●リプレイ本文
●医者の話
シシルフィアリス・ウィゼア(ea2970)とエリヴィラ・アルトゥール(eb6853)は、村でニコルの親から聞いた、ニコルの病気の際に呼ばれた医者のいる村へとやって来た。二人の目的は、ニコルの死因に何か不自然な点がなかったかどうかを調べること。
ニコルの病状は、既に聞いてきていた。咳をし始めたのはいつからだったかはっきりしないが、寝込む1週間ほど前だったと思うと聞けた。軽い咳が徐々に頻繁に、苦しそうな咳になり、同時に熱と多量の汗をかくようになり、病状があまりに酷いからと医者を呼んだその日に亡くなった。咳をし始めてから死亡までは、およそ1週間半ほど。
「という症状だったそうですが、お医者様が見た状況と併せて、何か不自然な点とかありませんでしたか?」
「不自然なところ、か‥‥特にこれといって、思い当たらないな‥‥怪我をして、それが元っていうわけでもない、単なる流行病だった」
「流行病‥‥?」
エリヴィラが首を傾げる。流行病ということは、村でも病が流行っていなければうつりようが無いのではないか。
「あの村でも、少しうつった人はいたんだ。その殆どが大人で、死には至らなかったが」
「それは、ニコル君からうつったんですか? ニコル君にうつったんですか?」
「時間で見れば、ニコルからうつったと見るのが妥当だろう」
ということは。
「誰かが、病気をニコルにうつした。それは村の人じゃない、ってこと?」
ニコルと接点のあった、村人以外の存在。
‥‥森の動物、もしくは犯人。犯人だった場合、大人は死に至らないのだから、犯人は大人だと分かる。
礼を言って、出来るだけ他言無用と頼み、二人は医者のいるその村を後にした。
調べたいことはたくさんある。
●ニコルの家で
オリガ・アルトゥール(eb5706)は、ニコルの両親への挨拶の後、墓参りにやって来た。今度は冒険者が来るまで現場維持だと、墓が掘られて埋められた以外は殆どそのまま残してあった。
「ニコル‥‥あなたが何か知っていれば聞いてみたいところなのですが」
斜めに立っている十字架。掘り返された後の、色の違う土。それ以外の異常は見つからないだろうか。オリガは歩いて見てまわる。
「‥‥これは、足跡?」
しゃがんでよく見てみる。犬が埋められる事件の前の日にでも雨が降ったのか、土に大きくついている凹みが、一直線にどこかへと続いている。
犯人の足跡とは限らない。足跡ですらないかもしれない。それでも、何か手がかりを掴めれば。オリガはその跡を追っていく。
・ ・ ・
一方で、オリガの去った後の、ニコルの家。
朝霧桔梗(ea1169)は自分の質問がてら、シシルに頼まれた質問も幾つかニコルの両親に尋ねてみる。
「ひとつ目ですが、お願い帳に書かれていそうなことは、何か心当たりはありませんか?」
「いえ、ニコルは私達にはわがままをあまり言わない子だったので‥‥雨の日に「早く晴れろ」って言ったり、この村以外の場所も見てみたいって、将来の夢みたいに言うくらいしか」
この村の外へ。お願い帳に書かれていそうではあるが。犯人は遺体を掘り出して持っていくのか?
「お願い帳の存在を知っている人物の心当たりは、ありますか? ご両親以外に」
「お願い帳は、たぶんマリーナちゃんは知っているんじゃないかと思います。マリーナちゃんが家族に話していれば、そちらも」
「そういえば、ニコル君にはマリーナちゃん以外にも仲の良い友達はいたのか? いたら、教えてほしいのだが」
ニコルのコレクションのチェックを行っていた所所楽柳(eb2918)が声を上げる。ちなみにニコルのコレクションは、変な形の木の枝に、顔のようなでこぼこのある石、硬い木の実など。狼の尻尾は既に母親によって捨てられたようだ。ナマモノだし。
「マリーナちゃんのほかには、4人います。アキムくん、ヨシムくん、ラビくん、ライサちゃん。4人とも、ニコルより2つ3つ年上です」
「森に、その子達と一緒に行ったりは?」
「時々は。でも殆どは、一人で行ってたみたいです」
ということは、ニコルは村の中で遊ぶ友達としては彼らを見ていたが、森の中では共有したくない何かが合った可能性がある、ということだろうか。所所楽は考える。
「その4人の子の家の場所を教えて頂けませんか? 少し、話を聞いて来たいと思います」
メイユ・ブリッド(eb5422)が申し出て、大体の位置を教えてもらう。分からなくなったら、村の誰かに聞けば分かるだろうということだった。
「ところで、奥様。狼の尻尾についてなのですが」
と、再び朝霧の質問。
「それの状態はどうだったか、覚えていらっしゃいますか? 腐敗していたのか、新鮮な状態だったのか、思い出せる範囲で教えていただけないでしょうか?」
「生きている狼から切り取ってすぐ、といった感じでした。まだ血も渇いていなくて‥‥」
ニコル少年が狼を生け捕りにし、切り裂いたというのは考えられない。とすれば、誰かがそれをして、ニコル少年に渡したのだろう。‥‥村の猟師とか?
「そうしたことをやってあげた可能性のある人を、当たってきたいと思います。所所楽様、あとをお願いしますね」
「ああ、任された」
●森の中
村の近くの森を見回していたブレイン・レオフォード(ea9508)は、思いもかけぬ人物とであった。オリガだった。
「あれ? オリガさん、ニコル君の墓参りじゃ?」
「墓の近くにあった、足跡のようなものを追ってきたんです。そうしたら、ここへ辿り着きました」
もともと森を見に来る予定だったオリガにとっては好都合。一人で行動するのは危険もあったが、それもブレインと合流できたことで問題は無くなった。
「狼の尻尾って言ってたけど、今まで探して狼の一頭も見つからない」
「今の時期、熊などなら冬眠しているでしょうが‥‥狼は起きているはず。偶然なのでしょうか‥‥」
森の中は村と違って、雪かきなどされていない。積もったままの雪に膝近くまで埋めながら、二人はあちこちを見てみる。だが、痕跡と言えるようなものは殆ど雪の下だろう。発見は難しい。
狼は見つからないが、それでも小動物や鳥などは普通の森どおり見回せば存在する。見た感じ、普通の冬の森である。
ちょっと待った。
「どうして、リスがいるんですか。真冬の森の中、冬眠もせず」
「どうして‥‥腹が減ったからとか、安眠妨害されたとか?」
●マリーナの家
アーデルハイト・シュトラウス(eb5856)は、今回の子犬の飼い主であるマリーナの家へとやって来た。
「マリーナさん、ニコル君のことについて聞きたいんだけど、大丈夫かしら?」
さすがに、友達を病気で亡くし、しかもその墓が掘り返され、おまけに愛犬まで葬られては、少女には堪えたようだ。元気の無い様子だが、小さく頷く。どうやら、事前の話で出たように大勢で押しかけ質問攻めにするということをしなくて正解だったようだ。
「ニコル君が、お願い帳っていうのを持ってたこと、知ってるかしら?」
「うん、知ってる。時々その話をしてたの。ごちそうがたべたいとか、キーラみたいな犬を飼いたいとか」
「他には、どんなことを書いたって言ってたか、覚えてる?」
「キエフとか、大きな街を見てみたいって言ってた。あとは、ずっとお父さんとお母さんと一緒にいたいって。あとは分からない」
「そう‥‥(お父さんとお母さん‥‥?)ところで、ニコル君はいつも森に遊びに行ってたみたいだけど、何かいつもと変わった様子とかは無かった?」
「たまに、今日は一緒に来るなって言われたことがあるかな‥‥何でって聞いても、教えてくれなかったけど。いいもの持ってきてあげるって言われた」
「いいもの?」
「うん。お母さんにダメって言われたからあげられなくなっちゃったって」
母親に止められた、マリーナへのいいもの。とすると、狼の尻尾のマフラーだろうか。
不意に、ノックの音。マリーナの母親が応対するのは、レオパルド・キャッスル(eb3351)とカルル・ゲラー(eb3530)、そしてブレインだった。
「‥‥?」
一瞬、マリーナが怯えた。‥‥ように見えた。中に入ってきたレオパルドが、アーデルハイトに言う。カルルはマリーナの方に駆け寄り。
「アーデルハイト、俺とカルルは、見張りのために夜この家に泊まることにした。嫌な予感がするんだ」
「マリーナちゃん、ボクら、こっちで泊まる宿が無いから、ちょっとだけこの家に泊めてもらうことにしたんだ。よろしくね!」
元気良く握手の二人。
「ブレインも、泊まり?」
「いや、俺は質問があってさ。マリーナちゃん、あの日に、大きい人影を見たんだって? それ、どこに見えて、この中の誰と同じくらいだった?」
「その窓から見えたの。まっすぐ遠くに行った」
マリーナが指し示す方向。まっすぐ、墓地へ。
「大きさは、その人くらい」
そして、マリーナの言う『人影』の大きさ。それは。
「お、俺か?」
レオパルド。
マリーナがさっき一瞬怯えた原因は、これか。
●村の中
ニコルの両親の家を後にした所所楽は、村長の元へ来ていた。村の最近について、聞くためだ。
「村人の出入りは、ここ半年は無いのぅ。村に来る者も、せいぜい行商くらいのものじゃ。その商人も、冬は一月に一度くらいしか来なくなる。雪で来辛くなるからの」
「村の中でなく、周辺で暮らしている人などはいないか? 例えば、猟師だとか」
「いないと思うが‥‥絶対とは言えん。この村にも何人か猟師はおるが、彼らも森の全てを常に見ているわけではないからの」
「つまり、可能性は低いが、いるかもしれないということか‥‥」
他にも、幾つか聞いてみたいと思うことはあった。例えば、6という数について。ニコルの墓に埋められた鶏の数。しかし前回の調査では、特に意味は見つけられなかった。
そして、今回村長に聞いてみても、やはり手がかりは得られなかった。
・ ・ ・
「失礼しますね」
森から戻り、ブレインと別れたオリガがやって来たのは、鶏を盗まれ殺され埋められたあの農家。犯人以外のことでも、何か鶏に変わったことなど無かったかと尋ねにだ。そしてもうひとつ、『6』について。
「鶏については‥‥ニコル君が亡くなった日より前にも、何度か騒いだ時はあったんだ。でも、それは時期もバラバラだし、一ヶ月、二ヶ月前とかだから、事件とは関係無いかなって。鶏飼ってて、夜中に鶏が少し騒ぐなんてのはまあある事だし」
そして、6について。こちらでも、所所楽と同じく手がかりは得られなかった。『1』や『6』など、これらの数字は事件と関連が無いのかもしれない。
●犯人?
夜が来た。昼間の間は仮眠を取っていたレオパルドとカルルが、それぞれ家の入り口とマリーナの寝室で見張りをしている。
マリーナはニコルと近しい仲。危険であるのは間違いないだろう。だが、来るのか? この日に。
静かだ。レオパルドには時々風が鳴らす音しか聞こえないし、カルルの耳にはマリーナや家族の寝息しか入らない。カルルが注視する石の中の蝶にも、反応は無い。
静かだ。風は少し穏やかになった。
静かだ。少し雪が降り出している。
静かだ。だから、近づいてくる小さな足音も、聞こえる!
武器を構えるレオパルド。カルルは気付いているだろうか、それは分からないが、ドアが開いた瞬間、叩きのめしてやる。
しかし。足音は遠くからマリーナの家に近づきはしたが、そのまま通り過ぎた。元から、足音の主はこの家には用は無かったようだ。
キーラの事件の夜、マリーナが人影を見た窓から、外の様子を覗く。暗闇にはだいぶ目が慣れていて、穏やかに降る雪がちゃんと見えて、そして。
ニコルの家の前の巨大な影も、はっきり見えた。
「待て! 貴様、こんな夜更けに何モンだ?」
急ぎ外へ出ると、レオパルドは強く誰何した。同時に、自分へ魔法を付与するのも忘れない。
影は逃げた。それを一人で追うべきか、カルルも呼ぶべきか迷ったが、それも一瞬のこと。
「大丈夫、準備は出来てるよ! 追いかけよう!」
すぐさま出てきたカルルと共に、少し遠ざかった影を追う。
徐々に、徐々に離れていく彼我の距離。足の速さ自体はほぼ同等のようだが、レオパルドとカルルは手に武器を持ち、鎧も着ている。対して影は素手だ。走り易さの差がある。
結局村の外れまで追いかけたが、影はどこかへ消えてしまった。村のどこかへ紛れたのか、森の中へ入ったのか。足跡を探す。
森の中だ。
●情報交換
帰ってきたシシルフィアリスとエリヴィラが残った時間で調べた分も合わせて、冒険者達は情報の交換・統合を行った。ニコルの病気、お願い帳に書かれていそうな内容、狼の尻尾、不自然な森、ニコルの家に現れた影。そして。
「狼の尻尾についてですけれど、村の狩人には、渡した人はいないようですね」
と朝霧の報告。とすると、ほぼ間違いなく、ニコルに狼の尻尾を渡したのは犯人ということになろう。お願い帳の内容を実現してあげているくらいなのだから。
「ニコルくんの、マリーナちゃん以外の友達などにも当たってみましたが、お願い帳の存在については知りませんでした。4人の年上の子供たちも、マリーナちゃんと同じくニコルくんと一緒に森に入ることは殆ど無かったようです」
というのがメイユの調べた内容。殆ど収穫は得られなかった。ただ、ニコルが森の中で誰にも知られたくない何かをしていただろうことは、推測できる。
森の中といえば、逃げた人影である。
「身長は、確かにマリーナちゃんの言うとおり、レオパルドさんと同じかほんのちょっと高いくらいだったね」
「とすると、犯人像はだいぶ絞られてくるな。さっさと捕まえねぇと」
「そうね。放っておくとその内に死人が出るかもしれない。今回、犯人と思われる人影が現れたのは、ニコル君の家。もしかしたら、ご両親が狙いだったのかもしれないわ」
アーデルハイトの推論。それは嫌に真実味をもって皆の耳に入る。
マリーナは言っていた。ニコルは、ずっとお父さんとお母さんと一緒にいたいと言っていた、と。
これが、ニコルのお願い帳の、3ページ目だったのだろうか?