプレイ公開日:2007年11月11日

●オープニング

●海賊家業、再開
「海賊家業、再開だよ!」
「姐さんどうしたんだ?」
 朗らかに笑うカルミナ・フィラーハの上機嫌を見て海賊船の一人がコソコソと内緒の話を始める。
「ほら、この前冒険者ギルドで人雇って赤出てたのが、バの船三隻捕まえて二隻ものに出来たから」
「あ、な〜るほど」
 手を打ってそうだったかと納得した男の背に。
「そこっ! 今なんて言った?」
「あ、いえ別に!」
 浴びせられたカルミナの声に驚いて飛び上がる男達。
「今、何て言った?」
 笑顔だが、握られた拳で叩かれるととても痛そうだ。
「えーあーバの船三隻を奪ってー」
「そうじゃ、ないだろ?」
 笑顔に殺意が少々振りかけられた気配になるカルミナ。
「……姐さん?」
 恐る恐る言った男の前で、カルミナのこめかみに浮かんでいた血管がブチンと音を立てた気がした。
「あたしを『姐さん』と呼ぶんじゃないっつ!!」
「−−!?!」
「は、はいっつ!」
 耳元で怒鳴られて凍りついた海賊と、そうだったと思い出して直立した海賊を捨て置いて、カルミナは船室に入っていく。
「まったく、うわっついてるったら……」
 手に入れた船の船室には、元々使っていた船の名残がある。
 三隻のバの船を手に入れて、その内直ぐに使えそうな船二隻を、一隻はかねてよりの援助がある一家に譲り、もう一隻は今後の為に売り、港の使用料や鼻薬として役人に嗅がせて、最後の一隻の改装費用に充てた。
 壊れた場所は航海には支障のない部分ばかりであったので、元々使用していた船に似せて壊した部分を改装し、ようやく出航出来る時期になって、リザベ分国から異様なまでに仕事の依頼が増えている。
 稼ぐネタがあると、船員達がはしゃぐ事も判るのだが、それ以上にカルミナには気がかりなことがあった。
「ところで、次の件ですが……」
 彼女が入ってくるのが判っていたのか、父親の代より使える古老が海図の一点に置かれた赤い船の形をした小さなチェスピースを見て訪ねてくる。
「うん? ああ、あれね……どうにも、胡散臭いんだ……」
 仕事が回ってくるのは良い事だ。
 没落した貴族が海賊に身を窶し、お家復興の為に私略船の元締めとしてリザベ分国に仕えることも頭では納得しているのだが、ここ数日回されてくる仕事が多過ぎた。
 一度、父を、フィラーハ家を見限った筈の国が今更何を? と、言う想いがカルミナの胸中にはあったのだ。
「用心に超した事はない。今回も手伝いが居たら手を借りるとしよう……」
 例え、国益となると言っても裏方仕事。
 騎士団に話を持って行く訳にもいかないと、カルミナはメイディアの冒険者ギルドに使いを出すのだった。

●海賊募集
『海賊募集
 三食昼寝付き。
 仕事は給金+出来高制。
 仕事先はリザベ分国にて、往復の交通費は自腹の事。
 仕事内容:港の停泊料、使用料を不当に支払わない船への強制徴収。強敵の可能性もあり。
 依頼主:カル・ミナフィラーハ』

「……何でもありか、このギルド」
 思わず呟いた冒険者の背後に忍び寄る影。
 その名も……。
「まぁ、そないイケズなこと言われへんと」
「耳に息、吹き掛けるなボケーーー!!(ドキドキドキ)」
 ギルドの男である。
「まぁまぁ。今時、こないな破格な物件はありまへんで?」
「住宅はいらん」
 にべもなく言われる男だが、全く気にした様子はない。
「三食、昼寝付き。仕事は相手が見つかってから。襲って、貰って、はい逃げろーでっせ?」
 ジェスチャーも交えての大熱弁である。
「で、裏は?」
 全く聞く気がないのか、スルーして素で尋ねる冒険者達。
「そうでんなー。相手の船が精霊砲積んでるとか言う可能性もあるとか無いとか? あと、港から強引に出港出来る訳ですさかい、余程の手練れが……」
 笑顔でスラスラと返す、素直というか、突っ込みどころ満載のギルドの男。
「ほ、ほ〜〜う?」
 ギルドの温度が数度下がった気がした。
「え? ほら、だから強敵の可能性ありって書いてますやんか〜」
 どこが格安物件だと。
 小一時間ほど説教されるギルドの男だった。

●今回の参加者

 ea0827 シャルグ・ザーン(52歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 ea1587 風 烈(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea3329 陸奥 勇人(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3892 和紗 彼方(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb0746 アルフォンス・ニカイドウ(29歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb1004 フィリッパ・オーギュスト(35歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb7854 アルミラ・ラフォーレイ(33歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)
 eb8962 カロ・カイリ・コートン(34歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)
 eb9419 木下 陽一(30歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 ec1370 フィーノ・ホークアイ(31歳・♀・ウィザード・エルフ・メイの国)

●サポート参加者

李 双槍(eb0895

●リプレイ本文

●敵は海賊!?
「敵は海賊!?」
「さぁね」
 短く答えたカルミナ・フィラーハの答えが全てを物語る。
 港湾施設の使用料、停泊賃、そして様々な税。
 全てを支払わず、港に待機する兵士をも沈黙させて出航した船を襲うという依頼。
 海賊としての雇用を求められたのは冒険者達には意外という他なかったのだが、海賊船の船長、シュピーゲル一家のカルミナは相手が同業者ではない可能性をあっさり認めていた。
「うーむ。税を払いたくない為だけに、危険な航路を使い、精霊砲まで用意するとは流石に不自然な話であると思っていたが‥‥」
 人目に晒したくない品を運んでいるのか、若しくはバの国との繋がりでもあるのかも知れぬなと腕組みのシャルグ・ザーン(ea0827)に、出発前に酒場で情報を集めていた風烈(ea1587)が同意する。
「蜥蜴の尻尾斬り宜しく、海賊の責任で言い逃れが出来るようにする為だろ?」
「‥‥何か引っ掛かるって表情だが、一体どうしたんだ?」
 烈達の会話に積極的に加わらないカルミナの姿に、前回同様完全制圧してしまうのが手っ取り早いのにと考えていた陸奥勇人(ea3329)が問いかける。
「何を危惧しているのか確認しときたいとこだな? こっちも心構えがあると無いとではいざという時の対処に差が出る」
「それもそうだね‥‥」
 俯き加減な所に、背後で響くのは‥‥。
「『姐さん』が駄目なら『御嬢』やら『姫』やらであろうか‥‥?」
「‥‥」
 アルフォンス・ニカイドウ(eb0746)の提案に、固まって、それから背中を掻き始めるカルミナ。余程、似合わないとでも思っているのだろう。
「やっほー又来たよん、カルミナちゃん。お船、改装したんだねーおめでとー。立派に姐さんだと思うけど、姐さんって呼ばれるの嫌なの? 何で?」
 和紗彼方(ea3892)の呼吸さえ忘れていそうな矢継ぎ早の問いに、頬を掻いたカルミナは何事か思案して‥‥。
「カッコイイと思うんだけどなー、憧れるよーボクは。そーいえば、ずっと海賊さんなの?カルミナちゃんのお父さんやお爺さんとかの代から?」
 家族の話となり、カルミナの表情が変化する。
「‥‥その辺、何だけどね‥‥」
 腕組みで彼方に向き直ったカルミナに、見張りに付いていた木下陽一(eb9419)の声が。
「カルミナさん! 目的の船、見えてきましたよ!」
「そうかい! ‥‥悪いね、この話はまた後だ」
 陽一に返したカルミナが彼方に詫び、カロ・カイリ・コートン(eb8962)と視線が交差して、止まった。
「なんだい?」
「あー実は、さ。何を持ち出して何を置いて行くか? 何を持って『半分』とするのか? って思ってさ」
 悪びれた風でなく、頭を掻きながら言うカロにカルミナは‥‥。

「‥‥ハーッハッハッハ! 面白い! カルミナ、気に入ったよ!」
 返された答えに、爆笑してカロはカルミナの肩を何度も叩く。
「それじゃ、一ちょ目利きをこのカロ様がやってやろうかねぇ?」
 腕まくりで船首に向かうカロ。
 その表情には愉快な笑顔が浮かんでいた。

●お宝の中で
 シュピーゲル一家の襲撃は、高空からのフィーノ・ホークアイ(ec1370)による雷の洗礼で始まった。
「はン。いくら金積んだ所で鷹の眼は早々買えぬよ。目では此方に分がある」
 天候の調整は簡単だった。
 シュピーゲル一家はフィーノの考えを初めに聞いており、海洋の条件を考えて曇り空に成り易い頃合いを選択していたからだった。
「少し、拍子抜けという感じもしますが‥‥」
「仕方がない。精霊砲の砲口は固定されている。カルミナさんは『余りやり過ぎると自滅する』って慎重であるけれど、本当はアレも接収したい所であるのだが、ね?」
 フィーノの言いように小さく笑いながら、乱れた気流を飛ぶのに意識を集中させるアルミラ・ラフォーレイ(eb7854)。
 風を生み出して飛翔するゴーレムグライダーは、風に乗って飛ぶ事の方が幾分難しい。気流が乱れているなら尚更だ。
「飛ぶ前に、バラストを付けて正解だったみたいね?」
「落とすと、効果的であるしな」
 あくまで真面目な口調のアルミラに、芝居がかってみせるフィーノ。
 直上からのヘブンリィライトニングで、甲板上に展開していた人物達は逃げ出した者を含めて完全に掃討出来たように思えていた。
 だが‥‥。
「出て来ました」
「速い?」
 眼下に見える甲板の一角。
 帆の影になって一瞬死角となった位置から素早く飛び出した物が二体。
 アルミラの指摘でヘブンリィライトニングを放ったフィーノだが、目標に命中した際に、それが何だったのかを思い知る事になる。
「討って出ます」
「そうであるな」
 頷き、偵察時の相手の布陣を記憶から引き出すフィーノ。
 精霊砲に射手は見えず、弓の使い手も精霊魔法を直上から討たれる事に対応できないことは判っている。
「それじゃ‥‥距離も手頃になったし」
 直上からの攻撃を終えたと終えたと捕らえ、真上から躍りかかるグライダー。
 水平安定用に積んでいたバランサーの重石をを切り離し、先に落下した筈のそれさえ追い越して、アルミラの駆るグライダーは風を切って真っ逆さまに速度を上げていく。
「‥‥今である!」
 フィーノは唇を薄く開けて笑う。
 船上の人間達が動く間にも、準備万端にフィーノが紡いだ精霊魔法が轟音上げて空気と、人を巻き上げる。
「遅いですね」
 ようやく、対空射撃を始めた船員の様子に苦笑して、アルミラが機体を右に傾ける。機体の左右に広がる翼が渦を巻く様に、ゴーレムグライダーが巨大な風車の如くに回転するのに、一瞬躊躇した敵を優々と見てアルミラは機体を旋回。
 揚力を取り戻した羽ばたかぬ翼が、二人を再び天上へと押し上げる。
「うぁ!?」
 同時に、追い越していたバランサーが質量の攻撃となって甲板に襲いかかったのがフィーノの背で聞こえた敵の叫び声で判った。
「ともあれ久々の海賊仕事であるな! 相手が筋も通さぬ無法者と聞けば腕が鳴るというもの」
 それならばと、意気を上げるアルフォンスに、近づいてくる敵の船を見て、うずうずと身体の奥から沸き上がる興奮を抑えきれないでいる勇人。
「ああ、二人ばっかり、先に狡いぞ! 俺にも残しとけよ!」
「狡いって、言うのかなぁあれ?」
 大人って判らないやと、矢を射かける彼方。
「ん〜。本当、拍子抜けというか‥‥弱いのかな?」
 敵も、アルミラとフィーノの上空からの攻撃で慌てているとは言っても、射程に収まった筈の弓で攻撃が来ない事が有り難いと同時に不思議だった。
「カルミナちゃんが仕事の前に言ってた『お家の事情』って奴かな?」
「カルミナさんの懸念が当たらない事を祈るばかりですわ。‥‥難しそうですけれどね」
 フィリッパ・オーギュスト(eb1004)はそろそろ接舷しようという距離まで接近した敵の船を見上げて息をのむ。
「海賊旗が掲げてあった方が、幾分ましでしたわね」
「うん?」
 カルミナの懸念を、彼女達がメイのリザベ分国の捨て石として使われている事を想定していただけに、船に掲げられた大国、バの国の一分国を示す旗に目眩を感じるフィリッパだった。
「どうりで、精霊砲が積んでいる筈ですわね」
「どういうことかな? 大人の事情って奴?」
 頭上から陽一も気に掛けて矢を放ちながら聞いてくる。
「どうやら、あの船の持ち主はバの分国関係者のようですわ。港で問題を起こした際には旗は掲げていなかった筈ですけれどね」
「‥‥納得。嫌だね、そう言うのって‥‥ホント、ゲームみたいに単純にはいかないか‥‥」
 そうすると、敵の精霊砲を奪ったり壊すのは不味いと判断したのは良かったのだと胸をなで下ろす陽一。積載された荷物は判らないが、ゴーレム機関は国が掛かりきりになって制作する事が主な物だ。
 特に、戦争に関連する機器は‥‥。
「さぁ! 参ろうぞ!」
 軽微な装備だが、鍛え抜かれた肉体の上に掛けられた鍛錬の賜物であるオーラの加護がシャルグの身体を二回りも大きく見せて、敵の甲板に動揺が走ったのが見て取れる。
「‥‥ビビってる奴もいるが‥‥そうじゃないのも居るな?」
 奴は貰ったと、矢避けに掲げていた板を投げ出して牽制にした烈が弓を構えた人間に向けて疾走する。
「間合い、貰った!」
 踏み込んだ烈。
 敵の脇に肘を当て、吹き飛ぶより先に更に一歩、進めた身体の勢いをそのまま腕の動きに乗せて相手の顎に叩き付ける。
「うまい話には裏があるというが、鬼が出るか蛇が出るか‥‥」
「そこまで慎重に考えなくても良いんじゃないか?」
 烈の呟きに淡泊に返して、勇人はざっと辺りを見渡して甲板を任せて船倉へと走る。
 出来れば、頭を押さえて降伏勧告といきたいのだ。
「ん? あ、入ってっちゃったよ」
「ここまでは予定通り‥‥」
 彼方が矢を撃ち尽くし、変わる物はと首を巡らせた所で陽一が完成させたヘブンリィライトニングが轟音と共に敵船上に突き刺さる。
「何かこう‥‥外の連中が本当にこれで終わりなのか‥‥前の時に拿捕した船が役に立ったみたいで良かったよ。あれ、でも今まで使ってた船はどうしたんだろう? 後で聞いてみよっ‥‥っと!?」
 目を見開き、その姿を改めて見た陽一が、矢継ぎ早に精霊魔法の為の準備を始める事が出来たのは彼の本能が「ソレ」を恐怖して、試行するより早くに身体が動いたからだろう。
「危ない! 避けろ!」
 カルミナが吼える。
「!!」
 それが何かと、誰何するより早くにアルミラは機体を錐揉み状態で落下させる。
「!?! 何じゃ!」
 フィーノの声にも、後で謝る事にしてアルミラは下から突き刺さる様にして告げられた敵の存在を見る。
 一瞬の影が機体の横をかすめて飛んだ位にしか感じられなかったのだが、陽光に影を生み出されたその存在には、心当たりがある。
「‥‥凶獣です」
「プテラノドンという奴であろうか?」
 機体を引き起こしながら漸く紡がれたアルミラの一言に、フィーノも首を回して影の正体を探る。
「頭上に敵影である!」
 シャルグの声に、船倉に飛び込んでいた冒険者達は抱えた荷物を次々と運び出し、元来た道を急ぐ。
「首尾はどうであるのか!?」
 敵影を見、精霊砲の破壊に足を運ぼうとしてシャルグはこの敵船の船首に取り付いた存在を知る。
「おのれ、海中を来たのであるか‥‥」
「‥‥」
 笑みは邪悪な肌の色の中に。
 混沌の勢力に荷担した証をその身に宿す、カオスニアンがそこに居た。
 一番に精霊砲に辿り着いたのは狙ってなのか、それは判らない。
 だが、一つだけ言えることがある。
「こいつも頼むぜ!」
「あたしも頼んだ!」
 勇人とカロがシュピーゲル一家の待つ甲板に宝物を投げ込んで身を翻す。
「どうする。まだやるなら付き合うぜ?」
「油断するな、あの連中は平気で毒を使うぞ」
 勇人の啖呵にシャルグが構えながら言う。
「一寸足りないと思ってたとこなんだよ。あたし暴れる人、あなた奪う人。ってな」
 生き生きと得物を構えるカロに、烈と勇人が並ぶ。
「此処は任せてお宝を持っていけい!」
 声を上げるカロ、それに反応した様に低くした身を弾けさせたカオスニアンの剣がシャルグを襲う。
「こ奴!!」
 鋭い一閃。
 その剣の閃きが、何故か不気味な色合いに見えて半身にしたシャルグが居た筈の場所を滑る様な反射光を持つ刃が走っていく。
「毒を塗ってやがるじゃんか!」
 カロの首筋。
 銀の髪が総毛立つ様に、一瞬浮き上がって見える。
「良い趣味、根性してるじゃんか‥‥よりによってそんな物にね!」
 刃を抜いたカロの斬檄を、カオスニアンもすんでの所で避ける。
「鉱物毒?」
「いや、この連中、植物毒と鉱物毒を混ぜて使う奴も居る!」
 メイの国では、騎士を初めとしてカオスニアンと闘う者としての知識は薄々あるカロだが、いざ闘ってみて奴らの非道ぶりに腹の底から怒りが沸き上がる。
「! 私も参ります」
 カロの一言で、甲板から船に荷を投げ込んでいたフィリッパも踵を返し、烈と勇人、シャルグと順に白の神の加護、ホーリーフィールドを付与する。
 その間にも、戦士達とカオスニアンの剣戟は激しさを増し、見た目は皮鎧しか纏っていないはずのカオスニアンに、斬りかかる三人の攻撃がことごとく躱され、突き刺さっていってもその身体から流れる血の量では考えられない程の動きを見せる混沌の使者。
「‥‥凶獣を手懐けるのに、薬を使うと聞いたね‥‥まさか、それを!!」
「!!」
 カロの言葉が終わるかどうかという時、シャルグの剣が大きくカオスニアンの腹部を抉る。
「どう、であるか!」
 時間と周辺を気にして闘っていたシャルグ。カオスニアンが一人きりの筈が無く、伏兵にも十分注意しなければいけないからだ。
「そろそろ出るよ!」
「みんな、こっちに!」
 彼方と陽一の声がして、同時に頭上からの精霊魔法の援護攻撃が唸る。
 轟音響かせて生まれた竜巻が、カオスニアンを数瞬浮かせたかと思うと、吹き飛ばされたカオスニアンはあり得ない方向に四肢を曲げ、未だに冒険者達目掛けて戦いを挑もうとしている。
「いっちまってるね」
 端的に、その様子を見て表したカロが敵船から一気に走り出し、援護を受けながら味方の船に飛び込んでいく。
「もう半分も取ったから、大丈夫だよ!」
「頃合いであろうか?」
 カロの声に、敵の攻撃を左腕の鉄の手袋で受けつつ、オーラソードで斬りつけていくアルフォンスが辺りを見渡した。
「‥‥では、我らシュピーゲル一家、ここで引くとしよう!」
 カオスニアンを一瞥し、意気揚々と船を移るアルフォンスに対して、敵船から射かけられる矢。
 縛った筈の乗組員達が我先にと甲板に上がってきているのだが、その悉くは陽一と彼方によって射かけられ、天空より音も、空気も引き裂いて奔る雷光により動きを阻まれていく。
 敵船からフックを外し、風に乗って走り出す帆船の上で、漸く安堵出来る位置まで逃げて陽一はカルミナに話したい事があると‥‥。
「ところで‥‥偽名を使うなら、もう少し考えた方がよくない?」
「‥‥そうだね、今度は考えておくよ」
 手に入れた宝飾品を値踏みしていた者達を横目で見て、カルミナは陽一に苦笑する。
 手に入れた財宝から一部を冒険者達に渡し、シュピーゲル一家はリザベ分国への帰途に就く。
 冒険者達がメイディアに着くよりも早くに‥‥リザベ分国の海賊一味が捕らえられたという情報が、冒険者ギルドに寄せられていた。
 海賊の名は、シュピーゲル一家。
 容疑は、リザベ分国の分国王室から国宝を盗み出したというものであった。

【END】