加賀からの風・五

■シリーズシナリオ


担当:いずみ風花

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 34 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月19日〜07月28日

リプレイ公開日:2009年07月27日

●オープニング

「冒険者だと?」
 富樫泰高は渋面を作った。
 真仏と屋敷に残した部下達の言葉を合わせると、忍び込んだ、その存在は、間違い無く冒険者のものだ。前日、大泥棒が現われたという噂が流れたが、これの真偽もいかばかりか。
 何しろ、噂のみで、実害にあったという者は一人たりとも見つからなかったからだ。
「はい。泰高様‥‥」
 小柄な体を小さく折り曲げて、真仏が同意を示す。
「綱紀の手の者か?!」
「左様でございますな、綱紀は多くの目を放っておる」
「江戸ギルドへ人をやり、調べさせました所、依頼者の名は、『つる』とあったそうです」
「‥‥政親はどうした?」
「成春様を連れ、馬で散策に‥‥」
「戻ったら、来るように」
 そう、泰高は真仏に告げるが、政親が成春と戻る事は無かった。

 政親は、成春を前に乗せ、街道を北へと走っていた。
「すまないな、成春。私の勝手を許せよ?」
「‥‥いいえ‥‥姉上。姉上が決めた事です。その道は正しい事でしょう」
 弱々しい表情で、成春が政親を見上げる。
 次第に弱って行く。倒れる事も多くなった。まだ、去年の今頃は、自分で馬を駆る事が出来たのに。
 政親はぐっと唇を噛み締める。
 目指したのは、前田綱紀の城。
 城下から、謁見したいとの、文を宿屋からしたためれば、目立たない男が尋ねてきた。立花潮と名乗り、登城が叶う。
 鬼瓦が笑ったかのような顔をした前田綱紀以下、数名の家老が座して二人を迎えた。
 随分と弱っていた成春は、別室へと移され。
「富樫が守る、あの地域を磐石なものにし、代々民を守り、そこで暮らしていければ良かった。綱紀様はじめ、ご家来衆は、そこで力を蓄えた富樫が、前田を倒すべく立ち上がるのを懸念されていた。私は、それは無いと思っていました。確かに、前田の手が届くのが遅かった地域ではありました。けれども、私達が居たから、前田様は安堵する一面もあり、そうでなければ、長連龍殿、奥村殿、横山殿、村井殿を頭に、ご家来方があの一帯を守ったのだと」
 政親は首を横に振る。
「民が平和に暮らせれば、別に富樫では無くても良いのです。前田様に謁見し、臣下になったとて、富樫が成した事は変わらない。手を取り合えば良い。それだけなのに‥‥父泰高も、確かに去年の春頃はそう口にしておりました。しかし、結果として、皆様方の懸念される通りの状況になってしまいました‥‥」
 けれども。と、政親は顔を上げる。
 裏に老僧真仏‥‥一向宗ありと。
 泰高は、良い様に担がれているだけだと。
 そうして、富樫の勢力図と、戦力の内訳を語り始めた。

「そういうわけで、真仏を探ってみたいわけです」
「だから、そこから逃げて来た所で、足が治った所でな?」
「‥‥手ぶらでお帰りのはずがない‥‥と、奥村様が、加賀にお戻りの際は、ぜひ寄って欲しいと」
「そんな言付けは、いらんっ!」
 長屋で、小間物売りに身をやつした、前田綱紀の配下、立花潮が、頷きつつ、大柄な男に可愛らしい袋を手渡す。中身は金塊だ。真っ赤な髪をがしがしとかいた、前田慶次郎は、とりあえず羽織新調しようと呟く。その姿に、やれやれと言った風に首を横に振ると、潮は溜息と共に、言葉を吐き出す。
「全て探れとは申しません」
「当たり前だっ!」
「富樫配下の林某の領内に、一向宗の講和をよく開く寺があります。その寺の周囲に、死人が出るという話が」
「うーわ。死人」
 慶次郎は、嫌な戦いを思い出したようだ。
「どうして死人が出るのか。偶然かもしれませんが、あるいは‥‥」
「悪魔か鬼か物の怪か」
「よろしく、お願い致します」
 今、江戸周辺は、戦いの気運が渦巻いている。この、騒然たる流れで、何かでっち上げのひとつも作れば、富樫は前田に向かって総攻撃をしかけるだろう。京方面へも戦力を割いている今、富樫から戦いを挑まれたら、長引く恐れがある。
 何が正しくて、何が正しくないのか。
 終わってみなければ、わからない。安定をもたらした勝者が民人にとっては、良い為政者という事になるのだから。

「死人調査一緒に行ってくれる人ー」
 場合によっては、そのまま戦闘ー。と、笑顔の前田慶次郎が、ギルドへと顔を出した。
「俺は獲物無いから、今回は地味にお手伝いに回るから」
 はあとまーくが語尾についていそうな慶次郎だった。


 林の領内は、荒れていた。
 戦える者は全て富樫の指図する一軍へと組み込まれている。
 山中の村が多い。田植えなどの人手が足らない。寝る間も惜しんで田畑を耕す。疲れと不満が溜まって行くが、夜、とある寺の講和を聞きに行く事で、幾分か楽になっていた。
 一向宗の僧侶が、穏やかに教えを説く。すると、ふうわりとした気持ちになり、家路へとつくことが出来るのだ。
「あれ? 芳さんは?」
「芳さん、林様の下へ行ったらしいよ」
「急なことだねえ。あんな年寄りまで必要かね」
「炊き出しの手が必要とかで、キリちゃんもこの間行ったっていうから、雑用だろ?」
 その寺のある村では、突然人が借り出される事があり、それは慣れっこになっているようだった。だが。その静寂は、すぐに破られる。人を求めて彷徨い出た死人達に、村はあっという間に襲われ、滅びる寸前だった。
 寺の裏には、多くの男達の亡骸が埋めてあった。
 ほぼ、ひとつの村ほどの亡骸だ。
 そこから、死人は生まれたようだ。その亡骸の中には、杯が幾つか混じっていた。
 そして、もがき苦しんだとみられる姿のまま黄泉路へと旅立ち、幸いな事に死人にならなかった骸も。
 幾人かの死人と、骸は質の良い着物を着ていた。

 死人達は、周囲に人が居なくなると、静かになり、地に伏した。目だけはぎらぎらと人を欲して。

●今回の参加者

 eb3367 酒井 貴次(22歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3609 鳳 翼狼(22歳・♂・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb3736 城山 瑚月(35歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb4462 フォルナリーナ・シャナイア(25歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb9449 アニェス・ジュイエ(30歳・♀・ジプシー・人間・ノルマン王国)
 ec4127 パウェトク(62歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)
 ec4354 忠澤 伊織(46歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ec4859 百鬼 白蓮(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

「前田サンも一緒に行くの? 足、ムリしないでね☆」
 きゃらきゃらと挨拶をしつつ、鳳翼狼(eb3609)が、前田慶次郎を覗き込めば、十分休んだからとっくにくっついたと笑われる。翼狼は、加賀と言う言葉に反応してしまうのだろうか。入る依頼はここ最近は加賀づいている。京で依頼を受けた際に会った、加賀前田綱紀の部下である男にこちらでは会えないのだろうかと、何時も気を回している。
「お加減はいかがですか?」
 豪奢な金の髪を揺らし、フォルナリーナ・シャナイア(eb4462)も慶次郎の足の具合を尋ねるが、同じように笑われる。アニェス・ジュイエ(eb9449)も、脱出の際の慶次郎を思い出してか、小さく安堵の溜息を吐く。
「脚、ちゃんとくっついたみたいね‥‥良かった」
「これが終われば、そのまま加賀へと向かうのかな?」
 直ってよかったと、パウェトク(ec4127)が慶次郎を見上げて笑えば、状況次第かなと、笑い返される。
 気まずそうに顔を出した忠澤伊織(ec4354)に、慶次郎は、何時もとまったく変わらない笑顔で手を上げる。多少の決まり悪さを抱えていた伊織は、その顔に拍子抜けしつつ、まあ、良いかと、軽く肩を竦める。
「じゃ、あれだ。鶴童丸のためにも、勿論前田の為にも、死人の出る村の調査、気合入れるとするか」
「そういえば、鶴童丸さんの状況をご存じですか? 前回のことで、富樫での立場が悪くなっていなければよいのだけど」
「つるさんも辛い身の上だの‥‥」
「つるという人物がわかったら、礼のひとつも言いたいが?」
 前回の依頼人の名は『つる』と言った。鶴童丸のつるでは無いかと、冒険者達ほぼ全てがそう思っているが、その確認を取れたわけでは無い。たとえ間違いが無いとしても、鶴童丸だと断じてしまえば、それこそ鶴童丸‥‥政親の立場が悪くなる。そう、慶次郎は言外に周りに居る冒険者に告げる。ここは、知らぬで通した方が、対外的にも鶴童丸に対しての配慮にもなるだろうと。
「死人調査ですか‥‥あまり良い予感がしないのは気のせいでしょうか‥‥」
「死人、嫌だよなー」
 生真面目に考え込む酒井貴次(eb3367)は、慶次郎の視線に気がつき、はっと我に返ると、いえいえと首を横に振る。
「もちろん、頑張っていきますねっ。とりあえず、情報が不足してますから、慎重にいきましょう。うっかり相手の縄張りに踏み込んで、四方から襲われちゃうのも勘弁ですしね‥‥」
「前田さんは死人は嫌なのか。わしも出てこられるのは堪らんが、なんでもない骸が勝手に動き出すのも不思議なこと。放っとかんで何とかしてやらねばならんのう」
 死人と口にする慶次郎が、酷く嫌そうなのを見て、パウェトクは小さく笑みを浮かべる。
「一体、二体なら、それで良いんだけどな、貴次の言うように、囲まれてみろ? そんでもって、脱出するにひとりだったりしてみろ? いっくら豪腕でも数には勝てんよ」
「一向宗の講和が開かれる寺に死人‥‥。死人は何処に現れても不思議ではないですが、例の僧が真仏ならば‥‥何か裏がありそうですね」
 前に、そういう目にあったと、また、嫌そうな顔をする慶次郎を横目に、口元に手を当て、城山瑚月(eb3736)は、富樫の屋敷から脱出する際に僅かに顔を見た、小さな老僧を思い浮かべる。あの時、街中で聞き込んだ名の僧が今回も関わっていたとしたらと。その姿は、仲間達へと、こと細かく伝えてある。何か、乖離した様な、微妙な違和感を覚えた事も。
「そもそも、寺の周囲に死人が出るって話の出所はどこなんだ? 前田。火のないところに煙は立たないからな。誰かが実際に目撃したんだろう。その村の人物か、それとも別の村の人物か」
 調べるのならば、死人が出る時間帯、死人の数、状態あたりだろうかと、伊織は腕を組む。
「出所は、加賀。前田綱紀が加賀全土に放っている配下の情報収集から。ただ、中に入って詳しく調べるほど人手が割けない。今、関東、京で大掛かりな戦が繰り広げられてるからな。そっちに多く人を割かなきゃあならん」
「‥‥前田‥‥お前」
 慶次郎の口から初めて聞く、加賀との繋がりに、伊織は目を丸くする。どれだけ冒険者達が、入れ替わり立ち代り、水を向けても語られる事の無かった繋がりだ。
「加賀の戦力は分散されている。この機に乗じて、富樫が加賀へと侵攻してきたら困る。加賀に降りかかる火の粉‥‥余計な仕事を片付けるのは俺の役割だ」
 別に騙してた訳では無く、冒険者に依頼を頼むに、加賀前田綱紀の名は必要無かった。また、加賀前田綱紀に関わる者として、余計な責を負わせるを良しとしなかったのだ。
 だが、事が加賀と近隣豪族との戦闘になるのならば、話さなければ埒が明かない。それだけの事らしい。
 そういう訳で、よろしく頼むと赤い髪を揺らして頭を下げる慶次郎を、冒険者達はそれぞれが思い思いに、見たのだった。

 一向宗の詳しい講和の内容は、流石に慶次郎もわからなかった為、冒険者達は手分けして聞き込みを開始する。
「へー。そんな嫌なヤツ?」
 この周辺を収めるのは林という一門なのだと言う。その、総領の評判がすこぶる悪い。それでも、鬼や妖怪など退治してくれ、治安維持に絶大な信頼はあるようだ。けれども、住民をまるで自分の持ち物のように、何の連絡も無しに連れて行ったっきり返さなかったり、長く拘束したり、使い勝手が悪いからと、微々たる報酬で追い返したりしているようだ。
「講和は、その村だけでは無いのですか‥‥」
 余程小さな村で無ければ、寺は各村にある。その村を巡回するように、一向宗僧侶真仏と、弟子数名が回っているのだという。弟子達は若い者から年をとった者まで様々で、次第に増え、今では十名を数えると言う。真仏本人は、最初の講和を行うと、めったに再訪する事は無いのだと言う。
「一向宗が流行り出した時期は、曖昧のようじゃの」
 昔話や墓標などは、それこそ掃いて捨てるほどあったが、どれも、何処にでもあるような昔話に過ぎず、パウェトクは、首をひねる。地理や歴史と言われて、慶次郎は困った顔をする。頻繁にこの場所を離れる身でもあり、加賀全てを知っている訳では無くてすまないと頭をかく様を見て、パウェトクはそうですなあと、笑う。
 一向宗は、北陸全てにじわじわと侵食していると言う事がわかる。その中でも、真仏は、加賀区域を受け持っているようだ。ただ一心に祈れば、極楽浄土が見えてくるという、シンプルな宗教であり、誰にでもわかり易く、宗教上の枷が少ないのが、広まっていく原動力のようだ。
「戻って来ない‥‥か」
 そういえばと、あいつは戻ってきたかと、聞いた男が仲間に血相変えて問いただすのを伊織は見て、溜息を吐く。どうやら、問題の村に出かけた者で、戻らない者が居るようだ。山間の村だ。つい話し込み、泊まってくる事もざらのようで、一日二日、大の大人が戻らない事で騒ぎにはなっていないようだ。それに、林という一門が、時折、人を連れて行くので、人が突然居なくなるのに、慣れているような風もあった。
「大きくも小さくも無い山奥の村で」
 フォルナリーナは、問題の村の大きさ、人数、状況、村の代表者の家などをこと細かに聞いて行く。大雑把な答えしか戻らないのは仕方が無い。それを、問題の村に入って調べなくてはならないだろうと、ひとつ頷く。
 瑚月は、死人という言葉を使わないように気をつけ、問題の村までの道を聞き出しつつ、どんな村でしょうかと問えば、何処にでもある普通の村だという返事を貰いう。近くでも、死人が出たという話は伝わっていないようだ。
 死人について口を閉ざしていたが、何人かは死人について尋ねる者も居り、瞬く間に死人が出たんだという噂が、噂を呼び、どれだけ上手に聞き出す事が出来ても、明らかに冒険者と見られる、派手な姿、装備の者が、山間の村に死人が出たかもしれないという話を聞いていけば、ここ最近の不穏当な世間の動きも相まって、不安を拡大させて広がっていく事になる。

 冒険者達は、問題の村の手前で合流をする。
 近隣の地域で聞いた話をすり合わせれば、ますます怪しさがつのる。
 近づいてみれば‥‥その村は。音が無かった。
 深とした静けさが漂う。生き物の気配が無い。鳥などの小動物が無く声も、村の入り口とみられる、谷間を抜けると、ぱったりと聞こえなくなった。
 嫌な静寂だ。
 昼にしては、煮炊きの煙も上がっていない。
「ん‥‥嫌に静かじゃない、この村? 死人って、土の下からズザーッ!! って登場したりするのかな? ‥‥って、あそこに倒れている人が。あ、あそこにもっ?」
 翼狼が嫌な顔をする。見渡せば、あちこちに倒れている人が居るのだ。
 ウジャトを使用し、危機に対しての反応を上げたアニェスは、寺の位置を確認する。山間の中にある。かなり歩かなくてはならないだろうと、ひとつ頷く。
「どこで死人が出るかわからないからな。武器の無い足手まといもいるからな、俺が補助してやらんとな」
 伊織が笑いながら慶次郎に問いかけると、にやりと笑い返される。
「足手まといの手まで必要とか無いだろ」
 作戦に組み込むつもりも無かったので、そのまま慶次郎とは村入り口で別れる。
「全員で突入でよろしいでしょうか」
 瑚月が口にすれば、翼狼と伊織が首を傾げるが、人を分けるとか考えてもいられないようだった。
 生き物の気配を感じて、村のあちこち。入り口に近い方から、起き上がり、冒険者めがけて歩いてくるではないか。その表情は虚ろで、あいた口には、ずらりと並ぶ牙。
「まだ新しそうな死人じゃの」
 パウェトクは、死人を引き付けようと名刀村雨丸を構えて、死人に接近し、一撃を食らわせる。
(「行方不明者などが混じっていたら、ややこしいことになりそうですけど‥‥」)
 詠唱を終えた貴次のサンレーザーが一番近い死人に当たり、発火する。
「ばらばらにならないで、一体づつ倒さないとっ!!」
 各個撃破を考えていた翼狼は、傷を負った死人へと、ルエヴィトの盾を構えつつ、日本刀法城寺正弘を振り抜く。
「ごめん、先を急‥‥げないみたいねっ!」
 アニェスは、戦闘を任せて、寺へと急ぐつもりだった。しかし、インビジブルと忍び歩きでは、人を誤魔化す為の気配は消せても、生き物という括りで襲い掛かってくる死人憑きは誤魔化せなかった。仲間と交戦している最初の死人をかわせても、新たな死人は、アニェスめがけて、その歩を進めてくる。
 戦闘がひと段落するまで、戦うしかないかと、仲間達に混ざり、リリスの短刀で切り上げた。
「やはり、襲撃された後でしたか‥‥」
 死人がどのように増えるのか、それは神のみぞ知る事だが、死人は生き物を喰らい尽くす。ならば、じきに村は飲み込まれているのではないかと思っていたのだ。それは、的中する。
「数がっ‥‥」
 忍者刀を振るい、そのまま体重を乗せて、吹き飛ばし、返す刀で反対側の死人の懐へと飛び込み様切りかかる。あまり囲まれるようなら、一旦微塵隠れで押し返すのも手だが、どうしても周囲には仲間が居る。
「探索する前に倒せというわけでしょうか」
「まったくなっ!」
 詠唱を終えたフォルナリーナのブラックホーリーが、一体に衝撃を与える。切っ先が揺れる為の間合いも無く、踏み込み、振り回しつつ、伊織もその言葉に頷く。
 どれだけの死人を動かなくしただろうか。村人の姿、侍の姿。老若男女の区別無いそれは、あまりにも嫌な戦いだった。

 最初の戦いが終わってから、村の中へと進むめば、異臭が鼻につく。死人とならなかった、死人に食われた屍が、累々と横たわっていたからだ。村の中を調べたい仲間と、寺へと向かう仲間と、ようやくここで分かれる事になる。
 村の中は、全滅だった。
「こんな事って‥‥」
 フォルナリーナは、眉を顰める。一体の死人を放置すれば、時間の差こそあれ、このような事になるのだろうかと。
「全部‥‥倒せたかな?」
 翼狼も悲惨な状態の村を一巡すると、動く死人は居ないことを確認する。もう、外の村に被害は無いだろう。

 そして、問題の寺の裏では、墓地でも無いのに、おびただしい数の人達が、折り重なるように埋められていた。
「村の寺にしては‥‥侍が多い」
 瑚月が、首を傾げる。その侍達の一部には、家紋をつけた侍が居る。その家紋は、村の中で倒した死人がつけている家紋と同じもののようだと。
「そういやこの遺体も‥‥さっき退治した死人も。たまに身分高そうな着物の人いたね」
 そのあまりの多さに、つい、声を上げる翼狼だったが、瑚月と同じように気がつく。
「ここから‥‥死人は出てきた、のね」
 アニェスが生唾を飲み込み、思わず目を閉じる。
(「──眠りを暴くような真似‥‥本当にごめん。でも、少しだけ‥‥調べさせて」)
「苦しんだような格好‥‥」
 まるで、宴席を一緒に放り込んだような、酒盃やつまみだったとみられる皿もある。
「寺は無人‥‥いや、若い僧侶の仏さんが一人‥‥かな。城山に聞いた坊主じゃない」
 裾を蹴立てて、伊織が仲間の下へとやってくる。何処にでもあるような寺だった。講和しかしていないのだろう。
「身元って、家紋でわかりませんか」
 貴次が、首を傾げる。
「山百合の花車‥‥」
 瑚月が、その紋をそっと切り抜く。
 何人かが、同じ紋を染め抜いている。ひときわ高そうな羽織を羽織った女性の背には、普通の紋とは違い、鮮やかに染め抜かれた山百合の花紋が見て取れた。
「毒‥‥?」
 胸をかきむしるかのような姿に、アニェスは首を傾げる。
「どれ?」
 瑚月がアニェスが手にした杯を受け取る。
「ふむ」
 瑚月と同じく、毒草の知識のあるパウェトクも、近づき、その杯を指でこすり、舐めてみると、瑚月とパウェトクは顔を見合わせる。よく使われる、毒草から作られた、毒では無いかと、気がついたのだ。
「これだけの人を見送る事になるなんて‥‥彼岸花の季節には、まだ早いわね」
 アニェスが、首を横に振る。
 人数から考えても、二つの村に相当する人が死んでいる。
 この、重なりあった骸から、ひょっとすると死人が生まれたのかもしれない。
 暗澹たる面持ちで、村入り口まで引き返すと、慶次郎が何時の間にか黒塗りの槍を手にして、冒険者達を出迎えた。
 何か手がかりになるかと、家紋を差し出し、どうやらその一門が毒殺されたのではないかと、その恨みからか、捨て置かれた遺体の山から死人が現われたのではないかと。そんな推測を、語れば、何時も機嫌のいい顔をしている慶次郎の唇が引き結ばれた。
「すまん。死人は身内だった」
 山百合の花車。
 その家紋を染め抜かれた色褪せた布切れを、慶次郎も懐から出した。
 この、村の奥に捨て置かれた一門から切り取った家紋と同じ家紋。
 静かな山間に冒険者達は居たが、音を立てて様々な事柄が回っていくような、そんな錯覚を覚えた。