【鮮血のアリア】決意
|
■シリーズシナリオ
担当:勝元
対応レベル:1〜5lv
難易度:難しい
成功報酬:1 G 62 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月18日〜05月25日
リプレイ公開日:2005年05月26日
|
●オープニング
冒険者ギルドの入口、一人の少女がおっかなびっくりと言った様相で佇んでいる。
「こんにちわ。冒険者ギルドに何か御用?」
見かねた受付嬢が声をかけると、その少女は茶色の瞳を軽く伏せ、言った。
「あ、あの‥‥冒険者の皆さんを‥‥」
こんな所に来るのは初めてなのだろう。怯え気味の少女に受付嬢は微笑んだ。
「あら、依頼なのね? それじゃ、受付にどうぞ」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
親愛なる僕の妹へ
暫くぶりだね。元気してたかい?
僕は今、相棒や部下と共に大きな商談を纏める為、方々の街を駆け回っているんだ。
メッセンジャーみたいなものだけど、やりがいのある仕事さ。
詳しい事はまだ話せないけど‥‥
もうすぐ今の街を出て、北にあるもっと大きな街に向かう予定。ライデンとか言ったかな。
今の街はこじんまりしてるけど海も近くて、景色も綺麗で気に入ってたんだけどね。これも仕事だと諦めるよ。
出来ればもう一度、今度はキミと二人で来たいと思ってる。何時になるかは判らないけどね‥‥。
それじゃ、また。
追申
ドレスタットは早く出た方がいい。色々と危ないからね。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
受付で少女が差し出した一枚の羊皮紙にはそう書いてあった。
「‥‥手紙はこんなだけど‥‥きっと、兄は悪い事をしてる‥‥」
今までの出来事、友人達の言葉。そして少女の結論はこれだった。
「‥‥お願い、私をライデンまで連れて行って‥‥兄を止めなきゃいけないの」
「冒険者ギルドに任せて。きっと、上手くいくからね」
少女の言葉に受付嬢は頷くと、依頼書を認めた。
夜。寂れた宿の薄暗い部屋。
蝋燭の明かりの下、声を潜め語るは二人の男だ。
「‥‥で、次の親父はどうなんだよ。落とせそうな相手か?」
「努力次第、ですかね。何せ、焚き付けただけで暴れてくれる粗忽者は早々いませんから」
赤毛の青年の問いに答えたのは、腰まで届く銀髪が印象的なローブの青年だ。
「得てして種蒔きとは地味なものです。大輪の花が咲く事を祈りましょうか」
「鮮やかな色の、な」
咲いた暁には、この地に鮮血の花が咲き乱れるだろう。その時を想像して、ニタリと笑う青年であった。
●リプレイ本文
「ちっ、あの野郎‥‥」
領主館からの道すがら、リュリス・アルフェイン(ea5640)は腹立たしげに舌打ちした。
最初から気が進まなかったのだ。あのレオナールに経費を請求するなんて‥‥。結局、予想通りの結果と、予想以上の言葉を返され最悪の気分である。
――ほぅ、依頼人を通さずに経費を強請りに来たのか。いいだろう、私の手駒になる気があるのならな。
余裕たっぷりの勝者の笑み。思い出す度に虫唾が走る。冗談じゃないと断ったのは当然の成り行きだろう。
「悪いな‥‥経費は自腹だわ」
青年は自嘲気味に呟くと、仲間と合流すべく教会への足取りを速めた。
「あの手紙‥‥あなたはどう受け止めます?」
旅支度の合間を縫って、メアリー・ブレシドバージン(ea8944)がマリユス司祭に尋ねる。
「いやあ、どうもなにも怪しさ満点ですよねぇ」
初老のクレリックは微笑もそのままに答えた。一見、全く危機感を感じてないように見えるが、一応危惧はしていたらしい。
「まぁ、皆さんのようなお友達がが付いてますから、安心ですねぇ」
丸投げなのは信頼の証。二人はいつもの微笑を交し合った。
アリアはもう、自分なりの答を見出したのだろうか。そうなれば、ますます自分のいる意味が無くなっていくかも‥‥
焦っていたのかもしれない。メアリーはこの時、ある決意を固めていた。
●街へ
結局、出立できたのは昼過ぎだった。
ドレスから北へ延びる街道を一日ほど行けば、迷わずライデンに着く。このペースで行けば、到着は明日の夕方だろう――ブラン・アルドリアミ(eb1729)は愛馬の手綱を引きながら、そんな事を思った。
「ってゆぅか急ぎたいとこだケド、バテちゃっても元も子もないしネ☆」
伝結花(ea7510)の視線が斜め後方、手綱の先を向く。
鞍上には赤毛の少女。乗馬は始めてだったらしく、おっかなびっくり馬にしがみ付いているのが微笑ましい。
「力むと馬も緊張しますよ。大丈夫、基本的にはおとなしい子ですから」
少女の緊張をほぐすように、ブランは優しく笑いかける。並足程度なら不慣れでもなんとかなる。旅をするなら、馬に慣れておくに越した事は無いのである。
その横、神木秋緒(ea9150)はあれやこれやと少女の世話に暇がない。甲斐甲斐しく旅支度を手伝い、耳が出ないように銀の髪飾りを丁寧に調節してやり、そして今、その危なっかしい姿に心配げな視線を送っているのだ。
「なんだか母親みたいですね、秋緒さん?」
「‥‥こらっ」
多嘉村華宵(ea8167)の軽口に秋緒が小さく拳を振り上げると、一同からくすくすと笑いが零れた。
しかし‥‥。華宵は考える。
彼に会って真実を知れば、これまで以上に傷つくかもしれない。きっと彼女はそれを承知で踏み出すのだ。ならば、手伝わない訳には行かないだろう。少女はもう一人ではないのだから。
それは仲間達に共通した想いのような気がして、ふっと青年は柔らかな笑みを浮かべた。
「ら〜ららら〜♪ ら〜ららら〜♪」
夜空を流れる、澄んだ歌声。紡ぐはピリル・メリクール(ea7976)だ。夜営の最中、見上げた月に触発されたらしい。
と。
歌声を聴きつけたのか、アリアがテントから顔を出すと、ピリルの傍らに腰を下ろした。
「‥‥綺麗な歌声‥‥」
「えへへっ、ちょっと恥ずかしいかな」
照れたように顔を僅かに赤らめるピリルである。
「あれれー。アリアさん、こんな時間にどうしたの?」
そこにもう一人、現れた少女は桜城鈴音(ea9901)だ。夜食を作っていたのだろうか、簡単に調理した保存食を持っている。
「なんとなく、目が冴えて‥‥」
「そっかー」
鈴音は何とはなしに納得すると、
「あ、食べる? 保存食なんて美味しいものじゃないけど、こうすれば結構食べれるよ」
つい、と夜食を乗せた木の皿を少女に差し出した。
「‥‥美味しい‥‥」
一切れ口に運び、アリアが感嘆の声を上げる。
「むむっ、手料理とはオトコゴコロをくすぐるテクニックですね‥‥こ、小癪なっ」
「オンナノコの基本よ、基本♪」
何故だか悔しがるピリルに、涼しい顔の鈴音である。まぁ、料理が壊滅的に下手なんだから仕方ない。
「そうだ、私はオカリナをあげるねっ」
ピリルが懐からオカリナを取り出し、手渡す。
「‥‥練習、しておくね‥‥」
いつか皆で歌えるといいねと、少女は嬉しそうに微笑んだ。
●捜索(表)
立ち並ぶ商店を貫くように延びる表通りを五人の少女たちが歩いている。一見、仲のよい友達同士が散策しているように見えるが、その実態は赤毛の青年の捜索、そして赤毛の青年を誘き寄せる撒き餌の仕込みである。
「――って感じのお兄さんなんだケド、知らない?」
ふと見かけた露店の主に、結花が青年の特徴を伝えている。
「昔、冒険者だったその人に危ない所を助けられて‥‥私、そのお礼がしたくて‥‥」
憧れの視線であらぬところを見る鈴音。気分だしまくりである。
「いやぁ、俺もこの辺で商売始めて長いけど、悪いが見た事ないなぁ」
「もし見かけたら、この宿で待ってるって伝えて貰えるかしら」
羊皮紙を一枚、秋緒が主に差し出した。この調子で先刻から方々の店や酒場を回っているのだが、今の所、結果は思わしくない。
「‥‥結構いい宿じゃねぇか」
男が感心する。秋緒とリュリスの提案で、宿はそれなりに人気のある場所を押さえていた。安全性や目立ち易さに気を配ったのだ。尤も、当然のように料金もそれなりで、懐が常に寂しい結花などはまた食事を減らさなきゃならないと嘆いたそうだが。
(「この調子だと、アリアちゃん一人じゃホントに無理だったかもっ」)
広い町からたった一人を探し出す難しさに、ピリルは内心で安堵の溜息を一つ。人数がいて、策を練ってこれである。一人では無理なのは火を見るより明らかだ。
「あ、あのボウヤは◎ネ☆」
周囲をキョロキョロ見回していた結花が妙な事を口走った。美形観察と称して周囲の警戒を行っているらしい。怪しい人影は無いと本人は言っているが、いかにも怪しいというのは皆の共通見解である。
●捜索(裏)
「ったく女って奴は心配性ばっか‥‥」
裏通りを歩くリュリスが、面白くなさそうにブツブツやっている。一人では危ないと同行者がついたのが気に入らなかったのかもしれない。
「女だけじゃないかもしれませんよ?」
と、茶化すようにブラン。意味は判らないが、リュリスが不機嫌そうに黙り込んだ所を見ると何かあるのだろう。
「彼はハーフで表立って動き難いでしょう。確かドレスでも裏通りに宿を取っていましたね」
華宵が言う。ターゲットは如何わしい酒場や寂れた宿屋だ。金次第でどんな者でも入れるような場所なら、餌を撒くに最も効率がいいだろう。尤も、此方もそれなりのチップは払う必要があるが‥‥。
「手早く済ませましょう。夜までに皆さんと合流したいですし」
ブランの言葉に二人の青年は頷くと、行動を開始した。
●来訪
既に日も落ち、夜の帳が街を包み込んでいる。
――きぃ。
微かに軋む音を立てて、扉が開いた。
「あ‥‥」
足音を立てずその部屋に入り込んだ赤毛の青年は、そこにいるのが見覚えのない青年一人と知って、悪びれずに言った。
「ごめん、妹の部屋と間違えちゃって」
「いや、間違ってねーよ」
今、確かに妹と言った。コイツだ、間違いない。リュリスは確信を持って言葉を放つ。
「悪いが職業病って奴でな」
「まぁ、そんなモンだろうなぁ。アイツがあんな所まで言伝を頼む筈ねぇしよ」
人が変わったように伝法な口調。青年の表情が不気味に歪む。
「ロキに木登りさせる為に、血の雨降らすその前に手紙か。随分優しいな」
「悪ぃが、テメエと戯言繰り合うほど暇じゃねぇんだ。とっとと案内しなよ」
「へっ、そうかい」
廊下に出る。気配を探る。とりあえずは一人で来たようだ。リュリスは一通り確認すると、青年を妹の待つ部屋に案内した。
●邂逅
「‥‥よくここまで来たね、アリア。嬉しいよ」
別室で待つ妹とその仲間達を見て、赤毛の青年は嬉しそうに言った。
「‥‥兄さん‥‥」
少女はたじろいだ。昔と変わらぬ優しい笑み。だが過去の記憶と何かが違う。決定的な何かが変わってしまったような‥‥。
「怖がらないで。貴方の思う事を正直に語りなさい」
「大丈夫、私たちがついてるよっ」
少女の傍ら、秋緒とピリルが勇気付けるようにそっと囁く。少女は小さく頷くと、意を決して口を開いた。
「何をしようとしているの、兄さん‥‥私、兄さんが分からない‥‥教えて、何を企んでいるの‥‥?」
「聞いてどうするんだい?」
ぞっとするほど優しく、青年が尋ね返す。
「もし‥‥もし、悪い事をしようとしてるなら‥‥」
言葉に詰まる。だが、見守る友人たちの視線に後押しされ、少女は言った。
「‥‥私、兄さんを止めなきゃいけない」
「‥‥っ」
少女の言葉に青年は俯き、そして。
「‥‥くっくっくっく‥‥あはははは‥‥!!」
突然の哄笑。向き直った青年の顔は、先程までの面影を微塵も留めていない。綺麗な顔立ちが、それ故にいっそう不気味に歪んで見える。
「あんな事をされた癖に、お前は人間たちに毒されたのか‥‥可哀想に、兄さんが直してやるよ」
手首の腕輪が薄赤い輝きに包まれ、青年の身体も同様の光に包まれる。何らかの魔力が発動したのだ。
張り付いたように歪んだ笑顔で、ゆっくりと青年が少女に近寄る。
恐怖と焦慮、そして絶望に感情が限界まで昂ぶる。過負荷に少女の神経が悲鳴を上げた。
●狂化
『お兄さんを止めるっていうけれど、私達は彼が何をしようとしているのか、どうしてそんな事をしようとしているのかは解らない。そして理由が解らない以上、言葉だけで止める事は難しいわ』
脳裏に甦るのは鈴音の声だったろうか。
『向こうにも譲れないものがあるだろうから、多分力尽くでって事にもなると思う。その覚悟はしておいてね?』
覚悟は出来ていた‥‥筈だ。だが、現実の前になんと儚い事だろう。
目の前で起きている事が、まるで夢の中のように現実感を失っている。もう恐くもなんとも無い。
その代わり、全てがどうでもよくなっていた。
「――いけない!」
突然放心したアリアを見て、ブランは咄嗟にダーツを投擲した。青年は易々と避けるも、近寄る足取りが一瞬止まる。
同族の彼女にだけは判った。あれは狂化だ。しかも全てに無感動になるという、ある意味で最も厄介な‥‥。こうなると例え命の危機が迫っていようと無感動になり、一切の行動を停止するのだ。
「易々とお渡しする程甘くはありませんよ」
忍者刀を抜き放った華宵が少女の前に割って入ると、牽制するかのように刀を一閃した。
「させないからっ!」
秋緒が少女を抱きしめる様に身体で庇うと、抜刀して後退を図る。少女はなすがままだ。
「ネ、カイ君。商談って何の事? やっぱり今のご領主サマをどうにかしちゃおうって言う取引‥‥カシラ」
時間稼ぎの為か、結花が語りかける。青年は見向きもしない。
「ネェ、欲しいって言ってた力‥‥それ、手に入れられた? カイ君が守りたい人ってアリアちゃんの事でショ? でも‥‥このままじゃ、尚更カイ君の力はアリアちゃんを傷付けるだけヨ」
結花は気にせず語りかけた。どうしても考え直して欲しかったのだ。
その間にもブランと華宵が斬りかかっている。だが、二人とも相応の剣術を会得している筈なのに、その剣閃は青年にかすりもしない。
「アリアちゃんは今、精一杯の勇気で身に降りかかる全てを受け止めて尚、一生懸命生きようとしているんです。それでも彼女が悲しむ事をしますか?」
ピリルが叫んだ。友を思うあまり激情が口から迸る。
「‥‥ロキって人と、どっちが大事なんですか!」
「カイ君が守る相手は、守りたい相手は、まだアリアちゃんデショ? だからこんな手紙まで出したんデショ?」
結花も必死に言葉を振り絞る。
「‥‥ゴミのような人間が偉そうに囀るんじゃねぇ」
青年は吠えると腰の短剣を抜き放って素早く懐まで踏み込み、華宵に斬り付けた。
●戦闘
「くっ!」
慌てて刀で受ける。危なかった。得物が取り回しの利く忍者刀でなければ、防げなかったかもしれない。
「何があったんですか‥‥? 俺には、貴方が全くわからない!」
必死に剣を振るい、叫ぶ。同じハーフだというのに、ブランと青年の思考は完全に隔絶していた。
と。
「窓からアリア連れて逃げろ!」
一人離れて奇襲を警戒していたリュリスが、異変に気付いて駆けつけ、油壺を投げつけて牽制した。
即座に鈴音と秋緒の二人がアリアを抱えるようにして下がる。こうなった以上、この場に彼女を置いておく訳には行かないのだ。
後退するアリア達に続いて、ピリルが下がり、力ある言葉を紡いだ。魔法で眠らせようとしたのだ。だが、その魔力は青年に何の影響も与えなかった。腕輪の力の影響か、完全に抵抗されているようだ。
「ちぃっ!」
青年の背後からリュリスが斬りかかった。部屋に飛び込んだ時点で背後を取っている。幾ら相手が手強くても、これなら当たる‥‥!
しかし、リュリスの剣は青年の背中を切り裂く直前でピタリと動きを止めていた。
「お遊びはそこまでにしましょうか、カイ」
何時の間にか、腰まで届く銀髪の青年が戸口に立っていた。リュリスの体を魔力で縛ったのはこの男だろう。
「オリビエか‥‥いいところで邪魔しやがって」
つまらなさそうに呟く。この隙にアリア達は完全に離脱していた。妹が去ったのに気付いて興が冷めたのか、短剣を収めて踵を返した。
「まったく、仕事を忘れないで下さいよ。こんな目立つ場所で騒ぎは御免です」
呆れたように一人文句を言いつつ、オリビエは外に出る。
「待ちなさい!」
慌ててブランと華宵がその後を追った。
だが‥‥彼らが見たものは、月明かりに浮かぶ影に溶け込むように消える青年の姿だった。
(「‥‥畜生!」)
動かぬ体。心の中、リュリスが吠える。この屈辱、この怒り。そっくり返してやらねば収まりそうにない。
「考え直して‥‥欲しかったケド」
結花は呆然と佇む。
‥‥我知らず、涙が一筋、流れた。
●接触
宿を離れて、すぐ。
――ギィン!
何の前触れもなく、青年の身体に淡く輝く月の矢がぶつかり、はじけて消えた。
「‥‥なんだよ。今疲れてんだけど」
大した威力ではなかったのか、叩き付けられた魔力の矢を意にも介していない。
「聞きたいの、私になら教えても良いって言った『狙い』っていうのをね」
スクロール片手、天空から舞い降りた女が尋ねた。
「今のこの環境って、結構気持ち良いの。でも、この気持ちよい環境を壊してでも良いと思える事なら‥‥」
一緒に行ってもいいわ。常と変わらぬ微笑の仮面でメアリーは言う。
「単純さ。ハーフエルフ以外のゴミを根絶やしにすんだよ」
青年の回答に女は絶句し、立ち去る姿を黙って見送ったのだった。