●リプレイ本文
●国境を越えて〜大珊瑚礁〜
──まだウィル・フロートシップ停泊場
「‥‥つまり、この巨大な奴も積んでほしいと?」
高速艇ロータスがランに向けて出港準備を行なっている最中。
オルステッド・ブライオン(ea2449)は甲板で作業していた整備員に話しかけていた。
目的は一つ、今回の大珊瑚礁捜索について、ペットである『水神亀甲竜』を搭載できるように頼んでいたのである。
既に他のメンバーのペットは、甲板下の『兵馬厩舎』に納められている。
ただ、オルステッドの水神亀甲竜だけばデカく、その場所に収まらないのである。
「ええ‥‥なんとか御願いできないでしょうか?」
両手を合わせて頼み込むオルステッド。
「まあ、後部甲板が開いているから、そこに繋いでおくといいよ。咬まないだろう?」
「大丈夫です。しつけはちゃんとできています」
ということで、無事に水神亀甲竜も同行可能となった。
「あとは‥‥実際に現地を探すだけなのですが‥‥」
と呟くと、オルステッドは乗組員達から情報収集をすることにした。
──ラン北西、大珊瑚礁地域
ゴゥンゴゥンゴゥンゴゥン
「うわあ‥‥凄い、いい眺めだねえ。これだけでも来た甲斐があるというものだよ」
高速艇ロータス甲板上から、大珊瑚礁地帯を見渡すアシュレー・ウォルサム(ea0244)。
「この眺めはアトランティスならではでしょうねぇ‥‥。天界ではこのような光景は見れますか?」
とアシュレーに問い掛けるのはこのロータスの艦長である『後藤喜市』である。
「そうだね。俺のいたイギリスでも、こんなに凄い光景を見る事はできないだろうねぇ‥‥」
と満足そうに告げる。
「艦長。今から魔法で航路を確定しますけれど、同行して頂けますか?」
そう告げているのはシルバー・ストーム(ea3651)。
この大珊瑚礁地帯の海図を頼りに、シルバーは『バーニングマップ』により人魚の住まう集落を探し当てようというらしい。
「ああ、そうでしたねぇ。ではさっそく魔法とやらを見せて頂きましょうか‥‥」
と告げると、後藤艦長はシルバーと共に客室へと移動。
すでに話を聞いていたメンバーや手の空いている乗組員が集まり、シルバーの魔法をじっとまっていた。
「遅れて申し訳ありません。それでは始めます‥‥」
とだけ告げると、いつものように無口になり‥‥正確には、意識を集中し、スクロールの発動を促しているらしいが。
──ヴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン
静かにバーニングマップが発動。
やがてシルバーの手にしていた海図がテーブルの上で燃え上がり、焼け残った灰が海路を示した。
「航海長、この海路は判りますか?」
と問い掛ける後藤艦長に、航海長は静かに肯く。
「魔法というのはたいしたものですね。この海路ですと、明日には到着しますよ?」
とシルバー達に告げる航海長。
「では、あとはよろしくおねがいします‥‥」
と言うことで、一行はこののち、マーメイドについての情報収集を開始したらしい‥‥。
●伝承の中に住まうものたち
──大珊瑚礁・ポイントD
その場所は、大珊瑚礁の中でもとくに入り組んだ場所。
普通の船ならば、その激しいまでの海流に阻まれ、ここまで到達することは出来ない。
さらに、テーブル珊瑚の群生により、浅瀬が彼方此方に発生している為、海路ではとうていここにくることは不可能であろう。
だが、今はフロートシップがある為、その上空まではたどり着く事が出来た。
早朝。
高速艇ロータスは無事に目的の場所にたどり着いた。
──パジャッ!!
と、ロータスがたどり着くと同時に、その海域にいたマーメイド達が次々と海底に向かって飛込んでいく。
「ああっ!! 折角たどり着いたのに‥‥」
甲板上で『ゴールドフレーク』を片手に、イコン・シュターライゼン(ea7891)がそう呟く。
それで魚をおび引き寄せて、オーラテレパスで話をしようと考えていたイコン。
もっとも、マーメイド達が潜ってしまった為、そのまま作戦は続行。
──パシャパシャシャッ!!
次々と群がってくる魚達の群れ。
そしてイコンはオーラテレパスを発動。
『マーメイド達は棲み家に戻ったのですか?』
『オヨイデイッタ』
『棲み家は深いのですか?』
『シタ』
「どうですか? 何か判りましたか?」
とイコンに問い掛けるアリアン・アセト(ea4919)。
「ええ、マーメイド達は集落に引き込んでしまったらしいですね‥‥」
「そうですか‥‥しかし、そうなるとどうしたらいいのでしょう‥‥」
とアリアンも深く考え込む。
「後藤艦長の話だと、1度潜ってしまったマーメイド達は、そうそう海面には上がってこないらしい‥‥どうする?」
と、シン・ウィンドフェザー(ea1819)もイコン達に合流。
「1度、みんなで今後のことについて考えてみましょう‥‥」
ということで、一行は集って作戦会議となった。
──ブリーフィングルーム
「ウォーターダイブで海の中に入り、向こうに有利な状態で精霊武具に関しての用件を言うっていうのはどうだろう?」
ブリーフィングルームで、まずはアシュレーが意見を述べる。
確かにその方法がもっとも王道であるといえよう。
だが、問題はウオーターダイブの効果時間。
さらにマーメイド達の住まうところがより深い場所であった場合、呼吸よりも『水圧』によって死んでしまう可能性もある‥‥。
「‥‥ユニコーンの角なんかもそうだが、俺らは実際に伝承の主に逢う事があるからその手の言い伝えが出鱈目だって事を知ってるが、一般人はそうはいかんからなぁ‥‥過去にそのせいで迫害されていたんだ。ようやく平和になったというのに、また空を飛んで何かがやってきたとなると、そうだよなぁ‥‥」
と告げるシン。
「後藤艦長、まさか今でもその言伝えはあるのですか?」
と問い掛けるオルステッド。
「まさか。ランではその言伝えを今でも信じているものなんていませんよ。マーメイドもまた人として生活していると認識していますよ」
後藤艦長曰、そういうことらしい。
「でも、彼女達は潜っていってしまいました‥‥」
ボソッと呟くシルバー。
「どうにかして、上に上がってきてもらうしか無いですねぇ‥‥」
と呟きつつ、オルステッドが窓から水面を見る。
「?」
と、一瞬、オルステッドが頭を捻ったのを、アシュレーは見逃さなかった。
「どうしたのです? 何か気になったのですか?」
と告げつつ、アシュレーも海面を見る。
蒼と白に彩られた珊瑚礁である。
「あの場所ですが、陽炎が立っているんだが‥‥」
とオルステッドが指差した場所。
そこの一帯はサンゴが真っ白に変色し、海面に大量の気泡が立っている。
そして、確かに陽炎のようなものも発生していた。
そして‥‥。
──ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ
爆音を上げて海面が爆発。
大量の水蒸気と沸騰した海水が上空に巻き上げられ、そして降り注ぐ。
「‥‥こ、これはどういうことだ?」
とシンが航海長に問い掛ける。
「海底で火山か何かが爆発したのでしょう。滅多にない珍しいことですよ‥‥とりあえず危険なので、ロータスは少しこの場所から動かしましょう‥‥」
と告げると、伝声管でブリッジに連絡を取ると、ロータスがゆっくりと転進し、微速前進を始める。
そして一行は、何が起こったのかを知る為、1度甲板に走り出した。
「海底で‥‥火山ですか?」
と、アリアンが何かを考えはじめる。
「ええ。恐らくは‥‥」
「ひょっとして、その場所に『守りの楯』があるのではないでしょうか? それも『精霊武具』として活性化し、『灼熱の楯』となった状態で‥‥」
と告げるアリアン。
そしてその言葉に、全員が肯く。
「‥‥ということは、その近くにも『対のペンダント』があるということか?」
「可能性はあります。といいますのも、精霊武具はマーメイド達にとっては『大切なものではない』可能性があるからですわ」
と告げると、イコンもハッと気が付く。
「元々、精霊武具はアトランティスのものではないから‥‥ですね?」
「ええ。恐らくは」
と告げたとき、突然シンが海面に向かって飛込む!!
──ザッバァァァァァァァァァァァァァァァン
激しい水しぶきを上げて、シンが海底に向かって潜っていった!!
「一体何が!!」
そう叫んだオルステッドが次に見た光景は、海底から『傷ついたマーメイド』を抱きかかえたシンの姿であった。
「縄梯子を頼む!! さっきの爆発に巻き込まれた奴だ!! 他にもかなりの奴が巻き込まれたみたいだ、海底で岩に挟まれている奴もいる!!」
その叫びとほぼ同時に、シルバーがスクロールを発動。アシュレーに『ウォーターダイヴ』を発動。
「先にいきます!!」
──ザッパァァァァァァァァァァァァァァァァァン
と飛込むアシュレー。
さらにシルバーはイコンにもウォーターダイヴを発動。
「助けにいってきます!!」
と叫んで、イコンも飛込む。
ロータスでは、搭載してある小型のボートを降ろし、甲板員が救助活動を開始。
──キィィィィィィィィィィィィィィィィィィン
静かに輝くアリアンの手。
「聖なる母セーラよ。かの者に癒しの加護を‥‥」
そう告げて、シンの救助したマーメイドの手当を始めるアリアン。
そして1時間の救助活動ののち、18人のマーメイド達をロータスに保護、傷の手当を行った。
●そして結論に
──マーメイドの集落より海上へ
マーメイド達を救出した翌日。
一行は傷ついたマーメイドの戦士『クレイ』に案内され、マーメイドの集落へとやってきた。
「ここの下が我々の集落です。貴方たちは『良き人間』なので、私達の長老に紹介しましょう‥‥」
ということで、三度シルバーのウォーターダイヴにより、一行はマーメイドの長の元に向かった‥‥。
海底に作られた居住区画。
そのもっとも奥にあり、もっとも荘厳に作られた区画。
そこが長の住まう舘である。
「‥‥はじめまして。ウィルより、精霊武具を求めてやってきました」
丁寧に挨拶をするアシュレー。
「ここに『守りの楯』と『一対のペンダント』がある筈だ。もしよかったら、それを譲って欲しい」
と、シンはストレートに用件を告げる。
「私はカン伯爵領騎士団オルステッドだ。我々は月道を開くという精霊武具を集めている‥‥貴方たちの持つ楯とペンダントがそうだ。まずは、貴方たちにとってそれがどのような存在なのか話してもらえるだろうか‥‥その上で、私の持つキングスシールドや月光の指輪に代わりが勤まるなら交換して欲しいんだが」
と、オルステッドが長に告げると、長はウンウンと肯きつつ、『対のペンダント』を持って来る。
「全ては『偉大なるミスティ』の思し召し。わたしたちは、これらを『あるべき場所』へと戻したいのです‥‥どうぞお持ちください。そして我々の大切な『家族』を助けて頂いて、本当にありがとうございます‥‥」
と頭を下げる長。
そのペンダントはアシュレーが丁寧に預かる。
「もう一つの『守りの楯』はどこにあるんだ?」
「それは、我等水に住まう者には禁忌なるもの。離れの祠に厳重に補完していました所、その祠が爆発してしまい‥‥」
という説明を受けて、一行は納得。
「では、それらは僕達が回収していって構わないのですか?」
とイコンが問い掛けると、長は静かに頭を楯に振った。
「どうぞ‥‥それは貴方たち『天界人』のものです‥‥」
●そして結末
翌日。
一行は海底爆発の在った場所を捜索。
無事に岩に挟まれていた『守りの楯』を回収すると、そのままマーメイド達に別れを告げて、ウィルへと帰還していった。
いよいよ、残る精霊武具は一つ。
それがどこにあるのか‥‥。
「あの。ワシ、今回出番まったくないのぢゃが」
体調不全により、終始ロータスの自室に籠っていたミハイル教授でしたとさ。
──Fin