●リプレイ本文
●礼に始まり‥‥
「物の怪小町さんも相変わらず不死身そうで何よりだわ」
“お師匠に敬意を払って姓名で呼ぼう強化月間”は過ぎても相変わらずな佐上瑞紀(ea2001)は、現在婆が抱える小町流門下生の中でも最古参の一人である。故に相弟子の皆にとっても“頼りになる姐御”的な存在だが、仮に瑞紀が下っ端だろうが最年少だろうが、その位置付けに変わりはないであろう。
――だって瑞紀だもん★
その一言で罷り通るだけの腕っ節とか腕っ節とか腕っ節や、有り余る体力や時折覗かせる素敵な(?)瘴気を備えた花嫁御寮予備軍である。
因みに小町さん(年齢不詳)の姓は『物の怪』じゃあない。
「皆、久方振りだな。私も江戸に戻っていたのだが、江戸は大変だったな。小町殿も炎に炙られたようで‥‥益々し‥‥ぐっ」
同じく最古参が一人、ニライ・カナイ(ea2775)、例の如く小面一縷も乱さず述べる途中で婆の小手打ちを喰らう。
「小町さんお久しぶりです〜。変わらず元気でよかったです〜‥‥都には新撰組や見廻組や〜黒虎部隊もいますしね〜。まあ、そう簡単に倒されるとは思いませんが〜」
ほっこりと柔らかな笑顔に乗せて、その実刺し抉る台詞のたまう槙原愛(ea6158)に婆の面担ぎ逆胴が炸裂したのも通例の事。
日々逞しく――此れ修練の賜物。うん、花嫁修業なんだけどね。
「すごいです! 強くなれると噂に聞いて仲間に加えてもらいましたが、オニヨメ修業って素晴らしいですねっ」
海原どんぶらこっこと渡り、遠く日ノ本まで罷り越しセレン・フロレンティン(ea9776)――(少女と見紛う程の少年‥‥実は青年だったり★)斑鳩の雅音奏でる楽士は‥‥ちと人生踏み違えちゃったかも。
本気で鬼嫁を目指す気ならきっと間違っちゃいないが――うんにゃ、それでも間違ってるってば。性別だったり性別が。
「ところで師匠の種族は‥‥?」
うわー、言っちゃった。聞いちゃいましたよ、奥さん。
無知の知とは怖いもの知らずに近しとも遠しとも。結びつくもの“探究心”
「異な質問じゃのぅ。見て分からぬか?」
「うーん‥‥(分かる。分かりますよ、セレンさんの気持ちは)その辺のとこ、難しいんですよね。一応俺達が先日討論した結果では、黄泉人が有力候補なんですが――」
『まぁ、とにかく物の怪です』
言い切って栄神望霄(ea0912)婆の扇を鳩尾に受け息も絶え絶えに、されど懲りる事無く問う。
「もっ、物の怪‥‥は分かりますか、ね?」
「そうですね‥‥セレンさんに分かりやすく言えば『マスター・オブ・モノノケ』いえ、もっと簡単に『モンスター・コマチ』でしょうか?」
‥‥――何か違うような。違わないような。
橘由良(ea1883)は口にした後で我に返り(命の危険も感じたり)、
「決して俺がそう思っている訳ではなくてですね‥‥いえ、少しも思ってないかと問われればそれは必ずしもそうではな‥‥うっ、持病の癪が」
全速力で逃げた。
「花嫁しゅぎょーって賑やかだねっ! 小町さんの門人になると芸が磨かれるって噂聞いたんで来たんだけど‥‥うん、俄然燃えてきたよっ」
きっと人生踏み違えちゃった人、二号。レベッカ・オルガノン(eb0451)は艶やかな緋色の髪を風に遊ばせ小さく拳を握った。
「大和撫子になればモテるって話聞いたよ。モテるって事は人に好感を与えるって事だもんね。私そんな踊り手になりたいんだ」
着眼点は良かったが、手段を大いに間違った。痛恨の選択失敗(てへっ)★
「皆さん相変わらず元気なのですー☆ そして新人さんも元気で益々賑やかになりました☆ ‥‥でも、今日の雪紫は胸の辺りがもやもやと複雑なのです‥‥」
林雪紫(ea6393)はめそりと瞳潤ませ唇を噛む。まるで、お八つをとられた忍者のよう――って、例えが微妙。
「何じゃ雪紫、拾い食いはするなと言うたじゃろうが」
「むむむむ、違うですよ小町ちゃん! これは昨日の拾い食いのせいではないですっ!」
食ったんかい。
「カッキーは雪紫の未来の旦那様なのにー。小町ちゃんに取られちゃったらどうしましょう‥‥お師匠様とは言え今回だけは譲れませんですっ(ごごごごご)」
「うぬぅ、師に挑むとはのぅ。手加減はせぬぞ」
そんな訳で、めらめら燃え盛る師弟対決の幕があく。
――そんな話じゃありません。
「もし、カッキーや近畿小僧の審美眼が致命的に狂ってたとしても、幾らなんでも‥‥ねぇ?」
「俺に振らないでくださいよ、瑞紀さん‥‥うっ、今度は心の臓がっ」
まこと師匠想いの門人達で。
さて、そんな愉快な流れを吹き飛ばして、疾風の如く、嵐の如く。舞い降りた――というよりは特攻してきた者一名。
「ニ、ニライに話は聞いた‥‥歌や踊りが上手くて美形ってヤバくないか? え? どうなんだ、オイ?! うおおおおぉぉぉぉぉっ!」
ナガレ・アルカーシャその人。
既に門人達とは面識があり『京菓子の人』と言えば通じる間柄(何)。
「ナガレ殿も何故かついて来た。事情を説明した所、捜索に協力してくれるらしい」
抑揚なく告げるニライと片や感情発露著しいナガレを交互に眺め、皆そっと溜息を落とす。
京菓子の人は愛や望霄、事情まったく呑み込めず――のセレンやレベッカの肩をむんずと掴みガクガク揺すると再び走り去った。
「ニライより先に探して婆ぁに会わせるからなぁぁぁぁぁっ!(ふぇーどあうと)」
「あら〜、行っちゃったですね〜」
「寧ろ逝っちゃってるのよ、アレは」
瞠目する愛に瑞紀がぽつりと。
「‥‥狂化しかけてなかったか? それに近畿小僧とカッキーの事を知っている風にも見えなかったが‥‥大丈夫だろうか」
ちっとも大丈夫じゃあない。
ニライ小首を傾げてナガレの後姿を見送ったが、すぐに思考を切り替える。彼は暫く都の町をただ駆けずり回る事だろう。
「ええい、主ら、早う探しに行かぬかっ!」
髑髏兵衛さま一喝。今週のびっくりどっきり妖術、『おしおきだべぇ〜』により撫子達は町へと走った。
●明日はと・く・べ・つバテレン鯛〜♪
賑わう市の人波掻き分けて進む望霄の目的は人探し。
「わー、あの西陣の反物きれー! あ、この簪もいいな。ね、お兄さん俺に似合うと思うならまけてよ♪」
だから望霄の目的は人探しだってば‥‥――たぶん。もう既に戦利品という名の荷物いっぱい抱えてるけど。
「確かばてれん鯛とかいう珍しい魚がいるとか‥‥まずはそっちを探してみるかな」
いや、それ永遠に見付からないと思うヨ。
(「‥‥何か違うんじゃないかなぁ」)
ここから別行動予定の由良はひどく不安げな表情で望霄を見送る。傍らには兄の橘真人が微笑んでいる。
「確かバテレンタインとか何とか‥‥鯛だとは思ってなかったんだけど俺」
「違うのか? ばてれん鯛というくらいだから、鯛とは思いもよらない姿なのかもな」
「兄さん‥‥それはもう鯛じゃないんじゃないかな‥‥。ふふ、でもこうして京の町を兄さんとのんびり歩けるなんて嬉しいな」
のんびりしっぽり兄弟水入らず。敢えて言うまでもないのではあるが、由良の目的も人探しアルよ?
「ばてれん鯛っていうのにも大いに興味があるけど‥‥とりあえずこっちに専念しましょうか」
武者兜の下に鋭い眼光を据えて、瑞紀、市を練り歩きながら手当たり次第にらむ、にらむ、とりあえず睨む。偏に近畿小僧とカッキーを探し出さん為にと真剣であるが故の形相ではあるのだが――。
因みに、手には四方八方に刺の突き出した鉄球を鎖で繋いだ見るからに物騒極まりない武器が握られている。誰も彼女と目を合わせやしない。
それどころか人垣千々に流れ、押すな押すなの一際賑わう市に瑞紀の周囲だけが返す波のように人が引き、道生まれる。
「都の市っていっても、人出はそれ程じゃないわね。やっぱりまだ厄災の影響があるのかしらね?」
「そ、そうですね‥‥」
瑞紀を手伝うシルフィリア・カノス視線を逸らし。
――厄災は瑞紀自身なのでは、と告げる事が友情か、告げぬ事が友情か、それが問題だ。
ニライと愛はきょろきょろと頭を振って、こちらも市を散策中。
「ジャパンには意中の相手に『ばてれん鯛』を贈るという風習があるそうだな」
「私も知らなかったです〜。『めで鯛』と験を担いだりしますし、その流れでしょうかね〜? 『おし鯛しております』とか〜」
そんな生臭そうな想いは如何であろうか。
「誕生日にはお頭つき、命日には子分つき‥‥ジャパン行事は鯛が欠かせんのだな」
「甘くて大きさが一丈くらいあるらしいです〜。お魚ですし港の方にも行ってみましょうか〜」
「うむ。甘い鯛‥‥もしや愛殿の言う験担ぎ(既に違うモノ)であれば『甘え鯛』とかであろうか? 師匠の印象を良くするには最良の贈り物だろうからな、心して探さねば」
「甘える小町さんですか〜」
「甘える物の怪小町殿‥‥‥‥(想像中)考えるのはよそう」
なんかそれ最終奥義っぽい。
二人が謎のばてれん鯛を探している頃、小町ら屯する旅籠では――。
「小町ちゃんにカッキーは譲れないです‥‥でも、これは任務。忍者の忍は心に刃をあてる“耐え忍び私心を殺す事”――雪紫頑張りますっ」
忍者の忍者たる志を心に奮起した伊賀くノ一、またしても忍び道具一式まとめて背嚢の中だったりするが、さて置き。
「何より大事なのは強く印象付け、気付いてもらう事ですっ。まずは目立たなくては☆ その為に団扇や法被にカッキーの名前を入れて‥‥」
「ほぅほぅ、成る程。雪紫、お主分かっておるのぅ」
‥‥微塵も忍んじゃいない忍びと、そのままで有り余るほど人目引きまくり、ついでに引かれまくり――のお師匠は内職に精を出す。
「近畿小僧とカッキーですか。俺よく知らないんですけど‥‥探せるでしょうか」
「大丈夫、大丈夫っ! 私知ってるよ、近畿小僧は私の踊りのライバルだしね。いつかは越えてみせるよっ! ‥‥なんて、ホントはファンなんだ♪」
ちらり舌を覗かせて笑うレベッカにセレンも笑みを返す。
「でね、彼らを探す前に橘さんが言ってた『ばてれん鯛』を探そうと思うんだよね。甘いらしいから甘味屋にあるよねっ」
「贈り物用ですね? 俺も一緒に探しましょうか。テレパシーで近畿小僧やカッキーの情報を集めようと思っていましたし、甘味屋に他のお客さんもいるでしょう」
ジャパンへ来て三月程――未だ慣れぬ事も多く、実のところ一人歩きは少々心許無い。
「オッケー! やっぱり食べ歩きも一人より二人だよねっ」
そうそう食べ歩き――って、あれ?
「お団子美味しかったねー。次はあっちのお店に行こっ!」
「ばてれん鯛なかなか見付からないですね‥‥レベッカさんまだ食べる気ですか?」
「もちろんだよっ! あれ? なんか人が集まってるね、何かあったのかな?」
駆け出したレベッカが寄り集まりひそひそと話し合う者に尋ねると――。
「えらい気味の悪い話なんやがな、ここらに居ったもん皆幻聴を聞いたらしねん。なんでも近畿小僧やカッキーを狙てるて話やで」
「えー? やっぱり人気があるから狙われたりするのかな?!」
レベッカ眉間を詰めて肩を竦める横でセレンも瞳をしばたたく。
「‥‥京も物騒ですね」
――いや、犯人アンタやし。
●京の都でつかまえて☆
ばてれん鯛捜索隊、しっぽりぶらり旅、ひとり百鬼夜行、食べ歩き珍道中――当然ながら成果あがるはずもなく。
辻に集結し再びの座談会。
「見て見てー。綺麗な反物買っちゃいました♪」
「ばてれん鯛っぽいものは見繕った」
「ばてれん鯛な『甘え鯛』です〜なかなか良い出来だと思います〜」
「美味しい甘味屋発見しちゃったよ! 今度皆で行こうねっ」
「うむ。甘味屋か‥‥‥‥良いな。甘味(うっとり)」
一向に本題に向かわず。
んで無理矢理。
雪紫:「カッキーの行方はばっちりです。日頃から隠密技能で尾行しまくりです(きゃは☆)」
レベッカ:「ああ、私『友の会』に入ってるから近畿小僧のスケジュール分かるよ」
そーゆー事は先に言え。
発見★
「ふむ〜、あれが例の人ですね〜。きっと強敵でしょうから油断せずに相手が気づいてないところを一気に捕まえましょう〜」
「あわわ、そんな行き成りですか? まずは穏便に事情をお話して来て頂けるようお願いした方が‥‥」
「どうやって説明するのよ? 無理よ無理。物の怪小町さんよ?!」
愛の不穏な発言に慌てた由良が良心的な意見を述べるが、にべも無く却下。まあ、その前に瑞紀の出で立ちからして無理っぽいし。
「ふふふ☆ じゃあ、そういうコトで。ニライさん、いくよ〜」
「うむ」
呪縛によりカッキー捕縛、確保。
瑞紀の愛馬、野裟斗にくくりつけると、とっとと拉致。周囲には高らかに法螺貝の音が響いた。
またまた発見×2★
「あっ、近畿小僧! 格好良いきゃ〜っ」
「ま、待ってレベッカさん、落ち着きましょう」
ここはやっぱり笛の音で――セレン竹声に気を鎮めようとするが、
プピ〜♪
君が落ち着け。
そんな中、由良が徐に背後から近寄り。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいっ。本当にごめんなさいっ!!」
心から詫びつつ殴打、殴打、殴打、殴打。
「み、峰打ちです」
‥‥――峰打ちだからいいんです(?)
「うっ‥‥ここは?」
近畿小僧の宇一と善が意識を戻すと、足元には縄でぐるぐる巻かれた柿沢の姿。
眼前にて微笑む髑髏(されこうべ)抱える花に目を留めて、よもや黄泉路を渡ったかと覚悟を決めるも、更にこの世のものではない光景を目にする事となった。
おどろおどろしく掻き鳴らされる琵琶の音に合わせ、松明を持ち踊る美しき女子。
そして髑髏より差し出された正体不明の臓物らしきモノ――。早くこのおぞましい地から逃げ出さねばと首を廻らせれば物陰から怪しく光る二つの目(犯人、瑞紀)
く、食われる! 絶対食われるっ!
「あ、俺は裏方ですから気にしないで下さい」
背後から聞こえた温良な声に、藁にも縋る思いで眸子を向ければ怪しげな目元を覆う奇妙な仮面の下の口がにやり(ホントはにっこり)と笑う。
って、近畿小僧とカッキー既に意識失ってるし。
忍びの本領発揮(こんな時こそ)
雪紫はこっそりカッキーの懐にお手製の『カッキーお手玉』を忍ばせた。これで、目覚めた後もこの邂逅が夢ではなかったと恐怖に慄く事間違いなし。
後日、近畿小僧と柿沢が『虎馬』という芝居で共演し、連日大入りの人気を博した事はまた別の話。