【新型ゴーレム製造】第三回

■シリーズシナリオ


担当:紅白達磨

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月18日〜03月23日

リプレイ公開日:2009年03月24日

●オープニング

 メラート工房に鳴り響く槌の音。リズムに乗った心地よい金属音は工房員たちの心を活気付ける。
 全長約3m。曲刀のような刃を柄の先につけたそれは鎌。新型ゴーレム用の武器として提案された武器であり、これはその試作品だ。素材は鉄を中心とした金属だが、細く幅広の刃の強度は決して高くない。今後何かとの合金で強度を高めるか、純粋な銀で構成するかの改善が必要となるだろう。
「最初の試作品としてはまずまずだな」
「威力は槍程度じゃ。これでは複数の敵騎をなぎ払うことは出来ても、切断することは難しいのぅ」
「改善の余地は有り、か。ブラン製でもない限り一振りで胴体を裂くことなど出来はしない。操縦者の腕次第というやつさ」
 作業員たちの表情がいやおうにも引き締まった。武器作成の監督していたギルの隣に現れたのはリンド・バッカート。メラート最凶コンビの登場だ。
 普段は仲の悪い夫婦だが、根っからのゴーレム技術者だけは共通要素。自然と話も盛り上がっていく。
「攻撃面では物足りなさは残るが、槍の柄としての役割もある。操縦者の技量が問題となるな。ランドセルの方はどうなんだ?」
「一般の鎧騎士たちと同じスピードで進んでおるわい。垂直飛行に慣れてきたのが二人。飛翔から目的地へまでの移動に成功したのは一人。次は地上の静止対象に攻撃する段階じゃな」
「そんな悠長なもので間に合うんだろうな?」
「静止対象への攻撃を確実に成功させるまでに、工房のやつらは一ヶ月かかった。参加者のやつは筋がいいからのぅ。上手くいけば今回で習得できるじゃろうが。本当に大変なのはそれからじゃ。何せ、工房のやつらはその次の段階でリタイアしよったからの」
「ふんっ、最近の連中は根性が足りないな」
「まったくじゃ」
 互いに同意するなど年の一回見れるか見れないかぐらいの貴重な光景である。それを横目にしながら作業する工房員だが、心の中では苦笑いやら何ともいえない感情が広がっていた。
 ギルがいう次の段階というのは地面に対して水平に加速することを指す。つまりは天界でいうマラソン選手がスタートする時のものに近い姿勢を取り、ランドセルの噴射口を地面とほぼ水平にすることで爆発的な突進力を発生させるのである。しかし、これは当然危険な行為だ。噴射口の角度調整は針に糸を通すほど繊細な作業。少しでも角度を間違えようものなら、騎体が地面に向かって突っ込むことになる。実際、一人の鎧騎士が操作を誤って地面に激突、全治半年の大怪我を負った。これは根性云々ではなく、卓越した技術とランドセルの知識、そして何より死も恐れない技術が必要となる。それを根性の一言で片付けられては、怪我をした騎士があまりに不憫というものだ。‥‥怖いから誰もそんなこと言わないけど。
「新型の方はどうなっとる?」
「騎体の設計はほとんど完成している。すでにシルバーの素体を製造中だ。今回の依頼中に素体の確認をしてもらい、それで問題がなければ、いよいよ武装の製造に移る。‥‥それがもっとも厄介だがな」
 武装を作成する際に大切となるのは重量と強度。どんな強度を誇ろうとも重過ぎれば、機動性を損なうことになり、かといって軽量化を目指しすぎれば、紙切れ同然になってしまう。そして実際に素体に装着させてからがまた大変だ。人間の骨組みである素体に対して、武装はいわば肉。重量が偏ればまっすぐ歩くことすら出来なくなる。武装と素体、双方を削りつつ増やしつつ、目標とする性能に近づけなければならない。
「そういえば、わしがこの前言ったあれはどうだった?」
「ランドセルの解析か。悪いがこの工房であれを解析することは無理だ。冒険者たちにも言ったが、凄腕のゴーレムニストでない限り不可能に近い。下手にいじれば、二度と使い物にならなくなる」
「ゴーレム魔法のことに詳しいんじゃなかったのか?」
「独学だよ。一通り学びはしたものの、扱える魔法は一つもない。所詮は付け焼刃さ。余裕があれば、開発班のやつらに解析を頼んでおいてやる」
「うむ‥‥」
 前回のランドセル訓練生から提出された案として、小型化したランドセルを脚部につけるというものがあった。実際これが出来れば、スムーズな空中飛行が可能になるだろう。ランドセルの安定性も高まり、操縦の幅が広がるかもしれない。だが、それを実現化しようとするなら相当の努力が必要不可欠。
 新型ゴーレムの製造とランドセル。その道は険しく、苦難にあふれていた。

●今回の参加者

 eb4532 フラガ・ラック(38歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4590 アトラス・サンセット(34歳・♂・鎧騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb8378 布津 香哉(30歳・♂・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 ec3467 ガルム・ダイモス(28歳・♂・ゴーレムニスト・人間・ビザンチン帝国)
 ec4322 シファ・ジェンマ(38歳・♀・鎧騎士・パラ・メイの国)

●リプレイ本文

●開発内容
「ガンレット?」
「両手を使用しつつ攻撃を受け流せるシールドの役目を考えています」
 机を間に向かい合わせの二人が視線を合わせた。丁度新型騎の武器に関して相談が為されているところだ。
 ガルム・ダイモス(ec3467)はもう何度も目をやっていた。提案した内容に不備でもあるのだろうか。
「‥‥んん」
 もう何度目かの唸り声。年の割りには張りのある声が心配を強める。
「良い案ではないか。確かにこれなら両手を自由にできるな」
 静まり返っていた部屋が緩やかな声色に胸を撫で下ろした。ガルムも同じ心地だ。
「背中に鞘を付けるのも構わんが、武器を二つも装備すれば当然機動性が落ちる。ガンレットは盾の場合と違って搭乗者の技量にかなり左右されることになる。それに新型騎の拳サイズに合わせることになるから他では使えんから気をつけろ」
 淡々と新型騎の案が練られていく。足の部分に天界人のいう『スニーカー』の様な溝を作る事で足捌きの安定性を高めるという案だが、問題はないと考えられる。どれ程の効果が期待できるかは前例がないため未知数だ。
 素体がシルバーであるが、機動性を重視するため武装の重量が制限される。それは防御力の低さも意味するのだが、ガルムは装甲を同じ銀でも難い部分と柔らかい部分の2枚構造で衝撃を分散し機体の損傷を和らげる機構を提案した。
「新しい発想だから、どれほどの強度向上が狙えるかは試してみないとわからんな。腰・肩・足首のウェイト部分を設けることでの姿勢制御の安定、素材に頼った防御力しかない分なかなかの良策だ。これならランドセルの出力に負けることもないかもしれん」
「俺自ら起動実験を希望したいのですが」
「素体だけなら次回の訓練時までに完成しているだろう。その時にでも試運転してみるといい」
 本来ならかなりの時間を要する素体の製造だが、メラートの力を総動員して時間を大幅に短縮できている。次回に素体の試運転、その次から武装との調整が始まることになるだろう。
「フラガから可動式の補助翼を作ってはどうかという提案があったが、それも容易なことではない。前にも言ったかもしれないが、素体同様ほとんどの騎体は人型で製造される。搭乗者である人間の形に合わせているのだ。翼のように本来人にないパーツは動かすのが面倒でな。搭乗者に相当の負担になるし、動かすにはかなりの訓練が必要になる。カオスゴーレムに乗っていたバの鎧騎士はいとも簡単に操作していたらしいが、実際は血を吐くような訓練を重ねたんだろう」
 翼となれば、製造面でも障害がある。設計に完成後の調整。素体との調整だけで一ヶ月は掛かるという話だ。
「二刀流の所望もあったが、その辺はお主に任せる。鎌にブラン合金の剣、ガンレット、あまり武装が多すぎても使わなければ意味がないから、その辺も考慮しておけ」





●危険な賭け
「どうぞ、アトラスさん」
「ありがとうございます‥‥」
 アトラス・サンセット(eb4590)に浮かんだのは苦笑いだ。頭に巻いている包帯が痛々しい。
 ギルから絶対安静という厳重注意を受けたのには当然理由がある。
 それでは振り返ってみよう。


 ‥‥回想シーンは、依頼一日目にまで遡る。
 メラートに到着してすぐのこと。ランドセル訓練生であるフラガ・ラック(eb4532)、シファ・ジェンマ(ec4322)がモナルコスに乗り込む中、アトラスだけが鬼工房長であるギルに直談判を挑んでいた。
「ランドセル搭載機のポテンシャルは凄いですし工房の皆さんの腕も信頼してますけど、理想が高過ぎじゃないですか?」
「‥‥ほぅ」
「いや別に文句がある訳じゃないのでハンマー振り上げない、ぎゃ〜〜!!!」
 本気ではないから死にはしないが、痛いものは痛い。『私の頭蓋骨コツコツ叩かないでーッ!』という制止もギルは全くお構いなしだ。
「と、とりあえず話を続けさせてください。先月のスコット領の戦いで、レミエラを付与することでソニックブームの使用に成功しましたよね。アレ、ランドセル搭載機の標準装備に加えちゃいませんか? ランドセルの高速で敵からの距離をとりながらソニックブームを撃ち続けるという戦法に限定するなら、訓練期間もかなり短くなり、ランドセルを実戦で使える人も増えるじゃないでしょうか」
「‥‥」
 雨に晒された岩肌のような顔が無表情のまま凝視してくるのだ。怖いことこの上ない。それでもアトラスは説明を続けていく。
「ぐ、具体的には3回目以降の訓練内容を通常のものから変更して、
 3回目はランドセルを使用しながらの固定目標に対するソニックブームの使用。
 4回目は模擬剣を使った実戦形式での訓練。
 このようにして、訓練期間の大幅な短縮を目指せると思います。レミエラに頼り切ることになるので受講希望者は少ないかもしれませんが‥‥。も、勿論戦法確立と新カリキュラム作成の為の人柱には私がなります。元々レミエラ抜きで使える技ですし何より提案者ですから」
 アトラスの案は短期間でも人員を養育するためのもの、現行のカリキュラムではどうしても時間が掛かりすぎるし、この開発計画は予定ではあと二ヶ月あるかないかだ。その点で見れば、確かにアトラスの提案は現実的かつ魅力的なものであるといえる。
 一通りの説明を終えた後、後ずさったのは仕方がないこと。終始ぶきっちょ面だったギルが、あの岩石のような顔が、飲食店のウエイトレスのような軽やかな笑顔を浮かべていたのだ。
「よかろう、大言壮語を吐いた責任はとってもらう。今回の依頼でどれほどの成果を出せるか、それでお主の案を採用するかを決めるとする。わしが立派に見届けてやろう」


 期待しておるぞ、とギルには珍しく優しく肩を叩かれたものの、その期待が何に対してのものなのかは想像に難くない。
 シファ特製の栄養ドリンクが今回も無償で提供されている。近場の平野で行われている訓練も一時の休憩中。蜂蜜の甘味が疲れた身体に心地よい。ポーションで治療しているが、それでも痛みは残る。ランドセルによる空中を上昇中、ソニックブームを放とうと体勢を動かした瞬間、思い切り上体を崩して地面に落下してしまったのだ。地球のシートベルトのような便利なものは制御胞にはない。座席から勢いよく投げだされたアトラスは頭を強く打って重傷を負ってしまったのだ。
「今度はゴーレムによる急降下攻撃ですか。グライダーで似たようなことをやったことはありますが、これは機首を引き起こす必要がない分、別の度胸が必要ですね」
「ランドセルの起動中に別の行動をすれば、その分だけ集中力がさかれてしまうので操作が困難になっちゃうみたいです。気をつけた方がいいですよ」
 身をもって味わった人物だけに説得力が痛いほどにあった。
 本来ならばフラガの前段階の訓練を行う予定だったシファだが、本人の希望もあって飛翔から地上物への攻撃訓練を行っている。三回目のフラガが何とかこなせているほどだ。まだ訓練時間が足りないシファが上手くいくはずがなく、目標物に攻撃を当てるどころか狙った場所にいくことも難しかった。
 一方、フラガは木で出来た目標(仮想敵ゴーレム)への攻撃に成功していた。予想していた通り、これは技術面もさることながら精神的な部分が幅を占める。ランドセルに慣れたものならば難しいことではないだろう。




●ランドセル改造計画
 依頼期間のほとんどは開発案の話し合いによって費やされる。そんな中でガルムとリンドは布津香哉(eb8378)に呼ばれて整備庫にやってきていた。
「これはゴーレム生成、推進装置作成、精霊力集積機能(風)で構成され、人型ゴーレムの制御胞に付与されてる精霊力制御装置に認識される事で稼動するんだと思う。ランドセルとやらは最初フロートシップの一時的な加速及び回避装置として開発されたが、木製の船体がこの加速に耐えられなかったとかの問題でお蔵入りになったんだろうな」
「‥‥なるほどな。さすがは本場のゴーレムニストだけある」
「俺などまだまだだ。あまり期待してくれるな」
 三人の視線が集中するのはランドセル。ゴーレムニストとして達人の域に達している布津の推測はほぼ的を射ていた。独学のリンドもその博学ぶりには嘆息したほどだ。
「シファから具申があった。確か出力を抑える代わりに稼働時間を伸ばしたランドセルを搭載できないかという内容だったが、それも新しいランドセルを作れない限り不可能だ。布津の推測におそらく間違いはないだろうが、試してみない限り、それが正解なのかもわからない。なにせ中央の連中がデータを隠しているからな。それにお前たちの他に精霊力集積機能、推進装置作成を扱えるゴーレムニストが必要になる。それから製造と実験期間を合わせて約一ヶ月。5月中旬の完成を目指しているこの計画では、なかなかに厳しいな。やるやらないは勝手だが、責任は取れんぞ」
「ランドセルの改造は難しいというわけか‥‥それなら着陸の衝撃を和らげる為浮遊機関を付与したフロートパーツを製作したらどうだ? これなら水平攻撃も容易になる。ランドセルがゴーレムの素体損傷率を高めるのは一目瞭然だ」
「まずどこに付けるかが問題になる。足に付ければ、脚部が巨大になりすぎて機動性を損ねる。‥‥まぁその時点で人型ではなくなるが。かといって背中はすでにランドセルで埋まっている。足か腕か、はたまた別の場所か、何にしてもランドセルの小型化同様、製造に必要なゴーレムニストたちがいなければ話にならん。あいにくここには一人もいないんでね」
 一人肩をすくめたリンド。皮肉を口にしたものの、本音をいえば装置の開発は彼女も望むところだ。ただゴーレムニストがいない、それが何よりも問題なのだ。どれだけ設備と資材があっても、人材がいなければどうにもならない。だからこそこうして依頼を出したのだ。
 その後布津が提案したシルバーゴーレムの改装案だが、十分な評価を得られた。幸い完成予定期日まで時間がある。今ならば、二つまでなら二種類の武装を作ることは可能だということ。ただし、今後スムーズに開発が進めばの話であるが‥‥。



●訓練成果
 迷うことなく撃ちぬかれた刃の波が、木を吹き飛ばした。
 ぐっと拳を握ったアトラスだったが、一気に疲労感が襲ってきて息を吐く。まだ三度しか試していないのに、限界が近いのを悟った。
「無事か?」
『な、何とか‥‥けど、これなら短期間でもマスターできそうですよ』
 依頼の最終日ぎりぎりまで訓練は続行されていた。独自のカリキュラムを試していたアトラスは、何とかランドセルによる加速中のソニックブームに成功していた。地上と水平に加速することは勿論出来ないが、空中に飛翔して一撃放ち、着陸する。それだけの行動なのに相当の疲労感が襲ってくる。出来ても3、4回が限度。通常の装置発動よりも疲労が高いように思えた。
 空中に飛び上がったのはフラガ騎。角度を調整しつつ飛翔し一気に目標に落下、剣を振り下ろしていく。
 座席から振り落とされそうになるのを堪えて目標を両断した。凄まじい加速は制御胞にいる搭乗者の身体を確実に軋ませていた。
 両断、というよりも粉砕された丸太を見つめてフラガが冷や汗を流した。威力に対する感心とそのことに対する恐怖である。
(‥‥これでは回避行動は無理だな)
 無理やりに飛び上がり、重力に引っ張られた分、破壊力も増すもののろくな行動が取れない。スマッシュとバーストアタックを生み出す一撃は、上手くすればカッパーゴーレムすら戦闘不能に陥らせるだろう。だが、カウンターでも受けようものなら騎体は木っ端微塵だ。制御胞にいる搭乗者も同様の目に会うだろう。ポイントアタックを組み合わせるようとしたが、他の技と組み合わせるとかなり難易度が上がってしまい、達人級のフラガでさえ今回一度も成功しなかった。更なる訓練を積めば、出来るようになる可能性もある。
 シファの方も飛翔後、目標物への着地には成功しており、タイミングを合わせて攻撃することにもなれてきたが、成功するのは3回中1回程度。とてもではないが、実戦で役に立つレベルではなかった。



●結果提出
 依頼は終わりを迎えた。
 開発計画は、次の依頼までに素体が完成するので起動実験に入る。それで問題がなければ、各武装との調整となる。幸い設計者がガルム一人なのでそこまでの時間はかからないだろう。
 ランドセル訓練生は、アトラスの案がギルに認められ採用されたので今後通常のカリキュラムを選ぶか、それともアトラスのものを選ぶか選択することになる。
 通常カリキュラムでは『装置発動→落下点への着地→飛翔後の落下攻撃→地上との水平加速→模擬戦→模擬戦』の六回が主な内容であり、その後は工房が提示する幾つかの特別訓練を受けて終了となる。最初の六回を受ければ、実戦で通用するらしいので受けるかどうかは任意だ。
 一方アトラスのカリキュラムでは『装置発動→落下点への着地→ランドセル起動中のソニックブーム→模擬訓練』の流れとなる。四回で一応の実戦に通用するのは大きいが、メラートではソニックブームのレミエラがついた剣は二つまでしか用意できない。基本は個人で用意してもらうことになるとのことだ。
 問題はランドセルの小型化計画。こちらは現状では不可能という他ない。ゴーレムニストたちが集まればどうにかなるかもしれんが、果たして‥‥。