【大逆の咎人】 血飛沫の将軍

■シリーズシナリオ


担当:紅白達磨

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月21日〜02月26日

リプレイ公開日:2009年03月02日

●オープニング

 連合軍が結成されてもう随分長い時間が流れたような気がする。
 メイとバ。敵対する軍勢が共闘を締結して戦いに挑む。そんな異常な状況も恙なく進行し、今連合軍陣地は結成された以来、最大の慌しさに満ちていた。
 連合軍の目的であるフェルナンデス討伐。
 その決戦が目前に迫っているのだ。
 軍議にはいつも変わらない者たちが出席している。メイからはベルトラーゼ、アルドバ、ルシーナ。バからはクシャル将軍、トラキア、アルカナ。相変わらずベイレルの姿はない。
「アストラ・ロンナス、ヴェリガン・ジャッゴを初め、多数の将校がこちらへの寝返りを約束してくれています。私たちが攻撃を仕掛ければ、数時間もせずに城門が開くでしょうから、後は騎馬隊が突撃してそれでお終いです」
「バの軍とは何とも裏切りが多いのだな。国の資質が窺えるわ」
 罵声にも近い辛辣な言葉を言ったのはアルドバである。軍師であるアルカナが作戦の概要を説明している際の罵声。普通の軍議ならば、それだけで懲罰ものであり、それを知らないアルドバではない。いつもならブレーキ役になってくれるルシーナも今回は完全に傍観を決め込んでいる。
「我らバの軍兵は上への絶対服従を第一としている。自らの意に反する行為であったとしても、兵は上官の命に従い、速やかに行動を行わなければならない。フェルナンデスに従っている血飛沫の鋼鎧の兵たちも例外ではなく、南方での虐殺行為もまた然り」
「ふん、つまりは人形ということではないか」
「二人とも控えろ」
 傍観から批判へ。制止するベルトラーゼには一様の納得を示すものの、その顔には不機嫌、いや怒りの表情がありありと出ている。
 二人が怒り心頭している原因は前回のバ軍の態度。死者の軍勢に共同作戦を行った際、バの軍の責任者であるアルカナが何の挨拶もなしにさっさと帰ってしまったことにある。別段珍しいことでもないのだが、自分の仕える主を見下す態度として、二人は受け取ったのだろう。
 それを痛いほど分かっているからこそ、アルカナも愛想笑いしか浮かべきれない。非があると指摘されても仕方がないといえば、仕方がない。
 硬直してしまった場に、再び動きを齎したのはクシャルだった。
「貴公らとて、主たるベルトラーゼ卿に従うであろう。それと同じことだ」
「‥‥ぐっ」
 普段から軍議はアルカナに一任し、ほとんど口を開くことがない。それだけに、二人も反撃には躊躇ってしまう。
 そんな二人の様子を敏感に察知してか、クシャルの口調が厳しいまま続けられる。
「不快に思わせしまったならば詫びよう。貴殿の言う通り、過度に強いられる服従があるが故に、上に立つものがやつのような愚か者であった場合、先のような悲劇も起きる。この時代遅れの規範を一蹴すべく、我らも努力はしているのだがな。一度染み付いてしまった泥を落とすことは容易ではない」
 そこまで口にして、クシャルの目が正面に座る二人の主へと向けられる。
「極端な話をしてしまえば、ベルトラーゼ卿のような存在が、今の我らには必要だということだ。己の信念と国への忠誠を誓い、どちらに傾くことなくただ己の正義を貫く。それこそが我らとわが祖国に不足している力」
 皮肉ではなかった。和らいだ口調は、どこか温かささえ感じさせる。こちらを懐柔する策としてはあまりにお粗末だし、将軍とも恐れられるこの人物がそんなことをするとは思えない。
 困惑するルシーナ、アルドバとは反対に、真正面から見据えられたベルトラーゼは不思議な安らぎが心に満ちるのを感じていた。
 この感触は、前にも感じたことがある。
 そう、これは‥‥。
「‥‥お言葉ではございますが、私にそのような大それた力はございません。寧ろ、貴方様にこそ確固たる信念が感じられます。そして‥‥皆様にも」
 真っ直ぐに、僅かだが感じられた、この将軍の強さ。
 それは力などでは決して生まれることのないもの。ロニアやワーズたちと同じ、騎士としての姿。そして氏族の名を持つ同志たちが持つ信念。
 異国の将に対して、抱いてはならないのかもしれないが、共感してしまう。
 国は違えど、同じ『騎士』なのだと。
 そしてそれはクシャルの方も同じだったのだろう。
 僅かな微笑は嘘偽りではない、将軍という衣の下にあるその人物の本質であると、ベルトラーゼは確信出来た。
 謙遜までは予想していたが、さすがにその先の言葉までは予想外だったのだろう。余裕の笑みを浮かべるクシャルとは別に、アルカナ、トラキアの二人はそれぞれに驚きの表情を見せる。
(‥‥甘く見ちゃってたかなぁ)
 心の中で呟いたのはアルカナ。前回無断で帰還したことで、自分たちのことを義や礼節に薄い人物だと考えてくれれば、こちらも色々と動きやすかった。義がなければ、それは騎士ではない。それなくして国への忠節も有り得ない。例えそれが、敵国の者に対してもだ。騎士ではない者にこの戦乱を生き抜くことは出来ず、それはその人物の器の小ささも示す。
 見くびってくれればよかったのだが、どうやら見事に見抜かれたらしい。
(それを口にしちゃうのはどうかと思うけど、それがこの人の魅力なのかな)
 何が何だかいまいち理解できていない養親たちはおいておき、大きく息をはいて気を取り直したアルカナが再び作戦の説明に戻った。
「砦には自然坑道を利用した抜け道があるとのことです。それはカオスの地国境付近に存在する山岳地帯に繋がっており、恐らくフェルナンデスさんはそれを通じて脱出すると予想されます。山岳地帯には以前、フェルナンデスが独自に建設したゴーレム施設がありますから、恐らくそれを使って最後の勝負に出るでしょう」
「勝負? ‥‥何故そういえる?」
 逃亡するには絶好の機会だ。フロートシップがなくとも、逃げる手段は幾らでも作れる。それに、これだけの戦力差、相手に勝機はない。
「フェルナンデスさんがそういう人だからです」
「命よりも騎士としての誇りを選ぶというわけか」
「違うな。混沌の見入られたものに誇りなど存在しない。やつが攻撃に出るのは、その狂気故」
「‥‥なるほど」
 クシャル軍の提示した情報によれば、フェルナンデスはカオスの魔物と契約しており、混沌の力を手に入れていると聞く。また彼の側につき従うイクスールという魔術師も同様であるとのこと。この二人さえ倒せば、敵軍は事実上瓦解する。
「我が騎兵団とベイレル隊が内部と連携して砦を落とす。貴殿らには山岳地帯に先回りしてもらい、そこでフェルナンデスを討ってもらいたい。ロットン・ライドンとユリパルス・オールド両中隊、僅かではあるがゴーレム隊も援護に回す」
「承知しました。では、すぐさま出立の準備にかかります」
「‥‥ベルトラーゼ卿」
 意気揚々と腰を上げたベルトラーゼが、出口で立ち止まる。
 体を半分振り向かせれば、同じように顔だけ半分を向かせているクシャルが一人。
 呼び止められたのは初めて。
「武運を祈る」
 こんな言葉を受けたのも、また初めてのこと。
「貴方様もお気をつけて」
 出る直前に軽快に手を振っていたアルカナには一礼と笑顔で返す。
 ベルトラーゼの後ろに従う二人の親たちは相変わらず混乱しているようだが、外に出た空気は心地よい。
 歩き進む自分の足が、いつもより軽かったのは、気のせいではないだろう。

●今回の参加者

 ea0827 シャルグ・ザーン(52歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 ea1919 トール・ウッド(35歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea5929 スニア・ロランド(35歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea7482 ファング・ダイモス(36歳・♂・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ea7641 レインフォルス・フォルナード(35歳・♂・ファイター・人間・エジプト)
 eb4077 伊藤 登志樹(32歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb8475 フィオレンティナ・ロンロン(29歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)
 eb9949 導 蛍石(29歳・♂・陰陽師・ハーフエルフ・華仙教大国)

●リプレイ本文

●作戦会議
 冒険者たちが連合軍に到着すれば、そこにいたのはベルトラーゼ隊やロットン隊などの別働隊の隊のみ。主力であるクシャル・ベイレル隊はすでにフェルナンデスの立て篭もる砦に出陣したとのことで、陣内は予想外の静けさに満ちていた。
 別働隊の出陣準備もほぼ完了し、冒険者たちとの最後の打ち合わせが終了次第、すぐに出立するとのことだ。
 メイからはベルトラーゼが、バからはロットンが、そして冒険者からはスニア・ロランド(ea5929)が表立って作戦概要について会議を進めていく。
「敵に発見された時、敵拠点を見つけた時、そしてフェルナンデスかイスクールを見つけた時に、発光する矢を天に向け放つか煙を使います。絶え間なく斥候に空を見張らせていれば見落とす事はないと思いますので、兵を動かす時の判断材料にしてください」
「あいあい、了解だ」
「ロットン隊とも連携したいのですが、連絡手段の確立に費やす時間が私達にはないのでそちらでなんとかお願いします。顔合わせはしておきますがそれだけで息のあった連携をとるのは無理でしょうから‥‥」
「もっともな意見だぁな。運が悪けりゃ夜の行動になるから、それも仕方ないだろうて」
 ロットンと呼ばれる男の顔は極めて明るかった。それこそ、人によっては真面目に作戦内容の確認を進めているスニアを馬鹿にしているのかと思えるほどだ。
「スコット領やメイの国の政治など考えずにやりますので、つじつまあわせや上層部への報告内容の脚色はしっかりお願いしますね」
 あくまで冷静な態度で臨むスニア。その心情を察したのか、ベルトラーゼも恭しく了承の言葉を口にした。
 会議もほとんど終了し、残るはゴーレム隊に関することになったところで、伊藤登志樹(eb4077)にバトンタッチ。
「敵航空戦力は、グライダー隊で対処してくれ。手に負えない時は、地上部隊の攻撃が届く所まで誘導してくれ」
 実は今回の作戦、鎧騎士たちにとって二つの意味で記念すべき日だった。一つはスコット領で初めてドラグーンが実戦で使用される日。栄えある搭乗者にはフィオレンティナ・ロンロン(eb8475)が選ばれている。そして伊藤の言葉に耳を傾けているのは、テントの端に腰を下ろしていた9名の鎧騎士。鎧を見れば、二種類、即ちメイとバの騎士たちが固まって腰を下ろしていることがわかった。
「メイ、バの地上ゴーレム隊は、デカ物を主に相手してくれ。それとカオスの特殊能力に気をつけろよ」
 両国のゴーレム隊が作戦を共にするのは初めてのこと。ましてや同部隊として動くことなど例を見ないこと。互いに反発もあるのだろうが、天界出身という両国にとって中立の立場にある伊藤の言葉だからこそ、全員素直に耳を傾けているという利点があった。
「依頼の事もやるが、実験もやらせてもらうぜ。‥‥そっちも工房から、色々借りてる手前、『手土産』の一つも用意してぇだろ? っつぅわけで、今回得られたデータは、そっちで工房のレミエラ担当の所に出しといてくれ」
 それにはベルトラーゼも期待していると頷いた。工房から貸し出されたブラン製の剣に、伊藤私有のレミエラを付与したいとの申し出があったが、許可を取るべき工房と連絡を取ろうにも時間的距離的関係から無理だった。また試作段階の武器に、私有であるものを付与するにはやはり問題があるとのことらしい。通常ならばこのまま却下されている内容なのだが、ベルトラーゼ達しの希望もあり、伊藤が所望していたものと同様の能力を持ったレミエラを付与することが叶っている。それだけレミエラによるゴーレムの強化を、ベルトラーゼが望んでいる証拠といえるだろう。
 

●施設侵入、変異の影
 木々が鬱蒼と生い茂る山岳地帯。ロットンの予想通り時間は夜となり、捜索は一層の困難を極めることになった。抜け道から現れるだろうフェルナンデスよりも先回りし、施設を占拠することが出来れば、かなりの優位に立てることになる。
 通常ならば施設発見は困難と思われたが、隠密スキルに長けるファング・ダイモス(ea7482)と上空の導蛍石(eb9949)。二人の能力をもってすれば、その困難を可能にすることは難しいことではなかった。
 空に発炎筒が上がり、アトランティスでは見慣れない光の出現に、一瞬目を奪われる見張りの兵士。その胸をスニアの矢が射抜いたと同時に、冒険者たちは一斉に施設入り口へと突入した。
「一気に施設を占拠致す! 皆続け!!」
 施設内に控えていた敵兵が守りを固めるよりも早く、愛馬サイラに騎乗したシャルグ・ザーン(ea0827)が誰よりも入り口に到達して敵兵を蹴散らした。
 レインフォルス・フォルナード(ea7641)が敵を切り散らし、トール・ウッド(ea1919)が施設の奥に進めば数人の兵士が突撃してくる。拙い動きは明らかに戦慣れしていない素人。剣を身体で受け止め、一人に必殺の一撃を振り下ろせば、他の兵士たちは青ざめた顔で腰を抜かしてしまった。
 巨腕から振るわれたゴーレムバスターが起動前のゴーレムを粉砕していく。頼りのゴーレムを失った敵兵は元より少数。冒険者たちの圧倒的な強さを目の当たりにして、完全戦意を失っていた。
「‥‥まだやるか?」
 トールが凄みを利かせてやれば、その迫力にぶるぶると首を振る。この施設にいる敵は兵士ではなく、正確にいえば作業員だ。戦闘に特化しているわけでもない。全てのゴーレムが破壊されたことを確認すれば、簡単に武装解除と降伏を申し出てきたのだった。
 施設内を制圧して、ほっと息をついたのも束の間。施設外の上空で警戒を行っていた導から声が上がり、慌てて入り口へと向かうと、そこにはトロールの突然変異型とは別のもう一種類。足を広げれば全長10mはあろうかという巨大な蜘蛛が数匹、入り口の縁にへばり付いていた。トロールの種類と数を合わせれば、およそ6体。
 レッドクリスタルを投げようとしたシャルグの腕に蜘蛛の糸が絡みつく。それは変異した胴体同様巨大化し、普通の人間ならば雁字搦めにされるほどの大きさを誇ってその行動の邪魔をする。
 その化物という言葉が相応しい魔物の登場に、作業員たちは蜘蛛の子を散らすように施設の奥へと逃げていくが、冒険者たちにそれを構う余裕はなかった。
「援護しろ! 一気に接近する!」
 幸いなことに施設入り口の高さはそれほどないため、大型の魔物たちは思うように中へと進入できずにいる。それを好機と見たトールが走り出し、ファング、レインフォルスが続き戦闘を開始した。
 一方、上空を旋回していた導はどう動くべきか思案していた。普通なら、すぐにでも仲間たちの援護に駆けつけるべき。だが、この任務の目的は敵将フェルナンデスとその側近、イスクールを討つことにある。仮にあの魔物たちを倒したとして、二人を倒せなければ、何の意味もないのだ。
「‥‥見つけた!」
 入り口に群がる魔物と、それに抵抗する冒険者たち。入り口から少し離れた場所からは吹雪の魔法が入り口目掛けて放出され、その一角から一際強力な魔法が出ているのが見える。強力な魔術師イスクールに違いない。
 急降下し出した導に気付いたのはファング。そこに魔術師イスクール、そして白髪の将フェルナンデスの姿を見つけた彼は、トロールの魔物を蹴散らすとそちらへと猛進した。
「フェルナンデス、鷹の氏族が一人、ファング・ダイモスが勝負を挑む。応える気は有るか」
 明らかな一騎打ちの申し出。
 そんなファングの決意を一蹴するかのように、イスクールが魔術師隊へと攻撃の合図を出そうとしたが、意外にもフェルナンデスがそれを制した。
 ゆっくりとファングの正面に歩み出てくるフェルナンデス。腰に下げる長剣を引き抜いて構えを取った。周囲から邪魔が入る様子はない。どうやら本当に正々堂々の一騎打ちに応じるつもりらしい。
(騎士としての誇りか? それとも狂気か?)
 戦闘が激化していく中で、二人の沈黙が続く。
 入り口の魔物たちが倒れ始め、イスクールがミストフィールドによる霧を生み出したのを合図に、二人の戦いが始まった。


●血飛沫の最後
『みんな、無事!?』
 霧が発生するのとほぼ同時に、空に光を伴った矢が撃ち上がっていた。それを合図に山岳地帯近郊に待機していた別働隊が即座に出陣した。
 別働隊のうち、真っ先に冒険者の元に駆けつけたのはボォルケイドドラグーンを操るフィオレンティナ。夜空を滑走し、光を目印に現れた騎体は他のゴーレムに比べて決して大きくはない。トロールの突然変異型モンスターと比べれば、寧ろ小柄である。だがそのパワーとスピード、何より達人級に達している搭乗者の身体能力に追いつく反応力は、類を見ないほど。
 群がってくる二体の魔物に対し、一度大きく後退した騎体はゴーレムでは有り得ない速度で一瞬にして距離をつめると一体の魔物の胸を貫いた。その速度は、搭乗者であるフィオレンティナも驚いたほど。牽制のつもりで薙いだつもりが、あまりのスピードに頭がついていかなった。出撃前に十分なイメージトレーニングをしたのだが、どうやらそれを凌ぐ性能を秘めているらしい。
 予想外のことに動きを止めてしまったその背後に、もう一匹が棍棒を振り下ろした。通常のゴーレムならば、搭乗者の反応に付いていけず、攻撃を受けていただろう。だが、的確に反応した騎体はそれを腕の盾で受け止めると片手で弾き返す。
「よぉ〜し!」
 ドラグーンといえばメイの貴重な兵器。バの兵士たちの目がある以上、手の内を明かし過ぎないようにとも一時は考えたが、ベルトラーゼから思いっきりやっていいとの許しも得ている。そうと決まれば‥‥。
 ハルバートを風車の如く頭上で回転させれば、風が悲鳴を上げていった。遠心力を得て加速した一撃は化物の頭を打ち砕き、易々と魔物の巨体を地面に横たえさせるのだった。
 ドラグーンの登場に続いたのは地上の別働隊ではなく、ロットン率いるバの小隊であった。
 外部に潜んでいた魔術師隊に攻撃を仕掛け、同時に生き残っている魔物へとロットン自ら攻撃を仕掛けていく。外と内から挟み撃ちにされた魔物たちは次々と攻撃を受け、また周辺に待機していた魔術師たちも一人また一人と倒れていく。
 小隊の登場に虚を付かれた敵部隊は完全に困惑していた。入り口周辺に待機した魔術師部隊も統率を乱され、その隙を狙い追い討ちをかけるようにスニアが次々と射倒していく。
 糸によって動きを封じられていたシャルグ。その口から、不謹慎にも嘆息が漏れた。ドラグーンの強さにではない。ロットンというバの隊長の指揮能力にだ。彼もまた優れた指揮能力を有するからこそわかる。ロットンという男は粗暴な外見からは想像もつかないほどに的確な、臨機応変の指揮能力を発揮していた。周りの騎士たちもそれに抗うことなく従っていることからしても、相当の信頼を得ていることも容易に予想がつく。
「負けてはおれんか‥‥」
『シャルグ、オーラパワーをお願いできる!?』
「承知! その後は共に入り口に巣食う蜘蛛どもを一掃するとしよう!」
『了解!』
 フィオレンティナの手を借りて漸く身体の糸を剥ぎ取ったシャルグがその分厚い肩に大槌を担いだ。先ほどの借りを返さんとばかりに突撃、先ほど同様糸が撃たれるものの、予測できればどうということはない。オーラシールドで弾き返すと同時に距離をつめた後は、豪快に頭を潰してやった。
『遅れて悪いな。いっくぜぇ!!』
 メイ・バのゴーレム混合部隊を率いて伊藤が到着した。ブランの剣から意気揚々と放たれるのはソニックブーム。真空の刃は樹に張り付いていた蜘蛛の足を切断し、地面へと落下させる。
 伊藤たちの登場によって、戦局は完全にこちらへと傾いていた。もとより、フェルナンデスに勝ち目はなかった。敵の戦力はこちらの十分の一にも満たない。そんな少数でこちらに決戦を挑もうなど、愚行以外の何者でもない。
 周りの戦が終結していく中、一騎打ちも終わりを迎えようとしていた。当初はフェルナンデスの使うカオスの魔法に苦戦したファングだったが、高い闘志と魔法抵抗を持つ彼にはそう何度も通じることはなく、剣技の勝負となれば、超人的な技量を持つファングが負けるはずがなかった。
 ベルトラーゼの騎馬隊と合流するにはもう数分が必要になる。騎乗して片を付けるつもりだったが、このままでは逃げられる可能性もあるだろう。それに、優勢となったこの流れを見逃す手はない。
「勝負っ!!」
 勢い良く踏み込むと同時に、振り下ろした剣が相手の肩口へと大きくめり込んだ。これまで痛みを感じていないかのように振舞っていたフェルナンデスから、初めて苦痛の色が吹き出した。
 膝を付き、再び顔を上げるのを待つことはしない。
 頭を垂れるその首へと、大きな剣の軌跡が煌き、
「敵将フェルナンデス、ファング・ダイモスが討ち取った!!!」
 勝利の雄叫びが、山岳中に鳴り響いた。



●休息
 依頼は終了した。
 敵将フェルナンデスは討たれ、その側近である魔術師イスクールがミストフィールドに紛れて逃亡したが、残る残党は全て討たれるか、降伏した。
 作戦後、導や伊藤等、カオスの魔物を警戒したものたちが山岳地帯を探索したが、それらしき姿は発見できなかった。カオスの魔物からしても、フェルナンデスは既に用済みだったということだろうか。
 初のドラグーンと混合部隊は十分な成果を上げ、また伊藤がチェックしたかった内容のうち、二つが今回の作戦で確認できた。レミエラの能力は使用可能であり、射程は生身と変化がない。威力は武器に比例すると考えていいだろう。唯一、戦闘時間が短かったことから、持続時間のみが確認できなかった。しかし、今後のことを考えれば、今回の発見が戦いに優位に働くのは想像に難くない。
 戦闘終了の後、クシャル・ゲリボルは改めてフェルナンデスの南方地域における暴挙を謝罪すると共に、正式に停戦条約締結の申し出をスコット領に行った。これに対し、スコット領側は未だ回答を行っていないものの、中央議会からは承諾すべきだとの声が強く上がっている。
 戦は終結し、メイ・バの戦は一つの区切りを見出した。
 勿論、全ての問題が解決したわけではない。スコット領南方地域の南半分が未だにクシャル軍の占領下にあることはその筆頭である。
 今後両者がどう動いていくのか。
 再び戦となるか、それとも真の盟友となりえるか、鍵を握るのは冒険者たちである。