加賀からの風・三

■シリーズシナリオ


担当:いずみ風花

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:6 G 48 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月01日〜05月08日

リプレイ公開日:2009年05月12日

●オープニング

 江戸から北に上がる街道で、一人の白拍子が佇んでいた。
 笑みを浮かべればどれほど美しいであろうかと思われるその面は、厳しく引き締まっている。何か、深い考え事でもあるのだろうか、時折、溜息を吐く。
 その、北上する街道を、馬にも乗らず、太い槍を持った壮年の男が、確かな足取りで、やってくる。春めいてきた街道を楽しげな風で眺めつつ。しかし、ひたすらに歩を進める。
 その男に、白拍子が声をかけた。
「道すがら声をかける不調法をお許し下さい。前田慶次郎殿とお見受けいたします」
「いいや? 美人に呼び止められるなんて光栄だ。見覚えが無いのが癪に障るが‥‥何処の美人さん?」
「鶴童丸と申します。前田殿に助太刀をお願いに参上つかまつりました」
 前田慶次郎の調査依頼を出した白拍子である。北上する男は、江戸で依頼に首を突っ込んでは遊んでいた風来坊、前田慶次郎。真赤に燃えるような髪をがしがしとかく。春風に翻るのは、派手な柄の羽織り。
「江戸に行けば、無双の冒険者がごろごろしてるぞ? そりゃもう、ツワモノばかりだ」
「存じております。しかし、私が助力を願いたいのは、前田の名に連なる慶次郎殿。前田慶次郎殿でございます。‥‥手前、富樫の長女、富樫政親と申します。どうか、我が父富樫泰高に、お力添え下さいませんでしょうか」
 ふうわりと、白拍子の袖がふくらむかと思えば、鶴童丸──富樫政親が膝を着き、正座をすると深々と頭を下げた。
 その様を止めるでもなく目を眇めて見ていた慶次郎は、富樫と呟いた。

 江戸では、浪人者としては身なりが良く、どこかに仕官しているというには、風体が納まらない二本差しの男二人が、人気の無い酒場で渋面を作っていた。
「政親様などを寄越すから、人集めが上手くいかないのだ」
「仕方が無い。前田何某に渡りをつけるには、我等では役不足。そう、泰高様がご判断されたのだ」
「泰高様‥‥というよりも、真仏だろう」
「坊主は好かんが、泰高様が気に入っているからなあ」
「好かぬが、真仏に口裏合わせの金は十分に貰っているからな」
「女の身ででしゃばるのは、真仏よりも鼻につくからな。しくじれば総領の跡継ぎなどとは言っていられぬ」
「おう、手柄は我等のものよ」
「しっ」
 酒場の入り口を向いていた侍が、入り口を背にしていた男を黙らせる。
「昼から酒とはいい身分だ」
「っ! 政‥‥鶴童丸殿。して、御首尾は?」
「‥‥蹴られた」
 仏頂面の鶴童丸をこっそりと盗み見る二人の男は、座り込んで酒を煽る鶴童丸に暫く付き合うと、先に酒場を後にした。

「報酬は弾みます」
「‥‥ご家門の一大事ですか」
「はい、そのまま加賀に戻すわけにはいかないのです」
 深夜にギルドの戸を叩いた、浪人風の身なりの良い男二人は、じゃらりと銭の束を出した。
「承知しました」
 赤い髪、大柄で派手な衣装を羽織り、黒塗りの太い槍を持つ。
 徒歩で江戸から加賀へと北上する、その男を捕縛して欲しい。抵抗されるならば、その命不要。
 ギルドの受付は、それが誰を指すのか、すぐに理解した。何時も依頼に首を突っ込む前田慶次郎という人物だ。だが、それとこれとは別である。正式な依頼だ。
 ただ黙々と依頼書を作成して張り出した。

「‥‥なんと‥‥」
 翌朝、ギルドに顔を出した鶴童丸は、加賀へと向かう男の捕縛依頼を目にして、唇を噛締めた。
「この依頼、取り消しにはならないか?」
「ご本人でなければ、そういう事は出来かねます」
 鶴童丸は、わかったと、江戸の町へと走り出した。
 依頼を頼んだ名は、彼女の知った名だったから。
 ──武士道に‥‥人の道にも外れる事を許したのですか‥‥父上っ!
 前田慶次郎の事は自分に任せると言ったのは、嘘だったのかと。

●今回の参加者

 eb3367 酒井 貴次(22歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb4462 フォルナリーナ・シャナイア(25歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb9449 アニェス・ジュイエ(30歳・♀・ジプシー・人間・ノルマン王国)
 ec4127 パウェトク(62歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)
 ec4354 忠澤 伊織(46歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ec4859 百鬼 白蓮(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●若葉萌ゆ
 鮮やかな新芽が、町のあちこちらで吹き零れる。
 爽やかな薫風が町中を吹き抜けて行く。
 フォルナリーナ・シャナイア(eb4462)とパウェトク(ec4127)、忠澤伊織(ec4354)が依頼人の人相風体をギルドから聞き込む。連絡先は水路沿いの宿屋。前田慶次郎捕縛が叶えば連絡を入れる手筈になっている。
「他の依頼は出ていないようね」
 フォルナリーナは溜息を吐く。
 物騒な依頼だ。
 人好きのする笑顔の慶次郎を思い出し、なぜ狙われているのかと小首を傾げる。
(「鶴童丸さんが以前おっしゃっていた、加賀が荒れるとは、このことなのかしら?」)
「身辺調査の次は身柄の拘束とな、前田さんも人気者。この依頼、わし等より前に誰も見なかったかの」
 何人もの冒険者さんがご覧になっていますよと受付は笑顔で返す。受けられたのは皆様方六名様ですと。
「今回はいつもの別嬪さんが依頼主じゃないのか‥‥」
 受付をちらりと見て、伊織が確認するように呟けば、何事も無いかのように、受付はハイと頷く。
「前田さん絡みだから、鶴童丸さんも関わっていそうだけど、来たのかな?」
「お見えになりましたよ。ですが、依頼主はあの方ではありません」
 事実は伝えたとばかりに、笑みを浮かべるギルドの受付から鶴童丸が来た事は確認出来たが、その様子まではわからなかった。

「‥‥まずは、事情を知っている鶴童丸を探す事から始めようか」
「ちょーっと冒険者にあるまじき事だけどね」
 伊織が苦笑すると、アニェス・ジュイエ(eb9449)が、軽く肩を竦める。
 この依頼を受けた冒険者で、慶次郎を生死問わず捕縛するつもりの者はひとりも居ない。
 前回は、酒に酔ったせいもあるが、野暮な事を聞いた。人の深部は、問えば語るというものでは無い事は十分承知していたはずなのだが、何も語らずひとりで抱えているような様を見て、寂しかった事もある。
「‥‥本当は、前田の口から事情は聞きたかった。他人の口から聞くのは本意じゃない、が」
「待ってても駄目よね」
「ま、そうだな。そうも言ってられない状況になってきたかな」
 アニェスと伊織は顔を見合わせて、やれやれと言った風に互いに溜息を吐くと、共犯者の笑みを浮かべる。
 冒険者のプライドよりも、大事な事がある。
 人好きのする顔を思い出し、アニェスは何度目かの溜息を吐く。
「三者が顔を合わせさせるのが一番良い方向かと」
 前田慶次郎に関わるのは初めてだったが、百鬼白蓮(ec4859)も仲間達と意見の食い違いは無い。
「連絡を取り合うに、場所などを決めておきたい所だが、いかがであろうか」
 浪人の連絡先は聞けたが、鶴童丸の居場所は知れない。ぽつりと呟く白蓮の言葉は、必要な事だった。
 探索の最中、ただ連絡を取り合うと思っているだけでは、きっと誰にも会う事は無いだろう。
「よし、じゃあ時間を決めよう」
 伊織が落ち合う時刻を確認する。白蓮が頷き、遠く北を眺めた。
「加賀へと向かう可能性を考慮し、なるべく早く見付けたいところだな」
 仲間達全てが、出来るだけ早く鶴童丸と依頼主を見つける事に全力を注ぐ事となる。

●混濁の真昼
 場末という場所は、そこかしこに存在する。
 あまり人の寄らない場所であるが、その場所へと引き寄せられるかのように集まる類の人種も居る。
 白蓮と伊織、フォルナリーナはそれぞれに、そんな場所へと足を伸ばす。
 長身で美貌の鶴童丸が、場末に出入りしていれば、目立つ事この上ない。そういった意味でフォルナリーナも目立ち、逆にいらぬ粉をかけられ、彼女はあまり情報を得る事は出来なかった。伊織も鶴童丸が出入りしているかどうか聞くには聞けたが、浪人者の話は聞けなかった。
 彼女の連れのような、浪人者の風体まで聞き込む事が出来たのは、白蓮だった。
「人を集めていると?」
「何だったら姐さんも口利いてやるぜ? 腰にあるのは随分な業物だ」
 鶴童丸が血相変えて浪人者を引き立てていった方角を教えられ、姐さんならば何時でも来てくれと、下卑た笑いに見送られた。
 現在何処に居るかまでは絞り込めない。が、浪人者から、興味深い合致があった。ギルドへ前田慶次郎捕縛依頼を出した男達に違い無いようである。
 パウェトクは浪人達の間で広まっているだろう、仕事口の話しを探るツテにと考えていたが、どうやら口止めされているようで、何やら怪しげな雰囲気の浪人は何人か居たが、話は聞けず、中には鯉口を切ってすごむものも居り。
「やれやれ。中々思った通りにはいかんの」
 首を横に振り振り、次の場所へと移動する。
 一方、アニェスは、太陽から鶴童丸の居場所を確認していた。場所は河川敷。
 何か目的が無ければ、人は移動して行くものである。アニェスは、どうしようかとひとつ考えるが、仲間達との落ち合う時刻にはまだ早い。場所は決まっているが、そこに行き、誰か居るのならば良いが、誰も居なければ無駄足になる。ばらばらに情報収集するのならば、連絡手段が重要だったのだ。
 仕方なく、先に確認にと河川敷に行くと、鶴童丸と浪人者が言い争っていた。
 良く見れば、白蓮も迫っている。河川敷では見晴らしが良すぎる。話の内容を聞くには近寄らなくてはならず、近寄れば相手も気がつくだろう。
 鯉口を切ったのは、浪人風の相手が先だった。
「まずっ!」
 小さく舌打ちをすると、アニェスは太陽の光を湾曲集中する。その前に、袈裟懸けに切られる鶴童丸。しかし、体をかわし、布一枚に留まった。その間に、アニェスの詠唱が終わり、切りかかる男の服が発火する。
「お下がり下さい」
「何奴?!」
 鶴童丸の声が上がる。
 なるほど、これは人目を引く顔だと、白蓮は納得しつつ、浪人者と鶴童丸の間に入る。
「慶次郎殿に縁ある冒険者達と、お探ししておりました」
 白蓮の日本刀炎舞の赤い刀身が、浪人者の日本刀を受け止め弾けば、甲高い音を立てて真っ二つに折れ飛んだ。

●清冽な華
「関係者でしたか」
 パウェトクが、傷ついた浪人風の男二人を縛り上げるのに手を貸しつつ、鶴童丸へとにこりと笑いかける。
「わしらに言える分だけでもよいから教えてくれんかの。少しは楽になるかもしれん」
「俺は、前田を守りたい。そして鶴童丸、あんたの力になりたい」
「前田殿には断られた。そんな話しを聞いて尚その言葉紡げるか? ありがたいが、それは話を聞いてからにしていただこう」
 鶴童丸は、自身の名を富樫政親と名乗った。そして、傷を負い、捕縛した浪人風の男二人は、不肖ながら、富樫の下級武士であると。
 美しい面だが、その身のこなし、やはり武家だったかと伊織は苦笑する。さっぱりとした物言いと、こちらに不利にならないような言い回しに、ひとつ頷く。
「事情とか教えてくれるかい?」
 真っ直ぐな視線をフォルナリーナは鶴童丸へと向ける。
「前田さんを助けたいのです」
「‥‥」
「必ず力になるって約束は出来ないけど‥‥何も知らずに動いて、事を悪化させたくないわ」
 アニェスが腕を腰に当てつつ苦笑する。加賀と富樫を取り巻く状況。慶次郎に助力を請う理由。これから、慶次郎を追うからと。
「富樫は、加賀の北の要として、前田綱紀殿を補佐する為に‥‥自分たちの住む地域を守る為に犬鬼やら妖怪と戦ってきました。しかし、そんな富樫を煙たく思う重臣、老臣はおります。藩主前田綱紀殿のお従兄である前田慶次郎殿を食客として招き、富樫は前田に反意は無いと、そう意思表示するつもりでおりました。‥‥しかし、父上はどうやら富樫を煙たく思う方々が想像される通りの道を歩まれるようでございます。‥‥父上は民が守れればそれで良いと言っておりました。けれども、こ奴等が言う通りならば、今の父上は‥‥。私も加賀へと一時戻り、真意をたださなくてはなりません」
 ぐっと拳を握り締める政親の頬を、アニェスは、その綺麗な指でつまんだ。
「っなっ!」
「あんた、眉間に皺寄せてるより笑ってた方が可愛いよ」
「何かあれば依頼を持ってきてくれ。きっと俺達は力になる」
 伊織が眼を丸くしている政親に笑みを向け。
 鶴童丸‥‥政親にひったてられた男達が依頼を取り下げ、その侘びとして、同依頼に彼女が代わりに依頼主として書き換えた。
 ──先の依頼を取り下げた後始末の依頼。前田慶次郎に事の顛末を伝えるようにと。
 冒険者達が選んだ選択は自身の喉笛に刃をつきつけているような選択だった。
 依頼を取り下げさせる。
 成功したから良しではあるが。それは、冒険者のプライドでは無く、冒険者ギルドの信用問題になるのだと気がついた者は果たして居ただろうか。

●まだ吹く風は冷たく
 愛馬ヴィルベルヴィントを急かし、街道を北へとひた走る。酒井貴次(eb3367)江戸町中では、若葉も色鮮やかに芽吹き、陽だまりは温かく、春の終わりを告げ、初夏の準備をするかのような気候であったが、馬上で風を切り、山を越えれば、あの温かさは嘘だったのかと思うほどの冷気が朝晩には押し寄せる
 まだ、吹く風が冷たい。
(「──皆が追いつくまでっ‥‥」)
 街道遠くに、目立つ赤い髪を見つけた。
 大柄なその体躯に派手な羽織を着込み、担ぐのは黒塗りの槍。
「前田さんっ!」
 貴次は、ヴィルベルヴィントの歩を緩め、振り向いた不思議そうな顔に安堵する。
「どうした? 冒険者が急ぎ街道を北上。依頼か?」
「はい。前田慶次郎さんの捕縛依頼。その生死問わず‥‥です」
「ふうん? で?」
「後から、他の方々も追ってこられます。‥‥話しを、聞いて貰えますか?」
「前に占ってくれた礼だ。聞こうか」
 そう頷く慶次郎に貴次は一息吐くと、ギルドに張り出された依頼の内容を伝えはじめる。
「一緒に戻っては貰えませんか?」
「断る」
「‥‥僕としては、依頼人の思惑を露見させたい‥‥つもり‥‥で」
「今の言葉は、縁のあるお前だから聞かなかった事にしよう。帰るが良い」
 一瞬雰囲気が凍りついた。
 ヴィルベルヴィントが興奮し、高く嘶き、落ちつかな気にこの場を去ろうという態度を取る。
 貴次は、慶次郎の意思を尊重するつもりであったが、自らの思いを聞いてもらって尚、加賀へ帰るというのならと、前回の鶴童丸による慶次郎調査依頼から今回の依頼の不自然さの推測を語るつもりだった。
 だが、貴次は依頼人に対しての反意を言葉に乗せた。
 仲間が来るまで、酒でも飲むか、食事をしつつ山でも眺め、また占いをと誘えば慶次郎も馴染みのよしみ、無碍に断る事などなかったのだが。
 どういう理由があれ、冒険者ギルドで張り出された依頼を受けた冒険者である。江戸からの仲間の合流を待って依頼が取り消された事や、富樫の名を確認してからならばともかく、何も情報が無く推測で依頼人を裏切るような言葉は、相手によっては江戸ギルドが好ましく無い状況に落とし込まれる。そう、慶次郎の意を汲み取ると、冷や汗を拭う。
 皆によろしくなと笑い、背を向けた慶次郎の後を、何としても止めようという気は無く、追う事も出来ず。がっくりと地に膝を着くと、貴次は空を仰ぎ、首を横に振る。そして、占いを始めた。
 出てきたのは。
「別れ‥‥決意‥‥戦い‥‥か」
 過去、現在、未来。
 人の運命は流れ、絡まり、ぶつかり、変わる。
 今出た結果が全てでは無いが、ひとつの真実でもある。
「あーあ‥‥」
 占い師は自らの未来は読めないものだ。依頼が失敗するのも厭わなかったが、この結果は予測出来なかった。
 仲間達がやって来るのはそれから一日過ぎた後。

●陽だまりを胸に
 途中、がっくりしている貴次を追い越し、本当に加賀の入り口近くで、ぎりぎり慶次郎を捕まえる事が出来た。もう数刻遅ければ、間に合わなかったろう。
「や。生きてる?」
「ぺたぺた触るな」
 苦笑する慶次郎に、アニェスは満面の笑顔を向ける。
「‥‥案外早い再開だったわねぇ」
 事の顛末をフォルナリーナが告げる。
「人手が必要でしたら、ギルドに依頼を。前田さんがいくら強くても、集団で来られたら敵わないかもしれないから」
「俺も集団になりに行くわけなんだが」
 注意して欲しいと心配気なフォルナリーナに、慶次郎はからりと笑う。
「あたしは、あんたの敵にはならないわ。力になるわよ。頼ってくれるなら、ね」
「依頼主の意向ガン無視して、別行動するんじゃないのか?」
「っ! それはっ!」
「二度とするな。友達も止めるぞ? 友達は友達。依頼は依頼だ。そこはきっちりしとけ」
「‥‥ごめん」
 何にしろ、加賀に戻る。理由を聞けば、余計に戻ると笑われた。
 もし、浪人達が依頼を取り下げる事が出来なかったら、友という名は永遠に消えただろう。そんな白刃を含んだような言葉にアニェスとフォルナリーナは僅かに首を竦めた。
「頼る事も、ある。友達だからな」
 じゃあまたなと手を上げて、加賀へと向かう背中を二人は見送った。
 あとほんの僅かで、加賀。
 アニェスは眼を細めて、遠く加賀を思った。