ミハイル・リポート〜月夜谷の廃墟〜

■シリーズシナリオ


担当:久条巧

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 40 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月20日〜10月05日

リプレイ公開日:2004年09月25日

●オープニング

──事件の冒頭
「‥‥全く、君ともあろうものが、写本を盗まれるとは‥‥まあ、無事だったから良かったものの‥‥」
 それは考古学者ミハイル・ジョーンズ教授。
 毎回様々な遺跡に出かけては、不思議なアーティファクトや石版を持ってくる奇特な考古学者として、一部で有名。
 だが、ここ最近は『古代魔法王国』についての調査が成功し、見直されはじめているという。
「すいません。それと、あと一つの報告ですが、新しく解析の終った写本がありまして‥‥」
 アシスタントのシャーリィ・テンプルがミハイル教授に解析の終った写本を手渡す。
「ふむ、まあ一部間違いがあるようだが、これは後で直しておく‥‥ご苦労じゃったな。まあ近々出かけてくるとしよう。さて、次の調査場所は‥‥と」
 そう呟きながら、ミハイル教授は旅支度を開始した。

──冒険者ギルド
「‥‥今回はどちらに?」
 受付嬢は、ギルドの扉からミハイル教授の姿を見たとき、思わずそう話し掛けた。
 最近は調査も順調なため、ギルド員も嫌な顔一つしないでそう話し掛けるようになったらしい。
「うむ。今回は『月夜谷の廃墟』。かなり遠いが、地下迷宮とかではないようじゃ。谷の合間にある小さな廃墟遺跡群らしい。そこの調査じゃよ‥‥」
 そう呟くと、ミハイル教授はカウンターで依頼書を作成しはじめた。
「今回の遺跡じゃが、今までに調べていた様々な遺跡などから発掘された『古代魔法王国への道標』の新たなる一つが眠っているという‥‥。それを探し出すために、眠っている遺跡を調査しようと思ったのじゃ‥‥」
 そう呟くと、地図を広げて一つの谷をトントンと叩く。
「そこにはなにかあるのですか?」
 キョトンとした表情でそう呟く受付嬢。
「詳しくは言えぬ。が、今までに見つかったものが『剣と楯』。ならば、次は?」
「鎧‥‥ですか?」
 その受付嬢の言葉に、ミハイル教授は真顔で肯く。
「うむ、その通りじゃ。この写本によると、そこには『月光鎧』があると伝えられておる。そこの調査じゃよ」
 そう声を潜めて告げるミハイル教授。
「それと、今回もちょっと長期間になりそうなのじゃよ。そこの所をうまく言い含めて頼むぞ」
 そう告げると、考古学者は依頼金の詰まった袋をカウンターに預けていった。
「剣と楯、そして鎧‥‥だんだんと道が開けてきたのですね、教授‥‥」
 ギルド員はそのまま掲示板に依頼書を張付けると、また見ぬ魔法王国に心を踊らせていた。。

●今回の参加者

 ea1703 フィル・フラット(30歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea1819 シン・ウィンドフェザー(40歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea2389 ロックハート・トキワ(27歳・♂・レンジャー・人間・フランク王国)
 ea2705 パロム・ペン(45歳・♂・レンジャー・パラ・イスパニア王国)
 ea3173 ティルコット・ジーベンランセ(30歳・♂・レンジャー・パラ・フランク王国)
 ea3448 チルニー・テルフェル(29歳・♀・ジプシー・シフール・ノルマン王国)
 ea4757 レイル・ステディア(24歳・♂・神聖騎士・エルフ・イギリス王国)
 ea4799 永倉 平十郎(31歳・♂・侍・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●まずは下準備〜〜
──馬車にて
 ガタゴトと馬車が揺れる。
「ふぁぁぁぁぁぁっ‥‥少し眠いのう」
 半ばトローンとした眼を無理矢理開きつつ、ミハイル・ジョーンズ教授がそう呟く。
「じーちゃん、何かあったにゅ?」
 専属トラップマスターのパロム・ペン(ea2705)が、後ろの席からそう問い掛ける。
「いやいや。昔、わしがまだ若かった時代の冒険者仲間の孫が訪ねてきてな。相変わらずプラプラしていたから色々と懲らしめてやったわい」
「ふぅん。じっちゃんも昔は冒険者だったにゅ」
「どんな冒険だったか聞かせてほしいじゃん。爺さんの昔の英雄譚って奴に興味あるぜ」
 ティルコット・ジーベンランセ(ea3173)がそう話し掛けた。
 ちみに今回は、爺さんとパロムに馬鹿にされないように一通りの準備をして来た模様。
 シーフツールも銅鏡もしっかりと持ってきている。
 が、視界にはフル装備のパロムの姿がある。
(今回は完全な仕事を。見ていろ!!)
 おお、ティルコットが燃えている。
「昔といってもなぁ。あの爺さんは『シルバーアイ』の二つ名を持つ戦士。敵を撃破する能力は随一。知識の探求者であるプロフェッサーは精霊魔法の使い手。今は冒険者を引退して、南の地でひっそりと暮している。タロンの神官殿は冒険半ばにして、己の使命を果たす為に死んでいった。気さくな神官だった‥‥それと若き冒険家の儂の4名で、あちこちの不思議を捜し求めていたのじゃよ」
 その話はしばらく続いた。
 そして一息ついたとき、ロックハート・トキワ(ea2389)がミハイルに話し掛けた。
「さあ教授。今回も聞きたい事は山のようにあるぞ‥‥」
「よしよし、何処からでも掛かってきなさい!!」
 この二人のやり取りが始まると、一行はじっとその会話に耳を傾ける。
 もう何度もこのやり取りを見ていた為、皆はその話から大切な情報を聞き逃さないようにと必死である。
 なお、ここまでの会話で重要な情報は二つ。
 どこか判るかな?
「『月光鎧』の詳しい情報は?」
 その質問に対して、いきなり教授は困った表情で写本を取り出した。
「月精霊の加護を受けし鎧。それ以上のことはまだ何も解らぬのじゃよ。フォフォ」
「今回の目的地である廃墟群だが、人が住んでいたという話はあるか?」
「うむ。その地には大勢の人が住んでいたらしい。まあ、人里からかなり離れた場所の少数民族ゆえ、その生活形態は全て謎じゃがな」
 ウムウムと納得しながらそう告げるミハイル。
「6つの道標については、何か情報はないのか?」
 今までに発見された道標は
『一対のペンダント(死者の眠る神殿、海底神殿)』
『道標の剣(魔の地下迷宮)』
『守りの楯(炎の迷宮)』
 そして今回の『月光鎧(月夜谷)』と、かなりの数になる。
 そこでミハイル教授は、新たなる写本を開く。
「6つの道標はすべて精霊と対となっておる。道標の剣は『大地の魔剣』、守りの楯は『灼熱の楯』、そして月光鎧は『ムーンライトアーマー』。すべて精霊の加護を受けていたらしいわい。残った道標は3つ。『知識の兜』『陽光のマント』、そして‥‥と」
 パタンと写本を閉じる。
「そして何にゅ?」
 パロムが頭を捻りつつそう問い掛ける。
「以下、続きは後日じゃよ」
 つまり未解析。
「教授、その一対のペンダントっちゅうのは、何の精霊の加護があるのか教えて欲しいじゃん」
 ティルコットが興味本意で問い掛ける。
「聞きたいか?」
「探索者として当然じゃん!!」
「ならば聞かせてしんぜよう。儂も解らん!!」
(外れか)
(関係無し?)
 そんな言葉がティルコットやロックハートの脳裏をよぎる。
「まあ、それはいいか。教授、月夜谷の由来は判るのか?」
 ロックハートの質問再開。
「毎月、満月の下では特別な儀礼が行われていたらしい。だから月夜谷の名前があるそうじゃて。儀式については、これから現地で調査じゃい」
 その言葉に、しばし考えるロックハート。
「ねぇ教授、陽光のマントが手に入ったら、あたしにも付けさせて!!」
 ジプシーのチルニー・テルフェル(ea3448)は、話に出てきたマントに興味があった。
「付けるぐらいは構わんぞ。サイズがあったらな」
「シフール用のマントが欲しいなぁ‥‥フワフワしてて可愛い奴」
 難しい注文を言いながら、フワフワマニアのチルニー・テルフェル(ea3448)夢見心地の模様。
「そう、それで精霊の6武具と一対のペンダント、複製は作れるのか?」
 その問いには、教授は頭を左右に振る。
「それは無理じゃよ。それらがどのような技法で作られているのかも解析できておらぬ。形だけなら作り出す事は造作もないじゃろうが、それは本物ではない」
 魔法反応はないが、どうやら儀礼的な構造であるらしい。
 そしてロックハートは、今までの調査ポイントを示した地図を受け取ると、それらから位置関係を調べはじめた。
 遺跡自体が繋がりあい、巨大な魔方陣を作っているという可能性を考えたのであるが、海底神殿の場所でそれは挫折。一対のペンダントの場所を外すと、残った遺跡の手懸かりが無い為またしても断念。
 まだ調査を続ける必要があったようである。
「爺さん、聞きたい事がある。南の好事家領主の領地だが、一体あの辺りには何が眠っているんだ?」
 それはレイル・ステディア(ea4757)。
 あの領地に縁があったレイルは、以前の依頼で古城の地下迷宮から『魔法王国の道標らしきペンダント』を発見したのである。
 それは領主が持っていったのだが、あの地下迷宮の第三階層の強大な結界といい、森の奥の塔といい、確かに普通ではない。
「南? プロフェッサーの領地のことか。まあ、古代の魔人の封印というのがあるのは、かなり前に別の遺跡で調べていたので解って居るが、そんなに危険じゃったか‥‥。どれ、今度はそこの地下迷宮でも暴いてみるか?」
 そう軽く話しているものの、何時になく目は真面目である。
(かなりやばい遺跡でもあるみたいだな‥‥)
 レイルはミハイルの瞳から、それとなく危険を察知した。


●月夜谷〜静かな遺跡〜
──廃墟遺跡群
 見事に切り立った、ごつごつとした崖が両側に伸びる谷。
 その谷間に、静かに広がる廃墟。
 その場に到着した一行は、まずは調査隊と共にベースキャンプを設置。
 そして一通りの作業が終った後、いよいよ冒険者の出番となった。
「さて、リベンジにゅ。ここは腕の見せ所にゅ」
 パロムが楽しそうに告げながら、廃墟に向かう準備開始。
 今までのような狭い場所での探索ではなく、広いオープンフィールドでの調査。
 隊列というものを組む必要があるか考え所である。
「あたしの出番だねー。えいっ!!」 
 上空でチルニーが印を組み韻を紡ぐ。
 テレスコープが発動。
 そのまま周囲をぐるりと見渡す。
「ふむふむ。何処をどう見ても遺跡だらけ。壊れたおっきい柱が6本と、あと、あっちには神殿かな? 舞台みたいなものもあるね‥‥あと、おっきいミミズ?」
 その報告を真下で聞いている一行。
「ミミズ? 大きさはどれぐらいだ?」
 武器を引抜きながら、フィル・フラット(ea1703)がチルニーに問い掛ける。
「えーーっと。10m位?」
 それは大きすぎ。
 大きいといっても対した事はないだろうと思っていた一行は、急ぎ武器を構えはじめる。
「そうそう、こっちに向かってドカーンドカーンって来るよ!!」
「判った。チルニーは上空で魔法援護を。戦士は武器で応戦準備!! シフールぐらいなら一呑みする相手だ。気を付けろ!!」
 シン・ウィンドフェザー(ea1819)が皆に聞こえるように叫ぶ。
 幸いな事に、シンは巨大ミミズの事を多少は知っていた模様。
 モンスター知識をフル動員して、相手の動向を模索している。
「おいら達は、皆の御手並み拝見にゅ。平十郎のあんちゃんも頑張るにゅ」
 パロムに背中を押されて、永倉平十郎(ea4799)も前に出る。
「月夜谷というから、狼男とかが出てくるのかと思ったら‥‥さて!!」
 素早く全身のオーラを高めはじめる平十郎。
 まだ敵の攻撃範囲で無い事をチルニーに確認すると、仲間たちに次々とオーラパワーを附与していった。
「全く。最初の相手が巨大ミミズとはな。只でさえ悪い寝起きが、さらに悪くなりそうだ」
 レイルも武器を構え、さらに胸から下げている十字架を掲げる。

「来ましたっ!!」
 そのチルニーの叫びの直後、チルニーは魔法詠唱を完成。
「太陽よ、あたしに力をっ!! サンレーザー」
──ジュッ
 チルニーの真横から可視光線が一直線に飛ぶ。
 巨大ミミズの体表がサンレーザーの直撃を受けるが、殆ど効果はない。
 むしろ戦闘開始の合図としての効果の方が高かった。
「くらえっ!!」
 剣を構えた右腕を素早く後方に引くと、神速の動きで剣を振るうフィル。
──ブゥン
 その剣からは衝撃波が飛び、巨大ミミズに直撃した!!
「なんて奴だ。びくりともしない」
「ならば、この武器では効果は期待できないか‥‥」
 ロックハートはダーツを構えたが、直に後方へと退避。
「にーちゃんねーちゃん頑張るにゅー」
 パロムは後方で応援開始。
 あくまでも戦闘には参加しない‥‥って言うか、戦力外通知の模様。
「同じく。後方退避させて貰う!!」
 ティルコットも後方に移動。
 ということで、レンジャー部隊は全員退避。

 レイルの全身が漆黒に輝く。
 そして彼の掌に光が集まると、黒い光が巨大ミミズに向かって飛び出した!!
──ブゥン
「ブラックホーリィ発動‥‥」
 漆黒の球は巨大ミミズに直撃。
 おそらくは、ブラックホーリーが効いているのかも知れない。
 突然暴れはじめると、彼方此方にその巨大な胴体を振回す。
「おっと。それじゃあ行きますねっ!!」
 平十郎が両手で刀を構える。
「意識集中‥‥剣よ、我に力を‥‥」
 両の足を大地にふんばり、ミミズの動きをじっと見る。
 薩摩示現流の神髄ここにあり。
 スッと右脚を後ろに半歩引く。
「ここだぁぁぁぁ」
 口から吐き出される叫びと同時に、全身に緊張感が走る。
 そして震脚!!
 一歩踏み出すと、そのままスマッシュEXを叩き込んだ!!
──スカァァァァァァァァン
 力一杯空振り。
「なんのまだまだぁぁ」
 ちょっと弱めでスマッシュに切替え。
──ドゴッ
 返す刀を力一杯胴体に叩き込む。
 その傷からは体液が飛び散り、激痛にさらに暴れまくる巨大ミミズ。
 そのまま目の前の平十郎に向かって襲いかかる!!
 ぞろりと並んだ巨大な牙。
 まるで一つ一つが生き物のように蠢いている。
──ガギィィィィィン
 その牙を受止めようと構えるが、あまりにも大きすぎる為に咄嗟に身を反らす。
 その牙の数本が、平十郎の左腕を掠める。
 だが、掠めただけでざっくりと左腕の肉が削ぎ落ちた。
 大量の鮮血が吹き出し、平十郎の法衣を血に染めていく。
「まだまだ。これぐらいで‥‥負ける訳にはいかないよね‥‥」
 平常心を保ちつつ、平十郎が右腕で刀を構える。
──ガギィィィィィン
「ここは俺に任せろ!! 後ろに下がれ!!」
 飛び出したのはフィル。
 一撃を叩き込み、さらに切替えして斬撃を叩き込む。
 接近戦に持ち込んだら、あとは手数で勝負というところであろう。
──ズバァァァン
 深々と突き刺さったソードを引き抜くと、さらに力一杯叩き込む。
「これ以上、時間を掛ける必要はない!!」 
 さらにシンも前に出る。
 ポイントアタックを叩き込もうと考えては見たが、敵が余りにも大きすぎる。
 加えて、シンの武器では、一撃で胴部切断は不可能と判断。ならば手数と速度で勝負を掛ける!!
──ドシュドシュッ!!
 高速の2連撃が炸裂。
 巨大ミミズの動きはかなり弱まったものの、まだ死ぬ気配は感じられない。
──チュンッ!!
 チルニーのサンレーザー2撃目発動。
「まだ駄目なのー?」
 チルニーの唯一の攻撃魔法であるサンレーザーも、まだチルニー自身が陽精霊の理を学んでいる最中である為、その本来の力を存分に発揮していない模様。
 ブラックホーリーを放った直後、レイルは次の魔法の詠唱に突入していた。
 そして次なる魔法の発動!!
 再現神タロンの加護の元、全てを破壊する魔法『ディストロイ』‥‥。
──ブゥン
「砕け散れっっっっ」
 漆黒の球体が巨大ミミズに直撃!!
 あちこちの皮膚に亀裂が走る。
 だが、それも致命傷とは行かない。
「まだ、タロン神の力を制御しきれていないかっ!!」
 口惜しく叫ぶレイル。
 だが、かなりのダメージを期待できるであろう平十郎に繋ぐ為の魔法ならば、まだ納得も行くと自分に言い聞かせる。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ」
 普段の平十郎とは雰囲気が違う。
 優しい口調は、仲間を助ける為に修羅の如き叫びと化す。
 身体中の隅々まで浸透する力。
 平十郎にはまだその力が何であるかはわかっていない。
 ただ、それが武道でいう『沈墜勁』と呼ばれる物に近い感覚であることは、体がなんとなく理解できた。
──ドゴォォォォォォォン
 力強く振りおろされた刀が、巨大ミミズの胴部に突き刺さる。
 それを力任せに引き抜くと、さらに遠心力を加えて刀を振るう。
──ズシャャャャャャッ
 真っ二つとまではいかないものの、巨大ミミズはすでに死に体に近い。
 それでも襲いかかってくるのは、まさに生き物としての生に対する本能といったところであろう。
──ガギィィィィィッ
 怒りに我を任せているかのように、巨大ミミズの攻撃はシンに向かった。
 だが、それを待っていたかのように、シンは素早く再度ステップで左に飛ぶ。
 巨大ミミズの攻撃をギリギリのラインで躱わすと、カウンターで剣を突きたてた。
 ズラリと並んだ牙。その巨大な口に深々と剣が突き刺さる。
「これで‥‥終りだぁっ!!」
──ズバァァァァン
 そのまま上空に向かって剣を引き上げる。
 口先から巨大ミミズが真っ二つに引き裂かれる。
 体液を彼方此方に捲き散らし、やがて巨大ミミズは息絶える。
「ふう。皆さん無事ですか!!」
 平十郎が其の場の皆にそう問い掛ける。
「お前が一番の怪我をしている。全く、あいかわらずのイノシシ侍だな」
 レイルが平十郎にそう告げる。
 が、悪い意味でそう言っているのではない事を、平十郎は理解していた。
「取り敢えず平十郎の怪我の手当が先決だな。チルニー、すまないがもうしばらく、そこで周囲の偵察を頼む」
「判った!! テレスコープ発動!!」
 戦いが終り一息付きたいところであるが、頼まれてしまっては嫌とは言えないチルニー。
「久しぶりにサンレーザーで戦ったしねぇ」
 満足そうにそう呟くと、チルニーは周囲の確認。
 そして平十郎の手当が終ると、いよいよ廃墟群の調査が始まった。


●初日〜まずはおおまかに〜
──廃墟にて
 まずは調査初日。
 細かい調査は後回しとして、ミハイル達は幾つかのチームに分かれての調査を開始した。
 時間の都合上、効率よく行きたいというミハイル教授の話もあり、一行はレンジャーを中心とした3っつのチームに別れた。
 なお、チルニーは先日に引き続き、上空での偵察。

──パロム、ミハイル、フィル組
「しかし、見事な廃墟じゃ」
 くじ引きの結果、外れを引いたのはフィル。
 ミハイル一人ならまだしも、パロムという爆弾の御目付も担当することになったのである。
「なあ教授。ここの名前は月夜谷だったな。真っ先に思い浮かぶのは月道だが、今は時期じゃないよな。なのにこの時期に調査って事は、月の形には拘らないでいいのか?」
 フィルのその言葉に、ミハイルは静かに口を開く。
「まずは、明るい時間の調査じゃよ。調査期間に夜は何度も訪れる。明日は、昼間は休んで夜の調査といこうかのう」
「じーちゃん、ここに不審な石版発見にゅ!!」
 パロムがそう告げながら石版を静かに調べる。
「‥‥フィル、その腕はなんじや?」
 ふと気が付いたとき、フィルはミハイル教授の腕を取っている。
「いや。また勝手に手をだしたら。レイルにも言われているだろ?」
 ここに来る途中、いつものように馬車の中でレイルに『さて、毎度の事だが‥‥確認がとれるまでほいほいその辺のものに触らないでくれよ』と釘を刺されているミハイル教授。
 フィルは以前の調査での事をなんども聞いているし、実際、この前の調査にも同行している。
「判っているわい。心配するでない」
 そのまま3人は、気になる部分を次々と調べはじめた。
「はぁ〜。俺、生きて帰れるんだろうか?」
「じっちゃん、ここに隠し扉らしきものが」
「開けるんじゃ!!」
 おいおい。

──ロックハート、シン組
「神殿か。どうだ? 何か仕掛けはあるか?」
 崩れた神殿の手前で、シンがトラップの調査をしているロックハートに問い掛けた。
「場所的な意味合いからトラップは存在しない」
 技術ではパロムには勝てない。
 探求心ではティルコットに勝てるかどうか。
 そのため、知識で勝負するロックハート。
 今までの経験と蓄えた知識から、ロックハートは次々とトラップや隠し扉などを調査、トラップは存在しなかったものの隠し扉を一つ発見。
 それらの全てを預かった羊皮紙に書き留めるマッパーとしての立場もあり、この二人の調査はゆっくりとしている。
「そこの隠し扉には、何も仕掛けはない‥‥開けて構わないが、あとで教授に怒られるかもな」
「『ワシより先に調べたのかぁ』ってな」
 この調査隊には始めて参加するシンだが、移動中に大体の人間関係などは見えていたらしい。
 和気あいあいとした中にも、一人一人がしっかりとした仕事を行う。
 プロ集団の姿を感じ取る事が出来たようである。
「まあ、後でここは教えるとして。問題は、この崩れた柱の水晶だな」
 ロックハートが、崩れている柱に組み込まれている幾つかの水晶を見ながらそう告げる。
 この遺跡群には、あちこちに柱や壁が崩れていた。
 その全てに、水晶が組み込まれているのである。
「まあ、何かを調べるのは教授の仕事。俺達は、大まかな施設の状態調査ということで」
 シン、中々判ってきた模様。

──レイル、ティルコット、平十郎組
「絶景かな〜」
 崖の中腹まで伸びている奇妙な階段。
 そこを駆けあがって周囲を見渡しているのは平十郎である。
「平十郎、無理をするな」
 レイルが下から平十郎にそう叫ぶ。
「‥‥ここは何かの儀式を行う為の舞台だな。いい作りしているじゃん」
 今回の調査ではミハイルやパロムに馬鹿にされない為、ティルコットはシーフツールを始めとした道具を持ってきていた。
 廃墟のほぼ中央に位置する舞台。
 そこの中央にある台座を調べ、何かを安置する場所であることは理解した。
 だが、それが何であるのかはまだ判っていない。
「ややや、レイルさん、僕はおもしろいものを見つけました!!」
 平十郎が下で周辺の警戒をしているレイルにそう叫ぶ。
「何だ? 蛮族の敵襲でもあったか?」
 つとめて冷静に告げるレイル。
「いえいえ。ちょっとこちらに来てください!!」
 その平十郎の言葉に、レイルはやれやれといった表情で上に昇る。
 少し離れた場所ではチルニーが周囲を見渡している。
 そしてレイルは眼下に広がる廃墟を見渡す。
「成る程。ティルコット、済まないが前方の崩れた柱、そのあたりの瓦礫を除けてくれないか? 平十郎も手伝ってくれ」
 そのレイルの言葉に頭を捻りつつ、ティルコットは瓦礫の除去作業。
 そして平十郎は別の場所の柱の回りを綺麗に片付ける。
 やがて、舞台を中心とした六本の柱が姿を現わした。
 綺麗な六芒星の頂点に位置する柱。
 そして中央の舞台を見たとき、レイルはふと嫌な予感が脳裏を横切った。
「ティルコット!! ミハイル教授を呼んできてくれ!!」
「了解。直呼んでくるから待っているじゃん」
 そのまま教授を呼んでくるティルコット。
 やがて到着したミハイルはゆっくりと階段を昇っていくと、レイルの横に立った。
 そして眼下に広がる廃墟を見つめると、感動にうち震える。
「でかしたぞ!!」
 そこには、舞台を中心とした、廃墟全域で描いた巨大な魔方陣が広がっていた‥‥。


●そして翌日の夜〜起動装置の使い方〜
──ベースキャンプ
 廃墟の魔方陣を発見した夜、色々な方向から調べていたのだが何も判らない。
 翌日の調査では、先日調べてもらった怪しいところをミハイルが徹底的に調査。
 体力組は廃墟の瓦礫の撤去作業に入った。
 神殿地下への隠し扉をティルコットが開き、内部を調べたところ、高さ1mの巨大な水晶が姿を表わす。
 そしてその奥に、捜していた『月光鎧』がたたずんでいた。
 ティルコットとパロム二人がかりのギミック解除により、二つのアーティファクトは回収完了。
 ベースキャンプにて、それらの解析に入ってたのであるが、これといったギミックも何も感じ取る事が出来ない。
 そのまま夜がやってきた。
「この水晶、あの舞台の中央に安置してみては?」
 ティルコットがミハイルにそう告げる。
「だが、天空に月が差し掛かるまではまだ半月ある。何かが起こるとすればその時では?」
「そうそう。実は、その時になると、未知の世界にムーンゲートが開けるとか。でも、バードさんいないしねぇ‥‥」
 ロックハートの言葉にチルニーが捕捉。
「まあ、無駄で元々。ゃってみるとするかのう」
 そのままミハイルは水晶を手に、台座に向かう。
 恐る恐る水晶を置くのはパロムの仕事。
 何か起こす可能性があると踏んで、平十郎を始めとする前衛4名がミハイルの四方をガード。
(また何かしでかす可能性があるからな‥‥)
 レイルの心の呟き。
 ガードではなく、教授を押さえる為の4名であったり。
「じっちゃん、置くにゅ!!」
 そのまま水晶を台座に置く。
 月の光に輝く水晶。
 そしてその水晶の中で光が乱舞する。
「綺麗‥‥まるで、水晶の中で文字が輝いている見たい‥‥」
 チルニーがうっとりとした表情でそう呟く。
「文字じゃと!!」 
 その言葉にミハイル反応。
 フィルはその刹那、台座の近くで周囲を調べていたティルコットの方を向く。
「大丈夫‥‥」
 ティルコットが安全を確認して連絡を送ると、そのタイミングでガードが解かれる。
「さて、始めるとするか」
 ゴキゴキと肩を鳴らし、いよいよミハイル・ジョーンズの腕の見せ所。
「水晶全面に細かく掘りこまれている古代魔法語じゃな。月明かりに反応して文字の部分が読み取れるようになっとるのう。これ以上明るいと傷による文字は消えてしまう、暗いと傷が判らないといったところか‥‥ふむふむ」
 そのままミハイルは写本を手に、一つ一つの文字を読み取る。
 1時間ほどしたら、ミハイルは静かに立上がった。
「済まないが、誰か、あの階段の下を破壊してくれないか?」
 神殿の階段。
 ミハイルの指し示す所に向かうと、前衛チームは巨大なハンマーやツルハシを持って掘削作業開始。
 やがて階段の下から、一つの扉が発見された。
「では、ここはおいらが‥‥にゅ?」
 パロムがそう告げて調べようとしたとき、ティルコットが割ってはいる。
「先輩。ここは俺に任せて!!」
 先輩‥‥その甘美な響きに酔いしれて、パロムはそこを譲る。
「にーちゃん、任せたにゅ!!」
 どうやら扉には鍵が掛かっているようである。
「楽勝じゃん!!」
 シーフツールの中からピックツールを取り出すと、それを使って鍵開けを試みる。
──ガヂガチ
 中々あかない。
「こ、ここの部分で引っ掛けて‥‥。あれ? あれれ?」
 ティルコットではあかない。
「やれやれ。先輩の出番にゅ〜」
 そのままパロムに交代。
──カチッ
 あら、あっさり。
「んー、まだ修行が足りないにゅー」
 そのまま静かに扉を開く。
 と、中から小さな光が飛び出してきた。
『ありがとう‥‥』
 その光は、月明かりの中に小さく瞬いた。
 其の場にいる皆の耳に、光から声が届く。
「ふ、フワフワだぁぁ」
 チルニー、念願のフワフワ体験。
 光の回りを楽しそうに回っていく。
 その光の正体を突き止めようとしたシンとロックハート、パロム、ティルコット。
 そして全滅!!
 誰一人として、光の正体は判らなかった。
「貴方は月の精霊さん?」
 チルニーがそう問い掛ける。
『私ブリッグル。王国への案内人。ありがとう』
 そう告げると、光は空に昇っていく。
 と、何処からかエレメンタルフェアリィが姿を表わし、ブリッグルと共に飛んでいった。
「さようならーーー。もう捕まらないでねー」
 チルニーの言葉に瞬くと、ブリッグル達は消えていった。
「ちょっと待ってくれ!! 魔法王国への道を示して欲しいのじゃ!!」
 ミハイル教授が、ブリッグルに向かって叫ぶ。
 と、ブリッグルは静かに瞬くと、皆に聞こえるように静かに告げる。
『求めなさい。六つの精霊武具。そして六つの精霊を従えなさい。ただ一つの杖を振るい、月夜の魔方陣から暁の魔方陣へ‥‥』
 そう告げて、ブリッグルは月夜に消えていった。
 そして一行は、ブリッグルの閉じ込められていた小さな部屋から一枚の石版を発見。
「まあ、目的のものは手に入ったことじゃし、結果オーライじゃ」
 満足そうな表情で石版を手にするミハイル。
 今回の旅では、ミハイル爺の失敗に巻き込まれることが無かった為、一行は満足であった。


●そしてパリ〜やっちっゃたぁ〜
──冒険者酒場
 パリに戻り酒場で静かに祝杯を上げる一行。
 今回の探索では財宝などの発見は無かったものの、次の遺跡に関する手掛りとなる石版、そして月光鎧の回収も無事に終った。
 残った経費から特別手当が支給されると、一行は教授の奢りで酒を呑む。
 すでに石版はシャーリィーが解析に入っている模様。
「しかし、こんなに美味い酒は久しぶりじゃ!!」
「全くだな‥‥生きて帰れて良かった」
 そのレイルの意見には皆さんシンクロ。
「ええ。出来れば、ブリッグルさんにご同行して戴きたかったのですけれどね」
 ふと背後からシャーリィーがそう告げる。
「ん? なんじゃ? 何か判ったのか?」
 ほろ酔い気分で問い掛けるミハイル。
「ええ。これをどうぞ」
 と、新たなる写本を手渡す。
「ふむむ‥‥」
──ゴーーーン
 ミハイルの頭部に衝撃が走る。
「んー、しゃーりぃちゃんだ、おじちゃんと一緒に呑むにゅ」
 パロムもほろ酔い。
「そうだな。たまには美女と共にというのも‥‥」
 フィルがそうシャーリィに話し掛けた。
「そうですね。たまには良いですね」 
 静かに座ると、シャーリィもワインを頼んだ。
 ウェイトレスに頼み込んで、ホットワインを作ってもらう。当然スイートマジョラムは欠かせない。
「それで、教授は何を驚いているんだ?」
 シンがシャーリィに問い掛けた。
「石版には、精霊武具に精霊を従わせる方法の一部が記されているのですよ。でも、その為には、全ての精霊武具をまずは揃えなくてはなりません‥‥まだ、私達は三つしか持っていませんし、残りの二つの解析もまだでして‥‥」
 それで教授は動揺している模様。
「シャーリィ、例の謎のペンダントの出自と、持ち主の正体について見当は付いたんかい?」
 そのシンの問い掛けに、シャーリィは頭を抱える。
「教授。『シルバーホーク』という名前に心当りはありますよね?」
 そのシャーリィの言葉に、さらに動揺するミハイル。
「う、うむ。じゃが、あいつは行方不明の筈。プロフェッサーとの確執が原因でのう‥‥こいつはちょっと、1度プロフェッサーの所に行ってみる必要があるのう」
 これはまた別の話。
 そしてシャーリィは、軽く食事を取った後、研究室へと戻っていった。
 なお、夜道は危険という事でパロムが送っていったようであるが、二人の仲はと言うと‥‥進展していないんだなこれがぁ。
「お、オチはおいらにゅ?」

〜To be continue