【小さくて幸せな箱庭2】神憑りの姫巫女
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■シリーズシナリオ
担当:恋思川幹
対応レベル:2〜6lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 21 C
参加人数:8人
サポート参加人数:4人
冒険期間:05月20日〜05月28日
リプレイ公開日:2005年05月28日
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●オープニング
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昔々の物語。
身分はさほどではないものの、見目麗しき公家の娘が女房として宮中に出仕しておりました。
その娘のもとに、夜な夜な通う不思議な男が現れました。
わずか半月ほどの間でがありましたが、二人は愛し合いました。しかし、満月の夜を前にして男は娘に別れを告げると、それきり姿を見せなくなり、足取りを追うことも出来ませんでした。
その時、娘は既に男の子どもを身篭っており、女房仕えを辞することになりました。
娘の両親がとにかくにも、相手の男を探そうと娘に問い質します。
すると、娘は答えました。氏も素性も知らされていません、と。わかっているのは、月明かりに輝く金色の髪、夜よりも深い瑠璃色の瞳、長く尖った耳。異形ではあるけれど、しかし決して醜くはなく、この世のモノならざる美しさであったと言います。
それなら、悪しきモノではなく、カミの妻問いを受けたのであろうということになりました。
事実、生まれてきた子どもは髪や瞳の色こそ常のものなれど、不思議な神通力を持っていたのでありました。
その生まれてきた子どもというのが、お社の姫巫女、磐座比売命なのであります。
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「‥‥はぁ‥‥」
磐座比売命こと、座笆がかんざしを見つめながら溜息をつく。
梅をあしらった、凝った造りの一品は、冒険者から贈られたものである。
「何かお悩み事でございますか? 座笆様」
松風局がにこやかに問いかける。
「‥‥退屈じゃ‥‥」
不貞腐れたように座笆が答える。
「歌を紹介いたしましょうか? 今日はどちらへ赴きましょう?」
歌を通して、まだ見ぬ外の世界に想いを描く。冒険者に提案された、その遊びは座笆にとって新しい楽しみの一つとなっていた。
松風局も座笆に貴人らしい教養が備わることを喜んでいる。
「‥‥今はよい‥‥」
しかし、この時は首を横にふって、ただかんざしを見つめていた。
「‥‥‥そんなに、そのかんざしの贈り主が気になるのでございますか?」
さも楽しげに問いかける松風局。
「‥‥なっ!? ち、違う! そうではない!」
「まったく羨ましいことでございます。わたくしも座笆様のように若々しければ、素敵な殿方と出会いを夢見るものにござますが‥‥」
おどけてみせる松風局。他人の恋愛の話というのは、心弾ませるものである。
「違うと言うとるじゃろう! ‥‥‥そういうことではないのじゃ‥‥」
顔を真っ赤にして否定する座笆だったが、ふと遠くを見るような表情に化ける。
「のう‥‥。歌には、なぜ人を恋しく想う気持ちを詠んだが多いのかのう?」
座笆はかんざしをきゅっと握り締めた。
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「今度は山鬼か。厄介ごとは続くものだな」
姫巫女の社を預かる領主、左衛門は苦々しげに言った。
左衛門とは、ありふれた名前のようであるが、もともとは都の左衛門府という役所のことである。
姫巫女の母親を嫁に迎えた折、それに相応しい格付けとして端役ながらも正式に任官された‥‥のだと言う。以来、もっぱら左衛門を通称として用いている。
「お迎えの儀はどうなる?」
左衛門は家臣に問う。
「山鬼が出没するのに山中を移動するのは危険でございます。‥‥低地を迂回させてはいかがでございましょう?」
家臣が答える。
「あの儀は山の神を里にお迎えし、田の神となっていただくもの。山から来ねば意味を為さぬ。‥‥その山鬼、退治できぬのか?」
「山中は境界があやふやになりますので、多数の兵を動員することはできませぬ」
「とすれば、お迎え役に護衛をつけるのも無理か‥‥。少数精鋭といきたいところだが、主だった者は儀式に参列せねばならぬ」
左衛門は弱ってしまう。
「再び冒険者を頼られてはいかがでしょう?」
「‥‥おぬしは都合よく現れるだな。松風局殿」
唐突にあらわれて提案したのは松風局であった。
「先のこともそうだが、随分と冒険者に拘るのだな? 何を考えておる?」
左衛門は松風局に問い質す。
「別段、何ということはございませぬ。冒険者は色々な話を見聞きしている者にございます。その話を聞いておけば、わたくしが姫巫女様をお慰めする物語りなどすることができるのでございます。機会があるのなら、話を聞いてみたいと思ったまでのことでございます」
先日、冒険者を導きいれたことなど、億尾にも出さない松風局。
「よかろう。悪条件での特殊な戦いは、我らよりも冒険者が得手とする領分だ」
左衛門はそう納得した。
「いかにお使いなさるおつもりで?」
家臣が問いかける。
「少々不本意ではあるが‥‥お迎え役に申し付ける」
「それは‥‥! 儀式に冒険者を取り込むことに!」
「近隣の領主との関係を今以上にややこしくするよりはよかろう」
左衛門はそう決断を下した。
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江戸のギルドにて。
「祭祀の手伝いですか?」
「そう格式ばった内容ではない。西方にある滝にて樽にいっぱいの水を汲み、山中を通って、姫巫女様のお社にまで運んでもらいたい。それが儀式の一部ではあるが、運び終われば、あとは大人しく祭祀が終わるまでじっとしているだけでいい」
江戸の冒険者ギルド、前回とは違い、左衛門の家臣が赴いていた。
「滝からお社までは、およそ一日程だ。祭祀当日の昼頃にあわせて、お社へ到着するようにしてもらいたい。ただし、山中にはここ最近、山鬼が複数出没している。それが冒険者に依頼する理由だ」
左衛門の家臣は条件を説明する。
「山の神をお迎えする『お迎え役』というのが冒険者の祭祀での役割だ。若干、祭祀に関する手順があるが、簡単なものだから、さほど気にすることもないだろう」
●リプレイ本文
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山中を行く冒険者の一行。
「本当だったら力有り余っている俺が樽を持った方が良いのだろうが‥‥すまない」
先頭を歩く飛鳥祐之心(ea4492)は太刀で後列の仲間達が通るのに邪魔になりそうな樹の枝を払いながら、そう言った。
「山に一番詳しいのは祐之心様ですから、気になさらないで下さい。むしろ助けられています」
セフィール・ファグリミル(eb1670)は額に汗を流しながら、樽を載せた輿の担ぎ棒を握っている。エルフやシフールのように極端に体力が低いわけではないが、樽一杯の水は二人掛かりでも重いことは重い。加えて、この辺りの丘陵は九十九峰四十八谷とも称される、起伏の激しい地形である。人並み、あるいはそれより少し劣る彼女には幾分大変な行程である。
先頭を行く祐之心が、猟師としての知識を活かして、的確に歩き易い道筋に誘導していなかったなら、体力の消耗はより一層激しいものであっただろう。
「ちょっと待った! ‥‥‥‥獣じゃないな? 猟師にしては乱暴だ。これは山鬼‥‥なのか?」
森の中に見慣れない痕跡を発見した祐之心は、消去法でそれが山鬼のものではないかという推測にたどり着く。
「近いのか?」
レイナス・フォルスティン(ea9885)が問いかける。
「鬼のことは詳しくはわからないからな。だが、それらしい跡があるからには、ここは奴らの縄張りなんだろうな」
「魔法を使います。しばらく回りを警戒できますから」
ステラ・シアフィールド(ea9191)が名乗りでて、バイブレーションセンサーの魔法を使う。上達した彼女の魔法の能力であれば、短い時間ではあるが継続的に範囲内の探査を行うことができる。大地の精霊の力を借りて拡大したステラの知覚は周辺の大地を舐めるように震動を探索する。
「‥‥今はまだ、近くにはいないようです」
ステラの言葉を聞いた一行は再び歩き始めた。
慎重に隊列を整え、周囲に気を配る。
「‥‥そろそろ効果がきれますが‥‥この辺りには‥‥あっ!」
魔法の効果が切れる直前である。ステラは声をあげた。
「どうした? 何かあったかい?」
黒崎流(eb0833)がステラのほうにふり向く。
「魔法が消える直前に‥‥獣よりも大きな‥‥例えるなら、ジャイアントの方々に近い震動を感じました」
「どちらだい?」
流は問う間にも刀を抜き、戦闘態勢をとる。他の冒険者達も倣う。
「山側です。探索範囲の端ですので、距離はおおよそ‥‥」
100mである。
「やりすごせそうかよ?」
樽の輿の後ろを持っている天馬巧哉(eb1821)が斜面の上方を見つめて言う。幾分声は潜めている。
「見通しがよいわけでないから、向こうからも見えてはいないだろうが‥‥逆に言えば出会い頭になる危険もあるな。ここらで迎え撃ちたい」
祐之心の判断に冒険者達は同意した。
「あの二股になった樹の根元なら、樽を固定できそうです」
セフィールが視線でその場所を示す。樽が斜面を転がり落ちでもしたら、大変である。
「巧哉さん、風向きは?」
「気にするほどはないぜ。流れはしないが、戻りもしないだろうな」
所所楽石榴(eb1098)が聞くと、巧哉も即座に答えた。事前に石榴が自分の術の性質を伝え、即座に術を有効に活用できるかの判断を仰げるようにしていた。
石榴は巧哉に礼を言うと、印を結んで呪文を詠唱する。石榴の聴覚が蝙蝠の如く、研ぎ澄まされていく。
研ぎ澄まされた聴覚は、山鬼が茂みを掻き分け、枯れ枝を踏み折る音を聞きとってみせる。
「僕らの方に近づいてきてるよ」
音が少しずつ近づいている。だが、まっすぐに近づいてきている様子はないのは、おそらく山鬼が冒険者達の存在に気づいていないからであろう。
「見えました‥‥木立の間から赤黒い鬼の巨体が‥‥目と鼻の先です」
目のいいセフィールがまず山鬼を見つけた。
「‥‥先手必勝だね」
石榴は再び印を結ぶと詠唱を開始する。
石榴がかざした手の先から眠りを誘う香りが流れ出てゆく。
「‥‥んがぁ!? がああぁ‥‥」
山鬼があげようとした咆哮は途中で途絶えた。
「効いた! ‥‥ってうわあぁっ!?」
体力のある者は総じて忍術に対して高い抵抗力を持っている為、無事に効果があらわれたことに石榴が歓声を上げたのも束の間である。
――ズウン!
眠りに落ちた山鬼はその場に崩れ落ちるが、いかんせん斜面である。バランスを失った山鬼は茂みの潅木の枝を折りながら、冒険者達の目の前まで転げ落ちてきたのである。
「うがああぁっ!!」
術の効果であっても眠りそのものは自然のものである。斜面を転げた痛みで山鬼は目を覚ます。
「でぇりゃぁぁぁぁぁっ!! 両ぉぉぉぉぉ断っっ!!!!」
が、転がっている山鬼が起き上がるのを待つほど、冒険者達もお人好しではない。
祐之心は大上段から太刀の重さと重力の加速を乗せた一撃で、山鬼を袈裟懸けに斬り下ろした。
「ぎゃああああああぁぁぁぁっっ!!」
山鬼から断末魔と鮮血が噴き出した。
「んがああぁぁぁ‥‥」
「がああぁっ‥‥」
木霊ではない。どこかで別の山鬼が吼えたようであった。
「今の断末魔と血の臭い、他の山鬼も呼びこみそうだな」
レイナスが吼え声の聞こえた方角を見やる。山鬼であれば、自分の武術の腕を磨くのに不足のない相手である。出来る事なら戦いたくもあったが、今の目的は山鬼の殲滅ではなく、祭祀の手伝いである。レイナスが心中でそんな逡巡を感じていると、女性の高笑いが響いた。
「あーはっはっは! 山鬼、迎え撃てばいいじゃありませんか。私、いい加減ちまちまと魔法を使うのは、もう面倒ですから。まとめて倒してしまおうじゃありませんか」
「ステラさん!?」
一行はぎょっした。普段は卑屈なほどに謙った態度のステラが、そのような態度をとったということにである。
だが、その理由はすぐに理解された。
逆立った長い黒髪、血の色に染まった瞳によって‥‥。
結局、最初の山鬼と戦った後、その飛び散った血の色によって狂化したステラは、石榴の術によって眠らされ、祐之心におぶられて運ばれた。
ステラが目を覚ましたのは、野営すると決められてから仲間に揺り起これてである。
前衛である祐之心の手が塞がった分を補ったのは、レイナスであった。
高いレベルで攻防のバランスが取れたレイナスは、その後、二匹の山鬼との遭遇に際して、ナイル川の流れにも例えられるアビュタの剣を振るい、山鬼をその鋭い剣先の餌食にして見せたのである。
「まだまだ‥‥俺は強くなる」
倒した山鬼を見てレイナスはさらなる精進を思った。
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その山はこの丘陵地帯の最高峰であった。標高は高くないが、東と南に広大な関東平野、西と北に遠く無数の山々を見渡すことが出来る、優れた展望の地である。
その山頂から、姫巫女の社はすぐ足元に見下ろすことができる。
「これだけの眺望の地がすぐそばにありながら、姫巫女様はあの富士という山すら見たことがないと言う。駕籠の鳥とは寂しいものですね」
サーガイン・サウンドブレード(ea3811)は富士山を見ながらそんなことを言う。
「ああ、だからさ‥‥この辺りの草花でさえ、社にないものはすべて珍しいものじゃねーの?」
巧哉はそう言いながら、姫巫女への土産として野の草花を見繕っていた。祐之心も動揺の考えであったようで、男二人で植物採集といった趣となっている。
冒険者達がそこにたどり着いたのは、祭祀当日の午前中であった。日が中天にかかるには、まだ時間に余裕があり、冒険者達はそこで休息と身支度を整えることにした。
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樽を運んで社に入ると、丁重な扱いで冒険者一行は迎えられる。
基本的には社側の人間が主導している為、冒険者はただ、それに従うばかりではあったが、やはり巧哉が事前に予習を念入りにしていなかったなら、余計な手間をかけさせてしまったであろう。
「山の神様をここにお連れいたしました。今年もこの地が幸い給わらんことを」
「お迎えの役、ご苦労であります」
巧哉と社の人間の間でそんな会話が交わされ、樽の引渡しが終われば、お迎え役の役目はひとまず終わりであった。
後は儀式の場に立会うばかりである。その場で特別にしなくてはならないことはなかった。
華麗な巫女装束を身にまとった座笆の凛とした姿は、冒険者達はこの儀式が彼女にとっての晴の舞台であることを改めて感じさせた。
参列する領主の左衛門とその一族郎党の主だった者達もすべて正装に身を包んでいる。
が、座笆は見知った冒険者の顔を見つけると、かすかに頬を綻ばせた。厳粛な中にかすかに生じた柔らかな空気。
「あ、あ、あ‥‥かわい‥‥むぐっ!!
「‥‥駄目だよ? セフィール殿」
座笆の可愛らしい様子に声をあげそうになったセフィールの口を塞いだのは流である。声を潜めて、セフィールを窘めた。セフィールは可愛いものに抱きつく癖がある。顔見知りを見つけて微笑みかける‥‥これがセフィールの琴線に触れないはずもなかったのである。
そんな小さなハプニングはあったものの、厳粛な空気の中、儀式は始まった。
祭壇に供えられた樽に神職が拍手を打ち、祝詞を奏上する。祝詞の独特の節が耳に心地よく、陶然とした気分を誘い起こす。
神職が樽の蓋を木槌で割ると、榊の枝を差し入れる。その榊の枝を使い、座笆に運ばれてきた樽の水を振り掛けていく。他に数名の同じように榊の枝を振るい、座笆をしとどに濡らしていく。
そして‥‥磐座比売命に神が降りてきた。
「あっ‥‥‥ああっ、ああああぁぁっ!!」
磐座比売命が叫び声をあげて、立ち上がった。
「神が磐座比売命様の中に降られましたぞ」
神職の一人が高らかに宣言した。
(あれが神憑りの正体‥‥)
ほとんど忘我の状態で、叫び声をあげ、暴れまわる姿は神憑りと呼ぶに相応しい。取り囲む神職達を暴れる座笆を丁重に受け止め、またそっと押し返す。
座笆の髪は高く逆立ち、座笆の瞳は紅に染まっている。何も知らなければ、まさに神憑りの証とさえ考えることもやぶさかではなかったであろう。
だが、冒険者達は知っている。それは前日、ステラが起こした現象と同じものであることを。
狂化。
ハーフエルフを単なる倫理や信仰上の禁忌ではなく、現実の脅威とならしめているものである。
「掛けまくも畏き山の神、田の神の大前に、正八位下左衛門大志、比企透宗、恐み恐みも白さく‥‥」
左衛門が狂化した座笆の向かって恭しい態度で頭を下げる。
「‥‥信じがたい光景ですね。仮にも領主様がハーフエルフ、それも狂化を起こしている相手にあれほど恭しく頭を下げるなんて‥‥」
欧州出身のサーガインは小さな声で呻いた。
彼自身がハーフエルフを差別しているかどうかは別の問題としても、彼が見てきたハーフエルフの姿というのは、常に恐れられ、蔑まれている姿なのである。まして、狂化を起こしているともなれば、その内容如何では有無を言わさず『処分』されることさえあるのだ。
セフィールとサーガインが感じた衝撃の大きさは、レイナスやジャパン人などハーフエルフ、あるいはエルフが定住していない国の人間の比ではなかったであろう。だが、この光景にもっとも衝撃を受けていたのは、おそらく座笆と同じハーフエルフであるステラであったことだろう。
彼女はこの儀式の様子に、果たして何を感じていたのであろうか?
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儀式を終えて後、冒険者達は正式に磐座比売命に謁見することを許された。
「こんなに‥‥たくさん。わらわの為にか?」
冒険者達は座笆の為にそれぞれに贈り物を用意していた。
今回の依頼は儀式の手伝いであったが、座笆がこの小さな社の中で退屈な時を過ごしていることは、以前と変りないと思ってのことなのだろう。
「‥‥わらわは嬉しいぞ‥‥皆に礼を言う‥‥」
今回は自分の為というより、儀式の為に冒険者が来るのだと聞いていただけに、座笆の感激はひとしおであった。頬を赤く染めて冒険者達見回した。
「くうぅ〜、やはり可愛いです!」
「や、止めぬか! セフィール殿の胸は大きくて息ができぬのじゃ!」
儀式の時の分までという勢いで抱きつくセフィール。
「む、胸!? って‥‥あ、いや‥‥」
二人の会話に顔を赤らめて慌てる祐之心。
「ね、ね! 僕や流さんの贈り物さ、さっそく着けてみてよ。女の子だもん、やっぱりこういうかわいいの好きでしょ?」
「‥‥わらわに、似合うじゃろうか?」
儀式に参列した時の巫女服姿のままの石榴もはしゃいでいる。
「このサーガイン座笆様のためなら例え火の中水の中‥‥。しがない冒険者ですが、ご用があれば何なりとお申し付けください。座笆様の為に動きたく思います」
サーガインが儀式の時の左衛門に劣らない恭しさで、座笆への臣従を誓う。
「ほほう、この狼殿は人に飼われる事ができるのか?」
サーガインに対しては、どういう理由か、余裕を持った応対をする座笆。むしろ人に傅かれることに慣れているからであろうか。
(だけど‥‥普通の女の子‥‥だよね)
流は冒険者達と戯れる座笆を見ながら、そんなことを思う。
「松風殿。ちょっとお話があるのだが‥‥一緒に少し席を外して貰っても構わないかな?」
「はい。なんでございましょう? 姫巫女様、しばし席を外します」
流と松風局は一礼する、その場を離れた。
不意にどこからか、歌が聞こえてきた。
「誰が歌っておるのじゃ? 聞いたことのない調べに、聞いたことのない言葉のようじゃ‥‥」
「さあ、誰なんだろうな?」
それはステラの歌声であった。理由をわからないものの、姿を見せようとしない彼女の気持ちを慮った巧哉は知らないふりをした。
姿を見せないといえば、レイナスもそうであった。何か楽しみなことがある、と言っていたらしい。
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「立派に役目を果たした巫女を侮辱するわけではないが‥‥」
そう切り出した流の話は、松風局だけに打ち明けるつもりであった。
だが、不運なことに流も松風局も、偶然にも話を盗み聞きしてしまった人物がいたことに気づかなかったのである。