加賀からの風・四
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■シリーズシナリオ
担当:いずみ風花
対応レベル:6〜10lv
難易度:難しい
成功報酬:6 G 75 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月26日〜06月05日
リプレイ公開日:2009年06月05日
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●オープニング
「時が稼げたようでございますな」
「ふむ。江戸に向かわせた政親が、上手く立ち回ったようだ。あれの気性の事、向かわせた奴等が気に入らぬのは重々承知。そして、あの程度の輩に傷が負わせられる人物でも無い‥‥」
加賀一帯の地図が、行灯の明かりで浮かび上がっている。
それを見て額をつき合わすのは、総じて五名。
富樫泰高。
小柄で細身の老僧、真仏。
近隣の豪族である林、倉光の二家門の当主も顔を出している。
「今なら、叩き伏せる事が出来ようか」
「綱紀の下へ辿り着くに、あと半日足らず。ここを越える前に捕縛しようぞ」
江戸から加賀へと通る道すがらの峠にて、前田慶次郎を待ち伏せし、取り込もうという腹だ。
林が含み笑いで、酒をあおる。
「取り囲んでも、豪胆な男ゆえ、吹っ切って逃げられるはまずかろう。民人を使うが良かろう」
「それは、駄目だ。我等が前田綱紀へ対抗する、根本が崩れてしまう。我等は、後手後手に回る前田綱紀よりも、民人を良く守る。これまでも、これからも。そうであったな、富樫の」
「‥‥おお」
林の言葉を激しい勢いで止めたのは倉光。
富樫泰高は、政親を江戸へと向かわせたその足で、隣接する豪族、林を説き伏せた。
倉光は情と義理に厚い。倉光の守る地へと押し寄せる鬼共を挟撃する形で退治に加わった富樫を、厚く信頼していた。前田の援助は、やって来るには来たが、間に合わなかったのだ。倉光が鬼共に襲われていたその頃、七つ島の怪異があり、かなりの戦力が海上へと流れていた為でもある。
自分の周囲しか守れない、無能な藩主であると、倉光は思っている。
頼るは、近隣の仲間以外は無いと、決定付けたのがその戦いでもある。
倉光の勢いに、苦笑しつつ、頷いた泰高は、一癖ある林に目配せをする。一向宗の多い林の守る地域は、真仏の愛弟子が数名、侮れない信頼を民から得ている。万が一という事がある。どうやってとらえたか、殺したか。それが流布する事になれば、
「狭い峠。下りきった場所は双方が岩場の崖。馬一頭が通るのがやっとという難所がある。そこに、辿り着いたら、双方から暴れ牛を放とう」
「ふむ、さしもの慶次郎殿も、無事ではすむまい」
「保護という名目で寄って頂く」
片腕、片足を骨折した慶次郎が運び込まれたのは、富樫の屋敷。
手当てを受ければ、すぐに出て行く。そう思っていた慶次郎は渋面を作る事となる。
そこは、ていのいい座敷牢であったから。
もう一箇所、山内を取り込めば、後は前田綱紀に独立を宣言する。
そんな手筈が整っていくのだった。
「父上! どういうおつもりか、聞かせていただきましょう!」
「戻ったか、政親。山内と事を構えに行く。お前も同行しろ」
「父上! どうか、前田慶次郎殿を解放して下さい!!」
「馬鹿を申せ。お主がしくじったから、こんな手段をとったまで。責はお前にある」
「!」
「成春が、寝付いた」
「‥‥成春が‥‥」
「富樫を磐石のものにし、成春に継がせたい。そう、お前も尽力してくれるのではなかったか? この地を不安の少ない地にするのでは無かったか?」
「‥‥承知仕りました」
達筆な書状に書かれた依頼人の名は『つる』とだけあった。
江戸ギルドへ、書簡が届く。
届けたのは、ただの飛脚。何も知らないその飛脚は、金袋も携えていた。
「前田慶次郎殿、救出依頼‥‥」
ギルドの受付は、ひとつ頷くと、さらさらと筆を走らせた。
その屋敷奥には、小さな明り取りの窓のある、蔵があった。
その蔵に、慶次郎が軟禁されていた。
朝昼晩と、小さな小窓から食料が差し入れられる。
すぐに殺す気は無さそうだ。
「易英は、知らない人として、ばっさりやってくれるから良いとしてだな、綱がごねるとやっかいだな」
とりあえず、生きてるから体力回復するかと、黙々と食べて寝る慶次郎だった。
●リプレイ本文
●街道を北へ北へと
いかに世界が揺れていても、人々は人々の営みを断つわけにもいかず、それなりに、人の行き来は何処でもある。
街道を行き来する、旅人達の姿もままあり。
そんな旅人達に、紛れるようにと、冒険者達は散っていた。
親子連れに身をやつしているのは、忠澤伊織(ec4354)、アニェス・ジュイエ(eb9449)、酒井貴次(eb3367)の三名。
「しかし、わかりやすかったな。依頼人の名は」
苦笑するのは、伊織だ。加賀関連で、前田慶次郎奪還。それに依頼名が『つる』となれば、浮かび上がる人物は鶴童丸しかいないだろうと、伊織は思う。
加賀は荒れる。その言葉通りになってきたものだとも。
不正を許さない潔癖さを持ち合わせたその態度に好感を持ってはいるが、それが自分の首を締める事になってはいないかと、案じる。
横を歩く貴次をちらりと見て、溜息混じりの笑みがこぼれるのは、父親役かと、配役に苦笑した名残りである。十二分、親子ほど離れた年齢ではあるが、心中複雑である。反対側を歩くアニェスと夫婦という役所には、それはもう諸手を上げるのだが。
そんな伊織のボヤキを聞き流していた貴次は、伊織の顔を見てくすりと笑うと、真剣な表情を北へと向ける。
「関所とかは、今の所無いみたいですね」
言葉ひとつで、危うくなることもある。そう知ったのは、つい先日。
それを教えてくれた慶次郎に、もう一度、会おうと思う。
そして、礼と侘びの言葉を直接伝えなければと。
その気になれば、時間を短縮する事も出来るのが冒険者だ。しかし、今回は冒険者とバレれば、慶次郎の生死にも関わるかもしれない。
アニェスは依頼を見た瞬間に、あんぐりと口を開けた。捕まった?
「な‥‥っに、やってんだか、あの男はっ」
江戸冒険者ギルドで呟いた言葉を、また呟く。
一応、白粉を手や顔などにはたいていたが、出来栄えは微妙である。しかし市女笠のおかげで、特に不自然な事も無い。隣に伊織と貴次が居る。そんな婦人を覗き込もうというものは、多くは無い。
ゆるゆると歩く三人とは別に、鳳翼狼(eb3609)と、フォルナリーナ・シャナイア(eb4462)が、先を歩く。
一目で冒険者とわかるのは翼狼。馬と足並みを揃えるのは、冒険者ぐらいだ。三度笠を目深に被っていて、目立つ装備は全て隠していても、ごまかせる事では無い。馬上の女性の護衛だろうかぐらいの認識で、旅人達は擦れ違っている。
(「一宿一飯の恩もあるし、助けに行かなきゃね☆」)
翼狼は、慶次郎のごちゃっとした江戸の長屋住まいを思い出し、ひとつ頷く。
フォルナリーナは市女笠のおかげで、一見わからないが、馬に乗るなど、何処の方だろうかと見送られている。
フォルナリーナも、依頼人は鶴童丸では無いかと思っていた。
(「とても正義感の強い方のようだけれど‥‥。その真っ直ぐさで、ご自身の立場を危うくしてしまわないか心配だわ」)
だからこそ、慶次郎の救出を確実なものにしなければと、フォルナリーナは思う。
「この宿が良いだろう」
「ふむ、ここが一番大きいようだの」
旅芸人を装う百鬼白蓮(ec4859)に、何処かくたびれた風合いの着物を着込むパウェトク(ec4127)。旅人候の城山瑚月(eb3736)は、それぞれに宿に入る。
「こんな所でしょうね」
軒に黒紐を括りつけた笠をかけて、瑚月は一息を吐く。
『つる』。いかにもな隠し名での依頼は、その立場からは考えられないような依頼である。だとしたら、事態は動き始めたという事だ。瑚月は、僅かに目を眇めると、街道のさらに北を眺め。
すると、すぐに後ろから声をかけられる。
無防備に韋駄天の草履で歩いてくる翼狼と、馬に乗ったフォルナリーナだ。
さして時間差も無く辿り着いたようだ。
二階の窓から見ていた白蓮が周囲をざっと確認するが、とりあえず、不審に思われては居なさそうだ。それから、しばらく、後発の三人を待つ事になる。
●真昼の富樫屋敷
全員が揃うまでと、白蓮は富樫屋敷の周囲を、ふらりと歩きつつ、街並みを目の端に焼き付ける。
立派な白塗りの壁が屋敷を囲う。
街並みは、そこそこ活気があり、この地が順調に統治されている事を覚え置く。
そして、商人の一人をつかまえて、そういえば先ほど聞いたのだがと、話しを傾ける。
腰を必要以上に曲げて、年寄りを演出しつつ逃走経路の確認をして歩くのはパウェトク。立ち話などしている町人達の声をそれとなく拾う。富樫のおかげでつつがなく暮らせる。一向宗の坊様も良い人だと。
一向宗の坊主の名前は、真仏と言う事を記憶する。そして、そういえば、と井戸端会議に混ざり、話し出す。
居酒屋で、話を振るのは、瑚月。
三人が振った、その話の内容はといえば。
──有名な泥棒がこの辺りに出ているから、戸締りなど気をつけたほうがいい。
そんな話だった。
野菜売りは首を傾げつつ、沢山の金額を手にして戻る。
「本日は屋敷に近づけない故、引取りに来た」
貴次は、もっともらしく、笑みを浮かべて、野菜売りを止めた。ただ、野菜を買い取ると言われただけでは、野菜売りは首を縦には振らなかったろう。一応、富樫という屋敷の御用聞きでもあるのだから。
綺麗に身なりを整えたフォルナリーナの説得も、翼狼の説得も、ただ、高値で買取りへと持って行く方向であり、それでは止めることが出来なかった。
翼狼は、ほっと胸を撫で下ろす。
「富樫のお館様は、御嫡子と出陣中‥‥ということは、鶴童丸さん‥‥政親さんは屋敷近くにはおみえでは無いと言う事ですわね」
野菜売りから、屋敷内の状況を聞き出したフォルナリーナは、主だった侍達の不在を確認する。屋敷の護衛として残っているのは、十数人。
ほとんどが中屋敷に詰めており、裏門、表門と二人づづ、決まった時間に交替をするようだった。
野菜売りの台車を受け取ったのはパウェトクと伊織だ。
ふたりともそれなりに身をやつし、今日はいつもの奴が来られないからと、にこやかに野菜を売りさばく。
伊織の変装は、その能力では、綺麗に誤魔化す事まではいかない。素人は騙せても、少し目のあるものなら、見破られるレベルだ。話術も同様である。野菜を売りに行った場所に腕の立つ侍が居なかったのは幸いした。
「そういや、町で噂を聞きましたよ」
パウェトクが水を向けると、先日流した噂は、ここにもやってきていた。聞いた聞いたと、野菜を受け取るまかないの男が頷く。
仲間達がそっと脱出するのを目の端に捕らえ。それ以上留まるのは無理そうでもあった。
その少し前、人の出入りに紛れて入り込んだのは、瑚月、白蓮、アニェス。
瑚月の頼みに、覚えているかわからないがと、アニェスは石榴の髪飾りと、チーズブランシュ。それに、日時を書いた紙を手渡す。
蔵の近くへは瑚月。
蔵の鍵のありかを探す場所へと白蓮。
射撃や投擲を受けにくそうな場所を探りにアニェス。
捜索場所を分担し、手早く、目立たないように短時間で事をこなす。
小窓は、目立たない場所にあり、何かを投げ入れても、見張りの侍達には見つかることは無さそうだ。
綺麗な弧を描いて、アニェスの預けた品物が蔵の中へと入る。
かこん。と、音がする。
見張りに立つ二名が、途端に色めき立つ。
と、蔵の中から、かこん、かこんと、何度も先ほどと似た音がする。
それを確認すると、忌々しげに舌打ちをすると、見張りにと戻る。
瑚月は胸を撫で下ろして、そっとその場を離れた。
交替する侍も鍵を所持していない。
(「この屋敷に‥‥無い?」)
白蓮は首を横に振る。
それぞれが、それぞれに持ち寄った情報のおかげで、進入経路は確認出来た。
しかし。
●真夜中の富樫屋敷
夜の警戒が、昼に聞いたよりも厳重になっていた。
それは、泥棒が横行しているという噂からである。主の留守に、万が一の事あれば、只ではすまない。倍の人数が繰り出されているようだ。
「篝火が多い‥‥」
貴次が、屋敷周りに焚かれた火を見て、唸る。周辺を警戒と思うのだが、蜜から無い様にするのは、多少骨が折れそうだ。
「あまり屋敷に近いと、見つかってしまうわ」
フォルナリーナは、最初から少し離れた場所を選択していた。何かあったら殴る。そう心に思いつつ、名刀ソメイヨシノを触る。
白蓮と瑚月が、忍び足で仲間達を蔵の前へと誘導する。
二人居る見張りを、白蓮と伊織が叩き伏せ、猿轡をかませて縛り上げる。
「少し状況が悪そうだな」
僅かに視線を落とすと、白蓮は、塀の上へと飛び上がる。見つからずに全て愁傷するのは、どうやら無理のようだ。
「これ、影に転がしとくよ」
見張りが多い。
不意に出くわした相手に、翼狼が動いた。飛び上がるように強力な拳を叩き込み、気絶させるとロープでぐるぐるまきにして、猿轡もかませる。
「っ!」
小さく声を発し、裾を蹴立てて、伊織が動く。翼狼が倒した侍と組んで見回りをしていた侍が、呼子を取り出すのを見て、突進する。
間一髪で、侍を沈めると、翼狼が、同じようにぐるぐる巻きにする。
「こりゃ‥‥まいったの」
屋敷内へと進入したパウェトクは、篝火の多さと、人の多さに渋面を作りつつ、ポーションを小窓から投げ入れる。
「もう少しお待ちを‥‥武家の蔵に負ける様では、錠前師の名折れですしね‥‥」
大扉は、すぐに開く。
その向こうに、鉄の格子扉が現れた。
そして、その向こうに、手を振る馴染みの顔を見つける。
「ご無事で?」
「何かいろんなもんが降ってきたからな、かなり良い」
小さな金属音が響くと、鉄の格子扉も瑚月の前に屈する。
「来るぞっ!」
白蓮が叫ぶ。
「足大丈夫かなっ?」
翼狼が覗き込めば、慶次郎は立ち上がる。
「抱えて歩こうと思ったが、要らぬか?」
伊織が苦笑すれば、痛いは、痛いが、酷く痛いわけじゃないと、笑う。
「早く乗ってっ! 狙われてるから気をつけろって言ったじゃないのっ」
「おう」
アニェスが持ってきた空飛ぶ絨毯へと、急がせる途中にその頬へと手を伸ばして摘み上げれば、悪い悪いと絨毯へと乗り様に、慶次郎は、アニェスの髪に石榴の髪飾りを挿す。
甲高い笛の音が響く。呼子だ。
思ったより早く見つかってしまう。
「任されますから、お早く」
瑚月が笑い、集まってくる集団をおびき寄せるように、前にと飛び出していく。
曲者だ。
そんな声が飛ぶ。
「殿は自分が」
白蓮が、仲間達を先へと押しやると、さてと言った風に手の中に短刀を出現させる。柄から飛び出した短い刃が、闇夜に浮かびあがり、追ってきた侍の懐へと、飛び込んで行く。
一方周囲がざわめく。
外回りの侍達が、集まってくるのを見て、貴次は巻物を選ぼうとするが、どれを使うかわからなくなる。状況に応じたものを選び出すのは自分以外何者でもない。
とりあえず、集まってきた侍達めがけ、暗闇の魔法を作り出す。
とたんに、大声が上がり、呼子がまたこちらでも高らかに鳴り響くことになるが、数名一挙に動きを止めたのは、とても助かる。
走り出したのは、フォルナリーナ。暗闇から抜ける侍へと、的確に急所をついて殴り倒す。
門から抜け出てきた、慶次郎の乗った空飛ぶ絨毯と仲間達。
「こちらへ!」
フォルナリーナは遠くに繋いであった通常馬クラウスへと誘導する。
屋敷内で大勢に取り囲まれた、瑚月は、妙な人影を目にする。
どうやら坊主のようだ。
では、あれが噂に聞いた一向宗真仏かと見れば、嫌な笑いを見たような気がした。
十分引き付けた。
ならばと、微塵隠れを使う。大きな音と共に、爆発が起こり、囲んでいた侍達が吹き飛んだ。その中心には、もちろん、もう瑚月は居ない。
仲間達の逃走経路近くに現れると、あれは人だったろうかと、首を捻り、合流にと走る。
街道を南下して江戸へとひた走る。
白蓮が、そのまま江戸へと入るのはどうかと首を捻る。
「少々変装をして頂いた方が良いかと」
「要らん。江戸でどうこうすれば、騒ぎになるって‥‥鬼の目にも涙」
「馬鹿っ! ‥‥怖かったわ。お願い、だから‥‥知らないトコで、勝手に死なないで」
暗殺とかを気にした白蓮の言葉だったが、意に介していないようで、白蓮は苦笑する。
そして、横のアニェスを見て、慶次郎が呟いた言葉に、アニェスはぽろりと本音が漏れる。
そんなアニェスの言葉に、軽く肩をすくめて笑うだけの返事が返る。
「前田さん、この間は、ありがとうございました。そして、ごめんなさい」
貴次が真剣な顔で告げる言葉に、さて、何だったかなと、笑われて。
何はともあれ、無事、江戸へと帰還する事になるのだった。