●リプレイ本文
●始まりますたよっ〜噛んでる噛んでる〜
──プロスト領・競馬村
ノルマン南方シャルトル地方・プロスト領特設コース。
ここ最近は、この『競馬村』に大勢の人たちが移住している。
また、各地の貴族が競馬を楽しむ為にこぞって別荘を建てている不思議な村でもある。
さて、いよいよ第五戦・マーシーズカップが始まる。
コースは楕円形コースを半周、距離にして1200mという短距離レース。
そして走るのは、選ばれし7頭。
ここ最近の不調を取り戻せるか『風のグルーヴ』。
そしてそろそろ勝利の美酒を味わってくれ『全能なるブロイ』と『絹のジャスティス』。
──アロマ厩舎
「ふふふふーーーん♪〜」
鼻歌混じりに『怒りのトップロード』にブラッシングをしているのはカルナック・イクス(ea0144)。
「随分とご機嫌のようですね‥‥」
そう告げつつ、厩舎に入ってきたのはお久しぶりのアロマ卿である。
「念願の勝利です。機嫌もよくなるものですよ」
そう告げると、ブラッシングを終えたカルナックは静かに『怒りのトップロード』の手綱を引く。
「まあ、楽しく競馬を続けていればそれで構いませんよ。私は走っている馬が好きなのですから」
ニコリと笑みを浮かべつつ、アロマ卿も自分の馬を連れ出すと、護衛を伴ってコースではなく街道の方へと脚を向けた。
「散歩ですか。お気を付けて‥‥」
「ええ、貴方も無理をしないように」
そんな他愛のない会話を行うと、カルナックはレースの為の調教を開始する。
今回は短距離。
スタートの勝負が全てであると判断したカルナックは、兎に角スタートダッシュの練習に力を入れた。
──カイゼル厩舎
「俺の望みは‥‥お前と‥‥最後まで走ること‥‥わかるか‥‥? 『最後まで、共に』だ‥‥」
厩舎の中で、ウリエル・セグンド(ea1662)は目の前の愛馬『絹のジャスティス』にそう話し掛けている。
前回のレースで起こった悲劇。
『漆黒のシップ』はもう二度と走ることなく、競走馬としての生涯を終えてしまった。
レースの為だけに鍛えられた馬にとって、走れないことは死にも近い。
そしてウリエルは、悩んでいた気持ちを決めて、迷いなく厩舎にやってきていた。
静かな厩舎では、ウリエルの足音に気が付いたのカ、『絹のジャスティス』が頭を乗り出していた。
「一人で‥‥俺の為に‥‥限界は‥‥越えようとするな‥‥そんなのを‥‥望んではいない。共になら‥‥命を削らない方法でだって‥‥高みにいける‥‥俺を‥‥信じてくれ」
そう告げると、ウリエルはそっと『絹のジャスティス』の顔を撫で上げる。
「限界を見誤らない‥‥超えそうになったら‥‥何が何でも止める。無理ではなく‥‥努力する‥‥なあ? それが‥‥騎手ってものだろう?」
そう告げるウリエルに、『絹のジャスティス』はどう言葉を返すのだろう。
そして特訓は始まった。
スタミナをつけるための走りこみ、そして今一度馬との呼吸を一つにするように務めつつ、スパートとスタートダッシュのタイミングの練習をひたすら行なっていた。
だが‥‥。
──ディービー厩舎
ドドドドドドドドドドドドドドッ
実戦さながらの走りこみを行なっているのは、無言で鞭を握り締めているミルク・カルーア(ea2128)。
スタートダッシュとスタミナの強化を行う為に、予めこれから何をするのか『旋風のクリスエス』にオーラテレパスで話し掛けると、ミルクは特訓を続けていた。
「今回は負けませんわ。必ず勝利して見せますわ!! 行きますわよ、『旋風のクリスエス』」
気合十分。
そのまま本番当日まで、ミルクはコミュニケーションを高めつつ試合に望んだ。
──オロッパス厩舎
「‥‥認められんとは‥‥情けないが、仕方があるまい。騎乗に関しては弟の方が数段上だからな‥‥」
そう告げつつ、『風のグルーヴ』の体調を見つつグルーミングをしているのは サラ・ミスト(ea2504)。
今回も弟であるカイの代わりに『風のグルーヴ』に乗る事になったのだが、どうも馬房での『風のグルーヴ』の様子がおかしい事に気が付く。
まるで、サラに脅えている雰囲気なのである。
「‥‥安心しろ。お前に乗るのは今回が最後だ。次からは弟が来る。‥‥だからこそ、怪我などするなよ? やつも悲しむ」
そう話し掛けるが、やはり『風のグルーヴ』の脅えはとれない。
調教ではそこそこの動きをしているのだが、 やはり以前乗ったときよりも足取りが重い。
その為ではないが、サラは兎に角スタミナ強化の為の調整を重点的に行なっていた。
「この私がこれほど苦戦するとは‥‥やはり相性の問題か‥‥」
──マイリー厩舎
「ねえ、ブロイ? 私が乗って走っていて、物足りないと思った事はない? あなたが全力で気分良く走れるように、私も全力で頑張るから、あと少しよろしくね」
テレパシースクロールを用いて『全能なるブロイ』に話し掛けているのはクレア・エルスハイマー(ea2884)。
前回のレースでは、意識改革を行なった事で、わずかに走りが伸びた感じを見たクレア。
今回も前向きに、テレパシーを用いつつ『全能なるブロイ』との連携を深めていった。
そしてその中で、一つ、クレアが気が付いた事があった。
それは、『全能なるブロイ』の意識の一つ。
『落ちない?』
そう。
『全能なるブロイ』は背中に乗っているクレアが落ちないように、走りにセーブをかけていたようである。
今までのレースは、まったく本気では無かったということであろう。
そして今回、クレアは厩舎の調教騎手に頼みこんで、セーブを解いて全力で走る『全能なるブロイ』を見せてもらった。
それはまさしく疾風。
クレアが乗っているときとは、まったくといっていい程走りが違う。
但し、その背を預かる騎手にもかなりの負荷が掛かっているらしい。
「本当は優しい馬なんですね、『全能なるブロイ』‥‥」
改めてその力の深さを見たクレア。
そして今回のレースでは‥‥。
──オークサー厩舎
ズドドドドドドドドドドドドドッ
合計7頭の併せ馬。
実戦さながらの調教を行なっているのはアルアルア・マイセン(ea3073)。
前回のレースの欠席を侘び、今回はさらに気合が入った走りを見せている。
「レースでの勝敗は騎手の力ではないわ‥‥馬が7、騎手が3‥‥それが競馬の凄いところですから‥‥」
そう呟くアルアルア。
調教以外の時間は今までのレースを記録を元に振り返り、様々な方向から他の馬についてのデータを作成。それぞれの対処方法なども研究している。
そしてレース当日。
奇蹟への幕は開かれるのか!!
──プロスト厩舎
「前回はすみませんでした、漆黒のシップには休んでもらいます。あつかましいのは承知でお願いなんですけど」
そう頭を下げるのはカタリナ・ブルームハルト(ea5817)。
前回のレースでの『漆黒のシップ』の故障。
それが自分の責任であると思ったカタリナは、今はまだ『漆黒のシップ』に休んで欲しいと願っていたのである。
「私は別に構いませんよ。怪我ならば、いつかは治りますから。今は無理をさせる必要も無いでしょうし、なにより私は勝敗にはそれ程こだわっていませんからねぇ‥‥でないと‥‥」
そう告げると、練習用コースをテクテクと歩いている『春麗』を見る。
「あは‥‥そうですよねぇ‥‥」
そう笑うと、カタリナはそのまま話を続けた。
内容は、今パリで保護されているアサシンガール達の処遇。
罪なき少女達は今は使われていない騎士団の寮に寝泊まりしているが、いつまでもそこを使用するわけにはいかない。
そのため、アサシンガールの厚生施設についての資金協力と土地提供についてお願いしてみようと、駄目もとでプロスト卿に話を持ち込んだのである。
「あの子達はこのまま社会には出せませんし、かといって普通の孤児院に預けるわけにもいきません、なんとか協力してもらえないでしょうか」
そう告げるカタリナ。
「うーん、そうですねぇ。援助資金は100Gぐらいで足りますか? 場所については、私の膝元の方が色々と安全でしょう。本当に安全であるのでしたら領内、いや、城下街に土地ぐらいは用意してあげますが、そこから先は冒険者である皆さんで管理‥‥運営して頂きますが宜しいですか? もしそれが承諾できるのであれば、後日、私の元に責任者を寄越してください。そのうえで、細かい話をしようではありませんか‥‥」
流石は好事家。
希望の光を得たカタリナは、あとは新しい馬『草原のワンダー』のとの特訓を行うのみ。
グリードに『無限の領域』に突入する旨を伝え、さらにサラからの忠告を胸に刻むと、いよいよ『草原のワンダー』との特訓を開始!!
●エモン・プジョーの〜俺に乗る?〜
──スタート地点
レース当日。
「お待たせしました。パリ開催第5戦。前予想を覆し、今回の所一番人気は『帝王・トゥーカイ』だぁ。今回こそ見せてくれ熱い走り。帝王のその名に相応しく。そして二番手は『怒りのトップロード』。賭けの受付はそちらの帽子の男性の所へ。オッズは右の掲示板をご覧くださいだっ!! それではっ」
おや? やはり今回も冒険者騎手が何か勝馬投票札を買っているが。
頼まれたのね?
──パパラパーララーー
各馬一斉にスタートラインに到着。
そして今回のレースの主催者である7貴族から、まずはプロスト卿が代表として前に出て挨拶。
そしてそれが終ると、各馬一斉にスタートラインにつく。
「それではっ。よーーーい、すたーーーとっ!!」
各馬一斉にスタートしました。
先頭を走るのは『帝王・トゥーカイ』。続く二番手は『全能なるブロイ』。さらに1馬身差で『旋風のクリスエス』『風のグルーヴ』『絹のジャスティス』『草原のワンダー』『怒りのトップロード』と続きます。
「しまったッッッッッ」
絶叫するカルナック。
レース前調教は完璧。
スタートダッシュもタイミングはドンピシャであったにも関わらず最下位からの走りとなった。
理由は簡単である。
殆どの馬が同じ作戦、それもスタートダッシュに調整を行なっていた為、馬体の差で『怒りのトップロード』が一番後方に残されたのである。
「このまま行きます‥‥」
そして前方では、まさに前予想通り、『帝王・トゥーカイ』がダッシュに成功。
その後方を『全能なるブロイ』が駆抜ける。
残り800m
順位に変動あり
「来ましたか‥‥でも‥‥」
ウリエルも必死に前方に食いつく。
だが、後方から『怒りのトップロード』と『草原のワンダー』が昇ってくる。
そのため、ウリエルもややペースを維持しつつもぬかれないように走りつ続けた。
そして前方ではデットヒート。
「『全能なるブロイ』、このまま行きますわっ」
「抜かせませんっ!!」
「トップは貰いますわっ」
アルアルア、クレア、そしてミルクの3人による熾烈なトップ争い。
ついに3頭が並んだのである!!
のこり400m
順位に変動あり
「いっけーーーーーーーーーーーーーーーーっ」
突如後方から走り出した一陣の風・『草原のワンダー』。
それはサラの乗っている『風のグルーヴ』をも追い抜くと、一気に4番手にまで昇り詰める。
「『風のグルーヴ』‥‥どうしても駄目なのですか?」
サラはというと、『風のグルーヴ』を馬なりに走らせていた。
無理に走らせると調子を崩しかねないからであろう。
もっとも、『風のグルーヴ』もやる気が無いわけではない。
抜かれた拍子に闘争本能に火が付き、加速を開始した。
残り200m
順位に変動あり
──ガクッ
突然前のめりになる『絹のジャスティス』。
そしてまさかの転倒!!
「どうしたんだ、『絹のジャスティス』!!」
慌てて飛び降りると、ウリエルは『絹のジャスティス』の様子を見る。
幸いな事に怪我はない。
ただ、どうして転倒したのか、その理由が判らなかった‥‥。
そしてトップでも、事件は起こっていた。
「加速が切れて‥‥どうしたの!!」
『帝王・トゥーカイ』、まさかの減速。
それに引きずられるように、やはり『全能なるブロイ』も減速した‥‥。
「私のことは大丈夫よ。あと少し‥‥頑張って‥‥」
クレアの思いも届かず。
その後方からダントツで加速した『怒りのトップロード』がまさかのトップ!!
『旋風のクリスエス』もさらに加速する中、さらに後方から『草原のワンダー』が走りこむ!!
──そして
「ゴォォォォォォォォォォォォォルッ。トップは『草原のワンダー』。デビュー戦を勝利で飾ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。続いて2着は『怒りのトップロード』。惜しい、まさに惜しい‥‥」
1:プロスト卿所属 『草原のワンダー』
2:アロマ卿所属 『怒りのトップロード』
3:ディービー卿所属『旋風のクリスエス』
4:オロッパス卿所属『風のグルーヴ』
5:オークサー卿所属『帝王・トゥーカイ』
6:マイリー卿所属 『全能なるブロイ』
7:カイゼル卿所属 『絹のジャスティス』
「やったよ『草原のワンダー』!! きっと『漆黒のシップ』も見てくれているよっ!!」
感激の余り涙を流すカタリナ。
その後ろでは、カルナックの闘争本能にさらに火が付いていた。
──カイゼル厩舎
「脚に負荷が掛かりすぎています‥‥恐らくは、知らず知らずのうちに無理な走りをしていたのでしょう‥‥まあ、半月ほど放牧して、体調の回復に務めましょう」
蓄積されたダメージ。
それを回復しきれていない『絹のジャスティス』。
その厩務員の話を聞いて、ウリエルの心臓はさらに高鳴っていた‥‥。
「同じなんだ‥‥やっぱり‥‥『静かなるスズカ』と‥‥」
●神聖歴1000年春G1・全成績(1着−2着−3着)
『風のグルーヴ』 1−2−1
『怒りのトップロード』 1−2−1
『漆黒のシップ』 1−0−2
『帝王・トゥーカイ』 1−0−0
『草原のワンダー』 1−0−0
『旋風のクリスエス』 0−1−1
『絹のジャスティス』 0−0−0
『全能なるプロイ』 0−0−0
*ドレスタット式特別ルールは適用されず、『草原のワンダー』の成績は『漆黒のシップ』と別計算であつかう
〜To be continue