【新型ゴーレム製造】第二回

■シリーズシナリオ


担当:紅白達磨

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月01日〜03月06日

リプレイ公開日:2009年03月10日

●オープニング

 新型ゴーレム製造の計画が開始されてはや一ヶ月。
 メラート工房では前回の依頼においてなされた、新型ゴーレムと推進力発生装置、通称『ランドセル』に関する内容が急ピッチで纏められていた。
 新型ゴーレムに関しては以下の通り。

『モデルとなる騎体‥‥ヴァルキュリア
 素材‥‥シルバー
 素体‥‥女性をモチーフにした人型。
 能力‥‥武装や素体自体の軽量化を図ることで機動性や反応速度を重視。
 武装‥‥従来メイで重視されていた重厚化を一変し、高品質や高性能による軽量化を行い、それによる防御力、攻撃力等の低下を軽減する
 武器‥‥剣と盾』

 騎体数は一騎のみ。言うなれば、ヴァルキュリアを改良したカスタム型であり、混沌の力を得たカオスゴーレムに対抗する兵器としての活躍が求められている。
 一方、ランドセルに関しても前回参加した冒険者たちのおかげで色々なことが判明してきている。

・推進力‥‥ランドセルはかなりの推進力を有しており、その最高出力はフロートシップの半分にまで達する。同時に、それ故制御難易度が非常に高い。
・充電時間‥‥再起動までには約10秒が必要。
・発動エネルギー‥‥一度の発動に凡そ20分間連続稼動可能なエネルギーが使用される。しかし、今後改善されていく可能性が大。

 制御が非常に困難であり、技術云々よりも慣れが最重視される。ランドセルを使いこなすためには、何度も訓練を繰り返していくしか方法はないと推測される。






■製造計画第二回に関する概要■
 開発部門‥‥前回提出された内容をもう一度確認すること。武装と武器に関して前回の内容を思慮した上で、もう一度計画案を提出すること(内容に変更や問題がなければ、次回、はやければ今回から早速製造に取り掛かる)。
 ランドセル部門‥‥訓練生は足場の悪い山岳地帯での訓練となる。目的は前回同様装置に慣れること、足場の悪い地形での着地訓練。主にこの二つとなる。

●今回の参加者

 eb4077 伊藤 登志樹(32歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4532 フラガ・ラック(38歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4590 アトラス・サンセット(34歳・♂・鎧騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec3467 ガルム・ダイモス(28歳・♂・ゴーレムニスト・人間・ビザンチン帝国)
 ec4322 シファ・ジェンマ(38歳・♀・鎧騎士・パラ・メイの国)

●リプレイ本文

●挨拶
 首都メイディアからフロートシップでメラートへ。
 冒険者四名は、メラートの端にあるゴーレム工房を訪れていた。
「鎧騎士のシファ・ジェンマと申します。よろしくお願いいたします」
 シファ・ジェンマ(ec4322)が礼儀正しく一礼してゆっくりと進み出た。差し出された手に応えたのは工房長ギル・バッカート。ごつごつとした掌は、ゴーレムに長年携わってきた証に他ならない。
「ガルムとフラガは継続参加じゃな。調子はどうじゃ?」
「悪くはありませんね。あのじゃじゃ馬を使いこなせるかどうかは微妙なところですが、全力を尽くしましょう」
 そう口にしたのはフラガ・ラック(eb4532)。前回の依頼に参加し、ランドセルの起動に成功している人物だ。
「リンドさんはどちらです? 早速ゴーレムの計画書を確認してもらいたいのですが」
「ああ、やつなら‥‥」
「遅かったな。待ち草臥れたぞ」
 声は上から。ゴーレム『モナルコス』の肩からひらりっと飛び降りてきたのは、リンド・バッカート。既に相当の年のはずなのだが、口調や風貌からはそれが一切窺えないから恐ろしい。
「ちゃんと考えてきたんだろうな。生半可なものを提出したら、命がないと思え」
 ガルム・ダイモス(ec3467)が浮かべたのは苦笑。まだ一度しか接していないのだが、凄みを帯びた鋭い視線には思わず腰が引けてしまう。
「そっちは初めてのやつだな。リンド・バッカートだ。宜しくな」
「こ、こちらこそ宜しくお願いします」
 リンドと固く握手を結ぶのはアトラス・サンセット(eb4590)。初めてゴーレムに乗れることに士気も向上していたが、リンドを前にしてやや冷たい汗が額を流れてしまう。
「それで?」
 リンドの刃物のような目が向けられたのは、シファとアトラス。
「それで、とは?」
「お前たちはランドセル班か、それとも開発班か?」
「私はランドセル班に参加するつもりです」
「私もです」
「何だ、つまらんな」
 言いたい放題の乱暴な口調とは逆に、その表情には本当に落胆しているように見えた。ゴーレムの計画案は一人でも出来るが、多いに越したことはない。その分計画案の決定に時間が掛かるだろうが、ゴーレム魔法に長けている人物などがいたほうが、優れた兵器を作れるようになるのは必然だからだ。
「私だけでは不服だと仰るのですか?」
「さてどうかな。だが、より優れた騎体を作りたいなら、優れた人間は多いほうがいい。違うか?」
 やや皮肉めいた言葉には、同じような言葉で返す。互いに本気ではないものの、優れた騎体を求めるならば、リンドももっともなものだろう。
 互いに顔を見合わせて一笑。
 計画書を受け取ったリンドにガルムが追従し、早速話し合いが開始される。
 一方でランドセル班はギルと共にフロートシップへと乗り込んでいく。フラガにとっては予想通りの、そして新入りの二人にとっては予想を超える苦難が待つ五日間が始まった。



●地獄の訓練〜新人とベテラン(?)〜
 山岳地帯に到着した訓練一日目。
 山地に向かったフラガとは別に、シファとアトラスは近隣の平野で起動訓練を行うようにとのギルの命令を受けて、騎体に乗り込んでいた。
『実際に騎体に乗るのはこれが初めてなんですよ。グリフォンや戦闘馬に乗るのとはかなり違うんでしょうねぇ』
『基本は同じですよ。身体の延長だと思えば、すんなりと動かせますから、リラックスしていきましょう』
 前回参加していない二人は異様と思うかもしれないが、工房員たちにとっては当たり前。二騎のモナルコスがこれから爆発でもするような勢いで避難していくギルたち。
「よぉ〜〜し!! 装置を発動させろ!!」
 大声でなければ到底聞こえない距離から合図が放たれ、二人は気まずい雰囲気のまま装置に意識を集中した。自分の前方にいる人に避難するよう声をかけるつもりのアトラスだったが、前方どころか四方に人の姿はない。何となく寂しい気持ちで装置を発動させた彼は、
『‥‥‥‥‥?』
 数十メートル飛翔後、豪快に地面に落下した。
 地震でも起きたような震動にシファ騎が思わず地面に尻餅を付いてしまった。約50m前方で力なく横たわっているアトラス騎に慌てて駆け寄れば、中からはか細い声が聞こえてきた。
「な、生身の時の距離は飛んだ‥‥のかな?」
 装置の加減を誤ったのがアトラスのミスであるが、それも慣れていない人にとっては当たり前のこと。前回参加した一人も彼と同じような状況になって大怪我をする寸前だったのだ。こうなるのは恥じるべきことではなく、寧ろ当然である。
「安心しろ。生身の10倍以上は飛んでおるぞ」
 優しいのか無慈悲なのか分からないギルの言葉を受けて、アトラスは満足そうに事切れた(?)。
「‥‥そ、そうですか(ガクッ)」
『ア、アトラスさん!?』
「人の心配などしておる暇があるのか。シファ、次はお前じゃ。豪快に死んで来い!!」


 訓練開始から二日目。
 少々無謀ながらも、ギルの命令によって二騎はフラガがいるだろう山岳地帯に入っていた。
 訓練に没頭していたフラガに声を掛けると麓で一休み。岩塩とサクラの蜂蜜を湯に溶かしたシファ特製の栄養ドリンクを口にしながら、それぞれにランドセルの感想を述べていく。
「飛べ、と意識をやるだけで装置は発動してしまいます。思っていたよりもはるかに癖がありますね」
「シファさんはまだ良い方ですよ。さっきだって無事に着地できていたじゃありませんか」
 アトラスがそういえば、シファはてれた様に顔を伏せた。空でのバランスを取る作業は、グライダーの操縦に近いものを感じた。
 しかしそれも少しのこと。想像を超える装置の難しさに、シファもアトラス同様小さくため息を漏らした。
 ランドセルは微細な意識にも反応してしまう。加えて加減が非常に難しい。針の穴に糸を通すよりも遥かにだ。
 弓に慣れないものが、100m離れた的を打ち抜くような感覚に等しい。しかも体力が尽きるまでひたすら騎体を動かし、それが終われば休んでまた訓練の再開。そんなことが昨日から延々と続いているのだから、気も滅入るというものだ。
「このランドセルという代物、想像以上に手ごわいですね。しかしそれだけに、上手くものにすることが出来れば、革新的な力となるでしょう。それにコツがつかめれば、時間を短縮することはそう難しいことではないようですから、アトラスさんも少しすれば、楽に起動させることができると思いますよ」
「そうでしょうか‥‥」
 やや落ち込み気味のアトラスにもう一声掛けて、フラガが騎体に乗り込んだ。まだ二回目にも関わらず、彼は装置のコツというべきものをつかみ始めていたのだ。出力調整にも慣れてきた。噴射口の角度の変更も完全とは言えないが、感覚がつかめてきたように思う。事実、木々が生い茂る森に着陸する際、操作を誤って大木に突っ込むということが少なくなってきた。
 噴射口の角度を傾けて真上ではなく、少しだけ前に飛ぶよう調整。そうすることによって少しずつ頂上に向かい進んでいく作業を繰り返す。簡単と思われるかもしれないが、これが相当難しい。思った方向に進むというのが、何よりも困難である。
(これでは敵騎とやり合うことなど不可能だな)
 苦虫を潰したような表情とは反対に、声は活力に満ちていた。
『‥‥‥くっ!?』
 数メートル上昇した騎体が地面と水平に傾きそうになったのを強引に押さえ込むシファ。気付けば目の前にまで地面が迫っており、慌てて着地姿勢を取るものの、数秒遅く地面に横転してしまった。
『だ、大丈夫ですか!?』
『な、何とか。怪我はありませんよ。この地形にもようやく慣れてきたところです』
 初日の平面と違い、岩やら坂やらで溢れている場所だが、山岳地帯に精通している彼女にとっては比較的慣れやすい環境だ。
 苦戦していたアトラスも、徐々にだが装置の加減が把握でき始めていた。技量ではなく慣れ。装置を扱うために必要なものは何かと尋ねた際、リンドがそう言っていたが、その言葉の意味が漸くわかってきた。
 ギルの怒声が飛び交う中、三つの騎体は体力が尽きるまで訓練を行っていった。その結果、横転やら衝突によって山の木々は次々と破壊されていき、訓練が終了した後には嵐が訪れたかのような悲惨な状況が山には広がっていたのだった。






●開発計画〜性能と代償〜
 こちらはメラート工房。ガルムとリンドが一室で製造騎体案の最終確認を行っていた。
 素材はシルバー。モデルはヴァルキュリア。従来のメイの騎体が重装甲化による機動力を確保できなかったことを配慮して素材による防御力に依存することになっている。
 筋力や出力部分の制御能力の調整をウィルの騎体や配備されたドラグーンを参考にしたいとのことだが、これは微妙なところだった。ドラグーンは最高機密の騎体。設計図などお目に掛かることなど不可能。ただ、ゴーレムにとって筋力や出力は素材に依存するので、ウィルとメイに大きな違いはない。自然とヴァルキュリアの能力に酷似することになるだろう。
 武器としては多人数を相手にする鎌状であるデスサイズとカルマのような強力な騎体に対抗する剣の二種類が選択されている。デスサイズに関してはメラートの工房で実際に作製して実験を重ねて完成させていくことになる。剣に関してはブラン合金の剣が中央の工房で作られ始めており、それを凌ぐ剣を作ることは難しい。それこそ新しい素材かゴーレム魔法に長けて者たちが集結しなければ無理である。また、鎌を使用する場合、防具として選択された盾が邪魔にならないかという点がある。正確にいえば、鎌を片手で扱えるかが問題なのだ。
「以上の案から考えれば、武装は最低限のものになるな。全体を覆う装甲板の他に、肩と胴、そして腰から脚部を守るスカート‥‥。問題がなければ、武装に関してはこれでいく」
「カスタム騎の名前は仮称して『ハルペー』というものを考えています」
「ほう‥‥。まぁ名前に関しては好きに付けるがいい。ギルのやつは拘るだろうが、私にとってはどうでもいいことだ」
 一通りの確認を終えてから、椅子に大きく腰を下ろしたリンドがため息を吐いた。
「ああ、そうだ。フラガから提案があってな。ゴーレムの脚部に小型化したランドセルを別に取り付けることはできないかというものだ。やつの言う通り着地時に衝撃を吸収する装置がなければ、ゴーレムの下半身が壊れる可能性が高い」
 フロートシップにも近い推進力を秘めているランドセルだ。フラガの意見はもっともなものである。
「こちらもそれは重々承知しているが、そう簡単なことではない。ランドセルは中央の連中が作り上げた未知の装置。内部を解析してみたが、いまいち理解できないところが多いのだ。ゴーレム魔法と騎体製造に関して詳しいものがいれば、ランドセルを解析して小型化のものを作ることも可能かもしれん。一考しておいてくれ」
「細身のフォルムですから関節部の消耗は激しくなるでしょう。各部の強化と修繕体制の強化を提案します」
「関節部の強化はそう難しいことではないな。元より細身のせいで殴る蹴るなどの肉弾戦闘は出来ないだろうが、複雑な動作に対応出来るだけの強化は可能だろう。修繕体制の強化は‥‥」
「何か問題でも?」
「お前も知っている通り、これから作る騎体はここメラートで作られる、たった一騎しかないカスタム型だ。自然と製造、修繕はここメラートで出来ない。設計図がここにしかないからな。それにシルバーほどの複雑な騎体となれば、設計図があったとしても他の工房ではおいそれと作ることは出来ない」
「修繕体制の強化は不可能だと仰るのですか?」
「シルバーゴーレムは金属。少々の破損に対する修繕なら、そう手間は掛からない。お前の言う通り体制の強化は可能だろう。だが腕や足が粉砕されるなどの重度の負傷をした場合は、騎体自体を溶かしてまた一から作らないといけないのだ。天界人が言う溶接という技術が我々にはないからな」
 シルバーゴーレムの製造には数ヶ月がかかる。一度破壊された場合、メラートで一から作ることになってしまう。つまり一度壊れてしまえば、再び使うまでに数ヶ月、メラートの全精力を注いだとしても2ヶ月は必要になるだろう。ドラグーンにも匹敵する能力を求めたがゆえの代償であろう。
「提出された内容でこちらは製造を始めておく。今度お前が来る時までに、デスサイズを作っておこう。何か意見があれば、今度の依頼時にまた提出してくれ」



●結果報告
 ランドセルの訓練内容を終えた三人はメラートに帰還した。
 アトラスは最終日を除き、予定通り訓練を行うことが出来た。熱意と十分な技術もあって着地と垂直飛行、そして安全な装置起動に成功している。シファも同様だ。フラガは慣れてきたのか、起動から再起動までの時間を、10秒にまで短縮することに成功し、飛翔時も十分なバランスを取ることが出来ている。次の訓練で武器を使った段階を行うことができるだろ。
「フラガさん級の腕があれば最終的には飛行距離と腕力が多少落ちるだけのドラグーンとして扱えるようになるかもしれませんが、私では1年やそこらでその領域に達せられるとは思えません」
 やや肩を落としているアトラス。再起動までの時間を一秒以下に縮めない限り、戦場で装置を発動させることは自殺行為に近い。
「一撃離脱専用騎‥‥というところでしょうか。そうなるとはランスのような長柄武器か投擲武器や弓矢となりますね」
「この装置を使えるかどうかは慣れが大きな割合を占める。アトラスほどの技量があれば、十分使いこなせる。問題は使いこなせるようになるまで、この過酷な訓練に付いてこられるか。それだけだ」
 さも当たり前のようにいうのはリンド。ゴーレムに乗ること自体初めてで少々自信をなくしていたアトラスにとって、その言葉は有難いものだ。気落ちする彼とは反対に、彼は前回のフラガと同じ段階にまで進んでいるのだ。
「大まかにですが、今回の訓練で気付いた点を纏めてみました」
 シファが差し出した報告書を見るなり、ギルが感心したように頬を緩めた。それほどに報告書は有益なものだった。その殆どは前回の依頼で判明しているものだったが、新たに分かったこともある。例えば、空の姿勢制御にはグライダーを操る際に必要な技術があれば比較的に容易になること、視力が優れている者の方が着地や高速移動中の方向転換が容易になることなどである。
 
 これにより第二回の開発計画と訓練は終了となる。
 バッカート夫妻の話によれば、これからの二ヶ月、急ピッチで依頼を進めていくとのこと。
 休む暇はないから覚悟しておくようにというリンドのニヒルな笑みを最後にして、冒険者たちはメラートを後にするのだった。