【伊賀<煙りの末>】 出口なし! 西
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■シリーズシナリオ
担当:紺一詠
対応レベル:5〜9lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 2 C
参加人数:8人
サポート参加人数:5人
冒険期間:02月06日〜02月12日
リプレイ公開日:2006年02月14日
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●オープニング
●前回のまとめ
伊賀のおちこぼれの忍び、上野左(うえの・ひだり)。体は子ども、頭脳は大人! 真実はいつもひとつ! ――ごめん、ちょっとやってみたかっただけ。ざっと元へと還る。
肉体性別は男性としてこの世に受けながらも、女性としての生活を強引に、まわりのめいわくもかえりみずの彼女(本人が「彼女じゃなきゃやだーっ」といって地団駄をふむので、そうしてください)、本日もきゃらきゃら過ごしてます、に対して、
「それは別にいいんですよ」
とはいわば、上司にあたる、伊賀の上忍のひとり・千賀地保長の言。
「しかし、この左は忍びとしてもかなりの問題児。ぜひとも皆様『煙りの末』のお力を借り、鍛え直していただけませんか?」
『煙りの末』につきましては、いっしょうけんめいにがんばった長文が前回にありますので、割愛。お笑い実践集団とか、めざせ大阪で興行をっぽくなってきてる気もしないことはないですが、それも省略だ省略。伊賀はあくまで忍びの国ーーっ。
それで、顔見せを兼ねての野遊び、口笛吹きつつとはいかねど顛末始終は、それってけっきょくどうなったんだっけ?
●こうなってたらしい
「‥‥どうしたもこうしたも」
あぁ、空が青い。曇りだけど。
春は彼岸の彼方、海洋の果て、山峡の底、それはさながらけぶるような光芒はなつばかりで、冷たさばかりが身に沁みる。梅は咲いたか桜はまだかいな‥‥にも、まだ時のある、冬は半分をすぎたところ。
伊庭馨はべっとりと、大寒の冷気より凛烈な目線を、狩野琥珀に。
「どうして救助隊が必要になるんですか、琥珀さん」
「にゃにをー。これはなぁ、左への親心じゃねぇか。そう、落とし穴にはまった忍者が助けを求めてますが、あなたはどうしますかってな、難題だ。伊賀流の心意気(嘘)」
「キュージョとキューショって似てますー(わくわく)」
琥珀とべつに救助されなかった堀田小鉄、そういえば彼は琥珀とともに山をまわりながら鍋の具材をさがしまわっていたはずだが、腕を回してきゅっと竦めているのは具材は具材だが、
「うりぼうさーん♪」
秋生まれの小さなまんまる、おめめもくりくりっとを煮込むのはとんでもなく、話はうやむやになってたらしい。まぁ、お野菜たっぷりの山菜鍋もそれはそれでよかろう。ところでうりぼうさんは、ちゃんとお山に返しましたよ。ちっちゃい子はお母さんといっしょでなきゃね。
そして、いちおうが救助をする側にまわった高遠聖、白い手、やさしい手でぽんぽんと琥珀の埃をはらってやる。
「いけませんよ。琥珀さん、みんなに迷惑をかけちゃあ」
「‥‥黒の僧侶っていじわる」
「なにか?」
「べっつにー」
え、聖がなにをしたかって? あるいは、なにもしていないのか。それはお天道様だけが知っていればよくご内密にね、そういうことをチョクな言語にあらわさないのが日の本の民の美学ですから、聖も楚々と端整のおもだちをうすぅく笑みに崩して、
「きっとお宅の息子さんならこう云いますよ、『訓練される側にまわってみます?』」
「それはイヤ」
それらはすべて余談なのかもしれぬ。なにはともあれ、さておき、依頼、訓練の結果なわけだが――‥‥、
「(にこにこにこにこにこにこ)」
「‥‥持って来られたようだね」
久世沙紅良、のまえに煤けた顔ばせの左。エリーヌ・フレイアは飛泉の青い髪をしだれさせながら、そのなかの表情は左よりもずっとぐったりとした具合で、
「そりゃそうよ、私が付きっきりでしごいたんだから」
「わたくしもがんばりましたー」
夏目朝幸、はい・はい、と手を挙げる。
「朝幸もがんばったのですー。つくねといっしょに、対馨様の戦法をいっしょうけんめい考えてたのですよー。ねー、つくねー?」
「わん?」
「ともかく、密書を渡してもらおうかな」
沙紅良がさそうように手を出すと、左もおとなしく巻き筒をさしだす。それと、
あわせて三本ののびやかな光線が、一本は黄金、二本は純銀、
「えへ、シャラもとうとう『すぱるた』やれましたー」
銀色のかたわれはシャラ・ルーシャラのムーンアロー。残余は、エリーヌのおなじくムーンアロー、沙紅良のサンレーザー。三人の意中は、沙紅良が代表して、答える。
「忍びとあろうものが相手を疑わないで、どうするんだい? ミミクリーや人遁の術ということもあるだろう、詰めが甘いよ。『呆カマの墓』がたったらどうするんだい」
「だってだって、左っ」
うるるるるっ。上目遣い、両のこぶしを口元におしあてるのが、要領。
「左、愛する人をうたがうなんてできません!」
「‥‥愛かしら?」
「あいですー」
エリーヌ、シャラ、なんとはなしに顔を見合わせると、朝幸が「愛ですよー」と体ぜんたいをぴこぴこしながら諾をしめす。
「愛は無敵です。朝幸も無敵になりますですよー、にゃんにゃーん・こにゃんこー」
「‥‥あ、なんだか再び悪寒が」
馨、温みをもとめて懐に手をやれば、もしかすると真のひろいん・モモたん(‥‥女の子ですか?)はうとうとと世知辛いことすべて知らずに、お昼寝中。
左、ともあれ初回の訓練はなんとか乗り越えました。しかしそれも、大勢の監視があってのこと。忍びの任務はひとりでこなさなければならないものも多く、保護者同伴などもっての他。それに一度だけのおしおきでは、人間、諸事はなかなか身に付かないものです。
さぁ、此度は二度めの面会。皆様いかがいたしましょうか?
●前回、左がはこんでいた密書の中身
ところでさー、いつも思うことなのですけれど。
十手が受けにつかわれるものだっていうんなら、じゃあ攻めは日本刀でいいんじゃないかと。
「な、なにをするんだ。日本刀!」
「ふっ。今更純情ぶるんじゃねぇ、さんざんいままで俺と付き合ってきたじゃねぇか」
てなことが戦闘のあいだに起こっていても、おかしくないんじゃないかと。
「僕は心を入れ替えたんだ。僕だって武器だ、受けてばっかりはいられない!」
「そんな甘っちょろいこと云ってんじゃねぇ、自分ってもんを」
「僕はあきらめない、正々堂々と攻めてみせる!」
ってなこと、あったりしてー。きゃー。
いや、けれども、日本刀は存外に純情っぽく、じつはスクロール腹黒攻めもありじゃないか? わくわくどきどき?
(密にすべき書としるして、密書。たしかに)
(‥‥なにかまちがってしまった。精霊魔法のアレの続きは、また次回←やるらしい)
▽上野左(うえの・ひだり)
前回ちょっとしかやれなかったので、火を付けてみたくてしかたがないお年頃。
「はぁとに火を付けて♪」
はぁと、というより、心臓そのもの。心臓をつつむ骨格、肉片、ともに焼いてみたいお年頃。
そういえば、以前の訓練では、おやつしか用意してきませんでした。
●リプレイ本文
●鯖威張るサバイバル(提供:久世沙紅良)
久世沙紅良(eb1861)「いささか対抗してみたくなったのだが難しいものだね‥‥淡水だし」
狩野琥珀(ea9805)「サバじゃねぇ! って何?」
ごめんね、変な役ふっちゃって。燦然ってやつだよ、知る人ぞ知る。
伊庭馨(eb1565)は高槻笙を問いつめたくてならないけれど、すでに彼は不在だから、不動の結論が馨のなかで決定する。出しなに馨は、笙へ荷の整理をまかせた。時節柄、野外活動には必須の防寒着のとりそろえなどもそのうちだったが、馨、いざ目的の地にたどりつき荷をほどいてみると、
「どうして防寒着をはにわにしますか‥‥」
『まるごとはにわ』は防寒具としても利用できる、でもたいていの人はその他のおもにイロモノ目的で使用する、優れ物。これを本日は、たったの七両でご提供!
――‥‥馨は確信する。ヤツはヤる気だ、まちがいない。
「にゃんにゃーん?」
「あぁ、これですか。朝幸さん、必要なら使ってください」
「にゃーん♪」
これは「はにわ」よりはまだ少しかわいいかもしれない(や、はにわだって充分にかわいいぞ)まるごと猫かぶり。わきわき。モモたんさらいに馨へちかづいた夏目朝幸(eb2395)、しかし猫かぶりにかぶられて御機嫌だ!
「いーです――‥‥」
堀田小鉄(ea8968)、朝幸へ物欲しい目線をくれるけど、でも自分は十七歳だからこらえられるのです、いじらしくも辛抱する。でも、これくらいの興味ならば許される?
「まるごとうりぼうさんはあるですかー?」
それはまだないみたい。ほしいよね。
ごめんなさい、近江はなくなりました。あのへん鬼が出るし、魔もよこぎるから、けっこう危ないよ? かなり規模はおちますが、嵯峨の広沢池でいかがでしょう? いいよね。ね(強引にもってゆく)?
いにしへの人は汀に影たへて月のみ澄める広沢の池――と、かつての武将が歌にも詠める。
今回の作戦は、その名も「ひとりでできるもん!」。
課題は、自力の食料調達。古来より人類は食料へ対する飢餓と思慕をつのらせて、進化を発展をくりかえしてきた。僕たちは同時には立ち得ない。喰い喰われて、真の一体となって成就する、骨まで愛して、愛されて!
――‥‥そんなはなしだったかしら。
「むぅ」
が、シャラ・ルーシャラ(ea0062)は白いかんばせをむずかしくして物思いにふけっている。
「おばけがでるってききました‥‥」
嵯峨野だし。化野は鳥がついばむ風葬の荒野、しばし歩けば自(以下、ほんとうにやばいので自粛)。
「ふぇん‥‥おばけこわ‥‥うぅんっ」
首を何度も横へふればおのずと勇気凛々わきあがってくるかと、しかし想像するだにあらましを深くする恐怖はシャラをしっかととらえて離さない。シャラは左へ声かけようと、隣で寝て欲しい、と、けれどそれを云いきる前に、たちはだかる、いやそんな無粋な作法ではなく、羽毛の舞うように、沙紅良はふわりと身軽な優美でシャラをとめた。
「シャラくんを左くんになぞもったいな‥‥いやいや。特訓のためにここへ来た左くんに負担をかけるのは、忍びない。私といっしょに眠らないかい? 私の胸はあたたかいよ、私の体をすぎていった女性たちが皆そう証言してくれている」
「久世さん、左さんのためにとっておいたライトニングサンダーボルトだけど、特別ご奉仕で先に浴びてみたい?」
エリーヌ・フレイア(ea7950)さん、ありがとう。さすがに条例にひっかかる、たぶん、ここにゃ条例ってないのだが。
「どうせなら聖くんになさいよ。お化けでしょう? お坊さんならいざというとき、きっと祓ってくれるわよ」
「え゛?」
エリーヌに突然のご指名、店長ぼとる一本はいりましたーっ、高遠聖(ea6534)は右往左往。
「あ、あの、その」
「‥‥いっしょにねてくれます?」
「寝、寝てって。僕、黒の僧侶ですから、白の方々みたいに直接の慈愛をあたえるのではなく、はるか彼方から見守る方が得意で」
シャラがうるむまなざしに訴えれば、聖、しどろもどろ、教義を必死に説いて思いとどまらせようとするけれど、けれどこの場合は沙紅良ほどの問題もないような気もする。聖は、ほれ、オカマの一z(ぐぁっしゃ←ブラックホーリーっぽい効果音)。
「あ、いいものがありますよ」
と、ここで左がようやくあいだへはいる。
「寒くなったらいけないなーと思って、持ってきたんです。『どこでもやなぎ』。これを着てじっとしてれば、きっとお化けも通り過ぎてっちゃいますよ」
「わぁ♪」
しかし、聖、ぽつりと平和をうがつ。一般常識で。
「日本のおばけってふつうは、柳のしたに立つものじゃないですか?」
二月
は、
寒い。
と、そこへ、ガンガン、
「御飯だぞーー」
鍋へおたまをうちつける、金属と木工の調和、うすい胃をかきならす交響詩。前回、牡丹鍋を食べはぐれちゃったじゃないですか。だから、今回、せめて初日くらいはおいしいものを食べたいと、そしてできることならのんびりした環境で、と、聖のたっての希望もふまえて、今日だけは琥珀がつくることになっている。
「こてっちゃんが獲ってきてくれたから、ごちそうだぞー。こてっちゃん、ありがとな(かいぐりかいぐり)」
「えへへー」
「うまうまですー♪」
「シャラちゃんもありがとな。はい、うさちゃん飴細工」
シャラ、食べる前から見た目で味を決めているけれど、それは馨のものとはまた異なる確信なのである。
「あ、左、調理はちゃんと最後まで見てろっていったろ」
料理というほど手を込んだ品々ではない、が、新鮮な原料は素朴にしたてるのがいちばん味が引き立つというもので、単調な手順にこそ深淵の技術が入り用なのも、それぞれがそれなりの職人である冒険者たちはきちんと承知していた。ルクス・シュラウヴェルやレベッカ・オルガノンが持たしてくれた西洋風の焼き菓子(ぱんけーき☆)もあいまって、野外とはとてもかんじられぬ贅沢な幸福が、くちくさせる。
――‥‥なごやかに更ける一日、香ばしい匂いはかえって彼らの神経を安らかにする。
ところで、琥珀。いいなぁ、俺も息子といっしょの御蒲団、と呟いた琥珀、草履がどこからともなく飛んできやしたりはしなかったけれど「わっちゃ!」だしぬけに炎が爆ぜたりして、軽い火傷、息子さんってもしかして、晴明さま@呪詛の大家らしい、に弟子入りしませんでした?
いつものことだが、訓練はいつになったら開始されるのでしょうか?
この問題はてれびのまえの皆さんも御一緒になってお考えください。てれびって何よ。
●妨害は棒がイイ(提供:今回も久世沙紅良)
左「棒といえば忍法棒枯ら‥」
エリーヌ「(どがっ)」
ライトニングサンダーボルト、雷火は青く、映る影の黒々と長いこと、よく意味が分かりましたね、エリーヌさん。いや調べなくていいから、そこ。
翌日、以降。
「――逝っておいで」
静けさばかりが際だつ広沢池に、どごん、と、喩えるなら木靴の踵で木の舟の艫を押しだしたような、愛以外のすべての感情で蹴りこんだような、まごうことなき事実だそれは。慣性にしたがいゆらゆらと漂流をはじめる小舟の後ろ姿を、沙紅良は枇杷葉のかたちの笑みをつけて、肩の荷が下りたというように、首をまわしてコキリと骨を鳴らした。
「『皆』辛いのだよ、可愛いキミに試練を与えるなど‥‥けれど心を鬼にして耐えているんだ。『皆』キミの命を救いたい一心で!」
私ではなく、「私」以外の「皆」が。沙紅良のことばには見えないはずの文意が、ほのぐらく揺らぐ。
「それにしても、よかったの? 私は羽根があるから様子を見に行けるけれど、」
エリーヌはシフールだから、
「湖じゃなくて池といったって、左くんの流された方向まではけっこう距離があるわよ。みなさんはどうやって左君を指南するつもり?」
「大声」
喉を嗄らして、はりあげる。どこをとっても、近所迷惑。
「シャラはテレパシーがありますから、とおくってもおはなしできるのです。えへん」
「わたくしは左さんが溺れるまで、待ちますよー」
朝幸、笑顔で御報告。放置ぷれいですから、こちらもじっと我慢の子なのですー。それに、朝幸の今回の担当は投擲指導だったわけだから、
「いざとなったら、左さんのお舟むけて、石をぽいぽいっと投げればいいだけなのですー」
「俺はとっくに終わってんぞ」
琥珀、実は手が早い‥‥とか書くと沙紅良的な誤解をまねきそうだが、やることはとうに済ませたという意味で、そろそろかすむ孤影の左のあたまのあたり、あきらかに人には不自然な突起がうかがえる、あれは琥珀がそろりと自ら湖心の術を演じて仕込んだもの。
「『湖心の術』の特訓だ。池で湖心の術なんてしゃれてんだろ?」
馨は車菱を手に取った、一個しかないそれを湖に放り出すのは少々心がいたむけど、相手は動きのすくない舟の上、たぶん命中するだろうし、なーにかえって免疫が付く。聖にはブラックホーリーもあることだし、だいいち聖は宣言したように黒の僧侶で看視が宗教的使命でもあるわけだから。総員それでもなんとか己の役回りを見つけ出す中、ただひとり、わたわたしてるのは小鉄で、
「大木がありませんーっ」
広沢池のまわりは、意外と木立がすくないのだ。しかたがないので、次善の策。見渡せば、今日の面子でいちばんの長身なのは琥珀、彼は大の男らしく肩付きもしっかりしてるから、小鉄の目的にぴったりだ。
「琥珀さん、失礼しますー(ぺこり)」
「あ、ども」
小鉄は琥珀のうしろに隠れて、背中から顔だけそっと出し、
「僕はこっからなまあったかく見守りますー。こんなふうに「左‥‥」――じょーずですかぁ?」
アキコ式。
よしゃ、全員配置についた(敢えて、深く突っ込まないことにした)。
いや、そうでもなく、知らず知らずのうちにひとり消えている? 陰陽師が、水干姿を見失った代わりに、冒険者らの視界をふぃと過ぐる、異形の、まちがった、異国の身なり。
「私は沙紅良ではない、試練と試験の妖精サクラメント。今日は皆の熱い試練魂に惹かれて、わざわざ応援に参上したのだよ」
イギリスはケンブリッジ、フリーウィル冒険者学校における制服に、蝶々の流線の仮面をつけて登場した、沙紅良によく似た人型の異形(今度はまちがってない)。
‥‥‥‥えーと、行方不明者のあつかいは、おかしい人を亡くしたという方向でおねがいします(敢えて、さらりとも触れないことにした)。
訓練対象の左を送りだしたものだから、意外とヒマになってしまった冒険者たち、小鉄は行儀よく琥珀のうしろを守りながら、ふと思いついた疑問を口にする。
「左さんはー‥‥天然でしょうかー?」
天然ってもいろいろあるわけで、天然果汁とか天然ボケとか、小鉄の云いたいのは「左は火力調整ができるか否か」ってこと。
「そりゃ、こういうわけだよ」
生粋の伊賀忍、琥珀が小鉄に教授する。火遁の術によってまきあがる火焔は――魔的な効果をまったくともなわない只の光熱だから、条件さえ整えてやれば、はじめの対象を越えて延焼させることも可能。沙紅良がどこかで指摘してくれたとおり。なお、左の腕前はいわゆる「初級」ぐらいである。
「つまり‥‥無意識のうちに、燃えやすいもののあるところで、火遁の術をやっちゃってるってことですかー?」
そゆこと。で、たしかに、そういう意味でなら天才かもしれぬ、物の壊れやすい線を見定める少年のように。
‥‥早朝の池は、靄よりも濃い靄につつまれ、厚絹でしっかりと操をたてる乙女のようでもある。馨は溜息をほとばしらせる。
「伊賀の刺客から逃げ切ることを、そろそろ真剣に検討するべき時期に来ているのかもしれませんね‥‥」
「かおるさん。さくらめんとさんがおばけだといけないですから、ムーンアローちくちくしちゃってもいいですかー?」
「いいと思いますよ、シャラさん。存分に、やってください」
「わー♪」
馨はもう一度きり、深く重く暗く吐息を、千々の心の乱れは砕ける磯の荒波をおもわせた。あぁ、なんか池のほうか静寂とはまったく反対の噪音が。エリーヌが触れれば切れそうな薄羽をはためかせながら、水面の中心にのりだす。
本日の結果の詳細は、続報にて。
一訓練完全燃焼! 押忍、忍びを押すと書くのです!!