【海賊戦争】極秘収容施設よりの奪還
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■シリーズシナリオ
担当:本田光一
対応レベル:8〜14lv
難易度:難しい
成功報酬:5 G 97 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月28日〜10月05日
リプレイ公開日:2008年10月08日
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●オープニング
●謎の依頼
「謎の依頼がありましてな」
首を傾げるギルドの男。
「詳細は、あの壁を見ておくんなましや」
ヘラっと示してみせる壁には、リザベ分国は北部砂漠、セルナー領地との分国の境いに近い、何もない小さなオアシス‥‥そう、名前さえ無い本当に小さなオアシスを示していた。
そして、オアシスに向かう依頼は整えられた文字でこう記されてあった。
現地の施設の現状調査。
かつて、地域の数少ないオアシスとして村として機能していた時期には、砂漠の厳しい気象条件より旅人が身を休める為の宿もあったのだが、それらは村が消えたことで維持、管理を行う者が絶えた。
しかるに、ここ数ヶ月にわたりオアシスを伝って旅をする行商人達から、何者か‥‥得体の知れない何かが居るという報告があった。
そこで、冒険者ギルドに行商人達の安全確保の依頼が舞い込んできたのだ。
だが‥‥事は少しばかり面妖な趣をも含み、依頼の内容も微妙なものとなっていた。
「謎の人影が明らかになるとならざるとに関わらず、万が一人間が居た場合には速やかに、その者の安全を最優先にオアシスより離れること。
「ん。依頼受ける気の人はこちらに‥‥」
ギルドの男に通された小部屋には、冒険者ギルドの重鎮達の姿があった様な気がした。
「歯切れの悪い状態で申し訳ありまへんな。実は‥‥非常に最近‥‥そうでんな、貴族間のゴタゴタがあるんですわ‥‥それも、没落した貴族と、それに関する真実が、こう‥‥入り組んでいるそうですわ」
身体をくねらせる様にして続けるギルドの男。
「あ、すんまへんな。で、今回、表にああして依頼を貼っている理由はですな。没落貴族の継承者が一人、行方をくらませているんですわ」
しばし、興奮気味に話していたのを無理矢理に意識を引き戻して続けるギルドの男。
「名前はカルミナ。シュピーゲル一家っちゅう、今では海賊家業で生計を立ててる一行のまとめ役もされてるようでんな。この方のお父上が‥‥」
先代の不手際なのか、リザベ分国の一領主であったフィラーハ家が海賊家業に身を窶したのは数十年も昔。
ただし、その件に関しては今では一切記録もない。貴族間の争いに巻き込まれたのか、それともお家騒動に巻き込まれる形で負け、一族郎党を路頭に迷わせたのか‥‥。
良い意味でも、悪い意味でも過去の資料が残っていない事は良いことかも知れない。
下手に、歴史の暗部に触れることを考えた場合に、今回の様に人が一人消えることも不思議ではないのだ。
「面倒ですが、今までの事もありますし‥‥正式に依頼料も出ていますしな、行方不明の女性を助けて、変な噂のある場所から救い出すのも冒険者の醍醐味っちゅうことで♪ ‥‥あ、そうそう」
ごそごそと、何やら取り出して見せる。
「行方不明言いましたけどな、多分‥‥この村の中ですわ。リザベ分国の国王の一派で、政敵を秘密裏に処分する‥‥しかも、証拠の残らない様に、隣国に死後投棄できるようにっちゅう‥‥そんな施設が存在するって話、信じてくれますやろか?」
真剣な表情で冒険者達を見ると、表情を改めていつもの笑顔に戻る。
「ま、あんまり信じてくれなくてもええんですけどな。貴族の中にも、あくどい奴が居るって事‥‥それをお忘れなくっちゅう程度に‥‥」
●リプレイ本文
●無実の罪
無実の罪を着せられ、刑の執行によってリザベ分国の北西部、オアシスのあった場所へと移送されたというカルミナ・フィラーハを追って、冒険者達はゴーレムシップ等の移動手段を用いて近傍の村まで到着した。
「バの国との本格的な戦いが始まっておるこの時期とは言語道断である」
「その通りです。ありもしない罪を着せて人を裁くなど、御仏の道に反する所業ですね」
カルミナに無実の罪が着せられていると言うこともあるが、国難の時勢に海賊とはいえ、国益となる行為を行ってきていた海賊の頭領を捕縛したと言うことにシャルグ・ザーン(ea0827)は立腹し、率直に白銀麗(ea8147)は無辜の民に罪を着せたことに怒りを覚えている。
「ギルドでも、カルミナ殿の関わりがある一件に非常に興味がある様子で、冤罪であっても表向きの罪状である以上、追われる可能性もあろうが、彼女の身の安全だけは保証してくれるというのが何よりか‥‥」
アルフォンス・ニカイドウ(eb0746)はギルドでの依頼受諾の際の会話を仲間達に語る。彼女と、自分達が無事に帰った際にギルドがどう動くのかアルフォンスは興味があったし、義憤に突き動かされただけではない彼の思惑を感じさせる。
「ただのスキャンダルではなさそうですね」
フィリッパ・オーギュスト(eb1004)はアルフォンスの話とシャルグの意見を咀嚼して違和感を感じていた。
貴族が、冤罪をかけてまでの捕物を国難の時勢に行ったと言うこと。事情を知らないにせよ、裏にも通じているほかの貴族や大商人からも眉をひそめられる行為は、今回のギルドの様に相手の弱みを握ることにも繋がると判断出来るのだ。
「スパイが公の席で別のスパイの名前を呼ぶほど裏社会のルールを破っている訳ではないですけど‥‥」
「フィリッパさんはそう言うけど、充分におかしいですよ!」
ぶっきらぼうにフィリッパに言うのは偵察から帰った木下陽一(eb9419)である。
「滅茶苦茶な容疑の裏は、何十年も前の因縁? くそ! すぐ助けに行きたかったのに‥‥」
素直に、自分への苛立ちを言葉にして出せる陽一の肩をシャルグの厚い手の平が包む様にして叩く。
「‥‥あれから1年、やっと居場所が分かったこのチャンスを無駄にして堪るもんか!!」
共に挑む仲間の手を感じながら、陽一はカルミナの身を心より案じるのだった。
「ただいま」
先にオアシスを確認してきた和紗彼方(ea3892)が風烈(ea1587)と共に皆の元へ帰ってくる。
「距離を置いて貰って助かったかも知れないな‥‥俺でさえ、酷く‥‥じろじろと見られたよ」
既に人影はない位置にまで帰ったのだが、用心深く顔を見られにくい様に砂漠用の服で隠していた風がミミクリーを施されて偵察に赴いていた。
「オアシスの跡、っていうのは正解だな。ただ、水が完全に枯渇した訳じゃなさそうだ。生活圏として利用しなくなったというのが正しいかも知れないな。ただ、そこに残った水を使っている連中が、どうにも気に入らない‥‥な」
「うん。ボクの場合は‥‥この格好だから怪しまれなかったと思うけど、この変装‥‥いや、変装って言うと、ちょっと‥‥」
自身、いつも着ている服が女の子らしくないという点は気に掛かっていたのか、彼方の表情が乾いていく。
今、彼女は旅人を装って服装もメイの国の仕立てに変えていた。オアシスを見て回るのに、不必要に目立たない様に心がけたのだが、残念ながら遠目で見た以上の新発見はオアシスの付近ではなかった。
ただ‥‥。
「オアシスの近くより、少し離れた丘の麓に人が沢山いたと思うんだよ。何となくだけど‥‥一軒しか建物はなかったと思うのに‥‥」
オアシス周辺にあった廃屋の位置等も、簡易な地図にまとめ上げた彼方が首をひねる。
家屋の中に人が居る気配は無く、廃屋に接近するまでの慎重な行動に神経を使ったにも関わらず、もぬけの空とは些か拍子抜けしたというのが彼方の思いだった。
「キャットを放して潜り込ませようとしたんだけど、何だかおっかない人が居て、キャットが近寄らなかったんだ‥‥あの、一軒家にだけどね」
内部の状況調査にはぐれたペットの猫を追いかける振りでもと、考えていた彼方だったが、意外なことに彼女の計画が頓挫したのを見ていた筈の陽一に視線が集まる。
彼は、下調べ以外にも双眼鏡で遠目から調べておくと発案したからだ。
「‥‥そう言われたら、オアシスの元町並みに人は余りいなかったと思うな‥‥うん、そう。和紗が言ってる、あの家にだけは人が出入りしていた。そんなに大きくもない家なのにかなりの人が出入りしている気がした‥‥まさか‥‥」
遠望と、付近での探索を聞いた者達は頷き合って意志を確かめ合う。
「やっぱり、あの作戦で行こう」
「判りました」
風の言葉に頷く白。そして、彼女にこれをとシャルグは荷物の中から何点かを手渡した。
「彼女‥‥我らが奪還を依頼されたカルミナ殿はシュピーゲル一家を率い、彼らはバの私掠船を幾度も退けた、強者である。彼女を幽閉‥‥ましてや殺害などしては、海の守りはいかがする」
「ええ。今までの話を聞く限り、カルミナという女性には賢人の資質を感じます。収容所からの脱出を手助けする程度なら、過度の助力にはならないでしょう」
シャルグから手渡された物を見て得心がいった様子の白が、背にしたバックパックに渡された品を入れ、移動する準備を整える。
「ただ、私としてはあの家屋に収容しきれない人数が出入りしていた件が気に掛かります。空中から見ても、裏手から出た訳でもなく‥‥天には私が居ましたから、天に昇ったか地に潜ったかと考えるのでしたら‥‥」
「矢張り、地下‥‥か」
白が大鷹に変じて空中から探りを入れて判明したことをアルフォンスはしばらく吟味して、己の考えを纏めた。
「値踏みする様にこちらの様子を探る者も居たが、敢えて接触する気配はない。こちらが離れるのを待っている節もある‥‥下手に手を出せない状況だ」
「それがどうしたというのであるか」
アルフォンスが思いがけず強気のシャルグに視線を動かした。
「国の大事より己の保身を優先するなど、貴族にあるまじき愚かな所業。 まさか‥‥その首謀者の貴族、敵国に通じているのではあるまいな?」
「さぁ‥‥手掛かりと言っても、判断材料が少なすぎて、憶測の域を出ないことばかりだ」
「であろうな‥‥」
今のところはと、言葉を濁すアルフォンス。
「えーっと‥‥カルミナちゃん行方不明って聞いて心配してたけど‥‥」
彼方が、まだ続く様子のシャルグの力説を聞きながら頬を掻く。
「砂漠か‥‥雲は出せるのは判ったけど‥‥最低でも二回‥‥かな?」
陽一は頭上の天候を見て溜息を吐く。
雲一つ無い空は、彼の最大にして唯一と言っていい、有効的な攻撃方法を素っ気なく否定している様に思えてくる。
それ程に、見事なまでの快晴だった。
●侵入
侵入部隊と陽動部隊に分かれた一行の内、陽動部隊として動いたシャルグ、フィリッパはアルフォンスと彼方の二人と別れてオアシスの周辺を散策する様に歩く。
「‥‥餌に食いついた様であるな」
「そうですか‥‥」
互いに、オアシスの水源を中心に動いていたシャルグだったが、愛馬に跨ると慎重に周囲の様子を探り、鋭い眼光で射貫く様に見た一軒の家屋目掛けて馬の首を巡らせる。
「行くぞっ!」
鞭の一閃に、サイラが応える。
嘶き一つをあげた愛馬が、人の数倍の脚力で蹴り上げる土埃を、背に靡かせながらシャルグは疾駆する。
「‥‥見事に引っかかってくれたようですね‥‥ただ、オアシスを調査しているだけでこれ程までの包囲網‥‥後はどんな尻尾を出してくれるのでしょうか‥‥」
楽しみですと、聞く人によれば物騒な呟きを残して、フィリッパもグンバーの鞍の上で鐙をしっかりと押さえ込む。
「充分すぎる程の誘導になりましたね‥‥」
腑に落ちない点は、いくつか残っているのですがとフィリッパは独りごちながら、シャルグに続いて愛馬を走らせる。
「始まったみたいだね‥‥」
「そのようであるな‥‥こちらも、動き出した‥‥」
静かなオアシス跡に響く蹄の音と喧噪を聞いて言う彼方と、一軒家から飛び出してくる人間を見て頷くアルフォンス。
互いに確認する方法は異なっていたのだが、その意味するものは同じとあって、二人とも直ぐに次の行動に移っていた。
「さぁ、行くのである」
「荒事は苦手なんだけどなぁ」
変装で誤魔化したアルフォンスと彼方の二人組は、共に馬上の人となり、既に騒ぎが起きた一角とはまた違う場所へと物騒な趣の男達を誘導する。
「ふむ‥‥無頼漢の者達と思いきや、なかなかの業物を持つ者も居る‥‥」
「それに、後から出て来た人って、少しは兵法を知ってる人みたいだね。巧く包囲網を作ってるよ」
互いに見る点が異なるのだが、貴族の一部が関与しているという事前の情報もあって、二人はさほど驚かない。
ただ、壊滅させるには相手が多いことと、捕らえても有益な情報を持っていそうな人物は追跡に加わっていない所を見ると、肝心要の人物達は恐らく家屋の中だと目星が付いた。
「カルミナちゃん、無事かなぁ‥‥」
「無事であろう。さもなければ、納得が行かぬ」
心配顔の彼方に、アルフォンスは太陽の傾き具合を見て頃合いだと踵を返した。
「合図だ。行くぞ‥‥」
「はい‥‥」
シャルグが勢いでフィリッパと言いそうになったのを懸命に堪えた様子を見て、苦笑する訳にも行かずフィリッパは言葉少なく彼に続く。
「‥‥あ。こっちこっち!」
侵入した時は三人だったのが、四人となって待機している岩陰目掛け、四頭の馬は進路を巧みに変えながら走り込んでいく。
「カルミナ殿は?」
「いかがであるか?」
アルフォンス、シャルグの問いかけに陽一は陽動部隊の背後から迫る膣煙を見て、次に天を仰ぐ。
「間に合え‥‥」
祈る様に、天を見つめる陽一。
その隣で、白から介抱を受ける人物は疲弊した感の強いカルミナその人である。
「ありがとう。‥‥正直、もう駄目かも知れないって‥‥時々思ってた‥‥こんな、無茶をさせて‥‥」
「気にするな、この程度の事など些細なことだ」
風が陽一に並んで、追っ手の騎馬を確認する。
「二頭か‥‥やれるか?」
「確実に行きたいので、お願い出来るかな?」
意識を集中させながら、目標を見つめて互いの顔は見ないまま返事を返した陽一の気配に、苦笑しながら風は応える。
「応とも」
「急いで下さい。効果はそろそろ切れます」
「無理はするな‥‥」
白は自らが施した魔法の効果時間を考えて言うのだが、カルミナにはその意味が通じなかったらしく、呻きながら上半身を持ち上げて冒険者達の動きを止めようとする。
「言うなよ。仲間のためなら命を懸ける、そうだろ?」
追っ手の数は馬が二頭。
確実にここで仕留めた方が後の憂いを立つことが出来ると、風が笑ってみせる。
曇天から、吹き抜ける一陣の風に生暖かい湿り気が帯びて‥‥。
「ヘブンリィ、ライトニング!」
天空から大地へ、閃光と、振動、続いて轟音が走り抜ける。
「凄まじい威力であるな‥‥」
万が一を考えて、金属を身につけた者達は下がっていたのだが、徒手空拳で挑む風だけがまだ息のあった追っ手に一撃を加えて打ち倒す。
「これで、大丈夫の筈だ‥‥」
「急ぐとしようか。追っ手は撒いたと言っても油断は出来ないのであろう?」
「そうですね‥‥これだけ追っ手を撒いておけば、大丈夫でしょうが、念には念を入れて‥‥」
部隊を、予め話し合っていた通りに二手に分けて脱出を計る一同。
「甘露とか、要りませんか?」
「間に合って‥‥るとはいわないけれど‥‥それよりも‥‥眠い‥‥から‥‥こっち‥‥見る‥‥な‥‥」
陽一の背で、段々と崩れ落ちていくカルミナが寝息を立てるのは程なくしてからだった。
「カルミナちゃん疲れてるんだね‥‥陽一君? 鼻の下、お馬さん‥‥」
「え? へ‥‥?!」
彼方に言われて、慌てる陽一から白とフィリッパがカルミナを降ろして束の間の休息を取る。
「いかがでしたか?」
「‥‥重犯罪人も、確かにいましたが‥‥彼女の罪も、あの場所では真実の様子でした」
フィリッパの問いに、潜り込んできた白が返すのは、井戸を用いた地下の収容施設は確かに重犯罪人を隔離する施設だったという。
「ただ、カルミナ殿の隔離されていた場所は、明らかに表向きの重犯罪人とは一線引かれていた様子。首謀者は、何事かを彼女から聞き出そうとしていた‥‥その様な可能性もあり得ると」
「首謀者‥‥その者の名は?」
シャルグは白に確信に関わる人物の名を求めて尋ねる。
「首謀者かどうかは置いて……キエという地名はご存じか? そこの、先代地方伯やらが関係するらしいが‥‥」
「戦乱によって何度か代替わりをした場所も多いと聞く‥‥」
「これは、一度ギルドに帰って話しを聞いた方が良さそうであるな」
フィリッパ、アルフォンスが考え込んでいた様子を、脱出用のゴーレムシップが到着したのを見てきた風が黙したまま見守る。
カルミナの浚われた理由は、彼女自身にあるのか、それとも‥‥。