【伊賀<煙りの末>】 出口なし! 南

■シリーズシナリオ


担当:紺一詠

対応レベル:4〜8lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 40 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:03月02日〜03月07日

リプレイ公開日:2006年03月10日

●オープニング

「なぁ‥‥ツヴァイよ。私はシャラを育て間違ったのだろうか?」
「えー、律吏ったら今更何を言ってるの♪ 君そっくりじゃないか、うんうん」
「そっくりか‥‥ならば、このままでもかまわぬな」
「はっ。シャラはもしかして、ふたりのあいだのフリンのこどもですかっ!?」(←本人どこまで分かって云ってるか、不明)

 以上、あなたの心を癒すために、一分間劇場でした。

●怖い物には目をつぶって力の限り後向きに走り抜けろ
「左くんの処世訓はそんなところみたいね‥‥」
 エリーヌ・フレイアが上野左を数日観察して得られた結果、一口にまとめればこんなかんじである。
 冒険者のボケがはげしすぎるせいで(不可抗力です、きっと)、なんだかんだで左の性質を見極めにくくなってきているが、エリーヌはひじょうに根気よく、いっそかいがいしいくらい、左のかたわらに付き従った。なにくれとなく話しかけ、あいまに荷の按検をはさみ、ライトニングサンダーボルトでよけいと思われるもの、つまるところはほぼ全部、を焼き捨てたり。
「左くんはどんな男性が好みなの?」
「難しいですねー、あまり好き嫌いはないほうだと思いますけど」
「じゃあ、具体的にしましょうか。今回の男性陣はよりどりみどりだけど、誰がお好みかしら?」
「えー、複数おもちかえりはいけませんか?」
「‥‥‥‥第三希望までよ」
「じゃあ、第一希望は沙紅良さま。第二希望は琥珀さま、第三希望は馨さまで、おねがいします♪」
 まるで統一感がない。雑食性のわりに堪え性が足りないのはどうしてだろう。
 左が「褒められてはじめてやる気を出す」性格なら(もっともエリーヌは「褒められすぎると調子にのって失敗する」性格ともみている、それはあまりに的を射ている)、御褒美を段階ごとに引き上げる、というのもひとつの方策だ。が、最高級の味わい、西の関鯖東の松輪(ところで、鯖にこだわりすぎですな)があぁいうふうに非協力的なので、万全の景品を用意できるとはいいがたい。この際、ほんとうに寝込みをおそってやろうかしら、でも彼をむだによろこばすだけよね、とエリーヌはさらなる真剣な深慮にいたる。
 御褒美ねー?

●放置ぷれい(ひとりでできるもん作戦)を報知
伊庭馨「ここに来ましたか‥‥。ある意味、公開ぷれいですね、こうなると」
堀田小鉄「しっつもーんですー! ほーちぷれい、ってなんですかあ?」
馨「煮ても焼いても、食べられません」
 つまり、食べられないのに煮たり焼いたりすることだ。婉曲的に正解だったら、どうしよう(答:どうもしません)。

 それでどうなったかというと、舟はいともあっけなくしずみました。ぼうぼうと真っ赤真っ青に燃え盛る火に包まれながら、虫も土からひょっこり迷い出る昨今、あぁそろそろ野焼きの季節でもあることだから、ちょうどいいといえばちょうどいい? けれど、湖のどまんなかで野焼きはねぇよな、だいいち野がないし。
「あ、でも、お魚みつけちゃいましたよー」
 負けない。おんなのこだから(ツッコミ不可)。
 沈んだついで。左の額にのせたとっくりには、いつのまにやらお池の小魚ぴちぴち跳ねる。お、ちゃんと食べ物ですよ、でも、
「‥‥あれは食料を獲った、といえるのでしょうか?」
「いいことにしない? 俺らも腹へったし」
「鶏さんが待ってますよー」
 針差し、焼き鳥♪ 香ばしく、肉の匂いが立ちこめよう。

●ここの存在価値はなんだろう‥‥。
 食い食われる情欲、これが前回の裏の御題だったらしいので「よし寺田屋のおそうざいでや」と思ったが、どこかのお登勢さんに毒を入れられかねませんので、やめました。しかたがないので、いただいた質問「何故に左さんは火を点けたがるのか」を実況中継でお伝えいたしましょう。
「‥‥」
 一日め、できない。
「‥‥‥‥」
 二日め、まだできない。
「‥‥(すやすや)」
 三日め、お昼寝。
「‥‥(ぱくぱく)」
 四日め、食べ放題。
「‥‥(ごくごく)」
 五日め、飲み放題。
「‥‥(すいよすいよ)」
 六日め、寝放題(お昼寝ふたたび、ともいう)。
「『火があるとあったかいから』、できましたーっ(歓)」
 七日め、完成の憂き目をみたが(文法まちがい)、ふりだしへともどる。

 ごめん、はてしなく意味がなかった(笑顔)。

(‥‥これほどまで進行に寄与していない文章もめずらしいな)
(でも、これまでのなかでは一番まともですよね。たぶん)


▽サクラメント
ジーザス教におけるいわゆる「秘跡」、神の仁恵を人に与える「洗礼」「聖体」等の七つの儀式のこと。
だったんだよ。

▽上野・左
ちょい変動。火遁の術の他に、なんの奇蹟か湖心の術を修得しました。れべるあっぷ?

●今回の参加者

 ea0062 シャラ・ルーシャラ(13歳・♀・バード・エルフ・ロシア王国)
 ea6534 高遠 聖(26歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ea7950 エリーヌ・フレイア(29歳・♀・ウィザード・シフール・フランク王国)
 ea8968 堀田 小鉄(26歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea9805 狩野 琥珀(43歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb1565 伊庭 馨(38歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb1861 久世 沙紅良(29歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2395 夏目 朝幸(23歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

高槻 笙(ea2751)/ レテ・ルーヴェンス(ea5838)/ 榊 清芳(ea6433)/ ジェイド・グリーン(ea9616

●リプレイ本文

●温泉湯煙慕情の旅・苦悩一位くのいちは見た・放浪のなんでもまるごと屋と純情の熱湯風呂!
 高遠聖(ea6534)さんから「温泉〜」の部分を、久世沙紅良(eb1861)さんから「苦悩一位くのいち」の部分をいただいております〜♪
高遠聖「僕ですか? 僕までとうとう晒し者?」
伊庭馨(eb1565)「ちょっと待ってください。これまで散々ネタにされてきた私の立場は‥‥」
 だから、「さ・ら・し・も・の☆」と書いて「人気者」と読みませふ。

「今度はまるごとわんこが欲しいのですー」
 ぽかぽかにゃんにゃん、ねこかぶりっ♪
 お気に入りになったらしい。まるごと猫かぶりをぐるっと着込みながら、夏目朝幸(eb2395)、馨に上目遣いうるるるる。でも、そんなことを、云われたって。
「さすがに、まるごとわんこはありませんね」
 だいいち私は、なんでもまるごと屋さんではないのですが。
 ――‥‥馨のふところにはにゃんにゃんこ、春本のたぐいじゃなくって、仔猫のモモたんお団子のように体を丸めてるところを、いつものように朝幸はモモたんをじぃっと付け狙い、防災?のためにジェイド・グリーンから譲り受けた根付け一本・猫仕様ではとうとうごまかしきれなくなったのかもしれぬ。たくましくなった、といっていいだろうか?
 が、狩野琥珀(ea9805)がぴんと指を差してしめすことにゃ、北北東から幸運のきざしあり、
「あんなところに、旅のなんでもまるごと屋さんが歩いているぞ?」
「わー♪ おじさーん、そっちのろばーとさんをみせてくださいなのですー」
「私は、クマさん♪」
 秒速でなじむシャラ・ルーシャラ(ea0062)と左の片脇、「自制心が強く、あまりあわてない」馨が「何ごとも真剣に取り組む」身熟しで「姿勢がよく、いつも背筋をぴんとしている」を生かしたきれいな逆蜻蛉を決めて「育ちのよさそうな顔立ち」をぐしゃりとした。いなばうあー(実はスマッシュEXの変形とか、どうだろう? ←答:どうもしない)。
「そう来ましたか。もはや、なんでもありなんですねっ?!」
「そう。古き世の因襲と常識は滅び、私たちには混沌たる未来だけがのこされた。この激動の時代、新たな地平をきりひらく算段を、温泉にでもつかりながら私とともに語り合わないかね?」
 それ(旅のなんでもまるごと屋)とこれ(わくわく混浴)とが、いったいどうすれば、つながるのか。本人だけが、知っている。
 時と場所と種族もその他もろもろを選ばぬ、性別だけはさすがに選ぶ、しかしできることならもう少し言葉はえらんだほうがいい、久世沙紅良(eb1861)。いっそ国語とゆうか。レテ・ルーヴェンスに声をかけるけれど、ジャパン語を解さぬレテにとっちゃ猫に小判・月夜に提灯・闇夜の礫。
 レテはとっくの昔に、荷馬に姿を変えている。なんらかの魔法で変身したのではなく、約定の品をのこし、去っていたというだけだけど。
 さて、京畿。惹句にあるとおり、本日は皆で温泉に参ります。
 温泉というのは存外どこにでもあるものだけれども、効能面からえらんでゆく、という方法もある。
「美肌と美容にきくものがいいわね。神経痛やら五十肩やらは、べつになくてかまわないでしょうけど‥‥」
 エリーヌ・フレイア(ea7950)、温泉博士? 各地の温泉をさぐったはずみに、豆知識やら流儀やらにもそこそこ通じてきたらしい。先ほどの旅のまるごと屋から譲り受けた、温泉案内図みたいな紙きれをひろげながら、検討にはいる。
「‥‥外傷・骨折・火傷あたりは、あったほうがいいでしょうね」
「あー待ってくださーーいーーー」
 がしゃん、ばこん。
 ――‥‥みょうに騒がしい。
 羽釜だろうか、銅壺だろうか? 人間ひとりその内側にうずくまれるんじゃないかというくらいにいかつく奥深い金属製の、それ。ってーことは意外に高価なんだろうなぁ、だからもしかすると片田舎にはないかもしれないってんで、京都からもちだした予備を、堀田小鉄(ea8968)、がこがこ、樽を転がす要領で運搬する。でも、それはおとなしく運ばれてはくれなくって、たまに右へ、ときには後退まで、じゃじゃ馬馴らし。小鉄にはすでに、多数の、擦り傷切り傷打ち身がうっすら浮かんでいる。
「ねぇ、小鉄くん。それは、兎馬にのっけたらどうかしら」
「でも、どんちゃんが持ちたくないっていってるのですー」
 どんちゃんこと小鉄の驢馬が、ぷふぅ、と鼻をならして同意すれば、そう云われればそうよね、と、共感のエリーヌ、
「私もそんなもの、アイリスにもたせたくないわ」
「かぶらはどう? やっぱイヤか?」←琥珀
「ろばーとさんとおかまさん‥‥(どきどき←何故)」←シャラ
 急遽結成、驢馬同盟。かわいがってる人、多いみたいだから。
 そういえば、お馬をゆずりうけたばっかりの御仁もいた。沙紅良はうっとりと、その、移徒楽(いさら)の首筋をなですさる。
「レテ君、いつのまにかずいぶんと首がのびたようだね? なんら恥じることはないよ、女性のうなじは自然における曲線の中で、もっとも美しいもののひとつなんだから。ふふ、神さびるものに触れたからだろうか、私の指先も蕩けてぴりぴりしてきたよ」
「久世さん、あなた蛇に噛まれてるわよ。眼病効能も入り用かしら?」
 いや、もっとこう、頭部にちかいところを治してあげてください。

●Hold me 褒美(提供:沙紅良)
沙紅良「こう見えてもイギリス語にはいささか心得があってね。発音もなめらかだろう?」
 でも、ちょっと前後が苦しい。
 ――‥‥あいもかわらず、なかなか本編にはいりませんけど、だって始まるまでが依頼ですから。←逆です・ふつう

「着いたぜーっ!」
 と、声を高らかに振り立てる、琥珀がのたまうた料地は、おわんを伏せたよなまるっこい丘陵地で、てっぺん、天の原をひとりじめしながら湯に浸れば身も心もほかほかできるという、ステキな見晴らし。
「それじゃ、僕行ってきますです」
「よし、俺も。今夜のごはんは釜飯だぞーっ」
 琥珀はふもとへ夕食の材料を調達に、小鉄もやはりふもとに五右衛門風呂(という云い方は、実はあんまりしない。五右衛門さんはまだ、煮られてないので。ですから以降は、長州風呂という表現を採用いたします)につかう釜を調達に、たしかに万が一の欠損のために持っては来たけれど、地元にいいものがあるならそれも使ってみたいじゃない。
 が、小鉄、風呂釜という事象をはたして正確に心得えているのだろうか?
「お風呂はお釜によく似てますから、」
 うんうん。それはまちがっちゃいない、そこまでは。
「オカマの一族の聖くんによく似たお風呂を、探してくればいいのですよー」
「ええと。今、よからぬ目的で名前を呼ばれたような‥‥」
 聖がなにかを予感したときには、琥珀も、小鉄も、まるで小さい芥子粒のようになって駆けだしているので、聖はなにも感ずることができないのだった。
 って、無駄な休憩はいけませんのことよ。訓練は一日にして、ならず。
 此度、わざわざこんなところ=温泉まで訪れたのも、すべてはそれのため、依頼のため。うたたねする寸暇も惜しかったような、けれども、
「‥‥僕たちの頭数ってこんなに少なかったでしょうか?」
 聖はくるくる、四辺をみまわした。うん、足りない。が、遠からず、見失った彼等を突き詰める、
「清芳さん、おひさしぶりですね。とりあえず旅の垢でも手に手をとってながしにゆきましょうか? そのあとはしっぽり、子作りでもひとつ」
「甘いよ、馨くん。子作りだなんて、そんな率直な口説き文句はいけないね。どうだい、清芳くん。私といっしょに深夜の訓練にいそしむのは」←あんま変わらん
 榊清芳を口説きたおす馨を、沙紅良、指南しているようで実はみずから清芳を言い籠めようとしている、そこを馨に刀をつきつけられて、なにをしているんだ、三人あわせて平均年齢二十五.三歳(清芳「‥‥私は抜かしてほしいかな」)。
「シャラちゃん、朝幸くん、ああいうおとなになっちゃダメよ」
「‥‥‥‥はっ。ごめんなさいです、シャラ、おはなしききのがしちゃったです」
 エリーヌにぺこぺこ。シャラは陶然と、小鉄のもってきた風呂釜に見入っていたので、
「アレに入ったら、卵から顔を出す雛鳥さんの気持ちでしょうか(うっとり)」
「朝幸がたまごもってきたですよー。温泉たまごにして、琥珀さんがごはんつくってくれるまでの、おやつにするのですー」
「えぇっ?! お風呂にはいると、おやつにされちゃうのですかー?(がーん)」
 さて、問題にたちかえろう。エリーヌ曰く「女は度胸、男は愛嬌、オカマは両方」。今回の目的はずばり「女度をあげる」! くの一にお色気は必須、某有名くの一の蜉蝣さんも云っている! あれ、云ってたっけ?
「優しげかつ儚げな所作は得することも多いのです、たとえ中身が黒の宗教のようにまっくらけであっても」
 聖がくるめると、奇妙な説得力がある。それが僧侶の説法の手際のせいか、他に子細があるのか、はてさて。
 エリーヌがたしかめたところ、おやつばかりの左の行李だが、身仕舞いの御道具もないわけではなかった。紅の小鉢に、眉墨、わずかな香油。
「えらいえらい。最低限のことはやってるのね、でも、まだまだじゃないかしら。それに、数が少なくない?」
「だって左はまだ十代で、お肌がぴっちぴちですから♪」
「‥‥‥‥」
 シャドウバインディングで緊々(と書いて「びしびし」と読みます)と結わえ付けたところで、エリーヌ、ライトニングサンダーボルトを炸裂させる。青白い雷火に総身を染め抜かれ、褐炭のようになった左に沙紅良、
「どれ、見せてごらん」
 忍び寄り、小鉢からひとさしすくう紅付け指、左の唇にあてがった。
「‥‥これぐらいの飴は耐えておかねばね」
「ええっ。紅をなおすときは、口移しがお約束です。ね、沙紅良さまっ?」
「ただいまーーっ。いっぱいもらってきたぞ、鳥肉、ごぼう、れんこん、ごぼう、干し椎茸。夕飯は鳥五目釜飯にするけど、みんな好き嫌いしないでちゃんと喰えよ」
 沙紅良の唇の操は、いきなりの出戻りで守られた。琥珀、どうみても必要以上の食料をかかえている。もちろんでーす。小鳥の合唱のようにせいぞろいした返答に、琥珀は満足して首をふる。
「おぉ、きれいになったじゃないか。左」
「そうですか? やぁん、左はもともと」
「ん、まだ風呂の用意ができてないのかよ。しかたないな、左、やるぞ!」
 琥珀、左のうわごとにとっととけりをつけてやる。
「ここから一里先に源泉がわいてるってよ。そこからお湯を汲んできて、釜をいっぱいにする。どちらがたくさん往復できるか、勝負だ!」
「えー。めんどうなの、いやですー」
「御褒美に一番風呂をゆずってやるから! もっといいもんもとっておいてあっからよ」
 なかば左をひきずって駆け出す琥珀。さて、行っちまったふたりを見送って、がんばってお風呂の用意をしてくださーい、んしょ、んしょ。シャラは三日月のリュートをひきずり、地表におさめる。
「シャラ、じゅんびばんたんになりました。おうたをうたって、こはくおじさんとひだりさんをおーえんするのです」
「歌姫をひとりきりにするのも、野暮だろう。では、舞いをひとさし」
「ちんとんしゃん♪」
 シャラは京でおぼえた弦楽をぽろりとつまびく、常磐津節とか。
 三十五歳とオカマが数往復しながら全力疾走するうしろでは、シャラのお囃し、まるで駆け足へからみつくかのような緩めの戦慄、そして、沙紅良がゆぅるり蝶よ花よと舞う。
 ――わりとありえない光景だ、と思います。

●その夜、羽を伸ばして、
「いっぱい見つけてきたですよー、聖くんのそっくりさん」
 大樽、釣鐘、は、まだよしとしよう。聖に似ているかどうかはともかく、風呂として使えないことはない。
 が、「にょろすけくんは、聖くんと生き写しですー」「うりぼうさんも、お誘いしてきましたー」「あちらの河に遊んでいらっしゃった河童さんもー」似てるのか、聖と。‥‥そうか。
「聖くん、これでさびしくないですねっ」
 ひとりで湯に浸かるという聖――背なの傷がめだたぬように――へ、小鉄は彼厳選のおともだちをおしつける。はは、と、聖、こめかみ引きつらせながらも、あくまで純粋な好意のまえには、礼を述べるしかない。
「はぁ。ありがとうございます。着替えまで仕立てていただいて‥‥」

 紫陽花の浴衣、むろん女物。

「これを置いたのは誰ですかー? 怒りませんから(嘘)、出ておいでー?」
「左さんにあげるつもりだった浴衣を、うっかり、渡す相手をまちがえたような気がしますねぇ。ははは。幻ですよ」
 高槻笙から借り受けた浴衣は、そういえば相手へわたす名札まで笙が付けたのだ、と、一日のできごとふりかえりつつ、馨はずずっと茶をすする。
 琥珀の炊いた釜飯の匂い、香ばしく立ち込めて、そろそろできあがりのよう。けれども、はたして実際にそれを食べられるかどうかは、別問題だ。